返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録   作:自宅戦闘員

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メンヘラの地雷原その3

 

「チカちゃんだいじょぶっ!? なにがあったの!?」

 

 苦しむ俺を、葵が支えてくれる。

 胸が軋む。言葉の棘っていうか棘付き鉄球がぶち込まれた。

 

「うぉ、おおぅっ。男にとって早いは何よりも屈辱なんだよぉ……」

「え? でも足が速い子はモテるもんじゃない?」

「ごめん、葵。そのセオリーは小学生で抜け出しておいてくれ……」

 

 俺は乃々に早いと言われてダメージを負った。

 ヒントだよねこれ? ていうかなんも分からねぇ。

 

「……どうします、久世くん?」

「うぐ、『愛情交渉』を使用する」

 

 今回の問題カードは正答すれば2ポイント。

 愛情交渉でヒントを求めた場合は、その後完璧に答えられたとしても1点。

 無効化を選んだ場合は2点のまま。さらにもう1つ別のNGワードを公開してもらえる。

 ちなみに使わない場合は、基本の2点+未使用ボーナス2点の計算になるので、NGを全部踏み抜いても1点は残る計算。

 ここでとるべきはやはりヒント強化だろう。

 てかダメージのせいで頭が回ってないんで、普通に考えても辿り着けそうにない。

 

「俺は君が好きなんだ、話を聞いてくれ」

 

 続いて、「君の不満を教えて」的なセリフを……。

 と思ったら、何故か乃々が俯いてしまった。

 

「本当に? 許してほしくて、適当を言っていませんか? 私のことなんて、そうやって誤魔化せばいいと思っているんですね……心が全然籠っていないの、分かるんです」

 

 まさかのやり直し要求。

 言えってか。もっとしっかり演技しろってか。

 メンヘラ演技崩れて口元によによしてんぞ、この料理上手美少女めが。

 

「くぅ……、乃々……」

「はぁい、どうしました、久世くん?」

 

 にやぁ、っと笑う乃々。

 なんか口が乾いて、もごもごしてしまう。単なるゲームなのに、葵にするのとは違う独特の緊張感がある。

 若干足踏みをする俺に、そのタイミングで来栖部長が声をかけてくれた。

 

「安心しなさい。久世くんは、私にも能登さんにも結構な頻度で素敵な女性とか好きとか言ってるから今さらよ」

「えっ?」

 

 そうだっけ? ああ、なんかテンション上がるとノリで言ってたような気も……。

 いや、あくまでテンション。なので、そんな「マジでかお前」みたいな顔で俺を見ないでください古池副部長。

 

「まー、ロールプレイ要素のあるボドゲにおいてはのめり込むのも楽しみの一つ。引きずるような子がいるわけでもなし、気楽にしなさいな」

「ありがとうございます、部長。一生ついていきます」

「それよそれ。あなたわりと失言してるから」

 

 部長のアドバイスでちょっと気楽になった。

 よく考えれば逆バニー聖騎士や触手下着に比べれば普通の範疇。俺の意識し過ぎだと考え直し、しっかりと乃々に向き直る。

 

「あー、乃々。君を、適当に扱ったつもりはない。大切に想っているし、その、乃々がちゃんと好きだ。だけど、君が怒っている理由がどうしてもわからないんだ。どうか、君の不満を教えてほしい……!」

「わんもあ」

「いやそんなシステムはねーですよね!? これ以上は出てきませんて!」

「残念です。私の言葉に翻弄される久世くんは面白かったのですが……」

 

 想定外の楽しみを見出さないでいただきたい。

 とりあえず俺をおちょくって満足したのか、ゆっくりと頷いた乃々は改めてメンヘラになる。

 

「では、なぜ私が怒っているか、ヒントを上げます。まず、行為そのものに不満はありません。でもあなたは、私より早かったんです。それは行為の話ではなく、もっと単純な時間のことです……。早いのはいつもあなたで、私はベッドで……」

 

 はふぅ、と息を吐く。

 この子、喘ぎとか色っぽい溜息とかに全力すぎると思います。

 気を取り直して問題に集中。しかし、行為の時間ではなくも、違う意味で時間が早い……?

 

「あっ、まだ用意が出来てないのに来たから怒ってる?」

「違います。あなたが来ることを怒るわけないじゃないですか。なんで、伝わらないの? そうですよね、私のキモチなんて知らなくても困らない……これも、仕方ないんですよね」

「わっ、わわ!? 違う、違うからね乃々乃ちゃん!?」

 

 乃々の負の重力に葵が巻き込まれとる。

 でも正直俺も似たような答えを考えていました。

 次は俺の番。

 

「……エロい行為自体は、怒りに直結してる?」

「……………」

「えっ、あれっ、乃々?」

「……………もっと私のノリに合わせてください」

「俺にだけ厳しくない!? くっ……俺のセッ〇スが、君を怒らせてしまった原因……というか、俺のやり方が怒りに繋がってるのかっ?」

 

 まるで舞台役者のように身振り手振りを付け加えて、ようやく答えてもらえた。

 

「いいえ、違いますよ。それ自体は、直接の繋がりはありません。ごめんなさい、私、面倒くさくて」

「んー、じゃあ、チカちゃんは家に泊まった?」

「はい、泊まりました。素敵な夜でしたよ……」

 

 横目で見る姿が決まってるのが若干腹立つぜ。

 しかしこういう言い方ができるのって、自分が美少女ってこと自覚してるからだよね? 自分と組み合わせた下ネタをしても俺が嫌がらないと確信してる程度には、彼女は自分の魅力を把握しているんだろう。

 

「てかなんで問題に俺が組み込まれてんだよ。葵も彼氏役の筈だろ」

「まぁまぁ、次はチカちゃんだよ」

 

 くっそ、笑顔で流された。

 俺はまた乃々にぶつける質問を考える。

 ここまで出た情報だと、俺は乃々の家に行きイタした。その行為に乃々は満足し、泊まった。でも時間が早いと怒っている。

 

「じゃあ、俺が帰るのが早すぎたから、乃々は怒ってるのか?」

「違います。もっと一緒にいたいのは本当ですが……」

 

 これも違うのか。

 うーん、分からん。

 

「泊まって、遅いじゃなくて、早いが嫌……あ、チカちゃんと一緒のベッドで寝……睡眠をとった?」

「はい、ちゃんと私のことを理解してくれて、嬉しいです」

「へへー」

 

 なんか勝ち誇られた。

 くっそ、俺もなんとかいい答えを出さないと。

 

「俺が早起き過ぎて、起こされた?」

「そうです、あなたは早起きでした。そして、私は起こされました。でもそれだけでは私が怒っている理由には届きません。もっと考えてください、思い出してください、私のことを」

 

 思い出してもなにも経験してない状況なんですが。

 そこで葵がぱっと表情を明るくした。 

 

「じゃあチカちゃんが先に起きて、されたことが、乃々ちゃんの怒りポイント?」

「そうですね、あっています。されちゃって、恥ずかしかったです。私だって女の子ですから、無防備なところは……」

 

 ……そういうことか。分かったぜ。

 

「先に起きた相手に、おっぱい揉まれたんだな?」

「違いますよだったら悦ぶポイントじゃないですか、私のことをなんだと思っているんですか」

「乃々乃ちゃん、どう考えてもそこは怒るポイントだよ……」

 

 葵にもツッコまれるって相当だよ?

 

「でも、ボク。だんだん分かってきたかも」

「マジでか。俺全然だぞ」

「ふふーん、だとしたらチカちゃんもまだまだってことだよ」

 

 くすりと笑って肩を竦める。

 そう言って頭をくるんくるん振ってから、葵は一気に踏み込む。

 

「たぶんこの単語が地雷なんだろうなぁーっていうのが、ちらほらあるんだよね。だから、地雷原踏み込むよ。怒ってる理由は、朝食に関すること?」

「違いますよ。……スレスレです」

 

 スレスレというのは、たぶん五つのNGワードの中に含まれているけど、乃々が地雷に選ばなかった単語、ということなんだろう。

 じゃあ、朝飯の準備が早かった? いや、朝飯は関係ないんだったか。

 

「俺は……。朝のコーヒーとか関係ある?」

「はい、あります。あなたは、コーヒーを淹れてくれました。それに感謝はしていますが、でも、そのためにしたことが、恥ずかしかったんです」

 

 そこで、葵がニヤッと笑った。

 

「ありがと、チカちゃん、ナイス質問。ボク、分かったよ。答えは」

「あ、水科さん。でしたら、夜のこともちゃんと言わないと正解にはしませんので。先程答えましたが、私は、行為自体にはとても満足しています」

「一気に難易度上がった!?」

 

 そして顔が真っ赤になった。

 もうこのゲームの乃々が本当に楽しそうです。

 

「え、えーっと。まず、チカちゃんが、乃々乃ちゃんのお家にお泊りして……え、えっちなことをしました。乃々ちゃんは大変満足して、いっしょにチカちゃんと眠った。でもね、朝はね、チカちゃんの方が起きるのが早かったんだ。朝コーヒーを淹れて、乃々ちゃんが起きるのを待っていた。でもね、それ自体が乃々乃ちゃんにとっては嫌だった。『朝、チカちゃんがいつも先に起きるから、無防備な寝顔を見られるのが恥ずかしかった』。でもそんなことに気付いてくれない、デリカシーのないチカちゃんに怒っていた! だよ!」

「完璧です、水科さん。愛情交渉を使わず地雷を踏まず、完全正答で合計4ポイントです」

「やったっ」

 

 葵が力いっぱいガッツポーズ、乃々は正解を賞賛して小さく拍手をする。

 しかし俺は愕然とした。

 まさか、俺が葵にクイズで負ける……だと?

 アホっ子の代名詞である葵に。

 あと、完全に俺の名前を組み込むの止めてもらえませんかね?

 

「ふぃ、そんなえっちじゃなくて助かった……」

「一応、迷った問題はあるんですよ。私はMなのに優しいセッ〇スしかしてくれない、とか」

「もうドストレートすぎるよ」

 

 それは俺もちょっと厳しいです。

 でも今回は完璧な負けだ。クイズ系で葵に負けたのってこれが初めてかも。

 

「いやー、負けたわ。やるなぁ、葵」

「ま、ね。ボクも女の子ですから」

「しかしなんで、分かったんだ? どう考えても質問足りてないだろ。寝顔とか単語も出てこなかったのに」

「だからチカちゃんはまだまだなんだよ」

 

 そう言いながら、葵は俺の額を人差し指でつんと突く。

 

「まあ、チカちゃんはボクとちっちゃい頃からお昼寝してるしねー」

 

 腕を組んだ葵は悪戯っぽいような、試すような、感情に濡れた瞳を俺に向ける。

 

「なんでボクが分かったのか、分からないの? ……ヒントなしだけど、当ててみる?」

 

 見慣れたはずの幼馴染の、見慣れない表情。

 どうやら、メンヘラでなくても、女の子には謎の地雷があるみたいです。

 

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