きな子「ことりちゃん、千砂都ちゃん、梨子先輩入るっす〜!」
ことり、千砂都「お願いします!」
(BGM:楽しい部活)
スタジオ内には、編集作業中のメイと四季を除く番組スタッフが勢揃いしていた。
果南「来た来た!待ってたよ!」
彼方「いよいよだね~」
千砂都「はい!やる気は満点です!」
ことり「一生懸命頑張ります!」
果南「ふふっ、期待してるよ! その意気込み、全部ぶつけちゃって」
恋がスタジオ中央へと歩み出る。
恋「では、今期初の本番を始めます。各自、配置についてください」
梨子は慣れた様子で、ピアノのスタンバイをする。
ことりと千砂都のもとに、恋が近づいてくる。
恋「ことりさん、千砂都さん。テレビの前の子供たちに楽しさが伝わるようにするには、まずお二人が楽しみながら撮影することが一番です。 技術よりもまずは、その心を届けてください」
ことり「(……やっぱりそうでいいんだ!)……はい!」
千砂都「頑張りますっ!」
果南「じゃ、最初のカットここからいこう!」
果南がセットの前に立ち、撮影の位置を指示する。
きな子「はいっす! 善子ちゃん、カメラここっす~!」
善子「ヨハネ! はいはい!」
きな子が呼びかけ、善子がカメラを運んできた。
エマは照明のスイッチを入れ、光の角度を細かく調整していた。
曜「花丸ちゃん、そっちいい?」
花丸「曜先輩、掃除終わったずら~」
マルガレーテがことりと千砂都の胸元にピンマイクをつける。
マルガレーテ「はい、いいわよ」
ことり、千砂都「ありがとうございます」
マルガレーテは、梨子にも付けに行く。
絵里とかのんが二人のもとに寄った。
絵里「いよいよね、二人とも」
かのん「ことりちゃん、ちぃちゃん、頑張って!」
千砂都「いよいよ本番って思うと、ドキドキだよ~」
かのん「ははっ、わかる」
絵里「恋さんの言う通り、楽しいを伝えなさい」
ことり「うん!」
千砂都「よしっ!」
ことりと千砂都は、テレビセットの中心に向かって歩みを進めた。
可可「ゆうゆう、せっつー、衣装はあっちに置いてください」
侑、せつ菜「はい!」
すみれ「丁寧にね」
スタジオに隣接してる副調整室へ入る恋、果南、彼方、栞子、マルガレーテ、璃奈を見たことり。
ことり「あそこって…?」
梨子「あそこは副調整室。いわゆるサブコンよ。 果南さんたちが、あの部屋にあるモニターを見ながら、映像や音のチェックをするところ。……いわば、私たちのステージを見守ってくれる『管制塔』ね」
果南がマイクを通し、スタジオ全体に響く声で合図を出す。
果南『……よし、全員スタンバイOKだね? 準備はいい?』
善子「フッフッフッ…ヨハネアイOK」
エマ「大丈夫だよ~」
恋『本番いきましょう』
きな子「本番いくっす~!」
果南『オープニング明けから本番いくよ!』
一同「はい!」
ことり、腹式呼吸。
ことり「…!」
絵里「ふふっ(楽しんでね、ことり)」
果南『きな子ちゃん、カウントよろしく!』
きな子「はいっす!」
ことり「(くる……!)」
千砂都「(いくよ、ことりちゃん!)」
ことり、千砂都「…」ニコッ
きな子「本番5秒前。 4、3、・、・、!」キュー
赤いタリーランプが点灯し、カメラのレンズが、三人をまっすぐに捉える。
ことり、千砂都、梨子がカメラに手を振る。
ことり、千砂都、梨子「みんな~! こんにちは~!」
(BGM:お遊戯の時間ですわ!)
梨子「梨子お姉さんです! 今日はね、みんなに嬉しいお知らせがあるの! 今日から『うたって☆メロディランド♪』に、新しいお友達が二人もやって来ました~! パチパチパチ~♪」
ことり「(本当は私と千砂都ちゃんが最初に名前を言う予定だったけど、あれから台本が変わって、子どもたちに馴染みのある梨子さんから、私たちを紹介する形にしたほうが、子供たちも安心して受け入れられるんじゃないかなってことで、こうなりました。 よし!)」
ことり「みんな、初めまして! 歌のお姉さんのことりお姉さんだよ~!」
千砂都「体操のお姉さんの千砂都お姉さんだよ~!」
ことり「みんなとお友達になれるの、お姉さんはとても楽しみにしてたよ!」
千砂都「千砂都お姉さんもだよ! じゃまずは、みんなに自己紹介をやらないとね!」
梨子「それじゃ、まずはこの曲からスタート♡」
ピアノ「~♪」
梨子「♪ はじめまして ことりちゃん 拍手でこんにちは」
ことり「こんにちは~! ことりお姉さんは、歌うことが大好きです! 好きな食べ物はチーズケーキだよ。みんな、ことりお姉さんと一緒に、たくさん歌おうね♡」
ことりは、首をかしげて可愛らしくポーズ。
梨子「♪ すくすく るんるん ともだちじゃん ともだちじゃんじゃんできちゃった」
ピアノ「~♪」
間奏の間、梨子が千砂都へ優しく視線を送る。
千砂都「……っ!(きた!)」
梨子「♪ はじめまして 千砂都ちゃん 拍手でこんにちは」
千砂都「こんにちは~! 千砂都お姉さんは、ダンスと外で遊ぶのが大好き! 好きな食べ物はま~るいたこ焼きだよ! みんなと一緒に、元気いっぱい体を動かしたいな♡」
千砂都は、元気よく「たこ焼きポーズ」を披露。
梨子「♪ のびのび がやがや ともだちじゃん ともだちじゃんじゃんできちゃった」
ことり、千砂都、梨子「♪ じゃんじゃん!」
曲が終わる。
梨子「これからよろしくね。ことりお姉さん、千砂都お姉さん」
ことり、千砂都「梨子お姉さん、こちらこそ、よろしくね」
ことりと、千砂都、カメラを向く。
ことり「これからみんなと一緒に遊べるのがすっごく楽しみだよ!」
千砂都「そうだね! それじゃ早速今日は歌のコーナーから始めちゃおうか!」
ことり「うん! まずはこのお歌から——」
ことり、千砂都、梨子「どうぞ!」
三人は息を合わせるように、両手を元気よく広げた。
まっすぐにカメラへ向けて、明るく響く声を届ける。
…………。
(BGM:海の音を探して)
果南『カット~!』
副調整室からスピーカー越しに届いた果南の弾んだ声が、張り詰めていたスタジオの空気を一気に解きほぐした。
善子がカメラから目を離し、エマが照明の光量を少し落とす。
梨子はことりと千砂都に頷くと、二人は安堵の表情。
◇副調整室
果南「恋、どう? 今のも文句なしの一発OKでいいよね? レコーディングに続いて一発OKなんて、あの子たち本番に強すぎるよ。 特にあの最後の『どうぞ!』のタイミング、あそこまで揃うなんて…。 正直、私の予想を遥かに超えてるよ!」
果南は、隣に座る恋を見るが、恋はモニターに映ることりと千砂都の笑顔をジッと見つめていた。
恋「…………」
果南「恋?」
彼方「どうしたの~?」
栞子「……もしかしてどこか修正ありますか? 私は今のカット、梨子さんの安定感はもちろん、お二人の個性がしっかり出ていて非常に好ましかったですが——」
突然、恋は椅子から立ち上がり、副調整室を出ようとする。
マルガレーテ「ちょっと、どこへ行くのよ?」
璃奈「…?」
スタッフたちを背に、恋は迷いのない足取りで副調整室の重い扉を開けて、スタジオへ向かった。
果南「………ふふっ。 ねぇ、彼方、栞子。 あんな表情の恋、久しぶりに見たと思わない?」
彼方「あはは~。そうだね~。あんなに分かりやすく『居ても立ってもいられない』って顔するの、珍しいよね~」
栞子「……ええ。あの子たちの輝きがよほど眩しかったのでしょう」
◇スタジオ・撮影セット
恋が副調整室から出てきた。
梨子「…?」
ことり「(恋さん……? な、なんだか、すごく真剣な顔……)」
千砂都「(一発OKじゃなかったのかな……? どこか動きが悪かったかな……?)」
恋は一直線にテレビセットにいることりと千砂都の目の前まで来た。
スタジオの全スタッフが注目する中、恋は深く、一度呼吸を整えた。
恋「ことりさん、千砂都さん。……そして、梨子さん」
ことり、千砂都「は、はい!」、梨子「…?」
恋「………………素晴らしいです…」
ことり、千砂都「はい?」
(BGM:小さな奇跡)
恋「あなた方が今見せてくれたのは、単なる台本通りの『演技』ではありませんでした。私は、あなた方の笑顔の向こう側に、確かに子どもたちが喜び、共に笑い、健やかに育っていく未来が見えました!」
ことり、千砂都「恋さん……」
恋「『うたって☆メロディランド♪』という場所に、あなた方という新しい希望が加わった。 その奇跡のような瞬間を今、この目で見届けることができて、私はこれほど誇らしいことはありません」
恋は、驚きで固まっていることりと千砂都の手を、そっと、しかし力強く握り締めた。
恋「あなたたちは、もう立派な『メロディランドのお姉さん』です」
ことり、千砂都「っ……!」
恋「あなたたちが今見せたその笑顔こそが、明日、子どもたちが待ち望んでいる光そのものになります! 確信しました!……さあ、撮影を続けましょう!」
恋は梨子に小さくそっと微笑みかけると、梨子もまた、感極まったように頷き返しました。
果南『ふふっ……よしっ! 恋プロデューサーから最大級の合格点が出たところで! みんな、次のスタンバイいくよ!!』
きな子「はいっす! 次は『やぎさんゆうびん』いくっすよ~!」
スタッフたちはそれぞれのポジションに向けて動き出す。
そんな中、ことりと千砂都のもとへ、4人の姿がゆっくりと歩み寄ってきた。
絵里「2人とも良かったわよ」
かのん「ことりちゃんの可愛さと、ちぃちゃんの元気よさが伝わったよ!」
侑「うんうんうん!」
せつ菜「素晴らしかったです!」
ことり「えへへ〜」
千砂都「ありがとう!」
ことり「ふふっ、千砂都ちゃん!」
千砂都「ことりちゃん!」
ことり、千砂都「イエ~~イ!」
ハイタッチを交わす。その仕草はまるで、長年連れ添ったコンビのように息が合っていた。
絵里「(クスッ…。本当に、いいコンビね。ことりの優しさと千砂都の強さが、お互いを引き立て合っているわ)」
可可「ことり〜! 千砂都〜! こっちの部屋で着替えよろしくデス〜!」
可可は、スタジオの隅に設置された、パーテーションで区切られた特設の着替え小部屋を指し示した。
ことり「あっちで着替えるんですね?」
千砂都「だから、さっき衣装全部持ってきたんですね?」
すみれ「テレビ業界は1分1秒が勝負なのよ。なるべく近場で着替えて、すぐにメイクを直す! これが鉄則よ」
促されるまま二人は小部屋へと入った。
そこには畳まれた白ヤギと黒ヤギの衣装が、並べられていた。
ことり「わあ…♪ もふもふ~!」
ことりは白ヤギの衣装を手に取り、感激したようにその柔らかな素材を頬に当てた。
羊毛フェルトのような、ふわふわとした質感が手の中に広がる。
千砂都「見て見てことりちゃん! 黒ヤギさんの尻尾がちょっとくるってしてる!可愛い!」
千砂都も黒ヤギの衣装を身体にあてながら、くるんとした尻尾の可愛さに驚く。
* * *
着替え完了♪
ことり「こうかな?」
千砂都「ことりちゃん、めっちゃ似合ってる!ふわふわで、ホントの白ヤギさんみたいだよ!」
ことり「千砂都ちゃんこそ、かっこよくて可愛い黒ヤギさんだよ!」
ことりは、真っ白なふわふわのファーがあしらわれた“白ヤギ”の衣装。 首元には小さな赤いリボンがついていて、耳と角がついた白いカチューシャがちょこんと頭に乗っている。
千砂都は、全体的にグレイッシュな黒と茶の混ざった“黒ヤギ”スタイル。 同じく角と耳のカチューシャがあり、笑顔でピースを決める姿は、まるで童話から飛び出してきたかのようだった。
ことり「ふふっ。それじゃ行こう!」
千砂都「うんっ!」