うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

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第4話「わくわく☆初収録」⑧

(BGM:夢と現実の狭間)

 

 

◇編集室

 

ことり、千砂都、侑、せつ菜、梨子も後ろから見てる。

 

 

栞子「昨日撮影した分と繋げて、この時点で大体34分くらいになりましたね」

 

恋「盛り上がった分、やはり少し過ぎてしまいましたね」

 

ことり「あの…34分ってことは、どこか4分は放送に使えないってことですか?」

 

千砂都「どこをカットするか、すごく頭使いそう…」

 

メイ「いや、2人とも、よく考えてみろ。番組と番組の間には『CM』が入るだろ?」

 

ことり、千砂都「あ…」

 

メイ「テレビには、尺っていう絶対的なルールがある。うたメロの放送枠は、確かに30分だけど、CMが入る時間も計算すると、実際に放送できるのは、大体23分くらいなんだ」

 

梨子「その放送枠にきっちり収まらなければ、どれだけ全部がいいシーンでも、どこかは必ずカットせざるを得ないのが、現実ね」

 

千砂都「えっ!? 34分あるものを、23分にですか…!?」

 

果南「大丈夫大丈夫! 3年間、私たちはこれを続けてきたんだから。 栞子たちがいつも通り、いい感じにしてくれるよ!」

 

栞子「簡単に言わないでください、果南さん。 毎回どれだけ私たちが、頭を悩ませていると思ってるんですか…? 時間内に綺麗に収まるように、新シーズンからは、スタジオの現場でも、もっと秒数を意識してもらわないと困ると、あれほど何度も釘を刺したはずですが?」

 

果南「私じゃないよ。彼方の台本のせいだよ。 時間配分きちんと書いてくれないもん。 それに子供たちには、時間を忘れて、いっぱい楽しんでほしいじゃん」

 

彼方「そうそう~、それに今回は、ことりちゃんと千砂都ちゃんの初デビューだよ? たくさん可愛いところを視聴者のみんなに見せたいじゃ~ん」

 

恋「それを調整するのも、あなたと果南さんの仕事だと、いつも言ってるじゃないですか」

 

果南「恋だって、最終プロットチェックのときに『この内容なら子供たちも大喜びですね、これでいきましょう』って、ノリノリで承認してくれたじゃん」

 

彼方「そうだ〜そうだ〜、恋ちゃんも同罪だ〜」

 

恋「それは、内容の素晴らしさを評価したのであって、時間をオーバーしていいと言ったわけではありません」

 

 

ことり「梨子さん、あの4人、なんだかすごく仲が良いですね?」コソッ

 

梨子「えぇ。 あの4人はね、このテレビ局の同期なの。 3年前、この『うたって☆メロディランド♪』を、ゼロから一緒に立ち上げられたのも、あの4人の強い絆と信頼があったからこそできたの」

 

千砂都「そうなんですね~」

 

 

四季「果南さん、ここの千砂都ちゃんが大根をバットにして構えるシーン、どの映像を繋ぎますか?」

 

果南「そうだね〜。ここは千砂都ちゃんの全身のフォームが一番綺麗に見える、1カメのアングルメインでいこうか。そのあとのことりちゃんが大根をマイクのように千砂都ちゃんに突き出すところで、2カメの寄りにスイッチして」

 

四季「わかりました」

 

ことり「あの…、今さらなことを聞いて、申し訳ないんですけど」

 

果南「なに?」

 

ことり「このスタジオは、撮影は善子さんだけがカメラの後ろに立って、ずっと私たちのことを撮影してくれていましたよね?  でも他にカメラさんなんていないないのに、その『2カメ』って、一体どこにあったんですか?」

 

千砂都「確かに。 他のアングルの映像って、一体どこから撮ってたんですか? 普通、テレビのスタジオって、私のイメージだと、撮影する人がたくさんいて、カメラが何台もあるってイメージだったんで、気になってたんですよ」

 

恋「確かにここは、よそのスタジオとは少し特殊な方法で撮影しています。 何しろスタッフの数が少ないので…」

 

 

(BGM:アクション!)

 

 

果南「善子ちゃんがドリーを滑らせて撮影してるのがメインの『1カメ』。 残りのカメラは、固定の隠しカメラみたいなものがあるの」

 

璃奈「これ、見て…」

 

 

璃奈がスイッチを切り替えると、メインモニターに、スタジオを真上や、斜め上の角度から捉えた、いくつかの異なる映像に映り変わる。

 

 

ことり、千砂都「わぁ…っ!」

 

 

ことりと千砂都は、思わずモニターに顔を近づけた。

 

 

璃奈「スタジオの天井のキャットウォークや、セットの隅っことかに、最新の小型カメラが合計10台、固定されてる…」

 

メイ「これらは全部、人間が後ろに立たなくても、あとから私たちが遠隔操作でレンズを動かしたり、ズームしたりできるようになってるんだよ。 だから、善子一人しかいなくても、異なる角度から、同時にみんなの姿をバッチリ記録できてるってわけだ! まっ、当然これらのカメラを管理するのも、善子の仕事の一つだけどな」

 

ことり「善子さん、一人でそんなにたくさんのカメラを、同時に管理しながら撮影していたんですね…」

 

四季「今度、スタジオ内でドローンを使った撮影を試してみる予定。 そうすればもっといろんなことができる」

 

千砂都「ドローン!? 楽しそうですね!」

 

 

* * *

 

 

ことり、千砂都「あ~……」、梨子、侑、せつ菜「……」

 

果南「いやいや、そこはさ、ことりちゃんがすっごく嬉しそうな表情じゃない? 絶対にノーカットにするべきだよ!」

 

栞子「ですが果南さん。 その表情を丸ごと残せば、それだけで15秒を消費します。その直前にある、千砂都さんのネクタイのリボンの映像も、あなたは『削りたくない』と仰いましたよね? 両方をそのまま残せば、全体の尺がさらに逼迫します」

 

彼方「でもさ〜、あのことりちゃんと千砂都ちゃんの顔、本当に天使みたいだったよ〜? 削ったら彼方ちゃん悲しくて泣いちゃう〜」

 

栞子「彼方さん、泣いても時間は増えません」

 

恋「確かに、どちらも視聴者の心を掴む上で、非常に重要なカットです。捨てがたいですね…」

 

 

モニターの前で繰り広げられる、たった15秒を巡る大人たちの真剣すぎる会議。

 

それを後ろから見守っていたことりと千砂都は、圧倒される。

 

栞子はキーボードから一度手を離し、椅子の向きをくるりと変えて、後ろに立つことりたちを見つめた。

 

 

栞子「ふふっ……驚かれましたか? ことりさん、千砂都さん」

 

ことり「えっ? あっ、はい…。 たった15秒のために、こんなに議論になるなんて…」

 

栞子「普通の人が聞いたら馬鹿馬鹿しいと思えることを、ここのみんなは真剣に話し合うんですよ」

 

千砂都「え……?」

 

栞子「たった数秒のカット割り、たった一言のセリフのタイミング、画面の隅に映るセットのバランス。 世間の大半の人は、テレビを見るときにそんな細かいところまで気に留めないでしょう。 流し見されて、一瞬で忘れ去られるかもしれません。それでも、その一瞬の手抜きが、子供たちの夢を壊してしまうかもしれない。だから私たちは、普通の人が見過ごすような小さなことに、全員で命を懸けるんです。それがこの『うたって☆メロディランド♪』という番組なんです」

 

果南「そういうこと♪」

 

 

メイも、四季も、璃奈も、それぞれのデスクで静かに頷いていた。

 

 

侑「ことりちゃん、千砂都ちゃん。2人が今日見せてくれた最高の笑顔は、たとえ放送で何秒かカットされちゃったとしても、ここにいた全員の心に一生残り続ける本物の奇跡だよ。番組を愛するスタッフが、こんなに熱くなれるくらいの素晴らしいものを、2人は今日、あのステージで作ったんだよ。だからこれからも、何も心配しないで、胸を張って!」

 

せつ菜「そうです! 今日はまだ始まりに過ぎません! 2人が届ける元気が、これから編集の魔法で何倍にもなってテレビの前の子供たちに届くんです! これからのステージで、その素晴らしいパワーをもっともっと爆発させていきましょう!」

 

ことり「侑さん…! せつ菜さん…!」

 

千砂都「うん! 皆さんがこんなに素敵な魔法をかけてくれるなら、私はスタジオで、もっとたくさんの笑顔を咲かせたい! このスタジオを、世界で一番綺麗な場所にしちゃおう!」

 

果南、恋、彼方、梨子「……」ニコッ

 

栞子「クスッ…まったく…。 出演者がこれだけやる気なら、私たちも負けていられませんね。 メイさん、四季さん、璃奈さん。1秒も無駄にしない完璧なカッティングを始めます。千砂都さんのステップからことりさんの満面の笑みへの繋がり、コンマ数秒単位で調整して、両方、最高のアングルで残しますよ!」

 

メイ「よし、腕が鳴るぜ!」

 

四季「了解です」

 

璃奈「りなちゃんボード:やる気全開」

 

果南「それじゃ、そんな具合であとはよろしく!  さて、ことりちゃんたちお待たせ。 面談行こうか!」

 

ことり、千砂都「あ、はい!」

 

 

* * *

 

 

◇応接室

 

果南「適当に座って~」

 

 

ことりと千砂都と梨子は、並んでソファに腰を下ろして、その正面のソファに果南と恋も座り、侑とせつ菜は、テーブル横の椅子に座った。

 

 

果南「まずはこの1週間、本当にお疲れ様。 怒涛のスケジュールだったと思うけど、基本的には、これが私たちの『制作サイクル』だよ。 2人の頭の整理も含めて、これから毎日繰り返される大まかな流れを、もう一度しっかり説明しておくね」

 

ことり、千砂都「お願いします」

 

 

(BGM:SC-3913【Nash Music Library】)

 

 

果南「まず、私たちの1週間は、火曜日からスタートするの」

 

 

恋が補足資料をテーブルに置いた。

 

 

果南「火曜の朝一番に全員で集まって、全体の打ち合わせ。 そこで今週放送する番組のテーマを決める。例えば『春のピクニック』とか、『おもちゃの国』とかね。 そのテーマが決まり次第、各班分かれて作業に取り掛かる。  可可ちゃんとすみれちゃんは衣装制作。 彼方は台本の書き上げ。 曜と花丸ちゃんは小道具やスタジオセットの制作。 善子ちゃんとエマちゃんは機材チェック。 それと並行して、ことりちゃん、千砂都ちゃん、梨子ちゃんの3人は、マルガレーテちゃんと、かのんちゃんと一緒に、その週の歌のコーナーの振り付け確認や、レコーディング、さらにはその歌のコーナーの本番撮影や、寸劇パートの撮影までをこなしてもらう。 つまり、子供たちを入れない状態での撮影は、この平日の間に全部終わらせちゃうの!」

 

千砂都「一週間でそれだけのことを毎日するんですね…?」

 

果南「そう。そして土曜日が、まさに今日みんなが経験した、子供たちをスタジオに招いての撮影だね。 これが終わったら、さっき見てきたように、栞子たち編集チームが手分けして、今夜の深夜までに1本の番組へと綺麗に作り込んでいく!」

 

 

ことりと千砂都は、メモを一生懸命取ってる。

 

 

果南「その『完パケ』したテープを、局内にある『マスターコントロールルーム』っていう場所に持って行く! あとはそこの専門の技術スタッフさんたちが、最終的な画質や音量に仕上げて、電波に乗せるための準備を整える。そこまで完了すれば、月曜日の夕方4時、全国のテレビに、うたメロが放送されるってわけ!」

 

ことり「あの…すみません。 その『完パケ』って、どういう意味ですか?」

 

千砂都「そのあと言ってた、マスター何とかって部屋の意味も、わからなくて…」

 

梨子「ふふっ、初めて聞く言葉ばかりで戸惑っちゃうわよね? 『完パケ』っていうのは、『完全パッケージ』の略よ。 さっき栞子さんたちが作業していたバラバラの映像を一本に繋いで、画面に可愛いテロップやイラストを入れて、テレビでそのまま流せる状態までに仕上げた『完成品のテープ』のことを、業界用語では、完パケっていうの」

 

ことり「完全パッケージだから、完パケ…!」

 

恋「そうです。 そして千砂都さんが疑問に思われた『マスターコントロールルーム』。通称『主調整室(しゅちょうせいしつ)』のことですが、このテレビ局全体の心臓部にあたる非常に重要な部屋です。 テレビというのは、当たり前ですが、私たちの番組だけでなく、ニュースやドラマ、バラエティ、アニメなど、さまざまな番組を放送していますよね?」

 

ことり、千砂都「はい」

 

恋「マスターコントロールルームは、それらのあらゆる番組のテープや、CMのテープをすべて一括で預かり、あらかじめ決められたタイムスケジュール通りに、24時間365日、専門の技術者が交代制で常に画面を監視し続ける場所です」

 

果南「いつか時間がある時、連れていくよ」

 

千砂都「わかりました。 テレビって、そうやって放送されていたんですね?」

 

果南「そういうこと。  一応、大まかな流れはこんなだけど、分かってくれたかな?」

 

ことり、千砂都「はい」

 

果南「それじゃ本題で、今日2人が初めて子供たちの前でやってみた感想を、詳しく聞かせてもらおうかな! まずことりちゃん、どうだった?」

 

侑「…?」

 

 

(BGM:かけがえのないふるさと)

 

 

ことり「私は…本当に今は、胸がいっぱいです。 最初はホントに緊張しましたが、子供たちの真っ直ぐな瞳を見たとき、あぁ、この子たちのために私は今ここにいるんだって、心の底から思えました。……ただ、子供たちの元気なパワーに圧倒されて、予定していた立ち位置から、少しズレてしまったのは反省点です」

 

果南「ははっ、そこは善子ちゃんが上手く追ってくれるから大丈夫だよ。あの子、あぁ見えて、カメラを動かすセンスは抜群だから。 それじゃ、千砂都ちゃんはどうだった?」

 

せつ菜「…?」

 

千砂都「私は、とにかく楽しかったです! お絵描きのコーナーで、男の子が「大きくなったら新幹線になりたい」って、急に予想もしない答えが来たときは、ちょっとびっくりしましたけど…。  今後の目標としては、もっと子供たちの動きに気を配って、みんながケガをしないように、スムーズにステップへ誘導できるようになりたいです」

 

果南「期待してるよ。 梨子ちゃんは先輩として、何か2人に言っておきたいこととかある?」

 

梨子「そうですね~。 私から言いたいことは、ただ一つ」

 

ことり、千砂都「…?」

 

梨子「今日のその『楽しかった』という気持ちを忘れないでいてほしい。  これから毎日、さっき説明した通りの厳しいスケジュールが始まって、時には体力的にきつかったり、上手く歌えない、笑えないって悩む日も、いつか絶対にやってくるわ。 でも、今日2人が見た子供たちの笑顔と、今胸にある熱い思いがあれば、どんな壁だって乗り越えられるわ」

 

ことり、千砂都「梨子さん…!」

 

梨子「これから私たちは、3人で一つの『お姉さん』よ。困ったことや、何か不安があったら、何でも私に言って。 私たちは、子供たちの夢を守るお姉さんなんだから。一緒に頑張りましょう!」

 

ことり、千砂都「はい!」

 

果南「うん! 恋、新人お姉さんの初の公開収録の評価は、文句なしでいいかな?」

 

恋「はい。 ですが、現状に私は満足しませんよ。 もっと楽しいうたって☆メロディランド♪になれるよう、日々ステップアップを目指してください」

 

ことり、千砂都「はい!」

 

果南「侑ちゃん、せつ菜ちゃんも、これでいいかな?」

 

侑「はい、大丈夫です」

 

せつ菜「お二人の成長を全力でサポートします!」

 

果南「うん。それじゃ、最後はディレクターとして、2人に今後の課題を、私から出させてもらおうかな」

 

ことり、千砂都「…?」

 

果南「さっき栞子たちが言ったけど、これから2人も、頭の片隅でもいいから、時間を意識するっていう高度な技を身につけていかなきゃいけないかな」

 

ことり「時間を意識ですか…?」

 

果南「もちろん私も『そろそろ次のコーナーへいこう』って指示を出すけど、例えば、子供たちが予想外の反応をして長引きそうになったら、次のコーナーの繋ぎを、少しだけテンポアップして、自然に移行できるようにね」

 

千砂都「ただ楽しむだけじゃなくて、全体の流れをコントロールする意識も必要なんですね?」

 

恋「もちろんこの課題は、来週、再来週でどうこうできるものじゃありません。それは長く経験を積んで、初めて身に付く、職人技のようなものです。ですから焦る必要はありません。スタッフとの信頼関係が築けるよう、まずはこのメロディランドのテンポに慣れていくことが、当面の課題ですね?」

 

果南「だね! それじゃ、とりあえずここまでかな。 明日と明後日はお休みだから、ゆっくり休んで、また来週火曜日から頑張ろう!」

 

ことり、千砂都、梨子、侑、せつ菜「はい!」

 

果南「うん! じゃ、お昼にしようか! あとはまた来週の準備を少しして終礼したら、今日は上がっていいから」

 

ことり、千砂都「は~い♪」

 

ことり「(いつものお弁当を食べて、夕方まで準備に取り掛かった。 まだまだ覚えることは山積みだけど、私、もっとこの『うたって☆メロディランド♪』が大好きになっちゃった♡  テレビ局というのは不規則なタイムスケジュールだけど、これから頑張ります♪)」

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