うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

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第5話「鬼の理詰めスポンサー」⑨

◇副調整室

 

恋と果南とマルガレーテが入る。

 

 

果南「…?」

 

 

ソファーで、彼方が寝ていた。

 

 

彼方「Zzz…、Zzz…」

 

果南「まったく、のんきでいいよね~。 こっちは大変だったのに…」

 

恋「彼方さん、起きてください。もう子供たちが入って、本番が始まっていますよ」

 

彼方「ん~……?   もう始まってる~?   ん~~…起きよう…」

 

 

音響卓のフェーダーに指をかけ、マイクのレベルを精緻に調整。

 

 

マルガレーテ「準備いいわよ」

 

果南「OK」

 

 

インカムON。

 

 

果南「各班、切り替えて、本番いくよ!」

 

きな子『果南さん、何かあったんすか? 鬼塚商店さんも来てるっす。 まさか…あの?』

 

果南「そのまさかだよ。今は撮影に集中して!」

 

きな子『あ、はいっす!』

 

 

◇テレビセット

 

千砂都「みんな、最初の体操いくよ~!」

 

ことり「メロディランドたいそう、スタート!」

 

 

明るい前奏のピアノがスタジオに響く。

 

 

梨子のピアノ「~♪」

 

 

かのん、侑、せつ菜も、テレビカメラの横で、子供たちにお手本を見せるために一緒に踊る。

 

かすみは、梨子のピアノのそばに立ってる。

 

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎歌おう 歌おう 笑顔でね」

 

 

 

今度は右手を腰に、左手を口元に添えて、同じ仕草。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎踊ろう 踊ろう 元気よく」

 

 

 

両手を胸の前に出して、肘を軽く曲げる。

 

手首を“ぴょこっぴょこっ”と動かして、子犬のようになる。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ワンちゃんや」

 

 

 

両手を耳の横にして、くいっと曲げて、猫の“にゃん”のポーズ。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ネコちゃんや」

 

 

 

頭の上に手をやって、うさ耳を作る。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ウサちゃんも~」

 

 

 

手を前に出して、笑顔で誘うように斜め下に広げる。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎みんなで一緒に楽しく遊ぼう」

 

 

 

両手を前に突き出し、時計回りに回す。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ぐるぐるぐるぐる」

 

 

 

ワンちゃんポーズ。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ワン!」

 

 

 

ネコちゃんポーズ。

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ニャン!」

 

 

 

二人そろってうさ耳作ってピョンピョン飛ぶ。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎ピョンピョン!」

 

 

 

リズムに乗りながら手を伸ばしたり縮めたり。

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎みんなで歌おう」

 

 

 

ことり、千砂都「♪ ︎︎メロディランド♪」

 

 

「メロ」で手足をぱっと広げて、大の字ポーズ。

「ディ」で腕と脚をすばやく閉じて。

そして「ランド♪」でまた大の字をして、しっかり決めポーズ!

 

 

ことり、千砂都「…」ニコッ

 

 

◇観覧席

 

冬毬「………」

 

夏美「……やりますね、彼女たち。気持ちの切り替えはできてますの」コソッ

 

冬毬「………」

 

夏美「(………ふふっ、やれやれ)」

 

 

◇副調整室

 

彼方「あれ? 梨子ちゃんのところに、かすみちゃんがいるね? もしかして?」

 

果南「だから、そのもしかしてだよ」

 

彼方「そっかそっか~。 どんな感じ?」

 

恋「大変だったんですよ。ことりさんと千砂都さんが、かすみちゃんへの接し方で行き詰まってしまい、冬毬さんがその場で、スポンサーを白紙にすると言い出し、お帰りになるところだったんですから」

 

彼方「えっ? ってことは、冬毬さんのお眼鏡に敵わなかったってこと?」

 

果南「まあ…そんなところ…。 でも梨子ちゃんが、2人が持ってる本当の輝きを信じて、真正面から冬毬さんとぶつかってくれた。 そのおかげで、何とか本番を見てから決めてくれることになったよ」

 

彼方「そっか~、梨子ちゃんが…。 さすがだね。ひとまず安心。 これで挽回できればいいけど」

 

果南「でも、条件は本当に厳しいよ。 これで少しでもミスをしたり、子供たちを不安にさせるような姿を見せたりしたら、その瞬間に冬毬さんはこの場を去る。 契約は完全に終了。 一歩も引けない状況の中で、3人はあのステージに立って挽回しなきゃいけない」

 

マルガレーテ「今の体操で、最低限のクオリティを証明してみせたのは大きいはずよ。 千砂都の体操のキレも、ことりの歌声の安定感も、さっきの動揺もない。 ただお人好しなだけの素人なら、あの極限状態のプレッシャーの中で、子供たちの前であれだけの笑顔は作れない。 あの人に、最初の一撃を入れるだけの実力は、十分に示してみせたはずよ」

 

恋「……信じましょう。 彼女たちを。 私たちのお姉さんを」

 

 

(BGM:桜並木の通学路)

 

 

◇テレビセット

 

ボールプールの時間。

 

 

ことり「今日はみんなで、大きなボールプールで、思いっきり遊ぼう~♪」

 

 

子供たちが一斉に、色とりどりのプラスチックボールが敷き詰められたボールプールへと雪崩れ込む。

 

その先頭を走るのは、やはりかすみだった。

 

 

かすみ「かすみんが、いちばんのり〜!」

 

 

それを見た他の子供たちも、堰を切ったように遊び始めた。

 

3人のお姉さんは、ボールプールに近づく。

 

1人の子が、ピンク、黄色、緑のボールを縦3つ持って、梨子に見せる。

 

 

子供C「みてみて!りこおねえさん! おだんご!」

 

梨子「わぁ、本当だ。とってもカラフルで美味しそうなお団子ね! お姉さんに一口分けてくれるかな?」

 

子供C「はい!」

 

 

ピンクのボールをあげる。

 

 

梨子「ありがとう! もぐもぐ……ん~、甘くて美味しいわね!」

 

ことり「(すごい…、さすが梨子さん。 子供たちの心、一瞬で掴んじゃった)」

 

 

子供D「ちさとおねえさん、つかまえた!」

 

千砂都「わわっ! みんな、囲い込むのが上手だねえ! これじゃお姉さん、一歩も動けないよ~。降参、降参~!」

 

ことり「(千砂都ちゃんも、すごい…。 もうあんなふうに、自分から子供たちの輪に飛び込んで、みんなを笑顔にしてる…。   私も、ただ見ているだけじゃダメだね。しっかりと前を向いて、あの子のところへ…)」

 

 

ことりはかすみのところへ。

 

 

冬毬「……?」

 

ことり「かすみちゃ~ん」

 

かすみ「んっ?」

 

ことり「じゃ~ん」

 

 

ことりが出したのは、魚のフェルト人形。

 

 

ことり「(実はこれ、今日のボールプールで、みんなと一緒に遊ぼうと思って、昨日の夜、手作りして持ってきたんだよね~♪ )」

 

かすみ「おさかなさん!」

 

 

ほかの何人かの子供たちも、集まってくる。

 

 

ことり「このボールプールの中を、スイスイ~って泳ぐのが大好きなお魚さんなんだよ。  スイスイスイ~~」

 

 

ことりが、手首を動かし、魚が泳いでるように動かす。

 

 

かすみ「およいでる!  それっ!」

 

 

かすみが身を乗り出して、魚を自分の手で掴まえようとした。

 

しかし、勢い余って手を伸ばしたその瞬間、ことりの指先から滑り落ちたフェルトの魚は、カラフルなボールの隙間をすり抜け、底の深いところへと吸い込まれるように沈んでいってしまった。

 

 

ことり、かすみ、子供たち「あ…!」

 

かすみ「おさかなさん、きえた!   ……っ」

 

 

今度はことりに怒られるのかと思ったのか、かすみは俯く。

 

 

ことり「(……っ! ここで不安にさせちゃダメ。梨子さんの言葉を思い出して、あと一歩前に…!)」

 

ことり「……ふふっ、大丈夫だよ、かすみちゃん。 みんなも心配しないで」

 

かすみ「えっ?」

 

ことり「お魚さんはね、消えちゃったんじゃなくて、この広いボールの海の中に、かくれんぼしに行っちゃっただけだよ♪」

 

かすみ「かくれんぼ…?」

 

ことり「うん! だから、みんなで一緒にお魚さんを探してあげよう? よ~し、どこに隠れたのかな~?」

 

 

ことりはボールをかき分け、楽しそうに探り始めた。

 

 

子供E「ぼくもさがす!」

 

子供F「おさかなさん、みつける!」

 

 

次々に子供たちも探し始めて、宝探しゲームのように目を輝かせ始めた。

 

 

千砂都「っ!」

 

千砂都「(ことりちゃん、すごい…! 私も負けてられないや!)」

 

千砂都「よぉし!誰が一番お魚さん見つけられるか、競争だよ!」

 

梨子「お魚さん、どこかな~?」

 

かすみ「かすみんもさがす! かすみんがみつけるんだから!」

 

 

夢中になってボールを左右にかき分け始めた。

 

すると…。

 

 

かすみ「っ! あった~~!」

 

 

かすみが、フェルトの魚を力強く掲げた。

 

 

ことり「わぁ~、すごい! かすみちゃん! 見つけてくれてありがとう!」

 

かすみ「えへへ!」

 

 

◇観覧席

 

冬毬、夏美「……」

 

冬毬「(これが、梨子さんの言う『信頼』の成果ですか…。 子供がお姉さんへの信頼で動いている…)」

 

 

夏美は満足そうに腕を組み、ニヤリと笑って、見続けていた。

 

 

冬毬「(ですがここからです。 この楽しい時間から、いかにして次のコーナーへ移行させるか。 子供たちを、遊びから、知的な興味へと切り替えさせる。 それこそが、お姉さんという職業に求められる技術です)」

 

夏美「冬毬、そんな厳しい目で見てると、眉間にシワが寄りますの。せっかくかすみも楽しそうにしてるのに」

 

冬毬「姉者、これはビジネスです。私はこの番組の価値を厳正に査定しているのです」

 

 

数十分遊んだあと…。

 

スタッフのインカムから果南の声が。

 

 

果南『そろそろ、「これなぁに?」のコーナーにいこうか』

 

 

きな子は、スケッチブックに、カンペを書いて、ことりたちに見せる。

 

 

『そろそろ、これなぁに?に移るっす♪』

 

 

ことり、千砂都、梨子「…?」

 

 

3人は頷く。

 

 

冬毬「(ことりさん、千砂都さん。あなたたちはどうやって、子供たちを切り替えさせますか?)」

 

 

曜が、カメラの死角を狙って、大きな黄色いハテナマークの描かれた白地の箱を机に置いて、即座に去る。

 

それを確認した3人は、ボールプールからそっと出て、子供たちを呼びかける。

 

 

ことり「わぁ~、ねぇみんな~! 見て見て~! ここに不思議な箱があるよ〜!」

 

千砂都「みんな、この中に何が入ってるか、クイズをしよう?」

 

 

子供たち「えいっ!・それっ!・あはは!」

 

かすみ「ボールのゆき~!」

 

 

聞く耳ゼロ。

 

 

梨子「みんな、夢中ね…」

 

千砂都「(……どうしよう? もっとはっきり言わなきゃダメ?  いやでも…、ここで無理に注目させようとして、また怖がらせちゃったら元も子もないね…)」

 

 

冬毬は、腕時計に目を落としていた。

 

 

冬毬「(予定時刻を20秒超過。 子供たちの興味を引くことに失敗しています)」

 

 

ことり「う~ん………。   っ…! ねぇ、千砂都ちゃん。 私、いいこと考えた」

 

千砂都「えっ?」

 

 

梨子のほうへ、トコトコと歩み寄る。

 

 

ことり「梨子さん、少しだけお願いがあります」

 

梨子「ふふっ…ことりちゃん、何かいいアイデアがあるのね?」

 

千砂都「…?」

 

 

ひそひそひそ……。

 

 

梨子「っ! なるほどね。わかったわ、ことりちゃん。任せて♪」

 

千砂都「えっ? なにするの? ことりちゃん」

 

ことり「えへへ」

 

 

ことりは再び千砂都の隣に戻り、優しく、けれどどこか確信に満ちた目で彼女を見つめた。

 

 

冬毬、夏美「…?」

 

冬毬「(これだけ子供たちが騒いでいる状態の現場で、ことりさんは焦るどころか、どこか楽しげにアイコンタクト?)」

 

 

◇副調整室

 

恋、果南、彼方、マルガレーテ「…?」

 

 

◇スタジオ

 

すみれ、可可、曜、花丸、エマ、マルガレーテ、善子、きな子、かのん、侑、せつ菜「…?」

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