返坂高校ボードゲーム研究部によるエロボドゲプレイ記録 作:自宅戦闘員
雨尾山市にある返坂高校が俺の通う学校だ。
勉強もそこそこ運動もそこそこ。だけど有名企業の夏雅城グループが多額の寄付をしているらしく、高校のランクに比べて設備が良く敷地も広い。
部員ギリギリのボドゲ部にも部室があるのはその恩恵である。
六月も半ば。既に梅雨入りし、朝から雨の日も増えた。
今朝も雨の中、葵と並んで通学路を歩きながら、俺はふと考える。
久世友近を構成する要素をいくつかに分けると、目立つのは“水科葵”と“料理”と“チカちゃん”だ。
久世家の隣が水科家だった。
親同士の仲が良かったから、物心がついた頃には葵と一緒にいた。
小学校中学校高校も全部いっしょ。未だに二人で登下校をしているんだから相当である。
「でね、チカちゃん。聞いてよ」
隣を歩く葵の声は、いつもより少しだけ弾んでいる。
ぴょこんと生えたショートポニーテールを揺らして、快活な笑顔を見せていた。
「昨日見たグルメ動画で配信者さんが紹介してたもつ鍋がものっすごい美味しそうでね? ボク、今日のお昼はもつ鍋食べたい」
「学校で?」
「学校で。家庭科室を利用すればイケるとかイケないとか」
「イッちゃダメに決まってるだろこんちくしょう」
その笑顔で振る話題じゃありません。
なんで情緒的な朝に一頻りもつ鍋で盛り上がらにゃならんのか。
俺は幼馴染みの少女が見せる相変わらずのアホっ子っぷりに溜息をついた。
「なぜに溜息? もつ鍋最高だよ? 凝縮された肉の海原だよ?」
「なにその独特の表現」
「ボク、子ブタちゃんだし」
「……胸は貧乳に見えるけど?」
「あっ、チカちゃんがいきなりケンカ売ってきた。買うよ? 全然買っちゃうよ?」
俺にとっては、このじゃれ合いもう当たり前の光景だ。
明るく快活で、男女問わず誰からも好かれる。こちらにも元気をくれる太陽みたいな女の子。そう、昔から……
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<チカちゃんの美しい思い出>
『チカちゃん、お風邪ひいちゃったの!?』
『うん……あおいちゃん、うつるといけないから』
『あのね、おかぜの時は“いちじく”がいいんだって! おこづかいで買ってきたよ!』
『あ、あおい、ちゃん? なんで僕のズボンを、脱がすの?』
『ふふふ、チカちゃん知らないんだね? いちじくはお尻にいれると、よくきくんだよ?』
『やめてっ!? やめてよ、あおいちゃん!? そんな大きいのはいらないよ! あっ、ほんとにやめよ!?』
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「いちじくは浣腸だし風邪じゃなくて便秘の時だしそもそももうちょっと美しい思い出用意しといてくれよぉ!?」
「なにがっ!?」
思い出にツッコむ俺の叫びに葵ちゃんがビクビクゥってしてました。
ごめん、やっぱり太陽みたいな女の子じゃないわ。どっちかっていうと周りを巻き込む誘爆系幼馴染みだわ。
なお、いちじくは俺のお尻の穴に挿入される前に水科ママに発見されご家族で美味しくいただいた+葵がしこたま怒られたことを追記しておく。
※ ※ ※
「久世くんと水科さん、仲いいですよね」
お昼休み。
部室を借りて一年生トリオで昼飯を食べていると、不意に乃々がそんなことを言い出した。
俺と葵はお互い顔を見合わせる。
まあ、仲は良い。でも改めて指摘されると変な感じだ。
「仲は、いいよね?」
葵が小首を傾げながら聞いてくる。
俺もまた微妙にはっきりしない感じで答えた。
「いいぞ。そこは自信持ってくれ」
「だよね、うんうん。一番距離の近い男子ってチカちゃんだし」
「俺も葵だなぁ」
「えっ、なんですかその感じ」
もうちょっと違う反応を期待していたのか、少し乃々が戸惑っている。
俺達の方も戸惑っているのでお相子だった。
「いやー。なんというか、チカちゃんとはちっちゃい頃からいっしょだったから、仲いい悪いの前に一緒にいるのが当たり前というか」
「だな。中学の時とか喧嘩しても登下校は二人でしてたわ」
「あー、そうだったねー。お互いそっぽ向きながら並んで歩いて……よく考えたら変なことやってるよねボクたち」
あはは、と笑う俺達をいる乃々は微妙な表情をしている。
傍から見たら変なのは分かるんだが、俺と葵はそういう関係を構築している。いや、してしまった、というべきなのかな?
この年齢になっても手を繋いだりハグしたりに抵抗がないのは、あんまりよろしくないというか。
たぶん、これから俺にも葵にも彼氏彼女が出来て、ちょっとずつこの奇妙な関係のツケを払っていくんだろうなぁと思う。
まあそれはそれとして、葵と遊ぶのは楽しいので今はこのままでいたいとも願っていた。
「一緒にいるのが当たり前ですか。ボードゲーム的にはそこから色々とエロい展開に繋がるのですが」
「よし、乃々。ちょっと待とう。全てをエロいボドゲにつなげるのは良くない」
「“幼馴染に夜這いをかけよう”って作品もありますよ?」
「守備範囲広すぎんだろボドゲ業界……」
乃々ちゃんが、とても、怖い。
まあ俺と葵はそういう艶っぽいイベントはあんまりない、健全な幼馴染だ。
なおボドゲ部に入ってからわりと健全じゃないセッションが増えた件について。
「この部に来るまでボードゲームって人生ゲームとかスゴロクとかくらいしか知らなかったけど、本当なんでもあるよね……」
「水科さんはアウトドア派ですよね」
「うんっ、カラダ動かすの大好き。今日はフットサル同好会の方に行くよ」
乃々の言葉にぺかーっと眩しい笑顔を見せる。
葵はボドゲ部とフットサル同好会を兼部している。
同好会の方は部への昇格を目指しておらず、あくまでフットサルを楽しむというスタンスなので、時折俺も混ぜてもらっている。
「こいつ基本体動かしてないと生きていけないタイプの人間だからな。泳ぎ続けないと呼吸できないマグロとかサメとかの同類」
「うむ、その通り。まさしくマグロ女!」
「おい馬鹿やめろ。せめてサメ女にしろ」
「えー、サメ女だとなんか特撮の怪人ぽいじゃん。イメージよくなくない?」
「世間的にはマグロ女の方が外聞悪いわ。ていうか俺が悪かったから絶対よそでは言わないでくださいお願いします」
「ん、ん? まあチカちゃんが言うんなら?」
もう殆ど懇願レベルで釘を刺しておく。でないとこのアホの子は確実に、間違いなくクラスの男子の前でも「私、マグロ女だから!」とか平然と言うに決まっている。葵の行動パターンなんて分かり切っているのだ。
ただこちらの言うことは基本的に留意してはくれるので、とりあえずは安心だと思いたい。
「マグロ女……でしたら」
「乃々、ステイ」
「いえすマスター」
優等生然とした和風美少女ですが、たぶんウチの部でも上位の悪ノリ勢は乃々である。
トップは不動のまゆ部長です。
「乃々はなんでこの優等生美少女っぷりでエロボドゲ好きなん……?」
「抑圧されているものを発散する手段を求めた結果面白くてハマっただけです。家でも学校でも優等生なら、せめて架空の世界ではっちゃけたいんですよ」
「そこで自撮り投稿とか怪しい援助活動に行かないのは、普通にいい子だとは思うけどな」
「私を舐めないでください。文科系一筋かつ教室の隅がでデフォルトな陰キャにそんな勇気あるわけないじゃないですか」
なんでそんな自信満々なの?
「というか、お二人とも体育会系ですよね? 久世くんは、中学の頃サッカー部で全国大会にも出場したとか」
「おー、そうだぞ。って、あれ? その話したっけ?」
「いえ、来栖部長から聞いただけです。久世くんたちと同じ中学出身の子と友達らしく」
「んな大層な話じゃないって」
乃々から伝えられた内容は、俺が中学時代はサッカー部で活躍した名ディフェンダーだということ
けれど決して驕らず真面目に練習を重ねる努力家。他の部員と違ってマネージャーに下心で接しない。普段は偉そうにしないし話しやすくて気遣い上手、だとか。
「美化が過ぎる。俺、レギュラーだっただけでそこまで活躍もしてないぞ」
「気遣い上手とか絶対チカちゃんじゃない違う人の評価混じってるよ」
「そこは、私からは何とも。でも、サッカー部に入ろうとは思わなかったんですか?」
「うん、全然。元々高校では家庭科部希望。今はボドゲ部もフットサルも面白しから未練は欠片もなし」
中学の頃は練習頑張ったけどね。
あんまりノリが合わなかったので、まあ高校は無理だなーとはずっと思ってた。
「もしかしてサッカー、あんまり楽しくなかったんですか?」
「いや、楽しかったぞ?」
ただ、と。
俺は、ぎこちない笑みを落としてしまった。
「たださ、才能がなかったんだよ。だから続けようとは思えなかった」
「でも成果を出せたなら、トップクラスではなくても相応の能力はあったのでは?勿論努力ありきでしょうけれど」
「そうじゃなくてさ。なんつーか、俺が好きなサッカーって、結局は昔公園で葵とやってた球蹴り遊びなんだよな」
その物言いに乃々はきょとんとしてしまった。
仕方ない。俺自身上手く形に出来ないもやもやとした感情だ。
鬱屈としたものを吐き出すように、溜息と一緒に言葉を零す。
「葵は、もう見るからに元気の塊だろ? 子供の頃からそうで、二人だけでサッカーボール追いかけて、気付いたら夕暮れ時なんてザラだった。俺にとってのサッカーってそういうのなんだ。勝ち負けとか、技術を磨くとかより前に、気の置けない友達と一緒に夢中で一つのボールを追いかける。それを楽しむもの」
スポーツよりも遊び。
部活に入ってもその認識は変わらなかった。
練習が嫌いだとか、そういう話じゃない。格闘ゲームをやるならコンボを磨くのは当然。ボドゲなら定石を学んでこそ勝率も上がる。アウトドアやレジャーなら熟達すればより面白味も増す。
毎日毎日くたくたになるまで練習。それを嫌だと思ったことはない。
勝つ為ではない。ハードなトレーニングによって培われるフィジカルもテクニックも、サッカーを楽しむために必要な一要素だからだ。
だから、本当の意味では真剣じゃなかったんだよなぁと思う。
「中学の頃、皆よく言ってた。“次の試合絶対勝つぞ”って、“目指せ全国制覇だ”って……なにより“負けられない”って。俺はそうじゃなかった。いや、勿論優勝を目指してたぞ? その為に頑張ってたんだから。でも、負けたっていいじゃないか。一試合一試合全力で臨めば、目に見える結果は出せなくても。勝って泣くのも負けて泣くのも、どっちも勝負の醍醐味。負けだってサッカーの楽しみのうちの一つだろ?」
部活では終ぞその考えを口にはしなかったけどさ。
一丸となって優勝を目指す中、空気を読まずに和を乱す真似はできなかった。
部員にはプロになりたいと言う者もいたが、その夢を応援こそすれ、自身がプロになる姿は想像できなかった。
どこまで行っても俺にとってサッカーは遊びの延長。楽しいで終わってしまうし、楽しいだけで終わるべきものだった。
多分それがしこりになっていたのだろう。高校に入学した時、自然とサッカー部の優先順位は下がっていた。
「突出した技量とかフィジカルがあればそのままでも行けたんだろうけど、残念なことに選手としての実力もそこそこ止まり。やる気も能力も中途半端な俺じゃ、高校では付いていけないって初めから逃げたわけですよ」
俺はサッカーが好きなのであって、部活動が好きなのではない。
努力はしても、勝とうが負けようが楽しいサッカー。
その意味で、勝つために一丸になって頑張らないといけない部活は、楽しい反面息苦しくもあった。
「だからボドゲやフットサルの方が性に合ってるんだよな。負けても楽しめばそれでいい、なんてまさに俺の趣味に合ってる」
「つまり、チカちゃんはボクと遊べれば何でもいいんだよねー」
「葵、事実陳列罪」
「へへーんだ」
終始楽しいで完結できるボドゲは面白いし、男女混合だから葵とも一緒にやれるフットサルは最高だ。
「まあサッカーが好きなのはそうだし、将来的には家庭を持って普通の会社員しながら休日にフットサルくらいが一番いいな、俺は」
「あー、いいね。お弁当はチカちゃん担当でお願いします。から揚げと梅おにぎりがいいです」
「甘い卵焼きも入れとくよ」
「さっすが分かってる!」
らしくない語りに照れたせいか、じゃれ合うような葵との会話が心地良い。
でも何故か乃々は「んん……?」と小首をかしげている。
「えと、将来の話、ですよね?」
「おう、そうだぞ」
「そうだよ?」
(なぜこの人たちは家庭を持った後も関係が変わってない前提なのでしょうか……)
終始乃々は不思議そうな顔をしていたが、なんだかんだで食事を終える。
今日はいつもの昼食に、俺がつくったスープを付けたので、せっかくだから乃々にも振る舞った。意外と好評だったようで一安心だ。
「ごちそうさまです。“なんちゃってもつ鍋スープ”、美味しかったです」
「そらよかった。もつを小さめに切って、野菜はレンチンで下処理して、短時間で作った割りには中々だろ?」
「ええ。これ、わざわざ家庭科室を借りて作ったんですか?」
「まあ、な」
一瞬口ごもると、葵が俺の背中をばんっと強めに叩いた。
「へへー」
「にゃろう」
お互い意味の分からない言葉を言い合う。
実際乃々は理解できていないといった様子だが、まあ俺と葵の関係はこんなもんである。