◇副調整室
ことりと千砂都と梨子は、「ちょうちょう」コーナーを終え、ひと息つく間もなく、次の準備に取りかかる。
蝶の羽と触覚を可可に返して、すみれに軽く髪を整えられる。
マルガレーテ「まあ、初めてにしては、及第点じゃないの?」
梨子「ふふっ、素直に褒めなさいよ」
ことり、千砂都「ありがとうございます」
果南「あとは『これなぁに?』コーナーと、最後にエンディングの『声繋ごうよ』を歌って終わりだから、あと少し! 頑張ろう!」
ことり、千砂都「はいっ!」
可可「あっ! ことり、千砂都、ちょっとごめんデス」
可可は2人の衣装の裾やリボンの向きを丁寧に整えた。
可可「はい、いいデスよ」
ことり、千砂都「ありがとうございます、可可さん」
梨子「可可ちゃん、ちょっといい?」
可可「はいデス!」
梨子のネクタイとブラウスの襟も整える。
彼方「さてさて、子供たちは、どんな回答してくれるのかな~?」
その言葉に、ことりと千砂都の表情が少し引き締まった。
今朝見た、彼方の『これなぁに?(子どもの自由な回答を引き出す)』だけが書かれてた箇条書きのような台本。
演出や台詞の指示も一切ない。
侑「準備できました!」
せつ菜「千砂都さん、ことりさん、梨子さん、これがハテナボックスです!」
せつ菜が、大きな黄色いハテナマークの描かれた白地の箱を机に置いた。
ことり、千砂都、梨子「…?」
3人が箱を覗き込むと、中には今回のクイズで使用するバナナ、大根、ドライヤー、ネクタイが入っていた。
恋「その箱に入っている物を子供たちに見せて、自由に回答させてください。そして最後に、正しい答えを教えてあげてくださいね」
梨子「私も初めてコーナーだし、今朝から頭で段取り考えていたんですが、これかなり難しいコーナーですよね?」
ことり「えっと…自由な回答って、具体的にどう引き出せばいいんでしょうか?」
彼方「ん〜〜…、任せるよ〜♪」
千砂都「と言われましても~…」
すみれ「ま、それはあなたたち次第よ。今朝も言ったでしょ? あなたたちがまず楽しむこと。楽しんだもん勝ちよ」
(BGM:???)
千砂都は、顎に手を添えてちょっと考える。
千砂都「でもただ、みんなに答えを聞くだけじゃ面白くないよね?」
ことり「1人が答えを言っちゃったら、すぐに終わっちゃうよ…」
果南「あっ、いいところに気がついたね? そうだよ。このコーナーの持ち時間は10分。ということは、子供たちがポンポン、ポンポンあっさり答えたら、1分ももたないからね」
梨子「だからこその悩みどころなんですけどね。 子供たちを退屈させずに楽しませつつ、番組としても成立するかたちにしないといけないから…」
千砂都「あぁ~…」
ことり「(確かにそうかも…。 もし何も考えずに始めたら――)」
~~~
ことり「みんな、これは何かな?」
ことりが箱からバナナを取り出すと…
千歌「バナナ~!」
千砂都「すご~い! じゃ、これはわかるかな~?」
千砂都が大根を見せれば、またすぐに、
たくみ「だいこ~ん!」
梨子「正解♪ それじゃこれは何かしら?」
子供たち「ドライヤー!」
ことり「最後の問題! これは?」
子供たち「ネクタ~イ!」
完!
~~~
ことり「うん、これは…」
千砂都「つまらないね…」
梨子「そこなのよ。正解を出すことがゴールじゃない。正解に至るまでの遊びをどう作るか。 それが私たち歌のお姉さんの腕の見せ所よ」
ことり「遊びを作る…」
千砂都がバナナを取り出した。
すると、何かが閃いた。
千砂都「あっ、じゃあさ、私がヘンテコな答え言ってみるから、それにことりちゃんと梨子さんが『違う!』って突っ込んでくれたら、盛り上がるかも!」
ことり「えっ?それって、千砂都ちゃんが、わざとボケるってこと?」
千砂都「そう! ことりちゃんと梨子さんがツッコんで、私が子どもたちに『みんなはどう思う〜?』って聞くの。 ボケてる最中に正解を言ってきても、私が『いやいや、どこからどう見ても……』ってさらにボケを重ねる。そしたら、子どもたちも、もっと必死に楽しく答えてくれると思うんだ!」
ことり「あぁ~! それいいかも! いいアイデアだよ!千砂都ちゃん♡」
千砂都「ホント!?」
梨子「なるほどね。それは面白そうだわ!」
果南「いいね! それ採用! どう? 恋、彼方」
恋「はい。ではそれでいきましょうか!そしたら子供たちも、自分たちが参加している実感が持てるはずです」
彼方「いいね~。それこそ遊びだよ〜」
マルガレーテ「ただし、やるならしっかり、恥ずかしがらずにボケなさいよ。中途半端なボケが一番見苦しいんだから。やるなら徹底的にやり遂げること。いいわね?」
千砂都「はい!」
可可「楽しくなりそうデス!」
すみれ「期待してるわ」
せつ菜「どんなボケにしますか?」
千砂都「例えばこのバナナだったら、ピストルみたいに持って…。あ、待って、それならこのドライヤーのほうがピストルっぽいかも?」
バナナを戻して、ドライヤーを掴もうとした、その時。
果南「はいは〜い、今考えな〜い!」
千砂都「えっ?」
(BGM:やってみよう!)
果南「そのモノボケのアイデア、すごく面白いから、子どもたちの前で、アドリブでやったほうが、絶対盛り上がるよ!」
千砂都「アドリブ…ですか?」
果南はいたずらっぽくウインク。
果南「そう! ライブ感を大事にしよう!」
彼方「昨日から息のあった3人なら、アドリブでもうまくいくよ~」
恋「えぇ、自信をもってください。 今なら、予定調和ではない本物の面白さが生まれるはずです」
せつ菜「それなら千砂都さんのボケ、楽しみにしてます! 思いっきりやっちゃってください!」
侑「ことりちゃんもツッコミ頑張って!」
千砂都「うわ…なんか急にハードルが上がっちゃった…! まあいいか!」
ことり「(千砂都ちゃんがするボケを、私がしっかりキャッチして、梨子さんが綺麗にゴールに繋ぐ。うん、できる!)」
3人はもう一度ハテナボックスの中身を見つめ、無言のまま、互いの信頼を確かめ合うように頷き合った。
千砂都「それじゃ、それでやろうと思います!」
千砂都は箱をしっかりと抱えた。
ことり「ちゃんと突っ込まないと…! 責任重大だよ~…!」
梨子「確かにそうね、子供たちが楽しんでくれるように頑張らないとね」
果南「それじゃ、そんな具合に本番よろしくね!」
ことり、千砂都、梨子「はい」
ことり、千砂都、梨子、侑、せつ菜は副調整室を出ていった。
彼方「モノボケか〜。それは思いつかなかったよ〜」
果南「今期からの新コーナーだから、私たちも正解がわからないからね。 しずくちゃんですらしたことないまっさらなコーナー」
マルガレーテ「だからこそ、やり方は自由。可能性は無限にあるわ」
すみれ「でも2人とも、自分たちで考えて、子供たちが楽しめるように工夫したじゃない」
恋「えぇ、安心して任せられます。 あとは梨子さんがフォローしてくれるでしょう」
可可「これから人気コーナーになること間違いなしデス!」
◇撮影スタジオ
副調整室の扉が静かに開き、ことりと千砂都がスタジオに戻ってきた。
テレビセットの草原を模した柔らかな絨毯に子供たちがみんな座っていて、目をキラキラと輝かせ、今か今かとお姉さんたちの登場を待っていた。
きな子「あっ! みんな〜、お姉さんたちが戻ってきたっすよ〜!」
子供たち「ことりおねえさん! ちさとおねえさん! りこおねえさん!」
ことり「みんな、ただいま〜!」
千砂都「待っててくれてありがと〜!」
ハテナボックスを抱えた千砂都が、セットの台へ置く。
梨子「今から楽しいコーナーが始まるわよ〜! 一緒にやってくれる人〜?」
子供たち「は~い!」
絵里「(さてと、ことりと千砂都はどんなふうに回すのかしら?)」
かのん「(というか、あの台本で、本当にできるの?)」
ことりは、そっと一度だけ深く息を吸い込んで、覚悟を決める。
千砂都と梨子、二人と目配せを交わすと、パン!と小気味よい音を立てて手を叩いた。
ことり「それじゃ、これなあに?コーナーの」
千砂都「はじまりはじまり〜!」
梨子「パチパチパチ~!」
子供たちも小さな手を叩いて拍手を送る。
千砂都「今から千砂都お姉さんが、この箱の中からいろんな物を出すから、それが何なのかをみんな当ててみてね!」
子供たち「は~い!」
千歌「たのしみ!」
千砂都が、ゆっくりとハテナボックスの中に手を伸ばす。
千砂都「それじゃ、最初の問題はこちら!」
最初に出たのは、バナナだった。
(BGM:トホホ…)
千砂都「う~ん…? これは何かな~?」
ことり「なんだろうね〜?」
梨子「三日月みたいなかたちしてるわね」
ことり「♪ な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな?」
千歌「バナナ〜!」
男の子「ばにゃにゃ!」
ことり「(ふふっ、やっぱり答えるよね)」
ことりと梨子が思わず笑いながら、千砂都を見る。
梨子「(さて、どうくるのかしら?)」
千砂都「あっ! わかった!」
千砂都は、バナナを耳にぴたりと当てた。
千砂都「もしもし? 誰ですか? えっ、フィリピンさんですか?」
梨子「(クスッ……。 いや…、それ昔、秘密のケンミンSHOWで見たわよ、大阪の人のモノボケ…)」
きな子が手で口を押さえてクスッと笑い、曜と花丸、エマもに小さく肩を震わせた。
善子も耐えながら撮り続ける。
子供たちは一瞬、「お姉さん、何してるの?」と言いたげな顔をしていたが…。
子供たち「ちが〜う!!・ちがうよ!」
ことり「(ここかな?)」
ことり「いやいや〜、違うよ〜!千砂都お姉さん!」
梨子「そうよ、全然違うわよ。 それはお電話する物じゃないわよ」
千砂都「えっ!? そうなの!? フィリピンさんじゃないの!?」
◇副調整室
マルガレーテ「やってるわね…」
果南「いいじゃん、子供たちいい笑顔だよ」
彼方「アドリブ、大丈夫そうだね~」
可可「でも『フィリピン産』って、子供たちはわからないのでは?」
すみれ「多分、普通の外国人と電話してると思ってるわよ」
恋「ふふっ、このまま続けましょう」
◇撮影スタジオ
ことり「みんなはこれ、なんだと思う?」
梨子「千砂都お姉さんに、みんなで教えてあげましょう! せ〜のっ!」
子供たち「バナナ〜!!」
ことり「正解〜!」
ことりと梨子は、頭の上で丸を作る。
千砂都「あぁ〜バナナか〜! そうだった! そうだった〜!」
千砂都がポンッと手を打つ。
千砂都「教えてくれてありがとう、みんな〜! それじゃ次いくよ!」
再び白い箱に手を伸ばした。
次に出したのは、ドライヤーだった。
千砂都「ん~? これは一体、何に使う物かな?」
千砂都は、ドライヤーを振ったりしながら子供たちに見せる。
ことり「♪ な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな?」
子供たち「ドライヤー!・ドライヤー!」
千砂都「あっ! わかった!」
ドライヤーをことりに向ける。
千砂都「警察だ! 手を上げなさい!」
ことり「きゃっ! 刑事さん!」
ことりが両手を高く上げる。
子供たち「ちが〜う!」
梨子「(何やりだすかわからないから、受け取るこっちは、結構怖いわね…)」
千砂都「ことりお姉さん、あなたは子供たちにあげるクッキーを一人でこっそり、全部食べちゃいましたね?」
ことり「(あっ…、それって、収録終わった後、お見送りの時、最後に子供たちに手渡しするクッキーのことを使ってる?)」
千砂都「(使えるものは使わないとね~♪)」
ことり「うぅ…すみません…! あまりに美味しそうだったので、つい一口のつもりが…。 って! 千砂都お姉さん! そもそもそれはピストルじゃないよ!」
梨子「そうよ、千砂都お姉さん。そんな危険な物、このメロディランドにあるわけないでしょ」
梨子も呆れたようなポーズを取り、加勢する。
ことり「そうだよね、梨子お姉さん!違うよね!? ことりお姉さんは何も悪いことしてないよ? むしろクッキーだって、みんなに渡すの楽しみにしてたんだから!」
千砂都「えぇ〜? じゃ、これは一体何なの?」
千砂都は不思議そうにドライヤーを眺め、また耳に当てようとしたり、持ち方変えてみたり、迷走していく。
ことり「このままじゃことりお姉さん、千砂都お姉さんに逮捕されちゃうよ! みんな、これが何なのか千砂都お姉さんに教えてあげて! せ〜の!」
子供たち「ドライヤー!」
梨子「正解〜! そうだね!これは髪を乾かすために使うドライヤーね!」
千砂都「あぁ〜そっか〜! ドライヤーか〜! 危ない危ない、ことりお姉さんを逮捕しちゃうところだったよ。教えてくれてありがとう、みんな〜! おかげで間違いに気づけたよ。 さてさて、それじゃ次いっくよ~!」
次に箱から出したのは、大根だった。
千砂都「おや? 今度は何かな?」
ことり「♪ な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな?」
しかし、先ほどのバナナやドライヤーのときとは違って、子供たちはすぐには答えず、3人の動きをじっと見ている。
千砂都「(あ、みんな、次のボケを待っててくれてるんだね! これは、さっきよりもう少し長く遊んでも大丈夫だよね?)」
千砂都「う〜ん、この太いフォルム、そしてこのずっしりとした重さ。 わかった!これはバットだ! カキーンって、すっごいホームランが打てそうだね!」
千砂都は、大根の葉に近い部分をぎゅっと両手で握りしめ、腰を深く落として構えた。
(BGM:ドタバタコメディ)
千砂都「さあ、千砂都選手、構えました! ピッチャー、投げた! カキーン!」
勢いよく素振りを一発。
千砂都「打った~! これは大きい!大きいぞ〜!」
子供たち「ちが~~う!!」
ことり「(みんな、すごく楽しそう…! もっと楽しんでほしいな! そうだ!私も少し、一緒に遊んでみようかな♪)」
ことり「違うよ〜、千砂都お姉さん! それは~…、マイクだよっ!」
千砂都、梨子「えっ…?」
梨子「(ちょっと待って、ことりちゃんまでボケに回るの!? まさか、このあとのツッコミを、全部私一人にさせる気なの!? いいわ……! 2人がその気なら、受けて立つわ! まとめて面倒見てあげる!)」
千砂都は、ことりの意図を瞬時に理解して、ニヤリと笑う。
千砂都「(いいじゃん、それ! ことりちゃん、ナイスアイデア! まさかことりちゃんから仕掛けてくるなんて思わなかったけど。 だったらもっと面白くしちゃおう!)」
大根の葉の部分を上にして、マイクのようにことりへと手渡した。
ことりは、それを胸の高さに持つ。
ことり「放送席、放送席!ヒーローインタビューです! 今日のヒーロー、見事なバッティングを見せてくれました、千砂都選手に来てもらってま〜す!」
千砂都は子供たちに向かって、片手を小さく上げて爽やかに手を振った。
ことり「いや〜、千砂都選手! さっきは本当に惜しかったですね〜!」
千砂都、梨子「えっ!?」
梨子「負けたの!? 惜しかったってことは、結局ボール取られてアウトになってたの!?」
千砂都「……いや〜、自分では完璧な手ごたえだったんですけどね〜。フェンスのギリギリのところで、相手のセンターにジャンピングキャッチされて、取られちゃいました〜…。本当に悔しいです」
梨子「それは惜しかったわね~。もったいない! あと数センチ高ければ、逆転サヨナラホームランだったのに〜!」
梨子が本気で悔しがるファンのように頭を抱える。
ことり「今後の活躍に期待してます」
千砂都「頑張ります!」
梨子「って、ちょっと待って! 何で負けたのにヒーローインタビューされてるのよ!?」
ことり「可哀想だったから…?」
梨子「負けたインタビューを、わざわざされるほうが可哀想よ…」
大根という一つのアイテムが、千砂都の手によって「バット」になり、ことりの手によって「マイク」になる。
全く違う二つのボケが同時に進行し、噛み合っているようで噛み合っていないカオスな空間。
ことり「(ちょっとボケを重ねすぎて、子供たちには分かりにくかったかな?)」
ことりは、ふと我に返り、子供たちの顔を見た。プロ野球のノリは、少し難しかったかもしれない。
子供たち「どっちもちがう〜〜!!」
千歌「あはははっ!ぜんぜんちがうよ~!バットじゃないし!マイクじゃないし!」
千砂都「あれれ? 子供たちから、どっちも違うって言われてるよ、ことりお姉さん」
ことり「あれ? おかしいね~、千砂都お姉さん」
2人は、梨子を見る。
ことり「梨子お姉さ〜ん、これ、本当は何ですか〜?」
千砂都「バットですか? マイクですか?」
梨子「………」
梨子「(クスッ……。もう…、2人とも息がぴったりなんだから…)」
梨子「みんな、このおっちょこちょいなお姉さんたちに、これが本当は何か、大きな声で教えてあげて。せ〜のっ!」
子供たち「だいこ~ん!」
梨子「ピンポンピンポーン♪ 正解よ! これは、お料理に入れるととっても美味しい大根でした~!」
千砂都「あっ!大根か!」
ことり「そうだったね!」
観覧席の保護者たちもくすくすと笑ってる。
絵里「あんなに緊張してたことりが、まさか自分からボケにまわるなんて、驚いたわ」
かのん「ちょっと慣れてきたんですかね? ちぃちゃんもノリノリで楽しそう!」
◇副調整室
彼方「こんなに笑ってくれたなら、このコーナー大成功でしょ~?」
果南「アドリブとは思えないね」
マルガレーテ「想像以上よ。 まあ梨子がうまいこと落とすからいいでしょ」
可可「これはもう、来週も、これなあに?をやるしかないデス!」
すみれ「次の小道具も曜たちに考えさせないとね」
恋「はい。いよいよ最後の問題です。3人はどう締めてくれるますかね?」
◇撮影スタジオ
千砂都「それじゃ、いよいよ最後の問題だよ!」
千砂都が最後に取り出したのは、ネクタイだった。
千砂都「これはなにかな?」
ことり「♪ な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな? な〜にかな?」
子供たち「………」ワクワク
千砂都「今度こそわかったよ!」
ことり「千砂都お姉さん、本当に?」
梨子「大丈夫? 今度こそ間違えない?」
千砂都「バッチリ! これは新体操のリボンだね!」
ことり、梨子「新体操のリボン!?」
千砂都は一歩下がり、足元の位置を確認すると…。
千砂都「……っ」
ネクタイを高く掲げて空中で回し始めた。
(BGM:想いのかけら)
ことり、梨子「っ!?」
二人は息を呑む。
いや、副調整室にいる果南たちや、スタジオにいるきな子たちも息を呑む。
メロディランドたいそうのレッスン以外で、千砂都のダンスを見るのは、これが初めてだった。
ネクタイが空気を切り、ふわり、ひらりと宙を舞う。
軽やかなターン、しなやかな腕の伸び、そしてブレのない体軸。
ネクタイが一瞬、本物の鮮やかな色をしたリボンに錯覚した。
子供たちも目を丸くしながらも、目の前の光景を輝かせて見てた。
最後に、千砂都は軽やかなステップで一回転し、ネクタイをふわりと収める。
千砂都「どう?」
小首をかしげ、いたずらっぽく笑って、ことりたちを見回す。
千砂都「(ツッコミよろしく♪)」
しかし返ってきたのは…。
子供たち「すご~い!」
という子供たちの素直な賞賛と笑顔と拍手だった。
(BGM:取り調べ室)
千砂都「えっ? あれ? いや、その……正解かどうか……」
戸惑った千砂都は、ことりと梨子を頼るように視線を送るが、ことりと梨子もなぜかツッコミを入れず、優しい笑みを浮かべたまま、拍手していた。
千砂都はその反応に戸惑いながら、そっと2人に近づき、小声で囁く。
千砂都「ことりちゃん、梨子さん、褒めてくれるのは嬉しいけど、今は子供たちに正解教えないと…!」コソッ
ことり、梨子「あ……」
ことり「み、みんな~、千砂都お姉さんのダンス、すごかったね~!」
子供たちは元気いっぱいに頷いた。
梨子「でもね、みんな、これは新体操のリボンじゃないわよ~」
ことり「みんなで最後に千砂都お姉さんに教えてあげよう! せ〜の!」
子供たち「ネクタ〜イ!」
千砂都「そうだね! 正解はネクタイでした〜! みんな、大正解!」
ことり「あ、ほらっ、梨子お姉さんも、同じものをつけてるね」
ことりが梨子の胸元を指差すと、梨子も自分の衣装のネクタイをつまんで、子供たちに見せる。
梨子「そうなの。 あとはみんなのパパたちがお仕事に行くとき、これをつけているのを見たことないかな?」
千歌「え〜? ちかのパパ、それつけてないよ!」
ことり「お仕事によっては、ネクタイをしていないパパもいるね」
千歌「ちかのおうち、りょかんなの!」
千砂都「へぇ〜! 旅館なんだ! じゃ、千歌ちゃんのパパはかっこいい板前さんの服を着て、お仕事してるのかな?」
千歌「うん! おんせんとかきもちいいよ! おねえさんたちもいつかはいりにきて!」
ことり「うん、いつかね」
千砂都「だから、みんなも家にネクタイがあっても、千砂都お姉さんみたいに振り回して遊んだら、ダメだからね」
たくみ「僕のパパはたまに夜、頭に巻いて、ママに怒られてる!」
ことり、千砂都、梨子「(それはお酒飲んで帰ってきたお父さんかな?)」
3人とも同じことを思ったが、子どもの前で突っ込むべきではないと判断し、あえて何も言わずに、小さな苦笑いを浮かべた。
ことり「そっかぁ~。 パパもお仕事頑張って、楽しくなっちゃったんだね」
梨子「オホンッ…。 それじゃ、今日のおさらいよ!」
千砂都「今日のこれなあに?は、バナナ、ドライヤー、大根、ネクタイでした~!」
ことり「みんな、また遊ぼうね!」
子供たち「は~い!」
◇副調整室
果南は腕を組み、モニターに映る千歌の姿を見ていた。
果南「千歌、さりげに自分の家、宣伝したね」
彼方「将来は有望な女将さんだね~」
可可「また社員旅行で行きたいデス! あの素晴らしい時間を、ことりと千砂都にも共有したいデス! 露天風呂も、美味しいご飯も最高デス!」
すみれ「あんたもちゃっかりしてるわね。 まぁ、あの旅館の雰囲気は悪くなかったわね。私も、たまには羽を伸ばしたいわ」
恋「ふふっ、そうですね。また機会がありましたら、みんなで行きましょう」
マルガレーテ「さてと、いよいよかのんの初めての作詞の歌が、子供たちに披露されるのね」
果南はインカムのイヤホンを入れる。
果南「みんな、今日の収録もラストスパートだよ! 素晴らしい新曲の初お披露目、最後まで気を抜かず、子供たちに全力で楽しんでもらおう!」