うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

39 / 50
いきなり、リーガルハイ・ハイのシーンがww

熊本地震については、熊本県民として、本当に今でもトラウマです…。


第5話「鬼の理詰めスポンサー」
第5話「鬼の理詰めスポンサー」①


4月16日土曜日

 

ことりと千砂都が、『うたって☆メロディランド♪』のお姉さんに就任して、今日でちょうど2週間。

 

 

バス「【クラクション】【走行音】」

 

 

◇バス車内

 

吊り革に掴まって、優先席の前に立っている千砂都。

 

スマホのネットニュースを見てる。

 

 

千砂都「(うわ~…、熊本、大変なことが起きてるね…。  今日撮影する18日の放送分は、もしかして撮るだけ撮って、放送は延期されるのかな…? 恋さんと果南さんの判断次第だろうけど、仮にそうなっても、今日スタジオに来る子供たちのために頑張るのには変わりないね。  でも、いつか熊本にいる子たちにも、笑顔を届けられたらいいな…)」

 

 

スマホをポケットにしまう。

 

 

(BGM:プレッシャーに押しつぶされて)

 

 

千砂都「(よしっ、今日の収録も全力で頑張ろう!  あ、そうだ、また『これなぁに?』で、モノボケやっちゃおうかな♪)」

 

 

ふと視線を落とすと、目の前の優先席に座っている若い女性が抱いている赤ちゃんが、じっとこちらを見つめていた。

 

 

千砂都「んっ?……ふふっ」

 

 

千砂都が優しく手を振ると、赤ちゃんはキャッキャと声を上げて笑う。

 

母親が会釈をしてくれたので、会釈返す。

 

ふとまた赤ちゃんを見ると、赤ちゃんは、千砂都が下げているバッグにつけてるたこ焼きのキーホールダーに釘付けになっていた。

 

 

千砂都「ん~? これが気になるのかな~?」

 

 

キーホールダーをコロコロ動かして見せると、赤ちゃんは身を乗り出して小さな手を伸ばす。

 

 

母親「たっくん、それはお姉ちゃんのだから、取ったらダメよ?」

 

千砂都「あっ、すみません! あまりに可愛かったので、つい構っちゃって」

 

母親「いえいえ。優しいお姉ちゃんに遊んでもらえてよかったね~、たっくん」

 

千砂都「たっくんっていうんですね。何か月ですか?」

 

母親「4か月です。ようやく外の景色に興味を持ち始めたところで」

 

千砂都「そうなんですか~。  いっぱい食べて、大きくなるんだよ~?」

 

 

バスが次の停留所で止まった。

 

扉が開くと、ミント色の髪を二つ結びにした黒縁メガネの若い女性と、大きなボストンバッグを肩にかけたお爺さんが乗車してきた。

 

 

千砂都「(あっ…、あのお爺さん、荷物すごく重そう…。 立っているのも大変なんじゃ…?」

 

 

運良く、座っていたお婆さんが降車した。

 

 

千砂都「(あっ、よかった。ちょうどたっくんママの隣が空いた!)」

 

千砂都「お爺さん、こちら空きましたから、どうぞ座ってください」

 

お爺さん「え? あぁ……、ありが――」

 

 

その時、乗ってきた女性がスッと割り込んできた。

 

 

千砂都「っ!?」

 

 

彼女は、お爺さんが座るはずだった席に座り、鞄から一冊の本を取り出して、読書に没頭し始めた。

 

 

千砂都「…………え?」

 

 

バスが発車する。

 

優先席の並びを見渡せば右から、腕にギブスを巻いた青年、妊婦、たっくんを連れた母親、そして割り込んできた明らかに健康そうな女性。

 

 

千砂都「(おかしい…。絶対こんなのおかしいよ…!)」

 

 

お爺さんは、千砂都に苦笑して、重いバッグを持ち直し、体制を整える。

 

 

千砂都「あの…、席を譲ってあげたらどうですか?」

 

女性「……?」

 

 

 

黒縁メガネを掛けた女性は、ようやく顔を上げたが…。

 

 

女性「……?」

 

 

お爺さんを一瞬だけ見て、一言も発さずに、再び本へ視線を落とした。

 

 

千砂都「……あの! 席を――」

 

お爺さん「あぁ~いいんだよ、お嬢ちゃん。ワシは平気だから」

 

千砂都「いいえ、よくないです!  ……あなたですよ! あなたに声をかけてるんです!」

 

 

千砂都は、彼女が読んでいる本のページを遮るように手をかざして振った。

 

女性は再び顔を上げた。

 

 

女性「什麽事?」【何か御用ですか?】

 

千砂都「(えっ!? 中国の人だったの!?)」

 

女性「…?」

 

千砂都「えっと……! えっとね…。 あっ…、在日本(ざいにっぽん)老人(ろうじん)優先(ゆうせん)!」

 

 

周囲の乗客から小さな忍び笑いが漏れた。

 

たっくんの母親も、微笑ましいものを見るような目で千砂都を見ている。

 

顔を赤くして、俯く千砂都。

 

 

千砂都「(うぅ…恥ずかしい…!///  で、でも、間違ったことは言ってないはず…!)」

 

女性「……日本人ですよ」

 

千砂都「えっ?」

 

 

千砂都が顔を上げると、女性は読んでいた本の表紙をこちらに向けた。

 

 

『一からわかる中国語簡単レッスン』

 

 

千砂都「(日本人!? じゃ、今の中国語は何だったの!?)」

 

女性「勉強中なんです。効率的に時間を使うために、移動中を利用しているに過ぎません。 私がこの本の内容に従って中国語を話したので、あなたが勝手に『中国の方だ』と推測されたのでしょうけれど、いささか安直な分析ですね。 それに、あなたのその中国語もどきの、ほぼ日本語を聴かされた、こちらの身にもなっていただきたいものです」

 

千砂都「なっ…!///」

 

 

女性は、また本に視線を戻した。

 

 

千砂都「(この人、譲る気ないんだ…! しかも私の頑張りを、ちょっとバカにした!?)」

 

 

(BGM:Swingin' & Shakin')

 

 

千砂都「(落ち着け、千砂都…。 私はうたメロの体操のお姉さん。 子供たちに優しさと思いやりを教える立場でしょ? ほらっ、たっくんが見てる)」

 

 

たっくんは、まだたこ焼きのキーホールダーに興味津々だが、たっくんの母親は心配そうに千砂都と女性のやり取りを見守っていた。

 

 

千砂都「……いや…勉強中なのは、とても素晴らしいことだと思います。 でも、勉強よりも大切なことがあるんじゃないでしょうか? さっきも言いましたけど、こちらのお爺さんに席を譲ってあげてほしいんです」

 

女性「なぜですか?」

 

 

女性は、次のページを捲った。

 

 

千砂都「『なぜですか?』って……。 見たところ、あなたはお若いですよね? でもこちらの方は、人生の大先輩である、お年を召した方なんですよ!」

 

女性「だから、何ですか?」

 

 

また、ページが捲る。

 

千砂都のこめかみが、ピクリと跳ねた。

 

 

千砂都「体力のある人が、体力のない人に席を譲るのが、当然のモラルであり、マナーだと思いませんか!?」

 

女性「思いますよ」

 

千砂都「えっ…? でしたら話は早いじゃないですか! さあ、立ってください!」

 

女性「しかし、若いから体力があって、お年を召されているから体力がないものだと、一様に断じてしまって、よろしいのですか?」

 

千砂都「はい?」

 

 

女性は再び顔を上げ、窓に貼られた優先席のステッカーを指した。

 

 

女性「ここに描かれている人物は、高齢者、怪我人、妊婦、乳幼児連れ、そして内部障害や難病をお持ちの方。 つまり、外見からは判断できない疾患を抱えている方も、この席の対象に含まれているんです」

 

 

千砂都は反射的にステッカーを目で追う。

 

 

女性「例えば私は今、25歳なのですが、あなた、私が重度の心臓疾患を患っている可能性を、一瞬でも考慮しましたか?」

 

千砂都「えっ…? あ…! 患っているんですか…?」

 

女性「いいえ、極めて健康です」

 

千砂都「(はぁっ!?)」

 

女性「例え話ですよ。その可能性もあったということです。 今のあなたに、それを否定できる根拠はありますか?」

 

千砂都「うっ……。……いいえ……」

 

女性「ですよね?」

 

 

女性は勝ち誇る様子もなく、呆れたような顔で千砂都を見る。

 

次に立っている老人の方へ視線を向けた。

 

 

女性「彼は見た目こそ60代ですが、そのバッグの年季の入りと、ロゴの擦れ具合から推測するに、そのスポーツクラブに長年通われているベテランであると推察できます。  着衣の上からでも分かる重厚な大胸筋、引き締まった腹背筋、そして見事な下腿三頭筋の張り。 貧弱な私よりも、遥かに素晴らしい肉体を維持されています」

 

 

お爺さんは、褒められたのか、皮肉を言われたのか判断つかない複雑な顔。

 

 

千砂都「で、でも、そんなこと今は関係な――」

 

女性「そしてそのスポーツジムは、この停留所の目の前にあります」

 

 

バスは停車し、扉が開いた。

 

 

お爺さん「じゃワシはこれで。 ワシなんかのために悪いね、お嬢ちゃん。ありがとう」

 

千砂都「え…!?  あの! お爺さん!」

 

 

千砂都の呼びかけも虚しく、お爺さんは軽やかな足取りでドアの外へと消えていった。

 

無慈悲に閉まるドア。再び動き出す車内。

 

 

女性「わずか2分程度の区間であれば、席を譲る必要はないどころか、余計な立ち座りの動作を強いることになり、かえって負担をかけます。 ゆえに私は、譲る申し出をしなかった。それだけのことです。 ……以上。何か反論はありますか?」

 

千砂都「…………っ!」

 

女性「再见」【さようなら】

 

 

再び本に視線を戻す。

 

 

千砂都「… ///」

 

 

千砂都は恥ずかしいやら悔しいやらで、逃げるように、次の停留所で足早に降車した。

 

 

千砂都「(もう!なんなのさ! あの人~!!)」

 

 

その後ろ姿を、女性は見送る。

 

 

女性「………見定めさせていただきます」

 

 

女性は本を鞄にしまい、今度はスマホを取り出した。

 

画面に先ほど降りたお爺さんが、筋肉見せつけている自撮りアイコンが、表示されている。

 

 

『ご協力ありがとうございました。 謝礼はご提示いただいた口座のほうへ送らせていただきます』

 

 

メッセージを送信し、ふと隣を見る。

 

 

女性「っ!?」

 

 

たっくんの母親、周囲の座席に座っている乗客たち、吊り革や手すりを掴んで立っている乗客たちが、冷ややかな目で、女性を見ていた。

 

 

乗客「なにあれ…? 嫌な感じ…」ヒソヒソ

 

乗客「さっきの女の子、今にも泣きそうな顔して降りてったぞ…」ヒソヒソ

 

乗客「今時の若い子は、屁理屈が多くて困るわね~…」ヒソヒソ

 

女性「っ!? っ!?    ……失礼しました」

 

 

女性は短く一礼して、名刺入れを取り出した。

 

そして周囲にいた乗客たちに、一枚ずつ丁寧に名刺を差し出していく。

 

乗客たちは、戸惑いながらも、反射的に受け取ってしまった。

 

 

女性「お騒がせしました。 先ほどのお爺さんは、私の知人です。  少々、あのお姉さんの素行調査を行なっておりましたので」

 

母親「…?」

 

 

たっくんの母親が受け取った名刺には、こう刻まれていた。

 

 

(BGM:ファイブマーメイド)

 

 

『鬼塚商店 ONITUKA KIDS SHOP  鬼塚冬毬』

 

 

 

(オープニング:NEO SKY, NEO MAP!【サビ】)

 

 

ことり、千砂都『♪ どこに向かうかまだわからないけど 面白そうな未来が待ってると 笑いあえる君がいれば』

 

【挿絵表示】

 

ことり、千砂都『♪ 嬉しい 今日も ありがとう』

 

 

※スポンサー紹介

 

ことり、千砂都『♪ さあこれからはそれぞれの地図マップ 広げたら気軽に飛びだそう 夢見て憧れて また夢が見たいんだ 見たい、見たいんだ!』

 

※スポンサー紹介終了

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。