返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録 作:自宅戦闘員
水科葵と久世友近は、乃々乃にとって非常にありがたい友人だった。
『乃々って、もしかして俺のこと嫌い?』
入部したての頃、久世友近はそう聞いた。
そんなことは全然ない。ただ、正直に言うと男の子は少しだけ苦手。
乃々乃は、自分でいうのもなんだが、容姿が整っている。中学の頃から胸が大きかったせいか、近寄ってくる男子は多かった。
しかし告白されて断れば「お高くとまっている」とかどうとか。
だから男の子自体にあまり印象を抱いておらず、実のところ友近に対しても初めは似たようなものだった。
『どうぞ、部長。ホットケーキです。ハチミツ、メープルシロップ、生クリームなどを取り揃えました』
『ありがとう、久世くん。確かにお菓子はボドゲの供と私は言ったわ。でも、このボードゲーム研究部において、ホットプレートを持ち込んでまでホットケーキを焼いたのはあなたが初めてよ』
『だ、だって……今日はホットケーキな気分だったんです、食べたいじゃなくて作りたいの方だけど。やっぱ出来立てがいいじゃないですか』
『……その心意気、嫌いじゃないわ! あ、バターある?』
『もちろん用意してございます』
あっ、馬鹿ですね、彼。ついでに来栖部長も悪ノリするタイプ。
彼は元々家庭科部志望で、料理が趣味らしい。頻繁に何かを作っているし、小食の乃々乃のためにミニミニサイズ・一口ホットケーキを用意する当たり芸が細かい。
その辺りのインパクトで、警戒心が薄れた部分がある。
『うまいっ、もう一枚!』
『はいはい。こら、お口の周り汚れてるぞー』
『んー、ありがとチカちゃん』
え、あなたたち高校生の男女ですよね?
自然に口を突き出す葵、ためらいなくハンカチで彼女の口の周りを拭く友近。
もう距離が近すぎて、乃々乃の理解から遠すぎる。
もっとも、下心が一切ない世話焼きっぷりも、女性に対して妙な踏み込み方はしないだろうという信用に繋がった。
加えて、基本彼は自分を後回しにする。それも「はいよ、出来立て」とホットケーキを渡すのではなく、軽い調子でごく自然に相手を優先するのだ。
そういう点にごく初期から気付けた結果、乃々乃は友近と早い段階から友人になれた。
もちろん、強引にコミュニケーションをとってくる葵の存在も大きかったが。
『乃々ちゃん、よろしくねっ』
『あ、はい、こちら、こそ?』
ぎこちない乃々乃の返答なんて気にせず、手を掴んでぶんぶん握手。
初手から押しが強い。だが、そうでなければ教室が隅っこがデフォの乃々乃とは友達になれなかっただろう。
ぶっちゃけて言えば、乃々乃は対人関係が上手くない。
家が金持ち、真面目な優等生、成績優秀。要素だけを取り上げればよく聞こえるが、本質は見た目がいいだけの陰キャで、自分から前に行くタイプではなかった。
反対に、葵は元気ないい子だ。
勉強が苦手、家庭的なことはもっと苦手。でも明るく活発で運動が得意な、可愛らしい女の子。
さっぱりとした性格の葵はいい意味で物事に頓着しない。怒っていても美味しいものを食べればすぐに忘れる。誰かをずっと嫌い続けることはしないと、付き合いの短い乃々乃でも感じ取れた。
『チカちゃん、日曜遊ぼー』
『いいぞー』
『へへー、我を崇めよ。新しくできた室内プール施設のタダ券ゲットしたぜ』
『葵、でかした!』
『あ、乃々乃ちゃんもいこー!』
それはそれとしてこの幼馴染み二人、クラスこそ違うが二人はそりゃあもう仲がいい。
仲がいいっていうレベルを超えている。
『眠い……チカちゃん膝かしてぇ』
『おー』
なんせ学校で当然のように膝枕とかしてしまうのだ。しかもそれになんら疑問を抱いていない。こいつら駄目だってなもんである。
だいたいからして基本ボディタッチが多い。
葵は当たり前のように友近の後ろから抱き着き、膝の上座ったり、ほっぺたとほっぺたをくっつけ合わせたりする。
彼の方は彼の方で葵の頬をつんつんしたりぐにーっと伸ばしたり、頭撫でるのは当然だし、この前なんて脇に両手をいれて高い高いまでしてましたよ?
ほぼ付き合っているのといっしょですよね?
『これ、はしたない。スカートが』
『わ、ごめんチカちゃん』
『謝らんでいいけどね、あんまり無防備すぎると心配になるから。人前では、もうちょっと抑えてくれるとありがたい』
なによりバランス感覚。
友近は、決して性に興味がないわけではないのだ。
しかし距離の近さを利用して葵との接触を楽しもうということはしない。しっかりした倫理観があり、自分を律することのできる人だ(※最初っから葵ちゃんをそういう目で見てないだけであり、だいたい乃々乃ちゃんの勘違いです)
(……これは、つまり)
善人、気遣い屋、葵と超仲良しでも下心なし、優しいから乃々乃を傷つけることもあり得ない。
(久世くんなら、私の趣味全開でも問題ないのでは……!?)
それに気付いた時、能登乃々乃はラインを越えた。
彼女がエロボドゲを遠慮なくプレイできるのは、そもそも久世友近は絶対に暴走しないという確信があるからなのである。
なお友近本人より『絶対安全な男なんていないんだから、そこはよく考えて。不用意に挑発するような真似は控えてだな……』とお叱り自体は受けています。
そういう説教をする相手なら、とより確信を深めただけです。
※ ※ ※
放課後は、ボードゲーム研究部。
葵と二人で扉を潜ると、
「あ、久世くん、水科さん……。遅かったんですね。どうして、遅れたんですか? 私、待ってたんですよ? 待っている間ずっと考えていたんです………嫌われたのかなって。私と遊ぶの、嫌になっちゃいましたか?」
メンヘラがいた。
髪を弄りながら、ちらちらと俺達の表情を覗き見る。
無駄に演技が上手い。
「乃々乃ちゃんがいきなりフルスロットルだ!?」
「おいおい、こいつはやべえぜ……。あ、嫌いになるとかはないから安心してな」
「この状況でフォローに回るのがチカちゃんだよね……」
戦慄の
今日も部長・副部長はいらっしゃる。あっちは対面でリバーシっぽい別のボードゲームをやっている。
「これで、どうだ」
「おっ、やるわね。古池くんとこうやって遊ぶなんて、思ってもみなかったわー」
「はっ、はは。そ、そうか?」
古池副部長、嬉しそう。
あっちを邪魔するわけにはいかねえ。
「葵、共に行こう。俺と一緒に地雷原でダンスしようぜ」
「チカちゃんとなら、それも楽しいかもね……」
「あの、すみません。メンヘラの前でそのノリは大変危険では?」
メンヘラからノーマル乃々ちゃんに戻り、一度咳払いしてから真面目な顔で説明をする。
「では、せっかくです複数プレイでいきましょうか。私が出題者、水科さんと久世くんが回答者。回答は一人ずつ順々に、愛情交渉は一人一回ずつ。問題のポイントは2点、なので全部地雷を踏むとマイナスになります」
ここまでは普通の『なんおこ』のルール。
だが俺と葵は理解している。今回のゲームには、NGワード以外の地雷がある。
それは乃々が……ガチで性的に危険な問題カードを選んでいる可能性だ。
エロい正答を導き出すには、かなりきわどい質問に踏み込まないといけない。
同級生の、女の子に対して。
逆に、そう見せかけて普通の問題だった、というオチもあり得る。
その場合、俺達は無意味に乃々にエロい質問を仕掛けていただけになってしまう。
はっきり言って、NGワードを踏まなくても地雷原。
既に戦いは始まっているのだ。
「ああ、準備はいいぜ。なにをお出しされても真正面からが受け止めてやる」
「チカちゃん……帰りラーメン食べに行かない?」
「それこのタイミングで言う必要あった?」
葵ちゃんは葵ちゃんだった。
「ふふ、では行きましょう。……私が何に怒っているか分かりますか? ……分かりませんよね、どうせ私の気持ちなんて。……いいんです、ごめんなさい。ちゃんと伝えられない、私が悪いんです」
「乃々のメンヘラの出力、葵とだいぶ違うくない?」
面倒臭い度がかなり上がってるんだけど。
いや、それよりまず、大事なのは答えの方向性を特定すること。
回答の順番は初めに葵、次が俺。
さて、葵の質問は。
「ごめんね、乃々乃ちゃん。もしかしてボク、記念日とか約束忘れちゃってたかな?それとも前の遅刻の件」
葵がいきなりぶっこんでいった。
『記念日』も『約束』も『遅刻』も全部ありそうなNGワード。彼女は、地雷を自ら踏みに行った。
「……違いますよ。全部はずれてます。ほら、私のことなんて、なにも考えていない……もう、どうでもよくなってしまったんですか?」
地雷を、踏まなかった。
メンヘラの地雷原におけるNGワードは、問題カードに記された五つから三つ選ぶ。そのどれもが、正答に直接ではないが繋がりそうな単語でもある。
葵は答えがエロかそうでないかを調べるために、敢えて地雷原に踏み入った。
そして、おそらく。
「ねえ、もしやエロ系の質問俺に押し付けた?」
「……ボクがこっち方面で攻めるから、チカちゃんは、その、えっちな単語で責めてください」
「てめえ……」
なんか俺の方だけ「せめ」の発音いかがわしくなかった?
……だが、乃々も、たぶん期待してる。
空気がワクワクしてる。どう見ても、俺の恥ずかしい姿を求めている表情だった。
なら、一足で間合いを踏み潰す。
「なんですか……何か言いたいこと、ありますか? ばんばんっ、それはもうばんっばん、来てください」
「あっ、メンヘラの影から乃々が顔を覗かせてる。……その、乃々が、怒ってる理由は。ベッド、でのこと?」
「そうですよ。やっぱり、久世くんは私のこと、分かってくれるんですね」
はい、確定。直接的な猥談でござい。
「おい、葵。確定したんだからお前もこっち側だかんな」
「えぇ、えっ、ええ……。その、乃々乃ちゃん……」
純情な葵ちゃんはかなり迷ってる。
でも最近は少女漫画でもそういうネタ扱ってるし、決して無知なわけではない。
「その、二人きり、でのこと?」
「そうですよ。……もしかして、私の浮気を疑っているんですか。そんなわけないじゃないですか」
ベッドで、二人きり。
基本的に怒ってる理由を探すゲームなので、乃々はベッドで行われる行為に不満が合って、そこには他の登場人物が関わらないことになる。
次は、俺の質問。
「それは、時間? その、会う時間が、短い的な」
「……っ!? なん、で。そこを分かっているのなら……。地雷、ですよ、それは」
時間が地雷?
やっちまったが、地雷を踏むとヒントがもらえるので助かるは助かる。
「私は、あなたのことが大好きです。でも、あなたはいつも早いから……」
「ぐあぁあぁぁぁっ!?」
ヒント! ヒントなのにダメージが来た!?
乃々に「早い」と言われるとかなんの罰ゲームだチクショウ!?
え、ていうかこれヒント? わりと直接的なんですが。