返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録 作:自宅戦闘員
俺はクラスの男友達と雑談しつつノートをまとめていた。
ボドゲとは関係ない交流で、「夏休みキャンプいかね」とか「次の土曜駅前集合な」とか。一人はフットサル同好会の男子なので、「もっと顔出してくれよ」とか頼まれもした。
次の休みの予定が決まったあたりで、俺は不意に視線を別のところに向ける。
能登乃々乃は、同じクラスかつ同じボドゲ部の女の子だ。
名前に「の」がいっぱいあることが微妙にコンプレックスな彼女を、何気なく眺める。
印象を一言で表せば、やはり真面目な優等生だろうか。
「分からない問題ですか? 構いませんよ、私でよければ」
「ありがと、能登さん!」
「いえ、お役に立てたのなら私も嬉しいです」
乃々は成績優秀かつ真面目な優等生で、教師陣の覚えもめでたい。
教え方もうまいから、頼りにするクラスメイトも多い。
テストの成績はいつも上位をキープし、家事の類は完璧。
男女問わず分け隔てなく接するし、性格は真面目で多少お堅いところはあるものの、基本的には優しくいい子だ。
しかも艶やかな長い黒髪に整った面立ちと、容姿は分かり易いくらいの美少女。それでいてスタイルもよい。
ただ本人は恋愛ごとにあまり興味がないようで、前に告白した男子はお決まりの『ごめんなさい、今はそういうのはあまり考えられなくて』で切って捨てられる。
運動が苦手なのは、まあ愛嬌だろう。
総合すると能登乃々乃は、とても人気の高い女子だ。
「乃々なのになぁ……」
「聞こえていますよ、久世くん」
ピキられた。
※ ※ ※
「あれだな、最初会った時は深窓の令嬢的なイメージだったのになぁ。というか今でもクラスのみんなの前ではそんな感じなのに……」
「私だって相手によって態度は変えますよ。幻滅しましたか?」
「いんや、そんだけ馴染んでくれるって考えたらそこまででも。いい友達になれたと思ってるよ」
「……正直、そういう返しがすぐにできる辺り久世君はすごいと思います」
放課後。
いつも通りボドゲ部の部室で過ごす。
古池副部長は生徒会があるし葵はフットサル同好会優先だから、わりと部長と乃々の三人で過ごす時間が多い。
「そうだ、紅茶クッキー焼いてきたんです。お茶うけにどうですか?」
この日は、乃々がお菓子を持ってきてくれた。
しかも手作り。これを喜ばない久世友近はいない。
「やった、ありがとう。乃々のお菓子はうまいからなぁ」
「じゃあ私は飲み物を。紅茶……は被るわね。コーヒーか、レモネードもありかしら。二人ともどうする?」
「俺レモネードで! 部長の作るの大好きっす」
「私もお願いします。本当にあれ、おいしいですよね」
「作るってほど手が込んでるわけでもないけどね」
言いながらくすりと小さく笑う。そういう時の部長はまごうことなき美人さんだ。
それにお世辞抜きで部長のレモネードは美味い。やはり料理研究部の部長は伊達でなく、腕前は間違いなく彼女がトップなのだ。ちげーわ、料理でなくボードゲーム研究部だったわ。
乃々のクッキーと部長のレモネードでおやつタイム。紅茶クッキーを一口。うん、美味しい。
「ちょっと甘さ控えめでうまいな、これ」
「今日は少しレシピと分量を変えてみました。お口に合ったようでよかったです」
「うん、俺こっちの方が好みかも。紅茶の香りがしっかりしてる」
「ふふ、実は茶葉も奮発しまして」
ふうわりと鼻腔を擽る香り、さっくりとしたクッキー。レモネードの柔らかいレモンの酸味も心地よい。
何より女の子の手作りだ。これに満足しない男子高校生なんぞいる筈もない。俺は
うまいうまいと何度も手を伸ばす。
「そう喜んでもらえると嬉しくなります」
「マジで美味いよ。俺も負けてられないなぁ」
「久世くんの、なんちゃってもつ鍋スープも美味しかったですよ?」
反応がいいせいか、手ごたえありと乃々乃もご機嫌だ。
和やかなお茶の時間、ふと部長が部室を見回す。
「そういえば今日は水科さん来るのかしら?」
「フットサル同好会の日はずですし、来ても少し顔を出す程度ではないでしょうか?」
その辺りどうなの? と二人して俺を見る。
なんか彼女らは葵のことは俺に聞けば一発で分かると勘違いしているらしかった。
「別に俺、あいつのスケジュール管理してる訳ちゃいますから」
「え!?」
「あからさまな驚き方しないでください部長」
もう完全にからかう気が見え見えである。
というか部長は兎も角として乃々乃も似たような反応なのは若干引っ掛かる。
「なんで乃々まで驚いてるんだよ」
「いえ……久世君なら水科さんの予定くらい把握してるかな、と。ほとんど毎日傍にいますから」
「そこまでいつも一緒って訳でもねーよ。てか、最近は乃々も葵と仲良くね?」
「クラスは違いますが水科さんはよく遊びに誘ってくれますので」
俺と乃々は同じクラス、葵は違うクラスだ。
でもお昼休みは一緒に昼飯を食べている。
加えて葵と乃々は知り合って以来、土日は結構一緒に遊んでいるらしい。
あれで葵も女子高生、男とでは楽しめない買い物なんかもあるだろう。そう思うが、若干なんか悔しいとか思ってしまうのは、多分気のせいということにしておこう。
「あれ、久世君ちょっと悔しそうじゃない?」
「気のせいっす。何の問題もないです」
「えぇー?」
完全に面白がって、部長は猫の目になっている。
いけない、この人の前にこういう餌を出したら。弄られる。そりゃもうイヤっていう程弄られる。
俺は努めて冷静な表情を作りながら、ノートにペンを走らせる。
「さっきから、久世くんは何をしてるの?」
「葵の試験対策問題集の作成っす。試験前に作るとしんどいんで、今のうちに要点だけはまとめておこうと」
部長の問いに即座に返す。
ボードゲーム部の活動としては完全に間違ってます、ごめんなさい。
でもちょうど葵がいないしチャンスだと思ったんです。
「それ、教室でもやっていましたね。……葵さん、そんなに成績良くないんですか?」
「まあ、そこそこよくはないね。ちゃんと面倒見てやらないとこの高校に入学できなかった程度には」
はっきり言おう。水科葵は非常に成績が悪い。
ついでに言うとあんまり空気を読まず、結構勢い任せに行動する。ぶっちゃけアホの子である。
好きな科目は体育で嫌いな科目は他全部。漫画以外の読書は五分ももたない。
そういう子だからテストの度に面倒を見てきたし、高校受験の勉強もつきっきりで教えた。
「俺もね? 苦労してきたんだよ? 普段授業寝っぱなしの葵がちゃんと理解できるよう要点まとめたノート作ったり、集中力続かないからケーキとかで釣って勉強させたりね? そのおかげかテスト一週間前からの詰め込み式だけど、自慢じゃないがギリギリで赤点だけは回避させてきた。勿論今回もちゃんと準備はしてるぜ?」
「あの、久世君」
「ん?」
「それって、一週間前になったら久世君が助けてくれるって知ってるから、葵さんは勉強しないんじゃ?」
「あいつ、すごく潔いよ? 俺が手伝わなくても何の問題もなく当日を迎えるに決まってるだろ。もうね、びっくりするくらい堂々としてんの。テスト範囲さえ知らない状態でも」
「ああ……」
その光景を想像したのだろう、乃々は遠い目になった。
ヤバいよ、葵。まだ数カ月くらいの付き合いの友達に「ありえる……」って思われちゃってるよ。
「面倒見いいわね……」
「ああと、あいつの名誉のために言わせてもらえば。教えたら、ちゃんと勉強はします。人の努力をないがしろにする奴じゃないんで」
だから参考書でなく、俺がこうして問題を作ると「チカちゃんが頑張ってくれたんだからボクも頑張んないと」みたいな風になる。
俺も復習になるし一石二鳥というわけだ。
「……今度、勉強会します」
「乃々、俺はずっと君を素敵な女性だと思っていた」
「ありがとうございます。まったく心に響きません」
掛け値なしの本音だよ。
あと部長、「この子あぶないわね……」とか呟かないでください。
と、そんな感じで話していると、部室の扉が開いた。
「おお。来栖、邪魔するぞ」
「遅れましたー!」
古池副部長と葵が二人で一緒にやってきた。
けっこうレアな組み合わせだ。
「あら、古池くん? 珍しいわね」
「あ、ああ。生徒会の仕事がひと段落就いたから、少し顔を出そうとな」
部長に話しかけられて一瞬どもっちゃうのが実に古池服部長。
葵はスムーズに俺のところまで口を開けたから、乃々に確認を取ってからクッキーを食べさせてあげた。
「ありがとチカちゃんおいしい、紅茶のいい香り……」
「焼いてきたんです」
「えっ、乃々乃ちゃんの手作り? すっごいおいしいよ、売っててもおかしくないくらい!」
「褒め過ぎですよ、でもありがとうございます」
葵と乃々も仲良くなったなぁと思う。
なので俺は、優しく語り掛ける。
「葵。乃々が、勉強会をしないかって誘ってくれたぞ。俺も参加するから一緒に頑張ろうな」
「………………………………ぅぃっす」
「沈黙が長い沈黙が長い」
超不本意みたいな顔やめてもらえません?
乃々は仕方ないなぁ、みたいに小さく笑っていた。
あちらでは古池副部長が頑張って部長と会話をしている。
「でも、本当。古池くんには、つまらないんじゃない?」
「そ、そんなことないぞ。この前、久世と能登の三人でボードゲームをやった。ああいうのは、製作者と遊ぶ人間を楽しませようと、色々考えているんだな。それに、遊ぶ側も、色々と工夫を凝らして楽しむのだと学んだ」
「そう! そうなのよ、分かってくれる? ボードゲームって皆で楽しいを作るの!」
お、けっこうスムーズに話せてるじゃないか。
面白くて少し眺めていると、乃々が自分のカバンを漁り始めた。
おっと、この流れ知っているぞ。
「古池副部長もボドゲの楽しさに目覚め始めたところで、今日は軽いゲームをしてみませんか」
毎度お馴染み、乃々の私物ボドゲである。
「いいわね。古池くんもやるでしょ?」
「もちろんだ」
部長に誘われたのが嬉しかったのだろう、食い気味の肯定だった。
しかし忘れていませんか? コスプレックスカードで結構大変だったの。
そんなことを考えていると、乃々が俺に優しい笑顔を向けた。
「安心してください。今回は本当に過激ではありません。しんぷるなスタッキングゲームですから」
そう説明されたが、ボドゲ初心者な俺と葵と古池副部長はよく分かってない。
目が点な俺達を見て、部長が補足してくれた。
「バランスゲーム、ぐらぐらゲーム。呼び方は色々あるけど、不安定な土台のおもちゃに何か手を加えて、”倒れたら負け、崩したら負け”なゲームがあるでしょう? スタッキングゲームはその中でも、積む・上に乗せるという行為に特化したゲームよ」
あー、塔の周りに観光客のコマを乗せるのとか、積み上げた木のピースを抜いていくやつの総称か。
それならそんなに過激では……うん。
俺達は、そのゲームの外見にどう反応すればわからなかった。
「えーと、乃々?」
「部長の仰る通り、これはバランスゲームです。“ポールダンサー・ショータイム”という名前の」
不安定な土台から、一本の金属製のポールが伸びている。
そこに無駄に扇情的な造形のポールダンサーのフィギュアが絡みついていた。
わりとガチでアダルティなフィギュアです。
「ルールは単純です。一人ずつ、“おひねり”コマをポールダンサーに乗せていく。土台は不安定なのでだんだんとバランスが崩れていき、倒してしまった人が負け。これなら五人でやってもそれほど時間をかけず、スムーズに楽しめるでしょう」
いいこと言った私、みたいな自信に溢れた表情だった。
まあでも、確かに。ゲームとしてはポールダンサーがどう見てもエロフィギュアという点を除けばいい選択だ。この手のバランスゲームなら、初心者の俺達でも気軽にできる。
「じゃあ、やるか。古池先輩もいいっすよね?」
「ああ」
前回よりは遥かに取っ付きやすいからか、迷わずに頷いてくれた。
こうして俺達は、五人でポールダンサーにおひねりを与え続けた。
「ぬ、ぬおぉぉぉ!?」
「あはは、また古池くん!?」
失敗はガンガンおひねりを乗せる副部長が多かったけど、なかなか盛り上がることができた。
うん、こういう放課後も悪くないと思えた。