うたって☆メロディランド♪   作:あいライス

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いよいよ面接スタート


第1話「ことりの新しい夢」④

ことりはドアノブをそっと握り、面接室の扉を開いた。

 

中は落ち着いた色調の会議室風の空間。中央には長いテーブル。

 

そこに五人の女性面接官たちが整然と並んで座っていた。

 

 

ことり「南ことりと申します。本日はよろしくお願いしますっ!」ペコッ

 

 

正面の中央、ひときわ落ち着いた雰囲気の女性が、やわらかく頷いて口を開いた。

 

 

(BGM:海の音を探して)

 

 

?「ようこそいらっしゃいました。私たちは“うたって☆メロディランド♪”の制作チームです。まずは、順に自己紹介をさせていただきますね」

 

ことり「はい」

 

 

そう言ったのは、プロデューサー:葉月恋。

 

 

恋「私はプロデューサーの葉月恋です。どうぞよろしくお願いします」

 

 

恋は丁寧にお辞儀。

 

ことりもぺこりと頭を下げる。

 

 

ことり「よろしくお願いしますっ」

 

 

恋の左隣に座る青い長い髪を無造作に後ろで束ねた女性。笑顔で前のめりにことりを見つめていた。

 

 

果南「私はチーフディレクターの松浦果南。よろしく。 大丈夫?緊張してる?」

 

ことり「す、少しだけ…」

 

果南「ふふっ、力抜いて自然に話そう。ねっ」

 

ことり「はい…」

 

 

果南の隣、テーブルにもたれかかるように座っていた女性が、ふわっとした声で続いた。

 

 

彼方「構成作家の近江彼方です〜。ん〜……なるほどなるほど、ことりちゃんね。 なんか、いい匂いがしそうだね〜」

 

ことり「えっ…? あっ、いつもお菓子焼いてるから、かもしれません……」

 

彼方「やっぱり〜♪」

 

 

すると、恋の右隣にいた女性が緊張気味に発する。

 

 

きな子「えっと…!アシスタントディレクターのさ、桜小路きな子っす……! よろしくお願いしま――」

 

 

と一礼したとき、テーブルの下にボールペンが落ちてしまった。

 

 

きな子「あ…!ペンペン!」

 

 

きな子は、テーブルの下に潜り込んで、ボールペンを拾う。

 

 

きな子「あっ、あった。す、すみませんっす!」

 

 

急いできな子は座りなおす。きな子の右隣にいる最後の女性が呆れ顔できな子を見る。

 

 

???「ったく、あんたねぇ、いつまで緊張してるったらしてるのよ! これで何人目よ?」

 

きな子「すみませんっす…」

 

すみれ「私はメイク担当の平安名すみれよ。よろしく。 うちのADが騒がしくてごめんなさいね」

 

ことり「い、いえ! なんかちょっと緊張が解けてきました」

 

 

恋が手元の資料に目を落とす。

 

 

恋「それでは南ことりさんの面接を始めさせていただきます。 どうぞお座りください」

 

ことり「失礼します」

 

 

ことりは椅子に姿勢よく座る。

 

 

この五人の女性たち。

彼女たちがこの番組の中枢にいるスタッフだとわかり、ことりの緊張はさらに高まる。

 

 

恋「まず、最初の質問です」

 

 

そう切り出した恋の声音は柔らかく、ことりの不安を少しだけ和らげてくれた。

 

 

恋「どうしてこの“歌のお姉さん”というお仕事に応募されたのか、その理由を教えていただけますか?」

 

ことり「はい…!」

 

 

(BGM:小さな奇跡)

 

 

ことり「私は高校のとき、スクールアイドルとして活動していました。μ'sというグループで、仲間たちと一緒にステージに立っていました。 ステージで歌うと、みんなが笑顔になってくれて、それが本当に嬉しかったです。  だから今度は、小さな子どもたちにも、そんな笑顔を届けたいと思ったんです。  自分でもう一度、誰かの笑顔のきっかけになれたらと思い、応募しました」

 

 

恋は穏やかに頷く。

 

 

恋「なるほど。素敵な理由ですね」

 

 

果南がにこっと笑いながら前のめりになる。

 

 

果南「じゃあさ、ことりちゃん。もし収録中に子供が泣いちゃったら、どうする?」

 

ことり「えっと…、そういうときは、まず泣いている子の気持ちを大事にしてあげたいです。 “どうしたのかな?”って優しく声をかけて、安心できるように寄り添いたいと思っています。 それから、その子の気持ちが落ち着くまでゆっくり話を聞いてあげて、無理に泣きやませるんじゃなくて、一緒に楽しい気分になれるように工夫したいです」

 

果南「うんうん…、なるほど。そういうのいいね」

 

きな子「次、きな子いいっすか!?」

 

 

元気よく手をあげるきな子。

 

 

果南「うん」

 

きな子「ことりさんは、好きな絵本とかありますっすか?」

 

ことり「そうですね…。 『ぐりとぐら』とか、『ねずみくんのチョッキ』が好きです」

 

きな子「…っ! わかるっす! きな子もそれ大好きっす!」

 

 

きな子は嬉しさのあまり勢いよく立ち上がり、膝に置いていたボールペンをまた床に落としてしまった。

 

 

きな子「あ…!」

 

すみれ「もう…、ちょっとは落ち着きなさいったら落ち着きなさいよ!」

 

 

すみれ、きな子を肘でつつく。

 

ことりは、自分の足元に転がり落ちたペンをそっと拾って、にこやかにきな子へ差し出した。

 

 

ことり「どうぞ」

 

きな子「すみませんっす…。 ありがとうございますっす…!」

 

 

ぺこぺこ頭を下げるきな子。

 

 

恋「……」

 

 

ことりがペンを拾ってきな子に返すところを、恋はさりげなく見ていた。

 

 

彼方「それじゃ~、趣味とか特技はなにかな〜? もしことりちゃんが合格して、番組をすることになったら、そういうのも構成に活かしたいんだ〜」

 

ことり「お菓子作りが好きです。それと、洋服やぬいぐるみも作ったりしてます」

 

果南「へぇ~、洋服作れるんだ?すごいね!」

 

彼方「お菓子作りが趣味もいいねぇ〜。番組のコーナーとかでお菓子作りとかやっちゃう?」

 

ことり「あ…そうですね。機会があれば、そういうことも子供たちと一緒にやりたいです」

 

彼方「うんうん」

 

すみれ「じゃ次、私から。  あなたにとって子供って、どんな存在?」

 

ことり「…!」

 

すみれ「この仕事、案外ふわふわで優しいだけの世界じゃないわよ。 子供は可愛いだけじゃ済まない。 時には、導いてあげる厳しさも必要になるわ。あなたにその覚悟はある?」

 

ことり「……はい。子供たちは本当に可愛い存在です。 小さな体でたくさんの気持ちを抱えていて、とても素直だからこそ、ときには戸惑ったり迷ったりすることもあると思うんです。 私は、そんな子供たちにとって、安心できるお姉さんでありたいです。 もちろん、ただ甘やかすだけじゃなく、必要なことはまっすぐに伝えたいと思っています。 子供たちが笑顔で成長していけるよう、寄り添いながら導ける存在になりたいです」

 

すみれ「ふ~ん……」

 

 

すみれは手元の評価表に目を落とし、ゆっくりとメモを走らせる。

 

 

恋「では、最後の質問です。“自分らしさ”とは、どういうものだと考えていますか?」

 

ことり「正直…、まだ探してる途中です。だから…、ちゃんとは答えられないかもしれません。  でも…!」

 

恋、果南、彼方、きな子、すみれ「…?」

 

ことり「“誰かのために何かをしてあげたい”って気持ちだけは、ずっと大事にしてきました。それが…私にとっての“自分らしさ”……かもしれません」

 

 

ことりの目には真剣な光が宿っていた。

 

 

恋「……」

 

 

果南はすぐに微笑み返した。

 

 

果南「うん。 それ、すっごく大事なことだと思うよ」

 

 

ことりの言葉に、きな子も彼方もすみれも、メモを取り始めていた。

 

 

恋「それでは最後に、簡単な歌か手遊びを見せていただけますか?」

 

 

ことりの胸がトクン、と大きく跳ねた。

 

 

ことり「(やっぱり来た…。 そうだよね。 歌のお姉さんの面接だもん)」

 

ことり「はい!」

 

 

ことりは小さく頷き、椅子から立ち上がる。

 

 

ことり「いきます」

 

 

ことりは小さく深呼吸をひとつ。

 

そして…歌いはじめる。

 

 

ことり「♪ グーチョキパーで〜 グーチョキパーで〜 なにつくろ〜 なにつくろ〜」

 

 

その歌声は少しだけ緊張も混じって控えめ。表情にも少し恥じらいが滲んでいた。

 

 

ことり「♪ 右手はチョキで 左手はグーで かたつむり〜 かたつむり〜」

 

 

両手を組み合わせて作ったかたつむりを優しく揺らす。

 

その動きに合わせて、ことりの表情が少しずつほぐれていった。

 

 

ことり「♪ グーチョキパーで〜 グーチョキパーで〜 なにつくろ〜 なにつくろ〜」

 

 

二度目のフレーズでは、声に明るさが増していた。

 

恋、果南、彼方は微笑みながら、彼女の手の動きをじっと見つめている。

 

きな子はニコニコしながら一緒に手を動かしてる。

 

すみれもいつの間にか、ペンを動かすのを止めていた。

 

 

ことり「♪ 右手はパーで 左手もパーで ちょうちょ〜 ちょうちょ〜」

 

 

手のひらをひらひらと動かして作った蝶々が、ことりの胸の前を飛ぶように揺れる。

 

ことりの表情が、ふっと綻んだ。

 

 

ことり「(やっぱり歌うのは…、楽しいっ!)」

 

ことり「ありがとうございました」

 

 

ことりは小さくお辞儀をすると、恋たちから優しい拍手が送られた。

 

恋が静かに微笑み…。

 

 

恋「ありがとうございました。 本日の面接は以上になります。  結果は一週間以内に郵送にてご連絡させていただきます」

 

ことり「あ…はい、わかりました。  今日は本当に、ありがとうございましたっ!」

 

 

ことりはぺこりと頭を下げる。

 

 

果南「気を付けて帰ってね」

 

 

ことり「はい」

 

 

面接室を出ようとすることり。

 

出口でちゃんと、また恋たちに向き直り一礼する。

 

 

ことり「失礼致しました」

 

 

廊下に出ると、さっきのスタッフが出迎えてくれた。

 

 

曜「お疲れ様でした! こちらへどうぞ!」

 

ことり「はい」

 

 

ことりは案内されるままにエレベーターで1階に降りて、テレビ局のエントランスへ向かう。

 

 

◇結ヶ丘テレビ局の前

 

テレビ局の外に出た瞬間、ことりの目に飛び込んできたのは、これから面接を受けるらしい数人の女の子たちの姿だった。

 

 

ことり「(もしかして、次は体操のお姉さんの面接が始まるのかな?)」

 

 

ことりは、明るいジャージ姿で動きやすそうなスニーカーを履いてる千砂都とすれ違う。

 

 

千砂都「えっと…テレビ局はここかな?」

 

 

千砂都は結ヶ丘テレビ局に入る。

 

 

千砂都「かのんちゃんは合格したみたいだし、私も合格できるように頑張らないと…!」

 

ことり「(もし私が歌のお姉さんになれたら、あの子たちの誰かと一緒にお仕事するのかな?)」

 

 

そんな未来を少しだけ想像して、口元がほころぶ。

 

 

ことり「(頑張ってください…!)」

 

 

小さくエールを心の中で送って、ことりは駅に歩き出した。

 

足取りはほんの少しだけ軽くなっていた。

 

 

◇面接室

 

5人の面接官は、各々の手元にある歌のお姉さん応募者の資料に目を落としていた。

 

恋は、ことりの資料に視線を落とす。

 

 

恋「南ことりさん。やはりいい雰囲気をお持ちの方でしたね」

 

 

果南が資料をめくりながら頷く。

 

 

果南「南ことりちゃん…か。  うん」

 

 

(BGM:夢見る文学少女)

 

 

果南「私もすごくいいと思うな。 子供たちと一緒にいるイメージがすごく浮かんだよ」

 

彼方「彼方ちゃんも同感〜」

 

 

彼方は大きく背伸びをして、目元を緩ませる

 

 

彼方「なんだか癒されて、また眠くなってきちゃったよ〜…」

 

 

きな子は、さっきまでの面接メモを見ながら、ルンルンとした調子で語り出す。

 

 

きな子「可愛くて、すごく優しい子だったっす♪」

 

 

ふと手元のボールペンを手に取って、うっとりと目を細めた。

 

 

きな子「ことりさんがこのペンを拾ってくれたとき、天使に見えたっす!」

 

すみれ「あんたのドジも、たまには役に立つのね」

 

きな子「えへへ…」

 

すみれ「でも確かに。あの子の仕草、本当に自然だったわ。さりげない気遣いと温かさ」

 

恋「えぇ、それが“南ことりさん”なんですね。 きな子さんのお陰で、彼女の素顔も垣間見えた気がします」

 

彼方「そうだね〜。あれは誰にでもできるもんじゃないよ〜」

 

果南「無意識で人に優しくできるって、実は一番難しいことだと思うな」

 

すみれ「それに、私のちょっと意地悪な質問にも、ちゃんと自分の言葉で返してきたわ。ふわふわしてるように見えて、案外芯がある子だったわね」

 

 

すみれの手元にある評価表には、しっかりと◎マークが記されている。

 

 

恋「きっと彼女なら、“あの人”以上の歌のお姉さんになれる気がします」

 

 

その言葉に、他の4人も意味ありげな笑みを浮かべて、ふと目線を後ろに向けた。

 

 

面接室の壁に貼られている、一枚の大きなポスター。

 

たくさんの子供たちに囲まれて、隣のピンク色の衣装を着たお姉さんに優しく肩を抱かれながら、女神のような微笑みを浮かべている水色の衣装を着た一人の女性。

 

 

──桜坂しずく。

 

 

この番組の“初代・歌のお姉さん”として活躍した伝説の存在。

 

 

恋「正直…、しずくさんの後任は、簡単には見つからないと思っていました。けれど…!」

 

果南「最後の最後で、いい子が見つかってよかったよ」

 

彼方「しずくちゃんもきっと喜ぶと思うな〜。あの子なら安心してバトンを渡せるよ〜」

 

きな子「しずくちゃんに負けないくらい可愛い歌声だったっす!」

 

すみれ「ふふっ、じゃ、決まりかしら?」

 

恋「はい!」

 

 

恋はことりの資料の右上にペンを走らせる。

 

 

『第1候補』

 

 

それを見て、4人とも頷く。

 

誰も反対する者はいなかった。

 

 

恋「では次は、体操のお姉さんの面接ですね」

 

すみれ「今日はまだまだ終わりそうにないわね〜」

 

彼方「まあまあ〜、楽しんでいこうよ〜」

 

きな子「どんな子が来るのか楽しみっす!」

 

果南「でも、今回の改編の肝はバランスだよ。歌のお姉さんと体操のお姉さんは、現場で梨子ちゃんと組むことになるからね。三人の相性も大事だよ」

 

 

ポスターにしずくと一緒に写ってるお姉さん:桜内梨子

 

 

恋「えぇ、今期からは初めての三人体制。慎重に選びましょう」

 

 

恋が頷いたその時、ポケットに入れてた番組共有スマホが震えた。

 

全員スマホを取り出すと、チャットワークに控室にいるスタッフからの通知が届いていた。

 

 

 

渡辺曜

TO 葉月恋

TO 松浦果南

TO 近江彼方

TO 桜小路きな子

TO 平安名すみれ

『体操のお姉さんの応募者、全員揃ったであります!(`・ω・´)ゞ』

 

 

 

恋「では、体操のお姉さんの面接を始めましょう」

 

 

恋が資料の束から一枚を取り上げ、スピーカーボタンを押す。

 

 

恋「嵐千砂都さん、どうぞ」




第1話、次でラストです。
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