返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録   作:自宅戦闘員

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マイ・フェア・ホストその1

 

 

 古池康太は一年生の頃柔道部だった。

 しかし二年生に上がるとともに休部。理由は膝の怪我、といっても再起不能な大怪我というわけではない。

 日常生活に支障はないし、ちゃんと療養に専念すれば柔道にも復帰できる。そのため高校二年生の一年間は、柔道部から離れて生徒会活動に勤しんでいた。

 焦りはない。元々康太が柔道部に入部したのは、いずれ警察学校を目指す身として柔剣道を嗜んでおくべきだと考えたから。中学では剣道、高校では柔道というだけである。

 アスリートとして柔道に専心していた訳ではないので、大会での成績には固執していない。今も上半身の鍛錬は続けており、三年になったら一から柔道を学び直すのもいいと考えていた。

 

 そういう、中途半端な時期だったからこそ、康太はボードゲーム研究部に入部した。

 先輩たちが一度に抜けて廃部の危機に瀕していたボドゲ部。悩みながらも存続のために頑張る来栖まゆの助けになりたかったのだ。

 部長のまゆは、とても美しい少女だ。

肩まで書かかかる程度のウェーブヘアが夕暮れの風に流れれば、まるで妖精と戯れているかのよう。橙色の陽光に煌めく横顔はそれこそ神秘的な絵画を思わせる。

 容姿だけではない。誰に対しても気安く接し、悪戯っぽくからかうさまは小悪魔。かと言って性格が悪いわけではなく、面倒見のいいお姉さん気質。中も外も魅力的な点が多すぎて、語るのに困るくらいだった。※すべて古池康太の主観のため実際の来栖まゆとは仕様が異なります。

 

 ただ、康太自身はあまりボードゲームには興味がなく、これまでは名義貸し程度になっていた。

 しかし以前部員の久世友近と能登乃々乃と一緒にコスプレックスカードなるゲームに興じた。

 その結果ある程度ボドゲの楽しさを知り、以前よりは馴染んだと思う。

 あとゲーム内容がアレすぎて、大抵のボドゲに対して「コスプレックスカードよりは取っ組みやすいな……」と思えるようになる副次効果もあった。

 

 とは言え生徒会活動があるので、毎日顔を出すことはない。

 体育会系の真面目系な彼の優先順位はやはり生徒会が上だ。今日は部費の件で家庭科部に来たのだが、家庭科調理室に見知った顔があった。

 

「あ、古池副部長、お疲れーっす」

「久世?」

 

 久世はボードゲーム研究部の後輩である。

 ノリは軽いが、もともとはサッカー部だったらしく、先輩である康太を立ててくれるので意外と接しやすい男子だ

 

「なにをしているんだ、こんなところで」

「俺、料理が趣味なんで時々料理部の皆さんとご一緒させてもらってるんすよ」

 

 久世が「なー?」と言うと、料理部の部員が「ねー」と答える。

 馴染み過ぎだろう。久世がフットサル同好会に参加しているのは知っていた。さらに料理部も、とは。

 

「副部長はなんでこっちに?」

「ああ、料理部の部費に関して話があってな。部長はいるか?」

「おられますよ。あ、俺の材料は調味料まで持ち込みなんで悪しからず」

 

 部外者が部費で購入している調味料を減らすわけにはいかない。

 久世らしい気遣いだし、生徒会役員としても部外者に部費で購入したものを分けているわけではない、と事前に知れるのは有難かった。

 

「そうか……男子が、意外と多いな?」

「そりゃそうですぜ。もはや女の子だけが調理なんて時代じゃないっすから」

 

 言いながらも手は止まらない。

 久世の手付きは随分と慣れている。

 

「上手いな」

「俺は自分で、自分の土台を構成する要素は“水科葵”と“料理”と“チカちゃん”だと思ってるんすよね。シンプルに料理は楽しいし、サッカー部の合宿でやったりと、要所要所で俺の支えになってます」

「ちなみに今は何を作ってるんだ」

「鰆の竜田揚げっす。甘辛醤油だれと、たっぷりの生姜とネギであえます。白米がいくらあっても足りませんよ」

 

 そして久世は当たり前のように康太に“あーん”をしてくる。

 女子だけにじゃないのか、こいつ。……美味かった。

 

「美味い……」

「でっしょ。ボドゲ部で合宿がある際は是非この久世友近に飯係をおまかせあれ」

 

 ボードゲーム研究部の合宿ってなんだろうか。

 

「友近くんの味付け、濃い味でご飯のおかず向きだもんね」

「やっはー、俺は美春先輩みたいな繊細な味付け向いてないっすからね。お菓子はともかく、おかず系は自分の舌に合わせちゃうんで」

「私もそんなに繊細なわけじゃないよ」

「いやいや俺、先輩の高野豆腐炊いたの大好きっすよ。ニンジンに枝豆と色合いにも気を配ってるのがまたいい……」

「ありがとう。久世くんはおいしそうに食べてくれるから嬉しいなぁ」

 

 料理部の先輩は優しそうな、おっとりとした女子だ。

 久世とは仲が良いらしく会話は盛り上がっている。

 ……決して機微に敏い訳ではない康太だが、これはボドゲ部で話してはいかない内容だな、というのは理解できた。

 

 

 

 

 ※ ※ ※

 

 

 

 水科葵は、基本的に友近と行動することが多い。

 物心つく前から彼と一緒にいたし、小中高全部いっしょ。葵を構成する要素を分解していけば、“久世友近”がかなりの比重を占めているのは間違いなかった。

 

「水科さんって、久世と付き合ってるの?」

 

 だから、フットサル同好会の面々にはそう聞かれることもしばしば。

 放課後、廊下で歩いている途中に同好会の男子からぶつけられた質問。その意図を、葵はあまり理解していなかった。

 本人に自覚はないが、葵に好意を向ける男子もいないではない。が、防御壁(くぜ・ともちか)がそれを防いでしまう。

 偶に潜り抜ける輩がいても、葵本人も強固だ。

 

「えー、チカちゃんと? あはは、ないないっ」

「なんだ、そっか。ただの幼馴染、なのか」

「む。“ただの幼馴染”って言い方は嫌いかなー。特別だもん。ボク、たぶんチカちゃんいないと生きてけないよ?』

 

 恋人かと問われれば、葵は真っ向から否定する。

 大好きだし特別だけど、あくまでそういうドキドキとは縁遠い。幼い頃から一緒で、互いが互いを知り過ぎているから、そもそも恋だの愛だの考えたこともなかった。

 だというのに、同級生の男子を気付かないうちにばっさり切り捨てる。

 ついでに、今日はフットサルという気分でもなくなってしまった。

 

「ごめん、今日は同好会の方参加できないや。会長さんに伝えといてね」

「えっ、あっ、わ、わかった」

 

 戸惑う男子を置き去りに、ボードゲーム研究部に向かう。

 もともと同好会は大会を目指すガチガチの集まりではない。今日は皆で遊んでもやもやを振り払おう。

 

「こんにちわー!」

 

 元気よく部室の扉を開けると、来栖まゆ部長と同級生の乃々乃が二人でカードゲームっぽいのをしていた。カードが【スク水】とか【ブルマ】とか【婚約者】だけど、どんなゲームなんだろう。

 

「あら、水科さん? 今日はフットサルじゃなかった?」

「ちょっと気分が乗らなくてこっちに来ちゃいました。えーと、チカちゃんと、副部長は?」

「久世くんは、料理部の方です。副部長は生徒会業務。今日は女子だけですね」

 

 友近の趣味は料理だ。

 その理由は、彼の両親にある。確か中学一年生の頃だったか。友近の両親がインフルエンザに同時にかかってしまい、一週間ほど寝込んでことがあった。

 両親を心配した友近は、葵の母親に頼み込んでおかゆや鍋焼きうどん、食欲がなくても食べられる料理を学んだ。慣れない手つきで台所で奮闘する彼をよく覚えている。

 両親が「おいしい」と言っておかゆを食べてくれた時の感動を、きっと今も忘れていない。

 いつも茶化しているけれど、久世友近にとって誰かに振る舞う料理は「大事な人に、元気になってもらいたい」という気持ちそのものなのだ。

 

「……水科さんは何故うんうんと頷いているのでしょう?」

「この子も時々謎ね……」

 

 その元気になってもらいたい人の中に、部長も乃々乃も含まれていることに、彼女達は気付いていないだろう。

 だけど内緒。せっかくだから、教えるのはもっと面白いタイミングがいい。

 

「でもそっかー、二人ともいないのかぁ」

「残念ですね。せっかく、久世くんとプレイするようにエロボドゲをいくつか持ってきたのですが」

「乃々乃ちゃんはチカちゃんをどうしたいんだろう……」

 

 触手責めとか普通に言ってしまうあたり、色恋的なあれこれではないとは思う。

 でも、積極的にからかってるし、意外と乃々乃は小悪魔なのかもしれない。

 

「本当に、能登さんはその系統が好きね」

「ボドゲ中は、真面目な娘・乃々乃でなくてもいいですから。プレイする姿を父に見せたら確実にお説教です」

「なら、ここでしっかり遊んで行かないとね」

 

 言いながらまゆ部長は、ゲームを物色している。

 そう言えば、乃々乃の勧めるボドゲは大抵が男性向けのアダルトだ。 

 葵はふと気になって質問してみる。

 

「ねえ、乃々乃ちゃん。こういうのって、男の子向けのえっちなやつしかないの?」

「え? いえ、女性向けのボードゲームもありますよ。男性向けは直接性描写が多いですが、女性向けは関係性を重視したものが多いですね」

「へー、そうなんだ」

 

 たとえば、と乃々乃はいくつかのボードゲームを取り出す。

 

「これはファンタジー系の貴族令嬢を題材にしたTRPG“クリルティナ王国に咲き誇る華”。淫魔の迷宮のようなキャラメイクをして、キャラを演じるゲームです。クリルティナ王国を舞台に、私たちが貴族令嬢になって王太子との婚約を目指したり、商売を始めて大商家を作ったりします。人生ゲームに近いですね」

「おー、おもしろそう」

「ただし、これもエロボドゲなので。政略結婚やカラダを使って他貴族の篭絡する悪女なんて道もあります」

「お、おー……」

 

 やべえ。

 

「他には……そうだ、こっちはエロ要素はあるにはありますが、薄めですよ」

 

 そう言って乃々乃はもう一つゲームを取り出した。

 

「マイ・フェア・ホスト……?」

「マイ・フェア・レディのパロディタイトルですね。これは、TRPGにおけるキャラクリエイトをメインに据えたダイス式のキャラ作成ゲームです。せっかく女子だけですし、やってみませんか」

「キャラクリ……つまり、どういうゲームなの?」

 

 乃々乃は緩やかに微笑んだ。

 

「私たちはお客様、またはホストクラブのオーナーとなって。ダイスを使い、理想のホストを作っていくんです」

 

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