空を駆け 影に潜みて 敵解つ   作:エルンストレーム総統

11 / 18
第11話 『道』

 

 

 

『うなじ』を切られた無垢の巨人は地面に倒れ、身体中から蒸気を上げて、その肉や骨が消滅していく。

 

 

先ほど殺した巨人を屋根の上から見下ろしながら、カイは手に付着した巨人の血を服で拭う。

 

 

「カイ!ここはもうダメだ!撤退しよう!」

 

 

班のメンバーが、班長であるカイに向かって進言する。進言した訓練兵の側には、高く聳える塔のような所の壁の下で座る訓練兵、頭から血を流して気絶している訓練兵、負傷はないものの、疲労の色が濃く表れながら周囲を警戒する訓練兵がいる。

 

 

あの後、超大型との交戦はエレンに任せ、カイは負傷したサムエルの救助や、呆けている皆を叩き起こして報告の催促に努めた。

そして、侵攻してくる巨人を食い止める為、他の訓練兵と同じく中衛部隊に編成され、巨人との交戦を継続していた。

 

 

カイを含めて合計5名の班。だが、数時間に及ぶ巨人との戦闘により、約半分のメンバーが継戦能力を喪失していた。

 

 

「ああ。これ以上の戦闘は不可能だ。この状態を見れば、上官たちも見逃すだろうさ」

 

 

(巨人に足を掴まれて両足骨折1名、頭を打って気絶1名、疲労で継戦困難な状態が1名。『班』として、もはや機能していないな)

 

 

エレンたちとは別の班に配属されたカイは、班長として彼らを統率すると同時に、死者が出ないよう神経を集中させていた。

家屋と家屋の間から飛び出してきたり、ワイヤーを掴まれたりなど、想定外の場所から現れる巨人や奇天烈や行動をする巨人に喰われる可能性がある。

 

 

そのため、徹底した索敵と連携を主とし、交戦する際もカイが先頭に立つよう心掛け、『巨人を殺す』ことよりも『生存すること』を最優先としてきた。

 

 

「だが、俺は『ここ』に残る。二人を連れて離脱してくれ」

 

 

「カイ!?何を言ってる!?」

 

 

しかし、ここまで死者が出なかったのは、それが原因ではない。

 

 

「もう気付いてるだろ?さっきから、俺に向かってくる巨人が殆どだ。戦闘の時も、近くにいるお前たちを無視して、遠くにいる俺に突っかかる奴が多い」

 

 

「だが!それで一人残るなんて……」

 

 

「俺まで一緒に撤退すれば、お前らが危なくなる。巨人を引き付けて道を作る。時間を空け、不意打ちに注意しながら、そのまま壁上まで撤退しろ」

 

 

「……分かった。ありがとう」

 

 

襲い来る巨人の多くは、異様にカイを標的としていた。

あまり遠くにいる巨人は引っ掛からないが、視界にカイが入った巨人は彼へと向かってドスドスと歩み寄ってくる。

『奇行種』と言えば、それまでではある。しかし、その行動だけでなく、量も異常であった。

 

 

(これで32体目。全部が全部『奇行種』というなら、明らかに不自然だぞ)

 

 

動けるメンバーが負傷した訓練兵を担いでいる様子を背に、カイは周囲を見回して巨人の場所と移動方向を確認する。

 

 

遥か彼方に見える巨人は問題無い。しかし、自分を見ている巨人は、その殆どが真っ直ぐ向かって来ている。

 

 

とある一体の巨人がカイへと向かう途中で、その巨人を討伐しようと別の班が立体機動で接近するが、巨人は見ることも反応することも一切なく、無防備に『うなじ』を晒したまま切られて死亡する。

 

 

珍しいことではない。これで7回目だ。カイは、同じ光景を7回も見ている。

 

 

(間違いない……始祖ユミルか、未来エレンの干渉だな)

 

 

カイは立体機動へ移行し、壁に向かって移動していく。

巨人たちは、視線をゆっくりと移動させ、常にカイを視界にとらえる。

 

 

(こっちを見てる巨人だらけだな……そして、ゆっくりと歩いてきてる。女型が引き連れた巨人やラガコ村の巨人のような、速い巨人じゃないだけマシ)

 

 

高い家屋の壁にアンカーを差し込み、ガスを噴射して高度を上げる。十分高度を取るとアンカーを外し、また別の家屋にアンカーを発射する。しかし、ガスは出さない。

重力と慣性の法則、位置エネルギーから運動エネルギーへの変換、物理法則を利用し、ガスの消費は最小限に減らす。

 

 

(原作でも、ミカサは矢鱈にガスを使うのではなく、振り子のような運動で立体機動をしていた。ワイヤーが千切れた描写は本編には無い。ある程度の負荷は掛けられる)

 

 

振り子運動を繰り返して移動していく。

高所まで到達した時は、巨人の索敵や後方から巨人が付いてきているかの確認のため周囲を見渡す。

また、不意打ちを回避しやすいように、狭い路地がある付近上空は通らず、大きな道路に従っての移動だ。

 

 

壁まで到達すると即座に切り返し、壁沿いに進んでいく。超大型によって破られた扉側へと。

 

 

カイは、チラッと後ろへ振り返る。ここまでの間で、最低でも15体程度の巨人がカイへと釣られていた。巨人の後方遥か先に、カイの班員が壁へと向かう姿が見えた。

巨人たちは班員に気付くことなく、一直線にカイへと向かって来る。

 

 

(隠れてる巨人も居なさそうだな。……良し、壁まで辿り着いたか)

 

 

カイは、巨人をその場に留めておくため壁にアンカーを差し込んだまま、壁面に張り付いて待機する。地面から25メートル弱の地点であるため、巨人が力一杯跳躍しても届かないだろうという高さだ。

 

 

汗が流れる手を服で拭き、自分の下を見る。

引き連れた巨人たちが、カイに向かって手を伸ばしていた。口を大きく開け、「あー」と鳴く声が絶えず聞こえてくる。

 

 

(このまま待機していても良いが……さて、どうするかな)

 

 

カイは、周囲の建築物よりも高い地点で止まっている。そのため、近くの道を歩く巨人は尚更、先ほどまでは建物で遮られてカイを見つけられなかった巨人すらも、カイへと向かって来る。

 

 

時間が経過すればするほど、ドンドン巨人が集まってくる。

何時の間にか、眼下に集まる巨人は30体を軽く超えていた。

 

 

(この状態では、本部には行けないな。ガスの残量には余裕があるから問題無い、といってもな〜……。下手に動くと、この群れを他人に衝突させることになる。術式を使おうにも、ここはトロスト区の中間。訓練兵や駐屯兵が普通にいる。せめて、外門の方なら誰も居ないだろうが……)

 

 

カイが外門の方へ視線を向けた時……

 

 

 

 

 

見慣れぬ場所へ転移した。

 

 

「なんだ!?」

 

 

空を見上げれば、先ほどまでは曇り空があった。

しかし今は、夜の帳が降り、星が煌めいていた。

巨人も、人も、何も無い。ただ砂と星空があるだけ。

 

 

辺りを観察し、何が起こっても大丈夫なように身構える。

呪力を練り、即座に術式を行使出来るように。形振りなど、構ってはいられない。

 

 

カイは周囲を警戒しながら、『ここ』が何処なのか考察する。

『突如の転移』と『この光景』。

謎が多いとは言え、導き出される答えは一つだった。

 

 

(ここは……もしや『道』か?)

 

 

空間を超越した場所。巨人の血や骨が送られてくる場所。『ユミルの民』から『ユミルの民』へ、記憶や意思が送られてくることもある場所。

 

 

カイが、己の今いる場所の見当をつけたと同時に声が聞こえた。

 

 

 

 

お前は

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

 

(この声は……)

 

 

聞き覚えがある男の声だ。その声は、耳から聞こえたのではなく、頭の奥に響くように聞こえた。

そして、ふと後ろを振り返る。

 

 

そこには、男と女の、小さな子供がいた。少女は、ボロボロに擦り切れた服を身に纏っている。少年は、見覚えのある顔立ち。

その二人を、カイは知っている。

 

 

(未来のエレンと、始祖ユミル……このタイミングで接触してきた理由は何だ……?)

 

 

『今』を生きているエレンは、王家の血を引く巨人と接触していない。始祖の力を行使したこともない。故に、『今目の前に』いるエレンは、当然未来のエレンである筈だ。

『今目の前にいる』エレンの隣に立つ少女は、必然的に始祖ユミルだと考察できる。

 

 

「……一体、何のようだ?俺が何かしたか?」

 

 

カイは、二人をジッと見つめながら尋ねる。しかし、疑問に対する答えは返ってこない。接触を図ってきたということは、何か思惑がある。その思惑が、カイには全く不明である。

 

 

三人の間に、張り詰めた空気が漂う。攻撃してくるか、対話を続けてくるか、それとも拘束してくるか。

どれほど時間が経過したか分からない。カイは、二人の姿を視界に入れた状態で神経を研ぎ澄ませる。

 

 

再び、声が聞こえた。

 

 

 

 

 

お前は、自由だ

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

カイの目に、トロスト区の街並みが飛び込んでくる。

煉瓦屋根、立ち登る煙、トロスト区の内壁、そして眼下に固まる巨人の群れ。

 

 

(戻ってきた……?)

 

 

巨人を見ながら、先ほどの出来事を思い出す。

何故接触してきたのか、何故『今』になって『道』へ呼んだのか、あの場所での景色、二人の姿……だが、カイの頭に浮かぶのは、未来を生きるエレンからの言葉だった。

 

 

(『お前は、自由だ』か……。原作とは、完全に異なる展開だ。呪術をバラしても良い、好きに動いて良い、ということか……?)

 

 

カイの心は揺らぐ。今までは、始祖ユミルと未来エレンから妨害を受けることが容易に予想されたため、人前における呪術の使用や原作展開への大幅な介入は避けてきた。

『ここ』で生きる人間として、普通に生活しているように振る舞ってきた。

 

 

(何を考えている?)

 

 

しかし、あの二人は、それを望んでいないのかもしれない。

自分が、何かしら行動することを望んでいるのかもしれない。

 

 

カイには、二人の考えが分からなかった。

だが、確かに言えることとして、彼の中にある『沈黙して、何もしない』という選択肢が消えた。

 

 

眼下に固まる巨人の群れに向かって右手を翳し、唱えた。

 

 

「『解』」

 

 

 

 

 

 






さあ、二人から許可を得ました。

本格的な原作改変へと進む道ができた訳ですな。

呪術で暴れるにせよ、このまま待機するにせよ、カイの班は32体の巨人を討伐してますからね。
結局、調査兵団から注目されるのは同じです。


アンケート第2回です。見た感じ、半分程度の方が、「私に委任する」という立場のようで……。この様子だと、3回目は不必要ぽいかな?取り敢えず、また好きな所に投票してください。後、恋愛要素って要ります?「作者に展開は委任する」立場の方は、①と②に投票してください。原作の展開的に、ヒロインはユミルやクリスタになるかも。

  • 57回壁外調査 女型に先制攻撃
  • 57回壁外調査 リヴァイ班と共闘
  • ストヘス区 女型本体を生身で捕獲
  • ウトガルド城 ユミル巨人化と共に大暴れ
  • 王政編 リヴァイと共にケニー戦
  • 王政編 反転術式でケニーを治癒
  • マリア 区内で鎧と超大型と交戦
  • マリア エルヴィンとアルミンを反転治癒
  • グリシャの手記と共に呪術公開
  • マーレ襲撃で大暴れ
  • ①恋愛要素は必要
  • ②恋愛要素は不必要
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。