ネタが尽きてきました。
「陛下、お手紙にございます」
「ん」
ジルクニフは執務室で近衛兵から手紙を受け取っていた。
便箋に封蝋までしており、随分と厳重かつ高級な仕様である。
どこの貴族のものだろう、と思ったが、宛名も署名もない。
頭にハテナマークを浮かべながら、たかが手紙に害もないだろうと、気軽に封を切り目を通し始めた。
『拝啓 ~親愛なる皇帝陛下へ~
リ・エスティーゼ王国との戦争の勝利、誠におめでとうございます。
書面での形となりますが、心よりのお喜びとさせていただきます。
腐敗が横行した王国の為政は大変なものとなるでしょうが、応援しておりますので、とても頑張って下さい。
ところで話は変わりますが、最近はステーキが美味しい季節となりました。
陛下はもう平らげましたでしょうか。
なに、まだ。
それはいけない。
ミディアムレアからウェルダンまで、全ての焼き加減を網羅するのをおすすめいたします。
私事となりますが、昨日、自宅の炊飯器のスイッチが入っていませんでした。
飼っている犬に聞いたら、帝国のしわざだとお聞きしました。
つきましては、帝国領内で迷惑行為をすることで、報復とさせていただきます。
どうかよろしくおねがいします。
敬具
激辛ちくわぶ』
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」
誰だ、害がないなんて言ったのは。
ジルクニフはキレかけていた。
確実に、精神の何かを蝕む害はあった。
必死にこの
実際、“迷惑行為”だの“報復”だのという不穏な単語が入っていなかったら、そうしていたことだろう。
少しでも危険性があるなら物的証拠として取っておく、皇帝という職業の悲しいサガと言えた。
だいたいこの文書、ツッコミどころが多すぎる。
なんだ、炊飯器って。
ステーキなんていつでも美味いではないか。
勝手に食ってないことにするな。
焼き加減の網羅なんて、もうとっくにしとるわ。
犬に聞くな、犬に。
そして犬も答えるな。
だいたい激辛ちくわぶのちくわぶってなんだ。
ツッコミ始めたらツッコミが止まらない気質なので、一旦それは思考の外に弾き出すことにした。
「悪戯か?」
というか、そうであってほしい。
そうであれ。
強く強く祈りを込めて、近衛兵にそう尋ねたが。
「い、いえ、その手紙は、何故か重症の近衛兵が持ってきておりまして、ただの悪戯の線は薄いかと……」
「何? そいつは誰にやられた」
「そ、それが……、“なんだか知らないが全く気づかないうちにボロボロになっていて、手にはこれを握らされていた”と、意味不明の供述をしておりまして……」
「なんだとぉ……?」
理解不能な文書に、理解不能な情報が追加された。
帝国の近衛兵は、当然帝国四騎士には及ばないものの、宮廷を護るべく激しい鍛錬を積んだエリートである。
それが認識もできないうちに重症を負わされるとは、ただごとではない。
そういった【
しかし、そのような在野の実力者がやることが、この
それ以上でも以下でもないからだ。
しかも、いくら不穏とはいえ“迷惑行為”止まりである。
どこまでの範疇なのかはわからないが、この様な頭の狂った文章を書く輩のすることなど、たかが知れているはず。
ナンパをするとか、イジメをするとか、そのくらいだろう。
よくわからないけど、多分絶対そう。
と、そこまでジルクニフが若干混乱しながら考えていると。
「────────ッ!?」
唐突に、頭の中で点と線がつながった。
意味不明な犯行。
意味不明な文章。
意味不明な状況。
もしや、最近毎日毎日毎日毎日うんざりするくらい聞かされている、謎の少数失踪事件の犯人は、この激辛ちくわぶなる人物なのではないか?
何故かは分からないが、ジルクニフのカンが強くそう訴えかけてきている。
確たる証拠はない。
が、状況証拠としては、これ以上無いものに思えた。
だとすると、意味不明な犯行も、“迷惑行為”と捉えれば納得がいく。
なにがしたいのか、動機までは不明だが。超常的な力を使って、帝国に地味かつ絶妙に放置できない嫌がらせをしたいことだけは理解できた。
これでもかってほど、いやらしいくらい理解できた。
ここ最近ジルクニフの個人的嫌いなやつランキングをものすごい勢いで駆け上がってきていた、謎の失踪事件の犯人が特定出来たことで、ジルクニフは蒙が開けた気分であった。
だが。
「──クッ!!」
怒りのままに執務室の机に拳を叩きつける。
鈍い音が鳴り、近衛兵が身をすくませた。
そう、だが、だ。
犯人が特定出来た。それだけである。
しかも、半ば自首という形で。
帝国や自らの手腕によるものでは、ない。
その上、名前以外は何も分かっていない。
まるで犯人の手のひらの上で強制的に踊らされている気分であった。
「何者なのだ……“激辛ちくわぶ”……!!」
ジルクニフは強く歯ぎしりし、手のひらを握りしめると、まだ見ぬ国賊に怒りを抱いた。
主に、妙に苛立たせてくる私怨から。
──一方その頃クズ二人。
「ご主人サマに頼まれたから代筆したけどさー、なんであんなトンチキな文章シュートしたの?」
ヒマつぶし。
少年はそう一言だけ応えた。
何故か手を組み、謎のキメアングルで。
ちなみに、少年が“この世界”でハンドルネームを名乗ったのは、ここが初めてである。
何者なんだ。
激辛ちくわぶ。
◆
ある日の帝国領内。
クズ二人は、趣味を実行すべく、別行動を取っていた。
ウーマンは路地裏で虐殺に。
マンは酒場でエサ狩りに。
少年がどんぶらこどんぶらこと、適当にナンパすべき
金髪ぱっつんでゆったりしたローブを着ており、いかにも薄幸そうな雰囲気をまとっている。
いけないなァお嬢さん、未成年がこんな酒場に居ては。少年はそう思ったが。
“どっちかって言うと本来酒場にいるべきじゃないのはお前だろ”と総ツッコミを受けそうな容姿をしているのは、少年の方であった。
しかもいつも同伴している保護者(に見える)は今は居ないので、なおのこと。
そんな事は今は忘れて、ナンパを開始することにした。
あわよくばお持ち帰りする気100%の悪質ナンパである。
ヘイお嬢さん、そんな暗い顔してどうしたの?
幼稚園児が考えたようなクソほど安っぽいセリフを投げかけると、薄幸そうな少女は少年の方を向いた。
「何? 私に何かよ────────ひっ」
すると、少女は目をひん剥いてドン引きするではないか。
そこまでダメなセリフだっただろうか。少年がそう内心傷ついていると。
「ば、ばけ、ばけもっ、化け物ッ、はひ、ひ、お、おげえええ!!」
吐かれた。
まさかゲロを吐くほど嫌がられるとは。
確かに少年はリアルでは童貞で通しており、“こっちの世界”に来てから初めてナンパを開始したような、ニュービー淫魔だが、今まで種族特性からか、女性へのナンパは失敗した試しがなかった。
だのに、これである。
ゲロ吐きたい気分なのはこっちである。少年はそう悲しんだ。
とはいえ、酒場で嘔吐した女性を放置しておくのも見目が悪い。
周りの客もなんだなんだという目でこちらを見ている。
このままでは少年はゲロ吐かせマンとして名が売れてしまうだろう。
それを危惧してか、少年は慌てて少女の介抱を始めたが。
「おええええ!!」
近寄れば近寄るほど吐かれる始末である。
もう吐き出すものもないのにずっと嗚咽を漏らしている。
何がそんなに嫌だったのか、もしかして淫魔アレルギーだろうか。
そこまで考え、少年は一つの推論にたどり着いた。
──さっき化け物と言われたけど、もしかして本性を見破られた?
もしそうだったらいけない、とてもいけない。
迫害一直線である。
もしそうなったら、帝国にすら居られなくなる。
そのことを危惧した少年は、超大慌てで、一応周囲の客に訝しまれるといけないので、人知に収まる速度で、急いで少女を路地裏ロケーションに拉致した。
周りはなんだったんだ、と話し込んでいるが、尋常ではない様子だったので、病院にでも担ぎ込みに言ったのだろうと自己完結していた。
「はァ……、ったく、無理筋な話ばっかり通してこようとしやがって、完全に無駄足だったな」
「そうね……。あれ、アルシェは?」
「なんでしょう、この吐瀉物は」
「ああ、フォーサイトか。あんたらのメンバーの嬢ちゃんなら、急に吐き気を催して担ぎ込まれたよ」
「え?」
帰ってきたチームメンバーとは、ニアピンで遭遇出来なかった。
◆
少年はアイテムインベントリからありったけの売り物アイテムを使い、目眩まし(ガチ勢基準)をすると、路地裏で尋問という名の拷問を開始した。
「おげっ……、おええ、こ、ごろざないで……」
正直に言ってくれれば殺さない。少年はそう応えた。
いくら人間の女性をエサとして大事に扱っている淫魔でも、流石に正体を看破されたら、場合によっては口封じも辞さないようだ。
珍しく少年から微かに殺気が漏れている。
まずは、何故自分のことを化け物と言ったかを尋ねた。
「だ、だ、て、まほ、魔法、魔法、位階」
要領を得ない。
魔法、位階。位階魔法のことだろう。
今度は位階魔法がどうしたというのだろうかと尋ねた。
「い、いかい、わから、わからな、わかる、わからな……」
わかるのかわからないのか、どっちなんだい。
「わかる、のに、わからな……」
わかーーーーーーらない!
意味がわからないのは少年もまた同じである。
もう埒が明かないので、
「じゅ、じゅじゅじゅじゅ、じゅうっ、じゅう、じゅう位階……じゅっ、!? おげえええええ!?」
また吐かれた。
そして、
もしかして、使える魔法の位階がわかるのだろうか。
少年はそう当たりを付けて尋ねた。
「そ、そう、ぞう、でず、わか、わかり、まず、おげっ」
なんと。
それは確かに吐く、と少年は思った。
何故なら、本人曰く“ロマン”と称して、使う機会のない超位魔法を一個だけ覚えているのである。
それが彼女のなんらかのセンサーに抵触したのなら、現地人のレベルでは化け物に見えることであろう。
殺すか? と逡巡したが、淫魔の本能が“ん~あのね、女の子があまりにも不幸過ぎる話じゃ、顔とか関係なく抜けないのよね”と訴えるので、
「おけ゜っ──」
せっかくだからクレマンティーヌのように、いいように記憶をイジって常時連れ歩き型の携帯食にするか?
とも考えたが、良く考えなくても、近くに置けば常にゲロゲロ吐き続けて、どうしようもなくなることだろう。
なので、この短時間に起こったことをさっくりと改竄し、少年は逃げ出すようにその場を後にした。
「────はっ!?」
残された彼女は
「ただいま……」
「おっ、戻ってきたかアルシェ。聞いたぞ、吐いたんだって? 大丈夫か?」
「飲みすぎ、だったみたい。親切な人に酔い覚ましの薬を処方されて、もう大丈夫」
「ふーん、物好きでお節介なやつもいたもんね。名前は?」
「……そういえば、聞いていない」
「なにそれ。キザっぽい」
「お節介焼きでキザとは、まるでどこかのリーダーのようですね」
「よせやい」
酒場には、“フォーサイト”メンバーの笑い声が高らかに響いていた。
◆
「あ~♪ 今日も楽しんだ楽しんだ♪」
集合場所にクレマンティーヌが帰ってきた。
少年は大慌てでクレマンティーヌに駆け寄る。
「およ、どしたんどしたん」
なんだかんだで常に泰然自若としている少年が慌てることは珍しい。
とはいえレベル100プレイヤーなので、滅多なことではないだろう。
またなにかミスをやらかしたのか、とクレマンティーヌが思っていると、少年は急いで指輪を手渡した。
「なにこれ、新しい指輪?」
魔力を封じる効果がある指輪である。
緊急時以外は常に装着していて欲しい、と少年は説明した。
「……なんで?」
少年は先ほど起こったことを説明した。
酒場でナンパしようとしたら唐突に吐かれたこと。
尋問をしたら、魔法の位階が分かる人物だったこと。
他にも居るとマズいので、隠蔽しようということ。
「あ~、そりゃ、そういう【
少年は【
いつその人とエンカウントするかもわからないのだ。
「なるほろね。おけ把握した。それにしても、ナンパしたらゲロ吐かれるって……、ウケるんですけど! や~い、ご主人サマのゲロ吐かせマ~ン!」
結局、ゲロ吐かせマンの汚名は被ることになる少年なのだった。
◆
ところで、少年は【
だからこそ、今回こういう事態を生んだとも言える。
未知のものにはどうしても無警戒になってしまうのだ。
そこんところを、詳しい人に聞かなければならなかった。
困ったときのクレマンティーヌの知恵袋である。
「えっ、今更?」
確かに“こちらの世界”に転移して暫く経つので、今更と言えば今更である。
しかし、今まで少年は【
ましてや、自分は持っていないものなのだ。
情報収集を怠るのも無理からぬことと言えた。
それでなくとも、ただでさえ楽観的かつ短絡的な性格をしているのだ。
なにかが起こってからでなくては、知ろうともしない気質なのであった。
「まぁいいけど。えーと【
要するに、平たく言えばあれよ。個人個人が生まれ持ってる才能よ」
スキルのように選択できるものなのだろうか。少年はそう質問した。
「や、無理。選べるもんじゃないから、自分の求めてる能力と噛み合わなかったりとかするんよ」
なんとも博打要素の多そうな能力である。
悪く言えば産まれガチャではないか。
そんなのが全世界の人間が持ってたら大変だと少年は思った。
「え? あぁ、【
なんとも格差が産まれそうな話である。
「実際格差はあるっしょ。あたしがズーラーノーンに居た時拉致る予定だった奴が確か、“ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能”とかいう頭おかしい性能してたし」
なるほど、それはたしかに頭がおかしい。
字面通りに受け取るなら、“本人以外装備できない”という風に作成したアイテム・装備でさえ、そいつは使えることになってしまうからだ。
【YGGDRASILL】にそんなスキルを持っているやつが居たら、即座に晒され引退まで追い込まれることであろう。
それくらい、ヤバい。
少年もそれくらいヤバい能力に目覚めたら良いのに、そう思ったが。
「いや、先天的なものだから、後からは無理だよ」
がーんだな、出鼻がくじかれた。
少年が【
それは諦めるしかないとしてだ。
とにかく、見知らぬ【
そう意識を再認識するクズ二人なのであった。
◆
所変わって、
「ひっさびさに来たけど、なんだ、治安いいじゃん」
かつて腐りに腐りきっていた王都とは違い、輩の類いは往来しておらず、正常な都市運営が行われていると言えた。
もともと城塞都市であったことや、都市長の手腕がこれでもかと唸ったことなどが関係しているが、クズ二人には知らぬこと。
軍の要衝であり、民兵が多いことも幸いしたのだろう。逆に貴族が幅を利かせていたことが治安悪化の原因になっていた王都と違い、自治が上手く行っているようであった。
とはいえ、そんな都市も国が負けてしまえば今は帝国領土。
ちらほらと帝国兵が巡回しているのが見受けられる。
住民は、いくらかそれを不安がっているようだった。
「はァ……」
ここにも一人、不安を抱えているのか、金髪の男が道端で建物により掛かり、腕組みをしながら重苦しいため息をついていた。
いかにも私は困っていますという面持ちである。
男は特に気にもとめずぶらぶらしていたクズ二人、主にクレマンティーヌを見るやいなや、破顔して声をかけてきた。
「そこの美人のお姉さん! 俺と──ア、イヤ、ナンデモナイデス」
「よし」
ただのナンパであった。
が、“うざいなら殺す”という微量に漏れた殺気を感じ取ったのか、もしくは何かこう奇妙な縁的なものをどこかの電波から受信したのか、すぐさまナンパの手を引いたようだ。
その際に少年が見たのは、男の胸元で光る銀色のプレートであった。
良く考えたら冒険者というのは全然関わってこなかったな、少年はそう思った。
元から興味のない業種だったのもあるが、善とは正反対の行いをしてきたクズ二人である。
むしろ冒険者を殺害してきた数のほうが多いだろう。
そんな事もあり、今更ながら興味を持ったのか、ナンパ男に逆に声掛けすることにしたようだ。
「ん、俺かい? 俺は……、……まぁ、今更名乗ってもしょうがねえんだよなぁ……。チームの名前を売ろうったってなぁ……」
何やら事情がありそうだった。
さっきから沈んだり浮かんだり沈んだり、感情表現が豊かなナンパ男である。
人の不幸は蜜の味であるクズ二人は、さらに詳しい話を聞くことにした。
「いやな、王都の治安が悪化して、冒険者の仕事が一気に増えたまではよかった、いやよかないんだが、よかったんだ。もともとモンスターを狩るのが俺達の仕事だからな。王国兵が治安維持に奔走しなきゃならない分、こっちにお鉢が回って来たからさぁ、その分稼げるやら、名声が上がるやらで、稼ぎどきではあったんだよ」
「んじゃ、どーして今は暇そうにしてんのさ」
クレマンティーヌは基本的に少年が興味を持った相手には首を突っ込んでくれる。
会話が潤滑に回るようになるので、ありがたいと少年はそう思った。
「戦争に負けてからというもの、そのモンスター狩りを帝国軍が一任するようになっちまってねえ……」
「あー」
自国の治安は自国で守る。
冒険者に頼らない帝国の為政が、しわ寄せとして回ってきたのであろう。
リアルで言う、歴史の教科書に乗っていた“バブルが弾けた”というやつかな。少年はそう回顧していた。
乗りに乗っていた所に、急に冷水をかけられたのだ。
その落差に参ってしまうのも無理からぬことであった。
「しかも、その……、チームのメンバーの中で、身内に不幸があって……なぁ」
「ふーん、何があったん?」
「………………、いや、すまん。詳細までは控えさせてくれ。自分で振っといてなんだが」
「いいけどさ」
それは辛かろう。
少年も【YGGDRASILL】のフレンドが、身内が亡くなったとかでインしなくなった経験を持っている。
あのクソリアルでは珍しくもないことだったが、当事者にとって辛いものは辛いのだ。
そしてそれは、当事者にしかわからない痛みがあるのだろう。
下手に触れられたないだろうと思って、少年の方から話の流れを変えることにした。
「今? 今は……、数少ない雑用の仕事を、冒険者同士で奪い合いさ。それこそ万年
「大変ねえ」
「大変だよぉ。憐れむなら愛を……イヤ、ナンデモナイデス」
こうして努めて明るい雰囲気を作ろうとするナンパ男は、穿った意味ではなくいい性格をしているのだろう。
事実、語り口もどこか軽妙であるところを見るに、チームと言っていたメンバー内のムードメーカー役なのだなと理解させられるものがあった。
そこに、件のチームメンバーであろう男から声がかかった。
金髪を短く刈り揃えた、精悍な顔つきの男である。
「……またナンパか?」
「世間話の最中だっつーの。俺が女性と話してるのを全部ナンパにするなよな」
「そ、そうか、悪い」
やはりナンパ男は普段からナンパ常習犯であるようだった。
淫魔として見習わなければ。少年はそうお門違いの感想を抱いていた。
「で、どうだ」
「ダメだった」
「そうか……、ま、なんとなくわかってたさ、そう項垂れるなよ」
「あぁ……」
先程言っていた、仕事の奪い合いだろうか。
それに負けたのだろう、短髪の男は沈痛そうな面持ちでいた。
「……本格的に、ワーカーになるしかないのかな」
「野良モンスターを自主的に狩ろうったって、見つかりゃしねえしなぁ……」
「……どうすればいいのかな」
周囲に暗い雰囲気が流れる。
それをクレマンティーヌは白けた目で見ていた。
本格的に興味を失ってきた頃合いなのであろう。
白い目で見られている事に気付いた短髪の男が、慌てて謝罪した。
「あ、す、すいません、身内の恥を晒してしまい」
「別にいーけどさ」
「その冷たい態度もまた……イヤ、ナンデモナイデス」
そういってそそくさと二人は離れていった。
以前帝国領内で会ったワーカーの男は朗らかな態度を崩していなかったが、冒険者の方はこのような有様なのかと、少年はそう思った。
まあ、どちらもなる気はないから割とどうでもいいのだが。
「そういや、あっちは?」
「まだ宿屋で伏せってる。ダインが診てくれてるけど……」
「そっちもどうしたもんかなぁ……」
去り際に、そんな会話が聞こえた気がした。
クレマンティーヌはああいう悲劇が好きなのではないか、そう思って尋ねてみたが。
「調子ぶっこいてる、自分を実力者だと勘違いしてるヤツを殺すのが楽しいんであって、ああいうしおしおになった奴らを殺ってもねぇ」
と、趣向の話が帰ってきた。
であるならば、今はもうこの街に“お楽しみ”の対象はそこまで居ないのかも知れない。
獲物漁りに元王国領内まで帰ってきたクズ二人であったが、無駄足だったと踵を返す事になった。
だんだんとクレマンティーヌを愛でることがメインから外れてきているような……。
い、いかん……。