うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

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第5話「鬼の理詰めスポンサー」②

(BGM:気怠い朝)

 

 

JR渋谷駅を降り、結ヶ丘テレビ局へと向かう千砂都の足取りは、ずんずん進んでる。

 

 

◇結ヶ丘テレビ エントランス

 

千砂都「おはようございます……」

 

こはく「おはようございます。  んっ…?」

 

 

◇結ヶ丘テレビ エレベーターホール

 

壁には、ほかの番組のポスターに挟まれて、番組の新体制を告知する『うたって☆メロディランド♪』のポスターが飾られてる。

 

『みんなでいっしょに、うたって、おどろう!』の言葉とともに、ことり、千砂都、梨子の集合写真。

 

 

千砂都「(っ! ……しっかりしなきゃ! 今日は2回目の収録日。いつまでも、あんな人のことで、くよくよしてちゃダメだよね!)」

 

 

エレベーターで6階へ。

 

だが、エレベーターの中で、あの女性の理屈や、見下してるような表情を思い出した。

 

 

千砂都「む~……」

 

 

◇6階 うたって☆メロディランド♪制作フロア

 

曜「あ、千砂都ちゃん! おはヨーソロー!」

 

花丸「おはようずら、千砂都ちゃん♪」

 

千砂都「曜さん…、花丸さん…、おはようございます…」

 

 

千砂都は力なくぺこりと頭を下げると、そのまま廊下の先へ。

 

 

曜、花丸「…?」

 

花丸「今の千砂都ちゃんですよね?」

 

曜「いつもなら『おっはよございま~す!』って、こっちが元気になるくらい明るい挨拶するのに。どうしちゃったのかな?」

 

 

千砂都は「ことり・千砂都」と書かれた楽屋の扉を開けた。

 

中にはかのんと、すでに衣装に着替え終えたことりが話していた。

 

 

ことり「あ、おはよう! 千砂都ちゃん♪」

 

かのん「おはよう、ちぃちゃん!」

 

千砂都「……うぃっす〜……」

 

 

どさりと、ソファーに座る。

 

 

ことり、かのん「…?」

 

かのん「あれ? どうしたの?ちぃちゃん」

 

ことり「なにかあった?」

 

千砂都「……聞きたい?」

 

ことり「えっ…!?  あ…、うん。無理にとは言わないけど――」

 

千砂都「聞いてよ! さっきバスで、ほんっと信じられない人に会ったの!!」

 

ことり、かのん「っ!?」

 

千砂都「最初は穏やかな空間だったの! 私は優先席の前に立ってたんだけど、目の前に赤ちゃんを抱っこしたお母さんが座っててね。その赤ちゃんが、もう天使みたいに可愛くて、すっごく癒されたの!」

 

かのん「うんうん、それで?」

 

千砂都「次のバス停で、重そうなバッグを持ったお爺さんが乗ってきたの。 ちょうど目の前の優先席が空いたから、私、そのお爺さんに声をかけたの。『こちらに座ってください』って。  で!お爺さんが座ろうとした、その時だよ!!」

 

ことり、かのん「…?」

 

 

(BGM:気まずい空気)

 

 

千砂都「ミント色のツインテールをした女の人が、横からスッと割り込んできて、そのままその席に座ったの! 信じられる!? 今お爺さんが座ろうとしてたんだよ!?」

 

ことり「それはちょっとダメだね…」

 

千砂都「でしょ!? しかもその人、座った瞬間に本を読み始めて、周りのことなんて一切見向きもしなかったの! だから私、勇気を出して言ったんだよ。『お爺さんに席を譲ってあげてください』って。 そしたらその人、中国語で話し掛けてきたの!」

 

ことり「えっ? 中国語?」

 

かのん「ってことは、その人、中国人だったの?」

 

千砂都「私もそう思ったよ! この人はきっと旅行か何かで、日本に来た人なんだろうなって思った。  でも一生懸命伝えたんだよ。『日本ではお年寄りに席を譲のがマナーですよ』って意味を込めて、『在日本、老人、優先』って!」

 

ことり「……クスッ…」

 

かのん「ちぃちゃん、それ日本語だよ…」

 

千砂都「ううっ…、笑わないでよ~…/// 周りのお客さんもクスクス笑い出すし、恥ずかしかったんだから~…!///」

 

ことり「ごめんごめん」

 

かのん「その人、わかってくれた?」

 

千砂都「もっと最悪なのはこのあとだよ! その人、全然中国人じゃなくて、ただの日本人だったの!」

 

ことり「えっ!? 日本人!?」

 

かのん「じゃ、その中国語は何だったの?」

 

千砂都「読んでた本の表紙を、これみよがしにドヤ顔で見せてきて、その本の内容は、中国語レッスンの本!  もう、わざとでしょ!? 完全に私、ただ勘違いして、大恥をかかされただけだよ!」

 

かのん「それは確かに、ちょっとひどい話だね」

 

千砂都「でもね、私は『体操のお姉さん』なんだよ? 子供たちの手本にならなきゃいけないし、何より目の前で、さっきの赤ちゃんも見てるし! だから、ここはめげずにもう一度『お年寄りに席を譲るのは、当然のマナーだと思いませんか?』って言ったの!」

 

ことり「うんうん」

 

千砂都「そしたらその人も『思います』って即答してくれたんだよ。 『あっ、やっと分かってくれた!』って思ったのも束の間!  『若いから体力があって、年取ってるから体力がないと、決めていいのでしょうか? この席は、目に見えない病気の人も対象に含まれてますよ』とか説明してきて…」

 

 

(BGM:チグハグ)

 

 

千砂都「そんなことわかってるよ!  でも、『私は今25歳ですが、もし重度の心臓病を患っていたらどうしますか?』って聞かれて、『あ…確かに私は、見た目しか見てなかったな』ってちゃんと反省して、心配になったから『患ってるんですか?』って聞いたら、『いいえ、極めて健康です』。   ふざけてるでしょ!?人の心弄んで!!」

 

ことり「う~ん、理不尽だね…」

 

かのん「でもさ、そのお爺さんも、一緒になってお願いしなかったの?」

 

千砂都「おまけにそのお爺さんの持ってたバッグを見て、『この人は、次の停留所の前にあるスポーツクラブに通ってるベテランだとか、筋肉の付き方がどうだ』とか言って、結局、そのお爺さんは、本当に次のバス停で降りちゃったの!   『あんたは探偵か~!』って思わず言いそうになったよ!!」

 

かのん「あはは…、本当に探偵さんだったのかもしれないよ?」

 

千砂都「かのんちゃん、真面目に聞いてる?」

 

かのん「聞いてる聞いてる!」

 

千砂都「しかもお爺さんが降りたあと、『わざわざ2分程度の区間なら、席を譲る必要もないどころか、立ち座りの動作を強いることになるから譲らなかった。 反論はありますか?』って言ってきて、私がそれに対して、何も言い返せなかったら、最後また流暢な中国語で『サイなんとか』って言われて~…!」

 

 

千砂都はことりに抱き着く。

 

 

千砂都「うぅ~……悔しいよぉ~、ことりちゃ〜ん!かのんちゃ~ん! 私、間違ったこと言ってないよねぇ!? 何であんなに言われなきゃいけないのさぁ〜!」

 

ことり「よしよし。 千砂都ちゃんは、ちっとも間違ってないよ」

 

かのん「そうだよ。相手の人が少し…いや、相当変わった人だっただけだよ! ちぃちゃんが気に病む必要なんて、全然ないって」

 

千砂都「ホントに…? 私、子供たちに優しさを教える体操のお姉さんなのに、あんな人に負けて、失格じゃない…?」

 

ことり「うん! だって、そんな恥ずかしい思いをしても、最後まで逃げないで、そのお爺さんのために頑張ったんでしょ? 私は、そんな優しい千砂都ちゃんのこと誇りに思うよ♪」

 

かのん「それに、体操のお姉さんはまだ2週間目でしょ? ちぃちゃんのそういう真っ直ぐなところは、これから番組を通じて、たくさんの子供たちに伝わるよ!」

 

千砂都「……ありがとう。 ふぅ…、2人に話したら、ちょっと落ち着いてきた」

 

 

楽屋の外で、すでにことり同様、衣装に着替え終えた梨子が立っていた。

 

 

梨子「………相変わらずね、あの人…」

 

 

梨子は、ことりと千砂都の楽屋に入った。

 

 

(BGM:ルンルン↑どんより↓)

 

 

梨子「千砂都ちゃん、おはよう」

 

千砂都「あっ、梨子さん、おはようございます!」

 

梨子「さっ、今日の本番も楽しみましょ!」

 

ことり「はい!  あの…、梨子さん。今日のこれなぁに?のコーナーは、何使うか知ってますか?」

 

かのん「曜さんのコレクションの食品サンプルを使って、食べ物編をやるんですよね? 確か昨日、そんな話をチラッと聞いた気がするんですけど…」

 

梨子「えぇ。昨日の夜、曜ちゃんったらあれこれ悩んで、彼方さんと果南さんに電話で相談しながら決めてたわ。 それで選ばれたのが、ソフトクリームと、オムライスと、おにぎりね」

 

ことり「ソフトクリームに、オムライスに、おにぎり…!  ねぇ、千砂都ちゃん、今日もヘンテコな回答やる?」

 

千砂都「うん、そのつもりでいこうかな」

 

千砂都「(う~ん…、ソフトクリームだったら、自由の女神みたいに掲げようかな? オムライスはラグビーで、おにぎりは三角だから…)」

 

梨子「オホンッ!  先週は『アドリブでやってみよう!』って果南さんに言われたから、やってみたけど、まさかことりちゃんも、途中からボケに参戦して、私1人でツッコミするとは思わなかったわね」

 

ことり「えへへ…ごめんなさい、梨子さん。千砂都ちゃんがあんまり楽しそうにボケるから、私もつい、楽しくなっちゃって…」

 

梨子「ふふっ、だから今日はちゃんと、事前に誰が、どんなボケをするか決めておきましょう? 栞子さんからも時間配分も考えるように言われたしね」

 

かのん「梨子さんのあのツッコミ、スタッフの間でも『最高にライブ感があって良い!』って大評判でしたよ?」

 

梨子「評価されたのは嬉しいけれどね。  全部の台詞を決めようって言ってるんじゃなくて、ただ、その小道具を『何に見立てるか』、その最初のアイデアだけ、予め私に教えてくれればいいわ。 それさえ分かっていれば、2人がどれだけ話を広げても、私がカバーできるし」

 

ことり「なるほど…! さすが梨子さん、頼りになります!」

 

千砂都「それじゃ、さっき頭の中で考えてたアイデアを言ってもいいですか? まず最初のソフトクリームなんですけど――」

 

 

かくかくしかじか。

 

 

梨子「うん。よし、これで流れはバッチリね! あとはライブ感を大事にしていきましょ。 あとのアドリブは任せるわ」

 

千砂都「はい!」

 

ことり「ふふっ」

 

 

廊下から声が…

 

 

きな子「そろそろ送迎バスが到着するって連絡が来たっす! 皆さん準備お願いするっす~!」

 

エマ「は~い♪」

 

可可「千砂都がいないデス~!まだ来てないデス~!」

 

すみれ「せつ菜!あんた、準備手伝ってくれるのはありがたいけど、まず、千砂都はどうしたのよ!? 連絡来てないの!?」

 

せつ菜「すみません!今確認します!」

 

曜「あれ? 千砂都ちゃんなら、さっき廊下で見かけたよ?」

 

 

ことり「…?」

 

千砂都「っ!  あっ! 着替えるの忘れてた!!」

 

かのん「ホントだ…!」

 

梨子「あ…、ごめんね、千砂都ちゃん。 私の確認のせいで時間を取らせちゃったわね。 すぐに行って着替えてきて」

 

千砂都「はい!行ってきます!」

 

 

急いで廊下に出た。

 

 

千砂都「ごめんなさい!もういます!」

 

せつ菜「あ、千砂都さん、よかったです!」

 

 

◇衣装室

 

千砂都「おはようございます! すみれさん、可可さん、ごめんなさい!」

 

可可「千砂都!待ってたデス!」

 

すみれ「珍しく時間ギリギリね?」

 

千砂都「すみません! 来てたは来てたんですけど、楽屋で、梨子さんとことりちゃんと、今日の作戦会議して、つい時間を忘れて話し込んじゃって。……それに、ちょっと通勤中、理不尽な目に遭ったというか、いろいろとあって……」

 

すみれ「まぁいいわ。理由はどうあれ、現場に来たらやるべきことは一つよ。遅れはすべて、本番のクオリティで取り戻すもの。 今は、準備するったらするわよ! 早く着替えなさい」

 

千砂都「はい、ホントにごめんなさい! すぐ着替えます!」

 

 

フィッティングルームに入る。

 

自身の番組の衣装であるミント色のサロペットに着替える。

 

 

千砂都「そういえば、熊本のニュースを見たんですけど、あっちの様子はどうなるんですかね…?」

 

可可「可可も、今朝のニュースで見たデス。一昨日のは前震というもので、今日のは本震だったなんて、そんな恐ろしいことあるんデスね。 熊本の子供たちが、今どんなに怖い思いをしているかと思うと、可可は本当に心配で胸が痛いデス…」

 

すみれ「気象庁の緊急記者会見でも言っていたわ。これまでの日本の地震学の常識が一切通用しないような、震度7クラスの強い揺れが何度も連続している状態だって。 被害の全貌すら、まだ全然見えていない状況よ。  ここの2階の報道フロアも、朝から全スタッフが総出でピリピリしながら、ずっと報道特番の対応で大騒ぎになってるらしいわね」

 

 

フィッティングルームを出る。

 

 

千砂都「お待たせしました」

 

 

可可はすぐさま千砂都の元へ歩み寄り、サロペットの裾のラインを確かめ、肩のラインに不自然な皺が寄っていないか、丁寧に整えた。

 

 

可可「はい、完璧デス♪」

 

千砂都「ありがとうございます」

 

 

軽めのメイクされる。

 

 

すみれ「でもね、千砂都。こんな時だからこそ、スタジオに来る子供たちが笑える夢の国にする。 それが私たちに課せられた使命よ。    遅刻は言語道断」

 

千砂都「すみません……」

 

可可「可可たちはいつだって、子供たちの心に光を灯す、笑顔の魔法使いでなければならないデス!」

 

すみれ「まっ、地震が落ち着いたら、今度は熊本の子たちにも、私たちの元気を届けないとね。……それはそうと千砂都、あんた、なにかあった?」

 

 

(BGM:ん???)

 

 

千砂都「えっ? 何でですか?」

 

すみれ「いや、顔色が悪いわけじゃないけど、なんかねぇ…。 表情の奥に、何か別の感情がくすぶっているというか。 私の目は誤魔化せないわよ」

 

可可「そういえばさっき、通勤中何かあったって言ってましたね? 可可、聞き逃さなかったデス!」

 

千砂都「いや~…はい。実は、ちょっとだけ朝からムカつくことがあって…。さっきも楽屋で、ことりちゃんとかのんちゃんに、愚痴っちゃったんですけど…」

 

可可「可可でよければ、お話聞いてあげるデス! 本番前にモヤモヤを溜め込むのは良くないデス!」

 

すみれ「そうそう。 そんな顔で、子供たちの前に出られるの? ほら、話しちゃいなさいったら話しちゃいなさい」

 

千砂都「それじゃ――」

 

 

かくかくしかじか。

 

 

千砂「――ってことがあったんですけど! 私、間違ってませんよね!? こんなの、ただの屁理屈ですよね!?」

 

 

すみれと可可は、顔を見合わせた。

 

 

千砂都「どうしました? 私の中国語、下手くそだったから呆れてるんですか?」

 

可可「あ、違うデス。確かに中国語じゃなかったデスけど、そういう問題ではないデス」

 

千砂都「…///」

 

すみれ「ねぇ、千砂都。一つ確認だけど、まさかその人って、ミント色のツインテールをして、黒縁のメガネをかけた、いかにも氷のように冷たい目をしてる女じゃなかった?」

 

千砂都「えっ? そうです! まさにその通りです! そのまんまですっ!」

 

すみれ「やっぱりそうなのね…」

 

可可「ついに来たデス…。運命のときが…」

 

千砂都「何が来たんですか!?  もしかして、お知り合いなんですか?」

 

 

すみれは同情するように、千砂都の肩にぽんと手を置く。

 

 

すみれ「千砂都、残念だけど、その人とは恐らく、近いうちにまた会うことになるわよ」

 

千砂都「えっ…?」

 

可可「しかも、このスタジオで再会するデス!」

 

千砂都「えええええ〜〜〜〜っっ!?!?」

 

すみれ「まっ、とりあえず、今はスタジオに早く行かないと、子供たち来ちゃうわよ。 詳しいことは後! 行った! 行った!」

 

千砂都「わっ、わっ、ちょっと待ってください!すみれさん! 説明を――!」

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