青春を求めて実力主義の教室へ   作:リリリリら

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十七話

六月の第一土曜日。

 

波乱に満ちた一学期中間テストが終わり、高度育成高等学校の敷地内には、重圧から解放された生徒たちの開放的な空気が満ちていた。

 

午前十時。

学生寮の自室で目を覚ました俺――呉 刃叉羅は、ベッドの上で大きく伸びをした。

 

「さて、今日は何をするかな」

 

昨日の放課後は、平田や軽井沢たちを招いて急遽打ち上げパーティーを開き、大いに盛り上がった。おかげで冷蔵庫の食材はすっからかんだが、それに見合うだけの「普通の高校生らしい」達成感と疲労感があった。

 

今日は完全にフリーな休日だ。ケヤキモールへ食材の買い出しに行き、ついでに図書室で本でも読もうか。運が良ければ、ひよりに会えるかもしれない。

そんなことを考えていた時。

 

枕元に置いていた端末が、短いバイブレーションと共にメッセージの受信を知らせた。

 

画面に表示された送り主の名前を見た瞬間、俺の眠気は文字通り一瞬で消え去った。

 

『椎名ひより』

 

(――――ッ!! ひよりから!!)

 

弾かれたように身を起こし、画面をタップしてメッセージを開く。

 

『おはようございます、刃叉羅くん。中間テスト、本当にお疲れ様でした。もし今日、刃叉羅くんのご予定が空いていたら……二人で、テストのお疲れ様会をしませんか?』

 

「おっしゃああああああああああっっ!!!」

 

俺はベッドから跳ね起き、誰もいない部屋の中心で、全身の筋肉を躍動させた。

 

ステップ、ターン、そして見えない敵の首を刈り取るような鋭い足捌き――否、これは暗殺の歩法を応用した、完全なる『喜びの舞(狂喜乱舞)』だ。

 

千三百年続く呉一族の歴史において、休日の朝に女子からのデートの誘いを受けて歓喜のステップを踏んだ暗殺者が、果たしていただろうか。

俺が第一号だ。間違いない。爺様が見たら「たるんどる!」と薙刀で斬りかかってくるだろうが、知ったことか。俺は今、世界で一番幸せな男だ。

 

俺は深呼吸を三回して高鳴る心臓を落ち着かせ、なるべく冷静な返信を打ち込んだ。

 

『刃叉羅:おはよう、ひより。もちろん空いてるよ。俺もひよりとお疲れ様会をしたかったところだ。時間はいつでも合わせるから、場所を指定してくれ』

 

数秒後、すぐに『本当ですか! 嬉しいです!』という返信と共に、ケヤキモールの入り口に十一時半待ち合わせ、という指定が送られてきた。

 

現在時刻は十時十五分。

 

「シャワー! 服! 髪のセット!」

 

俺はかつてないほどの素早さで動き出し、完璧な休日の身支度を整え始めた。

 

午前十一時二十分。

ケヤキモールの入り口に到着した俺は、約束の十分前だというのに、すでに心臓をバクバクと鳴らしていた。

 

(落ち着け……。ただの放課後の延長だ。いつも通りに接すればいい)

 

自分に言い聞かせていると、前方から見覚えのある銀色の髪が揺れるのが見えた。

 

「刃叉羅くん! お待たせしました!」

 

小走りでこちらに向かってくるひよりの姿を見た瞬間、俺の思考は完全に停止した。

 

学校では制服姿しか見たことがなかったが、今日の彼女の私服姿は、文字通り『天使』の具現化だった。

 

淡い水色のふんわりとしたワンピースに、白いカーディガン。銀色の髪はサイドで可愛らしく編み込まれており、足元は歩きやすそうな白いサンダル。

飾り気はないが、彼女の持つ透明感と儚さを最大限に引き出す、完璧なコーディネートだ。

 

「……あ、いや、俺も今来たところだ」

 

「ふふっ、嘘ですね。さっきからずっと入り口で待ってくれていたの、見えていましたよ」

 

ひよりは悪戯っぽく笑い、首を傾げた。

 

「あの……私服、変じゃないですか?」

 

「変なわけないだろ。……すごく、似合ってる。可愛すぎて、さっきから心臓に悪い」

 

俺が一切の誤魔化しなくストレートに褒めると、ひよりの白い頬がポッと薄紅色に染まった。

 

「ありがとうございます。……刃叉羅くんの私服も、かっこいいですね。いつも制服なので、少し新鮮です」

 

俺の私服は、黒のシャツに細身のダークグレーのパンツというシンプルなものだが、鍛え上げられた肉体のおかげで、ただの服でもそれなりに見栄えはする(はずだ)。

 

「それじゃ、行こっか。テストの重圧から解放された記念すべき日だ」

 

「はいっ!」

 

俺たちは自然と歩調を合わせ、休日の生徒たちで賑わうケヤキモールの中へと足を踏み入れた。

 

まずは、少し早めのランチも兼ねて、モール内で人気のカフェへ向かった。

 

窓際の明るい席に座り、俺はアイスコーヒーとサンドイッチ、ひよりは紅茶と季節のフルーツタルトを注文する。

 

「本当に、テストが終わってホッとしました。Cクラスも、なんとか全員赤点を回避できたみたいです」

 

「そうか、それは良かったな。……ちなみに、うちのクラスもギリギリで全員生き残ったよ」

 

「ふふっ、知っています。櫛田さんが、過去問を手に入れてくださったんですよね?」

 

ひよりは紅茶のカップを両手で持ちながら、嬉しそうに微笑んだ。

どうやら、Dクラスが過去問で赤点を回避したという噂は、すでに他のクラスにも広まっているらしい。

 

「ああ。彼女のファインプレーのおかげで、前日まで教え込んでいた俺の苦労は少し徒労に終わったけどな。まあ、真面目に頑張ってた奴らが退学にならずに済んだのは良かったよ」

 

「刃叉羅くんは、本当にクラスのみなさんに優しいですね。毎日勉強会で教えてあげるなんて」

 

「平田みたいな善人に真っ直ぐ頼まれたら、無下にはできないさ。それに……早く終わらせて、ひよりに会いに行きたかったからな」

 

俺がサラリと言うと、ひよりはまたしても頬を赤らめ、タルトのイチゴを小さくフォークで切り分けた。

 

カフェでの時間は、あっという間に過ぎていった。

テストの話、最近読んだ本の話、そしてこれから読みたい本の話。

図書室のような静寂はないが、周囲の喧騒すらもBGMのように心地よく感じられる。向かい合って座り、彼女の笑顔を見ながら会話をしているだけで、俺の心は極上の幸福感で満たされていた。

 

カフェを出た後は、二人でモール内の大型書店へ向かった。

ここが今日のメインイベントの一つだ。

 

「あ、刃叉羅くん! この作家さんの新刊、出てますよ!」

 

「おお、マジか。ずっと気になってたんだ。……ひよりは、何か探してる本あるか?」

 

「私は、少し古い海外文学のコーナーを見てみようかと……あ、これ……」

 

高い本棚の前で、ひよりが背伸びをして上の段の本を取ろうとする。

しかし、彼女の身長ではあと少し届かない。

 

「危ないぞ。俺が取るよ」

 

俺は彼女の後ろからスッと手を伸ばし、目的の本を軽々と抜き取った。

その瞬間、俺の腕が彼女の肩に軽く触れ、彼女の背中が俺の胸元にすっぽりと収まるような形になった。

 

「あ……」

 

「……これだろ?」

 

ひよりがハッとして振り向き、至近距離で視線が絡み合う。

微かに漂う、フローラル系の甘い香り。

一瞬だけ時間が止まったような錯覚に陥った後、俺は慌てて一歩下がり、本を彼女に手渡した。

 

「あ、ありがとう、ございます……」

 

「お、おう。気にすんな」

 

お互いに少しだけ顔を赤くして、視線を泳がせる。

こういうベタなハプニング、漫画や小説の中だけかと思っていたが、実際に起こると心臓の音がうるさすぎて死にそうになる。

 

その後、お互いに二、三冊の本を購入し、書店を後にした。

時刻はすでに夕方近く。

モール内のベンチに座り、少し休憩しながら、俺たちは他愛のない雑談を続けていた。

 

「そういえばさ、ひより」

 

俺はふと、昨日の出来事を思い出し、話題に出した。

 

「昨日、テストが終わった後なんだけどさ。うちのクラスの平田ってやつに頼まれて、勉強会をやってた連中の打ち上げに付き合わされたんだよ」

 

「打ち上げ、ですか?」

 

「ああ。みんな今月はポイントがゼロで金欠だったから、俺の部屋に呼んで、俺が料理を振る舞ったんだ」

 

俺がそう言うと、ひよりは目を丸くして驚いた。 

 

「刃叉羅くんのお部屋で、ですか? 料理を……?」

 

「ああ。唐揚げとかフライドポテトとか、ピザとか。高校生が好きそうなジャンクなパーティー料理だけどな。みんな美味いって喜んで食べてくれたよ」

 

俺としては、ただの日常報告のつもりだった。

しかし、ひよりの反応は俺の予想と少し違っていた。

彼女は、持っていた紙袋を膝の上でギュッと握りしめ、少しだけ俯き加減で……上目遣いに俺を見たのだ。

その瞳には、ほんのわずかな『羨望』と、隠しきれない『嫉妬』のような色が混じっていた。

 

「……羨ましいです」

 

ぽつりと、静かな声が落ちる。

 

「え?」

 

「私……刃叉羅くんのお料理、食べたことないのに。……クラスの女の子たちは、刃叉羅くんのお部屋で、手料理を食べたんですね」

 

(――――――――ッッッ!!!!!!!)

 

俺の脳天を、雷が直撃した。

嫉妬。ジェラシー。

あの天使のように優しく、常に穏やかなひよりが、俺が他の女子たちに料理を振る舞ったことに、明確に嫉妬している。

「私も食べたかった」「私だけの刃叉羅くんなのに(幻聴)」という、ささやかな独占欲。

 

(か、かわ、可愛すぎる……ッ!! 悶絶死する!!)

 

俺の心の中の『呉 刃叉羅』が、床を転げ回って血の涙を流しながら歓喜の絶叫を上げていた。

破壊力が高すぎる。こんなの、暗殺の毒なんかよりもよっぽど致死量だ。

 

「あ、あのっ……ご、ごめんなさい! 私、なんだか変なことを……!」

 

ひよりはハッとして自分の発言に気づき、慌てて顔を真っ赤にして手を振った。

 

「その、違うんです! 刃叉羅くんが優しいから、みなさん嬉しかっただろうなって思っただけで、決してズルいとか、そういう意味じゃなくて……!」

 

しどろもどろになって弁解する彼女を見て、俺の心の導火線に完全に火がついた。

 

「ひより」

 

俺は、彼女の言葉を遮るように、真剣な声で名前を呼んだ。

 

「……はい」

 

「俺の手料理、食べてみたいか?」

 

俺が真っ直ぐに目を見つめて尋ねると、ひよりは一瞬だけ躊躇った後、小さな声で、しかしはっきりと頷いた。

 

「……はい。とっても、食べてみたいです」

 

「なら、決まりだ」

 

俺はベンチから立ち上がり、ひよりに手を差し伸べた。

 

「今日の晩飯、俺の部屋に食いに来い。俺の得意な和食のフルコース、ひよりのためだけに作ってやるよ」 

 

俺の提案に、ひよりは目をパチクリと瞬かせ、それから、パァッと花が咲くような満面の笑顔を見せた。

 

「本当ですか!? ……はいっ! 喜んで、お邪魔させていただきます!」

 

ひよりは俺の手を嬉しそうに取り、立ち上がった。

その小さな手の温もりを感じながら、俺は内心で凄まじい冷や汗をかいていた。

 

(……やばい。やばいやばいやばい!!)

 

勢いで誘ってしまったが、よく考えろ。

『ひよりと、俺の部屋で、二人きり』だ。

 

昨日のは平田という男子もいたし、何より大人数でのパーティーだった。

しかし今回は、密室に、思いを寄せる女の子と二人きり。

健全な男子高校生の理性が、果たしてどこまで持つのか。

だが、誘ってしまった以上、もう後には引けない。

俺は自分の胃袋(あるいは貞操観念)を試される究極の試練へと、愛しい天使をエスコートして歩き出した。

 

俺の男子寮の部屋の前に到着し、鍵を開ける。

 

「どうぞ。散らかってはないと思うけど、適当にくつろいでてくれ」

 

「お邪魔します……わぁ、すごく綺麗なお部屋ですね。それに、なんだか刃叉羅くんの匂いがします」

 

ひよりが部屋に入るなりそんなことを言うので、俺の動悸は早くも限界を突破しそうになった。

 

「そ、そうか? 汗臭くないならいいけど……。ちょっと待ってろ、すぐ準備するから」

 

俺は慌ててキッチンに逃げ込み、エプロンを締め直した。

冷蔵庫を開け、昨日買い込んでおいた食材のストックを確認する。

よし。昨日のジャンクなパーティー料理とは違う、俺の真骨頂である『繊細な和食』で勝負だ。

鰹と昆布で丁寧に出汁を引き、部屋中にふんわりとした上品な香りを漂わせる。

キッチンからリビングを覗くと、ひよりはソファにちょこんと座り、俺が料理をする背中を興味津々といった様子で見つめていた。

 

「刃叉羅くん、包丁の音がすごく綺麗です。トントントントンって、リズムが良くて……見ているだけで楽しいです」

 

「ははっ、昔から実家で仕込まれてるからな」

 

彼女の視線を背中に感じながら料理をする。

まるで、新婚生活のような錯覚に陥り、思わず包丁で自分の指を切り落としそうになるのを、超人的な集中力でなんとか回避した。

 

一時間後。

 

「お待たせ。刃叉羅特製・和食御膳だ」

 

ローテーブルの上に、彩り豊かな料理が並べられた。

ふっくらと焼き上げた出汁巻き玉子。カレイの煮付け。じっくりと味を染み込ませた肉じゃが。ほうれん草の胡麻和え。そして、炊きたての白ご飯と、豆腐とワカメの味噌汁。

 

「わぁ……!! すごいですっ!」

 

ひよりの目が、キラキラと星のように輝いた。

 

「お店の料理みたいです! すごくいい香りがします……っ!」

 

「口に合うといいんだけどな。さあ、冷めないうちに食べてくれ」

 

「はいっ。……いただきます」

 

ひよりは両手を合わせ、まずは出汁巻き玉子を箸で割り、一口食べた。

その瞬間。

彼女の動きが止まり、大きく目が見開かれた。

 

「……んんっ!」

 

「ど、どうだ?」

 

「美味しい……! すごく美味しいです! お出汁がジュワッて口の中に広がって、フワフワで……私、こんなに美味しい玉子焼き、初めて食べました!」

 

ひよりは感動したように頬に手を当て、次々と箸を進めていく。

カレイの煮付けを食べては「味が染みてて美味しい」と微笑み、肉じゃがを食べては「お肉がホロホロです」と顔を綻ばせる。

その、幸せそうに俺の作った飯を頬張る姿を見ているだけで。

俺の胸の奥は、これまで感じたことのないほどの強烈な多幸感で満たされていた。

暗殺者として、誰かの命を奪うことしか教えられてこなかったこの手。

それが今、一人の女の子のために料理を作り、彼女をこんなにも笑顔にしている。

これ以上の喜びが、この世のどこにあるというのだろうか。

 

「刃叉羅くん、お料理、本当に上手なんですね。」

 

ひよりは、ご飯を綺麗に平らげた後、温かいお茶を飲みながら満面の笑みで言った。

 

「そう言ってもらえると、作った甲斐があるよ。ひよりが美味しそうに食べてくれるのが、俺にとって一番嬉しいからな」

 

俺が本音を漏らすと、ひよりは嬉しそうに目を細めた。

そして、お茶の入った湯呑みを両手で包み込みながら、少しだけ上目遣いで俺を見た。

 

「あの、刃叉羅くん」

 

「ん?」

 

「私……お料理、あまり得意ではないんですけど……。また、時々こうして、刃叉羅くんのご飯を食べに来ても、いいですか?」

 

(――――ッッ!!)

 

今日何度目か分からない心臓の爆発。

 

「また来てもいいですか?」

 

それはつまり、「また私をあなたの部屋に呼んでください」と同義だ。

俺は、込み上げてくる歓喜の叫びを必死に喉の奥に押し込め、極めて平静な、しかし優しさに満ちた声で答えた。

 

「ああ。いつでも食べに来てくれ。ひよりのためなら、毎日だって作ってやるよ」

 

「ふふっ……本当ですか? 約束ですよ」

 

ひよりは、本当に、心の底から幸せそうに微笑んだ。

 

その後、二人で食後の紅茶を飲みながら、今日買った本を読み合ったり、他愛のない話で笑い合ったりした。

誰にも邪魔されない、密室での二人きりの時間。

変な緊張感はいつの間にか消え去り、そこにはただ、寄り添うように穏やかな空気だけが流れていた。

 

夜の八時を過ぎた頃。

 

「そろそろ、帰りますね。今日は本当に、ありがとうございました」

 

名残惜しそうに立ち上がるひよりに、俺は上着を羽織った。

 

「女の子を一人で帰らせるわけにはいかないからな。寮の前まで送るよ」

 

俺たちは一緒に部屋を出て、夜の風が心地よい敷地内を並んで歩いた。

女子寮の入り口が見える場所まで来ると、ひよりは立ち止まり、振り返った。

 

「今日は、本当に楽しかったです。テストの疲れも、全部吹き飛んじゃいました」

 

「俺もだ。ひよりと一日中一緒にいられて、最高のお疲れ様会だったよ」

 

「……はい。また月曜日、図書室で会いましょうね。刃叉羅くん」

 

「ああ。おやすみ、ひより」

 

ひよりは小さく手を振り、女子寮の中へと消えていった。

彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、俺は自分の男子寮へと歩き出した。

 

帰り道。

夜空には、満天の星が瞬いていた。

俺は、先ほどまで自分の部屋に彼女がいた事実と、彼女の笑顔、そして「また来たい」と言ってくれた言葉を反芻していた。

 

「……あぁ、幸せすぎるな」

 

自然と、口元が緩んでしまう。

暗殺者としての冷徹な思考など、今の俺には微塵も残っていない。

ただの一人の男子高校生として、一人の少女に心を奪われている事実が、そこにはあった。

 

「俺……完全に、ひよりのこと好きだよなぁ」

 

誰もいない夜道で、俺は静かに、自分の確かな恋心を自覚した。

出会った頃から「天使だ」とは思っていたが、今日のデート、そして部屋での出来事を経て、その感情は疑いようのない『恋』へと昇華していた。

 

もし彼女を傷つける者がいれば、俺は世界を敵に回してでも戦うだろう。

だが、そんな物騒なことよりも、まずは彼女に美味しいご飯を作り、一緒に本を読み、笑い合う日々を重ねていきたい。

 

「……これも、青春だなぁ」

 

俺は夜空に向かって大きく息を吐き、足取り軽く寮への帰路を急いだ。

 

血塗られた過去を持つ暗殺者は、この箱庭の学校で、確かに光り輝く青春のど真ん中を歩み始めていたのだった。

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