派遣魔術師、傲慢傭兵少女の癖を歪める 〜魔術ギルド所属の僕が荒くれバディに限界を迎えた結果、ガチで叱って泣かれて、ギルドに返してもらえなくなった〜 作:でんでんジャンガリアン
胸に燻る思いのままに言葉を吐き出して。
視線の先のミルクは、褒められると思ってた得意げな笑みが固まって、まるで不意に殴られたみたいな表情に。
「…………ね、ねぇ。っなにいまの、おかしくないか? いまのあたしの功績なのに、なんであたしがおっきな声だされて……っ」
「ッ決まってるだろ、そんなの!」
ダメだこいつ、本当に悪気がないんだ。
僕だって分かってる。ミルクが意味もなく他人を傷つけるやつじゃないことなんて。でもだったら、悪意がなければいいのか? 他人に危険を招く癇癪を許していいのか?
…………これまではきっと、みんな許してきたんだろうな。
「っなんなんだ……! あたし、地竜を倒したろ! ちゃんとみんなの役に立って、褒められることのはずだ! なのに……っなんでクラウン、そんな目で……!」
「……っと、お嬢たち! どうしたんです、喧嘩はよしてくださいや……! ほらクラウン、俺たちならなんともねえから!」
異変に気づいてこっちにきた傭兵もミルクを責めはせず、気を遣って宥めるだけ。
……ミルクのことが大事なのは分かる。小さい頃から傭兵団で育ってきて、みんなの娘みたいに思われてるってのも知ってる。
だけど。その結果がこれだろッ。人の命を危うくしておいて、その自覚もなく癇癪を起こして。
ミルクが悪いやつじゃないことは分かってる。口ではいつも意地悪言って、自信過剰で、ちょっとおバカで……だけどちゃんと人に――新参者の僕にも優しさを向けられる子だ。
でも、だからこそ――
「――ダメなことはダメだと、ちゃんと言わなきゃだろ……!」
「ちょっ、クラウン……ッ? おまッ」
察したらしい傭兵の彼は焦ったように声を上げる。
みんなが言ってやらないなら、僕が!
「ミルク、お前は……! ――仲間を殺したくないなら、もっと考えて行動するんだッ!」
「! こ、殺すって、なにを……」
「だってそうだろうッ? さっきの地竜をやった一撃、その結果をちゃんと考えていたか!? 地竜の半分は後ろのみんなに当たるところだったんだ! ……あんなデカいものが高速でぶつかったら、普通は死ぬんだぞ……!」
「っ?」
それ、どういう反応だ。ちょっと目を見開いて、戸惑ったように周囲を――地竜の死骸が着弾した辺りに視線をさまよわせて。
ほら、見たら分かるだろう。地竜がぶつかったところ、地面が抉れて小さなクレーターみたいになってるんだから。
「……あっ、で、でもあたし! その、ちゃんと地竜は倒したし! っほら、あのまま地竜が突っ込んだほうが怪我人出てたかも……――」
「すでに相手は逃げる意思しかなくて、進路を誘導までしていたのにかッ? あそこからちょっと動きを変えられたからって、避けられないほどみんなは弱くない……!」
「ぁ、うぅ、……でも、でも……」
いつもの自信満々な姿はどこへやら。視線をさまよわせながら、なんとか言い訳を探そうとしてる。
というか、言い淀んでる時点でお前も自覚しているんだろ? 自分が考えなしだったことを。
だったら。どうするか分かるな?
「――――謝るんだ、ミルク。みんなに!」
「っ」
「それで許してもらったら、次からは気をつける。いいじゃないかそれで……!」
「あ、ぅ、でも、あたしはっ、あたしは悪く……」
ミルクは俯いて、服の裾を掴みながらまだモゴモゴと抵抗を続ける。
そうしてる間に他の傭兵たち……地竜を追ってた後続の集団や、そのさらに裏にいた団長たちも追いついてくる。
なにが起きてるのか把握しきれていない者もいる中で、まだ頭に血が昇っていた俺は続ける。
「さあ……! ミルク、謝るんだ!」
「――ちょい、クラウン……! いいってそれくらいで! 俺らは気にしちゃいねえし、お嬢がその……特にお前にキツく言われるのは見てられねえ!」
「……そうは言いますけど。こんな状況になった原因の一端は、みんなにもあるんですからね。明確に叱らず、お姫様扱い。だからこうして過ちを認めず意固地に……ッ。いつか他の組織とも揉め事を起こしますよ!」
「うっ。そりゃあ……」
言葉に詰まる彼を無視して。僕は三度ミルクに告げた。
「――さあ謝罪だ、ミルク! 悪いことをしたら謝って反省して……それがケジメだろう!」
そんな僕の言葉に。
多くの目を前に、俯いてぷるぷると震えていたミルクは。
…………やがてゆっくりとその顔をあげると。
「――…………え? ミルク、泣いて……」
彼女は顔を歪めて言ったのだ。
「――ぅ、あ、あたしは……! ただちょっと、クラウンに良いとこ見せたかっただけなのに! なのになんで、そんな……――――意地悪ばっかり言うんだぁ……っ!」
は? ……逆ギレ?
叫ぶミルクの目には……嘘だろ、ちょっと涙が溜まってる? あの傍若無人、自分勝手の化身であるミルクが?
「あぁあぁ、お嬢……! 泣かないでくださいよお!」
「っな、泣いてなんかいるもんか! あたしはただ…………ぅううう!」
子どもみたいに強がって。眉を顰めて歯を噛み締める。
でも。ここで哀れがって僕が折れたら、それこそ今までの環境と一緒じゃないか。
僕なんかが烏滸がましいと言われたらそれまでだが……ミルクのことを思えばこそ、ここは心を鬼にして。
僕は意識的にきゅっと目を吊り上げて。できるだけ本気が伝わるよう、声を低くして言った。
「泣いたって喚いたって、悪いことをした事実は消えない。ッ謝ってくれ、ミルク。それができないならもう――」
もう……どうしようか。僕が言ってミルクへの脅しになるようなこと、よく考えたらなにもないぞ。
ただ謝れってだけじゃさっきまでと同じだし、それをミルクは聞いてなんかくれなかった。せ、精一杯凄むくらいしかないぞ。
だからもう。僕はほとんど苦し紛れみたいなもので、ぐうっとさらに眉根に力を込めて、眉間に皺を寄せて。軽く歯を剥き出すみたいに、大袈裟に怒りをアピールしたところ。
反応は顕著に現れた。
「っ!?」
ミルクはまるで怯えるみたいに肩を震わせて。おまけに眉尻を下げ、この世の終わりみたいに口をわななかせて。
「ぇ、な、なんでそんな顔ぉ……。ぃや、そんな顔であたしを…………っまさか、あ、あたしのことをっ!? そんな、そんなのっ!!」
そうして、ミルクは言うのだ。
「ぁああ、……っおねがい! あたしを……――き、嫌いにならないでぇ!!」
それはまるで、か弱い少女みたいに。
「は……え?」
縋るように僕に手を伸ばして、服を掴んで。喪失を恐れるみたいに涙をこぼす。
「――ごめんなざいぃぃ……! あやっ、謝るから! だからぁ……もう許してよぉ……っ!」
「なっ……」
ええ? なんで? あの、ミルクが?
戸惑いで声も出ない。それをどう捉えたのか、ミルクはますます大きな声を出して泣き始めて、馬鹿力で僕の体を締め上げる。
「ぐえっ」
「ねええぇぇぇ……! クラウンんんんん!!」
こ、声出せないって! 物理的に!
「お、おいおいお嬢、いったいどうしちまったんで……!?」
「お嬢、落ち着いてくだせえ!」
寄ってくる傭兵たちも、ミルクを気にして僕のことなんか見ちゃいない。
ちゃんと目を向けてくれよ、ほらっ。僕の顔青くなってきてないか? ちょっと気が遠くなって気が……!
「――はぁぁ。おめえらは、ったくよ……」
「あっ、お頭ぁ! 大変でさ、お嬢が泣いちまって!」
「泣いてなんかないぃぃぃ!! ぅう、クラウンんんん……!」
か、カオスすぎる。僕はただミルクに……当たり前のことを当たり前と伝えたかっただけで。
く、苦しい。
限界限界と、しがみついてくるミルクの背中をタップするも。
「!! ゆ、許してくれるか……っ? なにしたらいい? ぶ、ぶってもいいし……っどこでも触っていいからぁ……」
いらないそんなの。はなしてくれ、もう酸素が限界なんだ。あっ、視界が暗くなって――