かつて、ヒトはいくつかの群れとして存在していた。
群れとは基本的に、「明確な差異のない者同士」によって形作られるものである。なぜなら、生物が群れを成す理由は多岐にわたるものの、その根底には必ず、互いに助け合おうとする本能が存在するからだ。
群れとは、生物が厳しい自然を生き抜くうえで、極めて完成度の高い仕組みである。互いに支え合い、不足を補い合うことで、個体としての生存率を高め、次世代へと繋いでいく。それは、実に優れたシステムだった。
しかし、この「群れ」という仕組みには、一つだけ致命的な欠陥がある。
いかに助け合おうとも、もし一方だけが明確に優れていれば、必ずそこに格差が生まれてしまうのだ。
力量の差が大きいほど、強者が差し出すものは増え続ける。だが、それを是正しようとすれば、今度は弱者の居場所が削られていく。どちらに転んでも歪みは生じ、やがてその歪みは群れそのものを蝕んでいく。
それでは、本来互いを支え合うための仕組みであったはずの群れが、本末転倒であることは明らかだろう。
格差は争いの火種となる。だからこそ、それを本能的に理解している生物は、対等な存在としか群れを作らない。
かつては、ヒトもまたそうであった。
多少の違いはあれど、それは「個性」と呼べる範疇に収まる程度の差異に過ぎなかった。彼らはやがて寄り集まり、「社会」という一つの巨大な群れを形成し、その平穏の中で文明を築き上げ_____そして「人」となった。
だが、それはあくまで過去の話だ。およそ二千年ほど前の、遠い昔の出来事に過ぎない。
人が長い時間をかけて築き上げた平穏は、ある日、一瞬にして崩れ去った。
その崩壊の引き金を引いたのは、一柱の「悪魔」である。
その名は、バアル。
突如として人の上に君臨し、自らを悪魔と名乗った彼は、自身を呼び覚ました人類に、新たな力を与えた。
それが、俗に「魔法」と呼ばれる力である。
人に宿る魔力を媒介とし、炎や風を生み、水や電気を操り、大地さえも書き換える。その力は、従来の人類の技術体系を遥かに凌駕する、まさに万能の力だった。
人々はそれを受け入れ、利用し、急速な発展を遂げていく。やがてバアルは神として崇められ、その存在は信仰の中心へと据えられた。
しかし、この夢のような時代は決して長くは続かなかった。ここから、二百年に及ぶ悪夢が始まる。
端的に言えば、すべての人間が魔法を扱えるようにはならなかった。
一部の人間にはその力が与えられず、同じ群れの中に、決定的な断絶が生まれたのだ。
その理由は、今なお解明されていない。バアルの意図によるものか、それとも別の要因か。
だが一つだけ確かなことがある。
魔法が生活の根幹にまで浸透した世界において、それを扱えない者たちが迫害の対象となるまで時間はかからなかった。
やがて人々は、魔法以前の技術を愚かで稚拙なものとして嘲笑するようになる。
その風潮が定着した頃、事件は起きた。魔法を持たぬ者たちが、革命の名のもとに立ち上がったのだ。彼らは自らを「マーキナ」…自らを嘲笑した者が付けた名を敢えて名乗り、神殺しを掲げた。
だが、その結末はあまりにも明白だった。
敗北。
圧倒的な力の差の前では、彼らの抵抗は蛮勇に過ぎなかった。人類が積み上げてきた技術の粋は、神に傷一つつけることすら叶わず、無残に踏み潰された。
そして時は流れる。
この反乱を危険視した支配層は、更なる進化を名目に、旧人類との完全な隔離を決断する。
バアルの了承のもと、彼らは大地そのものを切り離し、空へと浮かべた。マーキナを地上に取り残したまま。こうして、浮遊大陸が創造されたのである。
これが、ウィザードたちの原点。地上に残した罪を忘れ、更なる繁栄の為に空で生きる者たち。
それは輝かしい歴史の始まりであると同時に____
_______二百年続く両者の対立の、決して消えない火種でもあった。
プロローグ IF (world == false) { revolt(); }(1)
「あれ……? おかしいな……なんでこれで動かないんだ?」
暗い空の下、誰の目にも触れないようなボロボロの空き家で、一人の少年が呟いた。周囲はすでに薄暗く、夜の気配がじわじわと迫っている。
少年は年齢に似合わない唸り声を上げると、中型のレンチを片手に、目の前に横たわる機械へと顔を突っ込む。
その機械はどこか翼のような構造を持ち、まるで鳥のようなシルエットをしていた。歪で、継ぎ接ぎだらけのそれは、完成には程遠い。それでも少年は、なんとかして動かそうと試行錯誤を繰り返しているらしい。
「んー……ここのパイプの取り違え……? いやでも、オヤジの話だとこれで合ってるはずで____って、うわぁっ?!」
次の瞬間、予想外の事態が起こった。
不完全に稼働した機械が内部の熱を外部へと噴き出し、少年はそれをまともに顔面で受けてしまう。
「っ……!」
咄嗟に顔を背けるが間に合わず、熱気と煙が一気に襲いかかる。
幸い火傷はなかったが、錆びたような臭いの煙にむせたのか、そのまま勢いよく後ろへ倒れ込んだ。
「……やっぱ俺じゃ、まだ無理かぁ」
煤で汚れた袖で顔を拭いながら、少年はぼやく。黒髪には灰が絡みつき、指で払っても完全には落ちない。
「クッソ……!」
声を押し殺して唸りながら、彼は天井の崩れた隙間から空を見上げた。
そこにあるのは、俺たちの知る空ではない。
青空も、星空も、雨雲さえも存在しない。ただ、無限に広がる黒い岩肌が、天井のようにすべてを覆っているだけだった。
___これが、この世界の「空」だ。
こうなった経緯には、少々複雑な理由がある。
この世界の人類は、初めからこのような環境に生まれたわけではない。
かつては、太陽の下で暮らしていた。
だが二千年ほど前、ある出来事が起こった。
それは人種や性別、肌の色といった違いではない。それよりも遥かに決定的な“差”を生み出した。
その変化を受けた者たちは、やがて「新人類」と呼ばれるようになる。
当初、両者は戸惑いながらも共存していた。
だが、「違い」はやがて亀裂へと変わる。
それは、どの時代でも変わらない。
やがて争いが起き、そして争いには必ず終わりがある。
勝者と敗者という形で。
結果として、新人類は空へと上り_____
残された人々は、その下に取り残された。
太陽を二度と拝むことのできない場所へと。
新人類は、「人」であることを捨てたのだ。
だから、この少年は本物の空を知らない。
彼がこれまで見てきた「空」は岩の天井であり、「太陽」は時間を知るための人工の光に過ぎない。
一度も、真の陽光を浴びたことがなかった。
「ん……? あ、電話」
しばらくぼんやりと空を見上げていた少年は、ズボンのポケットで震える振動に気づき、体を起こす。
取り出した携帯の画面には、母親からの着信。
内容は、だいたい予想がつく。
少年は憂鬱そうにため息をつきながら、通話ボタンを押した。
「……あー、もしも——」
『ちょっと
……やっぱりな。
電話越しとは思えないほどの声量で、怒号が飛んでくる。
思わず顔をしかめる。
「っ……ごめん母さん。すぐ帰るから」
さすがに逆らう気にはなれない。
鼓膜が破れそうな勢いの叱責に、少年は素直に折れるしかなかった。
だが、母の勢いは止まらない。
『あんた、またあの場所にいるの? 危ないからやめなさいって言ったでしょ! なんでダメなのか、この前ちゃんと話したばっかりじゃない!』
「あー……でもさ、もうすぐ完成なんだよ? だから、もうちょっとだけ____」
『ダメです。お父さんも心配してるのよ。今すぐ帰ってきなさい』
「ちょ、母さん!? ……くっそ、勝手に切んなよ……!」
通話が切れた画面を睨みつけ、吐き捨てるように言う。
ここまで言われては仕方がない。
これ以上遅れれば、本気で外出禁止になるかもしれない。
少年は機械に布をかけ、近くに置いてあった上着を掴むと、そのまま外へと駆け出した。
すでに辺りは暗い。
どうやら作業に没頭しているうちに、かなり時間が経っていたらしい。
「やばいやばいやばい……!」
冷え込む空気の中、焦りに駆られて足を速める。
脳裏には、母親の拳骨がしっかりと浮かんでいた。
だが___
...こういう時に限って不運は重なる。
イレギュラーとは、往々にして連続して起こるものだ。
「……ん? なんだ?」
少年は足を緩め、やがて立ち止まる。
進行方向の先に、人影のようなものが横たわっていた。
慎重に近づく。
だが、その影は微動だにしない。
「ああもう、マジかよ……!」
ここは人通りの少ない場所だ。
気づかれないまま、倒れていたのだろう。
別の意味で焦りを覚えながら、少年はその人影へと駆け寄る。
どうせ怒られるのは確定している。
ならば、自分の頭と目の前の命____どちらが優先かは明らかだった。
だが____
やはり、イレギュラーは続くようだ。
「……マジか」
それは、あまりにも非日常的な光景だった。
倒れていたのは一人の青年。
長い白髪に、細い体つき。中性的な顔立ちだが、おそらく男だろう。
年齢もそう離れていないはずなのに、どこか現実感がない。
だが問題はそこではない。
少年の目を引いたのは、その服装だった。
見たこともないほど上質な生地。
汚れているにもかかわらず、どこか清潔感を保ったマント。
このコロニーの人間ではあり得ない装い。
一目で“違う”と分かる異質さ。
「……ん……君は……?」
肩を揺すられた衝撃で目を覚ましたのか、青年はゆっくりと瞼を開く。
その瞳は____淡く青白く光っていた。
光の反射ではない。
瞳そのものが、内側から微かに発光している。
肩を揺すられた衝撃で目を覚ましたのか、青年はゆっくりと瞼を開く。
その瞳は淡く青白い光を帯びていた。
光の反射ではない。瞳そのものが、かすかに光を放っているのだ。
「……マジかよ」
少年は思わず呟き、額に手を当てる。
ここまで揃えば、子供でも察しがつく。
ウソみたいに整った容姿、異質な服装、発光する瞳、そしてこの状況。
それらすべてが、一つの答えへと繋がる。
「ここは...? 確か僕、地上に降りる途中で...あ、そうだ!君、名前は?」
無邪気な笑みを浮かべながら問いかけてくる青年。
彼は____かつて自分たちの祖先を追いやった存在。今なお語り継がれる、地上に人を置き去りにした仇敵。
この青年は、「新人類」。
そして____
「
どうも!初めまして!
今回で初投稿のメタるぎあと申します!
ようやく!!!夢の!!!小説投稿!!!!
人生で一度やってみたかったんですよね~!!!!!
今回のお話はいわゆるプロローグ...ですので、少々短めに、そして何よりも自分の文体を知って貰いたい!そんな気持ちで書いてみました。
イラストとかも描いたりするので、いつかどこかのタイミングでお見せしたい...!夢が広がりますね~。
と、いう訳で皆様!少々長編になるかもしれないこのシリーズですが、生暖かい目で見守ってくださると幸いです!
Twitter:https://x.com/meta_000329
こちらではイラストを載せたりなどしています!!!