ヴェスペリアに転生したのは最強のTS女騎士!?   作:ぶち猫

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第一話 やっぱり貴族ってゴミだよな

 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。

 寝て起きたらゲームの世界にいたんだから。正直今でも夢なんじゃないかと思う時がある。ま、現実であるんだけどね。

 テイルズオブヴェスペリア。有名なアクションRPGだ。

 主人公ユーリ・ローウェルという青年とその仲間たちが色々な問題をあーだこーだして世界を救うお話しなんだけど、一番問題点として挙げられるのが、貴族の腐敗だ。

 わかりやすいものだと金のない住民を無茶な依頼をして殺したり、自分が飼っている魔物の餌にしたりと、えげつない行為をしている貴族がいる。

 

 そもそも貴族と平民との格差が激しいのだ。帝都ザーフィアスにある下町の人々も、貴族に遊び半分で傷つけられたりすることも珍しくない。

 基本的に貴族は平民を自分たちと同じ人間と見ていない。だから非道な事も平気で出来たりするんだ。反吐が出る。貴族も平民も人間としては何も変わらないというのに。

 

 皮肉なことだが、あたしは貴族の一人娘としてこの世に生まれた。あの傲慢な奴らと同じというのが嫌だが、この身分自体は色々と使えるから良かったとは思っている。

 ただ一つ文句があるとしたら、女として生まれたことだな。

 一応あたしの前世は男だ。今でこそ口調も女らしさってのがあるけど、最初の頃はオレオレ言い過ぎて親に折檻されたのは記憶に新しい。折半案で『あたし』ということで落ち着いたけど、親はそれでも嫌な顔をしていたけどね。

 

 これでも伯爵家であるから体裁が悪いから直してほしかったようだけど、あたしがそれに従わなかったから諦めてくれたって訳。

 

 そんで、帝国の腐敗した現状に嫌気が差したあたしは騎士団に入った。こんなあたしでも何か出来るんじゃないかって思いと、未来の黒幕になるであろう男、アレクセイをどうにかして真っ直ぐなまま未来を歩かせたかったんだ。

 彼の最後はあまりに悲惨だった。信じた先にあったのは世界を滅ぼす厄災で、自分が世界を滅ぼす引き金を引いてしまったなんて、あんまりだ。

 彼の最後の悲壮な表情を今でも忘れられない。

 

 あたしに何が出来るかはわからないけど、がむしゃらに頑張って片っ端から人を助けていく事を心情に、今日も困っている人を助ける事だけだ。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 その日はキャナリにとっていつも通りの日常である見回りをしていた。

 石畳で出来た街路をブーツでコツコツと音を鳴らして不審な人がいないか、貴族が下町の皆に迷惑を掛けていないか確認しながら歩いていると、見知った人が恐らく何かしたであろう不審人物を捕まえていた。

 

「騎士であり貴族の癖に物取りなんて恥ずかしいと思わないのか?」

「う、うるせぇ! 平民の物なんて俺達貴族が取っても罪にはならねぇ!! だから俺を捕まえても意味ないぜ!?」

「じゃああたしがお前をぶっ飛ばしても罪にはならないな」

「は? なにを言って……あ、あんた、いや、貴方様は……ッ!?」

 

 騎士の風上にも置けない男は脂汗を滝のように流しながら、自身よりも高い身長である彼女――イザベラを見る。

 

「今ここで店主に謝って物を返せば許す。もし嫌ならば」

「はい! はい!! これは返す! 本当に申し訳ありませんでした!!! じゃ、じゃあ俺はこれで」

 

 脱兎の如く去る貴族騎士にイザベラは小さく嘆息する。その様は大変絵になるが、本人に言えば苦笑されそうだ。

 

「イザベラさん。対応ありがとうございます」

「ん? キャナリじゃないか! 今日も見回りをしていたのか?」

「はい。いつもの日課のようなものです。しかし、さっきのは?」

 

 キャナリの言葉にイザベラは渋い表情をして首を振る。

 

「最近入団した若手の騎士が店の物を勝手に取っていっていてな。店主は何も言えないからあたしが対応していたんだ。全く、貴族はこれだから」

「ふふっ。イザベラさんも貴族なのに」

「それを言うならキャナリもだろ」

「私は勘当されているので、もう貴族ではないですよ」

 

 ぐぬぬと悔しさを滲み出すイザベラにキャナリが笑っていると後方から声が響く。

 

「おぉーい! なに楽しそうな話しをしているんだ!?」

「相変わらず元気だな。ダミュロンは」

「最初の頃はおっかなびっくりしていたのにね」

「それは言わないで頂戴よ。あの頃の俺はまだ騎士見習いなんだからさ」

 

 数ヶ月前にとある任務に出ていたキャナリを助けたのがダミュロンであり、その時にキャナリがダミュロンをスカウトしたのだ。

 貴族の騎士にしてはいい目をしていたから、思わず誘ったのだ。

 

「イザベラの姐さん、ま~た何かしたんですかい?」

「あたしは別に悪いことはしていないよ」

「いやそうじゃなくて、姐さんは偶にやり過ぎるからね……」

 

 苦労を滲み出して項垂れるダミュロンに、キャナリは苦笑する。

 確かにイザベラは色々とやり過ぎてしまうことが割と多い。主に権力がある悪人をぼっこぼこにしたりとか。伯爵家という権力があるからこそ出来るゴリ押しをすることがある。

 ただこの強権を使うことはそうない。そもそも彼女はそういった権力とかが嫌いだからだ。ただ相手が同じ貴族なら話は別になる。

 

 相手が権力で逃げようものならその上から圧力を出してフルボッコにする。それ故にイザベラは貴族達からは恐怖と畏怖を持たれている。

 貴族が多い騎士団内でも彼女を恐れる人は少なくない。

 ただ割と若い騎士達からは好かれている。自分を貫く姿がカッコいいんだとか。

 

「私が見ている範囲なら問題はなかったから大丈夫よダミュロン」

「なら良かった。姐さんが本気だったらこの辺全てが焦土に変わっているからな」

「真顔でなに言ってんだよダミュロン。あたしを馬鹿にしているだろ?」

 

 目をツリ目にしてダミュロンの襟を掴むイザベラに、ダミュロンはわたわたと手を振って釈明する。

 

「いやいや姐さん!? 俺が言っている事が嘘じゃないのは貴方がよ~く知っているでしょ? この前だって子供に暴力を働いた貴族を顔が腫れ上がって誰だかわからないぐらいボコボコにして問題になっていたでしょ!?」

「いや、それはそいつが悪いだろ。子供に暴力とか」

「勿論わかりますよ。俺だってそんなことした奴の顔を殴るのは大変理解できますけど、ただそいつが子爵だから問題なんですって!」

 

 そう、直近でイザベラはアレクセイ閣下の胃を痛める事件を起こしていたのだ。

 なんでも子爵が乗っている馬車が子供を轢きそうになって緊急停止した時に腰を痛めたという理由で、子供を鞭で叩いたのだ。

 その姿を見たイザベラが間髪入れずにその子爵を殴り飛ばしたのは有名な話だ。

 ただその時の状況をみていた人が言うには、子供は別に馬車の前に飛び出した訳ではなく、ちゃんと外側にいたはずなのに何故か馬車が子どもの方に向けて走ったのだとか。

 恐らく態とやったのだろう。酷い話だ。

 

「あたしは間違った事をしたとは思っていないよ。けど、まぁ、次からは気をつけるよ……」

「ぜぇったいですよ。何かする時は俺かアレクセイ閣下に聞いてからにして下さい」

「まぁまぁ、イザベラさんも反省しているみたいだから、それくらいにして上げたら?」

 

 キャナリの静止の言葉にダミュロンは長い溜め息を吐いた後、頷く。

 

「おかしい。あたしが怒る番だったのに」

「怒られる事をしているのは姐さんの方が多いから。いやマジで」

「最近アレクセイ閣下が胃薬を常備しているって聞くものね」

「いや~う~ん。すまん?」

「そう思うならもう少し大人しくして下さい。アレクセイ閣下が可哀想なので」

 

 イザベラが問題を起こす度に閣下の頬が痩けているのは有名な話なのだ。

 だが彼女が行う事の殆どは力を持たない弱者を救う行為であるから、アレクセイも強くは言えていない。寧ろ彼女が行うその行為の後押しをしているようにも見える。

 

「イザベラさんはアレクセイ閣下の事好きなんですか?」

「キャナリ? 突然の質問。俺びっくり」

「アレクセイの事は別に普通に好きだぞ」

「えええぇぇぇえ!?」

 

 まさかの答えにダミュロンが驚きで目玉を飛び出す中、キャナリは思う。

 

(うーんこれ絶対異性として好きじゃなくて友達として好きってことよね。閣下が少し不憫ね)

 

「ね、姐さん? それまじ?」

「ん? 当たり前だろ? 嫌う要素なんてアイツにないだろ」

「そ、そう、すか。あは、あははは」

 

 段々と白くなって塵になりそうなダミュロンを無視して、キャナリは姿勢を正す。

 

「そろそろ巡回の続きをします。ダミュロン、あなたもいつまでも白くなってないでついて来なさい。ではまた」

「またな~」

 

 いつもでも動かないダミュロンの首根っこを掴んで巡回の続きをしたのだった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 帝都ザーフィアスの騎士団本部。その最上階に近い一室、アレクセイ・ディノイアの執務室には今日も今日とて重苦しい沈黙と、紙を捲る乾いた音だけが響いていた。

 アレクセイは机の上に積み上げられた数通の抗議文を眺め、深く底の見えないような溜め息を吐き出した。

 

「……また、彼女か」

 

 彼の手にあるのは、数日前の子爵への暴行事件、および若手貴族騎士への恐喝(本人曰く「教育」)に関する苦情の数々だ。それらは本来、騎士団長である彼が目を通すような瑣末な問題ではないはずだった。しかし、加害者の名前が『イザベラ・ストームハート』である以上、他の誰も処理を引き受けたがらないのである。

 

 コンコン、と遠慮のないノックの音が響き、アレクセイが応える前に扉が開いた。

 

「よお、アレクセイ。ダミュロンから聞いたぜ、またあたしのせいで胃薬の消費量が増えたんだってな?」

 

 現れたのは、燃えるような赤髪をなびかせた長身の女騎士、イザベラだった。彼女は申し訳なさそうな顔を微塵も見せず、むしろ見舞いに来てやったぞと言わんばかりの豪快な笑みを浮かべて、アレクセイの対面の椅子にドカリと座った。

 

「……イザベラ。君という人間はなぜこうも報告書に書くのが難しいことばかり仕出かすんだ。子爵を殴り飛ばした件、あれはやりすぎだ。相手は顔の造形が歪む程の傷で全治半年だぞ」

「あ? あんなクソ野郎、首の骨を折らなかっただけマシだろ。子供を鞭で打つ奴を野放しにするのが、騎士の正義かよ」

 

 イザベラは椅子に深く背を預け長い脚を組んだ。その堂々たる態度は伯爵令嬢としての気品よりも、戦場を駆ける武人の荒々しさが勝っている。

 

 アレクセイは卓上の小瓶から胃薬を取り出し、水なしで飲み下した。

 彼の頬は数ヶ月前に比べて確かに痩けている。帝国の腐敗、評議会との暗闘、そして何よりこの自由すぎる親友の事後処理。彼の心労はもはや常人の限界を超えつつあった。

 

「君の言うことは正しい。だが、正しいことが常にまかり通るほど、この帝国は綺麗ではないんだ。君が力で解決すればするほど、君を敵視する貴族は増え、君の身に危険が及ぶ……」

 

 アレクセイの声には、怒りよりも隠しきれない恐怖が混じっていた。

 彼は知っている。イザベラがどれほど強く、そしてどれほど自分自身の安全を勘定に入れていないかを。彼女の体には既に多くの傷がある。そのどれもが誰かを守るために、彼女が自分が傷つくのが一番手っ取り早いと判断した結果、刻まれたものだ。

 

「いいかアレクセイ。あたしは元々こういう奴なんだよ。悪い奴がいたらぶっ飛ばす、困ってる奴がいたら助ける。それ以外に何が必要なんだ?」

「……君にとっては、それだけでいいのかもしれないがね」

 

 アレクセイは目を閉じ、椅子に背を預けた。

 彼が掲げる理想の帝国は、今のままでは決して手に入らない。彼は、いずれ手を汚す覚悟をしていた。影で糸を引き策略を巡らせ非情な決断を下す。それが世界を変える唯一の道だと信じようとしていた。

 

 だが、目の前のこの女はどうだ。

 あまりにも真っ直ぐで、あまりにも眩しい。泥沼のような帝国の政治の中にありながら、彼女だけは濁流に逆らって拳一つで道を切り拓こうとしている。

 

(……私は、この光を失いたくないのだな)

 

 アレクセイは自嘲気味に微笑んだ。

 彼女が暴れるたびに彼は泥を被り、頭を下げ裏で工作をして正当な理由をデッチ上げる。それは、彼自身の計画を停滞させることもあるだろう。だが、彼女がその正義を貫き通せるのなら、それだけで、自分が進もうとしている闇の道にわずかな救いがあるような気がしていた。

 

「……いいだろう。子爵の件は、あちらが先に民衆への虐待を行っていたという証拠を固めて、正当防衛として処理する。だがイザベラ、次はせめて相手の顔の形が変わる前に止めてくれ。人相がわからなくなると、調書の作成が非常に困難になるんだ」

「ははっ! さすがアレクセイ、話がわかるじゃねぇか! 恩に切るぜ!」

 

 イザベラは快活に笑い、アレクセイの肩を力任せに叩いた。

 バシッ、という鈍い衝撃にアレクセイは「うぐっ」と声を漏らす。イザベラの強さは異次元であるため、その強さで肩を叩かれれば、流石の騎士団長と言えど苦悶の表情も出る。

 

「あー……それと、これ。お詫びってわけじゃねぇけど、下町で美味いって評判のパイだ。食えよ。お前、最近ガリガリで不気味だぞ」

 

 彼女が机に置いたのは、紙に包まれた不恰好なアップルパイだった。

 アレクセイはそれを見つめ、少しだけ表情を緩めた。

 

「……ああ、頂こう。君の『正義』を支えるのも、安くはないからね」

 

 彼女は、自分がどれほど周囲を巻き込んでいるかを気づいていない。

 自分が死んでも構わないという無頓着さが、どれほどアレクセイの胸を締め付けているかも。

 それでも、アレクセイは決めていた。

 彼女がたった一人でこの腐敗した世界と戦い続けるというのなら、自分はその後ろ盾となり、彼女が最後まで笑っていられる場所を守り抜こうと。

 

 たとえそのために自分がどれほど胃を痛めることにあるとしても。

 

「……イザベラ、一つ聞かせてくれ。君はなぜ、そこまでして人を助ける?」

「ん? 決まってんだろ。あたしこの国が好きだからな。好きな国が汚れてんのは我慢ならねぇんだよ」

 

 イザベラは窓の外、夕日に染まる帝都を見つめて、どこか達観したような、それでいて瑞々しい瞳で笑った。

 

 アレクセイはその横顔を、ただ黙って見つめ返していた。

 彼女の正義を信じ支えたいと思う。その想いこそが今の彼を繋ぎ止めている、最後の一本の糸であった。

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