返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録 作:自宅戦闘員
梅雨が明けて、日差しはグッと強くなった。
そろそろ高校入学して初めての夏休み。教室もどこかそわそわした、落ち着かない雰囲気が漂っている。
中学の頃よりも活動範囲が広がり、新しい人間関係もできて、期待感は否応なく高まっていた。
しかし、その前に立ち塞がる門番がいる。
そう、鋼鉄の守護鬼・期末テストである。
ヤツを突破できなければ、夏休みの三分の一を削られる強力な一撃『夏休みの補習』がぶち込まれる。
具体的に言うとうちの高校は期末テストの赤点三つ以上で夏休みに強制で二週間補習が実施されます。
なので、テスト前の部活動停止期間を利用して、俺達は勉強会を開くことになった。
「でも部室、使えないのよね」
来栖部長が頭を悩ませている。
基本、停止期間中は部室への出入りもダメ。
なので別の場所を用意しないといけないのだが。
「ファミレスか図書館にするか」と古池副部長が提案するも、部長は静かに首を振る。
「無理よ。このメンバーで騒がずにいるのは不可能だもの」
うん、まあ、そうだけどね?
図書館追い出される未来しか見えねえぜ。
続けて乃々が申し訳なさそうな顔をする。
「同じ理由で、私の家も少し……」
「ああ、ご両親厳しいんだっけ。そうなると……」
決めかねている部長に俺はしゅたりと手を挙げる。
「なら、俺んちどうです? 騒がしいのにも慣れてますし」
「あれチカちゃん? ボクが騒がしいって話してる? その通りだよ?」
「その通りならなんで突っかかってきた」
「事実でもチカちゃんに言われるのはなんか納得いかないの! そっちだってウチですっごい騒いでるじゃん!?」
「くっそ、一切否定できねえ!」
葵が俺の家に来るのと同じくらい、俺も葵の家に行ってるからね。
あと俺の料理は葵ママのゆずかさん直伝なので、そういう意味でも非常にお世話になってる。
「そうだ、今度ゆずかさんに友近式アサリの白だしパスタ改・改の味見お願いしたいから行っていい?」
「おけー、土曜日ならママもいるよ」
「改・改は白だしに鷹の爪を加えたピリッと引き締まった一品でな」
「あの、すみません。そろそろ止めてもらっていいですか?」
妙に冷徹な乃々からのツッコミが入った。
確かにちょっと話が逸れたかもしれない。
「あーと、ともかくウチならイケますよ」
「ボクんちも多分大丈夫だと思います」
俺と葵の提案の後、しばらく考え込んだ部長は俺の手を取った。
「なら、久世くんにお願いしようかしら」
「うっす、おまかせあれ。お菓子を作ってお待ちしております」
「正直それを期待しているところはあったわ」
「嬉しいっす」
その対応に古池副部長は少しだけ不思議そうにする
「嬉しい、のか?」
「あー、チカちゃんの場合親しい人に作って振る舞うこと自体が趣味なんですよ。なので、ほんとに嬉しいと思ってます」
たぶん副部長は、上手い具合に使われているのに喜んでいるのが不思議だったんだろう。
でも葵の言う通り、俺は根本的にもてなすことが好きなのだ。もちろん親しい人限定だけど。
そして「親しい人限定」をきっちり把握してるから、葵はにやーっと笑っている。
「まあそんな感じなんで、副部長もリクエストがあればぜひ」
「そこはなんでも大丈夫だ。久世の料理が美味いのは知っている」
「どもっす、そう言ってくださるとありがたいです」
シンプルなお褒めの言葉をいただけた。
なら勉強会当日はちょっと気合いを入れるとしよう。
※ ※ ※
久世家は庭付き二階建ての一軒家。
お隣にはお葵ちゃんとこの水科家。そちらも似たような造りである。ちなみに俺も葵も自室は二階にある。が、残念なことに窓が隣接していて行き来可能、という幼馴染シチュはない。
前もって今度の土曜日には勉強会があると母さんにも伝えてある。今は、そのための準備中だ。
「ねえ、友近。それが勉強会の準備?」
「ああ」
「マメね、ほんとに。我が息子ながら」
うちの母さんはパートで週に三回くらい働きに出ており、父さんは商社勤務。
水科さんちは葵ママであるゆずかさんが専業主婦なんで、小さい頃は俺の面倒をよく見てくれていた。
なので母さんも料理できない訳じゃないが、俺の料理の師匠はゆずかさんの方である。
「よし、と」
会話しつつも手は止まらない。
やはり勉強会のお供なら片手で食べられるものにするべき。
ということで、ミニパウンドケーキを二種と、クッキーをいくつかといった感じで攻めようと思う。
パウンドケーキは寝かせた方がしっとり美味しいのでクッキーと共に前日に作ることにした。
ただ俺の料理スキルは基本的に家庭料理に重きを置いている。
菓子は作れるが専門外で、どちらかといえば乃々の得意分野だ。
「菓子の基本は計量。まずはきっちり、1グラムの狂いもなく、完璧にレシピを再現する……」
「なんで鬼気迫る顔でデジタル計量器を睨み付けてんの……」
なお台所で真剣に菓子作りに挑む俺を、母さんが呆れたような目で見ている。
「大体の料理はバーっとやってちょいちょいと味を調えれば何とかなるもんよ?」
「そういうのは慣れてる人だから言えることなんだよ」
まあ正直俺も普段の料理はここまできっちり計量しない。
あくまで菓子作りだからの慎重さだ。
つや、うちの母さんは結構適当です。趣味もアウトドア系で体を動かすのが好きなタイプお淑やか系のゆずかさんとは正反対である。
なので四人で出かけると、葵とうちの母さん、俺とゆずかさんの組み合わせが親子だと間違われることもしばしば。
「まあでも高校でもうまくやってるみたいで安心したわ。ん、美味しい」
さっぱりとした感じでそう言ってくれる性格は有難いと思う。
そして当たり前のように自分のクッキーを確保していくのがいかにも母さんだった。
ちゃんとそれを見越して作ってはいるけども。
そうして土曜日、勉強会当日。
約束の時間より少し早く、乃々がやってきた。
「おう、いらっしゃい」
「今日はお邪魔します。こちらの菓子折りは、お母様に渡させていただきますね」
「おー、チョコレートマカロン。ありがとな」
俺の手作りと被らないようなセレクション、敢えて店売りを選び俺の顔を立てる心遣い。
流石である。
「ところで、さっそく久世くんのベッドの下を確認したいのですが」
「させないよ?」
そっちも流石である。
つーか、ベッドの下にエロ本なんて隠してねーよ。大事なデータはパソコンの中に入っとるわ。
「つか今日はリビング使うからな? 俺の部屋に五人は狭すぎる」
「えっ……そ、そんな、あなたの部屋の探索を楽しみにして、おみやげも奮発したのに」
「観覧料込み?」
手土産があれば探索してもいいなんてルールはありません。
その後に「見るくらいなら……?」と遠慮がちに頼んできたのでそちらは了承しました。
リビングに乃々を案内すると、ちょうど母さんがいたので乃々は綺麗な所作で挨拶をする。
「友近くんのお母さまですか? 初めまして、能登乃々乃と申します。いつも友近くんには、学校でとても親切にしていただいています。本日は勉強会で、長々とお邪魔してしまうと思います。ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
「あ、はい。あ、はは……」
すげえ。まるで清楚な女の子だ。
……なんて考えたら脇腹を肘でちょこんと小突かれた。あれ? 俺の考えって漏れてる?
「ちょい、友近。こっち」
「うん?」
母さんに呼ばれて部屋の隅に行けば、がっしり肩を組みヒソヒソ話。
「あんた、部活の友達と勉強会じゃなかったの?」
「うん、ボドゲ部の」
「ゲーム部だから眼鏡の男の子だと思ってたんよこっちは。なによ、あのどー考えてもゲームに縁のなさそうな女の子は」
「すげー偏見」
むしろうちの部で一番のボドゲ過激派だよ。R18的な意味で。
「葵ちゃんと二股かけてんじゃないでしょうね?」
「まず一股もかけてねーわ」
分かれ道どころか通行止めの看板を立てられている気がしています
放っておかれた乃々が「あの……」と所在なさげにしていたので、とりあえず密談を辞めて戻る。
「ごめんなさいねぇ、まさか友近のお友達がこんな美人だと思わず、おほほ……」
「美人だなんて、そんな。久世くんとはクラスも同じでとても仲良くさせていただいています。お世話になってばかりで申し訳ないくらいです」
ちゃんとしているんだよなぁ、こういう時は。
「そうだ、おみやげが。お口に合えばいいのですが」
「あらら、ご丁寧に。たいしたおもてなしもできませんが、ゆっくりしていってね」
実は母さん、ちょっと戸惑っている。
家に来る男友達とも葵ともノリが違うから。
続けて鳴るチャイム。出迎えると今度は葵だった。
「おっじゃましまーす! あ、透子さーん、これウチのママからきゅうりの漬物だってー」
「いらっしゃい、葵ちゃん。ありがとうねー、ゆずちゃんの漬物美味しいから嬉しいわー」
「チカちゃん、部屋入るよー。新刊チェックぅ」
「おー」
勝手知ったる他人の我が家。
もう葵に関してはいつもこんな感じである。
なお彼女は「自分が好きなモノを買う。チカちゃんが好きなモノを買う。シェアすれば二倍HAPPY」という考えの持ち主であり、俺の持ってる漫画やゲームは半分くらい葵のものである。代わりに俺が葵のベッドでゴロゴロしてても文句なんて言われません。
そんなことを考えていると、乃々にぐいっと肩を掴まれた。
「あの、久世くん。葵さんと仲がいいのは当然です。同じ待遇を求めるつもりもありません。ですが、私は難色を示されたのに目の前で葵さんだけフリーパスでお部屋に出入りするのは微妙に納得がいかないのですが?」
いや、それはエロ本を探そうとするから……。
と言うこともできず、素直に乃々も部屋に通しました。
※ ※ ※
「これが久世くんの部屋ですか」
「別に面白いもんはないぞ」
「明らかにあなたの趣味ではない、子犬さんクッションがベッドにありますが」
「あ、それボクの寛ぎ用クッション」
葵が俺の部屋にいること、微妙に多いからね。
去年の夏休みとかコンビニ行って家に帰ってたら葵がベッドでお昼寝していて、いくら俺でも説教するレベルだったわ。
無防備も大概にせにゃ、この子のためにならん。
「……幼馴染って、すごいんですね」
「ちなみに定期的に洗濯したり日干しするのは俺だ」
「それはなんとなく知っていました」
葵が「ぬぐぅ」みたいな顔してたけど、普段の様子見てたら分かるよ、そりゃ。
「ありがとうございました、では戻りましょうか」
「あれ、もういいのか?」
「はい。どんなゲームするのか、どんな本を読むのか確認したかっただけですから」
昔はRPGもやったが、最近は格ゲーかパーティーゲームが主。
漫画もファンタジーやら冒険、バトルなど。いわゆる少年マンガを嗜むくらいで特別なものはない。
むしろ部屋で目立つのはダンベルだのサッカーボールだの運動系のものだと思うが。
それでも何故か乃々は満足そうにリビングに戻っていった。
あと葵は「とーう!」とか言いながら俺のベッドに飛び込むのをやめましょう。
ともかく、改めて勉強会である。
ゲーム出すまでいかなかったので次に