「思ったより早かったね、戦争始まんの」
クズ二人は燦々と煌めく太陽のもと、草原をのんびりと歩いていた。
なぜあれほど気に入っていた拠点から抜け出し、こうして王都の外を散歩しているのか。
たった一つのシンプルな答えである。
王都に居られなくなった。
ただそれだけの話。
ある日、クズ二人がいつものようにげはげは笑いながら違法行為を楽しんでいたら、何人かの王国の兵士が慌てて大通りを馬で駆けていく姿が見えた。
いくら首都の治安が終わり切り、警備兵の姿も鳴りを潜めてしまったとは言え、国境警備の兵はちゃんと配備されていたのであろう。
彼らはバハルス帝国から宣戦布告を受けた事態を、王宮に報告するため、大急ぎで早馬を飛ばしていたのだ。
国境警備ゆえ、王都の実情を詳しく知らなかったのか、“お前ら兵士は何をしてんだ”と、正常な国民から大ブーイングを喰らい石まで投げられていたのは困惑していたようだったが。
そして情報は正しく王へと届けられる。
いくらお飾りの王でも、いくら腐った貴族でも、いくらゴミと化した国民でも、これから戦争が始まることを知らせる義務があったのだろう。
あまりやる気の感じられない近衛兵により、王都にもその情報が流布された。
そして、クズ二人はさっさと逃げ出したのである。
何故宣戦布告と受けただけで、すぐに逃げ出したのか。
どう考えても今の王国が勝てる気がしなかったから。
本土まで帝国が進行してきたら、その場に居合わせると面倒しかなさそうだったから。
なので、今のうちに逃げ出そうという結論になったから。
事態の根幹を担っているのもかかわらず、責任を取る気は一切無いようであった。
出国審査もロクにせず、だばだばと(常人には見えない速度で)走って逃げ出した事から、これ以上迷惑ごとに首を突っ込みたくない意思表示がこれでもかと現れていた。
そうして王国の領地外へ出て、今、というわけだった。
「せっかく楽しい国だったのにさぁ、王国」
居るべき人がいれば“楽しい国にしたのはお前らだろうが”とツッコミをいれられるセリフである。
が、そこはそれ。無自覚国家腐敗マシーン二名である。
自分たちの殺った(ヤった)事などとうに忘れ、そうだそうだ、国が悪い国が、とぐちぐち的はずれな文句を吐きながら、当てもなく草原を歩いていた。
そう、だだっ広い草原を。
クズ二人の表情は鬱憤に彩られていた。
何せ、片方は悲鳴を聞きながら人を殺すのが大好きなシリアルキラー。
片方は見知らぬ美人を強引に手籠めにするのが大好きな強姦魔。
どちらも、
忘れがちだが、しっかり支配の魔法を受けているクレマンティーヌが少年に拷問をするはずもなし。
少年はクレマンティーヌを抱くこともあるが、それは趣味の一環ではないので欲求が満たされる訳でもない。
こんな誰も居ない場所を彷徨っていては、欲求不満になるばかりであった。
と、そこに、遠くにポツリと人影が見える。
その人影もクズ二人を見つけると、手を振りながら近寄ってくるではないか。
なんだろう、と互いに顔を見合わせて、人が接近するのを待つ。
「おお、旅の人か。そっちに向かってるってことは、あんたらも王国を追われたクチかい」
「ん? だれよあんた」
「俺は王国で冒険者をやっていた者だ。まあ、階級は見ての通り高くないんだが……」
「ほーん」
挨拶してきたそれは、おそらくはエ・ランテルの街辺りで活動していたであろう冒険者であった。
本人の言う通り、胸元のプレートは鉄色に光を放っており、成る程たしかに低い、と、失礼な感想を抱かせる。
冒険者は肩を竦めると話を進める。
「王国はもう駄目だよな。あれだけ治安が終わりきって、戦争まで始まったとあっちゃあ……。俺も帝国に行ってワーカーにでも鞍替えしようと思ってさ」
「なんでワーカー? 冒険者続ければいいじゃん」
「無茶言うなよ、王国から逃げてきた冒険者なんて、帝国でマトモに仕事出来やしないさ。食いっぱぐれないにはワーカーになるしかないんだよ。危険度や死亡率はかなり高いって言うけど、野垂れ死ぬよりはマシだろう?」
「そうなんだ~」
「そうなんだよ、あんたらは? 見た所プレートを持ってないみたいだけど……、もしかして先輩ワーカーか?」
「うーん……」
「?」
友好的に話しかけてきている冒険者に、クレマンティーヌは熱っぽい視線を向けている。
まさか、と少年はそう思った。
「ねえご主人サマさあ、王国をでてから
「……?」
そしてそれは的中した。
ああ、やっぱり。
たまってる……ってやつなのかな。しょうがないにゃあ。
少年は無言で首切りサインを出した。
「わお♥ 愛してるゥ♥」
「あんたら何を、って、ぐあああ!?」
クレマンティーヌがわざとゆっくりと冒険者に近づくと、おもむろに雑魚装備スティレットを冒険者のふとももにぶっ刺した。
当然、苦悶の声が上がる。
抗議に近いそれは、クレマンティーヌの欲情を満たすものでしか無かった。
「あっは、いい声~♪ もっと聞かせて~♪」
「なにす、ぎゃああああああッ!!」
そのままなし崩しに冒険者は押し倒されると、
穴が増えるたびに悲鳴に泣きが入り始め、クレマンティーヌの嗜虐心をこれでもかと刺激する。
一方少年は、知らんぷりして本を読んでいた。
いくら
淫魔とは別に虐殺好きの種族ではないのだ。
別に止めないので、殺りたいやつは好きに殺ってくれ。少年はそういうスタンスである。
離れるとめんどいからその場に座っただけで、見る趣味も聞く趣味もない。
本に集中することで、肉をえぐる音や、命の灯が消えていく声を、極力無視しようとしていた。
ところでワーカーとはなんだろう、と少年はふと思ったが、どうでもよかったのですぐ読書に戻った。
繰り返すが、燦々と煌めく太陽のもとの行為であった。
「済みました!」
とてもいい笑顔(返り血付き)でクレマンティーヌが行為の終了を報告してくる。
またも少年の読書が、ストーリーの“オチ”手前で水を差されてしまっていた。
もしや狙っているのかと訝しみつつ、本をアイテムインベントリに仕舞うと、惨殺死体を一瞥することもなく、クレマンティーヌを侍らせ歩き出した。
その場に残った恐ろしい形相の死体は、モンスターの仕業か人間の仕業かわからないほどに損壊していた。
「はァ、それにしても帝国でワーカーかあ。ワーカーやるのはナイけど、次はどうする? 帝国行く? てゆーか、人が多い所行きてえ」
それには少年も同感である。
主に夜這いがしたいから。
主に美味しい食事にありつきたいから。
主に路地裏のような場所がないと落ち着かないから。
以上の理由から、何処かの都市部に行くことは考えていたようだ。
そうと決まれば話は早い。こんな誰も居ない場所、とはいえ大自然は少年にとっては美しいものなのでそれはそれで気に入っていた、からはさっさとおさらばし、帝国に向かおうではないか。
意見が纏まったクズ二人は、駆け足(常人には見えない速度)で、帝国領内へと向かった。
道中遭遇した男は殺され、女は犯された。
◆
──バハルス帝国内、王国難民受付所。
「正規に入る手段って今これしかねーのかよ。なんだってんだよクソッ、めんどくせーよクソッ」
素直にのこのこと王国の方角から歩いてきたクズ二人は、兵士に見咎められると、ここに案内されてしまった。
どうやら、王都の腐敗が激化してからは、こうして難民を受け付けていたようであった。
それを無視する、もしくは殺して密入国することも考えたのだが、そうしては天下の往来を歩むことは叶わなくなる。
つまり、酒場で酒に酔うことも、飯屋で食事をすることも満足にできなくなるのだ。
二人とも、それは御免蒙った。
人とは一度味をしめると、生活のランクを落としたくなくなるものである。
なので、クズ二人はしぶしぶと審査を受ける難民の列に並んでいた。
クズ二人の前にはずらりと行列が作られている。
だからクレマンティーヌはぶちぶちと文句を垂れているのだ。
単純に待つという行為が苛立たしいのだろう。
ヤンキーのようにウンコ座りをし、貧乏ゆすりをして、かなりの頻度で舌打ちを鳴らす様は、何処から見てもヤカラでしかなかった。
前の人が気になるのか、こちらをちらりちらりと見てくるが、少年は知らぬ存ぜぬで通すことにした。
流石に他人ですアピールまでは行かないものの、本を読み始めて“知ったこっちゃないです”というスタンスを表に出すことにしたのだ。
列が進む度に、器用に本を読みながら、そして座りながらのしのし移動するクズ二人。
ようやく二人の審査が始まる頃には、既に日は落ちかけていた。
「次のもの」
「はーい、名前はクレマンティーヌでーす。職業は……プーでーす! 強いて言えば旅人? 的な?」
「そこまで高らかに無職を宣言する者は初めて見たぞ」
早速兵士に引かれるクレマンティーヌ。
どうでもいいからさっさと入れてくれ、という態度がありありと表れている、雑極まる自己紹介である。
「こっちの子はぁ、あたしのご主人サマでーす! 職業は商人? 的な?」
「そこまで高らかに年下の男児を主人扱いする者は初めて見たぞ」
早速兵士に引かれる少年。
“こいつこの歳で女ぁ連れてるのか”という目で見られている。
「確かに帝国では奴隷は違法ではないが……」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。そういうんじゃないから。もっとこう、性癖から来る関係だから」
「そ…………、そうか……」
今度は“奴隷のほうがまだマシなんじゃないのか”という目で見られている。
さもあらん、あまりに倒錯した関係をカミングアウトされた兵士は単純に可哀想であった。
なんでこんな奴らの相手しなきゃならないんだ、仕事とは言え辛い。
そう顔に描いてあるようである。
ところで、帝国では奴隷は違法ではないのか。夢があるな。少年はそう思った。
「あぁ、もう、うん、いいから、入って。問題さえ起こさなければいいから」
「は~い♪」
かくしてクズ二人は、そのクズさを隠したまま帝国への侵入を可能にしたのである。
◆
「ねえ、あたしちゃん思ったんよ」
無事帝国内に入り込めて、一息ついた時。
クレマンティーヌが少年に改まって真面目な顔で語りかけた。
どうしたのだろう、と少年はそう先を促した。
「いやね、六腕に特定された時みたいにさあ、死体を残しとくと、いつかはコトが露見するって」
それは確かに。
クレマンティーヌは趣味で、モズの早贄のように、“わたしがやりました”と言わんばかりに死体を残していく癖がある。
それは自らの腕前の誇示であり、恐怖を産むための布石であり、それらがさらなる趣味につながるという、一石二鳥の行為ではあった。
あったのだが、自分にも少年にも迷惑を呼び込む結果となったことを、かなり自省しているようだった。
であればどうするというのか。
「今後は、お楽しみした後、死体を誰にも発見されない場所に急いで捨ててくる! これっきゃない!」
なるほど、そう来たか。少年はそう感心した。
一般人が言うなら“そんな事出来るなら世の中は完全犯罪で溢れてるだろこのアホ”と即座にツッコミを入れられるだろうが、クレマンティーヌはもはや一般人ではない。
いや、もともと一般人ではないが、今はなおさら一般人ではない。
レベル100のステータスの暴力に加え、ガチ装備のエンチャも含めるなら、ほんの数秒で、目にも止まらぬ早さで駆け、帝国領地外の森にでもポイして帰ってくるなど、朝飯前だろう。
確かにそれなら、本当に痕跡も証拠も残さずにお楽しみ行為が出来る名案である。
しかし、元々は趣味の一環で死体を残していたのだ。
それでいいのだろうか。少年はそう尋ねた。
「ん、だいじょーぶ。その分お楽しみの方をぉ、じ~~っくり、ゆ~~っくり殺って、充足させることにするから♪」
代替案があるなら、安心である。
少年はそう安堵した。
なにせこのシリアルキラー、どこで不満が爆発するか分からないのだ。
それが迷惑になるとかではなく、愛着の湧いたフレンド(部下とも言う)が我慢した結果、苛立ちを爆発させるさまを見るのはやるせない。
そのようにならなくてよかった、と。クレマンティーヌを案じての事であった。
「やめてくんない? キュン死しそう」
真顔で止められてしまった。
キュンと来ているのか、真顔なのか、どっちなのだろう。
「努めて真顔にしてるんよ、こっちは。じゃないとやべえ顔になるから」
今度は少年がキュン死しそうになった。
このクズ二人、趣味以外でもお似合いの二人である。
良いムードになっていたが、少年はそこではた、と気付いた。
良いムードと言えば、自分も自制しなくていいだろうか、と。
今までは裏路地に無理やり女性を連れ込んだり、夜な夜なご家庭に不法侵入しては夜這いしたり、好き勝手していたが、そのどれもが美人であったため、特に殺す気にもなれず、快楽堕ちさせるだけさせて、クレマンティーヌの
しかも避妊もせず。
よく考えたら自分も証拠残しまくりだな、やばいな、と少年はそう思っていた。
「んー、ま、いんじゃね? それは別に」
と思っていたが、クレマンティーヌにあっさり否定されてしまった。
何故だろうか。
「だって、殺人事件なら軍やら警備兵やら動くかも知れないけどさ、快楽堕ちさせてるなら別に通報が行くわけじゃないしょ? ノー通報だったら事件性ないじゃん」
いわれてみればそうである。
冷静に思い返してみると、今まで自分が散々アヘらせてきた女性たちは、性的に満足させてきたので、特にこれといって“性被害にあった”などと、何処かに通報しに行くことはなかった。
もし八本指のように、組織だった強姦専用のギャングがいて、“ウチのシマで勝手に強姦してるふてえヤツはテメエか”などとケチをつけてきたら話は別だが、そんなエロゲみたいな組織は今まで聞いたことがない。
いや、この広い世の中、探せば居るのかも知れないが。
仮に居るとしても、ケチをつけられてから辞めればいいだけの話であろう。
クレマンティーヌに太鼓判を貰った少年は、短絡的に、今のまま楽しめばいいか、と結論づけていた。
「(…………。そういえば、現地民とプレイヤーのハーフって、“神人”っつってやべー力に覚醒すんだっけ。あれ? ご主人サマのタネが全部アタってたら……ヤバくね?)」
実際一切避妊していないので、その観点はかなり正しかったが、そもそも異形種と人間で子供が出来るかも未知数だったので、要らない不安を生まないために黙っていることにしたらしい。
「まいっか。とりあえず飲み行こ」
悩みを丸めてポイ捨てしたクズ二人は、帝国初めての酒場に直行した。
◆
「ぎょ、ぎょえーっ。数日ぶりの酒うめーっ」
クレマンティーヌは妙な感嘆を上げていた。
声の種類はともかく、それには少年も同感である。
リアルではとてもではないが手が出なかった嗜好品、アルコール。
種族効果で酩酊無効だが、ここまで美味いかと今でも新鮮に楽しむことが出来る。
逆に、いつか飽きる日が来るのではないかと少々恐れているくらいだ。
「てゆーかさご主人サマ、王国より帝国の酒のほうが美味くね?」
そういうものなのだろうか。少年はそう訝しんだ。
はっきり言って少年は舌バカかつ極度の貧乏舌なので、田舎の村で作られた素朴な酒でも、泣きながら美味い美味いと飲み干す自信がある。
ましてや味比べなど、そこまで味蕾が発達していなかった。
その事を素直に少年は白状した。
「うん、うん……。美味しいもの食べたり飲んだりしようねえ……。幸せになろうねえ……」
何故だかクレマンティーヌに泣かれてしまった。
泣くことはないと思うが、少年はそう思ったが、リアルとの落差を考えると、泣いて良いのかなとはちょっと思った。
結局、クズ二人して、謎の涙を流すことになった。
事情を知らない者から見ると、意味不明な光景である。
ともすれば、王国から無事に逃げ出すことに成功し、安堵している難民にも見えた。
「おっ! あんたらも難民のクチかい! まぁそう泣くな泣くな! 酒に酔いねえ!」
「あ? 誰あんた」
事実そう見えたのか、同じ酒場にいた気さくな若者から声をかけられた。
見知らぬ人間と共に酒を酌み交わすのは酒場の醍醐味である、“こちらの世界”に来てからそう考えていた少年は、若者を好意的に受け入れることにした。
クレマンティーヌは、さして興味がないようで、胡乱な目で見つめている。
「俺か? 俺はここを拠点にしているワーカーチーム“フォーサイト”のリーダー、ヘッケランだ! ヘッケランによろしく」
ワーカー。
ここに来る道中で哀れにもクレマンティーヌの
もしかしたら帝国では一般常識なのかもしれないが、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
旅の恥は掻き捨てということで、少年は素直にヘッケランと名乗った若者に尋ねることにした。
「ワーカーが何かって? あぁ、まぁ、王国から来たのなら知らなくても無理ないか。あっちは冒険者のが多いらしいからな」
「まーね」
「
「つまりは冒険者になれないドロップアウト組っつーこと」
「あいたた、言うねえ美人のお姉さん」
「キモ」
「言うねえ!?」
なるほど、つまりアウトローの自営業ということだろう。少年はそう当たりを付けた。
リアルにもかつては、個人輸入業者とか、個人販売店とか、そういった自営業が盛んであったと歴史の教科書で読んだものだ。
組織に縛られない生き方は少し憧れがあったが、別に今は食うに困っていないのでやる必要もないか、と。
興味の矛先は行き場を失った。
クレマンティーヌも、興味なさげに酒をかっくらっている。
そんなクズ二人の卓に、ヘッケランは良く言えば気安く、悪く言えば無遠慮に席についた。
「あんたらは、王国で冒険者をやってたのか?」
「んーん、別に。逆になんでそう思ったし」
「自然体を見れば、ただの民間人じゃないことくらい分かるよ。体幹ってのかな、そいつが鍛えられてる」
「へー、いい目してんじゃん」
「まあね」
アウトローはアウトローを知るということだろうか。
もしくは、実力者ゆえの観察眼だろうか。
レベル隠しの道具を装備していようと、普段の体捌きまでは隠せない。
もともと英雄に足を突っ込んでいた人類でも上澄みの腕を持つクレマンティーヌはもちろん、一時期はガチ勢だった身体に乗り込んでいる少年も、やろうと思えば相応にやれる連中であることは隠しきれないのだろう。
そういう見方もあるのか。少年はそう思っていた。
「別に冒険者じゃないよ。ただの旅人。ま、旅するからには、モンスターとやり合わなきゃならないから、ある程度はね」
「なんだ、在野の実力者ってだけか」
そう伝えると、ヘッケランは品定めするような目でクズ二人を見やる。
「なら、ワーカーやる気はないか? よかったら、先輩として色々ノウハウを教えるぜ?」
「ないでーす」
「あらま」
率先してクレマンティーヌが断ってくれたが、少年にもなかったので、NOと意思表示をしておいた。
やはり、やる必要のないものは、やる必要のないものでしか無い。
興味本位で首を突っ込んで面倒に巻き込まれるのはもうゴメンである。
「そっか、まぁ、じゃあ、困ったことがあったらいつでも依頼してくれよ! さっきも言ったけど、俺達はここの酒場を拠点にしてるからさ!」
そう言って高らかに笑い、少年の背をばしばし叩くと、ヘッケランは元いたであろう卓に戻っていき、喧騒の中へと消えた。
「あたしああいう初対面でいきなり距離詰めてくる男きらーい」
それは趣味で夜這いしワンナイトラブを繰り返す少年も嫌いということだろうか。
少年は悪戯心を思いつき、演技で目を潤ませクレマンティーヌを上目遣いで見上げてみた。
「ちょっ、違うし! そういう意味で言ったんじゃないし!」
見事クレマンティーヌが慌ててくれたので、悪戯は大成功であった。
◆
「うーん」
ヘッケランは頭を掻きながら、チームメンバーのいる卓に座った。
「なによ、なんだか美人と話してたみたいだけど、ナンパじゃないでしょうね」
チームメンバーであろうハーフエルフの女性にそう言い咎められるが、ヘッケランは至って真面目に返した。
「いや……、いかにもワーカー向きだなって見えた二人組がいたから、お節介焼きに行ったんだけど、断られた」
「ふーん?」
どうやらクズ二人の精神性もある程度見抜いていたらしい。
冒険者よりはワーカーだろうと、先輩として何か指南できればと話しかけに行ったのだが当てが外れたようであった。
「まあ、いいか」
もしここで粘って無理にでもワーカーになることを押し付けるようだったら、少年の指が首をスッと横に移動していたことであろう。
ヘッケラン、危機一髪。
文字通りヤリ逃げされた王国くんかわいそ……。