うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

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2話は次でラスト


第2話「ドキドキ☆初出勤」⑩

◇廊下

 

果南「ごめんね、バタバタしちゃって」

 

ことり「いいえ、衣装についてたくさん話せて、すごく楽しかったです!」

 

千砂都「仕上がりが楽しみですよ!」

 

果南「そう言ってもらえると可可ちゃんも喜ぶよ。……ま、さっきみたいな本気の喧嘩は、もう勘弁してほしいけどね」

 

ことり、千砂都「あはは……」

 

 

廊下の向こうから曜と花丸ときな子が来た。

 

 

曜「あ、2人とも! もしかして衣装の採寸してもらったの?」

 

ことり、千砂都「はい」

 

花丸「ってことは金曜には、2人の衣装姿が見られるずらね?」

 

きな子「どんな衣装になるか楽しみっす!」

 

曜「今週金曜にMV撮影する衣装も作ってくれるからね」

 

ことり「えっ? 金曜日に撮影する曲って確か3曲ですよね?」

 

 

台本に確かそう書いてあった。

 

 

果南「そうだよ」

 

ことり「3曲分作るから6着…。メインとなる2着合わせて…、8着を金曜までに作るってことですか!?」

 

果南「いや、それだけじゃないよ。梨子ちゃんの衣装も、新しいシーズンに合わせて3曲分作り直す予定だから、合計で11着だね」

 

千砂都「えぇっ!? 11着!? いくらなんでも、そんなに短期間で……間に合うんですか!?」

 

曜「いやいや~、可可ちゃんの衣装作りの早さは、この局で一番だからね」

 

きな子「そうっすよ〜。それに可可先輩の衣装は、着心地よくて最高っすから期待してていいっすよ!」

 

ことり「(やっぱり可可さんって、すごい!)」

 

果南「ところで、3人はどこ行くの?」

 

曜「倉庫③にね。今からリハーサルで使う小道具を取りに行くの」

 

果南「じゃ、手伝おっか?」

 

曜「ありがとう! じゃ、お願いしていい?」

 

果南「任せて♪ じゃ、二人は先にスタジオ行ってて」

 

ことり、千砂都「はい!」

 

 

◇撮影スタジオ

 

スタジオの扉を開けた瞬間、ことりと千砂都の耳に、ふと優しい梨子のピアノの音色が聞こえた。

 

 

(梨子のピアノ:想いよひとつになれ Riko’s Piano Sonata)

 

 

ピアノ「~♪」

 

ことり、千砂都「…?」

 

梨子「……♪」

 

ことり「綺麗な音色…!」

 

千砂都「『はじめまして』の時も思ったけど、梨子さんのピアノって、歌の物語の世界を優しく見せてるみたいだね?」

 

ことり「うん。心が洗われるようだね」

 

 

テレビセットは、既に公園のような背景になっていて、手作りの滑り台、ブランコ、街灯、ベンチが置かれていた。

 

スタジオ内では、他のスタッフたちも着々と準備を進めていた。

 

 

マルガレーテ「……」

 

 

音響席ではマルガレーテが、ミキサーを作業しながら、時折メモを走らせている。

 

 

善子「……」

 

 

善子は、カメラの三脚の高さを微調整してる。

 

 

エマ「……」

 

 

エマは柔らかなオレンジ色の照明の角度を真剣な眼差しで見つめていた。

 

そして照明に手を添えたまま、一歩下がって確認し、また一歩前に進む。

 

まるでステージに光を灯す魔法使いのように、真剣で繊細な動きだった。

 

 

全員、すごく真剣な表情だ。

 

そんな空気の中、恋と彼方がことりたちに気づいて、彼方は手を振る。

 

 

彼方「あ、お疲れ様〜、ことりちゃん、千砂都ちゃん」

 

ことり、千砂都「お疲れ様です」

 

恋「ことりさん、千砂都さん。先ほどはすみれさんと可可さんの件でご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした」ペコッ

 

彼方「大変だったみたいだね〜」

 

ことり「いいえ。むしろ可可さんの衣装へのこだわりを聞けて、すごく楽しかったです」

 

千砂都「私も、ああいう真剣さって大事なんだなって改めて思いました」

 

恋「そう言ってもらえてよかったです。  では早速ですが、午後のリハーサルに入っていいでしょうか?」

 

ことり、千砂都「はい」

 

恋「ありがとうございます。  お二人の歌唱力については、面接の時点でスタッフ一同、『問題ない』という結論に至っています。 なので、一般的な童謡についてのレッスンは省いて、このまま立ち稽古に入らせていただきます」

 

ことり「え…? いきなりですか?」

 

千砂都「うわ〜…大丈夫かな…」

 

恋「ふふっ、大丈夫ですよ。 お二人なら午前のように、可愛らしく演じることができますよ」

 

彼方「それに今日はまだ練習だから、軽い気持ちでやっていいよ~」

 

マルガレーテ「準備できたわよ」

 

善子「こっちもOKよ」

 

エマ「一回これで見てみようかな…」

 

梨子「…?」

 

 

梨子はピアノを止めた。

 

 

恋「ではお二人とも、セットのほうに」

 

ことり、千砂都「はい」

 

 

ことりと千砂都は、公園のセットの中央へ立つ。

 

 

梨子「じゃ、まず『犬のおまわりさん』を弾くから、二人はそれに合わせて、歌いながら動いてみて」

 

彼方「今朝渡した台本にあったとおり、ことりちゃんが犬のおまわりさん、千砂都ちゃんが迷子の子猫ちゃん役だよ。覚えてきてくれた?」

 

ことり「はい。もう全部読ませていただいて、何を歌って、どの役をやるかはしっかり把握してます」

 

梨子「犬のおまわりさんは、知ってるわよね?」ニヤッ

 

千砂都「さすがに知ってますよ~。子ども向け童謡の主役ですよ」クスッ

 

梨子「ふふっ、ごめんなさい、冗談よ」

 

 

果南、曜、花丸、きな子がスタジオに戻ってきた。

 

 

曜「お待たせ〜」

 

花丸「持ってきたずら〜」

 

 

きな子はカラスとスズメの棒人形を大事そうに抱えていた。

 

 

きな子「久しぶりにこの子たちも出番っすね」

 

果南「間に合った?」

 

恋「はい」

 

 

梨子は手を鍵盤に置きながら、そっと深呼吸をする。

 

 

梨子「じゃ、始めるわよ」

 

恋「お願いします」

 

果南「ことりちゃんたち、いい?」

 

ことり、千砂都「はい」

 

 

ことりと千砂都は、台本通りの配置についた。

 

千砂都は、迷子の子猫の役になりきって、セット中央でしゃがみ込む。

 

ことりは、犬のおまわりさんとして、千砂都のほうに歩き出そうとする。

 

 

果南「それじゃいくよ!善子ちゃんたちもOK?」

 

 

全員頷く。

 

 

果南「それじゃリハーサル、用意…スタート!」

 

 

タリーランプ点いた。

 

 

ピアノ「~♪」

 

 

『犬のおまわりさん』を弾く梨子。

 

 

千砂都「……」

 

 

千砂都は、顔を伏せて膝を抱え、小さく肩を揺らすように震えていた。

 

 

ことり「……」

 

 

ことりは、片手を額にかざし、周囲を見回すような動きをして、千砂都を見つめ、そっと優しく歌い出した。

 

 

ことり「♪ 迷子の迷子の子猫ちゃん」

 

 

ことりは立ち止まり、千砂都のそばにそっと片膝をついて、目線を合わせるようにしゃがみこむ。

 

 

ことり「♪ あなたのお家はどこですか?」

 

 

ことりの視線は千砂都の瞳に向けられ、まるで「大丈夫?」と話しかけるような優しい眼差しを浮かべる。

 

少しだけ首をかしげながら、困ったようなトーンで続けた。

 

 

ことり「♪ お家を聞いてもわからない 名前を聞いてもわからない」

 

 

ことりはそっと顔をかしげ、眉を下げて千砂都子猫の肩に手を伸ばすしぐさをする。

 

ただそばにいてくれるような、そんな優しさがそこにはあった。

 

千砂都は顔を少し上げて、涙をこらえるように口を開く。

 

 

千砂都「♪ にゃんにゃんにゃんにゃ~ん にゃんにゃんにゃんにゃ~ん」

 

 

小さな声で鳴くその仕草に、ことりは心から心配そうな顔を浮かべて、再び歌う。

 

 

ことり「♪ 泣いてばかりいる子猫ちゃん」

 

 

ことりは千砂都の前に片膝をついたまま、小さく首を横に振る。

 

自分でもどうしてあげたらいいかわからない。

 

そんな無力さをにじませながら、最後のフレーズへと進んだ。

 

 

ことり「♪ 犬のおまわりさん 困ってしまって ワンワンワンワ~ン ワンワンワンワ~ン」

 

 

犬のように両手を小さく胸の前で軽く振り、困ったように視線を彷徨わせるしぐさを見せる。

 

 

恋、果南、彼方「…」クスッ

 

 

その困り顔は、どこかコミカルでありながらも、愛らしくてほっこりする。

 

 

ピアノ「~♪」

 

 

短い間奏に入ると、曜と花丸がセットの物陰に静かに駆け寄ってきた。

 

曜の手にはカラスの棒人形。花丸の手には、スズメの棒人形。

 

ことりはふと気づいて振り返る。

 

 

ことり「えっ?」

 

 

曜がカラスを高く掲げて、にっこりと笑う。

 

 

曜「カラスのシーン、こっちに話しかけるようにして」

 

 

花丸も優しい声で続けた。

 

 

花丸「スズメはこっちずら」

 

 

ことりは頷き、立ち上がる。

 

深呼吸するように目を閉じた後、そっと笑顔を浮かべて、次の歌詞を歌い始めた。

 

 

ことり「♪ 迷子の迷子の子猫ちゃん」

 

 

ことりはセットの左手、カラスのいる方へ向かって歩み寄る。

 

 

ことり「♪ この子のお家はどこですか?」

 

 

カラスに向かって、軽く身をかがめるようにして問いかけるしぐさを見せた。

 

 

ことり「♪ カラスに聞いてもわからない」

 

 

曜は、カラスの羽をばさばさと左右に振って、まるで「知らないよ」とでも言っているようだ。

 

ことりは、すぐに反対側の花丸の方へ行き、すずめをじっと見つめた。

 

 

ことり「♪ スズメに聞いてもわからない」

 

 

花丸もまた、スズメの羽をぴょこぴょこと左右に揺らし、「知らないずら」と表現する。

 

ことりは肩を落とし、困ったような視線を千砂都へ向ける。

 

千砂都は再び、小さく身体を丸めながら泣き声を重ねた。

 

 

千砂都「♪ にゃんにゃんにゃんにゃ~ん にゃんにゃんにゃんにゃ~ん」

 

 

ことりはもう一度、千砂都子猫のそばに寄って、そっと両手を膝に添え、にっこりと微笑む。

 

 

こと「♪ 泣いてばかりいる子猫ちゃん」

 

 

その微笑みは、どんなに泣いている子でも、安心できるようなやさしさを宿していた。

 

 

ことり「♪ 犬のおまわりさん 困ってしまって ワンワンワンワ~ン ワンワンワンワ~ン」

 

 

今度はことりの困り顔に、千砂都もくすっと笑みを浮かべる。

 

二人の息はぴったりで、互いに演技を楽しんでいるようだった。

 

 

ピアノ「~♪」

 

 

梨子のピアノの終奏が、静かに空気へと溶けていった。

 

 

ことり、千砂都「……」

 

 

しばらくの静寂。

 

 

果南「………、恋、どう?」

 

 

その一言に、周囲のスタッフも視線を恋に向ける。

 

 

恋「……」

 

 

恋は黙っていたが、やがてふっと笑みを浮かべ、胸の前で両手を丸く大きく掲げた。

 

 

(BGM:夢見る文学少女)

 

 

『〇』

 

 

ことり、千砂都「…っ!」パァァ

 

果南「うん。  OK!」

 

ことり「ホントですかっ!?」

 

千砂都「やった~!」

 

曜「よかったよ、2人とも!」

 

 

カラスの棒人形を持っていた曜が満面の笑みで声をかけた。

 

 

花丸「いい感じだったずら~」

 

 

花丸も、スズメの羽でやわらかな拍手を送る。

 

 

彼方「彼方ちゃんの構成案、忠実に再現してくれて嬉しいよ〜」

 

果南「初めての歌のリハーサルでこんなにできるなんて、もうこれ本番でも使えるくらいだったよ! ねっ、恋!」

 

恋「えぇ。 お二人ともしっかり役になりきっていました。安心して本番を任せられます」

 

エマ「すっごく可愛かったよ~!」

 

きな子「癒されたっす!」

 

善子「衣装着てたら完璧だったわね…。本番じゃなかったのが悔やまれるわ」

 

ことり「ん~~っ♡」キラキラ

 

千砂都「えへへ」

 

梨子「いい歌声だったわよ、ことりちゃん、千砂都ちゃん。  ピアノ弾きながら聞き惚れちゃった」

 

ことり「梨子さんの優しいピアノのおかげですよ。 ねっ、千砂都ちゃん」

 

千砂都「うん!」

 

梨子「私の?」

 

ことり「はい。 なんか、あのピアノの音色を聞いてたら、すごく優しい気持ちになれて、自然と声が出てきたんです」

 

梨子「ふふっ、ありがとう」

 

マルガレーテ「面接の録画で見た時より、ずっと良かったわ」

 

ことり「面接の録画…?」

 

千砂都「録画って、どういうことですか?」

 

恋「先ほど申し上げた通り、お二人の歌唱力は面接の時点で、十分なものだとスタッフ全員が判断しました。  では、なぜ面接にいなかったスタッフ含め、私たち“全員”の判断になったと思いますか?」

 

ことり「確かに…。梨子さんとマルガレーテさんはいなかったですね…」

 

千砂都「あの時いたのは、恋さん、果南さん、彼方さん、すみれさん、きな子さんだけ…」

 

彼方「ふっふっふ~…。 実はね、あの時、隠しカメラで2人の歌とダンスを録画して、面接のあと、みんなで観たんだよ。選考会議でね」

 

ことり、千砂都「えぇっ!?///」

 

ことり「録画されてたなんて…」

 

千砂都「全然気付かなかった…」

 

果南「だってさ冷静に考えてみてよ。 面接に来た子たちの歌とダンス、さすがに全部は覚えきれないよ? もちろん録画した一番の目的は、面接にいなかったみんなと確認するためだけどさ」

 

ことり、千砂都「ですね……」

 

きな子「それで選考するとき、スタッフみんなで集まって観たんすよ。 歌のところは特に、マルガレーテちゃんと梨子先輩が真剣な顔で聞いてたっす!」

 

 

梨子はにっこり微笑み、マルガレーテはやや顔を背けたままだが、口元にうっすらと笑みを浮かべていた。

 

 

マルガレーテ「まっ、あんたたちには期待してるわよ」

 

梨子「ふふっ、今日の歌声を聞いて、ますます楽しみになってきたわ」

 

ことり、千砂都「ありがとうございます!」

 

 

スタジオ全体が穏やかな笑いと安堵に包まれる中、ふと、千砂都が何かを思い出したように、ことりの方へ向き直った。

 

 

千砂都「そういえば、ことりちゃんは面接で、何の歌を歌ったの?」

 

ことり「私は『グーチョキパーでなにつくろう』だよ。すごく緊張しちゃったけど」

 

千砂都「へぇ〜、そうなんだ?」

 

ことり「千砂都ちゃんは?」

 

千砂都「私も歌はもちろんあったけど、その歌を歌いながら、ダンスもしなきゃいけなかったの」

 

ことり「ダンス?」

 

千砂都「歌は既存の子供向けの曲でよかったんだけど、オリジナルの振り付けを自分で考えて踊らなきゃいけないってやつでさ」

 

ことり「えっ? オリジナルダンスを考えたの!?」

 

千砂都「うん!」

 

恋「千砂都さんのダンス、とてもよくて、覚えやすかったですよ」

 

彼方「彼方ちゃん、あのときバッチリ目が覚めたよ〜。テンポ感が心地よかった~」

 

ことり「ちなみに何を踊ったの?」

 

 

千砂都は、ちょっぴり誇らしげに胸を張る。

 

 

千砂都「アンパンマンのマーチ!」

 

 

(挿入歌:アンパンマンのマーチ)

 

 

ことり「アンパンマン?」

 

千砂都「そう! 私、アンパンマン好きなんだよね〜! あとアニメは、ドラえもんとかも好きなんだ!」

 

ことり「ふふっ。 ちなみに、どんなところが好きなの?」

 

ことり「(なんとなく聞かなくてもわかるけど…)」

 

千砂都「ふふん♪  それはもちろん…!」

 

 

ちょっと間を置いた後、くるりと一回転して満面の笑顔で答えた。

 

 

千砂都「丸だから♡」

 

ことり「クスッ…。  だよね〜!」




犬のおまわり「迷子の迷子の子猫ちゃん、あなたのお家はどこですか~?」

子猫「あっち」

犬のおまわり「あっちっていうのはどっちかな?」

子猫「そっち」

犬のおまわり「あっちとかそっちとか言われても、おじさんわからないよ~」

子猫「あたし、あっちとかそっちとしか言えないにゃ、まだ子供だからにゃ~」
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