◇副調整室
マルガレーテ「お疲れ様」
恋「ことりさん、千砂都さん、梨子さん、前半お疲れ様でした」
彼方「すごくよかったよ〜。見ていて、心がぽかぽかになっちゃった〜」
果南「それにしても2人とも、よくあの子が絵を描いてないことに気がついたね?」
ことり「なんだか気になっちゃいまして。 元気がなさそうに見えて、放っておけなかったんです」
千砂都「でも最後はあんなに素敵な絵を描いてくれて、本当によかったです!」
梨子「これでまた、絵を描く楽しさを思い出してくれたらいいわね」
ことり「そうですね。 でもまさか、私たちを描いてくれるなんて、びっくりしました」
千砂都「それに続いて他のみんなまで『私も・僕も!』って描いてくれて。 ほら、こんなにいっぱい!」
3人は改めてもらった絵を机に並べた。
彼方「よかったね〜。みんな、よく描けてるよ〜」
果南「あっ、これは千歌が描いたものだね? 相変わらず元気な線だね」
ことり「果南さんたちは、千歌ちゃんのことを知ってるんですか?」
千砂都「そういえば来たときも、果南さんや梨子さんに、千歌ちゃんは真っ先に声かけてましたね」
梨子「千歌ちゃんは、この番組が始まってから、よく遊びに来てくれるのよ」
果南「まあ常連さんみたいなもので、すっかり私たちと顔馴染みなんだよ」
千砂都「そうだったんですか」
ことり「そういう経緯なんですね…。 でも、ホント子供たちの絵って何でこんなに温かいんだろう。すごく嬉しいよね、千砂都ちゃん」
千砂都「うん! それに子供たちって、なんであんなに可愛いの!? 心が浄化された気分!」
梨子「ふふっ、2人もすっかり子供たちの人気者になったわね」
ことりと千砂都は、互いに目を合わせて、えへへと笑い合う。
マルガレーテ「その子供たちの期待、裏切るんじゃないわよ。次のコーナーも、ありのままやりなさい」
ことり、千砂都「はい!」
そこへ、カラフルな羽根と、触覚のついたカチューシャを手にしたすみれと可可が入ってきた。
可可「お待たせデス!」
すみれ「持ってきたわよ!」
梨子「ありがとう」
ことり、千砂都「…?」
2人が持ってきたのは、モンシロチョウ、キアゲハ、アゲハチョウをイメージした羽と、カチューシャで作られた触覚。
ことり「わぁ…すごい…! 本物の羽みたい…!」
千砂都「可愛い!」
梨子「さすが可可ちゃんね!」
可可「ふふん、それほどでもあるデス〜!」
すみれ「これを着て、優雅に舞いなさいったら舞いなさい」
ことり「よ〜し! 歌のコーナーも、精一杯頑張っちゃいます!」
千砂都「うん! 頑張ろう、ことりちゃん!」
梨子「今度は歌の力で、子供たちを笑顔にするわよ」
* * *
羽と触覚をつけて、モンシロチョウのことりお姉さん、キアゲハの千砂都お姉さん、アゲハチョウの梨子お姉さん。
可可「やっぱり3人とも、可愛いデス〜!」
すみれ「いい感じね」
ことり「えへへ」
千砂都「ありがとうございます」
梨子「さてと、行きましょうか」
彼方「ファイト〜、綺麗な蝶々さんたち」
果南「頑張って!」
恋「3人の歌声を子供たちに聞かせてください」
ことり、千砂都、梨子「はい!」
3人は副調整室を出ていく。
恋「……ふふっ…、やはり、梨子さんの言うとおり、しずくさんの映像を見せなくて正解でしたね」
(BGM:絵里のやりたいこと)
恋「ことりさんと千砂都さんは、教えられるまでもなく、ちゃんとしずくさんに負けないくらいのお姉さんになっていますよ」
マルガレーテ「梨子が『もう一度、うたって☆メロディランド♪を一から作りたい。3人だけのメロディランドを作っていきたい』って言ったときは驚いたけど、梨子の作戦勝ちってわけね」
果南「そうだね。例えあの2人が『参考にしたい』って思いながら観ても、人間、お手本を見たら、無意識に『あぁなりたい』、『あぁしなきゃ』って思っちゃうもん。 どんなに個性を出そうとしても、その影響からは逃れられないんだよ。 当時の『うたメロ』を詳しく知らないなら、今はそれに越したことはないんだよ」
彼方「だからこそ、梨子ちゃんはそう思っていたんだよ。 2人はしずくちゃんの後釜なんかじゃない。 梨子ちゃんと一緒に、メロディランドをこれから作っていくパートナーだよ。 私も、ことりちゃんと千砂都ちゃんの大好きなものを、この番組にたくさん詰め込んだものを、これから作りたいよ」
すみれ「しずくは確かに、梨子とはいいコンビだったわ。2人だからこそ完璧だった部分もある」
モニターには、ことりと千砂都と梨子が戻ってきて、セット中央に立ったのを見て、子供たちが集まってるのが映っていた。
すみれ「この番組がここまで愛されるようになったのは、しずくの子どもに対する深い愛情と、あの振る舞いのおかげ。 でも彼女自身には、『こう見せよう』なんて意図は何もなかった。 子どもたちと一緒に、ただ楽しく過ごしたい。喜ぶ顔が見たいって純粋に思ってただけ。それだけであのしずくお姉さんになって、梨子もその隣にいたから、今のような梨子お姉さんになれたのよ」
恋「ええ。ですから、ことりさんと千砂都さんにも、そんな風に自然体でいてほしいんです。誰かを真似るのでも、お姉さんを演じるのでもなく、もっと普通に、子どもたちと真っ直ぐに向き合って、心から楽しむ。そういう彼女たちだけの『歌のお姉さん』になってほしいんです」
可可「大丈夫デス! ことりも千砂都も根っからの子ども好きデスから! リコリコとの相性もよさそうデスし! しずくも、自分の背中を追ってほしいなんて思ってないデス! むしろ、ことりと千砂都にも、メロディランドを心から楽しんでほしいと願ってるはずデス!」
恋「はい。なので、今後もしずくさんの映像はお2人には見せないでください。少なくとも、今月、あの方が来て、合格するまでは」
きな子が入ってきた。
きな子「テープチェンジ、終わりましたっす!」
果南「うん」
インカムのスイッチを入れる。
果南「みんな! うたのコーナー本番いくよ!」
◇撮影スタジオ
テレビセットは、桜と菜の花のセットになっていた。
善子のカメラのタリーランプが赤く点いた。
梨子がゆっくりと指を鍵盤へ下ろす。
エマの照明が柔らかい黄色に切り替わり、まるで春の日差しのように、ことりと千砂都を包み込んでいた。
ことりと千砂都は、向かい合って小さく頷くと、タイミングを合わせて動き出す。
ことりが片足を半歩前へ出し、両腕を羽のようにふわりと広げる。
千砂都も同じように腕を広げ、身体を軽く横に揺らす。
ピアノ「~♪」
ことり「♪ ちょうちょう ︎︎ちょうちょう なのはにとまれ」
ことりが歌いながら、手を蝶を表現するようにひらひらと動かす。
千砂都「♪ なのはにあいたら さくらにとまれ」
ことりが菜の花の近くに屈み、千砂都がことりを追うように近づき、二人で桜へ行く。
ことり「♪ さくらのはなの はなからはなへ」
ことりがステップを踏み、花から花へ舞うように身体を回す。
ことり、千砂都「♪ とまれよ あそべ あそべよ とまれ」
そしてそのまま、お互いの手のひらを合わせ、優しく押し合うように左右に揺れた。
蝶が舞い、止まり、また遊ぶ。歌詞そのままの世界を、身体で描いていく。
きな子がそっとセットに、子供たちを誘導する。
曜と花丸が用意していた木のアーチをくぐり抜け、セットに駆け込むと、梨子が再びイントロを奏で始める。
ことりと千砂都は、子供たちの方へ手を伸ばし、今度はみんなと一緒に、もう一度歌い出す。
ことり、千砂都、梨子、子供たち「♪ ちょうちょう ︎︎ちょうちょう なのはにとまれ」
子供たちも自然と手をひらひらと動かし、蝶のまねを始める。
ことり、千砂都、梨子、子供たち「♪ なのはにあいたら さくらにとまれ」
千歌「とまれ!」
ことり、千砂都、梨子、子供たち「♪ さくらのはなの はなからはなへ」
ことりが振りを見せながら優しく誘導し、千砂都は子供たちをくるくると輪になるように促す。
子供たちは手を繋ぎ、輪になって、歌に合わせて回り始めた。
ことり、千砂都、梨子、子供たち「♪ とまれよ あそべ あそべよ とまれ」
全員がぴたりと止まり、満面の笑みでお互いの顔を見合わせる。
梨子のピアノが、最後の一音を静かに締めくくると、拍手が起きる。
子供たち「あはははっ!」
子どもたち自身が手を叩き始め、次いでスタッフも、保護者たちも静かに拍手を送った。
ことりと千砂都と梨子は、保護者に深くお辞儀をしたあと、子どもたちと目を合わせて、一緒に喜ぶ。
(BGM:答えはとても簡単)
ことり「(楽しい…! 楽しすぎるよ! スクールアイドルしてた時も、ファンのみんなから声援を受けて幸せだった。 でも、あの時の楽しさと、今の楽しさは、何か違う気がする…)」
千歌「おねえさ~ん!」
ことりに駆け寄ってきた千歌。
ことり「ふふっ」
ことりは膝をつき、千歌の目線に合わせて腰を下ろした。
差し出された小さな手を、自分の両手でそっと包み込むように握ってあげる。
千歌「おねえさんたちのおうた、すごくじょうずだった!」
ことり「ありがとう♡ お姉さんもね、千歌ちゃんたちと一緒に歌えて、とっても楽しかったよ!」
ことり「(あぁそっか…。何が違うか分かった気がする…)」
ことりは千歌の手を優しく握り直し、もう一度、深く微笑んだ。
隣を見れば、千砂都が元気な男の子たちにもみくちゃにされていた。
千砂都「わわっ、みんな元気よすぎだよ~」
梨子もまた、ピアノの椅子から立ち上がり、子供たちの輪の中へ。一人一人の頭を愛おしそうに撫でた。
ことり「(スクールアイドルの時は、ステージの上からみんなに夢を見せて、それを応援してもらっていた。 みんなの熱気に引っ張られて、一緒に高みへ登っていく。 それが私の力だった。でも今は…)」
ことりは、自分の手を握り返す千歌の指先の感触を確かめた。
ことり「(この子たちの日常の中に、私が色を付けてあげているんだ。 私はもう、応援される側じゃなくて、この子たちの未来を、応援する側に立っている。 この小さな掌から伝わってくる『大好き』っていう温度。 この純粋な信頼が、私の心をこんなにも満たしてくれる。 これが私の、新しい幸せの形なんだと思う…♡)」
~回想~
にこ『いい? アイドルっていうのは、笑顔を見せる仕事じゃない! 笑顔にさせる仕事なの! それをよ~く自覚しなさい!』
~回想終了~
ことり「(アイドルも、歌のお姉さんも、きっと根本的なところは一緒なんだね。 誰かの心に小さな灯をともして、世界はこんなにも温かいんだよって、歌を通して伝えてあげること。形は変わっても、私がずっとやりたかったことは、ちゃんとここに繋がっていたんだ…!)」
◇観覧席付近
絵里「ハラショー」
かのん「いいよ、2人とも」
今日はここまで
登場人物の過去のサブストーリー:誰のを読んでみたいですか?
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曜と梨子出会い~梨子が歌のお姉さんなる話
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うたって☆メロディランド♪立ち上げ話
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きな子がADになるまでの話