空を駆け 影に潜みて 敵解つ   作:エルンストレーム総統

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第8話 850年 前 アニ

 

850年 入団から二年後

 

 

キースは、訓練に勤しむ訓練兵の採点を実施していた。

 

 

単に身体能力や立体機動の練度、斬撃の深さ、座学の成績、格闘術を見るのではない。

その訓練兵がどのような性格なのか、どの訓練兵と交友しているか、隙間時間に何をしているか、組織行動に適しているか、訓練兵が何を思って訓練に勤しんでいるか、何が得意か。

あらゆる観点から訓練兵を分析しなければならない。

 

 

全般の科目を卒なくこなすミカサ、精神力と体格に加え仲間からの信頼も集めるライナー、高い潜在能力を持つベルトルト、斬撃に非の打ち所が無いアニ、強い目的意識を抱えるエレン、トップクラスの立体機動適性を持つジャン、高い指揮能力があるマルコ、小回りの効く機動が得意なコニー、芋女、人望の厚いクリスタと、上位10名は、彼のなかで凡そ確定していた。

 

 

また、上位10名には入ることは無いだろうが、座学で非凡な発想を見せるアルミンにも、キースは注目していた。

 

 

だが、彼ら以上にキースの目が留まる訓練兵が一人。

 

 

「ほっ」

 

 

目の前にある擬似標的の『うなじ』を深く切り裂いた、カイ。

彼は、そのまま立体機動で遠くに飛び去り、次の標的を探す。

その姿を、キースは見つめていた。

 

 

身体能力が化け物じみているだとか、不可思議な現象が起こるだとか、未来予知ができるだとか、そういう『異常』というのをキースは観測していない。だが、カイが何かを持っているということだけを、感じ取っているに過ぎない。

 

 

その理由は分からない。あくまで感覚的な話である。

それは、調査兵団の団長として最前線を走り抜き、そして生き残ってきたからこその特異な感覚なのかもしれない。

 

 

(……カイ・シュナイダー。忠実かつ真剣に訓練へ励み、身体作りや学びも怠らない、模範的な訓練兵なのは間違いない。だが、確かに『手を抜いている』。そして、『意図的に交友関係を絞っている』。この二点に、妙な引っ掛かりがある)

 

 

キースの目から見て、カイは単に無愛想な訳では無い。

カイの考えに、『無愛想過ぎるのも不味い』というものがある。

例えば『アニ』だ。アニは無愛想ではある。だが、完全に人を拒絶している訳ではない。実際、コニーやアルミン、エレンと交流し、普通に会話している。

故に、周囲を極端に遠ざけると目立つ。そのため、カイの側から交流することはあまり無いが、他の訓練兵から声をかけられれば普通に答えるようにしている。

 

 

また、訓練兵として生活を続ける中、座学や立体機動などで訓練兵から助けを求められることが増えてきた。

その時は、他の訓練兵へと回す──立体機動であればジャンやベルトルト、座学であればアルミンなどへ尋ねるよう、最初にアドバイスする──ようにしているが、それでもカイに助けを求められるときは、積極的に力を貸すことを繰り返してきた。

それ故、周囲からは『見た目からは少しおっかないが、話しかけたら普通に頼れる兄貴』のように捉えられていた。

 

 

しかし、自分からは声を掛けない受動性を見せながらも、助けを強く求められた時だけ積極的になる部分に、キースは『ほんの少し』疑問を抱いていた。とりわけ謙虚であるという訳では無いのに何故だ、と。

 

 

以前、他の教官に、キースがカイに対して感じている内容を話したことがある。だが、返ってきたのは『気の所為だろう』という言葉だけだった。

勿論、カイは呪術を行使していない──そんな術式は持っていない──。ただ、『予め決めた』ことをそのまま振る舞っているだけだ。しかし、『傍観者』たるキースの観察眼は、カイの奥に何かがあることを感じ取っており、常にマークしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日カイは、ライナーとエレンの三人で組んで、格闘術の訓練を行っていた。二人が格闘している間、余った一人は戦闘を観察し、審判だけでなく、改善点や評価すべき点を伝える監督役としての役割も果たす。エレンとライナー、ライナーとカイ、カイとエレン、という組み合わせを順に回し、格闘術を学んでいた。

 

 

「よおしエレン、カイ。あの不真面目なヤツにも説教だ。『兵士』とはどうあるべきか、教えてやろうじゃないか」

 

 

「は?」

 

 

そして、エレンに投げ飛ばされたライナーが彼に己の考えを伝えると、徐にアニへと視線を向けて、そう言った。二人の同意を得ることもなく、辺りを歩きながら上手いことサボっているアニの前に立ち塞がる。

 

 

「教官の頭突きは嫌か?それ以上身長を縮めたくなかったら、ここに来た時を思い出して真面目にやるんだな」

 

 

「おい、何だその言い草」

 

 

アニを挑発するライナーを、エレンが咎める。そして、案の定怒髪天を衝くアニの顔は、般若そのものである。怒っている理由は、身長に関する挑発のためか、不用意に接触したためか。

彼女の顔を見ながらカイは、心の内に思う。

 

 

(うわ、怖ぇ。『美人が怒ると怖い』と言うが、アニはデタラメな怖さだな)

 

 

アニメや漫画とは違い、ここは『現実』である。故に、目の前に立つ少女の怒りが、空気と共に身体へ染み込んでくる感覚をカイは覚える。

 

 

ライナーがエレンを嗾け、アニに足を蹴られ、そして一回転させられる一連の流れを見ながら、カイはアニの動きを観察する。

立体機動や馬術などは教本があり、訓練を重ねると一定程度の実力で止まった。回転斬りまで習得しているという訳では無いが、一般兵士の平均を多少超える程の力は手に入れている。

これらはあくまで『己』と向き合えば良い。術式と類似している。

 

 

しかし、格闘術は違う。『相手』が必要だ。ただ己と向き合い続けるだけでは成長しない。現代のようなトレーニング器具が無いことも影響し、『己だけ』という鍛錬方法に、カイは限界を感じていた。

『高い水準』の『相手』と、『本気で』戦闘を重ね、技を盗み、実戦し、反省し、改善するサイクルが必要だ。

格闘術の訓練は得点が低いこともあり、殆どの訓練兵は真剣に取り組んでいないため、その『相手』すらマトモに居ない。

 

 

「やれよライナー。『兵士としての責任』を、教えてやるんだろ?」

 

 

(立とうぜ、エレン)

 

 

一回転させられて情けない体勢をしているエレンは、ライナーを煽ってアニに嗾けた。そしてライナーはドン!と一回転させられる。同じく情けない格好だ。

 

 

「アンタは?」

 

 

大男を一人転がしたアニは、カイへと視線を向ける。ライナー程ではないものの、カイも大男ではある。しかし彼女の目に、怯えの色は無い。

 

 

「……そうだな。やるか」

 

 

カイがアニへ答えると、彼女の手に持っている木のナイフを投げてもらう。

そしてカイがナイフを受け取った瞬間、

 

 

「っ……!」

 

 

アニは顔を顰め、カイに向かって忽ち構えを取る。

彼女は、本能的に感じ取ったのだ。

カイがナイフを持った刹那、何かが彼の中で弾けたことを。

 

 

『呪術廻戦』、またの名を『ゴリラ廻戦』。

呪術をメインとした作品のクセに、近接戦闘が得意なキャラクターが数多くおり、殴り合いや蹴り合いが頻発している『呪術廻戦』。そのことは当然、カイは知っている。

 

 

呪術"だけ"を極めることも良い。だが、本当に強くなるには、体術も極める必要がある。遠距離での呪い合いだけでは、手数が乏しくなる。呪術で攻撃された時も接近された時も、回避や防御するのは肉体が主である。そのことは当然、カイは知っている。

 

 

故に、15年間マトモな格闘を経験してこなかったカイは、僅かに高揚した。

 

 

「ふんっ!」

 

 

暴漢役のカイではなく、アニが先に攻撃を仕掛けた。

 

素早く地面を滑り、カイの腹を蹴り上げようと右足を前へ回す。

 

カイは身体をスッと左にズラしてアニの足を回避すると、アニへと殴りかかる。拳ではなく、肘を前に突き出して。

 

自らに襲い来るカイの肘を寸前で躱し、カイの後ろに回ったアニは彼を拘束するべく腕をカイの身体に巻き付けようとする。

 

それを察知したカイは屈みながらアニの下へ身体を滑り込ませ、左手をアニの足へと伸ばし、己の背中でアニを持ち上げるため立ち上がる。

 

『足を掴まれたら為す術なく背負われる』と感じたアニは、即座に力一杯跳躍すると同時に、大きく広げた両手をカイの背中へ押し当て、グッと力を入れて叩く。

 

馬跳びの要領で飛び上がるアニは、しかし足を開かず、跳躍した時のエネルギーで前回転そのままに、グルリとカイの背中を飛び越えた。

 

スタッと地面に足を着けるアニと、そんなアニを見つめるカイ。

 

 

瞬く間の出来事だったが、明らかに次元が異なる戦闘。

間近で見ていたエレンやライナーは勿論のこと、周囲の訓練兵も二人の応酬を見ていた。

 

 

「……アンタさ、ナニモン?」

 

 

「質問の意図が分からないな」

 

 

「アンタがナイフを持った瞬間、イヤな感じがしたんだよね」

 

 

「暴漢役だからな。イヤな感じがするのは当然だろ」

 

 

「……そう」

 

 

アニは、髪をサッと掻き上げた。まだ余裕綽々という表情をしている彼女に対して、カイの心臓はバクバクと鼓動していた。

 

 

(あっぶねぇ〜……。イメトレしてて良かった〜……。ある程度の型はアニメで知ってる。アニに勝つイメトレをずっとしてたから、少しは動けたな。イメトレって大事)

 

 

アニとの応酬時、カイは『縛り』を自分に課した。代償は、『この』戦闘における呪術の禁止である。

呪力を用いれば、アニに勝つことは可能だろう。しかし、それでは『技術』が盗めない。呪力強化による身体能力で力任せに勝つこととなる。それは好ましくない。

故に、今戦闘に限って呪力を捨て去る代わりに『技術を見る目』を底上げする『縛り』を設けることで、素の肉体のみでアニと相対し、自らの糧とする。

 

 

「……来なよ」

 

 

「分かってる」

 

 

カイは、ナイフを構える。ナイフを、『人類最強』と同じ、逆手で持ちながら。

互いに距離を測りながら、タイミングを伺う。

相手の足運び、呼吸、重心、それら全てを考慮に入れながら、どのように仕掛けてくるか、どのように防いでくるか、回避した後の動き、カウンター、あらゆる状況を想定し、予め脳内に動きを作っておく。想定外の状況に陥り、体が硬直することを防ぐためである。

 

 

二人を囲む訓練兵は、ゴクリと唾を飲み込み、その様子を遠巻きに観察し、予想する。どちらが先に仕掛け、どちらが勝つか。

 

 

緊迫した雰囲気が漂う中、ある人が声を発する。

 

 

「貴様ら!何をやっている!」

 

 

訓練兵が訓練を放棄し、二人の観戦に精を出していることに気付いたキースが訓練兵たちの元に歩いて来る。

 

 

「やっべ!」

 

 

「教官だ……」

 

 

二人を囲む訓練兵たちは即座に教官へ敬礼する。

アニとカイの二人も敬礼している。

二人は格闘していたとは言え、周囲の訓練兵が訓練を放棄する要因の一つだったのは間違いない。

 

 

この騒ぎによって、二人の格闘は一時的に有耶無耶になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






書いてて思いました。『アニって馬跳びなんかするのか?』と。

基本、アニって①蹴り技、②拘束技が大半ですよね?
OVAでは殴りもありますけど、蹴りと拘束の割合としては低いですよね。……『馬跳び』は、どうなんだろう……


第9話を4/22、第10話を4/23、第11話を4/24、第12話を4/25に予約済みです。
第13話を執筆中ですが、アンケート結果は影響しません。



本格的に原作介入を開始するのはどのタイミングが良いと思います?アンケートは、今回含めて3回ほど実施します。2回目は、第一回のアンケートにおける上位1位から10位で投票。第3回は、第2回の上位1位から3位で決選投票です。介入時期を作者に委ねる場合、(19)と(20)に投票してください

  • ①57回壁外調査 女型を先制攻撃
  • ②57回壁外調査 女型によるカイ先制攻撃
  • ③57回壁外調査 リヴァイ班と共闘
  • ④ストヘス区 女型本体を生身で拘束成功
  • ⑤ウトガルド城 ユミル巨人化と共に大暴れ
  • ⑥ローゼ壁上 鎧と超大型に瀕死
  • ⑦エレン奪還作戦 ユミルは未定
  • ⑧王政編 リヴァイと共にケニー戦
  • ⑨王政編 礼拝堂で大暴れ
  • ⑩王政編 地上のロッド巨人を細切れ
  • ⑪王政編 反転術式でケニーを治癒
  • ⑫マリア 区内で鎧、超大型と交戦
  • ⑬マリア 区外で獣と交戦するだけ
  • ⑭マリア 特攻時、領域展開
  • ⑮マリア エルヴィンやアルミンを反転治癒
  • ⑯グリシャの手記と共に、呪術公開
  • ⑰イェレナの思惑阻止
  • ⑱マーレ襲撃で大暴れ
  • ⑲黒閃と反転術式を、①から⑥の間で会得
  • ⑳領域展開を①から⑪の間に会得
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