毎晩同じ夢を見る
怒号と砲撃音が鳴り止まない海の真ん中で ひとりぼっちになる
僕を優しく抱きしめてくれた腕が 目の前で爆煙とともに吹き飛んでいく
僕を乗せてくれた大きな背中が 焼け焦げて塵になっていく
まるで悪から救ったかのように 自分が正義であるといわんばかりの差し伸べられた手
そんな地獄のような場所で何もできない自分の愚かさを感じる
そんな夢
相変わらず最悪の朝だ
「もっと力をつけないとな」
そうしてあの日を思い出しながら、日課であるトレーニングを始める
この鎮守府に来てから早一週間、第六駆逐隊のみんなや天龍、龍田先生以外にも話せる人が増えてきた
一番話すのはやはり案内でお世話になった電で、よくいっしょに昼ご飯を食べている
現在時刻はマルヨンサンマル トレーニングは腹筋や背筋、バランスボールなど様々なことをしている
ダメ元でトレーニング器具をくれないかと提督に頼んだら、快く了解してくれた
僕を住まわせてくれることといい心の広い人だ
一時間ほどで一通りのセットを終えてシャワーを浴びて汗を流し、朝食をとりに食堂へ向かう
食堂は海軍関係者なら誰でも無料で利用でき、有料サービスもあるらしい
噂では貸し切りビュッフェもできるとか
是非とも試してみたいものである
「あら、おはようございます船戸君 今日も早いですね」
この人は間宮さん 給糧艦という艦種の艦娘であり、戦闘能力を持たずご飯を作ることに特化した珍しい艦娘だ
もう一人伊良湖という同艦種の人がいて、間宮さんと一緒に鎮守府の皆のご飯を作ってくれている
「おはようございます間宮さん今日の朝食はなんですか?」
「今日は鮭の塩焼きとおにぎりとお味噌汁の和食セットとピザトーストとヨーグルトとスクランブルエッグの洋食セットの二つがありますよ」
「そしたら和食セットでお願いします」
「はい、ちょっと待っててくださいね」
そう言うと間宮さんはすごい早さで和食セットを完成させた
おそろしくはやい調理 僕でなきゃ見逃しちゃうね
といいたくなってしまうほど間宮さんの調理の腕はすさまじい
まるで分身でもいるかのように並列的に作業をこなしている
ここ一週間を過ごして一番驚いたのがこの提供の早さだ
横須賀鎮守府というかなり大きな鎮守府ということもあり、ピーク時はこの速度でないとパンクしてしまうのだろう
艦娘だからこそ実現可能な技である
「お待たせしました、和食セットです」
「ありがとうございます」
お盆を受け取り、席に着く
そうしてご飯を食べていると「おっはよー!相変わらず朝はっやーいのね!」
朝から元気な声で僕にはなしかけるこの女は島風である
速さに絶対の自信を持つ彼女は朝早く起きてしまう僕に興味があるらしい
僕が呼び捨てで呼べる唯一の存在である
「おはよう島風、島風も和食にしたんだね」
「もっちろん!間宮さんの握るおにぎりは絶品だもん」
「おいしいよねぇこのおにぎり僕メニューの中で一番好き」
「ねー!そういえば元君は今日なんかあるの?」
「僕はいつも通り授業受けてトレーニングかな、ほかにやることもないしね」
「そしたらさ、島風と一緒にかけっこしようよ!私についてこられるの元君くらいしかいないんだよー」
「いいよ、今日こそは捕まえてやるから覚悟しといてね」
「負けないよー!」
雑談をしながらご飯を食べること約五分
「ごちそーさまー」
さすが速さの擬人化ご飯を食べるのも爆速である
「じゃあまたあとでね!」
バビューンという効果音が聞こえそうな速さで島風は食堂を去って行った
僕もご飯を食べるのは割と速いほうなのだが、彼女にはかなわない
おいしい和食を食べ終わり現在マルロクイチゴー
授業はマルナナマルマルからなので、あと一時間ほど余裕がある
教室近くに図書室があるので、そちらに向かうとしよう
ー図書室ー
この図書室には小説や絵本ではなく、艦娘や艤装、深海棲艦についてまとめられた書物などが置いてある
僕はこの図書室の司書さんを務めている伊8ことはっちゃんに尋ねる
「おはようございますはっちゃんさん、今日もなにかいい本はありますかね」
「おはようございます船越君、昨日の授業はどこまで進んだんでしたっけ」
「昨日は艤装の種類ですね、たくさんの艤装があるのは知ってましたが、まさかあんな量の種類があるとは思いませんでした」
「艦娘ごとに扱う艤装が違う上、その中にもいろんな艤装がありますからね」
「艤装の種類も学んだなら、艦娘の改造やそれに対する深海棲艦の知識もそろそろ学ぶと思います。今回はそちらの本にしましょうか」
「毎回ありがとうございます、助かります」
伊8が選んで渡してくれた本は
艦娘の改造(大規模改装)について
深海棲艦の階級について
深海棲艦特殊個体一覧
の三つだ
それぞれ読むとするか
艦娘には改造(大規模改装)という機能があり、四つの種類がある
第一次改造、第二次改造、第三次改造、特殊改造だ
第一次改造は基礎能力の向上や装備することのできる艤装の枠「スロット」の解放等がある
基本的に全艦娘に適用することができ、条件は一定の経験値のみであると考えられる
第二次改造は基礎能力の大幅向上に加えて、スロットの増加や装備できる艤装の種類が増えたりする
こちらは第一次と違い実装できる者が限られており、かなりの高練度でないとできない代物だ
第三次改造は実用例が極端に少なく、現在確認されているのは駆逐艦である白露型二番艦 時雨と正規空母である飛龍型一番艦 飛龍の二人のみだ
条件は判明しておらず、本人たちの証言によると激戦の中で一度撃沈されてしまったが、なぜか生き返りその際に変化していたということ
彼女らは日本で最も深海棲艦との戦闘が多い激戦区の呉鎮守府所属でトップを張る、艦種を問わなければ艦娘最強と言われていた二人なので、限界を超えた練度を持ち命を散らしてでも戦った者たちに与えられる奇跡のような代物なのかもしれない
特殊改造は艦種自体が変化したり、艦種は変化せずとも扱える艤装がガラッと変わったりするものを指す
代表例は水上機母艦の千歳や千代田が軽空母になったり、正規空母である赤城や加賀が夜間でも航空攻撃を行えるようになるといった、かなり特殊なケースだ
また、駆逐艦の朝潮型一番艦朝潮は主砲や魚雷攻撃が得意な朝潮改二と対空攻撃や対潜攻撃が得意な朝潮改二丁という2種類の形態が存在する
この改二と改二丁、コンバートが可能なのである
要するに作戦ごとに得意な形態で臨めるということだ
コンバートする際多少の資源を必要とするが、それを差し置いても絶大な効果を持つ
これはさきほど例に挙げた赤城や加賀も例外ではない、しかしこちらは艦載機の搭載数が変わるというデメリットもあるため運用が非常に難しいのだ
これらの大規模改装は深海棲艦にも共通するものがある
深海棲艦のそれらは階級とされていて、下から順にnormal、elite、flagship、flagship改だ
また、深海棲艦には後期型というものが存在し、そちらも同じ階級がある
基本的には後期型のほうが戦闘能力が高い
これだけでも充分驚異たり得るが、これだけではない
艦娘に特殊改造があるように、深海棲艦にも特殊個体が存在する
それが鬼級と姫級だ
過去10年の中で最強と呼ばれている深海棲艦がいる
そいつは深海棲艦出現当初から存在し、圧倒的な武力、知力、統率力で人類に牙をむいた
日本での個体名は女王、海外ではAbyssと呼ばれている
討伐記録はなく、今もどこかで生きていると推測されている
女王は艦娘二百人からなる日本大連合艦隊をいともたやすく滅ぼした
その際は艦娘の物量による波状攻撃で対象とその部下を殲滅する作戦だったのだが、小破までしか追い込めなかったと記録に残っている
あいつが女王とはずいぶんと出世したものである
ほかにも単体で3つの海域を滅ぼした者や近づく漁船や客船だけを片っ端から撃沈する者など様々いるらしい
こう見るとかなり人間側の戦力は心許ない気もするが、あれらは気分屋なのが多いので人類滅亡なんてことにはならないだろう
きりがいいところまで資料を読み終えると、ちょうどいい時間になっていたので教室に向かうことにする
一分でも遅れようものなら龍田先生から薙刀が飛んできてしまう
こないだ従業員の方が天龍に失礼を働いてしまい、龍田先生によって首が飛ぶ(物理的に)寸前までいったという大事件があったので気をつけなければ