クッキーを手渡して、かすみ以外の一般参加の子供たちの見送り。
ことり「みんな、バイバ~イ!」
千砂都「またテレビで会おうね~!」
梨子「気をつけて帰るのよ〜!」
きな子「それじゃみんな~、来た時と同じように、またガチョウさんみたいに、一列に並んで歩くっすよ〜。 ガ、ガ、ガ~っす〜♪」
保護者に手を引かれ、きな子について行き、エレベーターへ。
(BGM:夢のあと)
◇観覧席
冬毬「…………」
かすみが来た。
かすみ「とまりん!なつみん! かすみん、楽しかった!」
冬毬「…? そうですか。それはよかったですね」
かすみ「うんっ!」
夏美「冬毬。これでもまだ、あの2人は歌のお姉さんに、向いてないと思いますの?」
冬毬「…………」
恋と果南が近づく。
果南「冬毬さん、どうでしたか?」
恋「決断をお聞きしても、よろしいですか?」
冬毬「…………」
ことり、千砂都、梨子がお見送りを終え、少し離れた場所でその答えを待っていた。
スタッフ全員も、冬毬の言葉を待つ。
冬毬のバインダーには、予め貰っていた予定表が挟んである。
冬毬「……予定されていたプログラムを独断で入れ替え、スタッフの方に混乱を招いたことについては、プロとして本来であれば、容認できるものではありませんね」
千砂都の肩がビクッと強張り、ことりも小さく唇を噛む。
冬毬「ですが…!」
ことり、千砂都、梨子「…?」
バインダーを閉じ、ことり、千砂都、梨子を見る。
冬毬「もしあのまま、あなたたちが予定通りの進行に固執し、興奮しきっている子供たちを無理やり指示に従わせ、お勉強のコーナーを強行していれば、収録は完全に破綻していたでしょう。子供は、大人ほど都合よく切り替えができません。 一度へそを曲げれば、その日の撮影はすべて無駄になります」
ことり、千砂都「……」
冬毬「『おもちゃのチャチャチャ』から始める判断。 それは単なるその場しのぎの行き当たりばったりの暴挙ではなく、現場の空気と、子供たちの心理を完全にマスターした上での、極めて高度な臨機応変の決断でした。 最適解を導き出し、現場のスタッフと瞬時に連携を取ってみせたこと。 それがあなたたちの持つ、プロとしての底力ですね…。 そして――」
かすみを見る。
冬毬「一度植え付けられた恐怖を払拭し、かすみをいつもの笑顔に戻してみせた。 これが梨子さんの言う『お姉さんと子供たちの間の信頼』が本物であるという、何よりの証明ですね。私のロジックでは計り知れない、確かな絆がそこにはありました」
梨子「冬毬さん…」
冬毬「今回の収録において、あなたたちが示したお姉さんとしてのプロの資質、および『うたって☆メロディランド♪』の未来への価値は、十分に証明されました。……いいえ、私の浅はかな基準など、遥かに超える形で提示されたと言うべきでしょう」
恋「では…冬毬さん」
冬毬「先ほどのスポンサー契約白紙の件は、撤回させてください。 ことりさん、千砂都さんが子供たちの前で歌う姿、そして、この番組が創り出す優しい世界を、この先ももっと見てみたいと、私自身の心が動かされましたから。……私の無礼な発言で、皆さんに多大なるご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。 お見それしました」
冬毬が頭を下げ、続いて夏美も頭を下げる。
果南「っ!! ありがとうございます!」
恋「それでは、引き続き、よろしくお願いいたします!」
千砂都「ことりちゃん…! 梨子さん…!」
ことり「千砂都ちゃん…! よかった、本当によかった~…!」
梨子「えぇ!」
スタッフ全員は安堵の表情。
冬毬「ことりさん」
ことり「っ! は、はい!」
冬毬「あなたのその、誰もを包み込むような底知れない優しさは、ただの甘さや、その場しのぎの妥協などではありませんでした。 周囲の状況を冷静に観察し、子供たちの心の動きを完璧に察知した上で差し伸べられる。 まさに、あの時、あなたのお友達が言われた天使そのものでした…」
ことり「冬毬さん…。ふふっ、ありがとうございます。 でも、これは私一人の力じゃなくて、千砂都ちゃんや梨子さん、それにスタッフの皆さんが、私を信じて支えてくれたからこそ、できたことなんです♪」
冬毬「ならば、今後もその素晴らしい優しさと、皆さんの強固な連携で、この番組をさらに高いステージへと導いてください」
ことり「はい! 私たち、これからも子供たちみんなにたくさんの笑顔を届けられるように、もっともっと頑張ります!」
千砂都「……かすみちゃん」
かすみ「…?」
千砂都「さっきは、大きい声で怒ってごめんね。かすみちゃんを、怖い気持ちにさせちゃった。お姉さん、反省してるんだ」
かすみ「……ううん…。 かすみんも、おねえさんのおでこにボールあてて、ごめんなさい…。 おねえさんたちのことこまらせちゃって…ごめんなさい…」
千砂都「ううん、もういいんだよ、かすみちゃん。 そのかわり、また今度スタジオに遊びに来てくれた時は、もっともっとたくさん遊ぼうね!」
かすみ「っ! うん! えへへ…! かすみん、おねえさん、だいすき~!」
かすみは千砂都に勢いよく飛び込んでいった。
千砂都「わぁっ…!? あははっ、お姉さんも、かすみちゃんのこと、大好きだよ!」
梨子「ふふっ」
冬毬は、千砂都に近づく。
冬毬「千砂都さん。この間の件と先ほどは、私も少し言い過ぎました。感情を逆撫でするような、無礼な物言いをしたこと、失礼しました」
千砂都「いいえ! 私も冬毬さんのお陰で、ただ楽しく歌うだけじゃなくて、お姉さんとして、プロとして、何が本当に大事なのかっていうことに気づけました。こちらこそ、ありがとうございました!」
手を取り合う2人。
全員、ようやく訪れた和解の瞬間に、このまま温かく終われる。
と思ったが、冬毬は冬毬だった。
冬毬「ですが、千砂都さん」
(BGM:のどかな田舎)
冬毬「先ほどのこれなぁに?のボケは、少々子供には分かりにくかったようですね? 子供たちの反応がやや遅すぎました。 ボケるなら、子供に分かりやすい単語にしたほうが、よろしいですよ」
千砂都「なっ!?/// わ…分かってますよ! もう~!今ちょっと見直したのに、またそんな意地悪言うんですか!?」
冬毬「耳が痛いということは、図星だったということでは?」
千砂都「やっぱりこの人、嫌~~い!!」
ことり「まあまあ、千砂都ちゃん」
夏美「まったく…。冬毬は本当に素直じゃないですの。せっかくいい空気で終われたのに、どうしてそうやって、最後に一言余計な毒を吐きますの?」
梨子「ふふっ」
いまいち事情を把握しきれていないかのん、侑、せつ菜がこっそりと近くのスタッフたちに聞く。
かのん「それで…結局、あの人は、何がしたかったんですか?」
善子「あれがこの『うたって☆メロディランド♪』における、地獄の番人。鬼塚冬毬による、恐怖の『お姉さん適正テスト』よ」
侑「適正テスト!?」
せつ菜「そんなことしてたんですか!?」
かのん「どういうことですか?」
マルガレーテ「要するに、ことりと千砂都が、本当にこの番組のお姉さんに相応しいどうか、裏でこそこそと、理不尽なテストをしてたのよ」
すみれ「ほらっ、先週、千砂都がブリブリ怒りながら来たでしょ? あれ多分、冬毬さんが素性を隠して、千砂都に接近して、プライベートでもお姉さんとしてのトラブル対応を図るテストを勝手にしてたのよ」
かのん「あぁ~!なるほど!」
花丸「相変わらず、冬毬さんのテストは、心臓に悪いずら…」
曜「だね~。しずくちゃんが、完璧な答えを出したっていう前例がある分、今回はかなりハードルが高かったと思うよ。2人ともよく耐えたよ」
果南「急にやってきて、わざと現場を混乱させて出演者を追い込む…。 本当はやめてほしいんだけどね……」
彼方「だけど、なんだかんだ冬毬さんのこれも、歌のお姉さんの育成に役立ってるのもあるんだよね~。お姉さんたちの弱点を見つけて、それを克服させるいいきっかけになってるし」
可可「真顔の理詰めがなければ、いいんデスけどね~、あれは怖いデス」
果南「こっちは冬毬さんから『テストのことは本人たちに教えちゃいけない』って固く止められてるから、ことりちゃんと千砂都ちゃんの心、折れないか、ホントに心配だったよ~」
エマ「でも、これで2人もこれから、もっといいお姉さんになれるね♪」
子供たちの案内を終えて戻ってきたきな子。
きな子「戻りましたっす。 …あれ? 何すか?この状況」
千砂都「じゃ、今日のこれを使って、子供たちにわかるボケしてみてくださいよ!」
冬毬「いいでしょう。 まずこの靴下ですが――」
すみれ「なんかあの二人、変なところで気が合いそうね」
可可「負けず嫌いなところがよく似てるデス」
きな子「あはは…、なんだかあの言い合いっこ、まるですみれ先輩と可可先輩みたいっすね!」
すみれ、可可「っ!?」
すみれ「きな子……。それ、どういう意味かしら?」
可可「きなきな! 誰と誰が似てるデスか? もう一度、ハッキリ言ってみるデス!」
きな子「えぇっ!? ご、ごめんなさいっす〜! 悪気はなかったっす〜!!」
* * *
◇スタジオ外 廊下
冬毬「それでは、今日は失礼します」
夏美「お邪魔しましたの」
恋「本日も貴重なご意見、ありがとうございました。 ご指摘いただいた点は、真摯に受け止め、次回の構成に活かします。お気をつけて」
夏美「またいつかお邪魔しますの〜」
かすみ「りこおねえさん、ことりおねえさん、ちさとおねえさん、またね〜!」
千砂都「うん! また一緒に楽しく踊ろうね!」
ことり「バイバイ、かすみちゃん!」
梨子「また遊びに来てね!」
冬毬、夏美、かすみは、エレベーターへ行こうとする。
梨子「…………冬毬さん」
冬毬「……?」
梨子「少しだけお時間いいですか? 2人だけで、お話ししたいことがあるんです」
ことり、千砂都、恋「…?」
冬毬「……分かりました。数分程度であれば、スケジュールに支障はありません。 姉者、かすみ、1階のエントランスで待っててください」
夏美「わかりましたの」
梨子「恋さん、応接室使っていいですか?」
恋「えっ? あ、はい、もちろんです。どうぞお使いください。お茶の準備は大丈夫ですか?」
梨子「いいえ、すぐ済みますので、お気遣いなく。 ありがとうございます。 どうぞ」
梨子は冬毬を促し、応接室へと入っていった。
ことり「何だろう?」
千砂都「梨子さん、冬毬さんと何を話すのかな? 秘密の話?」
2人は、抜き足差し足、応接室の前まで歩み寄り、聞き耳立てる。
恋は注意しようとしたが、何かを察し、そのままにしてスタジオに戻った。