中庭に移動してきた僕と島風は、追いかけっこの前の準備運動をしてる
腕を前から上にあげて 大きく背伸びの運動♪
はい! 1、2、3、4、5、6…
最後に大きく深呼吸ぅー
( ˘ω˘ )スー…ハー…
「よしっ!これで準備完了だね」
「それじゃーいくよー!よーい...ドンッ!!!」
その合図を聞いて僕は本気で走り始める
制限時間は20分、場所はこの中庭の中のみ
この中庭は授業で使った室内演習場に比べて少々小さく、木や遊具などの障害物もあるため駆けっこにはちょうどいい場所なのだ
後ろから島風が追いかけてきているのがわかる
島風の最高速度は海上で40ノット以上、地上だと速力が落ちるようで大体30ノットくらいだろうか
時速に変換すると約55キロなので、車ぐらいの速さだ
僕は出せたとしても45キロが限界なので、島風の速さがいかにやばいかがよくわかる
ではなぜ僕が島風とのかけっこでいい勝負ができるのか
その秘密は障害物や体術を利用した避けの技術である
いくら直線状の動きが早かろうとも、急な方向転換や捕らえにくる手を避けてしまえば問題はない
かといってそもそもの速さが劣っているため距離を引き離すには工夫がいる
逆に行くと見せかけてフェイントを仕掛けたり、障害物で僕の姿を一瞬隠して島風の視界から外れたりと
もはや駆けっこのような何かになりつつあるがこれはこれでとても楽しいのだ
普段は先ほどのいったように逃げているのだが、今日は趣向を変えてみようと思う
せっかく授業であの体裁きを学んだのだ 試してみるとしよう
僕は後ろにいる島風のほうを向き、寸前で躱す
にやつきながら指をクイクイッとさせて島風を挑発する
いつもなら躱した後は逃げるのだが、今日は違う
すべて避けてみようじゃないか
「なんか今日の元君いつもと動き違う?」
「うん、今日授業で天龍先生と龍田先生の立ち合いを見せてもらってね。その時の動きを再現してみているんだ」
「堂々と避けられるのすっごいむかつくー!絶対捕まえてやるんだからー!!!」
島風の攻めが激しくなる
しかし僕には触れない
まるで踊っているかのように僕と島風は高速の攻めと回避を繰り返す
龍田先生の間合い管理、これは非常に便利だ
常に後出しじゃんけんをするイメージで相手との距離感を測り攻撃を回避することができる
島風はかなり素直な子なので、結構フェイントに引っかかる
その隙をじっくり観察するかのように僕は動かない
静止することによって次の動作を予測させずに、相手から動くことを強制させる
相手が動けばそれに対応できる動きを作ればいい
先手を譲るというのはなかなかリスクがあるが、今日は相手をよく見て避ける練習がしたいのでいいだろう
そんな攻防を繰り返していると
「そこまで!」
という声が聞こえたので僕と島風はかけっこを終える
声の主は提督だった
「随分と動きに磨きがかかったね島風君、これもいいライバルができた影響かね」
島風の頭をポンポンしながら提督は微笑む
まるで父親みたいだ
「船戸君もさすがだな。うちの島風は世界最速、彼女についていけるどころか逃げ切れるものなんて一人もおらんぞ」
「今日は逃げるというよりもひたすら避けてるだけでしたけどね」
「それでも充分すごいことだ。彼女は駆逐艦だから機動力も高い。そんな彼女の攻撃を避け続けるのは至難の業だと思うがね。天龍君や龍田君からいい学びを得ているようでなによりだ」
「あの二人が先生になってくれたおかげで僕も少しずつ成長できていると思います。もっと期待に応えられるように頑張りますね」
「うむうむ、頑張りたまえ。さぁ、二人ともたくさん動いて疲れただろう?甘味処に連れて行ってあげよう」
「やったー!提督大好きー!」
「ありがとうございます。僕もお言葉に甘えさせてもらいます」
そうして僕らは甘味処に向かうことになった
ー甘味処ー
「なんでも好きなものを頼みなさい、今日は私がおごってあげよう」
「おもちに羊羹かき氷ー♪くずきりあんみつ抹茶パフェー♪」
「ちゃんと食べきれる分だけ頼むんだぞ島風君」
「船戸君はなにがいいかね?」
「……」
「船戸君...?」
「あぁ、すいません。どれもおいしそうで悩んでいしまいまして」
「船戸君は甘いものは好「大好きです!!!!!」
「お、おぉ..食い気味だね...」
「僕は甘いものがこの世で一番好きです」
「島風もー!」
「そうかそうか、たんとたべなさい」
僕は超真剣にメニューを見てどれを食べるか悩んでいる
候補は三つ
・羊羹とわらび餅
・抹茶パフェとくずきり
・大学芋と黒糖饅頭
どれも悩ましい択である
島風と提督は決まったらしく、僕の注文が決まるまで待っててくれているようだ
「どうかね船戸君、食べたいものは決まったかね?」
「はい、お待たせしました」
「なら注文してしまおう。伊良湖君、注文頼むよ」
「はーい、ご注文承りますよ」
和風メイドのような恰好をしているこの艦娘は伊良湖という間宮さんとおなじ給糧艦で、この時間帯は甘味処を経営している
「私は羊羹を」
「あたし黒蜜かき氷と抹茶パフェー!」
「僕は大学芋と黒糖饅頭、あとわらび餅も願いします」
「はい、承りました。少々お待ちくださいね」
伊良湖は僕たちの注文を受けて厨房に戻っていく
頼んだものが来るまで何をしようかと思っていた時、ほかの客が甘味処に入ってきた
提督と同じ白い軍服を身に着け、艦娘を一人連れている
僕らの横を通り過ぎたと思ったら、驚いたように挨拶をしてきた
「お久ぶりです元帥殿、ご休憩ですかな?」
元帥殿...元帥殿!?!?!?!?
元帥ってたしか海軍で一番偉い人じゃなかったか!?
「おぉ、真澄大将。久しぶりだな、今はこの子たちに甘味をふるまっておるところよ」
「そうでしたか、島風と...失礼、そちらの男児は?」
「は、はじめまして真澄大将殿、僕は船戸元と申します」
「船戸...彼はあの船戸の息子ですか?」
「そうだ」
提督にその事実を確認すると、真澄大将はこちらに視線を向ける
先ほどまでの柔らかなものとは違い、圧のある視線だ
「そうですか。船戸君、君は君のお父さんが何をしたかわかってここにいるのかね」
「はい、認識しております」
「気にするなよ、君には何の責もない。他のものがどういおうが、それだけは確固たる事実だ」
「ありがとうございます」
「うむ、では私たちはこれで失礼いたします。」
「挨拶と助言ご苦労であった。ゆっくり甘味を楽しみなさい」
彼らは奥の席に向かっていった
てっきり責められるものと思っていたがどうやら勘違いだったらしい
提督と艦娘の対応の差が激しいのは何か理由がありそうだ
一緒にいた艦娘は父の件について把握していないのか、今までの会話を不思議そうに眺めていただけだった
島風は気にしていないのか、足をパタパタさせ鼻歌を歌っている
「というか提督って元帥だったんですね、知りませんでした」
「言っていなかったかね、私はある人の後を継いだだけだからな。自らの力でなったわけでもないのだよ」
継いだだけというがそれで元帥になれるなら苦労はしない
彼の実績が、部下からの信頼が、人となりが、それらすべての彼という存在そのものが、彼が元帥である理由だと思うけどな
「お待たせしましたー、ご注文のお品物です」
砂糖のコーティングによってキラキラ輝いている大学芋、黒糖のいい香りが漂う黒糖饅頭、そしてプルプルと揺れサラサラのきな粉が満遍なくかかっているわらび餅(黒蜜付き)が目の前に置かれる
こんな幸せな瞬間があってよいものだろうか
「「いたただきます」」
「いっただっきまーす」
各々頼んだものを口いっぱいに頬張る
おいしすぎて笑みが止まらなくなってしまう
「…の…た……が…」
提督が何か小さくぼやいていたがうまく聞き取れなかった
そんなことはどうでもよいのだ、今はこの至福に集中せねば
ーもぐもぐタイムー
いやー、めっちゃおいしかった
まさかあんなにおいしい食べ物がこの世にあるとは思わなんだ
とってもおいしい甘味を食べ終わり、僕ら三人は現在雑談中である
「そういえば提督、仕事とかないんですか?」
「うちは大和君と大淀君がかなり優秀でね、提督の主な仕事である書類整理は彼女らがすべてやってくれるのだよ。だからと言って何もしないわけではないぞ?私にしか許可できない申請などもあるからな。まぁそういう書類は数が少ないし、あとは艦隊編成やら演習や遠征の予定、出撃予定などを立てるだけで午前中に仕事はあらかた終わるのだよ」
「提督の仕事速度はっやーいもんね」
「なるほどですね」
そんな感じで話をしていると
激しい地響きとともに轟音が鳴り響く
基地全体がガタガタと揺れ
外からは大量の砲撃音が聞こえる
すると大和が甘味処に駆け込んできた
「提督っ!!緊急事態です!!」
「状況は?」
「現在深海棲艦による襲撃が発生、出撃準備中だった第二、第三艦隊と鎮守府に来訪中の艦娘たちが応戦に当たっています!非番のものにも召集をかけ、出撃準備中です!」
「わかった。敵の数と階級は?」
「そ、それが…敵の総数は計測中で、確認されているものだけでも2千はいます。またその中には大量のflagship級と数体の鬼級がおり、敵旗艦は姫級であると推測されます...」
「なるほど、各艦娘は適宜12隻の連合艦隊を結成、水上打撃部隊と空母機動部隊を優先。敵は数に加えて質も兼ね備えている。極力一人にならず複数の部隊で敵艦隊を撃滅しなさい。第一艦隊には緊急招集をかけ急ぎ戻れと伝えるんだ。」
「承知いたしました!伝達します!」
「真澄大将、君の力も貸してほしい。一部の艦娘の艦隊指揮をお願いできるか?」
「拝命いたしました、行くぞ北上」
「わかったよ提督」
「島風君は出撃準備を、船戸君は避難していてくれ」
「「承知しました」」
そうして各自行動を開始するー