(子供に大人、老人。大量に固まっているが、総じて絶望的な顔をしているな。生き残ったことを喜ぶ顔じゃない)
避難民が集められた、トロスト区の一角。カイはそこで、避難民の表情を観察しながら歩いている。ボロボロに擦り切れた服に、薄汚れた顔は、他の避難民と同じだ。だが、その体格だけは、明らかに異なる。
(山で食料を蓄えていて良かった。栄養不足で成長が止まることは無さそうだな)
影の中には、大量に収納された食料がある。果実、山菜、穀物だけでなく、肉もある。影の中は真空であり、雑菌も存在しない。気温変化も無い。そのため腐敗はしないということを、今までの生活で学んだ。一人で消費するなら数年分の蓄えを影に収め、その分の重さは呪力強化で耐えている。呪力操作と筋トレを同時並行で実施しているわけだ。
「どうせ巨人が壁を越えたんなら、もっと食って減らしてくれりゃあ良かったんだ」
カイの耳に、兵士の声が聞こえた。視線をそこに向けると、駐屯兵団の兵士二人が食料を奪い合う避難民を見ながら話している。
(ただでさえ食糧難な世界で、土地を失い、食料生産能力がグッと下がった。そりゃ、余所者へ食料を分け与えることに反対する奴がいるのは普通だな)
カイが兵士二人を眺めながら、そんなことを考える。この世界は残酷で、弱き者は奪われる。それは、今まで『見てきた』し『体験してきた』し、『実際にやったこと』でもある。
「エレン!」
どこか見たことがある金髪の男の子が、険しい顔をしながら兵士へと向かう黒髪の男の子へと声を掛ける。だが、『彼』は止まらない。それで止まるような性分ではない。
「これじゃ、食糧不足が酷くなる一方だぜ」
そう話す兵士の脛を、黒髪の男の子は蹴り上げる。
「あいでっ!何すんだこのガキ!」
「がはっ……」
蹴られた兵士はエレンを殴り、もう一人の兵士はエレンを蹴る。エレンは蹴られた拍子に地面へと倒れるが、その目は鋭く尖ったままだ。
「知らないっ……クセに!お前なんか見たこともないクセに!」
エレンは兵士たちを睨みつけながら、その目に涙を浮かべている。エレンの脳内には、ある光景が血のように強くこびりついている。
「巨人が……どうやって人を……!」
「っ!うるせぇ!」
蹴られた兵士が、エレンへと歩み出す。エレンを止めた金髪の男の子が兵士の前へ出る寸前、カイが兵士の肩に手を置いた。
「あ?何……っ!」
「何やってんすか、兵士さん」
170センチ近くある身長と、筋肉で分厚くなった肉体。その肉体は、服を着ながらも明らかに伺えるもの。
そして何より、兵士を見つめるカイの目。子供は尚更、大人でもしないような『獲物を見つめる』目。
筋骨隆々の男が、兵士を睨みつけていた。
「まだガキでしょ。兵士さんが子供を殴って良いのかな」
カイはそう言いながら、辺りを見渡す。肩に手を置かれた兵士は、カイに釣られて周りを見る。子供を殴り、蹴る兵士の姿、子供に追撃を加えようとする兵士の姿、子供が兵士に向かって『巨人が人を食い殺すこと』を叫ぶ姿を見た民衆は、この騒ぎに足を止め、食料を奪い合うことすら止めていた。代わりに、兵士とエレンに視線を向けている、
「最初に蹴り上げたのは子供です。でも、『兵士』が『幼い子供』に『追撃』を加えるのは、どうなんですかね?」
「くっ……」
「ごめんなさい!お腹が空いて、イライラしてたから、大人の人に、こんな失礼なことを……」
金髪の男の子が、エレンを庇うように前へ出て大きな声で兵士へと話す。カイと同じように、周囲へと視線を向けながら。
エレンの側に、黒髪の女の子が歩み寄る姿が見える。
周囲の避難民が兵士を見ながら、ボソボソと話す声が次第に大きくなっていく。
分が悪いと感じた兵士は追撃を加えようとする気持ちを抑えた。その額には、汗が流れていた。
「……たく、お前たちが飢え死にしないで済むの、俺たちの御蔭なんだぞ。子供だって、それくらいの感謝の気持ちは持つもんだ!」
カイは肩から手を離し、歩み去る兵士二人を見つめる。
「はい!」
「クソっ……」
引きつる笑みを浮かべながら金髪の男の子は兵士へと答える。エレンは、それを見ながら悔しそうに呟いた。
「誰があんな奴らの世話になるか……っ!」
「助けていただき、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
あの場所から離れた後、金髪の男の子と黒髪の女の子が、カイに向かって頭を下げる。エレンは、段差に座って俯いたままだ。
「気にすんな。俺なんて13のガキだから、敬語なんて使わなくても良い」
「えっ……」
その言葉に、30センチほどの差がある身長を見ながら、男の子と女の子は呆けた。立ち居振る舞いと身長、体格から、13歳の子供とは到底思えなかったからだろう。
(アルミンとミカサ、そしてエレンか……接触するために助けたが、ここからどうするかな……)
「しかし、お前は凄いな」
これからにおける三人との関わりを考えながら、カイは黙ったまま俯くエレンの前に立つ。目線が合うよう、中腰になって。
「仮にも駐屯兵団の『兵士』である男の脛を蹴り上げるとは」
「……それは……」
一言呟くエレンは、カイから目を逸らす。
(ハンネスさんとの影響だな。駐屯兵を殴ることに慣れてる。……いや、単純にエレンが『そういう』性分だからか?)
カイは、エレンの側に腰掛ける。そして、三人を見ながら、自分に向かって指をさす。
「俺は、カイ・シュナイダー。名前は?」
「……エレン・イェーガー……です」
「ミカサ・アッカーマンです」
「アルミン・アルレルトです!」
「そうか。で、三人はどうする?親は?」
三人の名前を聞くと、カイは尋ねた。三人は、俯き、どこか悲しげな表情を浮かべる。
(グリシャやカルラ、アルミンの両親も死んでるか……。やっぱり、流れは一緒のようだな)
「……すまん。悪い事を聞いた」
記憶にこびりつく光景を思い出し、カイは三人から目を逸らしながら謝罪した。4人の間に重い空気が流れる中、その空気を遮ろうとアルミンがカイに話しかけた。
「カイさんは、兵士になるんですか?」
「どうして、そんなことを?」
「いえ、体が大きいので、兵士になるために鍛えているのかと」
(……まあ、作中序盤で筋骨隆々の大男は出てこなかった。壁外人類を除いて。栄養不足が影響しているのが一番、生きるのに精一杯で体を鍛える暇なんか無いのが二番目か……)
アルミンの顔を見ながら、カイは作中序盤内の人物を思い出す。子供ながらに服の上からでも分かるほどの筋肉を持っているのは、壁外から来たライナーぐらいだ。
カイは、ライナーや東堂葵ほどの見た目ではないが、少なくとも近い姿ではあった。
「いや、俺は山奥に住んでいてな。獣を狩って肉を取ったり、山の中で生きるために体を鍛えていたりしてたら、こうなってた」
どこか戯けるようなジェスチャーをしたカイは、腕を捲って左腕を見せる。そして力を入れると、筋肉が盛り上がって太くなる。
三人はカイの左腕をジッと見つめた。その目には、憧れのようなものが宿っていた。
左腕から力を抜いて服を戻したカイは、三人に尋ねた。これからの行動を考えながら。
「三人は、どうするんだ?兵士になるのか?」
「……なる……」
カイの問いに、エレンが呟くように答えた。拳に力を入れ、強く握り締めて。
「巨人をぶっ殺す。俺たちの街、母さん、自由を奪った奴らを、この世から一匹残らず駆逐する……!」
憎悪と嫌悪、殺意が籠もった強い眼差しを横目で見ながら、カイは原作のエレンを思い出す。最終的に巨人を消滅させる結末を齎した、未来のエレンを。
(エレンだからこそ、あの結末は迎えられた。それは、今のエレンからも伺えることだ。ここまでの殺意を10歳の子供が抱くなんて、普通に考えれば異常だな)
エレンをジッと見つめると段差から立ち上がり、カイは三人に背を向ける。
「俺は行くところがある。訓練兵団の入団式で、また会おうな」
「っ!はい!」
輝きを持った目で、三人は元気に答えた。そして、カイはその場を後にする。
再びカイが三人に会うのは、今から二年後の847年、訓練兵団の入団式の時である。
これからの展開、どうしようか悩んでます。
原作に介入するのは決めてるんですが、どのタイミングで、どのように介入するのが良いのか……。
マルコと駐屯兵には死んでもらって、ジャンの覚醒とトロスト区の防衛に繋げて貰う必要はありますよね。
戦士たちと接触するにも、その先にあるマーレをどうするか……。考えれば考えるほど、何か絶望を感じますね
本格的に原作介入を開始するのはどのタイミングが良いと思います?アンケートは、今回含めて3回ほど実施します。2回目は、第一回のアンケートにおける上位1位から10位で投票。第3回は、第2回の上位1位から3位で決選投票です。介入時期を作者に委ねる場合、(19)と(20)に投票してください
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①57回壁外調査 女型を先制攻撃
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②57回壁外調査 女型によるカイ先制攻撃
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③57回壁外調査 リヴァイ班と共闘
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④ストヘス区 女型本体を生身で拘束成功
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⑤ウトガルド城 ユミル巨人化と共に大暴れ
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⑥ローゼ壁上 鎧と超大型に瀕死
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⑦エレン奪還作戦 ユミルは未定
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⑧王政編 リヴァイと共にケニー戦
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⑨王政編 礼拝堂で大暴れ
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⑩王政編 地上のロッド巨人を細切れ
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⑪王政編 反転術式でケニーを治癒
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⑫マリア 区内で鎧、超大型と交戦
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⑬マリア 区外で獣と交戦するだけ
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⑭マリア 特攻時、領域展開
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⑮マリア エルヴィンやアルミンを反転治癒
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⑯グリシャの手記と共に、呪術公開
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⑰イェレナの思惑阻止
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⑱マーレ襲撃で大暴れ
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⑲黒閃と反転術式を、①から⑥の間で会得
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⑳領域展開を①から⑪の間に会得