【完結】クレマンティーヌを愛でるだけ   作:鵲一号

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※作者はオーバーロードの中でクレマンティーヌが一番好きです。


クレマンティーヌを支配するだけ

 その日の深夜、クレマンティーヌはいつものように“お楽しみ”をしていた。

即ち、裏路地でうらぶれた者を一方的に嬲り殺す虐殺である。

シリアルキラーである彼女はこうして殺戮中毒を発散させるべく獲物を求めては発見しだい遊び感覚で殺していた。

今日も3人ばかし殺し終えて、さて帰るか、と腰をあげようとした瞬間。

 

一人の少年が物陰から現れた。

 

クレマンティーヌは内心見られたか、と舌打ちをするが、どうせ新しい獲物になるのだから、とすぐに思考を切り替え厭らしい笑みを浮かべた。

 

「ん? あれあれ~、見られちゃった~? あたしのお楽しみタイム~。

 ボーヤも運ないね~、偶然こんな現場に居合わせちゃったせいでさ~」

 

少年にゆっくりゆっくりと歩み寄り、手元でスティレットを弄ぶ。

彼女の脳内ではこの幼いが美少年とも言える美しい顔をどのようにグチャグチャにするか妄想中なのだろう。

だが、結論から言えばそれは永遠に実現されなかった。

 

「じ~っくり、ゆ~っくり、殺されることになるんだか」

 

魔法最強化(マキシマイズ・マジック)

支配(ドミネート)

 

「らひゅっ」

 

クレマンティーヌにとって運がとてもとても悪かったのは、その少年が【YGGDRASILL】プレイヤーであり、人間に擬態しているだけの淫魔(インキュバス)という異形種だったことだろう。

支配の魔法をかけられたクレマンティーヌの意識はあっけなく少年の手中に収まった。

クレマンティーヌは完全に意識がトんでいるらしく、ただ呆然と前を見つめる目に光はなく、両腕はだらんと弛緩している。

俗に言う命令待ちのテイムされたモンスターの状態だ。

 

「……………………────」

 

クレマンティーヌは何も言わない。

否、言うことが出来ない。

それを発する権利すら少年の意思ひとつによるものなのだから。

そして、更に運が悪かったことに、クレマンティーヌは少年の“好み”だった。

 

記憶操作(コントロール・アムネジア)

 

「へげっ。あが、ががががががががががっ。おごげ、ごええっ、えげがげ、はがげげ」

 

記憶を少年のイイように改竄される。

電流を浴びせられたカエルの解剖実験のように手足をジタバタと動かして、目はぐるぐるとあちこちを向き、舌はまろび出て涎がボタボタとこぼれ落ちる。

やがて立っていられなくなったクレマンティーヌはドタンと音を立て地に倒れ、それでもまだジタバタと手足を動かし続ける。

脳を直接イジくられる限り、この反応は収まることはない。

少年の記憶改竄は結構長く続き、クレマンティーヌはしばらく不格好なダンスを続けるハメになった。

 

「けぺっ」

 

しばらくしてようやく満足の行く改竄が出来たのか、クレマンティーヌはおとなしくなった。

その代わりに気絶して起きる気配がない。

少年はどうせヒマだし、と独りごちて、気絶しているクレマンティーヌの横に座り込んだら懐から本を取り出し読書を始めた。

深夜に明かりもない路地裏でよく本が読めるものだと思うが、彼は種族スキルで暗視ができるので問題なく読めている。

やがて少年の読書がストーリーの“オチ”に差し掛かった頃。

 

「あれ……、あたし……? 何して……」

 

クレマンティーヌがようやく気絶から復帰した。

未だ寝ぼけているのか、自分が気絶する前何をしていたかも覚えていないようだ。

オチ手前で水をさされた少年はちょっと残念そうに栞を挟むと、本を懐に仕舞った。

 

「あ、ご主人サマ。あたし今何してたっけ…?」

 

“ご主人サマ”。確かにクレマンティーヌはそう言った。それも、そう言うのがごくごく自然であるかのように。

少年がクレマンティーヌにした記憶の改竄は以下の通りだ。

 

『主人に絶対服従』

『主人を裏切るような考えをコンマ1秒でもしたら即座に自害』

『主人の命令ならなんでも言うことを喜んで聞く』

『主人に人権含む全てを捧げる』

『その他こっちの事情をもろもろ……』

 

いかにも淫魔らしい自分本位の改竄である。

リアルでは平凡なリーマンだった彼だが、彼もしっかり異形種のメンタルに染まっている証拠と言えた。

これにより絶対に誰かの下に付くことなど無い、付こうとするとプライドの高さが邪魔をするクレマンティーヌが、主として完全に服従してしまったのである。

なお、彼が改竄した命令の中に自分をどう呼べ、という類の物は含まれていない。

なので“ご主人サマ”というのはクレマンティーヌが自分で考えて自分が仕えるに相応しい人物をそう呼ぶべきだと判断した二人称だ。

ちなみに性格に関しても少年の“好み”だったため、特に丁寧語や尊敬語を使えなどという命令も刻んでいない。

そこは恐らく少年の性癖だろう。

少年は未だ寝ぼけているクレマンティーヌに現状を説明してやる。

 

「……あ、あーあーそうそう、いつものお楽しみタイム中だったっけ…。

 でもなんでご主人サマがここに?」

 

訝しがるクレマンティーヌにお前を迎えに来たんだよ、と説明してやる。

 

「へ? 迎え? あれ、今日なんかあったっけ。ヒマだからお楽しみしてたんだけど……?」

 

少年はやれやれとでも言うように肩をすくめると、ため息を一つ。

まだ忘れているのか、再確認のためお前の現状と目的を言ってみろ、と命令した。

もちろんこれはクレマンティーヌの現状を全く知らない少年が本人から説明させるための方弁である。

 

「えー? 再確認て、初めから? 長くなるケド? ……まぁ、ご主人サマがいいならいーけど。

 えーとまずー、漆黒聖典にいるのがイヤになって叡者の額冠を巫女姫からギって法国から逃げ出してー、

 したらまぁ当然だけど追手が来てー、風花聖典なんか寄越しやがったからいい加減追っ払うのが面倒になってー、

 どっか隠れ蓑を探してたらズーラーノーンっつー妙な宗教集団がいたからこう上手いこと取り入って追手から逃れるのに成功してー、

 でもなんかズーラーノーンから命令されてー、隠れ蓑にしてる以上ある程度聞かないといけねーからしょーがねーかって任務を受けてやってー、

 今はカジット・デイル・バダンテールっていう、まぁアタシはカジっちゃんって呼んでるんだけど、見た目は老けてるくせに結構若いヤツと組んでてー、

 そいつが死の宝珠っつーマジックアイテムに負力を溜め込んで死の螺旋っていう現象を起こすために準備してるからー、その準備完了待ち? って感じ?

 なんかアタシのギってきた叡者の額冠も使うらしいから一働きしなくちゃいけないらしくてクソめんどくせーマジでっつーか。

 ……ってぇ感じかなぁ? アタシの現状と目的の再確認。これがどしたん?」

 

少年は内心でなるほどこいつなかなか面倒くさい状況にあるなと頷きながら納得する。

そして、迎えに来たのはお前が面倒な隠れ蓑を使わなくても良くするためだ、と説明してやる。

当然これは今考えただけの作り話であり、クレマンティーヌを自分が独占して“所有”するにはまず所属組織から切り離すべきだと考えたからだ。

 

「え、マジ? あー、でもそうか。言われてみればご主人サマがいれば風花聖典なんかクシャクシャ丸めてポイできるし、ズーラーノーンもいらねーもんな」

 

【記憶操作】の際にこちらの戦力の情報はある程度流し込んであるため、クレマンティーヌは少年の実力を疑っていない。

むしろ“この人に勝てる生き物なんてこの世にいないんじゃね?”とすら思っている。

 

「てゆーか……すんげー今更でごめんなんだけど、ご主人サマって“ぷれいやー”なん?」

 

まさか【YGGDRASILL】プレイヤーではない現地人からその単語が出てくるとは思わず少年は思わずビックリしたが、事実確認を優先して、

なんでそう思ったか、なんでその単語を知っているかを聞いた。

 

「えー? だって神がかった能力を持ってるのは百年に一度降臨する“ぷれいやー”サマだってのは漆黒聖典になるとき聞かされるしー、

 じゃあご主人サマだったらそうじゃね? と思って」

 

得心が行った少年は【YGGDRASILL】プレイヤーの事を把握している【法国】とやらに警戒心を強めると、確かに自分は【YGGDRASILL】プレイヤーだと応えた。

 

「やっぱし! じゃあもうアタシ無敵の味方を得たようなもんじゃーん! いえーいクレマンティーヌちゃんの人生勝ち組ロードに乗っかったー」

 

なにやらクレマンティーヌは無邪気に喜んでいる。

巨乳といえる大きさの彼女のバストも弾んでおり、少年は眼福眼福と凝視している。

しかしいつまでもそんなコトをしている場合でもない。

本当に組織と縁を切るからにはクレマンティーヌ自身の強化が必要だと判断したためだ。

まずはクレマンティーヌのレベルを問う。

 

「れべる? あー、ぷれいやーが指標にしてる強さの目安だっけ。えー……っと……。あれ、どうやって計算すんだったかなぁ。ちょっと待ってね?

 たーしーかー、難度の……何分の一だっけ……3? 2? えー……?」

 

レベル確認の時点で躓いてしまったようだ。

先が思いやられると思いつつも少年はクレマンティーヌの答えを待つ。

だいぶ待ったが、クレマンティーヌが手をポンと叩くと答えが出たようだ。こころなしか頭の上に電球が見えた。

 

「多分、30半ば、くらい、だと思う! きっと!」

 

少年は思わず“低っ”と声に出して言ってしまった。

言った後に失礼だったなと思ったが時既に遅し。

 

「ひどー!! これでも人類最強クラスではあるんですけどー!? そーゆーご主人サマはれべる幾つなのさー!」

 

100。

 

「oh...」

 

素直に応えたらドン引かれてしまった。

【YGGDRASILL】プレイヤーはLv100がデフォなので仕方がない。

もしくは、復帰してレベル上げる気がない、安全圏で遊んでるだけのLv1か。

 

「まぁ……ご主人サマくらい強ければそんだけ高いのは納得行くけど……ちなみにれべるの上限って幾つ?」

 

100。

 

「oh......」

 

今度はコイツ限界まで育ってんのかよ、という目で見られてしまった。

限界まで育てないと殆どのコンテンツが遊べないバランス調整が悪い。

自分のせいじゃない。

少年はそう声を大にして主張したい気分になった。

 

「あー……まぁ……うん。ご主人サマが強い理由はわかったし、アタシのれべるを低いと思った理由もわかった。……1/3かぁ……」

 

なにやらクレマンティーヌが黄昏れているが、これは参った。

ここまで弱いとどっかでコロリと死んでしまうかも知れないし、蘇生アイテムはいくつも所持しているが、死ぬたびデスペナを貰っては弱くなる一方だ。

それに少年は今の所レベル30台が装備可能な装備を持ち合わせていなかった。

少年は【YGGDRASILL】時代は、冒険に飽きてからは末期は商人プレイで遊んでいたので、潤沢なアイテムと装備がインベントリにあるのだが、当然周りもLv100だらけなので、

商品である装備品の殆どは【装備可能レベル95~】という、大台も大台、この世界では超大台と言えるシロモノしかない。

どの品も、ためしに王家に持ってったら秒で国宝にされること間違いなしであろう。それも問答無用で。

一応念の為少年はクレマンティーヌの現状の装備も聞くことにした。

 

「装備? あー、えーっと、漆黒聖典時代のガチ装備はそのまま置いてきちゃったからー、今はこんなカンジだけど」

 

そういってクレマンティーヌが外套を両腕で広げてみせると、なにやらプレートが縫い付けられたスケイルアーマー? のようなビキニアーマーと、小ぶりのスティレットが二つ。

それにガントレットとグリーブ。

【道具上位鑑定】で調べてみたが、ガチ装備ではないと言った通り、スティレットに魔法攻撃が付与されている以外はなんの効果もないカスのようだ。

これはいけない。とてもいけない。少年は即座にそう思った。

Lv100プレイヤー同士でのPVPはステータスがだいたいトントンになるため、装備品とプレイスキルで差を付けなければいけないのだ。

それなのに、なんのエンチャもない装備は実にいただけない。

【YGGDRASILL】プレイヤーの本能が、強く訴えかけていた。

そして少年は、ビキニアーマーのプレートが色とりどりなのが気になったので、それなに? と興味本位で聞いてみることにした。

 

「あれ、ご主人サマ知らなかったっけ? 冒険者のランク表示プレート。銅色のが一番下でー、まぁ平たく言えば綺麗になればなるほど上のランクに上がるってやつ。

 んで、ブチ殺した冒険者のプレートをこうして括り付けてるってワケ。ま、ハンティングトロフィーってヤツ?」

 

それもいけない。一目で犯罪者と丸わかりだ。

少年も“こちらの世界”に来てから、エ・ランテルの街はあらかたブラついたが、冒険者という職業には興味がなかったためプレートについてはあまり知らなかった。

さもありなん。少年は冒険に飽きたから商人プレイをしていたのだ。今更冒険者なんぞなりたいとも思わない。

だが冒険者というのが明らかに「善側」なのはわかる。

それをたくさん殺した証を堂々と見せつけるなど大量殺人鬼以外の何者でもない。

これからクレマンティーヌを連れ回す気満々だった少年にとって、このビキニアーマーは枷にしかならない。

常にビキニアーマーを隠すことでしか天下の往来を歩かせられない。

なにかの拍子にバレたら警備兵を呼ばれて“スタァーーーーップ!”されて自分も犯罪者の仲間入りだ。

それはとてもいけない。少年はそう思った。

なので、脱げ。

 

「や~ん❤ ご主人サマのエ・ッ・チ❤ こんな死体のすぐ傍でシたいなんて❤」

 

そうではないのである。

淫魔である以上“そういう目的”でクレマンティーヌを支配したのは否定しないが、今はそういう話じゃない。

犯罪者の証を堂々と着るなと言いたいのだ。

 

「あぁ……。まぁ、確かに犯罪者集団から足を洗えばカタギに戻るのか……。そしたら確かにジャマだわな、コレ……」

 

納得したのかクレマンティーヌは犯罪者の動かぬ証であるビキニアーマーを脱ぎ捨てる。

なんとインナーも来ていなかったのか秘部が丸見えの丸裸になってしまったが。

 

「? 今更見慣れてるっしょ。別に気にしないけど」

 

改竄の影響から、クレマンティーヌの中では“そういうコト”になっているらしい。

それにしても、と少年は思う。

まじまじ見るとクレマンティーヌの膣の損傷がひどい。

というよりエグい。

これは明らかになんらかの拷問を受けた後だと素人でも一目でわかる。

クレマンティーヌを抱く目的で支配したのに毎回これを見せられては勃つモノも萎えてしまう。

というわけで、少年は【大治癒】を行使した。

バステも治す魔法なので拷問の傷跡も治るだろうと思ってかけた。

カンが半分、期待が半分である。

結構長い時間【記憶操作】をしていたのでMPの残量が不安だったが、第六位階程度なら余裕で使えるくらいは残ってたようだ。

かくして目論見どおり、クレマンティーヌのエグい膣は綺麗に回復した。

“つるつる”にまでなってしまったのは誤算だったが。

 

「は、え? あれ……?」

 

見るに堪えないから治した、とだけ少年は言った。

 

「え……あ……、あり、がと……?」

 

クレマンティーヌは困惑しているようだ。

情けをかけられたのがプライドに触ったか? と少年は一瞬危惧したが、無言でポロポロ泣き出すクレマンティーヌを見てギョッとしてしまった。

 

「あ、あれ? あは、なんでかな。あれ、おかしいな、別に泣く気は、ないんだけどな、あれ」

 

とりあえず嗚咽も漏らさずに泣くクレマンティーヌを少年は抱きしめてやった。

クレマンティーヌの方が身長が高かったのが情けなかったが。

 

 

「お見苦しいところをお見せしやした」

 

しばらくして泣き止んだクレマンティーヌが畏まった口調で謝ってきた。

泣いた理由は武士の情けで聞かないことにした。

【上位道具創造】で変わりのビキニアーマーを作ってやる。

十や超位でなければまだまだMPに余裕はありそうだ。

これもなんもエンチャがないただの頑丈なだけのビキニアーマーだが、犯罪者の証よりは断然マシだろう。

ついでにガントレットとグリーブもおそろいの色で作ってあげた。どれも簡素な銀色だが色がちぐはぐよりは不格好にはみえないはず。

それをクレマンティーヌは呆然と見ていた。

 

「はえー、ぷれいやーサマってのは何もないとこから装備も作れんだねぇ」

 

関心していたらしい。

未だ裸のクレマンティーヌはガントレットとグリーブも外して、全て新しい装備に着替え直した。

これでどこから見ても軽装備の戦士にしか見えないな。

クレマンティーヌもこころなしか嬉しそうである。

 

「うへへ。ご主人サマお手製の装備……❤」

 

訂正、嬉しいようだった。

あと犯罪者の証は【道具破壊】で証拠隠滅しておいた。

 

「あーんアタシのハンティングトロフィー」

 

嘆きが聞こえたが無視した。

さてこれで後は──と少年が思案しているとクレマンティーヌがスススと近づいてきた。

何やら耳打ちしたいことがあるらしくちょいちょいと指で手招きしてきてる。

 

「装備が作れるならさ~ぁ? 作って欲しいものがあるんだケド」

 

ほほう、随分と小生意気な要求をするじゃないか。少年はそう思った。

要求によってはオシオキが必要だと少年は思っていたが。

 

「く・び・わ❤ ほしいんだけど❤」

 

少年はそういうのドストライクだった。

奴隷の証として粗末な鉄の首輪を嵌めてやるのもいいが、こういう時は相場が決まっている。

猫科のような雰囲気を持つクレマンティーヌにはペット用の首輪こそが相応しいと。

それも金髪に映える赤。

これっきゃない。少年はそう思った。

少年は魔法なんぞ使わず、商人スキルの道具作成で、データクリスタルをたんまり詰め込み本気装備を作ることにした。

防御力はあって損はないがあくまでペットの証なので最低限でも構わないだろう。

常に装備していて貰うため有効なエンチャを敷き詰める必要がある。

 

『疲労無効』

『全状態異常無効』

『睡眠不要』

『飲食不要』

『装備破壊無効』

 

今の装備には五つしかエンチャできなかったためこれが限界だった。

悔しくて思わず地面をブン殴る少年。

なにか作り始めたと思ったら地面を殴りだした奇行にクレマンティーヌは若干引いていた。

なにはともあれお目当ての首輪ができたので、と少年が首輪を手渡すと、クレマンティーヌは喜ぶと思っていたが目を丸くして仰天していた。

 

「え…………。なにこれ、国宝? 神器? アタシがほしかったのってもっとこう、普通ので良かったんだけど……?」

 

思わず本気を出してしまったせいで性能に引かれてしまったようだ。

まぁとりあえず本気で作ったので付けてみてくれてと少年が促すと、クレマンティーヌは恐る恐るまるで高価なツボを運ぶかのように慎重に首に嵌めた。

ちょっとブカブカめだったサイズは付けた途端ピッタリと首にフィットするサイズに変化した。うむ。完璧である。

クレマンティーヌは首輪を何度かぺたぺたと触ると、途端ににへらとだらしない笑みになった。

 

「うへへへへ……❤ ご主人サマのペット……❤」

 

そういう反応、少年のドストライクである。

さらにクレマンティーヌはどこから出したのかネコミミをつけると、

 

「にゃーん❤」

 

と言ってみせた。

思わず押し倒してその場でサカりそうになったが、そこは淫魔の鉄の精神で堪える少年であった。

今はサカっている場合ではないのである。

装備はなんとか常識的な物にしたが未だクレマンティーヌが弱いのは変わりない。

とにかくレベリングしなくては、と少年は思っていた。

 

 

レベリング。

それもオンラインゲームのレベリング。

言うは易く行うは難し、を地で行く行為である。

“やったことがある人”なら理解ると思うが、オンゲ・ネトゲの類いにおけるレベリングとは“単なる長時間の全く同じ作業”でしかない。

要するに、いますぐレベルをガッと上げる、という蛮行は許されないのである。

何故なら、対人ゲームである以上、そういう事をすると平等性が失われてしまうから。

つまりバランス調整というものだ。

……まぁ、オンラインゲーム末期というものは、プレイヤーを少しでも呼び戻すために“レベル上限一歩手前”くらいまでなら簡単に上がる狩場が実装されたりするのだが、それはそれ。

ゲーム内にあるものを“この世界”に求めるのは酷というもの。

今あるものでどうにかするしかない。

少年は渋々としながら、アイテムインベントリをまさぐった。

 

「? なにそれ、指輪? ……なんかものすごくエグいオーラ放ってるケド」

 

流れ星の指輪(シューティングスター)

少年が取り出したるは、超々希少アイテムとされる、最高の課金アイテムである。

超位魔法【星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)】を、経験値消費なしで3回発動可能という破格の性能を持つシロモノだ。

そんなものを渋々ながらといいつつも、ホイホイ取り出していいのだろうか。

しかしながら、なんと法外なことに、少年はこのアイテムをリアルマネートレード(違法)で、いくつも買い揃えていた。

なお少年はリアルで特に富裕層というわけではなく、希少なアイテムをロンダリングしたり、コツコツとわらしべ長者したものをリアルマネートレード(違法)したりして稼いでいた。

“商人プレイなんてのはリアルマネートレード(違法)をしてからが本番”とは少年の意である。

いや、違法は違法。ダメ、絶対。

それはともかく。

少年は“この世界”に来てから、商人プレイのサガか、持っているアイテム全ての性能を確認していた。

その時に“この世界”では、本来は選択肢がいくつも出てきてそれから願いを選ぶ形式だったこのアイテムが、“望んだ願いを実現するもの”へと変化していたことを発見していた。

もうレベリングとか面倒くさいから、このアイテムを使ってやっちまおう、という腹積もりのようだ。

 

「……? …………はぁ」

 

と、いう説明を受けてもクレマンティーヌはぽかんとしている。

それもそうだろう。

どれだけすごい、つよい、たかい、と熱弁してもアイテムはアイテム。

それが現地民の感想だ。

いくらなんでも、アイテム一個で、自分たちが神と奉じてきていた存在と同格になれる、なんてのは有り体に言って嘘八百を言われているか、気が狂っているとしか思いようがない。

実際クレマンティーヌは少年のことを、新手のキチガイを見る目で見ていた。

別にそれは裏切りにはならないらしい。

そんな事はどうでもいい少年は、さっさと【星に願いを】を使用した。

 

「──は!? うわうわうわうわうわうわ、なになになになになに!!!!」

 

超位魔法の発動を間近で見せられて、クレマンティーヌは超絶ビビりまくり、腰が抜けている。

気絶していないだけ、流石は英雄の領域に足を踏み入れた人間と言えるだろう。バケモノメンタルである。

“クレマンティーヌのレベルを100にしておくれーっ”と少年は適当すぎる願いを放ち、【星に願いを】のエフェクトが消え去る。

 

「……………………な、なんだったの……」

 

当の本人は尻餅をついたまま唖然としている。

起こったことの説明をしても、“はい、はい”と要領を得ない。

事態を飲み込むまで少し時間が必要だろう。

少年はそう思い、クレマンティーヌが正気に戻るまでしばし待つことにした。

 

「………………で? アタシのれべるはどうなったの?」

 

小一時間経ち、ようやく正気にもどったクレマンティーヌが聞く。

そこだ。

【星に願いを】が発動したということは、100になったということだろうが、確認しないと確信が持てない。

実を言うと少年は確認方法が未だ確立できていなかった。

【YGGDRASILL】時代はPTを組んだり、フレンドになったりしたプレイヤーのステータスやレベルを確認できたが、この世界でそういうシステムがどういうことになっているのか、わからなかったからだ。

PT勧誘ポップアップを表示できるわけでもなし、そもそもプレイヤーをPTに誘うコンソール自体がないし、フレンド勧誘ももっとわからない。

駄目元でクレマンティーヌに聞いてみることにした。

 

「パーティを組む方法? えぇ……? さぁ……普通に一緒に冒険にでも出ればいんじゃね……?」

 

まぁ、そうだろうな、と少年は思った。

PTという概念がない世界だとそういう答えが返ってくるとはなんとなく思っていたからだ。

だが、駄目で元々。

やるだけやってみることにした。

今はもう街の門は閉まっているのでコッソリ城壁から外に出ると、クレマンティーヌと一緒に雑魚モンスターと戦ってみることにしたのだ。

これでクレマンティーヌの言うパーティになれた、と思うのだが……。

 

「とりあえずゴブリン一匹殺してみたけど……、なんか見える?」

 

そう言われてクレマンティーヌの身体に目を集中させる。

見えた。

視界の端にクレマンティーヌのステ欄が見えたのだ。

どうやら一緒にモンスターと戦うと“PT編成した”扱いになるらしい。

ステータス欄を閲覧する。

軒並み高ステータスだな、と少年は若干びっくりしていたが、レベルはしっかりと100と表示してあった。

その事を伝えるとクレマンティーヌは一瞬ぽかんと口を開けて固まると、気の抜けたような返事を返した。

 

「え……。これで何? ご主人サマと同じれべるなの? えぇ……? ウソぉ……」

 

気持ちはわかる。

少年も初めてレベル100になった時はそりゃもう狂喜乱舞したものだ。

それが課金アイテムとはいえ、一瞬で到達してしまっては、達成感も何もあったものではない。

 

「や……、達成感とかそうじゃなくて……」

 

何が違うのだろうか。少年は頭を捻った。

現地民と【YGGDRASILL】プレイヤー間の、かなりでかく深い溝が、ここにはあった。

 

 

「実感ねー」

 

いまだにクレマンティーヌは呆けている。

それより大事なことがある。

クレマンティーヌの装備変更だ。

何の効果もない頑丈なだけの鎧、そして下位魔法攻撃しかエンチャがないスティレット。あとやたら豪華にした防御力皆無の首輪。

これだけではあまりにも心もとない。

少年はこの世界に来て初めてのフレンド(部下とも言う)には、装備支援は惜しまないつもりである。

商人としての在庫から、戦士向けの最上級品を見繕ってクレマンティーヌに渡した。

ビキニアーマーが好きそうなのでそれ系を選んで。

 

「えっ」

 

あと刺突武器が好きそうなので、スティレットは無かったが、レイピア系やエストック系の装備を渡しておいた。

もちろんどれも装備可能レベル100の神話級である。

大盤振る舞いだ。

 

「えっえっえっ」

 

渡されたクレマンティーヌは本日何度目になるかわからないフリーズを披露してくれた。

 

「ご主人サマはアタシを何にしたいの? 神?」

 

ただ自分と並び立てる戦士になってほしいだけだが。少年はそう思った。

 

「あ……、そう……。こんな装備しなきゃ並び立てないのかい……」

 

少年は別にPVPガチ勢ではないが、商人ゆえに自分の装備はキチンと整えていた。

少なくとも強盗を働かんとする不逞な輩を、自己防衛で蹴散らせる程度には。

ト●ネコだって正義のそろばんを持ってるんだ。

商人が武装して何が悪い。

 

新しい装備に着替え直したクレマンティーヌはそりゃもう別人のようだった。

金縁で過剰なまでに彩られた輝くビキニアーマー。

希少金属が惜しみなく使われた見るからに“絶対壊れんぞ”と主張するようなガントレットとグリーブ。

刀身は最高級品の宝石のごとく煌めく刃を持ち、鍔は豪奢に飾り立てられ、石突きに魔法効果のある宝石が埋め込まれたレイピアとエストック。

犯罪者装備だったころと比べると月とスッポンだ。

だがどうもクレマンティーヌは不満顔である。

なぜかと尋ねると。

 

「いやァ……。こんな装備して街歩いたらまず間違いなくお偉いさんに目つけらんね?」

 

いわれてみればそうである。

強さを追求するあまり見た目を考えてなかった。

おれはバカかと少年は頭を抱えた。

外套で隠せばと思ったがそれじゃ犯罪者装備のときと同じだ。

結局バレれば“スタァーーーーップ!”は免れない。

それじゃあこうしよう。少年は思いついた。

ガチ戦闘の時はこれで、普段着は適当に作ったアレで。ということで。

 

「あーうん。それが良いと思う。うへへ」

 

何やらクレマンティーヌは嬉しそうだ。

少年お手製の装備だと喜んでたので、普段着にできるのが嬉しいのかも知れない。

その件で少年は試したい事があった。

【YGGDRASILL】にはシステム上アイテムインベントリに装備欄が複数ある。

それを即座にチェンジして、いわゆる“早着替え”が可能なのだ。

それがクレマンティーヌも出来るならいつでもガチ戦闘になっても大丈夫なのだが。

 

「装備欄? あいてむいんべんとり?」

 

やはり。

プレイヤーの存在すら名前だけで曖昧な情報しか残っていないのに、【YGGDRASILL】のシステムを全て把握など出来ていようはずもなし。

こうなればまたチートに頼むしか無い。

“アイウィッシュ! クレマンティーヌに【YGGDRASILL】のシステムと知識と使い方を与えよ!”

強引にコトを運ぶことにした。

なお、効果の確認に一回、レベリングに一回、これで一回なので、使用限界を迎えた【流れ星の指輪】は音もなく崩れ去った。

 

「良く知らないけど、これそんな容易く使っていいモンなの?」

 

これがリアルマネーのちからだ。

少年の懐にはもう二個ほど【流れ星の指輪】が眠っているので問題ない。

ないわけではない。

違法行為、ダメ、絶対。

そうして【YGGDRASILL】プレイヤーと同等の知識を無理矢理脳みそに流し込まれたクレマンティーヌだったが。

 

「えー……。ぷれいやーって“ゲームのプレイヤー”って意味だったんだ……。へー……。ゲームの世界から転移……ふーん……へー……。なんかイメージ崩れる……」

 

真理を知ってしまったクレマンティーヌは黄昏れた顔をしていた。

法国ではぷれいやーは神だという教えだそうなので、神がただの一般人だと知ったらそりゃあイメージも崩れるだろう。

念の為確認として自分に失望したか? と少年は訪ねてみたが。

 

「別に? 元が一般人でもご主人サマはご主人サマじゃん。アタシを強くしてくれたし、装備もくれたし、知識もくれたし。一般人でも神みたいなもんだよ」

 

素朴なクレマンティーヌの声に少年はなんだか泣きたくなった。

そんな大層なもんじゃなくてごめんな、ていうか今更だけど支配して記憶改竄してごめんな、反省はしてないけど。少年はそれなりにクズであった。

それはそれとして、である。

クレマンティーヌは無事アイテムインベントリからのアイテムの出し入れと、早着替えを習得した。

もう【YGGDRASILL】プレイヤーと数えて良いのではないだろうか。

そこで少年はふと思った。

クレマンティーヌが【YGGDRASILL】の知識を得たなら、レベルが上がった分職業レベルのスキルが取れるのではないかと。

 

「スキル? あー、うんうん。意識すればなんとなくわかる。あー、うそ、なにこれ便利。すげ。武技とか鼻で笑うじゃん。うわやべ、なにこれ。すっげ」

 

さっそく習得スキルを吟味しだしたようで鼻息荒く興奮している。

うんうん、わかるわかる、スキル構成を考えるのは一番楽しい時間だよな。少年はそう思った。

 

「とりあえずできたよー。いちおースピードとか暗殺特化にしてみた」

 

となると今のクレマンティーヌは軽戦士というよりアサシンというところか。

そっちのほうが似合っている気がする。

 

「こんなこともできたりして」

 

気付いたら後ろに居たクレマンティーヌに頬をプニっとされた。

かなり、やる。

気を抜いていたとは言え【YGGDRASILL】プレイヤーの背後をいとも簡単に取るとは。

漆黒聖典とやらの時代に培った技術も馬鹿にできないらしい。

というか肉弾戦なら勝てないんじゃないかと少年は思っていた。

いくらLv100プレイヤー相手に自己防衛できるとはいえガチ構成ではないのだ。

比べてクレマンティーヌはスキルを吟味したガチ構成。

この時点でかなり差がある気がする。

まぁ記憶改竄で絶対服従を刻み込んだから裏切ることはないはずだが……。

ちょっと月のない夜には背後に気をつけようと思った少年であった。

 

 

さて。

下準備も終わったので楽しい楽しいクレマンティーヌの退職のお時間だ。

今は例のズラなんとか言う組織の拠点がある目の前まで来ている。

まさか街の共同墓地にあったとは。

なるほど事件を起こすにはうってつけの場所である。

あとはズラなんとかがどこまで強いかだが。

まぁここまで鍛えればなにか不測の事態があっても対応できるだろう。

【YGGDRASILL】のお約束は“石橋を、叩いて壊して、新しい橋を作ってから渡る”。

これ、原則。

ゆえにアヤシイ組織を襲撃するまでにクレマンティーヌを限界まで育てる必要があったのだ。

そうでないと少年が安心できないともいう。

これはもう古参の【YGGDRASILL】プレイヤーに染み付いた性根なので治しようがない。

全てはクソ運営のクソ難易度が悪い。

俺は悪くねえ。少年はそう思った。

一応仮にも古巣を襲撃することになるので“クレマンティーヌの心境やいかに?”と思い少年が横目で見やると。

 

「あばよカジっちゃん……。今夜がアンタの最期だぜ……ゲヘヘヘ」

 

力に酔っていた。

さもありなん。

自分が今まで神と奉じてきた存在と同等の力を得たのだ。

普通はこうなるだろう。

クレマンティーヌのような殺人狂ならなおのこと。

この力でヒトをぶち殺せるのが楽しみで楽しみでしょうがないといった具合だ。

さっさとGOサインを出さないと暴走するやもしれん。

とっとと突撃することにした。

 

「まぁってましたぁ!! いくぜいくぜいくぜー!!!!」

 

実にハイテンションでよろしい。少年はそう思った。が。

早い。

マジで早い。

少年も全速力を出しているが追従するが、それより早い。

これがガチビルドの力か。少年はそう思った。

商人がアサシンより遅いのは至極当然のことであるが。

少年が拠点に突入するより早く悲鳴が聞こえてきた。

先にドンパチ始めたようである。

少年が拠点に入る頃には、カジなんとかちゃん以外は喉を一突きされ絶命していた。

早すぎる。

 

「じゃあなカジっちゃん。そこそこ楽しかったけどアンタが生きてるとジャマになったんだよ」

「お……お前……、クレマンティーヌ……か……? な、なんだ……その……力は……!」

「ヒ・ミ・ツ」

 

クレマンティーヌはカジなんとかちゃんにレイピアを押し当てて嗜虐的な笑みを浮かべている。

実に楽しそうでよろしい。

 

「わ、わ、わかった! 死の宝珠も渡そう! 計画は一旦畳む! だから命だけは……!」

「……な~んて言ってるケド、ご主人サマ、どうする?」

「しゅ、主人……? お、お前が……?」

 

咄嗟に少年の方に来た。

少年は最初からカジなんとかちゃんを始末する気なので、命乞いなど受け入れる気は毛頭ないのだが。

毛頭ないと言えばカジなんとかちゃんはハゲである。

どうでもよかった。

どうでもよかったので、少年はとりあえず無言で首切りハンドを送ってGOサインを出した。

 

「だってさ。残念だったね~カジっちゃん?」

「馬鹿な、お前が、主人を持つ、だと? なにかに洗脳されたか? 支配でも受けているのか?」

「ん? そーだけど?」

 

なんと、これは少年も初耳である。

クレマンティーヌは支配を受けたことも記憶改竄されたことも自覚していたようだ。

 

「カジっちゃんの言うとーりー。アタシのご主人サマは、ご主人サマと思わせられるよう洗脳をしてきた、鬼畜で外道なご主人サマだよ?」

「な、ならばなぜ、そのような者を……」

「──“そのような”とか言うなハゲ」

「っっぎゃあああッ!!」

 

なにやら逆鱗に触れたらしく、クレマンティーヌが心底冷えた声でカジなんとかちゃんの肩にレイピアを突き刺す。

少年はちょっとクレマンティーヌの心境が気になるので見守ることにした。

 

「いいか? 洗脳されようと支配されようとな。今のアタシがホントのアタシ。ここにいるアタシが本物のアタシなんだよ。

 ご主人サマしゅきしゅきで愛してるアタシが本物なんだよ。たとえそれが作り物だろうとな」

 

クレマンティーヌはわかっていて、全てを受け入れていたということだった。

なんだか漢らしい。

少年はちょっとキュンときていた。

 

「ぐ、あぁぁ……ッ! き、貴様はそれでいいのか……!」

「いいもクソもねえよ。これが本物のアタシの意思だっつってんだろうが。大人しく即死したくねえのかテメエ」

「ち、違ッ、そういうわけじゃ」

「はいもー遅ーい。拷問けってー」

「ひィッ……!」

 

後の惨状は語るだけ無駄であろう。

じっくりじんわりとなるべく死なないように蜂の巣にされたカジなんとかちゃんが出来上がっただけだ。

というより少年は口にしたくなかった。

思わず吐き気を催しそうになる拷問現場だったからだ。

しかし楽しい拷問をしたはずなのにクレマンティーヌはなんだか浮かぬ顔だ。

顔を伏せて暗い顔をしている。

どうしたのかと少年が心配していると、クレマンティーヌは意を決したように顔を上げた。

まるで彼女とは思えないほどに真面目な顔をして。

 

「あのね、ご主人サマ。隠しててごめんね。支配とか記憶改竄とか、わかってたんだよね。だって明らかにさっきまでの自分と違う記憶がさも当然のように入ってきてんだもん。そりゃ気付くよ」

 

少年は黙ってクレマンティーヌの独白を聞いている。

 

「でもさ……。嬉しかったんだよね。そこまでしてアタシを必要としてくれるヒトがいたってコトに。だからさ。自分でも慣れないご主人サマなんて呼んじゃってさ。

 変……だったよね。キモかったかな。だったらごめんね」

 

今のクレマンティーヌはまるで幼い少女のようだ。

とても殺人狂には見えない。

少年は少し背伸びして、クレマンティーヌの頭を撫でてあげた。

受け入れてくれてありがとう、と言葉を添えて。

 

「……うん」

 

暗い顔のクレマンティーヌの顔に、大輪の花が咲いた。

 

 

ズラなんとかの拠点を無事ぶっ潰して、クレマンティーヌはプーになったわけだが。

 

「いやー風花聖典ってあんな弱かったんだねー」

 

その機を狙って今が好機と襲いかかってきた追手をクレマンティーヌ無双が始末していた。

だから早い。

結構な数の団員がいたはずだが、2、3秒で全部ブチ殺していた。

しかも情報が漏れないように攻性防壁まで張って。

いつ覚えたのだろう、そんなスキル。

 

「取れたから。暗殺に便利かなって」

 

ヤダこの子優秀。少年はそう思った。

かくしてなんの憂いもなくなった少年とクレマンティーヌの旅は始まったのであった。

 

「ところでさぁご主人サマ? 種族、淫魔なんだよね? 夜の方は期待していいのカナ~?❤」

 

訂正、淫蕩な旅が始まったのであった。

 




◆淫魔(少年)
 インキュバスの異形種。
 古参の【YGGDRASILL】プレイヤーであり、当初は冒険を楽しむためのガチ前衛ビルドのソロプレイヤーだった。
 だが古参ゆえか6年ほどプレイしていたら流石の広大な【YGGDRASILL】世界もおおよそ冒険し尽くしてしまい飽き飽きし、
 それでも他に特にやるゲームが思い浮かばなかったので暇つぶしに商人に鞍替えした。
 最初は商人、アイテム作成など特化のビルドにし直したのだが、そこはそれ、PKが横行して当たり前の【YGGDRASILL】では殺人強盗が頻繁し
 ブチ殺され売り物を全部掻っ払われるなど日常茶飯事だったので流石に自己防衛できるくらいの戦闘系スキル・魔法を取り直した。
 ナメた強盗野郎くらいなら過去のガチ前衛のプレイヤースキルも相まって普通に撃退できるレベル。
 完全に“なんとなく”で超位魔法を一つだけ覚えている。本人曰くロマン。
 アイテムインベントリの殆どは常時需要のあるポーション類やレアエンチャ、レアドロなどの貴重な装備、もしくはLv100プレイヤー向けの高性能装備で埋まっている。
 逆に大して売り物にならない誰もが持っている便利グッズ(家系や馬ゴーレム系など)は入荷していないので所持していない。
 個人でありながらワールドアイテムを2つ所持しているが、これは商人として色々売買してきた結果得た物であり、自力での習得ではない。売り物にする気は(今の所)ない。
 淫魔としての真の姿は2mほどの長身に角と羽、尻尾と青肌の淫魔らしい淫魔だが、普段は擬態として130cmほどの美少年の姿になっている。
 というかこの擬態姿でないと異形種お断りの街で商売ができないので商人プレイの際は擬態必須。
 世界転移の際にも擬態姿のまま転移したので、未だ真の姿を見た現地人はいない。
 まずは適当な森の中でスキルの確認だのアイテムの在庫整理だのをしていたが、それにも飽きてエ・ランテルの街に(無断)侵入したらクレマンティーヌのお楽しみ現場に遭遇し、
 容姿が好みだったので性奴隷にしようと容赦なく支配と記憶操作をした。
 話していたら段々愛着が湧いてきたのでレベリングしてやり装備もあげた。
 基本的に人間(のオス)はどーでもいいと思っているが、人間(のメス)は余裕で性的対象であり、夜な夜な美人の元を訪れては夜這いして楽しんでいる。
 クレマンティーヌとも同衾してお楽しみしているが、彼女のビッチな所が気に入っているので、彼女が適当な男と楽しむのは容認している。
 この世界に来てから美食に目覚めた。
 基本スタイルは強姦魔のアウトローであり、国の為とか正義の為とかそんなん全ッ然考えてない。自由に行動するのを好みどこかに縛られたり世界征服したりなども考えてない。
 ツアー混乱案件。
 ちなみに当のレイプや夜這いだが本人はこれっぽっちも避妊していないため
 漆黒聖典の隊長のように神人(要するに現地人とプレイヤーのハーフ)がポコポコ産まれて将来えっらいことになる可能性があるが
 神人の存在すらしらない彼はそんなこと思いもよってない。
 【YGGDRASILL】時代のキャラネームは「激辛ちくわぶ」だったが名乗っていないので誰も呼ばない。
 リアルでの本名は「麻河 御法(あさかわみのり)」27歳中卒平サラリマン。
 両親は健在だが、共に単身赴任と言う名の軟禁生活を送らされており、就職以降一度もあっていない。
 度々メッセージは送っているのだが返ってきた例がない。訃報が届かないので生きてはいるはず。
 
◆クレマンティーヌ
 お楽しみの所を運悪く【YGGDRASILL】プレイヤーに見つかり奴隷にされた被害者。
 なんだかんだ言って“自分個人”を熱烈に求められるのは悪い気はしなかったらしく、支配と知りながらも受け入れた。
 お楽しみも認可してくれるし性行為はめっちゃ気持ちいいし、いい主人だな、とは本心から思っている。
 なんの実感もなくLv100になったことに終始困惑している。
 それでもLv100になったのは非常に清々しい気分らしく、与えられたガチ装備と合わせて“絶対勝てない”と思っていた相手を文字通り秒で瞬殺できるのがスカッとしすぎてたまらんそうな。
 逆に弱すぎてげんなりもする。
 基本的に主人は法国の崇拝する“ぷれいやー”であり、彼女自慢の主人であるため従順で常に後ろにくっついていくが、世間知らずな面が多々ありツッコミを入れることしばし。
 美食に目覚めた主人のために自分の知ってる美味いメシ屋に喜々として連れて行くが、そのたびに泣かれるのであわあわしている。
 “強姦魔と殺人鬼のアウトローコンビ”という立ち位置を結構気に入っている。
 流石の【流れ星の指輪】でも一気にLv100は無理じゃね?と思うがそこはそれ、効果の強化に加え、クレマンティーヌに眠る才能によりなんとかなったようだ。
 アイテムボックスの利用と早着替え習得のために【YGGDRASILL】のシステムと知識を無理やりねじ込まれ、“ぷれいやー”が神でもなんでもなかったことに少しげんなりしている。
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