セカイを貫く塔-ラセン-   作:でねでね

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3話 私のものになって

A.D.1857

 

---いらっしゃいませ。ホテル・ローレルへようこそ!本日はご宿泊ですか、それともディナーに?---

青年たちというには若くなく、だけれども確かな絆を感じさせるように仲睦まじく手を繋いだ男女が来館した。

 

「支配人さん、僕たち婚約式をしたいんです」

 

---婚約式....結婚でございますか?---

「ああ、いえ。ちょっと違うんです。僕たちはもう結婚はしているのですが、妻とは親族だけで食事をした位なもので。本当は2人で友人を招いて婚約式を開きたかったのですが、僕も妻も田舎から出稼ぎにきた身でして....。お互い工場で働いてはいるものの、当時はそう余裕のある生活がおくれている訳ではなかったんです」

 

「ですが、夫とふたりで少しずつお金を貯めてきたんです。私たち、ここの海に望むカフェラウンジに友人を招待して婚約式をする事に憧れてたんです!身にそぐわない願いと笑われるかもしれませんが、どうか私たちの依頼を受けていただけませんか?」

 

このホテルは1階のギルド区画とは違って、普通に働いている者たちの収入では利用し辛い価格帯ではあった。そういった事情から2人の来館者は期待と不安がブレンドされた視線をむけてきた。

---なるほど、それは素敵な夢を叶えないといけませんね。この当ホテルの支配人Mr.パンプキンにお任せください---

 

「あぁ、なんてこと。ありがとうございます!」

---さっそく日取りを決めましょうか。まさか今からという訳ではないのでしょう?---

 

「ええ、もちろんです。妻とは友人たちへの招待状にメッセージを書く所から考えてきたのです!」

婚約式は来週の日曜日、15時から。お昼とディナーの時間帯は確保できるほど予算に余裕はなくて。でも大切な妻の希望であった、沈む夕陽を式のフィナーレに飾る事が出来るから。

 

ブーケトスはしたいね。友人の人数は?招待状にはなんて書こう。2人の婚約式までの1週間はあっという間に過ぎ去っていく。

 

なんてことはなく、式のプランナーとして要望に応えるため奔走するカボチャ頭が日夜街中で散見されていた。

---ということで、ブーケに四つ葉のクローバーを包みたいって頼まれてさ。魔法で四つ葉のクローバー出せないか?---

 

「なにがということで、だ。まるでわからんぞ、そんなもの出せる魔法なんてあるか。街の南部にある植物園でも、牧場でも駆け回ってこい」

 

---それはもちろん探し回ったさ。植物園でも聴き込みしたんだが、絵本の中だけですよって言われてしまったよ。魔法ならいけると思ったんだけどなぁ---

幸福を呼ぶ四つ葉のクローバー。式を控えた2人に頼まれて、ふわっと二つ返事したのが運の尽き。街中を駆け巡ること数日、このままではどうにもならん仕方無し。と頼みの綱の魔女に尋ねてみたがコレである。

 

おまえ私を便利ロボットかナニかだと思ってるのか、と冷たい視線を感じるが無視して話を続ける。

---そしたら、ちょっと一緒に牧場の牧草地を探すの手伝ってくれないか?おまえに補助魔法かけてもらって2人で人海戦術するしかない---

 

「なんで私がそんなことを。1人でやれ、ひとりで」

---このホテルのオーナーだろ、頼む!もうおまえしか頼れないんだ---

「.......しかたない。帰ったらワインとツマミにマッサージのフルコースだ」

むむむ、そんな表情で魔女はカボチャを被り席を立った。

 

---なんだ、ちゃっかり準備してるじゃないか---

「うるさい、さっさといくぞ」

 

カフェラウンジのキャスト達から『いってらしゃいませMs.デネブ!』と元気よく声を掛けられ彼女は軽く手を上げ応えたのだった。

その日、朝から陽が沈むまで広大な牧草地を這いずり回る2つのカボチャの怪談が新たに生まれたらしい。

 

 

その日はまさに晴天だった、チャペルの鐘の代わり出航する旅客船の汽笛が潮風に乗って幸せの訪れを運ぶ。3回目の音が届く時、2人に向けてフラワーシャワーが彩っていき、ゲストの友人たちに紛れてカボチャ頭のペアが赤、白、ピンクの花吹雪に合わせてシャボン玉を巻き上げている。

 

『支配人さん、魔女さま、私たち幸せです。本当にありがとう』

 

2人の言葉が会場に響いた後アフターセレモニーのブーケトスが空を舞う、青葉の香りと共に辿り着いた先はワインを飲み干そうとしている1人の女性。周りのキャストや友人たちから黄色い声援に包まれた彼女は絶妙な表情をすると手に持っていたグラスを煽り、またカボチャを被って顔を隠してしまう。

 

---なんだ照れてるのか、いい歳して可愛らしいとこあるじゃないか---

そんな彼女の珍しいところを見て声をかけると、ただひと声「うるさい」とだけ返ってきた。必死に探し回ったクローバーは魔女の手に戻り、ひらひらと風に揺れている。

何を思ったのか魔女はその手にあるブーケを否応なく押し付けてきた、男の俺に比喩でもない花を持たされても困るのだけど・・・

 

カボチャに隠される前にチラっと見えた彼女の頬は夕陽のせいか、ホントに照れていたのか分からないままだったけども、これにて宴もたけなわ。祝福される2人の笑っている顔は、夕陽に輝く水面よりもキラキラしていた。

 

「まぁ支配人さん、魔女様にブーケをいただくなんて!!」

いけない、ブーケトスをした張本人に恥をかかせてしまってはならないぞ。そう思い必死に弁明を口に出しながら考えるがそんな器用なことは出来るわけもなく。

 

‐‐‐いやこれは、なんというか。あの魔女は気難しいところがあって・・・彼女もブーケを受け取れてきっと喜んでいたのです、そうこれは幸せのシェアというやつです!‐‐‐

苦し紛れのフォローにもなってない返答がでた。

 

「ふふッ知っていますか支配人さん、四つ葉のクローバーの花言葉を。約束とか幸福って皆さん言うけど、もう一つあるんですよ」

クスっと笑いながらふたりは俺に教えてくれた。

 

『私のものになって』

 

 

 

虫の知らせというものは何時だって急に感じるものである。朝目覚めた時、ランチを食べている時、飲み散らかされたワインボトルを片付けている時、どんな時でもだ。そんな確信を持って一日過ごしたが、その日は昼過ぎまで特に何も起きなかった。

 

支配人さんにお手紙ですよー。そんな声を掛けられてキャストのバニー娘から手渡されたのは夕刻になってから。いつだったか東の塔へ旅立った冒険者たちからの手紙だった。

懐かしいな。そんな気持ちになりつつも、そういえばこの手紙が届くまでやり取りの約束が履行されていなかった現実に目を逸らしつつ読み進めてみる。送り主はPTリーダーの侍か。

 

【冒険者の手紙】

≪よぉ支配人さん、元気にしてるかい。おれ達はいま東大陸の中央平原にある冒険者街を拠点にしている。前も言ったかもしれないが、塔に挑んだ駆け出しの頃は冒険者キャンプだったのに今では【街】なってるなんて驚きだよ。途轍もないダンジョンの目と鼻の先にあるんだぜ、びっくりだろ?≫

 

≪街っていうだけあって、冒険者用の品揃えや物流も盛んで商人たちが毎日のように蒸気機関車で行きかってるぐらいだ。ここのギルドで聞いたんだが、最近はなんでも飛行船?っていう気球みたいな感じで空飛ぶ蒸気船を塔から手に入る素材で作ろうとしているらしいぜ≫

 

≪そうそう、おれ達PTはいま1層の魔物を狩って稼いでいるぞ。塔の内部は一つの大都市かってほど広大で未知が詰まっていたよ。塔の魔物は野生のやつらより賢くて強いが、珍しい金属や高純度の魔石がごろごろドロップするんだ。まぁ金属は一部の魔物、体の半分が機械で作られている魔物たちが素材の正体なんだがね。今まで1層にはあまり見かけなかったレアものだそうだ。既に知っているかもしれないが、近ごろ塔の魔物が外に溢れだしたって話だけど懇意にしているベテラン連中が言うには、おそらくレアものが2層から降りて来始めて、1層にいた魔物たちが塔の外に追いやられているんだろうってのが見解さ≫

 

≪支配人さん、おれ達いま最高にワクワクしてるんだ。未だ見ぬ塔の2層への入り口があるんだよ。前人未到、ではないらしいけど(2層以上の階層に数十年前に冒険者PTが辿りついていたってギルドで聴いた)いまは失われているその足跡がどこかに確実にあるんだ。おれ達ならやれるって証明してやるぜ、そのうち支配人さんのいる西大陸まで吉報を届けてやるからな。期待して待っててくれよ!それじゃあ、また≫

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