◇撮影スタジオ
ことり、千砂都「うわぁ……!」
(BGM:陽だまりのリハーサルスタジオ)
そこに広がっていたのは、まるで夢の中のような光景だった。
セット全体は明るくポップな色合いでまとめられていた。
壁には青空が描かれ、天井からは虹やふわふわの雲が吊るされていた。
虹には番組のロゴ。
足元は緑の草原を模した柔らかなカーペットで覆われている。
まるで青空の草原をイメージしてるようなセットだった。
ことり「まるで絵本の世界に来たみたい!」
千砂都「ホントだね!」
セットの仕上がりを確認していた曜と花丸が、2人に気づく。
曜「気に入ってくれた? どう!? 私たちの力作!」
花丸「カメラ越しだともっと映えるずら♪」
善子「クックックッ…見るがいいわ。このセットが、いかに幻想の世界に変貌するかを!」
曜「ヨハネちゃん、カメラチェックよろしくね~!」
梨子「ふふっ」
セットのピアノには、すでに梨子が座っていた。
スタジオのモニター前に立っていた果南が、ことりと千砂都を手招きした。
果南「二人ともこっちおいで。 このモニターから見てみてよ。 直接見るのとここから見るのとじゃ全然違って見えるから」
ことり、千砂都「…?」
ことりと千砂都は、果南のところまで歩いていった。
エマ「…」ニコッ
そのタイミングで、照明担当のエマが優しくライトを調整し始める。
ふわりと温かみのある光が、セット全体に柔らかく降り注いだ。
ことりと千砂都はモニターを覗き込む。
ことり、千砂都「…!?」
その瞬間、ふたりは小さく息を呑んだ。
スタジオのセットを直接見たときも感動はあったけど、どこかまだ、作り物というか、ただの書き割りのような感じもあった。
けれど、善子が撮影してるモニターに映し出された画面の中の世界は違った。
本当に空は澄みわたり、雲はふわふわと漂い、虹は綺麗にかかっていているかのようだった。
梨子はカメラに向けて手を振る。
梨子「二人とも、見えてるかしら?」
ことり「綺麗…!」
千砂都「メルヘンの国みたい…!」
果南「どう? これが美術とカメラと照明の魔法だよ」
恋「ぜひセットへ行って、立ってみてください」
ことり「はいっ!」
ことりは、隣にいた千砂都の手を握った。
千砂都「えっ? ことりちゃん?」
千砂都が驚いて目を丸くするが、ことりはにこりと笑い…。
ことり「行こっ! 千砂都ちゃん!」
その笑顔に誘われるように、千砂都も笑顔を浮かべ…。
千砂都「…! うんっ!」
ことりが手を引き、千砂都がそれに応じて一緒に走り出す。
二人の手がしっかりと繋がって、カラフルな世界へ向かって駆けていく姿に、恋と果南は思わず目を細める。
恋「いいコンビになりそうですね」
果南「だね。よかったよ」
ことりと千砂都は、初めて自分たちのステージとなる夢の国に足を踏み入れた。
ことり「わぁ~…素敵~!」
千砂都「近くで見ると、こんななんだ?」
その場に立った瞬間、まるで本当にメルヘンな絵本の世界に入り込んだような、不思議な気分になる。
マルガレーテ「マイク付けさせてもらうわよ」
ことり、千砂都「はい」
マルガレーテが近づいてきて、ことりと千砂都にピンマイクを付けた。
スタジオの隅で、ことりと千砂都の表情を見る絵里とかのん。
絵里「ふふっ…ことり、すっかりお姉さんの顔ね」
かのん「ちぃちゃんも、すごくいい表情してます」
友達の成長を嬉しく思う二人。
マルガレーテ「はい、OK」
ことり「ありがとうございます」
千砂都「ありがとうございます。 んっ?」
千砂都が、撮影カメラのすぐ下に、小さなモニターがあることに気づく。
千砂都「ことりちゃん、あれ見て」
千砂都が指差すと、ことりも顔を寄せて、モニターを覗き込む。
ことり「んっ? 何だろう?これ」
そのモニターには、セットの中央に立つ歌のお姉さんと体操のお姉さんと、ピアノに座るお姉さんの姿が、しっかりと映し出されていた。
梨子「そのカメラの下にあるのは、返しモニターよ。私たちがテレビの前の子供たちにどう見えているのか、立ち位置や振る舞いを確認するためのもの。 いわばステージの鏡だと思っていいわ。でも、こればかり見すぎると視線が落ちるから、あくまで確認用にするのよ」
ことりは、モニターをじっと見つめたまま、次第に胸いっぱいの感情がこみ上げてきた。
ことり「……! ん~~~!♡」キラキラキラ
胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、声にならない喜びが、ことりの全身からあふれ出す。
千砂都「私、こんなふうに見えてるんだ…///」
千砂都も、少し頬を赤らめながら、画面に映る自分を見つめる。
エマ「…」ピッ
エマがリモコンで天井のスポットライトを操作。
ことりと千砂都に、やさしくふんわりとしたライトが照らされる。
ことり、千砂都「…?」
恋「それではこれから、今期初のリハーサルに入ります!」
果南「うん!」
きな子「各班大丈夫っすか~?」
ことり、千砂都「…!」
ことりと千砂都はハッと我に返り、慌てて手元の台本を開く。
善子「ヨハネアイOK」
マルガレーテ「こっちもOKよ」
エマ「照明OK♪」
果南「二人とも、最初の台詞、覚えたかな?」
ことり、千砂都「はいっ!」
リハーサルの始まり。
“お姉さん”としての、はじめての第一歩が、いま踏み出されようとしていた。
果南「ことりちゃん、千砂都ちゃん、今日はリハーサルだけど、テレビの前の子供たちがカメラの向こうにいることを意識して練習してみよう!」
ことり、千砂都「は、はい…!」
ことりはそっと息を吸い、千砂都も姿勢を正した。
果南「いくよ? よ~い、スタート!」
果南の合図と同時に、カメラの上の赤いタリーランプが光る。
本番と同じ空気が、スタジオに広がる。
ことり「あ…っ」
ことりは第一声を言おうとする。
しかし、緊張の波が押し寄せた
(BGM:???)
ことり「……み…」
ドッキン、ドッキン、ドッキン
ことり「(あれ……? さっきまで平気だったのに…! 急に…、心臓が……!)」
ことり「み…、みんな〜…ことりおねえ…さん…だ…よ…………」
小さく手を振ったことりの動きは、どこかぎこちなく、視線は迷って、カメラをまともに見つめることができなかった。
次第に声はか細くなり、完全に空回りしてしまった。
一同「……」
曜や花丸、きな子、エマがそっと顔を見合わせていた。彼方も心配そうに眉を寄せる。
すみれ「初めはみんなそんなもんよね」
すみれが可可にそっと囁く。
可可「デスよ。これから少しずつ慣れてくれればいいのデス」
ところが…。
マルガレーテ「ちょっと!」
音響卓のほうから、マルガレーテが険しい表情で言い放つ。
マルガレーテ「もっとハッキリ言ってくれないと聞こえないわよ! あんた、お姉さんになるんだから、もっと堂々と話しなさい!」
その一言で、スタジオの空気がピリついた。
ことり「す、すみません……!」
ことりは思わず深く頭を下げる。
梨子「もう少し言い方ってものがあるでしょ……」ボソッ
果南「こ…、ことりちゃ~ん、肩に力入りすぎだよ〜」
恋「そ、そうですよ。一度リラックスしてみましょう!」
きな子が駆け寄って、ペットボトルを差し出す。
きな子「お茶飲むっすか?」
ことり「ありがとうございます…」
ことりは小さく頭を下げて、それを受け取った。
千砂都「ことりちゃん、大丈夫?」
ことり「うん……ごめんね……」
ことり「(さっき千砂都ちゃんと一緒に頑張ろうって決めたのに…。早速、皆さんに迷惑かけちゃった……)」
絵里「ことり」
ことり「…?」
顔を上げると、セットの脇から絵里がゆっくりと歩いてくる。
絵里「緊張しなくて大丈夫よ。 今日は練習だし、ねっ」
ことり「絵里ちゃん…」
絵里「(花陽と海未もそうだったけど、ことりも意外と緊張しちゃう子だったわね)」
絵里「さっきのことりのキラキラした表情。あれを子供たちに見せればいいのよ」
ことり「さっきまで大丈夫だったんだけど、急に緊張が走って……」
絵里「それと」
ことり「…?」
絵里「今朝、真姫にも言われたでしょ? 『緊張してるなら、腹式呼吸を思い出して』って」
その一言に、ことりは目を見開いた。
ことり「……うん」
ことりは胸の前で手を重ね、静かに深く、腹式呼吸を始めた。
千砂都「……」
千砂都もその姿に倣い、隣で一緒に腹式呼吸をやる。
ことりのこわばっていた顔が、少しずつやわらかくほぐれていく。
絵里はその様子を見届けて、ふっと微笑む。
絵里「もう、大丈夫ね?」
ことり「うん!」
力強くうなずいた。
その瞳に、不安はなくなった。
絵里「(やっぱり、この子は強いわ)」
ことりはスタッフたちのほうに顔を向ける。
ことり「ごめんなさい。 もう一回、お願いします!」
スタジオの空気が、再び動き出す。
果南「うん! じゃ、いこう!」
善子「…」コクッ
ことり「……」スーーハーー
ことり「(そうだよ。いつまでも緊張してられないよ。 私はこれから、歌のお姉さんの“ことりお姉さん”になるんだから!)」