(BGM:陽だまりのリハーサルスタジオ)
◇衣装室
扉を開けると、そこには既に着替えを終えた梨子が、すみれにメイクされていた。
ことり「…っ!? わぁ~! 梨子さん、かっこいい~!」
千砂都「それが梨子さんの衣装ですか? すごく素敵!」
梨子の衣装は、ことりと千砂都とお揃いの白いブラウスに、ピンクのジレベストとショートパンツ、胸元にはト音記号が一つ描かれた薄ピンクのネクタイが結ばれていた。
梨子「ありがとう。番組が始まってからの私の衣装で、可可ちゃんの力作よ。 私もすごく気に入ってるの♡」
可可「ふふん♪ ことり! 千砂都! 待ってました♪」
すみれ「着替えたら、すぐにメイクするわよ!」
ことり、千砂都「はい!」
ことりと千砂都は、更衣室のブースに入ると、午前中のフィッティングでも袖を通した「自分たちの衣装」が、今は本番の光を浴びるのを待っているかのように、ピシッと整えられてかかっていた。
シャーッという小気味よい音とともに、カーテンが開かれる。
少しだけ照れたような表情で顔を出す二人。
梨子「ふふっ、二人もすごく可愛いわよ!」
きな子「天使っす!」
侑、せつ菜「ふふっ」
可可「やはり可可の見立てに狂いはなかったデス!」
ことり「えへへ……ありがとうございます♪」
千砂都「ワクワクしてきた!」
すみれ「さっ、こっちに座りなさい」
二人は並んでメイクチェアに腰を下ろした。
ことり「本格的なメイクって、初めてだよ~…」
千砂都「どんなふうになるのかなぁ…」
すみれ「心配しなくていいわよ。私を誰だと思ってるの?」
可可「グソクムシ」ボソッ
すみれ「…」ゴツンッ!
可可「アイテッ! 何するデスか!」
すみれ「ふんっ」
千砂都「……グソクムシ?」
ことり「何ですみれさんが、グソクムシ…?」
きな子、梨子、侑、せつ菜は、口元を押さえてクスクスと意味深な笑みを浮かべている。
すみれ「なななな、なんでもないわよっ! とにかく! この私に任せておけば、自然で最高にキュートなメイクに仕上げてみせるから、安心しなさいったら安心しなさい!」
千砂都「よかった〜、派手派手なメイクされたらどうしようかと思ってた〜」
すみれ「教育番組でそんなメイクするわけないでしょ…」
ことり「あはは…それじゃお願いします♪」
すみれ「ええ、いくわよ!」
メイクが始まると、すみれは手際よくパフやブラシを扱い、その横で可可が、梨子の衣装のネクタイに曲がりがないか最終調整に取りかかる。
その合間、ことりはしずくについて、もう一度すみれたちに聞こうかと一瞬迷ったが、やめた。
今はそれよりも、まずは自分たちが「楽しい」と思える空間を作ること。
お弁当を食べながら二人で決めたのだから。
数分後、すみれが最後にリップを塗り終えた。
すみれ「うん…こんなもんかしら♪ 二人とも、もともと肌が綺麗で素材がいいから、過剰な装飾は必要ないわ」
すみれはメイク道具を手際よく片づけ始める。
ことりと千砂都はそっと鏡を覗き込み、小さく息をのんだ。
ことり「なんだか、ちょっぴり大人っぽくなった気がする…♪」
千砂都「お姉さんって感じになれたかな?」
きな子「じゃ、まずはオープニングシーンからいくっすよ〜!」
梨子「練習通りやれば大丈夫よ」
すみれ「まっ、夜まで何本か歌のPVを撮り溜めるハードスケジュールだから、バテない程度に頑張りなさい」
ことり、千砂都「はいっ!」
可可「もちろん、ちゃんと休憩はあるのでご心配なく!」
すみれ「当たり前でしょ!」
可可「さてさて! いよいよ、この子たちもお披露目される時が来たのデス!」
可可、クローゼットオープン。
そこには朝見た衣装たちが並んでいた。
可可「ゆうゆう、せっつー、運ぶの手伝ってください!」
侑、せつ菜「はい!」
すみれ「これだけの数、曲ごとに着替えるのは相当大変だと思うけどね」
ことり「そういえば、こんなにたくさんあるんでしたね…!」
千砂都「まぁ、早着替えは得意なので、私はなんとかなりそうです!」
ことり、梨子、侑、せつ菜、きな子、可可、すみれ「え……?」
千砂都「中学の頃はチアガールやってたから、短い時間の合間に着替えるのは慣れっこなんだよね♪」
ことり「そうなんだ~」
きな子「それじゃ、スタジオへ出発っす!」
* * *
スタジオへと続く廊下を、ことりたちは一緒に歩いていた。
侑とせつ菜は、色とりどりの衣装が隙間なく掛けられたハンガーラックを二人がかりで慎重に押していく。
その横で可可は、自分のデザインした衣装がもうすぐカメラの前で輝くのが待ちきれない様子で、小刻みにステップを踏みながら「メロディランドたいそう」のメロディを鼻歌で口ずさんでいた。
可可「~♪」
すみれ「ご機嫌ね…」
ことり「ホントに、いろんな衣装があるんだね」
千砂都「ね〜! 私もびっくりしちゃった!」
梨子「さすがにアイアイの猿の衣装は、笑っちゃったけど」
スタジオの入口である大きい扉の向こうには、子供たちに夢を届ける舞台が広がっている。
はの様には感謝しかない!