四月中旬。
高度育成高等学校に入学してから、早くも二週間近くが経過しようとしていた。
朝、学生寮から校舎へと続く並木道を歩きながら、俺はふと空を見上げた。
春特有の、少しだけ埃っぽいような、それでいて暖かな風が頬を撫でていく。季節は間違いなく春であり、まだ半袖で過ごすには早い時期だ。
(こんな時期から水泳の授業があるなんて、珍しい学校だな)
今日の時間割には、体育の枠に『水泳』という文字が刻まれていた。
無論、この学校の設備が異常なまでに充実していることはすでに身をもって知っている。おそらくは空調が完璧に管理された、巨大な室内温水プールがあるのだろう。
暗殺の任務において、水上や水中での戦闘を想定した訓練は嫌というほど積んできた。息継ぎなしで数十分間潜行し続ける訓練や、水中で手足を縛られた状態からの脱出など、思い出すだけで吐き気がするような修練の数々だ。だが、ただの『授業』としてプールに入り、タイムを競うというのは初めての経験だった。
少しだけ新鮮な気持ちを抱きながら、俺は1年Dクラスの教室へと足を踏み入れた。
「――だから! 櫛田ちゃんは絶対にDはあるって! 俺のこの目に狂いはない!」
「甘いな池殿。某のデータによれば、アレはE……いや、場合によってはFに到達している可能性すら微粒子レベルで存在する!」
「じゃあ堀北はどうだ!? あいつ、いつもツンツンしてるけど、意外と『隠れ巨乳』だろ!」
教室に入るなり、俺の耳に飛び込んできたのは、信じがたいほど低俗で、かつ大音量の怒号――もとい、議論だった。
声の主は、池寛治、山内春樹、本堂遼太郎、そして『博士』こと外村秀隆の四人。
彼らは教室の後方に集まり、何やらノートの切れ端のようなものを片手に、熱弁を振るっていた。ホワイトボードの隅には、ご丁寧にオッズのような数字まで書き込まれている。
どうやら、今日の水泳の授業に向けて、女子生徒の胸の大きさで賭け――いわゆる『オッズ』を組んでいるらしい。
(……こいつら、イカれてんのか?)
俺は思わず足を止め、呆れ果てて彼らを見つめた。
男子高校生がそういう話題に興味を持つこと自体は、まあ普通のことだろう。俺だって健全な男子高校生としての自我は持っている(一族の郷では迦楼羅を筆頭に戦闘狂の女ばかりだったため、実体験やロマンスは皆無に等しいが)。
だが、問題なのはその『場所』と『声量』だ。
彼らの周り――いや、教室中の女子生徒たちから、文字通り『極寒』の視線が突き刺さっていることに、こいつらは気づいていないのだろうか。
「ほんっと、サイテー」
「朝からバカじゃないの?」
「近寄りたくもないんだけど」
軽井沢恵を中心とするギャルグループからはあからさまな嫌悪の声が上がり、他の女子たちも汚物を見るような目を彼らに向けている。
周囲の殺気や敵意に敏感な俺からすれば、今の教室の空気は、まさに致死量の毒ガスが充満しているようなものだ。少しでも生存本能があるのなら、即座に口を閉ざして土下座でもするべき状況である。
俺が自分の席に向かって歩いていくと、隣の席に座っている王美雨――みーちゃんが、ビクッとして肩をすくめていた。
「おはよう。みーちゃん」
「あ……おはようございます、呉くん……」
みーちゃんは怯えた小動物のように、チラチラと池たちの方へ視線を向けている。あんな大声で女子の身体的特徴について騒がれれば、真面目でおとなしい彼女が恐怖すら覚えるのも当然だ。
席に鞄を置き、やれやれと息を吐いた時だった。
「おっ! 綾小路! 呉!」
最悪なことに、盛り上がっていた池がこちらに気づき、大きく手を振ってきた。
「お前らもこっち来いよ! 今、一大イベントのオッズを決めてるところなんだ! お前らも一口乗るだろ!?」
(……ふざけるな、巻き込む気か)
俺が内心で舌打ちをした、その瞬間。
俺の前の席に座っていた綾小路清隆が、ガタッと静かに立ち上がった。
「俺も……いいのか?」
(――ッ!? バカ、何嬉しそうに釣られてんだお前は!)
綾小路は、誘われたことが嬉しかったのか、完全に『友達の輪に入れる』という純粋な喜びに満ちた足取りで、池たちの輪に向かおうとしていた。
こいつもこいつで、完全に空気が読めていない。いや、社会性が欠如しすぎている。あそこに入れば、女子からのヘイトを一緒に被ることは火を見るより明らかだ。
俺は慌てて手を伸ばし、綾小路の肩をガシッと掴んで引き止めた。
「待て。行くな、綾小路」
「……ん? なぜだ、呉。せっかく誘ってくれているんだが」
不思議そうに首を傾げる綾小路。俺は深いため息をつき、それから池たちの方を鋭く睨みつけた。
「お前ら、いい加減にしとけ。周りの視線に気づかないのか?」
「あ? 視線って……」
俺の低く凄みのある声に、池と山内がキョトンとした顔で周囲を見渡す。
そしてようやく、自分たちを取り囲む教室中の女子からの『絶対零度の殺気』に気がついた。
「「――ヒッ!?」」
池と山内が、短い悲鳴を上げて抱き合った。
外村も豚のように鼻を鳴らして後ずさり、本堂は露骨に目を泳がせている。
「あ、いや……ははっ! じょ、冗談だって! な! ちょっとした朝のジョークっていうか……!」
「そ、そうそう! 男子のコミュニケーションの一環だよな!」
引き攣った笑みを浮かべて誤魔化そうとするが、もちろんそんな言い訳が通用するはずもない。
「キモすぎ」
軽井沢が、氷のような声で一刀両断した。
「マジでドン引きなんだけど。あんたたちと同じ空気吸うのも気持ち悪い。近寄らないでくれる?」
「……うす」
軽井沢の容赦ない言葉の刃に、池たちは完全に萎縮し、逃げるように自分たちの席へと散っていった。
一件落着だ。俺は綾小路の肩から手を放し、ドッと疲れを感じながら自分の席に座り直した。
「……助かったのか、俺は」
状況をようやく理解したらしい綾小路が、ポツリと呟く。
「ああ。あそこで輪に入ってたら、お前の高校生活は二週間で社会的な死を迎えていたぞ」
「そうか……人の輪に入るのも、タイミングと状況を見極める必要があるんだな。勉強になった」
「お前はもうちょっと、他人の感情の機微ってやつを学んだ方がいいと思うぞ……」
呆れる俺の耳に、ふと、涼やかな声が届いた。
「貴方は、まともなようね」
声のした方へ振り向くと、綾小路の隣――俺から見て斜め後ろの席に座っている、黒髪の美少女がこちらを見ていた。
堀北鈴音。入学初日から常に一人で本を読んでおり、誰とも群れようとしない孤高の存在。クラスの女子の中でもトップクラスの美貌を持っているが、その刺々しいオーラのせいで誰も近寄れないでいる女子生徒だ。
(……この子に話しかけられたの、初めてだな)
俺は少し驚きながらも、軽く肩をすくめてみせた。
「まともっていうか……まあ、さすがにあれはダメだろ。ただのセクハラだからな」
「ええ、その通りよ。あんな発情した猿のような連中と同じクラスだなんて、私の不運も極まっているわ。貴方と隣の彼が、猿の群れに加わらなくて正解だったわね」
堀北はふいっと視線をそらし、再び手元の文庫本へと意識を戻した。
相変わらずつれない態度だが、彼女なりに俺の行動を評価してくれたのだろう。
なんにせよ、これで俺の『常識的な男子生徒』としての評価は守られた。普通の青春を送るためには、女子からの好感度(というより、嫌悪されないこと)は必須条件なのだ。
そして、午後。
待ちに待った(主に男子たちが)、水泳の授業の時間がやってきた。
男子更衣室は、異様な熱気に包まれていた。
「いよいよだな……! いよいよ、女子たちの水着姿が拝めるぞ……!」
「うひょー! 俺、今日のこの日のために生きてきたのかもしれねえ!」
池や山内は、朝の女子からの冷遇などすっかり忘れた様子で、奇声を上げながら制服を脱ぎ捨てている。こいつらのメンタルの回復力だけは、暗殺者としても見習うべきかもしれない。
俺も自分のロッカーを開け、制服のシャツのボタンを外していった。
「……ん?」
ふと、周囲が奇妙なほど静まり返ったのを感じた。
先ほどまで猿山のように騒がしかった更衣室が、水を打ったように静かになっているのだ。
不思議に思って振り返ると、池や山内、それに須藤や平田までもが、目を丸くして『俺』を見ていた。
正確には、シャツを脱ぎ捨てた俺の上半身を、だ。
「おい……呉、お前……」
「なんだよその体……ヤバすぎるだろ……」
須藤が、信じられないものを見るような目で呟いた。
俺の肉体。それは、世間一般の高校生のそれとは根本的に次元が違う。
千三百年もの間、強さのみを求めて行われてきた一族の『品種改良』。そして、物心ついた時から課されてきた、血反吐を吐くような壮絶な暗殺の訓練。
これらによって鍛え上げられた俺の筋肉は、ボディビルダーのような見せるための見掛け倒しの筋肉ではない。一つ一つの筋繊維が極限まで圧縮され、鋼のような硬度とゴムのようなしなやかさを兼ね備えた、完全なる『戦闘用』の肉体。
無駄な脂肪は一切なく、シックスパックどころか全身の筋肉が解剖図のようにくっきりと浮かび上がっているのだから、一般人が見れば度肝を抜かれるのも無理はなかった。
「あ、ああ……これか。実家がちょっと武道やっててさ。幼い頃からしごかれてたから、勝手にこうなったんだよ」
俺は適当な嘘を吐いて誤魔化した。まさか「暗殺のために品種改良された結果だ」なんて言えるはずもない。
「武道ってレベルじゃねえだろこれ……ブルース・リーかよ」
「てか、腹筋バキバキじゃん……スゲェ……」
男子たちが俺の肉体に群がり、ペタペタと触ってくる。少し鬱陶しいが、ここで無下に払いのけるのも角が立つので、愛想笑いでやり過ごすことにした。
その時、控えめに様子を伺っていた平田が、少し心配そうな表情で俺に声をかけてきた。
「あのさ、呉くん。その……脇腹にある大きな傷、どうしたの? 無理にとは言わないけど、少し痛々しくて……昔、何かあったの?」
彼が指差したのは、俺の右の脇腹。そこには、握り拳ほどの大きさの、ケロイド状になった生々しい傷跡が残っていた。
平田の気遣うような、申し訳なさそうな声色。クラスの和を重んじる彼らしい、優しいトーンだ。
「ああ、これか」
俺はその傷跡を指先でなぞりながら、少しだけ遠い目をした。
「……幼い頃にな。ちょっと大きな『交通事故』に遭ってさ。その時に負った傷なんだ。もう全然痛まないから、心配しないでくれ」
「交通事故か……大変だったね。でも、無事でよかった」
「ああ。俺も、あの時はさすがにもうダメかと思ったよ」
平田の言葉に頷きながら、俺は内心で当時の記憶を呼び起こしていた。
(――中東での任務の時だったな。標的を仕留めた直後、待ち伏せしていた敵の凄腕スナイパーに、対物ライフルでぶち抜かれたんだった)
あの時は本当に死を覚悟した。
臓器をいくらか吹き飛ばされ、砂漠の真ん中で大量の血を流しながら、死に物狂いで帰還ポイントまで這って戻ったのだ。一族の異常な回復力がなければ、間違いなくあの砂漠で干からびていただろう。
そんな血みどろの記憶を『交通事故』という便利な言葉でオブラートに包み込み、俺は平静を装った。
着替えを終え、更衣室を出て室内プールへと向かう。
ドーム型の巨大なプール施設は、空調が完璧に効いており、少し動けば汗ばむほどの適温に保たれていた。
プールサイドに出ると、そこには予想と少し違う光景が広がっていた。
紺色のスクール水着姿の女子がキャッキャと騒いでいる……という男子の妄想は脆くも崩れ去っていたのだ。
「あれ? 女子、少なっ……」
「長谷部は!?佐倉は!?巨乳が見れると思ったのに……」
池や山内が露骨に肩を落とす。
プールサイドのベンチには、ジャージを羽織ったりバスタオルにくるまったりしている女子生徒がズラリと並んでいた。軽井沢たちのグループをはじめ、大半の女子が「風邪気味で」「体調が悪くて」という理由(おそらく9割は嘘だろうが)で見学を決め込んでいた。
思春期の女子がプールを嫌がるのは珍しいことではない。ましてや、朝にあんなセクハラまがいの賭けをしていると知れば、水着姿を見せたくないと思うのが普通だ。
実際に水着に着替えてプールに入っているのは、堀北鈴音や櫛田桔梗、そして隣の席のみーちゃんなど、真面目でおとなしい数人の女子だけだった。
俺が準備体操をしていると、パタパタと軽い足音が近づいてきた。
「呉くん!」
振り返ると、そこには健康的なスクール水着姿の櫛田が立っていた。
彼女の抜群のプロポーションは、確かに池たちがオッズを作りたくなるのも理解できるほどに発育が良い。しかし俺の胸はそこまで高鳴らない。なぜなら、俺にとっての『天使』である椎名さんは別クラスであり、ここにはいないからだ。
「櫛田か。見学じゃないんだな」
「うん、私は泳ぐの結構好きだからね! っていうか……」
櫛田は俺の体を上から下までマジマジと見つめ、目を丸くして感嘆の声を上げた。
「呉くん! すごい体だね! すっごく鍛えてる!」
「あ、ああ……まあ、実家で武道やってた名残でな」
「本当にかっこいいよ! クラスの男子の中でもダントツじゃないかな。……ねっ、みーちゃんもそう思うよね?」
櫛田が後ろに隠れていたみーちゃんを引っ張り出す。みーちゃんは顔を真っ赤にして、コクコクと激しく頷いていた。
「ははっ、ありがとう。でも、水泳でこの筋肉が役に立つかは分からないけどな」
俺は適当に笑って誤魔化し、プールの方へ視線を向けた。
今日の授業は、タイム測定を兼ねた50メートルの自由形らしい。
(さて、どうするか)
プールサイドで順番を待ちながら、俺は一人で思考を巡らせた。
俺の本来の身体能力をフルに発揮すれば、50メートルなど数秒で泳ぎ切ることすら可能だ。一族の秘伝である、脳のリミッターを外す技術『外し』を使えば、スクリューボート並みの速度が出るだろう。
だが、当然そんな真似をするわけにはいかない。
かといって、この尋常ではない肉体を晒しておきながら、カナヅチだったり遅かったりするのも不自然の極みだ。
つまり、求められるのは『この筋肉に見合った、極めて優秀な一般人』としてのタイムを叩き出すこと。
「第一コース、高円寺。第二コース、須藤。第三コース、呉。第四コース、平田……位置について」
俺の順番が回ってきた。
隣のコースには、金髪をオールバックにした変人・高円寺六助と、バスケ部で運動神経抜群の須藤健、そしてサッカー部でバランスの良い体格をした平田洋介が並んでいる。
「ふっ……美しい私の泳ぎに、見惚れるがいいさ」
「ケッ、ぶっちぎってやるよ。高円寺、お前には負けねえ」
ピストルの音が、室内に鳴り響いた。
俺たちは一斉に飛び込む。
水中に潜った瞬間、俺は瞬時に周囲の三人の速度を計算した。
(――ッ!? なんだ、高円寺のあれは)
俺は水中で目を見張った。
隣のコースを泳ぐ高円寺六助。彼のフォームは、文字通り『完璧』だった。一切の無駄がないストローク、水の抵抗を極限まで減らした流線型の姿勢、そして爆発的な推進力。オリンピック選手にも引けを取らない、芸術的なまでの泳ぎだった。
高円寺はあっという間に俺たちを引き離し、圧倒的なスピードで水を切り裂いていく。
(……やれやれ、化け物がいたな。なら、俺の定位置は決まった)
俺は冷静に判断を下した。
あの高円寺に追いつくのは目立ちすぎる。かといって、須藤や平田に大きく遅れをとるのも不自然だ。
ならば、彼らと競り合いながら、僅差でフィニッシュする。
水中で手足を動かしながら、俺は息継ぎのタイミングで須藤と平田の位置を確認し、ミリ単位で速度を調整していく。
暗殺においては、標的に気づかれずに忍び寄るための『速度調節』は基本中の基本だ。それを水泳に応用するだけのこと。
結果として。
「――ゴール!」
ぶっちぎりの1位は、当然ながら高円寺。彼は須藤たちに10メートル近い大差をつけてフィニッシュしていた。
そこから少し遅れて、激しいデッドヒートの末、2位に須藤、3位に俺、そして4位に平田という順で壁にタッチした。俺たち三人の差は、ほんのコンマ数秒という僅かなものだった。
「ぷはっ……! くそっ、高円寺のやつ、はええ……!」
「はぁ……はぁ……須藤くんも、呉くんも速いね。敵わなかったよ」
プールサイドに上がり、平田が爽やかに笑う。俺も息を切らす演技をしながら、それに頷いた。
「いや、二人ともいい勝負だった。でも、高円寺は別格だな」
俺たちがそう言って高円寺の方を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「素晴らしい! 素晴らしいぞ高円寺! その完璧なフォーム、圧倒的なスピード……ぜひ我が水泳部に入ってくれ!」
体育教師であり、水泳部の顧問でもある屈強な男が、興奮した様子で高円寺の両手を握りしめ、熱烈なスカウトを行っていたのだ。
だが、当の高円寺は、濡れた金髪をバサリとかき上げながら、不遜な笑みを浮かべてそれを一蹴した。
「フッ……お断りさせてもらおう。私の美しさは、特定の部活の枠に縛られるべきものではないのだよ。私は常に自由であり、ただ美しくあるだけさ」
「な、なんという……だが諦めんぞ! いつか必ず君を……!」
教師の懇願を無視し、高円寺は優雅な足取りでプールサイドを去っていく。
周囲のクラスメイトたちも「高円寺すげえ」「水泳部からのスカウト蹴ったぞ」と騒然としている。
どうやら、クラスの注目は完全に高円寺へと向いたようだ。俺の『そこそこ上位の運動神経』という完璧な偽装は、彼の目立ちすぎる行動のおかげで、より自然な形でクラスに受け入れられた。
(よしよし、今日も普通の高校生をやり遂げたぞ)
俺は心の中でガッツポーズを決め、心地よい水の冷たさを肌に感じながら、プールの水面を眺めた。
暗殺者の日常からは程遠い、平和で、少しだけ馬鹿馬鹿しい体育の授業。
高円寺という変人や、須藤という血の気の多いやつはいるが、俺はこの箱庭での生活を大いに楽しんでいた。
こんな平穏な日々が、卒業までずっと続けばいい。
心の底からそう願いながら、俺は塩素の匂いが漂うプールサイドで、眩しい青春の1ページを確かに刻んでいたのだった。