◇衣装室
可可「これが可可の~、渾身の衣装デス~!」
部屋の中央へと視線を向けると、そこには2体のトルソーが並んで立っていた。
(BGM:凛の戸惑い)
一つは、ことりの衣装。
白いブラウスに、ピンク色のワンピース。スカートの裾には細かなフリル。胸元には濃いピンクの大きなリボン。彼女の優しさと可愛らしさをそのまま示しているようだ。
もう一つは、千砂都の衣装。
白いブラウスに、爽やかなミント色のサロペット。動きやすさを重視した短めのパンツの裾には細かなフリル。胸元には鮮やかな濃いミントの大きなリボン。彼女の元気さと可愛らしさの絶妙なバランスがそこにあった。
ことり「わぁ~…! 可愛い~!」
千砂都「すごい…! さすがプロ!」
可可「でもやっぱり…まだまだことり様には敵わないデス…」
ことり「だ…、だから『様』はやめてください!/// それに可可さんの衣装、ホントにすごいですよ!」
可可「えへへっ、褒められたデス♪」
そのタイミングで、衣装室のドアが開き、すみれ、侑、せつ菜の3人が衣装室にやってきた。
すみれ「2人とも、早速着てみなさい」
可可「そうデス!」
可可は手際よく、まずは千砂都の衣装をトルソーから脱がせて、千砂都に渡した。
可可「千砂都は、体操のお姉さんというのもあり、ショートパンツスタイルのサロペットにしました! 爽やかなミント色で可愛らしい印象に仕上げたデス!」
千砂都は衣装を受け取りながら、袖のフリルにそっと指を添えた。
千砂都「ありがとうございます。 うわぁ、触り心地いい…!」
ことり「(千砂都ちゃんの衣装、すごく可愛い! ボーイッシュになりがちなパンツスタイルを、フリルと色使いでこんなにキュートにするなんて…!)」
μ's時代、数々の衣装を手がけたことりだからこそ、そのデザインと素材の工夫に、心から感動していた。
続けて可可は、ことりの衣装をトルソーから脱がせて、ことりに渡す。
可可「ことりは、千砂都とお揃いのフリルを使ったピンクのワンピースデス! この間のことりのアドバイスをもとに、衣装の裏地には汗を吸収するコットン混素材、表地はふわふわで手触りの良いチュールを使用しました! もちろん、千砂都のにもお揃いの素材を使ってマス!」
ことり「すごく細かく作られてる…! ありがとうございます!」
ことりは衣装を抱きしめた。
可可「こっちに試着室あるデス! ちゃんとサイズが合ってるかも確認したいので、今すぐ着てみてください! もし合ってなかったら、すぐに直すデス」
可可はキラキラと目を輝かせながら、試着室を指差す。
ことり「それじゃ行こうか」
千砂都「うん、着替えよう」
衣装を抱えて試着室のカーテンをくぐった。
ことり「うわぁ……ほんとに着やすい!」
千砂都「このフリルが、ふわっふわだ…!」
キャッキャッと楽しげな声が、カーテン越しに微かに漏れ聞こえる。
しばらくして、試着室のカーテンが、柔らかな音を立てて開かれた。
可可、すみれ、侑、せつ菜「…?」
ことりと千砂都が出て来る。
ことり「お待たせしました〜」
千砂都「お待たせです」
(BGM:やってみよう!)
可可「…っ!」
侑、せつ菜「おぉ~…」
すみれ「いいわね!想像以上に似合ってるわよ! ねぇ、可可」
可可「わあああああ〜〜っ!!!」キラキラ
可可はスマホを手に取り、二人の周りをくるくると回りながらシャッターを切りまくる。
ことり、千砂都「っ!?」
可可「可愛い! 可愛いデス! まるでことりは夢の中のプリンセス! 千砂都はもはやアイドルの妖精デス! たまんねぇ~~!!」 パシャパシャパシャパシャ
すみれ「落ち着きなさいったら落ち着きなさい!」
可可の頭にチョップ。
可可「あぅ…」
千砂都は指を合わせて、もじもじと呟く。
千砂都「衣装はすごく可愛いんですけど…、こういうフリフリした服、あんまり着ることないから…。本当に私に似合ってますかね…?」
可可「大丈夫デス! 可可を信じてください! 千砂都と初めて会った時、ピンッと来たんデス! この子にはこれが一番似合うって!」
千砂都「クスッ…。 ありがとうございます、可可さん」
ことり「千砂都ちゃん、本当に可愛いよ! すごく似合ってる!」
千砂都「ありがとうことりちゃん。 ことりちゃんのワンピースもすっごく可愛いよ! ピンクと白って、こんなに可憐なんだな~」
ことり「ふふっ、ありがとう。 可可さんも素敵な衣装、本当にありがとうございます♪」
可可「ことりも可可の睨んだ通り、バッチリ似合ってマス! 文句なしデス!」
すぐさま、ことりと千砂都のまわりにしゃがみこんで、裾や袖口、腰回りまで細かく確認し始める。
可可「ふむふむ、丈もウエストもピッタリデスね? ブラウスも突っ張ってないデスね?」
侑「2人とも、すっごく可愛いよ〜! ねっ、せつ菜ちゃん!」
せつ菜「はいっ! まるでアニメから飛び出してきたヒロインです!」
すみれ「さすが、衣装に関して“だけ”は、信頼できるわね」
可可「“だけ”とは何デスか! “だけ”とはっ! 可可は全てにおいて完璧デス!」
すみれ「どの口が言ってるのかしら? この間まで『間に合いません〜!』って泣きべそかいてたくせに」
可可「むむむ……」
すみれ「クスッ…。 でも本当によくできたわよ、可可」
可可「…っ! 謝謝……///」
ことり「クスッ」
可可「デハ! ことり、千砂都、こっちの子たちも着てくれませんか?」
そう言って、可可が勢いよくクローゼットの扉を開ける。
そこには、言葉を失うほどの「夢」が詰まっていた。
『犬のおまわりさん』のための凛々しくも可愛らしい警察官の制服。迷子の子猫をイメージした、触り心地の良さそうなふんわりとした衣装と、ピンと立った猫耳カチューシャ。
『やぎさんゆうびん』で使う、白山羊と黒山羊のモノトーンながら温かみのある衣装。
そして、『アイアイ』のための、遊び心たっぷりのサルの着ぐるみ風衣装。
どれも童謡の世界観をそのまま再現したような、可可の夢と遊び心に詰まった衣装だった。
千砂都「えっ!? どれも可愛い!」
千砂都が目を輝かせながら、クローゼットの中へ駆け寄る。
ことり「すごい……! 本当にこんだけの量をたった数日で全部作っちゃったんですか!?」
可可「好きデスので♪」
(BGM:過ぎ去りし日々)
ことり「(やっぱり可可さんのほうがすごいよ…。 専門学校を首席で卒業した理由がなんとなくわかる気がする…)」
数週間前までことりは、服飾デザインの道を志し、専門学校に進学しようとしていた。
だけど彼女は、数週間前、自分の進路を大きく切り変えて、今はこうして“歌のお姉さん”として、新しい夢を歩み始めている。
だけど目の前には、自分がかつて夢見ていた「クリエイター」としての頂点を体現している人がいる。そこには、もう一つの「なりたい自分」の完成形があった。
すみれ「こらこら、暴走するんじゃないわよ!」
ことり「…!」
すみれの声で現実に引き戻されたように、ことりはハッとして振り返る。
すみれ「それがぴったりだったんだから、他のサイズも大丈夫でしょ。 今から二人はレコーディングもしないといけないんだから、そんなに何着も今着てる暇はないわよ」
可可「そうでした…! 仕方ありません。この子たちは午後の収録のときまで我慢しマス…」
ことり、千砂都「クスッ」
侑「でも短期間でこれだけのバリエーションを作れるなんて、本当にすごいですよ」
せつ菜「一着一着から、可可さんの衣装に対する熱意が伝わってきます!」
すみれ「よくもまあ、こんなアイデア、ポンポン、ポンポン思いつくわよね? あんたの頭の中どうなってるのかしら?」
可可「ふふん♪ それも可可の才能デス!」ドヤッ
すみれ「自分で言うか…」
可可「ところで、さっきから気になってましたが、何でここに『ゆうゆう』と『せっつー』がいるのデスか?」
すみれ「いや、今更…。 この二人、今日からことりと千砂都のマネージャーになったのよ」
侑、せつ菜「はい!」
可可「おおっ、そうなんデスか!? なら話が早いデス! またこのスタジオで一緒に頑張りましょう!」
すみれ「というか、朝からスタッフ間のチャットで来てたわよ」
可可「ほぇ?」
すみれ「ちゃんと小まめに確認しなさいっていつも言ってるでしょ!」
千砂都「あれ? お二人とも、侑さん、せつ菜さんと知り合いなんですか?」
すみれ「あぁ~…そうよね、まずはそこから説明しないといけないのね? 恋さんったら、いくらあれだからって、この子たちの経歴くらいはちゃんと教えなさいよ……」
ことり、千砂都「あれ?」
すみれ「何でもないわ。 実はね、この子たちは、しずくのマネージャーの後輩なのよ」
ことり、千砂都「…しずくさん?」
すみれ「そこからなのよね………! しずくは、あんたたちより“一つ前の歌のお姉さん”よ。 ようするに、この番組の初代・歌のお姉さんね」
可可「聞いたことありませんか? 桜坂しずく。 今ドラマやCMに引っ張りだこの超売れっ子女優デス!」
得意げに語る可可は、壁に貼られたうたメロの番組のポスターを指差した。
ことり、千砂都「…?」
ことりが秋葉原駅の掲示板で見かけ、この世界に飛び込むきっかけとなった、あの『うたって☆メロディランド♪』のポスター。
ことりと千砂都は、そこに写ってる人物をよく見てみる。
梨子の隣で、水色のジャンバースカートを着て、太陽のような笑顔を浮かべているお姉さん。
(BGM:気まずい空気)
ことり「あぁっ!本当だ! この人、テレビで見たことある!」
千砂都「そっか! どこかで見たことあると思ったら、桜坂しずくさんだったんだ!?」
可可「えっ!?今気づいたんデスか!? 遅すぎるデス!」
すみれ「あんたたち、あのポスターを見て、応募したんじゃないの!?」
ことり「あの時は、募集内容のことばかりに目がいっちゃって…。お姉さん二人が子どもたちに囲まれて楽しそうにしている雰囲気は覚えてるんですけど、お姉さんの顔まではちゃんと見てませんでした…」
千砂都「私も……。背景の楽しそうな感じにばかり気を取られてて…」
可可とすみれは、顔を見合わせてガクッと肩を落とし、侑とせつ菜は苦笑。
すみれ「まっ、いいわ。 で、この子たちは先月までここにいたしずくと一緒に現場に来てたのよ。 しずくには歩夢っていうマネージャーがついていたんだけど、侑とせつ菜はその歩夢の後輩。この間まで、まだマネージャー見習いとして歩夢の付き人をしていたのよ」
可可「そういうことデス! 可可たちがうたメロの衣装を作っている横で、一生懸命走り回っていたのが、この二人だったのデス!」
侑「えへへ……。あの頃はまだ右も左もわからなくて、ついていくので精一杯だったんだけど…」
せつ菜「歩夢さんの背中を見て、いつか自分たちも独り立ちしたいと願っていました! そして今日、正式にマネージャーとして、お二人の担当を任せていただけることになったんです!」
千砂都「そうなんだ! じゃ、今日が二人のマネージャーとしての初仕事でもあるんですね。なんだかすごい縁だなぁ」
ことり「ふふっ、私たちと同じ初めてで、なんだか、もっと親近感が湧いてきちゃった♪」
すみれ「そういうこと。 だから可可も私も、この子たちを知ってるってわけ。マネージャーとしては新人だけど、このフロアの勝手はわかってるから、これほど心強い味方はいないわよ?」
可可「レンレンも、あえて現場をよく知る二人を抜擢したんだと思いマス! さすがは我らがプロデューサーデス!」
千砂都がふと思い出したように、話を変える。
千砂都「あっ…確か、桜坂しずくさんって、来月公開の映画『あなたと桜と私』にも主演するんですよね?」
ことり「あっ! その原作小説、私知ってる! 実写化するんだ?」
可可「可可は観に行く予定デス! 記念すべきしずくの初主演映画デスから!」
すみれ「もちろん私も観に行くわよ」
ことり「あっ、それじゃ、みんなで一緒に行きませんか? 一人で行くより、きっと楽しいですよ!」
千砂都「私も見てみたいって思ってた! 侑さん、せつ菜さんも行けますか?」
侑「もちろん! 私もしずくちゃんの頑張り、大きなスクリーンで観たい!」
せつ菜「ぜひご一緒させてください!」
可可「決定デス! みんなで行くデス!」
すみれ「そうね、せっかくだし」
コンコンコンッ
ことり、千砂都、すみれ、可可、侑、せつ菜「…?」
きな子が扉を開けて入ってきた。
きな子「ことりちゃん、千砂都ちゃん、そろそろ『メロディランドたいそう』のレコーディングを始めるっすよ!」
ことり「はい、すぐ行きます」
千砂都「了解です!」
きな子「…っ! わぁっ…二人ともすごく似合ってるっす~!」
ことり、千砂都「ふふっ、ありがとうございます」
可可「うぅ…もう時間デスか~…。もう少しだけ、ことりと千砂都の衣装姿、眺めていたかったデス…」
ことり「クスッ…また午後に着ますから、大丈夫ですよ、可可さん」
可可「そうデスね……。お楽しみは、午後にとっておくことにするデス!」
* * *
ことりと千砂都は、本番用の大切な衣装を汚さないよう一度脱ぎ、元の練習着に着替える。
ことり、千砂都「行ってきます」
すみれ「行ってらっしゃい」
可可「頑張ってくださ~い!」
侑とせつ菜も、二人の後を追うように衣装室を出る。
◇廊下
ことり、千砂都、侑、せつ菜は、きな子の先導でレコーディング室へ向かって廊下を歩く。
ことり「桜坂しずくさん…ここの歌のお姉さんだったんだね。全然知らなかったよ」
千砂都「だね。私もびっくりしたよ。テレビで見てる女優さんが先輩だったなんて」
せつ菜「まさかお二人が知らなかったとは思いませんでしたよ」
侑「でも募集要項を必死に見てたなら、お姉さんの顔まで見る余裕はなかったのも無理はないかもね」
ことり「…しずくさん、一体どんなふうに子どもたちを楽しませてたのかな?」
千砂都「確かに。過去の放送の映像とかは残してるだろうし、少し見せてもらえたりできないかな?」
ことり「お手本にしたいよね。あとで恋さんにお願いしてみようか」
千砂都「そうだね」
前を歩いていたきな子が、不思議そうに首を傾げて振り返った。
きな子「んっ? どうしたんすか? 何か気になることでもあったっすか?」
ことり「あ…、私たちの前の歌のおねえさんのことを、すみれさんと可可さんからさっき聞いて――」
きな子「おぉ~! しずくちゃんのこと、聞いたんすか!?」
千砂都「はい。今女優として活動しているんですよね?」
きな子「そうなんすよ! そうなんすよ! 今でも子供たちからの人気は止まらず、おもちゃのCMとかにもよく出てるっすよ!」
千砂都「やっぱりそうなんだ…! すごいですね!」
ことり「それでもしよかったら、歌のお姉さんの先輩として、振る舞いとかそういうのを参考にしたいので、過去の映像とかを見せてもらえたりできないかなって思って。……ダメでしょうか?」
千砂都「ぜひ見たいです! それって恋さんにお願いすればいいですかね?」
(BGM:想いのかけら)
きな子「…っ! あぁ~……、それは多分、無理っす…。ダメっす」
ことり、千砂都「えっ?」
侑、せつ菜「……」
きな子「いや…、絶対に見せてくれないっすよ」
ことり「えぇっ!?」
千砂都「どうしてですか!?」
きな子「……」