返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録   作:自宅戦闘員

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セッション開始

 

 せっかく綺麗な桜が咲いているのに生憎と天気はよろしくない。

 桜の頃、空にかかる薄い曇を花曇りと呼ぶそうだ。

 美しく咲いた花を日差しから守るように雲は空を覆う。だから春の曇り空は優しいのだと、そう教えてくれたのは誰だったか。

 

「チカちゃん、部活どうすんの?」

「んおー?」

 

 返坂高校に入学してはや二週間。

 部活の仮入部期間に差し掛かり、放課後になると新一年生たちは各々目当ての部活動を見学している。

 俺は、幼馴染である水科葵《みずしな・あおい》と共に、適当な部活を見学しようと、てくてくと廊下を歩いていた。

 ちなみに普通に男です。久世友近《くぜ・ともちか》、だからチカちゃん。

 

「あー、一応料理部を覗いてみようかなぁって思ってる」

「サッカーはもうやらない感じ?」

「感じだなぁ」

「ならボクとフットサルやらない? ここのフットサル同好会、男女一緒なんだって」

「それもいいかもな。まあ、とりあえず今日は料理部かな」

 

 料理は趣味だから優先するが、サッカーも好きだ。

 中学時代はサッカー部だったが本格的に続けるつもりはないし、皆でわいわいフットサルは性に合っているかもしれない。

 

「んじゃボクも今日はそっちー」

「いいのか? ぶっちゃけ料理とかあんま興味ないだろ」

「そんなことないよ? チカちゃんの作る料理大好きだし」

 

 確かにそれも“料理が好き”だが、意味合いに多大なる隔たりがある。

 まあそんな細かいところを気にするような彼女ではなし。短いポニーテールを揺らしながらトントンとリズムを刻むように先へ進み、くるりと振り返れば無邪気に笑っている。

 

「ん、どかした?」

「いや、相変わらずちみっこいなーと思って」

「なにをー!? チカちゃんが無駄にでかくなりすぎなだけ!」

 

 176センチと142センチ。34センチ差、改めて考えれば結構でかい。

 葵は昔からアウトドア派で、スポーツやらレジャーなんかの方が好きないタイプだ。

 女の子同士でおままごとよりも、俺と一緒にサッカーやキャッチボールを日が暮れるまでしていた。

 そういう子だから性別関係なく仲良くなり、小学校中学校、高校も一緒と付き合いも随分長くなった。

 

 その長い付き合いの中、彼女の身長は中学一年生の頃からあんまり変わっていない。ついでにいうと胸の方もびっくりするくらい変わっていなかった

 もっとも、それが悪いという訳でもない。

 恥ずかしいし調子に乗るから絶対口にはしないが、幼馴染の贔屓目を抜きにしても葵は十分すぎるくらい可愛いと思う。

 

「栄養足りてないんじゃないか? もっと食べ……いや食べてるよな?」

「三食間食しっかりと。背が伸びないのも太んないのも体質なんだから仕方ないじゃん」

「あぁ、そういやその身長と胸でも腰はしっかりくびれてるもんなぁ」

「ふふん、まぁね。でもチカちゃん一応言っとくけどその素直さは美徳じゃないかんね? セクハラやめい」

 

 つまり端的に言えば、彼女は同年代に比べれば小柄で胸はまっ平らだが、俺にとっては大切な幼馴染だということ。

 同じく葵にとっても、このデリカシーのもない失礼極まりない馬鹿な男を、気の置けない相手だと認めてくれているということである。

 いつも通り、にぎやかに雑談をしながら家庭科室に向かう廊下を歩く。

 しかしその途中、立ち塞がる女子生徒を見つけた。おそらく、先輩だろうか。部活勧誘用のビラを持っている。

 制服の上から着ているエプロンには“おにぎりはおかず”とよく分からない主張が記されていた。

 

「……もしかして、料理部の、人?」

「違うわ。見ての通り、私はボードゲーム研究部の部長よ」

「いえ、見る限りただの変な人としか」

 

 声をかけたつもりではなかったが、呟きを拾われた。その上ツッコんでしまった。

 美人のお姉さんではあるが、なんかヤバそうな気がする。

 

「なんでエプロンなんですかー?」

 

 しまった、葵ちゃんが興味を持ってしまった。

 離脱の判断が遅かったか。

 

「男の子は家庭的な女の子が好きだから、エプロンを着たら部活勧誘もはかどるかなって」

「まず今のご時世そういうのは流行らないですし、ボードゲーム研究部ならなんのアピールにもなってないです」

「ふふ、面白い子ね。まあ部長とは名ばかり、私以外には副部長が一人いるだけ。だからこうやってちょっとでも興味を持ってくれる生徒がいないか探しているってわけ』

「あ、駄目だこの人メンタルつえーわ」

 

 褒め言葉じゃないのになんかスゲー勝ち誇った顔された。

 ナチュラルウェーブの大人っぽい美人さんだけに、悔しいけどすごく決まっていた。

 

「さて、改めまして。私は二年生の来栖まゆ」

 

 そう名乗った先輩女子は優雅に、舞台役者のようにゆったりとしたお辞儀をしてみせる。

 

「マジメな話、うちの学校は五人以下だと部活として認められないの。このままだと部室を取り上げられて同好会堕ちの危機。もし興味を持ったら見学に来てくれない? 興味なくても来てくれないお願いしますわりと切羽詰まってるんです」

 

 動作とは反対にめちゃくちゃ目が必死だった。

 葵がすっごい同情的になってしまい、くいくいと俺の制服の袖を引っ張る。

 あっ、やべ。既に逃げ道塞がれた感がある。

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 県立返坂高校ボードゲーム研究部は、ボードゲームで遊ぶためだけの部活である。

 研究部なんて名乗ってはいるが実際には研究なんて欠片もしてはいない。昔はちゃんと自作ボードゲームをイベントで頒布したり、明確な活動をしていたらしい。

でもメインで活動した方々が卒業し、部活動の最低規定人員である五名を下回ったことで部活動停止の危機に陥る。

 

「で、それがボードゲーム研究会に入った経緯だな」

「純粋に巻き込まれただけなんですね……」

 

 あれから二カ月。

 梅雨時の放課後を、俺は特別棟の3Fにある部室で過ごしていた。

 まだ部長も副部長も来ていない。部活仲間の同級生、能登乃々乃《のと・ののの》と雑談をしていたら、「何故この部に入ったの?」という流れになった。

 俺は来栖部長に誘われて入ったのだが、正直に言うとボードゲームにはあんまり興味がなかった。単に部長がかわいそうなんで名義貸し程度のキモチだった。

 

「でも皆でわいわい遊ぶのは楽しいし、案外性には合ってたと思うよ」

「それならよかった。ボードゲーム愛好家としては、楽しんでもらえてなによりです」

 

 乃々は満足そうに頷いて見せた。

 彼女とは学年もクラスも同じなので、比較的喋る機会が多い。幼馴染みの葵は別のクラスになってしまったのでかなり残念がっていたけども。

 改めて乃々を見る。使い古された例えではあるが、まるでお人形のようにきれいな女の子だ。髪が絹なら肌は白磁、そういう在り来たりな表現がぱっと浮かんでしまう程に、彼女は分かり易いくらいに美少女だった。あとおっぱい大きかった。

 が、実を言うとクラスではけっこう浮いている。

 美少女かつ成績優秀で、お家はけっこうなお金持ちだとも聞いた。ただ大人しく清楚な印象が先に来るのか、男子からは高嶺の花、女子からも気軽に誘いにくいらしい。

 

「全然大人しくないんだけどな。むしろパッション・テンション・ガール……」

「なにか言いましたか、久世くん」

 

 ちょっとピキられた。

 ごめんなさい、乃々ちゃんは魅力的な女の子です。

 

「乃々は、単に趣味だよな」

「はい。ボードゲームが好きなんですが、なかなか相手に恵まれず。高校に入学して研究部を見つけた時はこれぞ天啓と思ったくらいです」

「ボードゲームってまとまった人数と時間が必要だから、プレイするまでのハードル高いんだよなぁ。そういや乃々んちはめっちゃ厳しいんだっけ?」

「家族でボードゲームをしようなんて誘おうものなら、懇々と説教が始まります」

 

 能登家は結構な良家らしく、お父様が厳格タイプとのこと。

 一人娘の乃々を可愛がりつつも厳しく躾けており、色々と規制があるんだとか。

 

「バイトも外泊も男女交際も禁止とか、今時厳しすぎるよなぁ」

「バイトはともかく、外泊と男女交際は仕方ないのでは?」

 

 まあ乃々自身わりと清楚? 真面目? なので、大筋ではあんまり反対はしていない。ただ、趣味のボードゲームだけは楽しみたいと、部内で一番活動に積極的である。

 

「そういえば、今日は水科さんは?」

「ああ、葵ならフットサルの方に顔を出してから来るってさ」

 

 あの後、葵はフットサル同好会とボードゲーム研究部の兼部という形で落ち着いた。

 なので、一応五名人員確保で廃部を免れた。ただ、運動大好き葵ちゃんなのでどちらかといえばフットサルがメインかもしれない。

 

「そうなんですか、よかった。水科さんもいっしょに楽しもうと、私物のゲームを持ってきたんです」

 

 心底嬉しそうにゆったり息を吐く。

 だけど俺は、乃々の私物と聞いてちょっと身構えてしまった。

 

「それで、久世くんはいったい何をしてるんですか?」

「ああ、俺の今日の活動は“駄菓子やコンビニ菓子を組み合わせて、現代にコン○ルとかリ○ルグルメを復活させる”だから」

「もはやボードゲームと一切関係がありません」

 

 近くのコンビニで買ってきたお菓子を組み合わせている最中です。

 もともと料理部に入ろうと思ってたくらいには料理好きだしね。いや、これを料理に含めていいのかは分からんけども。

 

「いや、ボードゲームのお供としてお菓子やドリンクを研究するのは、むしろ活動内容に沿ってると言えなくないか?」

「それは、そう、かもしれません……?」

 

 よし、乃々ちゃんがいい具合に騙されてくれてる。

 ちょうどそのタイミングで来栖部長がやってきた。 

 

「あら、もうみんな集まってるの? ごめんね、遅くなっちゃって」

 

 咄嗟に俺は立ち上がり「お疲れ様です!」と頭を下げる。元々中学ではサッカー部、上級生には相応の態度をとる体育会系なのだ。

 

「うん、久世君は元気いいわねー」

 

 来栖部長は、俺達のおかげで部が存続できるとかなり強めの感謝を向けてくれている。

まあこの高校の場合同好会も結構多く、活動するだけなら問題ないのだが、どうせなら部として認められて部室や部費をもらえる方がいいに決まっている。

 

「あら、それは?」

「マシュマロのアレンジお菓子です。はい、あーん」

 

 俺が差し出すと、来栖部長は素直に口を開けてくれた。

 

「あーん。んっ、おいしい……ように見せかけてなんか妙な風味と歯触りが?」

「へへっ、どうですか。オレジナルメニュー“うめーチョコマシュ”。マシュマロと板チョコをレンジでチン、その後に砕いたカリカリ梅を加えて混ぜて冷ましました」

「吐き出すほど不味くはないけど、ほっぺ抑えて飛び上がるほどじゃないわねー」

「む、なかなか難しいっすね」

 

 外見こそ大人っぽい美人さんだが、部長はこれで案外ノリがいい。

 男の子のロマンを理解し、俺の悪戯にも怒らずちゃんと付き合ってくれる。というか本人が結構悪戯好きで、そういう意味では意外と馬が合ったりします。

 

「というか自然に、あー……女性にものを食べさせましたね久世君は」

「久世君久世君、今のは“あーん”って普通に言おうとしたけど途中で気付いてなんとなく恥ずかしくなって言い直した乃々乃ちゃんよ」

「事実無根です」

 

 その分、真面目な優等生タイプの乃々はよく弄られている。

 が、決して仲は悪くない。年上の余裕なのか、部長はけっこう大らか。後輩の多少の無礼は笑って受け入れるし、なによりなんだかんだ気遣いも忘れない人でもある為、乃々は乃々でちゃんと部長のことを慕っているのだ。

 

「あれ、副部長は?」と俺が聞けば、にやーっとした笑みが返ってくる。

「彼は生徒会の方で仕事があるから欠席。久世くんのハーレムね」

「俺のも事実無根ですよ」

 

 あと来栖部長ガチ勢の副部長の前では言わないでほしいです。

 ……あれ、あーんもマズかったか?

 

「ということで、今日は四人だけどさっそくボードゲームをしましょうか」

「では、今回は私が私物を持ってきました」

 

 しゅたり、と乃々が手をあげる。

 するとガサゴソ自分のカバンを探ると、堂々と俺達の前にそれを見せた。

 

「2016年、パンダちゃん工房製作。【淫魔の迷宮~エロトラップダンジョンTRPG】です」

 

 ………さて、ここまで来れば乃々乃ちゃんも結構アレであることは分かっていただけたことだろう。

 まず、能登乃々乃は明確に良家のお嬢様である。

 わりと伝統ある御家柄かつ企業社長の父を持つ、お金持ちの家の娘さん。

 で、なんと言いましょう。本人は親の教育のせいかおかげか、「男女交際なんてとんでもない」「結婚するまでは綺麗な体でいるべき」という、非常に清楚かつ慎ましい考えの持ち主でもある。

 加えてネットリテラシーの高さがあり、自撮り投稿で承認欲求を満たすという発想も持ち合わせていない。

 

 結果、真っ当な良識+本人の貞操観念+思春期らしい性に対する関心が合体事故を起こした結果、「信用のおける友人たちの前でのみ趣味を晒し、エロボードゲームに興じて欲求を満たす」という危険な女子学生が誕生してしまったのである。

 

 

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