返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録 作:自宅戦闘員
俺と乃々は同じクラスだが、葵だけは別である。
だというのに休み時間、わざわざこっちの教室にやってきてた葵は、腕を組んで俺に視線を向けてきた。
「あのね。なんでボクが怒ってるか分かんないの?」
腕を組んで、まるでメンヘラ彼女のようなことを言う。
ただし顔はニヤニヤしてる、手には1枚のカードを持っている。
俺の返答はもちろんこうだ。
「うーわ、ダルっ。やだわー、もうこれ何回目だよ。こういうかまってちゃんの察してちゃん俺ほんとムリ」
「待って待ってひどいひどいボクの扱いがすこぶる悪い」
慌てて俺にすがりつくカワイイ葵ちゃんです。
さて、当然ながら葵がいきなりこんなことを言い出したかには、勿論理由がある。
それは俺の隣でサムズアップしている乃々ちゃんだった。
※ ※ ※
最近、ボドゲ部には古池副部長が以前より顔を出すようになった。
葵もちょこちょこ参加しており、常時3~5人はいる、というのが続いている。
人数が多いと色々ボードゲームができる。長丁場のTRPGや、人生ゲーム的なジュンボードゲーム。バランスぐらぐら系も盛り上がる。
そして最近、乃々がまた新しい私物のボードゲームを持ってきた。
それが『なんで怒ってるのか分からないの?~メンヘラの地雷原~』である。
このゲームの内容はいたって簡単。というか、ほぼウミガメのスープでしかない。
そもそもこれは商業で販売されたものではなく、同人サークルが無料公開しているフリーゲームになる。わざわざ印刷・加工して実際のゲーム風に仕立てたのは乃々自身。しかも同人サークルの方に「仲間内だけで遊び、SNSにも投稿しないのでこういう風にしてもいいですか」と連絡を取って確認もしているらしい。
ウミガメのスープは、水平思考パズルまたはシチュエーションパズルと呼ばれる推理ゲームの代表的な問題だ。
簡単なルールとしては、出題者は文章を読むだけでは答えを確定できないクイズを出す。
解答者は出題者に「はい」か「いいえ」で答えられる質問を行って、クイズの回答を推理していく。
乃々の持ってきた『なんおこ』も基本はほぼ同じ。
違うのは、出題者がメンヘラを演じるというTRPG要素と、地雷原のサブタイからも分かるように地雷(NGワード)が設定されている点だ。
基本ルール。
まず出題者は問題カードから1枚を選ぶ。
問題カードには「メンヘラが怒っている理由=回答」と、NGワードが5つ記載されている。
出題者はNGワードの中から三つ選び、地雷を設定。メンヘラを演じながらクイズを出す。
回答者はウミガメのスープのように色々な質問をしながら正解を推理する。
問題カードにはそれぞれポイントがあり、正解した回答者はポイントを入手する。
ただし、問題にはNGワードがある。NGを踏んだ場合、ポイントがマイナスされ、正解しても得点が入るどころか合計点が減る可能性もある。
『なんおこ』は、いかにメンヘラの地雷を踏まずに正解に辿り着くかを競うゲームなのだ。
……で、これが今ボドゲ部で流行ってる。
何故か葵もノリノリでメンヘラってるのである。
※ ※ ※
で、教室に戻る。
なんでかウチの部でこれが流行った結果、けっこうな頻度で葵や部長が出題してくる。
ゲームとしては複数人でやってポイントを競うんだけど、単発でやる時は単純にその問題のポイントがプラスになるかマイナスになるかで見る。地雷踏み過ぎたら「チカちゃんダメダメー、はいおしまい」で終わる感じだ。
「で、なんでボクが怒ってるのか分かんないの?」
「ごめん、これクイズ以前の質問な? ……教室で、大丈夫なヤツ?」
「……大丈夫なヤツだよ、さすがに」
なお、乃々の持ってきたやつなので当然エロ要素がふんだんに盛り込まれている。
高ポイントの回答には「ご無沙汰で欲求不満だったのに、久々のセッ〇スで二回射精しただけで先に寝られた」というものまであった。
そういうじゃないなら、まあいい。
このゲームは推理ゲームだが、同時に演じることを楽しむTRPG要素もある。
なのでやると決めたからにはしっかりのめり込む。
「ごめん、俺、なにかしちゃったかな。ええと、なにか約束したっけ?」
「違う。もう、本当に分からないの?」
ノリノリやんけ、葵のヤツ。
教室でやってるのがアレだけど。
「じゃあ、約束を忘れていた、かな?」
「違う。約束そのものが問題じゃない。もっと前の話! ボクが、なんて言ってたのか覚えてないの!?」
このゲームは役を演じる特性上、ハイとイイエを示した後は、メンヘラとして出力されるならある程度のヒントが許される。
ただしそこは出題者による裁量。人によってメンヘラ度合いが変わるし、葵は圧の強い責める系メンヘラだけど他の人がやったら「いいんです、私なんか……」とか面倒臭さのベクトルも変わる。
「あーと、生活上のルール、とか?」
「全然違う。もっと普通のこと、ちゃんとボクの言ったこと覚えててよ!」
覚えてて、というのはあくまでも演技だ。
二回似たような返答になるのが葵のメンヘラ解像度の低さでもある。
まあこんな感じで、正解を推測していくのがこのゲーム。なのだが、
「好みの話? これが嫌いとか」
「へへっ、それ地雷だよ!」
「おいおい、笑ったらダメだろ」
「そうだった。……くっ、それが地雷、だよ」
で、このゲームのルールの肝。
『なんおこ』はクイズの内容がカードに収まるようまとめられている。
記されているのは、『正解』と『ポイント』と『NGワード・5種類』。
俺は『正解』を求めて質問し、勝利すると『ポイント』が得られる。
けど葵は『NGワード・五種類』の中から三つ選んで、地雷を設定。
質問する際、このNGワードを言ってしまうと、ポイントがマイナス1される。
つまり地雷を全部踏み抜くとマイナス3点、初期ポイントによっては勝ったのにマイナスになるという仕様だ。
繰り返し踏むのは質問の仕方で結構起こる。今回の俺の聞き方だと、「好み」がNGワードのように見えて、「嫌い」の可能性もある。ゲーム中は何が地雷かは公開されないので、ここら辺も注意しないといけない。
ただし、NGを踏むと出題者からヒントを貰える。点数が許すならわざと踏むのもアリ。
「もう、ヒント、あげるから感謝してよね、あなたなんか好きじゃないんだから! チカちゃんは、ボクのことを“知っている”と思い込んでいた。でも実際は、ちゃんと理解してなかった、だよ」
「好きじゃないんだから、はツンデレやね」
「う、難しいね、メンヘラ」
「しかしさっそく踏み抜いたな。じゃあ、『ごめん、でも俺は本当に君が大好きなんだ』!」
これがもう一つのルール、『愛情交渉』だ。
このゲームではNGワードを言ってしまった時、もしくは地雷を踏まず三回の質問を終わらせることができた時、問題一つにつき一回だけ『愛情交渉』ができる。
メンヘラに対して好きだと伝えることで、お目こぼしを貰うのである。
まあ普通だと出題者に愛を囁くのは難しいかもだが、俺はそんなに気にならない。
「チカちゃんってさ、そういうの普通にやるよね」
「え、恋愛感情どうこう置いといて、俺普通に葵のこと好きだしな」
「つ、強い……」
葵は大事な幼馴染なんで好きです。
で、愛情交渉は出題者に愛を伝える。
その後、追加で『君の不満を教えてほしい』系のセリフでヒント強化。出題者の裁量で、ヒントを多めに出す。
または『どうか許してほしい』系のセリフで、今回踏んだNGをペナルティなしで無効化、さらにもう1つ別のNGワードを公開してもらえる。
もちろん使わなくても良くて、ゲーム中使用せずに正解すればポイントが2点加算される。
どっちを選ぶかは好み次第だが、今回みたいなポイントを競わない単体問題ならヒント強化一択だ。
「お願いだ、情けない俺にどうか君の不満を教えてほしい」
「えーっ、どうしよっかなー」
めっちゃによによしとる。
「もー、しかたない! じゃあヒントだよ。チカちゃんはね、ボクが以前に言った“好み”を覚えているつもりだったんだ。だから、僕にプレゼントした。でもね、その好みは間違ってたんだ。ボクはちゃんと言ってたのに、間違えてたんだよ。ひどくない?」
……なるほど、絞れてきたな。
「誕生日を間違えて別の日にプレゼントを用意した?」
「違う! 誕生日でもプレゼントでもないよ、そもそも日付じゃない。でも、なんというか、ニュアンスは合ってるかな」
さっきの流れだと、NGワードは「好み」。
逆に、好みの周りに正解に近い情報が転がってる。NG無効化にすると地雷を踏みまくって情報を得られるから、そっちでもよかったか?
「食べ物?」
「そう! ……ようやく、わかってくれた? チカちゃん、忘れてるのかと思ったよ」
お、メンヘラ演技を頑張ってる。
となるとここからはしらみつぶし。地雷を踏まないように、と。
「甘いモノ?」
「そう。あ、でもそのものじゃなくて、お店の話だよ」
あ、分かったかもしれん。
「俺達はスイーツを食べに行った。葵が好きだと言っていたお店に行った。だけど、葵はその後別の店のスイーツにハマっていると話していた。にも拘らず以前のお店を選んだから、ボクのことを愛していないんだと思って怒って、それを直接言わずに“察して”してた!」
「せーかい!」
正解したけど内容くそダルイ!
言ってよ! そこは察してじゃなくてちゃんと言ってくれよ!
「なあ。俺も鈍いからさ、知らんうちに葵にヤなことしてるかもしれん。だけど、不満があったら俺にぶつけてくれな? できる限り改善するから」
「おっけー、だいじょぶだけど、もしあったらね。チカちゃんだってバンバン言ってくれていいからね」
「マジで? じゃあもうちょっと普段から家で教科書を開く癖を」
「……うぃっす」
「萎れるのめっちゃ早いやん」
まあこんな感じのゲームである。
実はこのゲーム、楽しいのは出題者の方だ。出題者の言葉に右往左往する回答者を見られるから。
そう言う意味でもフリーゲーム、商用レベルではないんだよな、たぶん。
そもそもまんまウミガメのスープに要素付け足しただけだし。クイズ問題をカード化したのは乃々のボドゲ好きが高じただけ。正直問題文を知っていれば道具もいらないから、商品価値はあんまりない。
「やー、でも、面白いね。拗ねたボクに縋るチカちゃん」
「現実には持ち込まないでくりゃしゃんせ」
「そこは当然」
ただ、出題者の葵にとっては、俺が葵の機嫌を損ねないように色々聞くというシチュ自体が娯楽になるらしい。
からかい好きな部長にもぴったりはまる。
結果として、うちの部ではこれが流行しているというわけだ。
「水科さんがそこまで気に入ってくださって嬉しいです」
「や、ほんとおもしろいよ。いいの教えてくれてありがとね、乃々乃ちゃん」
戯れる少女二人。でも俺は、乃々の目がきらりと光ったのを見逃さない。
「乃々乃ちゃんもやる?」
「いえ、私は放課後、改めて」
……ぞくり、背筋に冷たいものが走った。
そう、乃々は、教室でメンヘラの地雷原を出来ない。
それは、以前コスプレックスカードの時に、しっかり俺が注意したから。
彼女はそれを守って人目のあるところで迂闊なことはしない。
このゲームの問題文には難易度が設定されている
それとは別に『過激度』も。
エロボドゲ愛好家の乃々の触手が動くほどに。
食指の誤字じゃないです。彼女のエロへの興味はうにょうにょ触手のように新しい何かを探しています。
「久世くん、付き合ってくれますよね? ……私が、なにを怒っているのか。本当に、分かってくれないんですか? ひどいです、私、都合のいい女なんですね」
今日の、放課後。
俺は同級生、同じクラスの女の子と、超きわどい猥談をすることになった。