返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録 作:自宅戦闘員
四回戦。
さすがに慣れたのか、古池副部長もカードの扱いがスムーズになってきた。
「2枚チェンジ、む……二回目の交換で、1枚チェンジだ」
小刻みな、ガバを少なくする交換の仕方。
しかも捨て札にはけっこう高得点のカードがある。【媚薬(3)】とか【双頭ディルド(5)】とか。
皆でわいわいエロ馬鹿話をするというゲームの設計思想とは裏腹に、俺達のバトルはいかに恥ずかしい性癖語りをせずにポイントを稼ぐか、になっている。
「……ごめんなさい、ガバりました。隠します」
最初に勝負を降りたのは乃々だった。
だがルール上、『隠す』をしても手札を公開する必要がある。
彼女の手札は……。
【バイブレーター(4)】、【媚薬ローション(5)】、【拘束具(5)】の3ペア。
硬直する男二人。
しかし復活するとすぐにまくしたてる。
「いっ、いいぞ、能登!? それは全然語らんでいい! なあ、久世よ!」
「もちろんっすよ古池副部長! こんなもん絶対語っちゃなんねーよ!?」
語られたら俺達のダメージがデカすぎる。
でも副部長がいなかったらこの子やってたよねって言う確信があります。
「じゃあ俺、行きますよ。【チアガール(2)】、【パンチラ(2)】。この2ペアは強いでしょ。炎天下、応援してくれる【チアガール】、高く上げた脚、アンスコを履き忘れたドジっ娘、まくれ上がるスカートから見える【パンチラ】……どうだ!」
「いいですよ、久世くん。いい具合にありそうな男の子の妄想で素敵です」
「ありがとう! でもなんか喜びづらい!」
あとまた俺の発言は謎のメモ帳に記録されました。
すごく怖い。なんのためにメモってるんだろう、あれ。
「では、俺の番だな。『開示』……!」
副部長の手札は【セーラー服(1)】、【ゆるふわウェーブ(1)】、【文庫本(1)】。
……おや? あのイラスト、肩までの長さでゆるいウェーブした髪。そこはかとなく、来栖部長に似ているような?
「放課後の教室で、穏やかにし【文庫本】を読む【セーラー服】姿のカノジョ。夕暮れの風が、【ゆるふわウェーブ】の髪を揺らして……。外見だけではないが、その、美しいと……」
どこか遠い目をする古池副部長。漏れため息には妙な熱が感じられた。
大丈夫?
これ本当に大丈夫?
実際に合った光景を想像してないですか?
「これはもう明らかに副部長の勝利でしょう」
「そ、そうか、うむ」
乃々も言葉に込められた熱を感じたのか、柔らかい笑みを浮かべた。
「しかし、意外と楽しめるものだな」
「副部長も、これを機に自分好みのボードゲームを探してみては? マフィアや極道の抗争をテーマにしたTRPG、惑星開拓ボードゲームなど、殿方が好む題材も多いですよ」
「極道の抗争、面白そうだな」
そこでエロボドゲを勧めることはしない、乃々はいい子である。
俺もいっしょになって普通のヤツを布教しておく。
「バランスゲームとか、陣取り合戦とかもありますぜ、副部長。色々試すと世界広がるかもしれません」
「かもな。……この短い時間でも世界は十分広がったからな」
それはそう。
真面目・体育会系マッチョ・生徒会勤めの副部長にエロボドゲは縁遠い世界でしょうて。
「では、これで五回戦。この一回で決着が付きます。準備はいいですか?」
乃々の声に俺達は表情を引き締める。
四回戦を終えて、俺の得点は合計6点。乃々が合計4点で、古池副部長が合計7点。
意外にもトップは副部長だった。
だが最低の2ペアでも2ポイント、射程圏内だ。乃々も高難度のカードを揃えれば逆転の目は十分にある。
配られたカードは、
【汗(1)】
【巨乳(2)】
【貧乳(2)】
【汗(1)】
【スポーツユニフォーム(2)】
【双頭ディルド(5)】
よし、既に【汗(1)】は揃っている。
「2枚チェンジだ」
捨てるのは【貧乳(2)】と【双頭ディルド(5)】。過度なポイントはいらない。
今求めるべきは勝ちやすさ、俺にとって語りやすい話題だ。
次に来たのは【巨乳(2)】と【眼鏡(1)】。これで、2ペア。
「これ以上の交換はいらない」
「いいんですか?」
「ああ」
ここで3ペアを目指しても難度が上がるだけ。【汗】と【巨乳】できっちり勝つ。
そうして全員の交換が終わり、決戦の時。
「開示だっ」
「私も開示です」
「俺も、開示といこう」
最後の勝負らしく、全員が『開示』。
まるで刀の切っ先を突き付け合うような緊迫感。
初めに動いたのは、古池副部長だった。
「悪いな、俺の2ペアは強いようだ」
手札は、【競泳水着(2)】と【日焼け跡】。
これは、確かに強い。明確にシナジーのある組み合わせ。
彼はこの一撃で、勝利をもぎ取りに来た。
「【競泳水着】をまとう女子。ズレた水着から見える【日焼け跡】の健康的な色っぽさは、男なら耐えがたいだろう」
例えるならば上段の構えからの唐竹割り。
競泳水着型の日焼け跡は、真っ向から切り裂く剛の一太刀だ。
だが侮るなかれ。俺は副部長の刀を受け流し、逆に突きを放つ。
「【巨乳2】、【汗(1)】の2ペアだ!」
「ぬっ」
「真夏の太陽の下。日差しに汗ばむ少女。豊かな、だけど形のいい【巨乳】……。それだけでも魅力的なのに、夏のつつっと垂れる【汗】……谷間に溜まって、恥ずかしそうに頬を赤く染める。どうですか、グッとくるでしょう!」
「たし、かにっ!」
基本的にこのゲームは論破合戦。
ストレートな表現に終始する副部長よりも、キーワードに加えて状況を設定してシチュを限定した方が、乃々の評価は高くなるはず。
俺は乃々に視線を送る。
すると、何故か彼女は下に視線を向けていた。
いや……下と、いうより。
「……久世くんは、巨乳の谷間に溜まる汗が好きなんですか?」
俺、痛恨のミス。
乃々は純和風な美少女だが、スタイルだって相当だ。
ぶっちゃけて言うと胸が大きい。
だというのに、彼女の前で巨乳について語るとかド変態やんけ。
「まって、いや、一般論的に、だね?」
「交換時に【貧乳(2)】を捨てていますね。つまり比較すれば、巨乳の方が語りやすい……趣味に合う、と」
麻雀では、捨牌から相手の手牌を読むものだという。
それと同じ。貧乳と巨乳を比較すれば、俺は巨乳の方が好きという事実を、見事に読まれてしまった。
やめて、腕を自分の胸の下に持ってこないで乃々乃さん。
ぐってなるから。ぐって上がって強調されるから。
そんな内心を軽く無視して、淡々と乃々はゲームを進行する。
「では、私の番ですね」
完璧だと思っていた突きをいなされ、乃々が牙を剥く。
手札は【香水(2)】と【シーツ(2)】の2ペア。
どうにも、フェチとは遠そうな組み合わせ。いいカードに恵まれなかったのか?
そう思った瞬間。乃々はとんでもない一撃を繰り出す。
「薄い【シーツ】の上、一糸まとわず……身に着けるのは手首に垂らした一滴の【香水】、蠱惑的な甘い香りのみ。誘うような笑みは、お嫌いですか?」
服装カードがない。それを失敗だと俺は判断した。
しかしそれは間違いだった。
乃々は服装カードがないことを全裸と解釈し、香水だけを身にまといベッドの上で誘う少女を演出してみせた。
っていうか、頬を染めた乃々の笑みに、そういうシチュを想像してしまった。
「うがあああああ!?」
「ぐおぉぉっ!?」
それは古池副部長も同じなのだろう。
俺達が刀で小手先の技の応酬をしているところに、乃々は大型ハンマーですべてを粉砕しに来た。
スケール感が違う。
敢えて判定など口にする必要もない。
乃々は天高く手を上げ、俺達はそれを受け入れた。
「私の、勝ちですね」
合計8点。
きっちりと副部長をまくり、能登乃々乃は優雅に勝利を決めて魅せた。
※ ※ ※
ゲーム終了後。
「乃々、どうなった!? 弁えるって話はどうなった!?」
「え、あの……弁えて、ませんでした? ほら、バイブレーターの時はちゃんと降りました、よ?」
「だとしても全裸香水はアウト寄りのアウトだと俺は思います!」
「あ、あれ……?」
乃々の勝利に文句はありません。
それはそれとしてあんな蠱惑的な表情をする娘さんを俺は注意しなくてはいけません。
なにせこの少女、普段からガチめのエロボドゲばっかりやってるからか、さっきのがセーフだと思ってしまっていた。
危険が危なすぎて心を配るほど心配で仕方ない。
「いいか、乃々!? 男は馬鹿な狼だからあんなことされたらもう人狼ゲームが始まってしまいます! 今後絶対に! 俺達ボドゲ部がいないところでのコスプレックスカード、いやエロボドゲはしないでください! お願いします!」
「も、もちろんです。副部長にしたって、来栖部長の恩人かつ久世くんがいるからこそこのゲームをしたわけで」
「本当に、本当に頼むぞ!? 俺はお前のことが心配すぎて夜も眠れんくなるわ!?」
「わ、分かりました。え、えっちな姿は、久世くんの目があるところだけで晒します」
「約束だからな! 変なことになって乃々が傷付くなんて絶対嫌だからな俺は!」
「は、はい……」
なら、よかった
容姿の整った彼女だ。他の男子の前で無防備を晒して、誘ってるなんて勘違いされたら目も当てられない。
多少嫌われても強めに言わないといけないことだってある。
「ごめんな、乃々。乱暴な物言いをして。でもさ、マジで危ないと思うから」
「いえ、私こそ心配をかけて申し訳なく。信用できない相手とはしない、の方針は変わりませんが。今まで以上に言動には注意します」
「まあ、なんだ? 葵や来栖部長とか、女子で集まってなら別にエロボドゲもいいからさ。男がいる場所でだけは気をつけてな」
とりあえず怒ってはいないようだ。
それどころか笑顔で、
「怒ってくれてありがとうございます」
とまで言ってくれた。
彼女は、本当にいい子なのだ。
古池副部長もこの件に関しては、完全に俺側。あまり強くは言わないが、乃々の迂闊さには気をもんでくれているようだ。
「能登」
「は、はい」
「まず、約束する。俺はお前の趣味に関して外に漏らすことは絶対しない、勿論生徒会や教師陣にもだ。そして、まあ、ゲームとしては面白かったので馬鹿にもしない。だが、男は勘違いしやすい。ああいうので遊ぶのは、ボードゲーム研究部の中だけにしておけ」
「それは、はい。元々そのつもりではありますが、他の場所での発言も今後は注意したいと思います」
重々しい説教に肩身が狭そうな乃々。
少しだけかわいそうだけど、彼女のためなのだからここはガマンしてもらうことにしよう。