え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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10. 写真現像からかぐや争奪戦まで

 

 

 

生者必滅、命あるものには必ず終わりがやってくる。

 

これは生ある動物に対してだけではない。

 

意志のない無機物や、目に見えない概念にも同様のことが言えるだろう。

 

JK4人組の足として海水浴へ向かったあの日。

 

そこで諌山さんや綾紬さんと話していた際に少し意識した、俺たちの関係の終わり。

 

俺たちの関係の中心にいるのは、一か月前に突如として現れたかぐやちゃんだ。

 

今でこそ恐ろしい位に馴染んではいるが、かぐやちゃんはそもそも地球人ではない。

 

約三十八万キロも離れた月からやってきたという宇宙人だ。

 

余りにも退屈すぎるという理由で、月から地球へと逃げ出してきたかぐやちゃん。

 

理由が理由だけに、彼女自身が能動的に動いて月に帰宅するということには非積極的である。

 

帰宅方法を思い出せという酒寄さんに、作り立ての犬DOGEと戯れながら聞いているのか聞いていないのかわからないような態度で、それは難しいと言い放ったのは記憶に新しい。

 

今ではすっかり板についた配信活動の中でも、ZETTAI帰んないから!と発言しては酒寄さんにはよ帰れと突っつかれている。

 

そんな彼女も、本人曰くいつかは月からお迎えが来るかもしれないらしい。

 

明確な時期というのは、ゲーミング電柱から生まれて以降一か月が経とうとしている今でも定かになってはいないが。

 

ていうかそもそも素直に帰宅するのかね?割と抵抗というか駄々をこねそうな気がしてるんだけど。

 

んまぁ時期が不透明なうえに本人の意思に反していれど、いつかはかぐやちゃんとお別れする日が来るだろう。

 

そして、それはそのまま俺がみんなとお別れすることを意味している。

 

かぐやちゃんがいなくなれば酒寄さんが俺と関わることも減るだろうし、そうなれば綾紬さんや諌山さんとも自然と疎遠になるだろう。

 

俺って綾紬さんと諫山さんからすれば友達のお兄さん兼酒寄さんの従兄弟ってだけで、それ以上でもそれ以下でも無いんだよね。

 

友達との接点がなくなれば、そりゃ当たり前に今より距離ができるだろう。

 

酒寄さんにしてみれば、そもそも従兄弟という関係も嘘っぱちの、ただの協力関係。

 

かぐやちゃんが帰れば協定は無かった事になり、また挨拶と軽い世間話をするだけのお隣さんに戻るだろう。

 

海でも何回か想像してはみたが、そのたびに悲しいと感じる自分がいた。

 

お、おれ...友達まともにいなかったから...余計つらいっ...!

 

学校生活とか前世に関しては姉や妹のサポートとかで他人に気を向けれる時間なかったし、今世に関しては精神年齢の差から普通に浮きまくった。

 

社会人なってからそれなりに喋る人みたいなのは増えたけど、友達かといわれると...うーん...。

 

まぁ何が言いたいかというと、海行ったりゲームで遊んだりを他人とやっている今の状況をめっちゃ楽しんでるし、内心無くなるのをクソ惜しんでいるのだ。

 

こんな、人と遊んだりするのがこんなに楽しかったなんて…。

 

なんで誰も教えてくれなかったんですかぁ!!?

 

成人男性がJKとの繋がりが切れるのを惜しんでいるという、字面だけ見れば事案もいいところだが、それでも悲しいもんは悲しい。

 

俺ですらまぁ結構心にグサっと来ているんだ。

 

かぐやちゃんとかもっと辛いだろう。

 

今まで一緒に過ごしてきて知ることができたかぐやちゃんの人となりや言動をもとに考えると、あっさりと別れるような光景はちょっと想像できない。

 

JK三人に凄いなついているしなぁ...。

 

散歩からの帰宅を断固拒否する柴犬みたいになりそう。

 

大地に根を張るかぐやちゃんの腕をひぃこら言いながら引っ張る酒寄さんが見える見える...。

 

うんとこしょ、どっこいしょ、それでもかぐやは抜けません。

 

竹取物語じゃなくておおきなかぶだったか...なんて考えていると、カウンターの奥から店員さんが戻ってきた。

 

お礼を言いながら、店員さんが手に持っていた封筒を受け取る。

 

封筒の中身を確認すると、そこには30枚近くの写真が入っていた。

 

今俺は、最寄り駅の近くにあるカメラ専門店に来ていた。

 

なにしに来たかと言えば、まぁ見てわかる通り写真の現像だ。

 

現像している写真は、例の海に行ったときに撮影したものである。

 

水着なんて買った記憶ねぇぞと押し入れを漁りながら海に行く準備をしていた時のこと。

 

顔を出してきたのは海パンではなく、最近では見ることの少なくなった使い捨てカメラであった。

 

あ~...そういえば年末に商店街のくじ引きかなんかでもらってたっけか。

 

そのまま押し入れの肥やしにするのもなんだしということで、そのまま海に持って行った。

 

なお写真を撮っていいかを確認する瞬間まで、JKの水着姿を写真に収める成人男性という絵面のヤバさに気付かなかったのはここだけの秘密。

 

ていうか海でも酒寄さんに言われたけど、俺コンプラに怯えすぎじゃね?

 

危機感高めで持ってるのはいいんだけど、考えなきゃいけない場面に遭遇し過ぎって言うか...。

 

え?気にしすぎなだけ?それは...そう...かも。

 

気付いたらコンプラのこと考えてるし、コンプラのことで頭がいっぱいになる。

 

実質コンプラに恋してるようなもんだろここまで来たら。

 

写真撮っていい?と聞いた瞬間にノータイムでごめん今の嘘忘れてと発言する珍ムーブをかましてしまったが、無事に許可は下りた。

 

俺が撮影したのは結局最初の一枚だけだったんだけど。

 

残りのフィルムは、カメラにいたく興味を持ったかぐやちゃんがすべて使い切った。

 

まぁ...本人が楽しそうだったから良しとしよう。

 

ざっと枚数だけを確認してから店を出る。

 

外は既に日が落ちて暗くなり、街灯やビルの灯りが眩く光っていた。

 

同じく仕事帰りであろう人たちの波を避けながら、アパートへと歩みを進めた。

 

晩御飯どうしようかな〜と自宅の冷蔵庫の中身を思い出しながら献立を考えていると、ポケットに入れていたスマホが震える。

 

取り出して画面に映る通知を見ると、酒寄さんからメッセージが届いていた。

 

何の用だろうと思い、メッセージアプリを開いて中身を確認する。

 

そこには、帰宅した後にツクヨミに来れないかという旨の文章。

 

遊びの誘いかなと一瞬思ったが、酒寄さんはそういう時はちゃんと遊びませんか?って分かりやすく書いてくる。

 

コラボの誘いも同様だ。

 

…いや俺配信者じゃないからコラボでも何でもないんだがね。

 

あとかぐやちゃんの場合は、用件を書かずに来て!!!の2文字だけ送りつけてくる。

 

5W1Hのどれかはつけろよ流石に。

 

基本的には丁寧で分かりやすい文章を送ってくる酒寄さんにしては珍しく、詳細が省かれたメッセージだった為少し驚いた。

 

何かあるんだろうな…と思い、特に深いことは聞かずにOKの連絡を返す。

 

返事を打ち込んでいる間に、ずっと渡しそびれていた祖父から送られた夏野菜達の存在を思い出し、貰ってくれないかというのも返事に付け加える。

 

返信すると、どうやら丁度チャット画面を見ていたらしく即座に既読がつき、助かりますという返信が来た。

 

相手の返信でチャットを終わらせるのがなんか嫌なので了解と書かれたヤチヨさんのスタンプを送る。

 

チャットツールとかの会話って終わらせ方に困ったりしない?

 

これ返信しなかったら俺がメッセージ無視してるって思われるんじゃないかみたいな疑心暗鬼の心がフッと湧いてきたりするんだよなぁ…。

 

俺は取り敢えずさっきみたいに了解の意のスタンプを送ってそれで終わりにするタイプ。

 

ちなみにさっき使ったヤチヨさんのスタンプは、最近新発売されたもので酒寄さんがプレゼントしてくれたものだ。

 

いやいつもの節約癖はどうした。

 

曰く、同志なら持っていて然るべきだとか。

 

あ、あのぉ…だからぁ…それ勘違いでぇ…俺そんなヤチヨさんにお熱じゃなくてぇ…。

 

気持ちは嬉しいが普段の節約具合を見ている身からすると申し訳なさが勝ってしまう。

 

身を削ってまで布教しなくても良いのではと伝えたら、宗教上の理由により不可と返ってきた。

 

身銭切っての布教がルール化されてる宗教怖すぎだろ。

 

え?私は十分幸せです?あ、そう…。(諦観)

 

まぁ本音のところはスタンプを送り合う奴が欲しかったが友人に勧めるには私的理由が大きすぎたからってんで、俺に白羽の矢が立ったのだろう。

 

貰った手前突き返すこともできない為、普通に使わせてもらってるし助かってる部分もある。

 

そんな事を考えながらスマホをポケットにしまい直し、再度手に持った封筒を開ける。

 

枚数を数えている時には中身をよく見ていなかったので、かぐやちゃんがどういう写真を撮ったのか気になったままなのだ。

 

封筒から写真を取り出し、一枚一枚に目を通していく。

 

そこには随分と楽しそうな表情の彼女たちが収められていた。

 

上手く撮れてるなぁ…いや…上手く撮れすぎてるな。

そういえばかぐやちゃんも大概天才側の子だったなぁと今更思い出す。

 

プロ顔負けの構図で撮られたその写真は、彼女たちの顔面偏差値も相まってまるで絵画のようだった。

 

使い捨てカメラ特有のスマホのカメラで出せない味みたいなのが、更に写真の良さを出している。

 

スマホのカメラでよかったな、みたいなことにはならなさそうで一安心。

 

歩きながらこんな事してるから最近やたらと人にぶつかられるだろうな〜と考えるが、写真を見る手は考えに反するように動き続けたままだ。

 

しかし、ふとその手が止まった。

 

手が止まったのは、通りがかりの人に頼んで撮ってもらった五人集まっての写真。

 

画角に映りかつ極力体が離れるようにと配慮した為に端っこ限界ギリに映っている俺。

 

その顔は、自分でもびっくりするくらいには自然に笑えていた。

 

自撮りなんて趣味もなければ友達もいないから写真を撮る機会が極端に少ない。

 

せいぜい撮ったのは卒アルに載せる為の写真くらい。

 

当時は、周りの子供と自分の精神年齢のギャップのせいもあってか、側から見てまぁまぁ不自然で引き攣ってるような笑顔しかできなかった。

 

今世の母はその卒アル見てもか"わ"い"い"って言いながら号泣していたが。

 

俺…こんな顔で笑えるんだな…。

 

別に俺感情ねぇからなんて厨二病みたいなこと言うつもりはないが、自分の自然な笑顔を客観視したのなんて随分と久しぶりな気がする。

 

彼女たちには、色気のなかった俺の人生を随分と楽しくしてもらってるなぁ。

 

どっかでみんなにまとめてお礼をしなくちゃいけないかもな。

 

...あ!色気ってそういうことじゃないからな!?

 

人生の彩が~みたいなニュアンスだからな!!!

 

誰にしてるかわからない弁明もそこそこに見終わった写真を封筒に戻し、カバンに折り目が付かないよう気を付けながら入れる。

 

今普通に仲良くしてるのって一人例外だけどみんな高校生なんだよなぁ…。

 

そう考えると、学校の同級生とかとも仲良くなれるチャンスはあったんじゃないだろうか。

 

多分、俺が仲良くなろうと、理解しようと、歩み寄ろうとしてなかっただけなのだろう。

 

確証はないが、なんとなくそんな気がした。

 

後ろの席の須藤君。

 

委員長気質の畠中さん。

 

ムードーメーカーの飯島君。

 

今になって同級生の顔がありありと浮かんでくる。

 

ちょっと勿体なかったかもな…。

 

給食のじゃんけんで自らの給食費を賄賂にあてた寺下君。

 

鳥のように自由にと書いた進路票を紙飛行機にして飛ばし続けた馬場さん。

 

職員室の前でソ連国歌を熱唱した宮間君。

 

... やっぱ関係持たなくて正解だったかもしれん。

 

母校きっての問題児たちの蛮行を思い返しながら、夜空を見上げる。

 

そこにはいつもと変わらない見慣れた月が、太陽の光を反射して爛々と輝いていた。

 

あくまで迎えがくる「かもしれない」なのだ。

 

実は来ませんなんてことも案外、可能性としてはゼロではない。

 

逆に、月からのお迎えが今三十八万キロの道のりを歩んでいる途中ということだってあり得る。

 

まぁどっちに転ぶとしても、今はこの何にも変え難いこの関係を楽しませてもらおうかな。

 

仕事帰りだというのにやたらと軽い足取りで、残りの帰路を進んでいくのだった。

 

 

 


 

 

 

家に帰宅したが、部屋にかぐやちゃんはいなかった。

 

ライブ配信の通知はスマホの方に来ていたので、今日は酒寄さんの部屋で配信しているんだろう。

 

カバンを置いて中から写真の入った封筒を取り出し、スーツを脱いでハンガーに通す。

 

ラフな格好に手早く着替えてから、スマコンと写真の入った封筒、夏野菜を適当に入れた段ボールを持って部屋を出た。

 

酒寄さんの部屋の呼び鈴を鳴らすと、十秒程度で酒寄さんが顔を出してきた。

 

その顔からは大きな倦怠感が見て取れる。

 

な…なんか凄いゲッソリしてんね…どしたの?

 

そう問いかけるも取り敢えず中へと手を引っ張られ、されるがままに部屋にお邪魔する。

 

部屋では案の定かぐやちゃんが配信しており、コメント欄に向けていろいろとお話をしていた。

 

お邪魔しちゃったのは不味かったかなと一瞬思ったが、周りにカメラの機器が無かったのでおそらくはツクヨミの方で配信しているのだろうとすぐに察しがついた。

 

部屋に入ってきた俺に気がついたのか、ARモードにスマコンを切り替えたかぐやちゃんがおかえりと手を振ってくれた。

 

ただいまと返事を返しつつ、野菜ここに置いとくね〜と言いながら冷蔵庫の近くに段ボールを下ろす。

 

そして手に持っていた封筒をかぐやちゃんに渡す。

 

はいこれ、海行った時にかぐやちゃんが撮ってた写真。

 

そう言って手渡すと、嬉しそうに受け取っては配信そっちのけで写真を見始めた。

 

それで良いのかと思いつつ、未だゲッソリし続けてる酒寄さんに要件を聞いた。

 

しかし、説明するよりもツクヨミに入って私の招待受けて現状を見た方が早いと返された。

 

…うーん…嫌な予感しかしない。

 

そもそも酒寄さんは基本、かぐやちゃんが配信してる時は勉強していることが多い。

 

そうしていないと言うことは、酒寄さんは今かぐやちゃんの配信にいろPとして出演しているのだろう。

 

それで謎の救援要請ってことは、配信内でなんか問題が起きたということだ。

 

自分で起こした問題なら自分たちで解決してくれません?

 

あのぉ!なんか勝手に一員に数えられてますけどぉ!俺別にかぐやいろPチャンネルのメンバーじゃないんだよねぇ!!!

 

コラボ出ておいて今更何をというツッコミはスルーだ。

 

俺の自認はどこまで行っても一般人なんだ。

 

しかしそんなこと言ってもかぐやちゃん達がその話を聞き入れてくれるとは思わない為、半ば諦めながらスマコンを装着する。

 

酒寄さんに許可を取ってから、その場でツクヨミにログインした。

 

今では見慣れた謎銀河から波ザッパーン、朝から夜への切り替わりをヤチヨさんが厳かに告げる光景。

 

条件反射でヤチヨさんにあいおつかれーすと返して、いつもの大鳥居の前にホップする。

 

メニューを開くと右上の方に、酒寄さんからのKASSEN~SETSUNA~の対戦カスタムルーム招待の表示が出ていた。

 

KASSENにはいくつかのモードが実装されており、幅広い楽しみ方ができる。

 

SETSUNAというのはそのモードのうちの一つで、一対一のガチンコ対決で遊ぶモードだ。

 

基本的に誰かと遊びたがるかぐやちゃんは、あんまりこのモードをやることは無いと踏んでいたんだが…心境の変化でもあったのかね?

 

取り敢えずウィンドウを操作して招待を承諾すると、目の前が光に包まれる。

 

次に目を開けると、既に別の場所にワープしていた。

 

左手の方にはレトロなゲームセンターを思い出させる格ゲーの筐体が何台も並んでいる。

 

右手の方には、それなりの人数が座れそうなベンチとテーブル、自販機や売店と、一番目立つ壁に設置されたどデカいモニター等が集まった休憩所。

 

ここはSETSUNAモード専用のカスタムルームだ。

 

KASSENは各モード毎に待機所やカスタムルームのデザインが違うという、随分と凝った作りになっている。

 

ほへ〜…こりゃまた格ゲーの筐体なんて珍しい。

 

最近じゃもう見ねぇだろ。

 

見慣れないルームを適当に観察していると、休憩所の一角にかぐやちゃんといろPを見つけた。

 

かぐやちゃんの近くには浮遊型カメラもあった。

 

彼女らに近づいて浮遊型カメラに適当に挨拶をする。

 

その後、なんで呼ばれたのか事の詳細を聞く。

 

どうも最初はただの雑談配信をしていたらしい。

 

ところがその枠内で、かぐやちゃんに求婚をするコメントが連投されたとか。

 

俗にいう荒らしというやつだろう。

 

即座にいろPが対応してくれたのも束の間。

 

悪ノリし始めたリスナー各位が、ふじゅ〜を送りながらコメントができる所謂スパチャというもので求婚し始めたらしい。

 

悪ノリしているというのは雰囲気的に理解しているし、お金がかかっている以上無闇にBANする訳にもいかず、かといってヒートアップしてしまって収拾がつけらない。

 

鎮静化できない状況に頭を抱えたいろPを尻目に、かぐやちゃんがこの状況を収めるべく一石を投じた。

 

曰く、いろPに勝ったら結婚してもよいと。

 

かぐや争奪KASSEN選手権の開催が、かぐやちゃん本人の口から宣言されたのだった。

 

投じたのは石じゃなくて爆弾でした…テロリストかな?

 

宣言を受けて沸き立つリスナー。

 

コメント欄は今までに見たことがないようなスピードで更新されていった。

 

すぐに撤回するようにかぐやちゃんに詰め寄ったものの、いつものおねだりにより酒寄さんは陥落。

 

いやそれはもう酒寄さんが断らないのが悪いじゃん、俺帰っていいかな。

 

そこからはいろPの一人舞台。

 

数多来るリスナーを千切っては投げ、千切っては投げ。

 

怒涛の二十八連勝で未だにリスナー軍団に対して一度も勝ち星を譲っていないらしい。

 

素直にそれは凄いねと拍手をする俺に、褒められたのが照れくさいのか若干頬を赤くする酒寄さん。

 

しかしそれも束の間、すぐに疲れたような顔をしながら戦っても戦ってもキリがないと言い、俺の後ろを指差す。

 

そこには、休憩所の椅子を埋め尽くす程の人数のリスナー達が待機していた。

 

かぐやちゃんの人気を考えると、このルームに入れなかったリスナーも後に控えているであろうことは想像に難くない。

 

大変そうだなぁ〜…てことはあれかい?

 

この大人数を捌くの手伝ってくれってことかい?

 

話の流れ的に推測できた理由を挙げたが、酒寄さんはいいえと首を横に振った。

 

ん〜?だったらなんで呼ばれたんだ…?

 

疑問を口にする俺に、酒寄さんは手伝いとかじゃなくて残りの相手全部お願いしますと言い放った。

 

………はい?

 

予想だにしない押し付けに思考停止した俺を他所に、せかせかとその場を去ろうとする酒寄さん。

 

即座に酒寄さんの着ぐるみのバックネックのあたりを鷲掴んで持ち上げることで逃走を阻止。

 

は?無理だが?普通に。

 

手足をバタつかせて逃げようとする酒寄さんに対して、にべもなく無理だと返した。

 

しかし酒寄さんは、悪びれる様子もなくいや私も疲れたんで無理ですと言ってきた。

 

おにいさん仕事帰りなんだけどなぁ〜♡と圧をかけるが、奇遇ですね〜私もバイト終わりだったんです〜♡と全く効いていない様子。

 

肝が据わりすぎてるぞこのJK。

 

ていうか、そも人数的に俺一人じゃ捌ききれないのもそうだけど、俺と酒寄さんじゃあ実力が違いすぎる。

 

この人、まぁお察しの通りKASSENにおいても超人でクソ強だからな?

 

そこいらのプロゲーマー位なら多分勝てるレベルだぞ?

 

酒寄さんよりKASSEN弱い俺に、騎士の代役みたいなのが務まる訳ないだろ。

 

酒寄さんを下ろして、そう反論してみたが聞く耳持たず。

 

それどころか、マッチング準備完了した時点で相手がいなくなって終わりますなんて言い出す始末。

 

んな訳ねぇだろ!と凄んだところで効果なし、酒寄さんに首根っこを掴まれ格ゲーの筐体の前に運ばれた。

 

やり返された…。

 

ていうか俺の方が身長高いのに…なぜ俺の首根っこをつかめるんだ…?

 

かぐやちゃんにそれでいいのかと聞いてみるも、あーそういうことねと何か察した表情で、ひでちゃんなら大丈夫だよ~と返してきた。

 

自分の結婚がかかっているにもかかわらず随分とリラックスしているというか、余裕がありそうなのが見てとれる。

 

世の行き遅れたちは必死こいて番を探しているというのに...。

 

無論、俺もそちら側だということは今更言うまでもない。

 

今俺のこと行き遅れって言ったかお前。(豹変)

 

ていうかそんなことはどうでもよくて!

 

問題は酒寄さんやかぐやちゃんが何を考えて、代役に俺を選んだのかだ。

 

むしろ勝ち目が増えたから、いなくなるどころか余計に対戦希望者が増える気がするんだけどな。

 

んー…考えが読めん…一体何を…。

 

取り敢えずわからんことは考えても仕方がない。

 

目の前の格ゲー筐体を操作して、準備完了の操作をする。

 

五人チームのモードならやったことあるんだけどなぁ…。

 

一人でのモードは初めてだから正直不安しかない。

 

休憩所の方に設置された大きなモニターに、俺がマッチング待ちになったという表示がされた。

 

するとどうだろう、ベンチに座っていた何人かが、ただ事ではない形相でツクヨミからログアウトし始めた。

 

配信に余計な発言を載せない為であろう、リスナー達が何を言っているかはミュートされていたので聞こえなかったが、何か化け物でも見たかのような怯えようでログアウトしていた。

 

お、おう?なんかトラブルでも起きたか…?

 

明らかに何かが起こっていると思われる状況に、筐体の前から立ち上がり休憩所の方へ足を向ける。

 

すると俺を見たリスナー達が、俺の前を避けるように両サイドに分かれ始めた。

 

わしゃモーセか?

 

理解が追いつかない俺を他所に、かぐやちゃんからこれ以降はいろPに変わってひでちゃんが相手になるよ〜とアナウンスが入った。

 

おそらく配信の方にも載っているだろうそのアナウンスを受けて。

 

その直後。

 

 

 

 

 

 

ルームにいたリスナー全員が一斉に青い花弁に変わった。

 

 

 

 

 

 

わかりやすく言うと、そう、全員ログアウトしたのだ。

 

 

 

 

 

 

?????????

 

 

 

 

 

 

理解が追いつかず、間抜け面でその場に惚ける俺。

 

そんな俺を他所に、予想通りだと言わんばかりにだよね〜と呟くかぐやちゃんと、終わった終わったと肩をぐるぐる回しながら言う酒寄さん。

 

待て待て待て、当の本人が一番理解が追いついていないんだが!?

 

締めの挨拶に入ろうとする二人に詰め寄って、事情の説明を求める。

 

おい一体どういことだお二方!説明しろってんだよ何が起きたかをよぉ!!!

 

さもないとリスナーの皆々様に、成人男性が地面に大の字になって全力で泣き叫ぶ様子をお届けするぞいいのかぁ!!!

 

俺は本気だぞやるったらやるぞほらやるぞすぐやるぞ三つ数えて即座にやるぞぉ!!!

 

やめてくださいみっともないですと正論を返しながら、コメント欄の反応見れば分かりますよと酒寄さんは言った。

 

そう言われてウィンドウを操作してかぐやちゃんの配信を開き、コメント欄にあるコメントを流し読みする。

 

 

 

「ツクヨミに触覚がないから捕まってないだけの暴漢」

 

「勝ち負け以前にお前と戦いたくない」

 

「積極的に関節逆方向に折り曲げてくるやつと戦いたいわけないんだよな〜」

 

「喉に貫手とか腰に膝入れたりとか、目を覆いたくなる戦い方しかしないやん」

 

「首折るのに躊躇ないのイカれてるよお前…」

 

「開幕金的に蹴り入れた時は正気を疑ったぞ?同じ男だろ?」

 

「文明人は蛮族風情と同じ土台には立たないものさ」

 

 

 

……………どうしよう、全部心当たりがある。

 

で、でもしょうがないじゃん!!!戦いだよ!!?

 

急所狙うのは戦闘における常套手段じゃん!!!

 

ツクヨミはそういうとこでダメージ量分ける機能ちゃんとあるし!!!

 

え?金的は足とダメージ同じ?

 

そ、そこはほら?条件反射で防ごうとしちゃうから?隙ができる〜みたいな?ね?

 

…よ、よけろよじゃあ文句ばっか言ってないでさぁ!!!

 

当たらなければどうということはないだろ!!?

 

出来うる限り言い訳はしてみたが、もう聞いただの再放送だのと聞き入れてもらえなかった。

 

コメントの内容から察するに、俺のプレイスタイルが荒すぎるので、俺と戦いたくないらしい。

 

いやまぁ…それは、そ、そうかもだけどさぁ…。

 

にしたってこの扱い方には納得いかないんだが!!?

 

虫除けみたいに使うな俺のことを!!!

 

ていうか普通に傷つくわ!対戦台についたらみんな部屋から退出するとか!

 

ほぼいじめみたいなもんじゃん!!!

 

こんな虚しい無血開城あってたまるかぁ!!

 

俺の抗議も馬耳東風、かぐやちゃんと酒寄さんは配信の締めに入っている。

 

い、いつもそうだ…被害者の声は揉み消され、加害者の身が手厚く保護されるっ!

 

この国の仕組み…なんか変…。

 

あ待って、二人共茶番にすら付き合ってくれねぇ。

 

ちょっ、あの…せ、せめてさぁ!一戦くらいやらせてよぉ!

 

これで終わりは流石に悲しすぎるんだけどぉ!

 

扱いの酷さゆえに納得がいかない為ゴネてみたが、やる相手がいないじゃんとかぐやちゃんに正論を返された。

 

酒寄さんには、俺と戦いたい人間なんて地球の裏側まで探さないといないなんて言われた。

 

な、なんで俺は…仕事帰りにこんなっ…こんな酷い目にっ…!!!

 

あんまりな仕打ちに天を仰いでいると、カスタムルームに三人ほど入室してきた。

 

驚いたのも束の間、その三人は筐体の前に移動してそれぞれ準備完了の操作をした。

 

神はいる...そう思った。

 

さ、流石ユーザーシェア一億人規模のツクヨミさんだぁ!地球の裏側からでも参戦できるなんて最高だぜぇ!

 

趣味の悪い奇特な方もいるんですね…なんて毒を吐く酒寄さんを尻目に、カスタムルームに入ってきたユーザーの名前に目を向ける。

 

こ、こんな俺の相手をしてくれるなんて…。

 

あぁ…どうか、どうか御身の名を教えてくれっ…!

 

 

 

 

 

 

日本ツクヨミ格闘武器学会カリン:[準備完了]

 

サイトーサンを嫁に貰う海の益荒男:[準備完了]

 

Em1ly@喉貫手希望ネキ:[準備完了]

 

 

 

 

 

 

……………。

 

よし!やっぱり終わっとくか!

 

個性的通り越して明らかに触れちゃいけなさそうなやつが集まってる筐体側から目を逸らしてかぐやちゃんに進言する。

 

やりたいんじゃなかったのかと聞いてくるかぐやちゃんに食い気味で被せるように時間も時間だしね!無駄に長引かせてもダレるだけだし!と返す。

 

見なかったことにさせてくれ頼むから。

 

知るかあんな個性的通り越して明らかに触れちゃいけなさそうな名前してる奴らなんか。

 

表情もやべぇよ…犬歯剥き出し笑顔の奴とか…なんか恍惚な顔してる奴もいるし…。

 

日本ツクヨミ格闘武器学会…俺のツクヨミアカウントのDMに一日一回勧誘メッセージ送ってくるやばい奴らやん。

 

てかよく見たら勧誘DM送ってる張本人が来てるじゃねぇか!

 

ほんで益荒男…益荒男ってことは男だろお前…。

 

なんで俺を嫁にするんだ考え直せ。

 

自分でいうのもなんだがもっとマシな人間いるだろ他に。

 

喉貫手希望ネキは…ほ、本当にどうした…?社会に疲れて頭がおかしくなっちまったのか?

 

なんかもう三人とも、色んな意味でギラついた視線を俺に向けてきてるがスルーだこんなもん。

 

ボケが渋滞してるし、おそらく本人たちは至って真面目というカオスな状況を捌き切れるわけがない。

 

こ、こんなところに居られるかっ!俺は自分の部屋に帰らせてもらうっ!

 

けたたましく連続で鳴り響く準備完了の音をガンスルーして、かぐやちゃんの配信枠が閉じるのを待たずツクヨミから逃げるようにログアウトするのだった。

 

 

 






SETSUNAモードのカスタムルームのデザインとかのKASSENに関わる設定は全部捏造です。(N回目)

写真は後日、JK四人で話し合いながらそれぞれに分配されました。カメラを提供した本人はナチュラルに忘れ去られていたため、そもそも話し合いの場からハブられました。

日本ツクヨミ格闘武器学会カリン
・やべー学会のやべー女(副会長)
・ツクヨミ内のアバターのモチーフは龍
・柔道と空手で黒帯の女子大生
・花より闘争の和製アマゾネスでストーカー気質
・配信で主人公の戦闘スタイルに一目惚れし、それ以降学会への勧誘をDMに一日一回送ってる

サイトーサンを嫁に貰う海の益荒男
・海パンを履いて三叉を振り回すフィッシャーマン
・ツクヨミ内のアバターのモチーフは鮫
・ガタイの良いナイスガイでライフセーバー
・かぐやちゃんより主人公が推し
・ツクヨミ"では"会ったことない

Em1ly@喉貫手希望ネキ
・マニッシュ系で紫インナカラーの女
・ツクヨミ内のアバターのモチーフは蛇
・彼氏なしの限界アラサーOL
・被虐趣味が最近加速している(特に喉への被虐)
・KASSENで主人公とマッチングしたことがある
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