クレマンティーヌを愛でるだけ   作:鵲一号

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短編なのに続きました。
短編だったのに。
※原作生存キャラ死亡注意


クレマンティーヌとぶらぶらするだけ

少年はクレマンティーヌを引き連れ、リ・エスティーゼ王国領内を旅して回っている。

二人共、特にコレと言ってエンチャのない雑な装備だ。

クレマンティーヌは、例の少年が雑に作成した頑丈なだけの銀のビキニアーマーに、前開きのフード付きの外套。それといつでも愛用の大事な首輪。

少年に至ってはラフなシャツとズボンにシューズに布の帽子、かばんを肩にひっさげているだけである。

もちろんすぐにでもガチ装備に早着替えできる準備は万端だが、平和極まりないのんびり旅なので普段着で十分だろうとこの格好だ。

目的は特に無い。

強いて言えば少年の見聞を広めることと、リアルにない自然を堪能するためだ。

今回の旅も自然観光と、村人との暖かい交流が待っていると思っていた。

はずだった。

 

「ん~、ここもブッ潰されてんね」

 

何があったのやら、行けども行けども廃村廃村、廃村だらけ。

オマケとして、残虐に殺されたであろう、村人の新鮮な死体付きである。

腐敗すらしていないことから、つい最近起こった惨事と見て間違いないだろう。

もう少し早く旅していれば村人との交流ができたかと思うと思わず少年はションボリする。

夜な夜な村の素朴な美人人妻を夜這うとか、やってみたかったのに、無念極まる。少年はそう思った。

しかもこの村、よくよく見れば美少女まで殺されているではないか。

淫魔である少年は、人間の生き死には正直そこまで関心がないが、顔のいいメスが死んでいると“せっかくのメスが……”ともったいない気分になるのだ。

 

「あ~らら。あんな小さい子まで。容赦ねーわ。って、まぁ、アタシが言うことでもねえか」

 

クレマンティーヌの言う通り、美少女の死体のすぐ傍には幼女の死体が転がっていた。

お互いに庇うように手を伸ばしているあたり、姉妹であったのだろうか。

両者の死に顔は、恐怖と絶望に染まったまま固まっている。

よほど怖い思いをして死んだのだろう。

少年は貴重なメス(エサ)が亡くなったことに、とりあえず合掌し黙祷しておいた。

それで視線を下げて気付いたのだが、村の入口に壊れた看板が転がっている。

なにか文字が書かれているので、拾って読もうとしてみる、が。

読めない。

 

「およ、なにそれ? 村の看板かな? あ、そうか、ご主人サマ“りある”のヒトだから読めないもんね。異世界語だからしゃーねーべ」

 

少年は未だ、この世界の文字の読み書きができないのであった。

彼が習熟している言語は、日本語と、仕事でちょっと使った英語を軽くだけ。

そのうちクレマンティーヌと、日本語とこの世界の言語を教え合うのもいいかもしれない。

なんで言葉は通じるのに読み書きはできないんだよ、教えはどうなってんだ教えは。と少年は叫びたい気持ちでいっぱいであった。

 

「どらどら、アタシちゃんが代わりに読んでやんよ。えーっと、血汚れで読みにきぃな。なになに? カ・ル・ネ……。カルネ村って言うらしいね、ここ」

 

カルネ村。

この廃村はそういう村“だった”らしい。

まぁ、今更村名を知ってもしょうがないのだが。

 

「そりゃまぁそうだけども」

 

少年はもう一度、もったいない美少女の死体をちらと一瞥すると、カルネ村だった場所を後にした。

 

──この村が滅びているということは“とある組織”及び、“とある異形種”がこの世に存在しないことの証明になるのだが。

 

少年とクレマンティーヌはそんなこと、ついぞ知らぬままであった。

そのまま廃村観光を続けること、しばし。

たまに身の程知らずに襲ってくるオーガなどを秒殺しながら歩き続け。

 

「もういい加減廃村だらけで飽きた~~」

 

流石にクレマンティーヌに限界が来た。

無理もない、ここの廃村でもう10件目である。

潰され過ぎだろう。

なにがそこまで村に恨みがあったのか、と。

少年は訝しみたくなる。

異形種である少年ですら、廃村だらけでげんなりしてお腹いっぱいというメンタルである。

常人のクレマンティーヌたるや。

もっともLv100でシリアルキラーのクレマンティーヌが、常人であるかは別として。

 

「これ以上廃村観光はよくなーい? もっと別んとこ見たほうが有意義だっつーの」

 

クレマンティーヌの言うことももっともだ。

こんな見るだけで意気消沈していくモノを見て回る観光などしてるヒマがあったら、買い食いでもしていたほうが100倍マシだ。

しかし今更エ・ランテルの街に戻るのもな、と少年は思っていた。

なにせあの街はもう見尽くしたから、街を出て旅に出たのだ。

高級宿から裏路地のスラムまで、じっくり見尽くしたのだからもう本当に見ていない場所などない。

そんなトコに戻っても、またヒマになるだけだろう。

もっと新鮮さがほしい。少年はそう思った。

 

「あ、じゃあさ。王都行かね? 色々見るモンあるよ」

 

王都。

リ・エスティーゼ王国の首都であろうか。

なるほど、王城もあるだろうし見どころ盛りだくさんそうだ。

さっそくそうすることにしよう。少年はそう決めた。

と、その前に、少年は気になっていたことをクレマンティーヌに尋ねることにした。

 

「んー? 村が潰された理由ー?」

 

少年は、どうもわからなかった。

村に恨みがあるのか、単に殺戮を楽しんでいたのか知らないが。

こうまで徹底して村を潰し続ける理由が、ついぞわからないままでいたのだ。

村人の死に顔がどれもこれも恐怖と絶望で彩られていたあたり、犯人が虐殺を楽しんでいたのは間違いなさそうだが。

まさか本当に野盗の類が殺人欲求を満たすためだけに村を潰して回っていたのだろうか?

村のマスに移動しただけで村を一人で潰すファイ●ーエ●ブレムの賊でもあるまいに。

 

「さー。潰した理由まではなんとも。メンゴ」

 

クレマンティーヌでもわからんらしい。

それもそうだ、実際に潰した本人に聞かなければ理由などわからないだろう。

愚問だったか、と反省する少年に追加情報が来た。

 

「ただやった奴らだけはわかるよ。こりゃ法国の仕業だわ。どこの六色聖典かはしらねーけど。あ、風花聖典はもうねえか」

 

風花聖典はクレマンティーヌの追手になって、いざ追いついた時にクレマンティーヌ無双で2秒で全滅させられたのでもういない。

それはともかく、法国。

話に聞くには、人類至上主義をお題目にした、人類を守護する国だと思っていたのだが。

なぜにそう思ったのか聞いてもよろしくて? 少年はそう尋ねた。

 

「まずひとつ。“虐殺が手慣れすぎている”。王国の兵も帝国の兵も、罪のない村人を殺すにはもうちょい躊躇ってもんがあんのよ。常識的な軍だからね。

 ただ法国のイカレ野郎どもは大義名分さえあれば喜んでヒトを殺すからさー。この楽しんだ虐殺っぷりは間違いなく法国の手のものっしょ」

 

いわれてみればそうである。

常識的な理性を持つ軍隊ならば、罪のない村を襲撃しろなどと狂った命令を出されればもっと殺すのに躊躇するか、思い切って無心になってせめて楽に即死させてやるかのどちらかだ。

だがこれまで見てきた村の死体達は明らかに無駄な傷跡が多く、嬲り殺されたのが一目で分かる。

法国ってこええな。少年はそう思った。

 

「つぎにひとつ。“なにか目的があって村を潰す”なんて真似するの法国しかいねーから。言わずもがな王国は自分ち領土の村を潰す理由がねーし、

 帝国もクリーンな政治で売ってるから無駄な虐殺はするはずがねー。消去法で法国しかホシはいねーってワケ」

 

いわれてみればそうである。

自分ち領土を襲う暴君も、名君で売ってるのにヨソんちの領土の村を勝手に虐殺するのも、居てたまるかって話だ。

そんな国、仮にあったら滅んでしまえばいい。

 

「さいごにひとつ。野盗の類じゃないと思った理由として“統率が取れすぎている”。楽しんで虐殺してるのは確かだけど、的確に村人だけを殺してる。

 こりゃ間違いなく命令する隊長の指揮の元行われた行動だよん。そもそも野盗ならモノも盗るしね」

 

いわれてみればそうである。

どこの村も家屋は焼かれているものの、窃盗の跡が一切なかった。

おそらく火事場泥棒が入ったような形跡は少しはあったが、それくらいだ。

ただ人間だけを殺す。

明らかに誰かの命令があって、理性のある行動でなければできない仕業だ。

以上三つの証言により、犯人は法国に確定。有罪。数え役満で死刑である。

面倒だから潰しに行くとかはしないけど。

 

「だーかーらーアタシ法国って大ッ嫌いなんだよね~。漆黒聖典もそれでイヤになって抜け出してきたし」

 

おや珍しい。

大義名分の元殺しが認可されるなら、クレマンティーヌならば喜んで殺しに行きそうだが。

少年がそう問うと、クレマンティーヌは心外そうな顔をしてしかめっ面になった。

 

「アタシは自由気ままに殺しがしたいの。命令されてわざわざコイツらだけを殺せーとかクソうぜーっつー話。

 ただでさえ命令されんのとか嫌いなのに、殺す対象まで絞られるとかうぜえことこの上ねえわマジで。

 そこんとこわかってよね、ご主人サマ」

 

怒られてしまった。

今後はクレマンティーヌの殺人癖が発症した際は、わざわざ対象を指定せず好きに殺らせてやろうと少年は思った。

とりあえず美少女、及び美女(美熟女含む)は、もったいないので殺さないでくれると嬉しいくらいである。

 

「ん……。まぁそれくらいならいいよ。オンナの悲鳴を聞くのも楽しいけど、別にブスにすりゃいいだけだし」

 

ブスならOK。

我ながら非道である。少年はそう思った。

異形種だからしょうがないね。

淫魔なのでメス(エサ)以外はどーでもいいのだ。

逆に美顔でメスなら異形種でも全然イケる自分が、ちょっと怖いと少年は僅かに思った。

でもモン娘ってかわいいからいいや、とすぐに思い直したが。

 

「んま、村についてはこんなモンかな? それよりさー、こんな辛気臭いとこもー離れよーよー。王都いこうぜ王都ー」

 

考えてみれば、廃村の目の前でする会話ではなかった。

別に、王都に入ってから聞きゃよかった話だ。

ちょっと反省しつつクレマンティーヌの先導を受け少年は王都に向かった。

 

 

で。

門番によるやたらと長い尋問やらボディチェックを受けた後で、ようやっと王都に入れた。

 

「あ゛~やっと入れた。ったくあのクソ門番、女の身体をベタベタ触りやがって。後でぶっ殺したろうか」

 

なんと、クレマンティーヌはセクハラされていたらしい。

首切りハンドでGOサインを出してやる。

ただし、バレないように深夜にと条件をつけた上である。

 

「マジぃ? ご主人サマ愛しているぅ~❤」

 

大仰に少年に抱きついて、頬にちゅっちゅしてくる。

こらこら、人目があるからやめなさい。少年はそう諌めた。

 

「へーい」

 

なにはともあれ、王都に目を向ける。

まず出迎えてくれたのは、大通り。

エ・ランテルの街とは比べ物にならないほどの、広い道幅である。

なるほどこれは壮観、見ているだけでも楽しいものがある。

特にリアルはクソ環境だったゆえ、こういう典型的なナーロッパ風景は感動すら覚える。

少年はしばし感銘に震え、目をキラキラと輝かせていた。

 

「……こーしてみると普通のこどもみたいに見えるよねぇ。“りある”ってどんな環境なのやら……」

 

一瞬クレマンティーヌに教えてあげようかとも思ったが、あんなクソマッポーの世界、聞くだけで気が滅入るだろうからやめておいた。

しかし、こうも広いとどこから見て回ったものやら。

困った時は、クレマンティーヌである。

 

「お、観光名所? 知ってる知ってる。そんじゃアタシちゃんによる王都観光の始まり始まり~♪」

 

やけに上機嫌になったクレマンティーヌに手を引かれ、少年は王都観光を始めた。

 

……

 

「じゃん! まずはここ! どよ、ご主人サマこういうの好きっしょ!」

 

ショッキングピンクの外装に、いかにもセクシーな紫の街灯。

看板には、色っぽいチャンネーらしき人物画がペイントされている。

もしかしなくてもここは。

 

「娼館だけど?」

 

いやまぁ好きか嫌いかで言えば好きだが、晴れの王国の首都に来てまず真っ先に来るのが娼館なのはいかがなものか? 少年はそう思った

 

「え~、だって、淫魔なら食い放題みたいで好きかなって」

 

確かに食い放題なのは好きか嫌いかで言えば好きだが、どちらかといえば一般人(美形に限る)を夜這いして、無責任種付けしてシングルマザーにするのが性癖であって、お金払って楽しむのはあんまり。

 

「およ、商売女は嫌いだった?」

 

いやまぁ好きか嫌いかで言えば好きだが。

 

「どっちやねん」

 

少年の趣向は、殆どクレマンティーヌの趣味趣向と同じである。

なんかこう、条件づけて縛られるのを趣味でやられるとイーッてなるのだ。

 

「あ~、なるほど、納得」

 

自分に例えられて得心行ったのか、クレマンティーヌは糸目で苦笑している。

 

「じゃあこのもっと奥に違法娼館とかもあるけど、ご主人サマは興味ないか」

 

はて、違法娼館とな、娼館そのものがまず違法なのでは? さらに違法とはこれいかに? 少年は訝しんだ。

 

「あーね、まず娼館そのものは黙認されてんのよ。食い扶持のない女の稼ぎにもなるし、ある程度男の欲を発散できたほうが犯罪抑止にもなるし、まぁあって損はないって国にも思われてるワケ」

 

なるほど、ストレスのはけ口はあったほうが良いし、他に稼ぐ手段がない女性の受け皿にもなっていると、そう言われると黙認されているのはわかった。

では違法とは?

 

「そっちの方はもうガチでヤバい方。国も認可してねーし、本気で極秘裏に運営されてんの。八本指っつーギャングがいるんだけど、そこが取り仕切っててさー。

 娼婦を遊びで殺したり、ダーツの的にしたり、腕やら足やらもぐのは当たり前、無責任に孕ませてそのまま放置したり、心が壊れた娼婦は裏路地に捨てたりヤリたい放題ってカンジよ」

 

それはまたひどい。

いくら淫魔でも交尾で殺すのはやりすぎだと思うし、絞り殺すのはインキュバスではなくサキュバスの領分だなと、少年はそう思った。

しかも遊び目的で、とは、よくもまぁ国もすぐに潰さないものだ。

 

「それだけその件のギャングが国に根ぇ張ってんのよ。いちおー国としても冒険者雇ってなんとか対処はしてんだけど追いついてないのが現状~。

 しかもそれだけならいいけど腐った貴族が頻繁に遊びに来る始末でさ~。貴族とギャングが繋がってるとか笑えんしょマジ。

 ま、いわゆる国の恥部ってヤツ?」

 

どこの国にも欠点はあるもの。

少年は思わず、国に入ってすぐの大通りの景色が色あせて見えてしまった。

 

「で、行く?」

 

無論行かぬ。殺すのが趣味じゃないのもそうだが、腐った貴族ともギャングとも関わり合いになりたくない。絶対うざったい絡まれ方する未来しか見えない。少年は辟易した。

 

「ま、そりゃそっか」

 

それより他に何かないだろうか、まさか栄えある王都の観光名所が娼館とヤバい娼館だけとは言うまい。少年はそう問うた。

 

「そーねー。ガゼフちゃんちとかどー? 個人宅だけどほとんど観光名所になってっし。行って見る価値あるよ」

 

ガゼフちゃん。

少年はとんと聞かぬ名前だった。

 

「王国最強の戦士長ってヤツ。ご主人サマに“れべりんぐ”される前のアタシと同じくれーの強さのヤツよ」

 

それはちょっと興味があった。

どんな益荒男が待っているか、ぜひご尊顔を拝みたいものであった。

 

「んじゃこんなとこさっさと抜けて行きましょや」

 

またもや上機嫌のクレマンティーヌに手を引かれ少年はガゼフちゃんちに向かった。

 

……

 

が。

 

「およ、開いてない。留守かな。居る時はいつもウエルカムって感じで鍵開いてんだけど」

 

初手ドアノブを無遠慮に捻ったクレマンティーヌに少年は軽く引いたが、どうやらガゼフちゃんは留守らしい。

そして客人なら誰でも歓迎する懐の広い人物だともわかった。

ますます会いたいものだが、留守である。

 

「ん~? 留守ん時はばーちゃんの家政婦がいつも庭掃除してんだけどそれもいねーし。なんかあったんかな?」

 

なにやらトラブルらしい。

最強の戦士長だというので、王宮にでも呼ばれているのだろうか?

そう思っていたら、親切な町民に声をかけられた。

初老の男性である。

 

「もし、旅のお方。戦士長様に御用ですかな?」

 

いかにもそのとおりですが、なにかご存知で? 少年はそう対応した。

 

「残念ながらつい最近、戦士長様は任務に行ったきり、お亡くなりになられてしまいましてな」

 

なんと。

 

「軍の捜索隊により、とある村の周辺で直属の部下と共に、遺体が発見されたそうで。おぉ嘆かわしや嘆かわしや……」

 

ガゼフちゃんとやらは、すでに死んでいたらしい。

がーんだな、出鼻をくじかれた、せっかく益荒男のごときご尊顔(想像)を拝見したかったのに。

親切な初老の男性に別れを告げるともうこの空き家に用はないので少年は歩き出した。

しかし何やらクレマンティーヌがその場に留まり思案に沈んでいる。

 

「あのガゼフ・ストロノーフが殺られた……? 仮にも漆黒聖典時代のアタシと同じくらい強ええんだぞ……? それを殺った……?

 少なくとも個人じゃねえ……。帝国か……? いや、村を潰してたのが法国だとすると……。もしかして……」

 

クレマンティーヌは粗暴で乱暴で残虐だが、おバカさんではない。

仮にも法国で高等教育を受けていた、エリートだ。

ちょっと性格が破綻してるだけで、その頭の回転と知識量は一級品と言っていい。

それがブツブツと独り言を言って悩んでいるのだから、なにか重要なことを考えているのだろう。

少年は黙ってその場に立ち止まり、クレマンティーヌが思案の海から浮上するのを待った。

すわまた読書でもして待とうかと思ったあたりで、クレマンティーヌが帰ってきた。

 

「ご主人サマ、アタシ色々わかったかもしんね」

 

その色々とは?

 

「ちょっと誰にも聞かれない場所行こか」

 

というわけで我らアウトロー二人組御用達、いつもの路地裏ロケーションへと移動した。

【集団方位探知】に反応なし。

念の為クレマンティーヌにも攻性防壁を張ってもらい、内緒話の準備は完了。

いつでも暴露OKである。

 

「まずね。王国の領土でやけに潰されてた村、あれガゼフ・ストロノーフを釣るためのエサだわ」

 

エサ。

どうでもいいけどガゼフちゃんビーフストロガノフみたいなフルネームしてんな、と少年は思ったが、本当にどうでもいいので先を促す。

 

「そ、エサ。ガゼフは馬鹿みたいに正義感が強くてクソ真面目で、いっつも民を守る民を守るーってウルセー男だからさぁ。

 村を理不尽に滅ぼす輩を許せなくて、軍か王に直訴して、少数精鋭ですぐに討伐に出たんじゃねって思うワケよ」

 

少年は正義感が強い者は嫌いではないが、それで死地に自ら赴いては世話がない。

しかし法国がそこまでしてガゼフちゃんを釣る理由とは? 少年は訝しんだ。

 

「もともと法国は王国のこと人類のガンだと思っていつか併呑しようと狙ってたんだよね。クソ貴族もクソギャングも大量に蔓延ってっから。

 アタシが現役のうちからそうだったから……、今もそうっしょ。

 だから王国を攻め滅ぼす時に、人類最強なんて言われてる戦士長サマがいるとクッソジャマなワケ」

 

それで、謀殺であると。

 

「そゆこと。こっからはアタシの想像だけど~、多分ガゼフはフル装備じゃなかったね。大事な戦に出るときのためのフル装備ってのがあんだけど、

 急な任務だったから許可が降りなかったか、クソ貴族の嫌がらせか、貧相な装備で出立したんじゃないかな?」

 

それが、死因であると。

 

「んー、それもなんだけど、その程度で雑兵相手に死ぬガゼフじゃねーから、多分六色聖典のどれかが出張ったんだと思う。

 流石に漆黒聖典ではないと思うけども。火滅聖典あたり? かな?」

 

そのナントカ聖典は知らないが、漆黒聖典はクレマンティーヌの古巣で、六色聖典はどれもエリート集団だとは聞いたので知っている。

まぁ、つまるところ、なんである、要するに法国は。

 

「ガゼフという人類にとって大事な戦力を殺すためになんの罪もない村人を虐殺して回ってたクソ国家ってワケ。あーほんと法国嫌い」

 

法国はクソ国家、少年覚えた。

自分も異形種であるわけだし、異形種狩りのエキスパートが揃ってるならいつ擬態がバレるとも解らない。

法国には近寄らないことを、少年は強く決意した。

クレマンティーヌも今更、帰りたくなさそうだし。

 

「つーわけで一連の事件の流れが解決したわけよアタシちゃんは。なんかスッキリした」

 

クイズのロジックを解くようなものだろうか。

本人の言う通りクレマンティーヌは晴れ晴れとした顔をしていた。

なんだかんだで法国が村を潰した理由について気になっていたらしい。

まぁどうせ、村人に対する同情とかではなく、法国の行動原理を暴いてやろうとかそんな目的だろうが。

内緒話も終わったので、アウトローお気に入りのロケーションにいる必要もなくなった。

ぶっちゃけ居心地がいいので昼寝でもしたい気分だが、今は観光の真っ最中である。

さっさと攻性防壁を解いて、表に戻ることにした。

 

……

 

「あー超お腹へったしっ」

 

クレマンティーヌが急にガッシボカッされそうなスイーツ発言をし出した。

首輪には飲食不要効果があるはずだが。

 

「不要でも気分的になんか食いたい気分にはなんの。ご主人サマも好きでしょ? “りある”で食えない食事」

 

確かにその通りだ。

少年はリアルでは無味無臭の粘土のようなカロリーバーや錠剤のサプリメント、栄養補給用の水味しかしないゼリーしかマトモに口にしていない。

唯一会社の接待で行った料亭で、人工栽培の組織培養DNA品種改良済み大豆から抽出した、タンパク質を固めて作った肉モドキを口にしたくらいだ。

あれは不味かった。少年はそう懐古した。

いわんや“満腹”という感覚を、一度も覚えないまま人生を過ごしていたのだ。

この世界に来て“本物の料理”を初めて口にした時は、思わずガチで泣いたほどである。

少年はもはや食事が趣味になり始めていた。

クレマンティーヌの言う通り食事をするのも悪くない。むしろイイ。

おいしい食事は心を豊かにしてくれる。

それを知ったのだから拒む理由はもはや皆無。

 

「そうそうそういうノリ気でなくっちゃ。美味いメシ屋知ってんだよね~、こっちこっち」

 

クレマンティーヌの案内に従いメシ屋でうまいメシにありつくことにした。

少年の脳内はまだ見ぬ美食でいっぱいになっていた。

が。

 

「げ」

「お?」

 

メシ屋に入った途端、筋骨隆々の大女が入口付近のテーブルでメシを食らっていた。

その体躯といい筋肉量といい顔面偏差値といい、誰がどう見ても男にしか見えないが、淫魔の本能がこれは一応メスだと訴えかけてくる。

マジかよ。お前のような女がいるか。少年はそう思った。

ついその態度が顔に出てしまったせいか、大女は鋭くこちらを睨んでいる。

もし本音がバレたのなら、ごめんなさい一択だった。

 

「見ねえ顔だが……お前らかなりやるな? どこのモンだ? プレートもねえし冒険者でもねえな?」

 

どうやら本音がバレたのではなく、レベルがバレたようだ。

ちょっと安堵したが、この世界の猛者にはレベルの高さがある程度わかるのか。

こうして見咎められるのならば、少し、隠蔽方法を考えないといけない。

 

「あ~、アタシらただの旅人だよ~。ついでにこっちのコは商人まがいのこともやってるケド。強いとか見間違いじゃね~?」

「はぁん……? 商人ねぇ……?」

 

クレマンティーヌがうまいことフォローをしてくれたが、どうも大女は訝しむのを止めない。

普段は人前でも平気で少年を“ご主人サマ”と呼ぶクレマンティーヌだが、なにやら隠蔽した理由があるらしい。

こっちもそれに乗っておくことにしよう。少年はそう思った。

この世界で興味を引いて仕入れておいた、それなりのマジックアイテムなどをかばんを広げて見せてみる。

 

「ふぅん、結構いい品揃えてんじゃねえか。ま、俺らには物足りねえけどな」

 

そう言ってガハハと笑う大女。

一人称まで俺とくるともう本当に男にしか見えないぞ。それでいいのかレディ。インキュバスとして心配になる。少年はそう案じた。

 

「おっと、自己紹介が遅れたな、俺は……」

「アダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のメンバー、ガガーランでしょ? 王都にいるならそんくらい知ってるよ」

「おおうそりゃ失敬。有名になったもんだね俺らも」

 

アダマンタイト級。

少年は冒険者にはミリ単位で興味がなかったので、ランクもどこがなにやら知らないが、どのくらいのランクなのだろうか。

プレートもクレマンティーヌが出会った時に着ていた犯罪者装備でしか見たことがないものであるし。

 

「一番上のランクてコト」

 

クレマンティーヌがこっそり耳打ちしてくれた。助かる。

つまりこの大女はクッソ強い冒険者ということになる。

そう言われるとその筋肉も頼もしく見えてくるから不思議だった。

 

「で、お前ら名は?」

「えー、あー、(ま、追手ももういねえし隠す必要ねえか)アタシはクレマンティーヌ。で、このコが────」

 

自分で言おうとも思ったが、クレマンティーヌが自己紹介までしてくれた。

なにやらこの場は自分に任せろと、言外に言っているようだ。

とりあえずぺこりと、会釈だけしておいた。

 

「ほーう。やっぱ聞かねえ名だな。で、そっちのボウズは童貞……じゃ、ねえな。ていうかヤリチンか? その歳で? オイオイ性が乱れてんな」

 

いきなり人のことを童貞かどうか聞いてくる女に性の乱れがどうこう言われたくない。少年はそう思った。

確かに淫魔は性が乱れているので否定できないんだが。

そういうとこまで見抜けるのか高ランク冒険者は。すごいな。少年は純粋に感心していた。

 

「童貞かどうか見抜くのはコイツだけだから」

 

またもやクレマンティーヌに耳打ちされた。

マジかよ。

こわ。

 

「んじゃ、アタシら食事に来てっからさ、悪いけどこの辺でお暇すんね。じゃーねアダマンタイト級さん」

「おー、引き止めて悪かったな」

 

そう言ってクレマンティーヌは、件のガガーランと名乗る大女から大きく離れたテーブルまで急いで移動してから、どかりと着席した。

 

「クッソ、タイミングわっる。蒼の薔薇が常駐してる首都なの忘れてた」

 

席につくなりクレマンティーヌはテーブルに突っ伏して、苦渋の顔で頭を抱えていた。

はて何が悪いのやら。

 

「あいつらもガゼフちゃんと似たりよったりで正義感バカなんだよ……! 目ぇつけられたら厄介どころの騒ぎじゃねえ……!」

 

そう言われて探知してみるとなるほど、ガガーランは隙なくこちらを睨めつけている。

普通なら気付け無いくらいに自然なものだが、探知の前では無意味である。

しかしあれは、どう見ても警戒している。

見慣れぬ猛者ということで、王都でドンパチやらかさないか最上級冒険者として監視してるということか。

少年たちアウトロー組からすれば、やりづらいことこの上ない。

夜な夜な美女レイプ(犯罪)もできないではないか。

クレマンティーヌの遊び(犯罪)も、王都ではずいぶんと制限されそうだ。

国のダニを排除して、クレマンティーヌも楽しめる、いい遊びだと思っていたのだが。

 

「アタシも探知してっからわかるけどさぁ……。下手すりゃ八本指の新入りだとか思われてんよアレ」

 

ギャングの仲間とは失敬な。確かに方や強姦魔、方や殺人鬼だがこれでもフリーのアウトローである。勝手にギャングにしないでほしい。少年はそう思った。

 

「あ゛~、んどくせ。なんとかして誤魔化す方法ね~かな……」

 

それならいいものがある、と少年はアイテムボックスから二つの指輪を取り出して片方をクレマンティーヌに渡した。

 

「ん、なんぞこれ」

 

平たく言えば自分の強さを隠蔽する効果を持つ指輪である。

これを付けていれば強者に強者だと悟られなくなる。

【YGGDRASILL】ではPVPの際、相手プレイヤーからステータスや装備効果などの覗き見を防止する効果があった。

ガチ勢から一定の需要があったので、在庫として抱えていた商品の一部だ。

 

「そんなイイ物あるならもっと早くくれればよかったじゃんよ~……!」

 

まさかレベルが漏洩するとは思っていなかったのだから、少年はこれに関してはすまんとしか言いようがない。

なにせ今まで強者らしい強者と会ったこともなく、レベルがバレた試しもなかったのだ。

こんなことになるとは少年は夢にも思っていなかった。

 

「まぁ……そういうことならしゃあないか。今からでも遅くないし。ありがとご主人サマ」

 

何故かクレマンティーヌは、左手の薬指に指輪を嵌めていた。

そういうつもりで渡した指輪じゃなかったのだが、クレマンティーヌがちょっとニヤけ頬を赤らめていて可愛かったので、言及しないことにした。

なんとなく少年もノリで同じ指に指輪を嵌めてみた。

やがてウエイターがやってきて御用聞きに来たが、メニューが読めなければどんな料理があるかも不明なので、クレマンティーヌに一任した。

はたして運ばれてきたのは二人前のパスタらしき料理とデンと大きいステーキのような肉。

これは実に美味そうだ。少年はそう思った。

 

……

 

実際、実に美味かった。前述の肉モドキとは天と地の差があった。

食べてる途中に思わず泣いて、クレマンティーヌを慌てさせてしまったのは申し訳ないと思っている。

 

「“りある”の食事事情が怖くなってきたんだけど」

 

聞かなくていいよ、あんなもん。少年は遠い目をして能面のような顔で応えた。

腹(というか精神)も満ちたのでさて帰るか、と思ったらガガーランがまだいた。

食事中は美味さに夢中で探知を忘れていたが、おかわりまでして監視続行とはご苦労なことである。

 

「おう、お前らもう帰りか? 食が細ぇな」

「悪いけどアンタみたいに大柄じゃないんでね~」

「違ぇねえ、ガハハ! って……んん? あ……? さっきのは俺の勘違いか……?」

 

なにやら困惑している。

さっそく指輪が一働きしてくれたようだ。

 

「なにー? ジロジロ見てきて。なんか怪しい? さっきも言ったけどアタシ達、ただの旅人と商人まがいだよ?」

「え、あぁ……悪ィ、ジロジロ見たつもりはなかったんだがな。気に触ったんなら謝る」

「いーよいーよ、アダマンタイト級サマは見慣れないヤツを見ると怪しむのも仕事でしょ? 気にしないって」

「おぅ、まぁ、そう言ってくれりゃありがてえけどよ」

「じゃ、アタシら観光の途中なんで。バイバ~イ」

「あ、おう……」

 

そう言って少年とクレマンティーヌはそそくさと料亭を後にした。

 

「あっぶね。でもなんとか誤魔化せたしょあれは。ギリギリだったね~ナイスご主人サマ❤」

 

指輪があってよかった。そう思う少年であった。

 

……

 

「っかし~な~、俺のカンも鈍ったかぁ? でも再度確認したらただの旅人と商人以外のナニにも見えなかったしなぁ?

 ……猿も木から落ちるっつーし俺の勘違いか。

 まさか“イビルアイより強く見えた”なんて、見間違い以外の何物でもねえしな。

 まぁ勘違いならメンバーに連絡する必要もねぇ、か」

 

彼らが去った料亭でガガーランが不穏な言葉を独りごちたが、二人は知る由もなかった。

 

 

「んで~、どうする? もう観光名所は終わったし散歩でもする?」

 

あ、もう終わり。思った以上に少ない王都の観光名所に少年は拍子抜けしていた。

 

「いやまぁあるっちゃあるけどね。腹すかしたガキがめいっぱいいる貧民街とか、腐った貴族がブヒブヒ鳴いてる上級国民住宅街とか、八本指のアジトとか、拝金主義の神殿とか、無能王がいる城とか」

 

どれも行きたくなさMAXである。

間違いなく、どこにいってもげんなりすることは確定していた。

 

「じゃ~もう宿取っちゃう? (遊びで殺した死体からギッたのと、快楽堕ちさせて貢がせた)金はあるし、最上級の宿でも泊まっちゃう?」

 

確かにクレマンティーヌの言う通り、文字通り無駄足を踏むなら、さっさと宿に籠もってクレマンティーヌと淫蕩に耽る方がまだ楽しそうだ。

もう少年はそういう方向で行こうと思ったが。

 

「あ゛~でも最上級の宿って蒼の薔薇のホームなんだよな~、間違いなく出くわすよな~。でもだからっつってこっちがコソコソ逃げ回るのもムカつくしな~。

 今のアタシならあんな奴ら秒で殺れる雑魚だしな~、そんな奴ら相手に隠れるマネすんのも癪だしな~」

 

なにやらクレマンティーヌが葛藤している。

確かに少年たちアウトロー二人組にとって、正義の味方集団は天敵も天敵。

一度目を付けられようものなら、もはやこの国から脱出する以外お楽しみをする事はできまい。

堂々とお楽しみをしたら、即刻お縄になることだろう。

ならば逮捕しにきた兵士も返り討ちにしてしまえ、とヤケになれば、一気に国敵に早変わりである。

結局国から脱出するのは、変わりない。

まぁ、でも、メンバーの一人もうまく騙せたし、何かあっても知らぬ存ぜぬで通せばなんとかなるんじゃない?

少年も自分で言って楽観的すぎると思った発言だったが、クレマンティーヌちょっと間を置いてそれもそうか、と納得したようだ。

 

「ま、そっか。王都じゃまだお楽しみ一度もしてねーし、エ・ランテルでも証拠は残してねーし、指名手配されてるわけでも犯罪組織に所属してるわけでもねーし。

 言われみりゃ無罪潔白じゃんアタシら。気にすることねーか」

 

クレマンティーヌも中々に楽観主義のようだった。

二人は堂々と真正面からズカズカとお高い宿に入っていく。

法国の秘宝である叡者の額冠は、未だクレマンティーヌのアイテムボックスに入りっぱなしな事を少年は思い出したが、一度忘れることにした。

無罪どころか現行犯の窃盗犯だが、忘れるったら忘れることにした。

 

……

 

「いらっしゃいませ、ご宿泊で?」

「うんそー」

「今開いてるお部屋は……最上級で……お値段が……はい、現金一括で……こちらが部屋の鍵で……」

 

チェックインはクレマンティーヌが全部やってくれた。

こう言うときすごく彼女は便利である。

たすけてクレえもん。

 

「部屋取ってきたよ~ご主人サマ~❤ さっさと行ってオタノシミしようぜ❤」

 

もう発情してるようである。

淫魔の本領を発揮して可愛がってやるとするとしよう。少年はそう思っていた。

 

「……見ない顔だな」

「あ゛? って、げ」

 

一瞬でクレマンティーヌの発情が冷めてしまった。惜しい。少年はそう思った。

クレマンティーヌがいかにも“嫌なものを見た”という顔を向けている視線の先を見やると、宿のラウンジにあるソファに腰掛けているちびっこがいた。

ちびっこは仮面をしていて、顔が見えない。

ご丁寧にフードまでしていて、髪色まで隠している始末だ。

ちょっと気になったのでバレないようにこっそり探知してみると、なんとヤツメウナギ(吸血鬼)だった。

なんでぇ、ご同輩(異形種)じゃねえの。少年はそう思った。

あのヤツメウナギ顔なら、仮面で隠すのもさもあらん。

しかしそのヤツメウナギが、高級宿になんの用だろうか?

 

「誰だ、貴様ら」

「や~、別に~? しがない旅人と商人ですけど何か~?」

「旅人と商人……? 身なりからして大した稼ぎがあるとも思えないが、何故もっと安い宿に泊まらない? それほど儲けているようには見えない」

 

このヤツメウナギ、ずいぶん追求してくる。

自分の姿がバレないように相手を牽制するんだろうか。

だとしたら随分な処世術である。

 

「いやま~ほらね~、商人としての商売が軌道に乗っててさ~? たまには豪勢にってね~」

「たまには、ね。フン、まぁ、そういうことにしといてやろう」

「ちっ、うぜえ……」

「なにか?」

「いやなんでも?」

 

やたらと上から目線のヤツメウナギである。

ヤツメウナギのくせになまいきだ、その仮面ひっ剥いでヤツメウナギを晒したろうか。少年はそう思った。

少年の苛立ちを感じ取ったのか、慌ててクレマンティーヌからストップが入った。

 

「ちょちょちょ、ご主人サマそれはマズい。アレ蒼の薔薇のメンバーだから」

 

そうこっそり耳打ちされて、少年は仰天してしまった。

ヤツメウナギが、最上級冒険者パーティのメンバーで、正義感溢れる正義の味方。

ギャップがすさまじいにも程がある。

ぜひ一度鏡で自分のご尊顔を再確認することをオススメする。

お前が居るのが似合ってるのは、王都などではなく洞窟か深い森の奥だから。

そんな少年の侮蔑の意思を感じ取ったのか、ヤツメウナギが仮面越しに睨みつけてきた。

 

「なんだ、そっちの小僧。なにか文句でもあるのか」

 

少年とどっこいどっこいのちびっこなのに、小僧とはこれいかに。

ヤツメウナギだから長命種なのか。

長生きしているヤツメウナギとは厄介な。

それだけ人間の生活圏に溶け込むのが上手いヤツメウナギということになる。

なるほど敵に回したら面倒そうだ。

とりあえず適当に誤魔化すために、文句があるのではなく蒼の薔薇のメンバーを初めて見たので、まじまじ見てしまい申し訳ないと言っておいた。

既にガガーラン嬢に会っているので、真っ赤な嘘だが。

 

「……まぁ、それならいい」

 

声にちょっと喜色が含まれていた。

自己顕示欲強いのか、このヤツメウナギ。

 

「んじゃあ悪いけどアタシたちもう“寝る”んでこの辺で……」

「待て。名だけ聞かせろ」

 

一方的に自己紹介を求めるとは、本当に生意気なヤツメウナギである。

ガガーラン嬢はちゃんと自分から自己紹介したぞ。

リーダーのせいでメンバーの株が上がるとは皮肉な話だ。

 

「えー、あー、アタシはクレマンティーヌ。でこのコが────」

 

クレマンティーヌが仕方なし、という風に自己紹介する。

かなりげんなりしていて声に抑揚もない。

少年も気持ちはわかる。

ヤツメウナギに偉そうにされて気分がいいやつが居るものだろうか。

 

「成程。覚えておくぞ。新参者の名を把握しておくのもアダマンタイト級の仕事の一環なのでな」

「そりゃーごくろーさんでー」

 

仕事熱心なヤツメウナギめ。もっとサボれ。このヤツメウナギ。少年はそう思った。

 

「じゃ、本当にアタシらはこれで、バイバーイ」

「………………」

 

別れの挨拶もなしと来た。

マジで傲慢なヤツメウナギだな、いつかその仮面引っ剥がしてやるからな、内心で捨て台詞を吐いておきながら、少年とクレマンティーヌは部屋に入っていった。

すっかり発情が冷めた二人は蒼の薔薇のメンバーに関する愚痴大会を開催し、いざコトに耽ることになったのはすっかり日も沈んだ夜になってからだった。

あと、入国時のセクハラ門番は、クレマンティーヌが事後の深夜にキッチリ殺しに行った。

 

「……クレマンティーヌ。確か、ズーラーノーンに所属していると聞いたことがある名だな。

 しかし、それにしては強者らしい雰囲気が一切感じられなかったのが不気味だ。

 …………要警戒……か」

 

……

 

少年とクレマンティーヌが王都の高級宿屋に泊まり、昨日はお楽しみでしたねしてから次の日。

チェックアウトをしようと階段を降りていたら、階段の先を、昨日のちびっこヤツメウナギに阻まれた。

 

「待て」

 

単刀直入。

どうでもいいけどこのヤツメウナギ、昨日から思っていたが美声だな。少年はそう思った。

ヤツメウナギ特有の“ヌ゛オオオオ、ゴロズゥゥゥゥ”みたいなアンデッド感マシマシの声ではなく、美少女感たっぷりの美声だ。

 

「あ~……ナニ? 今から宿屋出ようと思ってんだけど……」

「貴様だ。そちらの女に用がある。クレマンティーヌと言ったな。黙って付いてこい。拒むようならアダマンタイト級冒険者として取り押さえる」

 

問答無用のようだ。

ただでさえ面倒事を起こしたくないのに、向こうから面倒事を持ってくるとは。

クレマンティーヌがちらりと、視線で“どうする?”と訴えかけてくる。

わざわざ宿屋でドンパチ始めて、王国そのものから敵視されるのは面倒極まりない。

何を聞かれるのかわからないが、とりあえずおとなしくついていくべきだろう。

そういう旨をアイコンタクトで伝えたら、わかりやすくため息をつかれた。

さもあらん。

少年とてため息を付きたい気分でいっぱいなのだ。

何が悲しくてヤツメウナギごときの命令に従わなくてはならないのか。

な~にがアダマンタイト級じゃ、リアルの警官だって不審者への声掛けは任意同行が基本やぞ。拉致みたいなもんじゃないか。どこが正義の味方だっつうの。

と、少年は声を大にして目の前のヤツメウナギを罵倒したい気分でいっぱいだったが、どうせこのプライドの高さから見て逆ギレされるのはわかりきっているのでやめた。

 

「へいへ~い。アダマンタイト級サマには逆らえませ~ん。アタシらただの旅人ですんで~」

「それもどうだかな……。まぁいい、付いてこい」

 

言うだけ言って、ヤツメウナギはさっさと早足で行ってしまう。

先導するならゆっくり歩けよヤツメウナギ。少年はそう思った。

クレマンティーヌも同じような感想だったのか、聞こえないように舌打ちしていた。

サクサク早足で進むヤツメウナギに先導されてしばし。

 

「で? どこまで行く気?」

「黙って付いてこい」

 

さっきからクレマンティーヌが、行き場所を聞いても、それしか言わない。

壊れたラジオかこのヤツメウナギは。もう十数分は歩いていると思うんだが。少年は辟易した。

しかもどんどん人気が少なくなっていく。

ヤツメウナギの剣呑な気配も相まってイヤ~な予感しかしない少年であった。

結局少年の予感は的中し、二人はほの暗い路地裏にまで連れて行かれた。

少年たちアウトロー御用達のロケーションである。

まさか正義の味方まで御用達とは。

ヤツメウナギだからしょうがないか、と少年は謎の納得をしていたが。

 

「連れてきたぞ」

 

ヤツメウナギがこちらではない誰かに声をかけたので少年が前を見やると、四人の美少女(訂正、一人はゴリラ)が立っていた。

装備の質や立ち振舞いを見るに、そこらのチンピラや下級冒険者とは違うのが一目で分かる。

なるほど、これが最上級冒険者グループか。

少年は場違いな感想を抱いていた。

 

「ようおめえら。また会ったな」

 

ガガーラン嬢が朗らかに話しかけてくる。

この人見た目は男にしか見えないがやはり常識人だな。少年はそう思った。

 

「どうもね」

 

とりあえずこちらも挨拶を返す。

挨拶には挨拶を。これ、基本。

他の三人からは、挨拶がなかったが。

ゴリラの爪の垢でも煎じて飲め、無礼者。少年はそう思った。

ヤツメウナギが四人に合流すると、踵を返してこちらを睨めつける。

 

「さて、尋問を始めるとしようか」

 

尋問。

まだ少年たちは王都に来てなにもしていない。

こちらは無罪であると主張しても、どこ吹く風であろうから、しないが。

 

「あ~、わりいな。ウチのちびっこがどうしてもお前らが怪しいっつって聞かなくてな」

 

ゴリラがフォローを入れてくれる。

やはり常識人。

ゴリラは森の賢者。

そうして、王都最強の冒険者とやらによる“尋問”が始まった。

 

 

「まず初めに、貴様ら二人組が只の旅人と商人には見えないなど怪しい点はいくらでもあるが、一度そこは置いておく」

 

いやそこから怪しまれてるんかい。そこ怪しみだしたらマジで往来を歩けなくなるんですが。どこまで疑心暗鬼なんだこのヤツメウナギ。少年は憤った。

 

「クレマンティーヌ、と。確かに名乗ったな。女」

「あ~、アタシ? まぁ言ったけど」

「その名前……、過去にズーラーノーンの所属員のリストで見たことがある」

「げ」

 

それは、マズい。

今はもう退職してプーです、と言っても犯罪歴があるというだけで常時監視してくるようになるだろう。

正義の味方とは、こぞってそういう連中である。

 

「同姓同名とかじゃな~い? そこまで珍しい名前じゃ」

「そこまで珍しい名前だろう」

「ッス……」

 

自覚はあるらしい。

確かに“クレマンティーヌ”なんてそうそう聞かない名前だ。

少なくとも少年はリアルではそんな名前の外国人、一度も聞いたことがなかった。

そして最悪なことに、犯罪歴があるという事実を知って残りの四人の体勢が変わった。

明らかに、いつでも戦えます、といった様子である。

オイオイオイ、死ぬわアイツ。(クレマンティーヌがキレたら向こうが)

 

「おいイビルアイ、そういうコトなら話ぁ別だ。俺の勘違いかと思って流そうと思ってたんだが……」

「何だ?」

 

なんと、ゴリラがあの時の監視の事を暴露しようというのだ。

やめてくださいそれだけは。少年はそう祈った。

 

「今はもう感じられねえんだが……、出会った時、一瞬だけだがな、こいつらが“イビルアイより強く”観えたんだよ」

「何だと……?」

 

しかし いのりは とどかなかった!

四人がとうとう武器まで抜き出した。

裏切ったなゴリラ。おのれ森の賢者、的確なタイミングでアドバイスしてきやがる。もう尋問フェイズは終了して処刑フェイズに来ているではないか。少年はそう恨めいた。

 

「せっかくの美ショタ……もったいないけど仕方ない……」

 

忍者っぽい片割れがなんか不穏なこと言い出した。

ショタコンだろうか。

ショタコンを釣るための疑似餌の擬態なので、少年はショタコン大歓迎であったが。

こんな状況じゃなかったら淫魔として食ってやってるんだが。美人さんだし。少年はそう思った。

 

「過去に犯罪歴のある、ガガーラン曰く実力者……。明らかに、治安を悪化させる人物と見て間違いないな。何か申し開きはあるか?」

 

ヤツメウナギのその声を切っ掛けに、全員が完全に戦闘態勢に入る。

一触即発か。

 

「あ゙~~~~~~……………………」

 

クレマンティーヌがもう見るからに、クッソめんどくさそうな顔をしている。

気持ちはわかる。少年もクッソめんどくさそうな顔をしているからだ。

この主従、なんだかんだで似たりよったりであった。

 

《ねぇ~え~、ご主人サマ~、こいつら皆殺しにしてい~い~?》

 

なんとクレマンティーヌから【伝言】が入ってきた。

いつのまに覚えたのやら。

 

《ナイショ話に便利そうだし取れたから取った。それはいいとして、マジでウザいから本気で皆殺しにしてーんだけど?》

 

いまだ怪しまれている段階なのに即殺すのは如何なものか? まだ戦闘には突入していないのでなんとか誤魔化せないのでは? 少年はそう返した。

 

《ご主人サマってマジでメスには甘いよね~、怪しまれてる段階で既に今後の行動が完全に制限されるのわかって? ホント》

 

確かに、行動を制限されるのはうざったい。

夜な夜な、人妻との不倫も楽しめない。

クレマンティーヌのお楽しみもできず、いつ爆発するかわかったものではない。

だが急にアダマンタイト級冒険者が全員揃って変死したら、結局怪しまれるのではないだろうか。

 

《アタシが証拠残すと思う? だいたいこいつら死んだことも気付けない速度で秒で殺れるっつの》

 

いわれてみればそうである。

しかしアダマンタイト級冒険者が消えれば王都の治安はさらに悪くなるのではないだろうか。

 

《王国最強の戦士長がすでに戦死長になってるのにそれ言う? そのうち法国に飲み込まれるのに治安もクソもないっしょ》

 

いわれてみればそうである。

それに少年たちアウトロー二人組が、自由に行動できるようになるため、治安が悪化するのはむしろ歓迎だ。

少年は考えた。

数秒くらいは考えた。

考えた結果、安易に答えを出した。

いいや、殺っちゃえバーサーカー。

 

《まぁってましたぁ!!》

 

──その瞬間、クレマンティーヌが“消えた”。

それを認識できたのは少年だけ。

1フレーム後、まずリーダーであるラキュースの首が飛ぶ。

ガチ装備のエストックで、首を撥ねられたようだ。

瞬時に早着替えまでこなすとは、流石である。

間を置かずガガーランの首と心臓、脳のある部位に数十もの穴が無数に開く。

レイピアでめった刺しにしたらしい。

かろうじて視線、もしくは気配だけでクレマンティーヌが消えたことを、僅かに確認できていたイビルアイの首も飛んだ。

おそらく反応したことに対応して“こいつはめんどいな”と思いクレマンティーヌが対処したのだろう。

そして最期に、ティアとティナの姉妹が、何も反応できないままに全身穴だらけにされて絶命した。

ここまで10フレームとしてかかっていない。

見事な早業である。

ちなみに少年は全部見えていた。

全員が絶命してから数秒後、死体達はぐらりと力なく地に伏した。

 

──ここにアダマンタイト級冒険者チーム・蒼の薔薇はあまりにもあっさりと全滅と相成った。

 

「は~い任務かんりょ~❤」

 

気づいたらクレマンティーヌは少年のすぐ横に立っていた。

その武器には一滴の血も滴っていない。

パーフェクトだ、クレマンティーヌ。

完全にアサシンの仕事だがバーサーカーと言ったのはノリである。

定形文とも言う。

他人に見られたら面倒なので、二人はすぐにこの場を後にすることにした。

仕事を終えたアウトローは逃げの一手である、これ基本。

 

「ほ~い。逃げろや逃げろ~♪」

 

少年とクレマンティーヌは音もなくその場を後にした。

後には蒼の薔薇“だったもの”だけが、血溜まりに沈んだまま残されていた。

おそらく、蘇生して話を聞いても、何もわからないだろう。

彼女たちは最期まで、何一つ状況を知覚できないまま死んだのだから。

 

 

「は~、マッジクソザコすぎたんだけどアダマンタイト級。スカッとはしたけどォ、手応えなさすぎてつまんね~」

 

二人は酒場で飲んだくれていた。

そして、仕事の内容を口に出してしまうのはやめてほしかった。

何処で誰に聞かれてるかもわからないのだから。

 

「ま~そ~だけどさ~。別にいいじゃん、こーゆー時聞き耳を立てるようなアダマンタイト級サマはさっき始末したばっかだし。酒場の喧騒で消えるっしょ」

 

いわれてみればそうである。

聞き耳を立てるような厄介者は消したばかりであった。

いやぁ、アウトローが過ごしやすい街になったなぁ。少年はそう思った。

 

「それな、てぃひひひっ❤」

 

しっかりクレマンティーヌは普段着装備に戻っている。

少年は種族耐性で酩酊無効、クレマンティーヌは首輪の効果で全状態異常無効なので酔っ払うことはないが、酒そのものは美味いので問題ない。

一仕事終えた後は、酒をかっくらう。

やはり人間とは、こうでなくてはならない。

もっとも少年は淫魔だし、クレマンティーヌもほぼ人外なので、人間といえるかは微妙なラインだが。

見た目だけなら人間なのでセーフだろう、多分。

 

「あ゛~、殺った後は酒が美味え!」

 

人間としてアウトな事を言っているが、セーフだろう、多分。

そして、そんな事を考えてる少年本人も“せっかくの美少女の新鮮な死体だし死姦くらいしときゃよかった”とか考えてるから、どっちもアウトだろう、多分。

それにしても、急いで逃げたとはいえヤツメウナギの仮面を引っ剥がせなかったのは少し惜しい。少年はそう思った。

 

「むぅ、それは確かに。あのクソ生意気なガキの顔がどんなだったのかちっとは気になるかも」

 

そういうクレマンティーヌに少年は手持ちの【百科事典】のモンスターの項、吸血鬼の欄のスクショを見せてやる。

アイツの素顔、こんなんやぞ、と。

 

「ぶっは!! マ~ジで!? ブスすぎっつか女として終わりすぎっしょ!! これでエラソーにしてたとかマジウケるわ!!」

 

クレマンティーヌは腹を抱えて笑っていた。

さもあらん。

スクショに写っていたのは、今にも撮影したプレイヤーに襲いかからんとする“モンスターの”吸血鬼の、おぞましい顔であったのだから。

その後も二人は、ヤツメウナギのあまりのヤツメウナギっぷりに大いに笑いながら酒を交わしていた。

あわれイビルアイは、その仮面の下の美少女顔を関係者以外に見られることもないまま、この世を去ったのである。

まぁ隠してるんだから本人もそれでいいはず、多分。

おそらく。

 

……

 

あらかた笑って酒を堪能した二人はホクホク顔で酒場を出ていた。

 

「ん~、邪魔者も消せたし酒もうめえし、今日は最高の1日になりそーだねご主人サマ」

 

結果的にヤツメウナギが喧嘩を売ってきてくれて助かった。合法的に邪魔者を始末できたのだから。少年はそう思った。

むしろ接触してこず監視だけに留まられていたら、もっと厄介になるところであった。

強者ゆえの慢心か、油断か。

少年たちは実力を隠しているのだから、自分たちなら容易に制圧できると勘違いしても仕方がないとも言える。

こう言うときマジで便利である、この指輪。

しかし、初対面のクレマンティーヌも、特に彼我の実力差を認識しないで襲いかかろうとしてきたので、この世界の強者ってそんなもんなのかも、と少年はそう思った。

 

「ちょちょちょ、ご主人サマその話するのはナシっしょ。それ黒歴史だし」

 

HAHAHAHAHA。可愛い奴め。少年はそう誂った。

 

「か~わ~い~い~と~か~い~う~な~」

 

ポカポカパンチで抗議しつつも声には喜色が含まれてるのはわかっておるぞ。可愛い奴め。少年は再びそう誂った。




クレマンティーヌ一行が村を後にする→ギリギリ間に合わないタイミングでガゼフちゃん来る→クレマンティーヌ一行移動中にニグンのせいで戦死長
のニアピンでした。
それにしても、蒼の薔薇ファンの皆さんごめんなさい。特にイビルアイ。
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