5階建、冒険者ギルドをテナントに入れた飲食宿泊複合施設
1F、ギルド、酒場(大衆向け)
2F、カフェラウンジ、宿泊エントランス(ちょっぴり高級)
3-4F、宿泊には広めの10部屋ツインまたはダブル
5F、ロイヤルスウィート2部屋(VIP)
A.D.1855
本日の宿泊客は7人組、皆さん冒険者の様だ。
---お部屋はツインとダブルがございますが、どうなさいますか?---
「こちらは男女で4:3だ、ツインで3部屋、ダブル1部屋たのむ」
---承知致しました、ようこそホテル・ローレルへ。私支配人のMr.パンプキンと申します。スタッフ一同歓迎いたします、ごゆっくりお寛ぎくださいませ---
世界には未だ謎がたくさん残っている。彼ら冒険者も未知なる好奇心と栄光、財宝求めて蒸気船に乗り、東の大陸へ向かうのだろう。年齢も種族もバラバラだが望む景色は同じと信じて生きているのだと、ホテルのエントランスから去っていく後ろ姿を見てなんとなく思った。兎にも角にも願わくば、短くとも良い思い出としてもらえる様にしっかりと働かなくては、そう頭を切り替える。
「そうだぞ、休まず働け?管理職たる支配人に安らぎは風呂とベッドの中だけと相場は決まっている。働き方改革などない、食べ放題のビュッフェと同じく働かせ放題だ」
---む!でたな魔女め、目敏く小言を耳元で言うのはやめろ。やる事はしっかりとやっているだろう。もっと労いの言葉でもその口から出したらどうだ---
「おやおや、雇い主に対して礼儀がなっていないな。路頭に迷っていたオマエを救ってやった恩人に言う言葉じゃないぞ?だが、構わん。私は慈悲深い女だからな(どこがだ!)」
この傲岸不遜でムダに態度がデカい女はデネブと呼ばれる魔女だ。皆にはMs.デネブの愛称で呼ばれ、至る所にカボチャを模した置物やマークをつけている奴。そして先の会話でわかる通り俺の恩人であり、何の間違いかこのホテルのオーナーである。
コイツめ!態度ばかりデカくて好き勝手に呑み食いしてラウンジを汚しやがって。少しはその胸と同じく慎ましく生きれないのか。
「オマエ、いま思ってもいけない事を考えたな。残念だ、未だに教育が必要とはな」
ヤバイ、そう思った時は大抵すでに手遅れである。べッ、別に人並みにはあるんだから良いじゃないか!と言ったところで前回も許してもらえなかった過去を省みるに、ムダに読心術を修めている魔女からどう逃げるか思考を巡らしたと同時に救いの神が舞い降りた。
「喋ってるところに悪いんだけど、オレたちもカフェラウンジ使えるのか教えてくれないか?」
先ほどの冒険者たちだった。いつの世も悪しき魔女に立ち向かえるのは勇者のみと言う事だろう。構わん、サービスしてやる。
---勿論です、よければ席までご案内しましょう。オーナー、申し訳ないがこれで失礼しますね---
「おい、待て.....」
オレは過去を振り返らない男。よって魔女を無視して冒険者を誘導し始めた。冒険者たちはよかったのだろうか?とヒソヒソ話しを後ろでしていたが、これで良いのだと自己暗示して現実逃避。
当ホテル自慢のオーシャンビュー席に誘導しながら今一度彼らの姿を目に収める。小人♂の侍と忍者、同じく小人♀の神官と学者にネコ耳の女騎士、エルフ♂のイケメン詩人(得物は弓か)、そして獣人♂のモンクか。このモンクかなり身体がデカいな…しかも1人だけ年齢がかなり上とみた。若手を導くトレーナーでも担っているのだろうか?
「何か気になる事でもあるのか?」
おっと、不躾な視線に思われたかな。俺は侍に訂正をして疑問に思ったことを尋ねてみる事にした。
---皆さん全体的に御若いので、モンクさんに教導されているのかと思いまして---
「あぁ、それは違いますよ。私もひとりの冒険者としてこのパーティを組んでいるんです」
年齢を感じさせるほど大人な対応でモンクが答えた。
「私は若い頃にも冒険者をしていましたが、時が経ちパーティ解散後は引退して酒場を営んでいたのです。ですが、ここにいる皆んなの姿にかつての冒険者の夢を重ね、そして熱く誘ってもらったので恥ずかしながらこの年齢で復帰しました。今は錆落とししている最中のようなもの。私の実力は仲間たちとそう差はないでしょう。だからこそ1冒険者としてパーティの仲間になれたと思っているのです」
俺はモンクの話しを聴いて自分を恥じた。
---失礼を致しました、貴方たちを色眼鏡で見てしまった。本日の食事代は私が持ちますので、どうか気を悪くされないで欲しい---
「いやいや!そんな事を今更気になどしていたら冒険できはしません。ですが、食事の事は遠慮なく頂きますよ!!身体が資本ですから」
---もちろんです。もし良かったらご一緒しても?皆さんのお話しを聞かせてくださいませ---
そう言って俺はラウンジの向こうから未だに睨んでいる魔女から逃げる術を得たのだった。
---では、侍さんと忍者さんは東大陸のご出身で塔の経験者なのですね---
「そうなんだよ。でも経験者って言っても1層の魔物を狩るのにも一苦労で、野良パーティに参加してる様じゃ先がないなって思ってね。それでパーティ集め兼ねて世界を回ろうと西大陸まで来たわけさ。お陰様で信頼できる仲間が集めれて、いよいよリベンジなんだ!」
パーティリーダーの侍がビールを呑みながら今迄の苦労話を聴かせてくれた。他のメンバーも頷きながら思い思いに語っている。というか、さっきから酒を樽で飲み干してるモンクよ...オマエ仮にも僧じゃないんか?なに当たり前に酒呑んでんねん。一時期の引退後も酒場の店主してたというし、もしや破戒僧では??
---ところでこのパーティは物理職に偏っているのですね。神官と学者のヒーラー2枠といってもやはり魔法職がいないのはバランスが偏るのでは?---
「問題ない、魔法が必要な時は俺が魔術師になる。」
そう答えたのは忍者だった。
---忍術で対応するという事ですか?火遁水遁といえども....---
「違う、ジョブチェンジして魔術師になる。これがホントの変わり身の術」
ドヤ顔で言った忍者の言葉を最後に、宴はお開きとなった。彼は伊達男の様だったと日記に記しておく。
翌日、チェックアウトした彼らは東大陸行きの蒸気船で旅立った。
たまには手紙のやり取りでもしようと約束して別れを告げた朝、俺はカフェラウンジから港を眺める。
東の大陸、中央平原に聳える巨大な塔。周囲は塔のもたらす利権によって諸国の紛争が絶えない地域。その近くに出来た冒険者キャンプ、いまでは冒険者街となった場所に先ずは向かうと言っていた。世界に残る最後のダンジョンに挑む彼らの武運を今はただ祈ろう。
登場人物
Mr.パンプキン:主人公。本名は不明。外見は男30半ば、カボチャマークのネクタイピンを着けている。Ms.デネブとお揃いのカボチャの被り物を装備して偶に人助けをしている。その被り物とネクタイピンから呼び名が定着。
ギルドの2階から上で営んでいるホテルとカフェラウンジの支配人。気づいたら湾岸都市に居て、いつのまにか雇われ支配人をさせられる。湾岸都市以前の記憶はない。20年以上支配人をしている。
Ms.デネブ:魔女。年齢不詳、おいしいかぼちゃ色のツヤのある緑髪ストレートロング、外見は若い女性。傲岸不遜、自堕落、でも実は面倒見が良い。偶に1人で海に臨むカフェの定位置で黄昏てる。昔は冒険者だったらしい。かぼちゃが好き。
ロイヤルスウィート1号室に住んでいる、主人公にホテル・ローレルを運営させている張本人兼オーナー。