うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

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第4話「わくわく☆初収録」
第4話「わくわく☆初収録」①


(BGM:朝練)

 

 

4月9日土曜日

 

朝の陽射しが、渋谷・結ヶ丘テレビ局の高層ガラスに反射してきらめいていた。

 

◇結ヶ丘テレビ局 6階

 

午前9時40分。

 

衣装室でことりと千砂都は、昨日の朝、可可が仕上げた正装に着替えていたが、ちょっと落ち着きがない。

 

その隣で梨子は涼しげな顔で、正装に着替えて、ネクタイを結んでいた。

 

 

可可「いよいよ、ことりと千砂都が、子供たちの前に初めてお披露目される日デス~!」

 

梨子「子供たちもきっと、今日をすごく楽しみにしてたはずよ。新しいお姉さんが二人も増えるなんて、みんな、びっくりするでしょうね」

 

ことり「うぅ…、昨日は緊張で夜あまり眠れなかったよ~…」

 

 

ことりはメイク用の椅子に腰かける。

 

 

千砂都「わかる、私もだよ。 夜中のことりちゃんのメッセージ、すぐ返しちゃったもんね…」

 

 

千砂都も隣の椅子に座る。

 

 

千砂都「しかも、子供たちとの本番、今から最初にちょっとだけリハーサルすると思ったのに、まさか、なしっていうのも、改めて聞くと驚きだよね…」

 

 

千砂都が膝の上に広げたのは、今日の収録用の台本。

 

ことりも同じページを開く。

 

可可とすみれも、ちらりとその紙面に視線を落とす。

 

台本の本番ページには、あまりに簡潔な箇条書きが並んでいた。

 

 

ーーー

10:00頃 子供たちスタジオ入り

・そのまま撮影スタート

・お姉さんたちによるお出迎え(元気よく、明るい笑顔で)

・お姉さん自己紹介

 ▶ はじまりの歌「メロディランドたいそう」

 ▶ お絵描きコーナー(子供たちと自由に交流)

 ▶ 歌のコーナー「ちょうちょう」

 ▶ これなぁに?のコーナー(子供たちの自由な回答を引き出す)

 ▶ 終わりの歌「声繋ごうよ」

12:00前 記念撮影・クッキー手渡し・子供たち撤収

ーーー

 

 

以上。たったこれだけ。

 

大まかな段取りだけで、細かな演出の指定も、決められた台詞も、秒単位の進行表も一切存在しなかった。

 

 

可可「やはりこれだけでしたか…」

 

すみれ「いかにも彼方さんたちらしい台本ね…」

 

梨子「そうね。まあいつものことだけど」

 

ことり「(この番組の方針は一貫していた。『子供たちには自由に楽しんでもらう』。 それはプロデューサーの恋さん、ディレクターの果南さん、編集の栞子さん、そしてこの台本の作者である構成の彼方さん、4人の責任者が共有するモットーだった。 4人が口を揃えて掲げる番組方針を忠実に体現しているのが、まさにこの台本だった。子供たちをどうまとめ、どう惹きつけ、どう笑顔にするかは、私たちお姉さんたち次第…!)」

 

すみれ「良くも悪くも、子供たちとの収録は、ぶっつけ本番なのが、この番組の売りなのよ。  ドキュメンタリーに近いわね」

 

 

すみれはパフを手に取ると、ことりの頬にやわらかくチークを入れていく。

 

 

千砂都「まさか、子供たちがスタジオに入る前から、合図なしにカメラを回し始めるなんて…。どこがスタートか、さっぱりわかりませんよ」

 

可可「『今から本番スタート!』なんて言ったら、子供たちが緊張して固まっちゃうデス」

 

すみれ「あんたたちは、カメラを意識するんじゃなくて、目の前の子供たちのことだけを考えなさい。子供たちにとって、あんたたちは『テレビの中の人』じゃなくて、今日一緒に遊んでくれる『お姉さん』なんだから」

 

ことり「一緒に遊んでくれる、お姉さん……」

 

千砂都「そうですよね…。私たちが不安がってたら、子供たちに伝わっちゃいますね」

 

梨子「大丈夫よ。側に私もいるから。何かあったら私がピアノで繋ぐから、2人は思いっきり子供たちと遊んであげて。ねっ♪」

 

すみれ「流れを止めないのが、私たちの流儀よ」

 

 

千砂都の頬にもチークを入れる。

 

 

可可「もちろん昔は、そのせいでいろんなハプニングもあったデス! でも、それをみんなで乗り越えて、今の『うたメロ』があるんデスよ!」

 

梨子「まあ、生放送じゃないのが救いよ」

 

ことり「でもやっぱりぶっつけ本番って、緊張しちゃうよね…?」

 

千砂都「ホントだね。しずくお姉さん、これ、どうやってこなしてたんだろう?」

 

 

梨子とすみれは顔を見合わせて、何も言わなかった。

 

 

可可「子供たちには、ことりと千砂都の自然な表情、素のままの姿を見せてあげてほしいデス」

 

すみれ「案外、子供はよく見てるものよ。大人の変な嘘を見抜くからね。 演技しようと思ったら、むしろ負けよ」

 

ことり「確かに…そうですけど…」

 

千砂都「なにかアドバイスだけでももらえたら、すごく助かるんですけど…」

 

すみれ「フフッ…。もうあんたたちは、プロのショウ・ビジネスの世界に飛び込んだんだから、甘えたこと言ってんじゃないわよって言いたいところだけど、しょうがないったら、しょうがないわね〜」

 

 

化粧道具をトレイに置く。

 

 

すみれ「じゃ一つだけ。とっておきのアドバイスを授けてあげるわ」

 

梨子「ふふっ」、可可「……」

 

ことり、千砂都「…?」

 

 

(BGM:過ぎ去りし日々)

 

 

すみれ「昨日の歌のPV撮影、どうだった?」

 

ことり、千砂都「っ!」

 

ことり「すごく楽しかったです!」

 

千砂都「私もです! 慣れないことばかりだったけど、ずっとワクワクしてました!」

 

 

梨子と可可が顔を見合わせ、満足そうに頷いた。

 

 

ことり「皆さんが、テレビの前の子供たちに楽しんでもらえるようにって、いろんな工夫をしていて…。私たちも歌いながら楽しくなっていって。これが『うたメロ』なんだなって思いました」

 

千砂都「だから昨日、ことりちゃんと話したんです。『明日も精一杯楽しもう!』って。でも、いざ本番の朝を迎えると…」

 

すみれ「それよ」

 

ことり、千砂都「えっ?」

 

すみれ「合ってるわよ、それったらそれよ。あんたたちが昨日出した結論こそが、この現場のすべてなの」

 

梨子「わかってるじゃない。二人で話し合ったんでしょ? 『楽しもう』って」

 

ことり、千砂都「はい…」

 

可可「その気持ちが何よりも大切デス! 可可とすみれがどれだけ素敵な衣装とメイクを仕上げても、最後に魔法をかけるのは、お二人とリコリコの『楽しい!』という魂の叫びデス!」

 

すみれ「この番組のお姉さんに必要なのは、歌やダンスの技術はもちろんそう。 でもね、それ以上に必要なのは、『子供たちと本気で遊んで、本気で楽しめること』なの」

 

可可「手を抜くなんてご法度デス!子供たちへの裏切りデス!」

 

梨子「そう。私たちが心の底から楽しんでいれば、子供たちは必ず心を開いてくれる。 笑顔は鏡よ。 向き合って、響き合って、最後には大きなメロディになる。 それがこの番組の正体よ」

 

ことり、千砂都「……」

 

ことり「……そっか……。そうですよね! やっぱり私たちが楽しまなきゃ、子供たちが楽しめるはずないんだ!」

 

千砂都「楽しいって気持ちが、何よりの正解…! よし! ダンスも歌も全部、遊びに変えちゃえばいいんだ!」

 

 

ことりと千砂都は頷き合った。

 

 

きな子「そろそろ送迎バスが到着するって連絡が来たっす! 皆さん準備お願いするっす~!」

 

 

廊下からきな子の声が。

 

 

ことり、千砂都「はいっ!」

 

梨子「さあ、行きましょ! 私たちの最高の遊び場へ!」

 

 

衣装室を出て廊下を進むと、ちょうどきな子がエレベーターに乗り込む後ろ姿が見えた。

 

 

ことり「あれ? きな子さん、降りていきましたよ?」

 

千砂都「どこに行かれたんですか? もうすぐ本番なのに」

 

梨子「きな子ちゃんは、子供たちを1階まで迎えに行って、ここまで案内する係も兼任してるの。 一番最初に子供たちと接する、とっても大切な役目ね」

 

可可「ここだけの話、きなきなは幼稚園の先生の資格も持ってるんデス! 子供たちの緊張解すのも上手デスから、メロディランドに連れて行く案内人として、これ以上ない適任デス!」

 

ことり「幼稚園の先生の資格? すごいですね! きな子さんのあの優しい笑顔なら、子供たちもきっと安心しますね!」

 

千砂都「うん、納得だよ。きな子さんなら、子供たちもワクワクしながらここまで来てくれるね! 私たちも負けてられないよ、ことりちゃん!」

 

ことり「うん!  あれ? でもそれなら何で、幼稚園の先生じゃなくて、ここのADさんになったんですか?」

 

すみれ「ふふっ、まっ、それはまた今度、本人に直接聞いてみなさい。なかなか面白い話が聞けるわよ。  さあ! 最終準備よ!」

 

 

ことり、千砂都、梨子、すみれ、可可はスタジオへ。

 

 

(BGM:起こそうキセキを!)

 

 

◇撮影スタジオ

 

ことりと千砂都が、スタジオに入って見た光景は、スタッフたちがそれぞれの持ち場で、テキパキと最終準備をしているところだった。

 

 

善子「アングル、オールチェック完了!」

 

エマ「う〜ん…、こうかな? よし、いい感じ!」

 

 

曜、花丸、侑、せつ菜が保護者が座る観覧用の椅子をせっせと並べている。

 

 

花丸「曜先輩、このへんの角度でいいずら?」

 

曜「うん、ばっちりだよ!」

 

侑「曜さん、椅子はあと何脚必要ですか?」

 

 

曜は観覧者リストを確認。

 

 

曜「えっとね…あと4脚! そこの倉庫にあるからお願いしていい?」

 

侑「わかりました!」

 

せつ菜「すぐに持ってきます!」

 

 

せつ菜と侑は、スタジオに隣接してる倉庫①へと駆けていった。

 

スタジオの床に、慣れた手つきで掃除機をかけている恋と果南。

 

 

千砂都「あ……! 恋さん、果南さん、私たちも手伝います!」

 

ことり「私もやります!」

 

梨子「あ、二人とも、待――」

 

すみれ「ちょいちょいちょい! ストップったらストップよ! あんたたちはそこに座ってじっとしてなさい! 衣装が汚れたり、埃がついたりしたら台無しでしょ?」

 

 

梨子も頷く。

 

 

可可「そうデス! 準備は可可たち裏方の仕事デス!」

 

ことり「でも、恋さんや果南さんまでお掃除してるのに、私たちだけ座っているなんて申し訳なくて…」

 

 

果南と恋が掃除機のスイッチを一度切る。

 

 

果南「あはは! 気にしないでいいよ! これも私たち『うたメロ』の大事なルーティンなんだから」

 

千砂都「ルーティンですか?」

 

果南「そう。子供たちが床に座り込んだり、嬉しくて転がったりしても、服が汚れないように自分たちの手で隅々まで綺麗にする。 そうして初めて、私たちは自信を持って子供たちを迎え入れられるでしょ?」

 

恋「清潔で安全なスタジオにする。これも私たちの大切なおもてなしの一つです」

 

ことり「自分たちの手で……」

 

 

華やかなテレビの世界。けれど、その魔法を支えているのは、こういった温かい、徹底的な真心なのだ。

 

プロデューサーもディレクターも関係なく、全員が一致団結して、これからやってくる子供たちのために居場所を整える。

 

その真摯な姿勢に、ことりは胸の奥が熱くなるのを感じた。

 

 

ことり「(誰かの笑顔を作るためには、こんなにたくさんの優しさが積み重なっているんだ…)」

 

ことり、千砂都「……ありがとうございます」

 

 

ことりたちが深く頭を下げると、恋は優しく目を細めた。

 

副調整室から、マルガレーテが出た。

 

 

マルガレーテ「恋さん、準備できました」

 

恋「ありがとうございます」

 

果南「さあ、もうきな子ちゃんが迎えに行ったから、あと数分で子供たちが来るよ! ことりちゃん、千砂都ちゃん、梨子ちゃん、セットの定位置に立って!」

 

 

恋と果南が掃除機をテキパキと片付ける。

 

 

ことり、千砂都、梨子「はい」

 

 

セットの中央、子供たちが集まる広場の中心に立つ。

 

 

千砂都「いよいよだね、ことりちゃん」

 

ことり「うん。ドキドキだよ~」

 

梨子「ふふっ。 私はこの時間が、実は一番大好きなの」

 

ことり、千砂都「?」

 

 

梨子は、楽譜をピアノに立てる。

 

 

梨子「子供たちの声がこのスタジオを埋め尽くした瞬間、私たちは『お姉さん』になれる。その瞬間が、たまらなく愛おしくて誇らしいの。……今に2人にもわかるわ」

 

 

マルガレーテが3人に近づいた。

 

 

マルガレーテ「マイク付けるわよ」

 

ことり、千砂都「はい」

 

マルガレーテ「梨子、今日も頼んだわよ」

 

梨子「ふふっ、当然」

 

 

かのんと絵里が、駆け寄ってくる。

 

 

かのん「ことりちゃん、ちぃちゃん、頑張って!」

 

千砂都「うん、かのんちゃん! 私、精一杯やってくるね!」

 

ことり「ありがとう、かのんちゃん。見ててね!」

 

かのん「私の歌もエンディングに歌われるんだね~!」

 

絵里「2人の歌なら、絶対に子供たちの心に届くわ!」

 

千砂都「…っ!///  はい!」

 

ことり「絵里ちゃん」

 

 

絵里はことりの手をそっと握る。

 

 

絵里「ことり、μ’sのステージを思い出して。 明るく、笑顔で楽しむ。私たちが大切にしてきた、あの気持ちよ」

 

ことり「うん…!」

 

千砂都「μ’sのように、明るく、笑顔で楽しく…か。うんっ!」

 

 

ことりは、ふと今朝、家を出る直前に目にしたスマートフォンの画面を思い出した。

μ’sのグループLINE。そこには、現場で支えてくれる絵里以外の、大切な7人の仲間たちからのメッセージ。

 

 

穂乃果:

『いよいよ今日が子供たちとの撮影だね!ことりちゃん、ファイトだよ!』

 

海未:

『ことりなら大丈夫ですよ。あなたの誠実さは、必ず伝わります』

 

真姫:

『今日も頑張りなさい。応援してるわ』

 

凛:

『フレー! フレー! ことりちゃーん!』

 

花陽:

『私、ことりちゃんの笑顔が大好きだもん。子どもたちもきっと、すぐにことりちゃんが大好きになるよ』

 

にこ:

『その笑顔を子供たちに見せてやりなさい! にっこにっこにーよ!』

 

希:

『えりちは隣で見れるの羨ましいわ~。ことりちゃん、楽しんでな!』

 

 

まるで、μ’s全員もここにいて、背中を押してくれているようだった。

 

 

ことり「(大丈夫。私には応援してくれる最高の友達がいる。 それに…)」

 

 

ことりはもう一度顔を上げ、隣に立つ千砂都、ピアノに向かう梨子、そして裏方で真剣な眼差しを送るスタッフたちを見た。

 

 

ことり「(ここにも、最高の仲間がいる!)」

 

 

ことりの顔には、これまで一週間の中で一番揺るぎない「お姉さん」としての笑顔が広がった。

 

その笑顔を見て、絵里は小さく微笑んだ。

 

かのんも小さくガッツポーズ。

登場人物の過去のサブストーリー:誰のを読んでみたいですか?

  • 曜と梨子出会い~梨子が歌のお姉さんなる話
  • うたって☆メロディランド♪立ち上げ話
  • きな子がADになるまでの話
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