森の音楽家クラムベリー「今回の受験者は貴方一人ですよ」「マ?」   作:凶運と悪運の女神

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■阿久津烈火
好きなもの:ギャンブル、実力行使で解決すること
嫌いなもの:凶運、肝心な場面に間に合わないこと

「私は幸運の女神には愛されない、きっと凶運の女神に弄ばれてるのでしょうね、ずっと」


『凶運と悪運に愛されるよ』

阿久津烈火は魔法少女である。

 

魔法少女とは、魔法の国から正式に認められ、可憐で美しい姿とそれには似合わないほどの力と一つの魔法を授かった存在であり、所謂、魔法使いの一形態である、らしい。

 

らしい、と後ろにつくのは、烈火はあくまでそれを自身の受けた選抜試験の試験官である森の音楽家クラムベリーから試験が終わった後の軽い講習で聞いただけであるからに他ならない。講習が終わり、家に着いた後、烈火はベットの上で今日までのことを軽く振り返った。

 

 

 

 

ー1週間前ー

 

いつも通りに学校帰りに適当な公衆トイレで着替えてから向かったパチンコで遊んだ後に、家への帰路でたまたま拾ったスマートフォンを交番に届けようとした時、突然スマートフォンが光り輝き、その光は烈火を飲み込んだ。

 

後に残ったのは、一人の可憐で美しい魔法少女であった。

 

拾ったスマホのインカメで自身の変わり果てた姿を見ながら、なんだこの美少女は、と阿久津烈火は首を傾げたが、答えはすぐに分かった。

 

突如持っていたスマホから白黒の何とも言えない形状のマスコットらしきものが出てきた。名前はファヴと言うらしい。阿久津烈火は内心デスゲームもので出てきそうなデザインしてるなコイツと思ったが、口には出さなかった。

 

ファヴが言うには、阿久津烈火が拾ったスマホには『魔法少女育成計画』なる完全無課金制とかいうクソ面白みのなさそうなアプリが入っており、そのアプリを通して、自分は本物の魔法少女に選ばれたらしい。

 

「私、これ拾っただけだから、持ち主じゃないけどいいのかしら?」

「ポン?」

 

本物の魔法少女になりうる素質を持つものを数万人に一人ぐらいの割合で選び、姿と力を与えるらしいが、あいにく阿久津烈火はアプリを通して適正ありと判定されたその人ではなく、たまたまその人物が選ばれる瞬間に、スマホを拾っただけの謂わばモブに過ぎない。

 

阿久津烈火は自身が魔法少女に相応しい人物とは到底思えない。ファヴ曰く、魔法少女はその力を世のため人のために、そして自分のために少し使うことを義務付けられた正義の味方らしい。ダメだ、まるで自分には似合わない。なんだったら、自分のためだけに使いたいぐらいだ。

 

そんなこんなでスマホの持ち主ではないことやここまでの経緯を話した。初めは本来とは違う人物が魔法少女になったハプニングに驚いていた様子だが、すぐに落ち着いて理解してくれたようだ。もちろん、今日遊んだ台はいい塩梅でリーチが拾えたことや、結局大負けして途中で泣きたくなったことなどは省いた。中学生でのパチはまずいことだと理解しているし、それを得体の知れないマスコット相手に話す義理もない。

 

「まあいいポン。魔法少女になったなら適性があったというだけポン」

「適当なことで」

 

どうやら魔法少女の界隈は色んなことが適当なのかもしれないと阿久津烈火は呆れたが、それを言ったら自分の人生も大概人のことをとやかく言えるほどじゃない適当なものなので文句は出なかった。

 

「1週間後に魔法少女選抜試験があるポン。魔法少女を続けたかったら、試験に合格しなくちゃいけないから準備をするポン」

「ええ…面倒ね…」

「来なかったら失格ポン。魔法少女の力は没収するポン」

「まあ、1週間後なら特に用事ないしいいけれど」

「それはよかったポン。()()()()()()()()()()()()()()

 

どうやら自分以外にも試験を受ける魔法少女、厳密にはその候補生とでも言えばいい子たちがいるらしい。選抜試験というからにはその中から何人か、あるいは一人だけを選ぶということか。

 

()()()()()()()()()()()()

 

阿久津烈火は自分の運の無さを自覚して今まで15年の人生を生きてきた。面倒ごとに巻き込まれたことは数知れず、パチで遊んでいる時に不良に絡まれたことなど可愛いもので、山に遊びにいけば熊に追いかけられ、海に遊びにいけば鮫が寄ってきた。好みのバンドのライブのチケットはまるで当たらず、当たったと思ったら、当日に行きの電車が人身事故運転の見合わせで使えなくなってライブには間に合わず、修学旅行では熱を出して京都観光は夢の彼方に消えていった。

 

大体、嫌な予感がする時には必ずそれ相応のことが起きた。幸運の女神に愛されておらず、微笑まれたこともない。凶運の女神に弄ばれる、という表現が正しいだろう。

 

「それで準備って?ペーパー試験は勘弁なんだけれど?」

「その時までの秘密ポン。魔法を使ったり、魔法少女の身体に慣れたり、人助けをしたりするポン」

「魔法?」

「後で渡す専用のマジカルフォンで確認するポン。魔法少女は一人一つユニークなでエキサイティングな魔法を持つポン」

「便利なのかしら?それ?」

「人それぞれポン」

 

運気の上がるお守りみたいな魔法ならいいな、と阿久津烈火は思った。

 

「魔法少女はパワーも変身前とは比べ物にならないし、寝たり食べたりもしなくていいポン。いつでも綺麗なままでみんなの憧れの存在ポン」

「へえ便利ね。まるでサイボーグ兵器だわ」

「喩えに悪意があるポン」

「気のせいよ」

 

それを皮切りに残りの必要事項を粗方聞き終わり、会話は一旦切り上げられた。阿久津烈火はファヴのアドバイス通りに変身を解除して、人間の姿で交番に拾ったスマホを届けた。

 

 

 

 

 

 

ー数時間後ー

 

家に到着した後は、ファヴの伝達通りに指定の場所まで行った。山奥の廃ビルらしく、普通なら行くのは躊躇するところだったが、魔法少女の身体能力は凄まじく、あっという間に山の麓から屋上までたどり着いた。

 

そこに置いてあったマジカルフォンなるとってつけたような安易なネーミングの端末を手にすると、画面が起動して、文字が出た。

 

【魔法少女名を入力するポン】

 

名前は行くまでの間に決めていた。せっかく今までの自分とは異なる存在になった。まだ完全に魔法少女になると決めた訳ではないが、今までの15年に及ぶ不運な人生への一旦の決別の意味と決意を込めて、名前を入力した。

 

 

 

 

【ジャックポット】

 

 

 

 

阿久津烈火が小さい頃に遊んだメダルゲーム、そこで引き当てた3656枚のメダル、大当たりの思い出。付いてきた()()()()()()が心底驚いた顔をしていたのは印象深い。さんざん自慢した挙句に手に入ったメダルはすぐに泡となって消えたが。それでも、凶運の女神が唯一見逃してくれた、阿久津烈火の最初で最後のラッキーイベントである。

 

「さてはて、あのなんちゃってマスコットはこの端末で私の魔法が確認できるとほざいていたけれど」

 

ああ、出来ることなら面白い魔法であってくれ。しょぼいのは勘弁だ。せっかくの魔法少女生活、ラッキーなものにしようと決心したのだから、その出鼻を挫くような代物ではないでくれ、とジャックポットは祈った。

 

しかし、阿久津烈火であろうとジャックポットであろうと、同一人物の祈りは大抵裏切られるためにある。

 

 

 

 

【貴方の魔法は『凶運と悪運に愛されるよ』だポン!】

 

 

 

 

「…」

 

なるほど、なるほど。どうやら凶運の女神様は私のことがよっぽど好きらしい。魔法少女となり、姿形が変わろうともお構いなしに私を見つけてくる。

 

 

 

 

 

「この⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(とても魔法少女が言ってはいけないスラング)がッ!!!!!」

 

凶運の女神の嘲笑が何処からか聞こえてきた、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

ー1週間後ー

 

マジカルフォンに通達された時刻通りに、山奥の廃ビルの玄関口に到着したジャックポットは、自身の魔法の詳細を知った時の苦い思い出を振り返り、顔を顰めた。

 

「確か、一階の宴会場だったかしら」

 

元々はホテルだったらしいが、バブル期の勢いに任せて作ったはいいが、肝心のバブルが弾けると一気に潰れたらしい。こういう熱に浮かされて生まれて呆気なく潰れたらしい事業は全国中にある。ここもそのうちの一つだった。夜になると山の中ということもあり、心霊スポットになるほどの知名度もなかったために誰もいなければ来ようともしない。だからこそ、魔法少女という秘匿性の高い存在が集まるには都合がいいのだろうとジャックポットは考えた。

 

「あらしかし、どうしたものかしら。あんな魔法じゃあ練習のしようもないし、ていうか、発動してるかも分からない。あの◯ノクマのパクリに聞いても、要領得ないし」

 

魔法の使い方も分からない、発動してるかも分からない、そもそもどういうタイプの魔法なのかも分からない。魔法少女のくせして肝心の魔法が分からない祭りである。これでは選抜試験を合格できるかどうか以前の問題である。したところで、魔法も使えない魔法少女の意義とはという話でもある。

 

「お願いだから、私以外の受験者少なめであって欲しいわ。それか簡単な試験であってくれればワンチャンありそうだけれど」

 

これで魔法を使うタイプの試験だと詰む。ペーパーテストでも詰む。ジャックポットも阿久津烈火も勉強は出来るタイプではない。魔法少女になって、反射神経やら運動神経やら動体視力やら思考速度は上がったが、肝心の使い方がおざなりのままである。()()()()()()()()()()()()()()()()とは訳が違う。もちろん悪い意味で、だ。

 

「ここかしら?」

 

そんなこんなで、頭の中でああでもこうでもないと悩みながら、重い足取りで暗い廃ビルの廊下を歩いていると、大きめの襖が目の前にあった。どうやら目的地に着いたらしい。この襖を開いて中に入れば、そこが試験会場である宴会場。とはいえ、あくまで集合場所兼試験の説明をする場所なだけかもしれないが。

 

「…」

 

今日、自分が魔法少女になれるか決まる。別に強くなりたい理由も憧れもなく、その上、自分にその資格があるかと言われれば甚だ疑問だと今でも思っているジャックポットだが、阿久津烈火はこれまでの出来事に運命を感じている。

 

もしも魔法少女になり、今までの自分と何かが変わるなら。自分の凶運は終わってくれるのではないかという仄かな期待。事実、持っている魔法こそ自分の願いとは正反対だったが、その割にこの1週間に不運な出来事は一つもなかった。

 

魔法少女という存在そのものでもその力にでもなく、日常が切り替わるこの感覚そのものに阿久津烈火は意味を見出していた。阿久津烈火はこのチャンスを手放したくはないと思っている。魔法少女を続けることで何が変わると問われれば、答えられない。だが、何かを変えたいと願うなら、今までとは大きく生き方の方針を変えていくべきなのだろうと荒雑な思考回路で考えた。

 

今までパチンコの台でしか出会わなかった魔法少女アニメに、動画サイトで無断転載されたものに齧り付きながら、その内容を咀嚼したことで阿久津烈火は理解したことがある。

 

 

魔法少女は人々の願いを背負う存在らしい。それを理解するまでの経緯は何とも碌でもないが、結果は大事だ。

 

ならば、ジャックポットは、その結果に従い、まずは自分の願いのために頑張ろうと思った。その後に周りの人のためにできることはないか考えよう。

 

息を吸って吐く。深呼吸だ。意識をこれからの試験に集中させる。よし、問題なし。襖を開いた。

 

「オープンセサミ…」

 

敷き詰められた畳と埃を被った長い木製の低いテーブルの列が数本。奥には、出し物をやるための舞台らしきものがある。その中央にポツンと立っている魔法少女が一人。ジャックポット以外の魔法少女はそれ以外にはいない。

 

「あら?」

「おや?」

 

声を上げたのは同時だった。

ジャックポットはその魔法少女を観察する。

 

長く尖った耳が無造作に伸ばされた金色の髪の間からはみ出し、肩、足、脇腹、太股、そこかしこに蔓が絡み、大小様々な花々が咲き誇っている。フリルのついたブラウス、薔薇の印章が描かれた若草色のジャケットを飴色の襟留めでまとめ、と上半身は比較的大人しいが、下半身では太股を激しく露出し、外見年齢二十歳程度という魔法少女にしては年嵩の見た目と合わさって、より過激に見えた。

 

「どうやら一番乗りは逃したようね」

「そうでもないですよ」

 

落ち着いた様子で、けれど何処か危うい印象のある女性だとジャックポットは感じた。その魔法少女は優雅に舞台から畳にふわりと擬音がつきそうな具合に飛び降りると、ゆっくり近づいてくる。

 

「はじめまして、ジャックポット。私は森の音楽家クラムベリー、今回の選抜試験の試験官です。どうぞよろしく」

 

そう言うと、クラムベリーはジャックポットの正面で立ち止まり、微笑んだ。穏やかな笑みだが、ジャックポットは妙な違和感を感じていた。その笑みはどちらかと言うと、可憐な花というより、こちらを観察する獣のようだから。徒に害意こそ見せないが、何か一歩でも踏み込めばタダでは済まないと思わせる得体の知れ無さだ。

 

とはいえ、今それを指摘してもしょうがない。相手が試験官ならば、それらしい形式に合わせて話せばいいだろう。あるかも分からない形式だが。

 

「よろしく、クラムベリー。それで、私以外の子はいつ着くのかしら?今日は用事はないけれど、明日は忙しくなりそうなの。手早く済むならそちらがいいわ」

 

用事とは、朝イチからのパチである。昼からは競馬だ。今まで一度も当たらない賭け事だが、魔法少女になって心機一転。当たる兆しが見えてきた。明日こそがその時だ。なるべく早く終わらせたい。…あと手短に済むタイプの試験ならペーパーテストにならなくて済むそうだし。

 

そんなどうしようもなくしょうもない理由と浅ましい思惑を悟らせる訳には当然いかず、ジャックポットは涼しげな表情のまま、クラムベリーに尋ねる。

 

「ふふ、ええ、そうですね。私も面倒ごとは嫌いですので、簡単な形式でいきます」

 

クラムベリーは笑った。それは思い焦がれた待ち人に会えた静かな歓喜の表情と声色だと錯覚させるほどだ。しかし、ジャックポット自身はそれに気づくことなく、ふう、と一息ついて安堵する。

 

「そう。それは結構だわ。なら私は他の子が来るまで待ちましょうかしら」

「いいえ。その必要はありませんよ。ジャックポット」

 

クラムベリーは間を置いて、サプライズをする子供のように悪戯気に笑みを浮かべて、言った。

 

「今回の受験者はあなた一人ですよ」

「…そう」

 

マ?と内心で驚くジャックポットだが、顔は変わらず無表情なままだ。そんなジャックポットにクラムベリーは説明を続ける。

 

「どうやら流石に戸惑っているようですね。ええ、分かります。私もファヴもこんなのは初めてのことですから。ですから、簡潔にまとめて話すと…」

 

「14人ポン」

 

声がクラムベリーの懐からする。クラムベリーが魔法の端末を取り出すと、そこから白黒のパクリマスコットが出た。ファヴである。

 

「ジャックポットが魔法少女になるまでに既に14人の魔法少女がいたポン。だけど、14人とも事情があって試験には出られなくなったポン。本当に驚いたし、せっかくの準備が全部台無しでがっかりポン」

「あら、ご愁傷様ね。同情するわ」

 

声は高く可愛らしいマスコットのそれのままだが、明らかに残念無念と言いたげな勢いだ。流石にジャックポットも可哀想だなと思った。

 

「ん?ちょっと待って?それじゃあ試験を受けるのは私だけでしょう?それでも試験はやるの?必要あるかしら?」

 

やるのは選抜試験だ。だが、競う相手はいない。ならやる必要もないのでは、と考えた。違う。言い訳を考えた。ジャックポットはとにかく面倒ごとを避けたい。簡単な形式の試験とクラムベリーは言ったが、それがもしも魔法を見るものだとジャックポットは詰む。できるなら試験は受けずに合格したい。

 

「そういう訳にはいかないポン。魔法少女はちゃんと素質があって優秀な子を選ばないと、他の試験を合格した子が報われないポン」

「…それはそうね」

困った。完全な正論だ。反論の余地はない。ジャックポットは渋々試験を受ける覚悟を宴会場に入る前と今とで二回決めることとなった。

 

「では、試験を発表します」

 

クラムベリーが話を切り上げ、試験へ持っていく。

 

「ジャックポット」

「なにかしら?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それをふわりと跳ぶように後退することで紙一重で避けるジャックポット。

 

「私と実践形式で戦ってください。()()()()満足したら合格とします」

「…ふぅん?」

 

ペーパーテストではない。魔法自体を見るわけでもない。あくまで戦えるかどうかを見る。魔法少女という概念はいまだに理解しきれてないジャックポットだが、いささか血生臭いなと思った。思ったが、しかし。

 

「いいわ。そちらの方が確かに、話が早いわ」

「お分かりいただけて嬉しいです」

 

ジャックポットは戦闘経験はない。相手は明らかに闘い慣れている。試験官としての仕事柄、受験者と戦うことも多いからだろうか。

 

だが、それがジャックポットの完全な不利を意味するわけではない。阿久津烈火には経験がある。自身より遥かに格上を相手に生き延び、返り討ちにした無数の経験が。

 

パチ屋でこちらを女子と舐めて絡んできた不良数人を路地裏でボコした。山で出くわした子連れの熊とはリアル鬼ごっこをして、途中、その熊の哀れな犠牲者であろうハンターの死体から猟銃を拝借してぶっつけ本番でその熊の脳天を撃ち抜いた。子供熊には申し訳なかった。

海でこちらを追いかけてきた鮫には偶然近くを漂流していた錆びた銛を開いた口めがけて突き刺してやった。

 

遍く凶運とトラブルが阿久津烈火を襲い、そこに転がり込んできた悪運を掴んで、阿久津烈火は生き延びた。今回も同じだ。それをするのがジャックポットであること以外は大して変わらない。暴力試験官がなんのその、必ず認めさせてやろう。

 

()()()()()()()()。それで終いにしなさい」

「いいでしょう、あなたにそれができるなら」

 

クラムベリーは高揚した様子を隠す気もない。まるで恋した乙女そのものだ。嬉々とした笑みと爛々と輝く瞳からは溢れんばかりの戦闘欲が透けて見える。

 

もしも、今日他の受験者14人、いやせめてその半分でもがいれば、クラムベリーの試験はこんな血生臭いのにはならなかったのではとジャックポットは考えずにいられない。全く、何故自分はこうも運がないのか、ジャックポットは自身を弄ばないと我慢ならない凶運の女神、あるいはこんな事態を引き起こしたのかもしれない己の魔法を恨んだ。

 

「ままならないわね」

 

 

 

 

 

 

 

ー10分後ー

 

「ふう、流石に疲れたわ」

 

ラスト一発が中々当たらなかった。クラムベリーは途中から『音を操る』魔法でこちらを惑わしてきた。どうやら、初めに受験者が自分一人と知らされて動揺していたのを見抜いたのもそれの魔法らしい。聴覚が優れているのだろう。その上、純粋に格闘に優れていた。ベテランの魔法少女とは全員あんなゴリラなのかと恐怖したほどだ。

 

三発目がようやく当たるかと思った矢先、『運悪く』殴り合っていた箇所の畳が抜けたためにお互い体勢を崩した。

 

咄嗟の機転か、あるいは気が動転した結果のいい加減か、ともすれば野生の直感か、どさくさ紛れの破れかぶれと言わんばかりに思い切り目の前で同じく体勢を崩していたクラムベリーに跳ね上げた両足でドロップキックをその場で食らわせ、そのまま彼女を足場に真後ろに横ジャンプして後退した。

 

「ッ…お見事です」

 

倒れたクラムベリーは先ほどの両足ドロップが見事に溝に入ったのか、少し苦し気ながらも笑みを崩すことなく、ジャックポットを称賛した。

 

「あらやだ、ごめんなさい。やり過ぎたかしら?」

「いいえ、構いません。私も途中から加減はしてませんでした。魔法も使いましたしね」

 

そう言うとクラムベリーは起き上がり、懐から端末を取り出す。ファヴが出る。

 

「ということなので、彼女は合格です。いいですよね?」

「仕方ないポン。マスターが満足したなら、ファヴは止めないポン」

 

試験は終了した。その瞬間、どっと疲れが身体中にかかる。戦闘中はアドレナリンやらなんやらで気にしなかった負担が一気に自覚できた。身体中に打撲の後や鈍い痛みが残っており、体力ももうない。ジャックポットは一刻早く家に帰ってベットにダイビングしたい気持ちだった。

 

「それではジャックポット、あなたを正式に魔法の国認定の魔法少女として認めます。その姿と力は正真正銘貴方が自力で勝ち取った貴方だけのものです」

「ありがたく頂戴するわ」

「ただし、この後軽い講習があるので。それと明日ファヴから連絡があるのでそれに従って手続きもお願いします」

「え?」

「規則なので」

明日の朝パチと昼馬が終わった()()()厄日だ。ジャックポットは真っ黒に染まった自身の休日を思い浮かべながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー1時間後ー

 

帰路に着くジャックポットを廃ビルの屋上から見下ろしていたクラムベリーにファヴが話しかける。

 

「ふふ、彼女は優秀な魔法少女になりそうですね」

「マスター、久しぶりに満足げポン。試験は台無しになった時はどうなるかと思ったけど、意外だったポン」

 

何せここしばらくは有望な魔法少女はおらず、数回の試験で出た合格者はゼロだった。ただでさえ、望んでいた戦いができない日が続いていたクラムベリーは顔にこそ出さないが、相当ストレスが溜まっていた。ファヴとしてもマスターの機嫌は適度に取っておきたいところだったが、そこに追い打ちをかけたのが今回の試験だった。試験そのものが始まる前から破綻したとなっては、どうなってしまうのかと思ったが、うまくいってよかったとファヴは安堵した。

 

「ええ、素敵な、将来有望な新人と戦えましたから」

 

 

 

 

 

『オープンセサミ…』

 

初めから期待していた。きっと今回は何かが違うという確信があった。ファヴは何度も魔法少女の資格を剥奪して殺すことを提案していたが、我慢できなかった。

 

そして彼女を一目見て理解した。自分はとびきりの『大当たり』(ジャックポット)を引いたのだと。

 

 

『あら?』

 

 

すらりと伸びた肢体は驚くほど細く、折れそうなほどに華奢だ。長い頭身と脚が、その線の細さをいっそう際立たせている。

その身を包むのは、黒と深緑が織りなす重厚なゴシック装束。胸元を四つの釦で固めたダブルブレストの身頃は、少女の細身を硬質に引き締めていた。首周りを覆うのは、緑の縞模様を刻んだ大振りのセーラーカラー。朝顔の如く広がるベルスリーブの袖口が、動きに合わせて優雅な弧を描き、腰元から膝へと広がるフレアスカートは、裾に配された対のストライプがクラシックな統一感を演出している。右腰には紋章を刻んだリボン付きのポーチが揺れ、足元のストラップで縛り上げた尖ったブーツが、その佇まいに鋭い印象を添えていた。

陶器のごとき白肌に、夜を溶かしたような肩にふわりとかかるほどの黒髪が波打つ。首筋に散る漆黒が、その存在を冷たく浮き彫りにしていた。

何より人を射すくめるのは、その瞳だ。大きく、黒目がちで、凍てついた湖底のように澄んでいる。固く結ばれた唇と、わずかに寄せられた眉。無表情なその面輪には、幼さを置き去りにしたような静謐さと、すべてを見透かす冷徹な威圧感が宿っている。

そこに佇むのは、人を寄せ付けぬ神秘を纏った、氷の美少女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか他の受験予定の14人の魔法少女全員がジャックポットが魔法少女になってから今日までの1週間で死ぬなんて前代未聞だポン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試験を受けた魔法少女が死ぬなら分かります。受ける前でも下らない諍いでつい殺し合ってしまった魔法少女が出たと言うのもまだ納得できます。ですが、試験とは関係なしに、1週間で14人死ぬのは想像できませんでしたね」

 

 

 

 

 

初めの小学生は交通事故で死んだ。

次の中学生は階段から転がり落ちて頭を打って死んだ。

その次の高校生はずいぶん前に人身事故があったにもかかわらずホームドアが設置されなかった駅のホームから運悪く落ちて轢かれて死んだ。

山近くに住んでいた老婦人は寝ているところを親を殺され彷徨いながら成長した熊に襲われて死んだ。

ヨットが趣味だった大学生は親を銛で刺されて殺された鮫に襲われ死んだ。

その次は、

次は

次は

次は

次は

次は

次は

次は、

 

 

 

全員死んだ。

 

 

 

 

魔法とは無関係に、日常の不運、いや、()()に虐まれ、魔法少女に変身して身を守る考えが浮かぶより先に呆気なく死んだ。

 

そこにはクラムベリーとファヴによる魔法少女同士の殺し合い試験という思惑は一切介在することなく、ただひたすらに彼ら彼女たちは『運が悪かった』

 

「これも彼女の魔法なのでしょうか?」

「さすがにここまでとはだポン。マスターはいつも魔法少女だったから事故で死ぬ余地がなかったポン」

「それかもしくは、彼女が魔法少女になる上で私が必要だったからというのもあるかもですね」

 

クラムベリーはジャックポットが最後に自身に向けて食らわせた蹴りを思い出す。ジャックポット本人は『運が悪かった』と何度も愚痴を言っていた。あの時、『運悪く』畳が抜けていなければ体制を崩さなかったと。三発目の打撃のグーが当たっていた。あんな不細工なドロップキックなどしなくて済んだと。

 

クラムベリーとファヴは知っている。その『運の悪い』出来事がなければ、()()()()()()()()()()()()1()5()()()()()()()()()()()()()()

 

「マスター、ジャックポットが三発目のグーを入れようとした時、魔法で殺す気だったポン。戦っている途中は『音は撹乱以外じゃ使わないから安心してください』なんて言っていたくせにだポン。流石に大人気ないポン」

「すいません。つい熱が入ってしまって。うっかりしてました」

 

クラムベリーの魔法は『音を操る』。その出力は本気を出せば破壊音波となり、触れた対象はもちろん、離れた相手にも当たれば原型を留めない威力の衝撃波を発生させられる。

 

ジャックポットが三発目の打撃を当てようとクラムベリーの防御の合間を縫って踏み込んできたまさにその瞬間、クラムベリーは破壊音波を出そうとしていた。そしてクラムベリーにとっても『運悪く』畳が抜けて体勢を崩し、ジャックポットは合格をもぎ取った。

 

ジャックポットは戦闘中の己の『凶運』の最中、その裏に隠れた生き延びるための『悪運』を見事に掴んだのだ。

 

「では、後のことはよろしくお願いします。私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はあ、全く、電子妖精使いが荒いポン」

 

得体の知れない魔法やそれで躊躇なく他の魔法少女たちを殺した冷酷さだけじゃない。

身体面でも抜群だった。

魔法少女になって1週間しか経っておらず、己の魔法さえ満足に扱えないはずのそれは、自身と肉弾戦で渡り合う強さを持っていた。

もちろん試験という建前がある以上、こちらも本気は出せなかった。こちらが与えた打撃の数は十を超え、あちらはたった三発。十分すぎる。彼女の素質や強さを認めるにはあまりにも過ぎた功績だ。

 

最も彼女が試験などという建前を本気で信じていたとは思えなければ、魔法の使い方が分からないというこちらに溢していた愚痴が本当かも怪しかったが。

 

まるで御伽話か童話から蘇った悪者のようだった。

あるいは忌まわしい悪魔が人の姿に化けたのか。

いいや、そのどれでもない。

深い奈落のように果てのない暗黒から舞い上がってきたさながら死の飛翔だ。

 

初めてだった。闘いたいからじゃない。心から純粋にこの異才に開花して欲しいと、先輩として、仮初の教育者、体裁だけの試験官として願ったのは。だからこそ、三発目の重撃を契機に彼女を合格とした。このまま戦い続け、殺すには惜しいと思ってしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー3日後ー

 

クラムベリーやファヴからのあれやこれやの面倒な書類に適当にサインをしまくっていたら、結局休日は潰れてしまった。新しい台、楽しみにしていたのにな。

 

そんな中学生が考えていいものではない事柄に思考を巡らせながら、ボートレース場付設のラーメン屋にて塩ラーメンを啜る。レースが始まるまでの合間に、店のテレビからはニュースが流れた。この近辺では住民の謎の不幸の連続死はだいぶ有名かつホットな話題だ。

 

「1週間で14人ねぇ、みんな『運が悪かった』のね」

 

自身ほど運が悪ければ、きっとよほど優秀な子じゃないと死んじゃうだろうと阿久津烈火は内心ぼやく。そうじゃなければ自身と同じぐらいに身体が丈夫かのどちらかだ。そんな存在は魔法少女ぐらいだろう。

 

「女子中学生が平日の放課後からボートで賭けに勤むのは感心しないね」

「ゲ…」

 

噂をすれば、である。阿久津烈火は、ゆっくりと首を後ろに向ける。

 

「全く、生活が大変だと泣きつく()()のために貸したお金をこうも見事に溶かされると流石の私も悲しみを隠しきれないよ」

()()、それを言うならせめてその笑みはしまいましょう」

 

「な、なんで、ここが分かるのよ、()()()。貴方たち、まさか私のストーカーじゃあ…」

 

「今すぐ借した分徴収しても構わないが?」

「はっ倒しますよ」

「ごめんなさい」




■ジャックポット
『凶運と悪運に愛されるよ』
少女は踊る、あまねく不幸とともに。
少女が躍る、あまねく不幸を引き連れて。
不幸中の幸いである。
すれ違う人々の不幸の中で、少女は一握りの幸運を遂につかむ。
不幸中の幸いだ。
不幸は己だけと少女は笑う。
いつか気が付く、その日まで。
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奇跡を起こす魔法(作者:あう餅)(原作:葬送のフリーレン)

奇跡的にひとの心を得られた魔族が、人と魔族が笑いあえる場所を探すお話です。


総合評価:101/評価:-.--/連載:6話/更新日時:2026年05月05日(火) 12:59 小説情報

よく来たね、ボクだけが勝つ教室に(作者:透明な唐揚げ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

ホワイトルームのカリキュラムを僅か1年でクリアしたモノホンの怪物を平穏な高校生活を望む綾小路くんにぶつける。▼


総合評価:418/評価:6.87/連載:4話/更新日時:2026年04月22日(水) 18:00 小説情報

くたばり損ない魔法少女わたしの独りゴト(作者:土縁屋)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

わたし、華亥ムラクモ♡ 自分語りが大好きな、どこにでもいる普通の女の子♡▼魔法少女として世界の平和を護ってたんだけど、やっと平和になったと思ったら異世界追放!? 許せムラクモ……これもお前が強すぎるが故だぜ……なんつって。▼飛ばされた先は剣と魔法のファンタジー世界。だってのになんだか近代的なの。下手すりゃわたしの世界より文明的なんじゃない? 夢こわれる。▼そ…


総合評価:738/評価:8.12/連載:49話/更新日時:2026年06月18日(木) 18:30 小説情報

在野の強者のモブパイロットはシビアなSF世界を気楽に生きていたい。(作者:その辺の束子)(オリジナルSF/冒険・バトル)

▼ ロボットでドンパチやり合うシビアで退廃的なSF世界。▼ そんな世界に嫌気が差し、もっと気楽に頭空っぽに、その辺のモブの様に生きようとしていた賞金稼ぎ(バウンティハンター)の『レイト・ナモナ』▼ だが彼はただのモブに収まらないその凄腕パイロットスキルを手に余らせていた。▼「賞金稼ぎは良いぞ〜。悪党ブチのめすとスカッとするしお金も貰える。」▼ これはそんな頭…


総合評価:608/評価:7.62/連載:16話/更新日時:2026年05月04日(月) 12:02 小説情報

TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ(作者:イア! イア!!)(オリジナル現代/ホラー)

SAN値直葬系マスコットとそれを心から愛する転生者(正気)の日常。▼※序盤とタイトルを書き直しました。▼気分転換に書いた作品を投稿欲を満たすために投稿してみます。▼続き書いたら増えます。


総合評価:1493/評価:8.37/連載:13話/更新日時:2026年06月19日(金) 18:06 小説情報


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