空を駆け 影に潜みて 敵解つ   作:エルンストレーム総統

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第13話 一休み

 

 

 

 

打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突することで発生する『黒閃』。空間が歪み、衝突の際に黒い稲妻のように呪力が迸るという特徴を持つが、それ以上に重要なことが二つ。

 

 

一つ、威力の向上とゾーンへの突入、潜在能力の引き出し。平均して2.5乗まで打撃の威力が跳ね上がる上、アスリートで言う『ゾーン』の状態に入り、意図的に行っている呪力操作が呼吸のように回る。また、一時的に潜在能力が120%まで引き出される。それにより、術式操作や反転術式の効果が上がる。

 

 

そして何より、『黒閃』を狙う最大の目的は、『呪力の核心』を掴むこと。永続的に作用する効果であり、呪術師として動く上で、今後の戦闘において、必ず到達しなければならない場所。

 

 

『領域展開』や『反転術式』習得より後になっても良いが、この二つと比べて『黒閃』は発生させる機会が少ない。

 

 

転がり込んできた機会は徹底的に利用し、実力を上げる。

 

 

ましてや、相手は『あの』巨人だ。頭を吹き飛ばしても下半身を切り刻んでも死なない、つまり『継戦時間』が長くなる。

打撃を遠慮なく叩き込み、何度も打ち込んで、『黒閃』が発生する『チャンス』の母数自体を増やすことが可能だ。

 

 

「お゛らっ!」

 

 

カイのアッパーが巨人の顎を捉え、首を起点に頭がグイッと曲がる。大きく仰け反った巨人は、アッパーのエネルギーそのまま後ろへ倒れた。

 

 

横からカイへ食らいつこうと飛びついてきた巨人の鼻に肘打ち。

家屋の壁を蹴って勢いをつけ、巨人の腹に蹴り。

家の中に飛び込んだカイを追いかけようと、巨人が家の入り口に顔を突っ込んだ所に、助走をつけて殴り。

 

 

只管に打撃を与えていく。同時に、打撃に遅れないよう集中して、呪力を操作している。

 

 

そんな戦闘を続けてから約30分が経過した時のことである。

 

 

カイは、徐に巨人の髪をグッと掴むと、

 

 

「吐くなよ」

 

 

立体機動装置からガスを噴射した。ガスの噴射と同時に、足元から高出力の呪力を放出させた。

ガスと呪力の同時噴射により生まれたエネルギーを用い、回転しながら宙へと飛び上がる。10メートルほど飛ぶと、地面に向かってガスと呪力を噴射し、重力も利用して、回転しながら巨人の体を地面に叩き付けた。

 

 

リヴァイやミカサの『回転斬り』、石流の『グラニテ・ブラスト』から発想を得て、相手を掴んで回転しながら宙へ飛翔し、地面に向けて噴射方向を変えることで重力も味方に加えながら、掴んだ相手を叩き落とす技だ。

 

 

襲い来る巨人を相手にする内、次第に彼の心が昂ぶり始めていた。

 

 

(楽しいな!『呪術』は!)

 

 

自由に、存分に、遠慮なく、躊躇無く、己の力を振るうことへの楽しさ。

自分には何が出来て、何が出来ないのか。それらを解明し、脳内で想像した技を実践し、得た結果から更に先へ進む、そんな楽しさ。

 

 

『呪術師には、ある程度のイカれ具合と高いモチベーションが不可欠』

 

 

巨人の体を飛び歩き、とある巨人の頭を足場にズンッと音を立てて飛び上がる。巨人の背を遥かに超える高さまで上昇する。

そして、カイは腕全体に呪力を纏わせた。その呪力を加速させる。加速、加速、加速。兎に角速く、只管に速く。

 

 

カイの身体が最高点に到達すると、重力に従って落ちていく。落下地点となる場所では、巨人たちがカイを捕まえるため手を上に伸ばしていた。

 

 

「そら゛ッ!」

 

 

巨人の手に向かって腕を叩き込む。呪力で強化された腕が巨人の肉と衝突する。そして、加速させた呪力が巨人の肉を切り裂いた。

『シン・陰流 居合』その模倣である。

 

 

戦いが進み、胸が躍っていく。勿論、本来の目的である『黒閃の発動』を忘れているわけではない。

だが、記憶の中にある『呪術廻戦』の技を、再現することが、その技を改良することが、自分なりにアレンジすることが、立体機動と合わせることが

 

 

「楽しいなぁ!」

 

 

そんな心を、止めることが出来なかった。

 

 

要求される呪力操作の水準に到達しておらず、威力や精度もお粗末。ガンガン呪力を消費し、燃費が悪いという次元ではない。

だが、カイにとっては、『それ』で良かった。精度や威力、呪力効率は、おいおい改良すれば良い。

カイは、子供のように無邪気な笑みを浮かべながら、巨人の肉を叩き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量の蒸気が周囲に立ち込め、巨人の死体が幾つも転がっている外門付近で、カイは渋い顔をしながら立ち尽くしていた。

 

 

「……結局、『黒閃』は出なかったか……」

 

 

(当然っちゃ当然か……。狙って出せる術師は居ない。モジュロ虎杖が頭おかしいだけか)

 

 

巨人の血と肉で身体が真っ赤に染まり、それらから蒸気を出して消滅していく光景を眺めながら、体を休める。

 

 

『あの二人』からの贈り物を堪能したカイは、今の己に残っている呪力を確認する。

ただでさえ燃費が最悪な『オリジナル技』を何度も使用し、『黒閃』発動のために呪力を使用した打撃を意識した。

 

 

その結果、膨大な呪力は、凡そ底を尽きていた。

 

 

(呪力消費がハンパじゃないな。まあ、思い付いたことを只管試していただけで、効率を完全に無視していたからな……)

 

 

カイは、ガスボンベを軽く叩く。未来エレンと始祖ユミルが接触してくる前の戦闘と、多少ガスを使用した先ほどの『大暴れ』。これら二つの戦闘で、ガスも多分に消費していた。

 

 

『底を尽きた』と形容するほどではないものの、長時間の戦闘は不可能だろうという程度には、ガスボンベにガスは残っていなかった。

 

 

「クソッタレ」

 

 

呪詛を短く吐くと、カイは屋根の上を歩き出した。

 

 

超大型巨人が出現し、巨人との戦闘が始まって数時間が経過した今頃、他の訓練兵のガスも尽きかけている頃。

額に流れている汗を拭い、本部がある方向を見る。約25キロ先にある本部の様子を見ることは、勿論叶わない。しかし、恐らく原作通りの展開になっているだろう、ということをカイは感じた。

 

 

(間違いなく、あの『足が速い』80体近くの巨人は、始祖ユミルと未来エレンが寄越してきたものだろう。本部方面に進む『普通の』巨人もいたことだし、門から入ってくる全ての巨人を相手にしていたわけでも無かった)

 

 

なるべく屋根の上を徒歩で移動するよう心掛け、ガスの消費を最小限に抑える。障害物や十字路などがあって迂回する必要が出た際、それらを無視する時に限って立体機動を利用することにした。

 

 

しばらく移動していると、最初は駐屯兵の死体が殆どだったが、次第に訓練兵の遺体も混じるようになり、今では多くの死体が訓練兵だらけになっている。

 

 

(トロスト区の中央部分に近づいてきたな。時間的に、本部に突っ込む頃か?……いや、少し遅れるか。合流を急ごう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイが本部の近くまで到着した時、訓練兵たちの声が聞こえてきた。

 

 

「一斉に出るぞ!」

 

 

「壁の上に登れ!」

 

 

「本隊と合流だ!」

 

 

カイがいる場所とは反対方向の所から、ガスの補給を終えた訓練兵たちが立体機動で飛び出しているのが見える。

さながら、巣を叩かれた蜂のようだ。

 

 

(補給室の巨人を討伐し終えたか……ちょっと遅れてしまったな)

 

 

「まあ、いいか」

 

 

カイは本部の屋根までアンカーを伸ばし、立体機動に移る。

静かに本部のバルコニーへと立つ。

カイは周囲を見渡し、目的の人物を探す。

 

 

(多分、ミカサやアルミンがいる筈だが……)

 

 

「ミカサ、速く逃げないと……!」

 

 

「あの巨人……」

 

 

そして、話し声が風に乗って聞こえてきた。その声は、目的の人物であった。

 

 

(居た居た……やっと、一区切りだな)

 

 

大きく息を吐く。

自分を異常に狙う巨人との交戦、始祖ユミルと未来エレンからの接触、『黒閃』の発動を目的として呪力をふんだんに使用した戦闘と、一日の内に事が起こり過ぎた。

まだ気を抜けないとは言え、多少の気を休める時間が来るだろうと安心した。

 

 

バルコニーを歩き、6人の元へと歩いていく。

 

 

「同感だ。あのまま食い尽くされちゃ、何も分からず終いだ。あの巨人にこびりついてる奴らを、俺たちで排除して、取り敢えずは延命させよう」

 

 

「正気かライナー!?やっと、この窮地から脱出できんだそ!?」

 

 

「例えば、あの巨人が味方になる可能性があるとしたら、どう?どんな大砲よりも強力な武器になると思わない?」

 

 

『あの巨人』の正体が気になる『戦士』組と、補給室の巨人を掃討することで、やっと生き残ったと安心しているジャンの話し声だ。

 

 

(ベラベラと話し過ぎだぞ、アニ。そんな饒舌キャラだったか?……仕方ないよな。あ〜……疲れたな)

 

 

「おいおい、何だこりゃ?」

 

 

カイは、バルコニーから飛び降りて屋根に降りる。

たった今、この状況を見たと言わんばかりに、わざとらしく言葉を放つ。

 

 

「カイ!?何処に行ってたんだ?」

 

 

カイの姿を見たジャンが、幽霊が現れたような表情で彼を見る。それはジャンだけでなく、他の5人もそうだった。

無理もない話である。戦闘の途中から今の今まで、カイ本人も、カイの班員もその姿を見せなかった──班員は既に撤退しており、カイ自身は外門で交戦していたため、姿を見ないのは当然である──ため、巨人に食われたと考えていたからだ。

 

 

「追われてたんだよ。足が異常に速くて、滅茶苦茶しつこい巨人どもが、わんさかと現れてな。メンバーは先に撤退させてたから、一人で相手してた。地形やら建物やらを利用して、上手いこと無力化してきた所」

 

 

(嘘は言ってない。『死』という名の『無力化』だけど)

 

 

『80体近くの巨人を倒した』などと言えば、その手段を怪しまれる。既に、カイの班は32体討伐しているため、これ以上の戦果を報告すると綻びが出るのは必定であるから、カイは誤魔化すことにした。

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛

 

 

巨人化したエレンが大きく叫びながら、トーマスを食った巨人へと歩いていく。身体に纏わりつく巨人を無視し、腕が千切れても気にしない。

トーマスを食った巨人の『うなじ』にエレンは噛みつき、そのまま持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 







こんなところで都合良く『黒閃!』とか、なるわけ無いわな。


さて、次回から不定期更新に入ります。
リアルが忙しくなってきたので、文章を書いている暇が無くなってきました……

アンケート第2回です。見た感じ、半分程度の方が、「私に委任する」という立場のようで……。この様子だと、3回目は不必要ぽいかな?取り敢えず、また好きな所に投票してください。後、恋愛要素って要ります?「作者に展開は委任する」立場の方は、①と②に投票してください。原作の展開的に、ヒロインはユミルやクリスタになるかも。

  • 57回壁外調査 女型に先制攻撃
  • 57回壁外調査 リヴァイ班と共闘
  • ストヘス区 女型本体を生身で捕獲
  • ウトガルド城 ユミル巨人化と共に大暴れ
  • 王政編 リヴァイと共にケニー戦
  • 王政編 反転術式でケニーを治癒
  • マリア 区内で鎧と超大型と交戦
  • マリア エルヴィンとアルミンを反転治癒
  • グリシャの手記と共に呪術公開
  • マーレ襲撃で大暴れ
  • ①恋愛要素は必要
  • ②恋愛要素は不必要
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