え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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12. レッツ竹取合戦から一戦目まで

 

 

 

よっと…うぉ〜…本当に空中に浮いてらぁ…。

 

眩い光に目を瞑り、次に目を開けた時。

 

視界に飛び込んできたのは、空中に浮いた円状の観客席。

 

その下には、広大なKASSEN用のフィールドが広がっている。

 

今俺がいるここは、ツクヨミに実装されているKASSENの観戦用エリアだ。

 

しかも、とりわけ大きめのイベントに使われる、収容人数多めの席が備え付けられたエリアである。

 

なんでそんなところにいるのかと言われれば、それは勿論デカいイベントが開催されているからであって。

 

止まない歓声の中、貰ったメッセージを元に待ち合わせしている相手を探す。

 

えぇっとぉ〜…書いてる内容的にはこの辺なんだが…あぁ〜いたいた。

 

辺りをキョロキョロしながら観客席の間を練り歩き、探していた人物を見つけ出す。

 

周りの迷惑にならない様に小走りしながら、件の人物の横に座る。

 

ごめ〜んROKAちゃん、遅れちゃった!!

 

そう謝る俺に、綾紬さんは大丈夫だと返した。

 

まさか残業頼まれるとは…席も取ってくれてありがとねぇ。

 

今日はそんな予定は無かったのだが、いつもの様に別のプロジェクトからのヘルプ要請が入ってしまったのだ。

 

いつもの様にあってたまるか!!

 

ていうかそもそも今日は日曜なんだよ!!

 

休日出勤で残業させるなよ〜…と独り言を言いながら、綾紬さんが取ってくれていた席に座り一息をつく。

 

するとそのタイミングで、イベント開始の前口上が始まった。

 

観客席の外では、馬鹿でかいチョウチンアンコウが悠々とフィールドの上空を泳いでいるのが見える。

 

うひょ〜でっけ〜…てか目玉何個あるんだあれ…。

 

ツクヨミの上空には、何故かは知らないが鳥ではなく魚類が闊歩しているのが普通だ。

 

ヤチヨさんのライブの時も、水が競り上がってくる演出とかあったし、ツクヨミのモチーフ?みたいなのが海の中なのかもしれない。

 

…とはいえ、目玉が沢山あるアンコウは流石におらんやろ。

 

でも深海の蒸発(イビルアクア)みたいでかっちょええなぁ〜…とか思いながら宙を泳ぐ魚類に目を向けていると、観客席エリアの背後、東西南北それぞれ四方向に設置されたモニターに映像が表示された。

 

そこには、「BLACK ONYX」「KAGUYA &IRO P」との文字に、両チームのメンバーが対を成す様に表示されていた。

 

いやはや…改めて考えてみても、とんでもないことになってるねぇ〜…。

 

先述した通り、この観客席は大きなイベントの時に使われるエリア。

 

では、その大きなイベントとは何か。

 

それは。

 

俺のぼやぎを聞いていた、隣の綾紬さんが苦笑いしながら口を開く。

 

 

 

「そうですよね…まさか本当に、あのBLACK ONYXとかぐやの直接対決が起こるなんて…。」

 

 

 

今をときめく配信者界隈のニューウェーブかぐやちゃん&いろPと、大人気プロゲーミングチームのブラックおにぎりズ「オニキスです…真実に怒られますよ?」おぅすまんすまん…え〜そいつらでのKASSEN対決である。

 

続いてモニターに実況担当と解説担当が表示され、二人のトークに沿って表示されている内容が変わっていく。

 

その中で表示されていた、かぐやちゃんのヤチヨカップでの順位は現在四十三位。

 

一位であるブラックお気にっすとの「だからオニキスですって…。」あっれごめん…え〜とオニキスの直接対決を制することが出来れば、十分に逆転が狙える位置にいる。

 

頑張れよぉ!!かぐやちゃん、酒寄さん!

 

黒色が好きなのは中学生と社畜だけですよという綾紬さんに、中坊はともかく社畜は好き好んでブラック企業に所属してないやいっ!!と反論しながら、心の中で彼女らにエールを送る。

 

ヤチヨカップの予選終了時刻までは残り数時間。

 

このマッチの結果によって、ヤチヨカップの最終結果は大きく変わってくるだろう。

 

万が一にもかぐやちゃん達が勝つ様なことになれば、勿論現在一位の彼らの順位にも影響が出てくる可能性もなくはない。

 

では、何故一位の彼等とかぐやちゃんが戦うことになったのか。

 

彼等としてはこのまま何もしなければ一位でゴールインできるのに、何故わざわざ順位がひっくり返る様な危険性のあるこのマッチに出てきたのか。

 

そもそも彼等はプロゲーマーであり、配信者といえどゲーム内では一般人のかぐやちゃんと対決すること自体がまずおかしい。

 

ヤチヨカップ側でこういったマッチングイベントの様なものを用意しているわけでもない。

 

そう、この状況は言ってしまえば普通ではあり得ない状況ではあるのだ。

 

普通では起こり得ないこの事態がどういう経緯で発生したのか、それは少し時間を遡る必要がある。

 

 

 

酒寄さんが体調を崩した日から早数日。

 

無事回復を果たした酒寄さんは、いつもの忙しない日常へと戻っていった。

 

そこに行き着くまでに、また一悶着あったのだが。

 

仕事を早退してすっ飛んでいったあの日。

 

日も完全に落ちていい時間になり始めた頃、看病もそこそこに、酒寄さんのことは一旦かぐやちゃんに任せて俺は自室へと戻り就寝。

 

一夜明けた翌日、体調どんなもんすかね〜と酒寄さんの部屋を訪れるとそこには。

 

酒寄さんの腕を掴んで泣き喚くかぐやちゃん。

 

そして。

 

後ろめたいことがバレた子供の様な表情でこちらを向く酒寄さんがいた。

 

何故か、学校の制服に身を包んで。

 

これでもかって位安静にしろと言い聞かせた果てには、明らか回復しきっていない顔色で登校しようとする酒寄さんが爆誕してしまい、怒りのあまり敷きっぱなしの布団に酒寄さんを押し倒してしまいました〜!

 

シバくぞ〜!

 

すっかり酒寄さんも立場を弁えるかと思ったが、それでも尚も熱は下がった、体調も戻った、あと顔が…と宣う始末。

 

絶対熱あるだろ今顔真っ赤じゃねぇかお前ぇ!!!

 

あと顔が不細工で悪かったなぁ!!!(言ってない)

 

とはいえ、本当に体調が戻っているのであれば確かに病院に行く必要はない。

 

ということで、体温という明確な指標のもと通院の要否を判断することを提案した。

 

それを聞き、何故か焦った様子の酒寄さん。

 

もう熱は測った〜?何度〜?とひたすらにこやかに問いかける俺。

 

酒寄さんはさ、さんじゅう…ろく?ど…は、ななぶ?だったかなぁ〜…と目を泳がせながら答えた。

 

ふむ…微熱の域を出ないし、その熱なら確かに学校に行っても問題ない。

 

ただし、それが事実であればの話だが。

 

そう言った後に指を鳴らしてかぐやちゃんの名前を呼ぶと、爆速で意図を理解してくれたのか、自身のスマホを手渡してきた。

 

画面に表示されていた内容は、今日の日付で保存された体温計の写真。

 

ほぉ…37.8℃…写真の背景や保存日時からも、今朝撮影されたものであるのは明白。

 

だというのに、君が口にした体温とは随分差がある様に見えるがね。

 

何か申し開きはあるかね?被告人?

 

ぐぅの音も出せないのに、依然としてまだ状況をひっくり返そうとしている酒寄さん。

 

…今日の件を綾紬さんと諌山さんにリークするよ?

 

そう言うと今までの意固地な態度はどこへやら、即座に手のひらを返し病院に行くことを承諾した。

 

どうせこうなるだろうなと予測して、かぐやちゃんに証拠抑えてもらうようお願いしててよかったぜ...。

 

やる前に勝敗が決まっていた出来レース裁判を終えた後は、身支度を整えて三人そろって病院へ。

 

道中は酒寄さんが逃げ出さないように、かぐやちゃんに酒寄さんの手を握り続けるように指示を出した。

 

羞恥心からか、今更逃げたりしないと言って何とか手を放そうとする酒寄さん。

 

そうだよねぇ~そこまでしなくてもよかったんだけどねぇ~本来ならねぇ。

 

どっかの誰かさんが俺に見つからないうちに学校に行こうとしてる現場を見なければねっ!!!

 

こんなこと指示してないんだけどなっ!!!

 

どっかの誰かさんがっ!!!

 

言外にお前の自業自得だぞと伝えると、ばつの悪そうな顔で口を閉ざした。

 

ガキが…舐めてると(正論で)潰すぞ。

 

潰されたくなかったら、めちゃくちゃ嬉しそうな顔で手を握ってるかぐやちゃんの顔でも見ながら、おとなしく連行されるんだな。

 

ということで、トラブルはあったものの無事通院は完了。

 

やはり風邪とかではなく一時的な発熱のだったようで、翌日には熱も引いたみたいで一安心。

 

因みに病院から帰宅した後に、怒りのあまり布団に押し倒すという蛮行を思い返して、めちゃくちゃ謝りました。

 

誠意を見せなきゃいけなかったのは俺の方でした…。

 

俺が土下座している様子は、ぜひかぐや&いろPチャンネルをご覧ください。

 

そんな一幕もありつつ、酒寄さんの体調不良騒動は無事鎮火。

 

会社を早退した分のツケをひいこら言いながらリカバリーしていたある日。

 

自室に帰宅した俺に、待ってましたと言わんばかりに突っ込んでくるかぐやちゃん。

 

ちゃんと受け止めたのもつかの間、かぐやちゃんからKASSENのお誘いを受けた。

 

いつものコラボ配信かなと思っていたが、どうも違うらしい。

 

詳細を聞いてこりゃびっくり、プロゲーマーとの直接対決だとか。

 

なんたってそんなことにと聞いたところ、どうやらプロゲーマー側からマッチングのお誘いがあったらしい。

 

帝とかぐやで世紀の竹取合戦だとかなんとか。

 

帝…どっかで聞いた…あ、おにぎりズか。

 

そのプロゲーマチームは今開催されているヤチヨカップで一位のチーム。

 

勢いに乗っている超新星のかぐやちゃんチームとトップチームの直接対決を通して、ヤチヨカップ盛り上げようぜとのことらしい。

 

目標の一位まで順位を上げきることができず、勝負しろと丁度ぼやいでいたところに来たこの誘いを、かぐやちゃんは二つ返事で了承した。

 

このメッセージが来た際、直接対決なんてできるわけないと否定していた酒寄さんが、FXで有り金全部溶かしたような顔で沈んでいったらしい。

 

なにそれくっそ見たかったんだけど。

 

こうして開催が決まった令和の時代の竹取合戦。

 

じゃあ何で誘われたお前が観戦席にいるのか?

 

あ、いつものコンプラですね、はい。

 

新規のファンを集めるのに、R-18Gみたいな戦い方するやつパーティーに入れるのどうなん?ってちゃんと俺の方から意見具申した。

 

一ミリも否定されずに、確かにっ!って言って引き下がっていったかぐやちゃんを見てちょっと悲しくなったのは内緒。

 

いやでも?ど、どうしてもって言うなら?参加してあげても全然いいけどねっ?

 

てな感じでそれとなくアピールもしてみたが全部スルーされました。ぴえん。

 

 

 

蓋を開けてみれば、ただ単純に誘われたからという理由で始まった今回のマッチングイベント。

 

まぁ相手さん側の真意が定かではないのが気にはなるところではあるが。

 

こんなチャンスなんてそうそう無いというのは誰の目から見ても明らか。

 

是非かぐやちゃんには頑張って勝利を掴んでほしいところだ。

 

こんなことできるんだと舌を巻きながら作成した、かぐやちゃん団扇を手に持ちながら試合の行く末を見守る。

 

つもりだったんだが…。

 

…なんか…まみまみさん倒れてない?あれ。

 

俺が指を指すモニターに目を向ける綾紬さん。

 

モニターに映し出された映像には、確かに諌山さんが倒れている姿があった。

 

今回のマッチングに適用されるKASSENのモードは、三対三のチーム戦であるSENGOKUモード。

 

チャンネルのメンバーであるかぐやちゃんといろPこと酒寄さんだけだと、あと一人足りないのだ。

 

それもあって俺が誘われていたわけだが。

 

最終的なあと一枠については、諌山さんが埋めることになったらしい。

 

どうやら諌山さんは、今回の対戦相手であるブラックオニキス、通称黒鬼のファンらしい。

 

それもあって綾紬さんが、気を利かせて譲ってあげたとか。

 

念願叶ってか、黒鬼と対面できた一般ファンガールの諌山さんだったが…。

 

悲しいかな、どうやら実況解説の話を聞くに、名前を呼ばれたことによる嬉しさで気絶してしまったらしい。

 

オタクしてんねぇ~…っていうか、オタク多いね。

 

酒寄さんもヤチヨさんのライブで限界号泣したくらいにはオタクだったし。

 

ここまで来たら、綾紬さんもなにかしらのオタクなんじゃないか?

 

そう思って聞いてみたが、特にそこまで熱量持って推し活してるコンテンツはないらしい。

 

しかしまぁ、困った状況になった。

 

モニターの向こう側では、気絶した諌山さんを起こそうと、酒寄さんが料理の画像を目の前でひたすらスクロールしていた。

 

いやそれで起こせるのか…?

 

隣では、これで起きないってことは完全に気を失ってますね…と苦笑いしながら呟く綾紬さん。

 

起きた実績あるんかい…恐ろしい食い意地だねぇ…。

っと、感心してる場合じゃないなこれは。

 

諌山さんが起きないとなると、ゲームをするのに一人足りない状況だ。

 

そうなれば勝ち負け以前に、そもそもこのイベントの進行自体が滞ってしまう。

 

今からでも俺が出場するか?

 

そこまで考えた瞬間、かぐやちゃん達の上空から大きな玉手箱が降ってきた。

 

何だあれと思ったのもつかの間、中から出てきたのはみなさんご存じの月見ヤチヨさん。

 

話の行き先を静観していたが、どうやら助っ人としてかぐやちゃん&いろPのチームにヤチヨさんが入ってくれるらしい。

 

おぉ…娘のピンチに颯爽と現れる母親だ…。

 

口ぶりから察するに、プロゲーマーに挑む都合上の戦力調整も兼ねてるようで。

 

この理由付けがあれば、対戦系イベントとしての見ごたえも担保でき、大会運営が特定のチームに肩入れしてる~なんて謂れもなくなるだろう。

 

こういう仲裁というか対応というか、凄くスタイリッシュかつ自然に違和感なくやってくるあたり、遺伝子感じますねぇ~超人遺伝子。

 

なんで現実のピンチには出てきてくれないんですか?という突込みは心の中に留めておいた。オレ、エライ。

 

宙に浮かぶウィンドウを操作して、アイテムストレージからホットドックを取り出す。

 

ツクヨミの街は年から年中お祭りムードで、ほぼ毎日至る所で出店が展開されている。

 

出店の種類はバリエーション豊富かつグローバルであり、さすがユーザー規模一億人のコンテンツだと感心したものだ。

 

俺がここに来るまでの道中に通った所は、めっちゃアメリカ色強めのエリアだった。

 

ハンバーガーにピザにフライドチキンにコーラ、米国の息がかかった俺のインベントリにはイカれた額の関税がかけられるだろう。

 

美容インフルエンサーにフライドチキンを分けるという冒涜を犯しながら、モニターに目を向ける。

 

どうやらそろそろ試合が始まるらしい。

 

そこでふと沸いた疑問。

 

現状のかぐやちゃん達にはどれくらいの勝率があるのか。

 

かぐやちゃん達の実力に関しては、コラボ配信に参加した都合上ある程度は把握している。

 

だが黒鬼陣営の戦力に関しては、初見もいいところだ。

 

俺さ、黒鬼に関して何も知らないんだけど、この試合ってかぐやちゃん達の勝ち目ってどれくらいあるの?

 

それを聞いて綾紬さんは顎に手を当てて、考えながら質問に答えてくれた。

 

自分もあまり詳しくは知らないという前置きはあったが、そんな綾紬さんでもわかるくらいの功績を残してきているのが黒鬼らしい。

 

配信者というアマチュアの域を出ない者を集めた個人開催の大会での優勝から、日本や海外のプロゲーマーを集めたKASSEN運営公式の大会の出場と勝利まで、その実績は多岐に渡る。

 

対するかぐやちゃんは、これといった大会のような催しへの参加はしたことがない筈。

 

これは酒寄さんについても同様だ。

 

いくら酒寄さんのKASSENの腕前がプロゲーマー級と評され、かぐやちゃんのKASSENにおけるセンスがずぬけていたとしても。

 

この勝負に勝つのであればかなりの苦戦を強いられるだろう、というのが綾紬さんの見立てだ。

 

俺ら以外の観客も、勝ち負けだけにフォーカスすれば黒鬼に軍配が上がると考えているだろう。

 

このエリアに繋がる転移門付近でどっちが勝つかでの賭け事をやってる連中がいたが、その人たちも大半は黒鬼予想だった。

 

かぐやちゃん達のオッズ500倍とか、中央競馬でもあんま見ないようなどえらいことになってたぞ。

 

因みにそいつら全員まるっと、俺が転移門を潜るころには分身したヤチヨさんにシバかれてた。

 

ふじゅ~は金銭への変換が可能だから財物に入るし、賭博法に引っかかるぞ多分…最悪逮捕だから良い子はマネしちゃだめだぞ。

 

それでも応援しますけどねっ!と両手で握り拳を作って意気込む綾紬さん。

 

それは勿論、俺だって応援…ん?

 

同じ意見だと返そうとしたところ、自身の頭上に気配を感じて上を見上げる。

 

そこには、誰かがログインする時の演出と同じ様に青い花弁が何処からともなく集まってきていた。

 

えぇ…!?なになにどういうことぉ…!?

 

とりあえず花弁の集まる真下から一人分だけ横にズレる。

 

すると忽ち花弁達は人の形に固まりだし、光ったと思った次の瞬間には、何故か諌山さんに変わっていたのだった。

 

…え、ちょっ!!?

 

反射的に両手を差し出して、花弁のせいか若干青く発光している諌山さんを受け止めようとする。

 

しかし俺の意に反して、諌山さんの体はまるでパラシュートでもつけているかの様にゆっくりと落ちてきた。

 

そしてそのまま俺の両腕にホールインワン。

 

俺の腕が膝関節と腰辺りに添えられる、謂わばお姫様抱っこの様な形に収まった。

 

一連の事象についていけず、お互いが困惑したまま綾紬さんと視線を合わせる。

 

…俺がパズーで彼女がシータ…?

 

飛行石が無いので多分違うかと…と呆然とした様子で取り敢えず返してくれた綾紬さん。

 

だよな、俺トランペット吹けないし。

 

推しに名前を呼ばれた衝撃で未だ気絶したままの諌山さんを、俺と綾紬さんの間に座らせる。

 

そのままナチュラルに諌山さんの頭を自身の膝に持っていった綾紬さんは、何かに気づいた様にウィンドウを操作し始めた。

 

どうやら今さっきヤチヨさんからメッセージが届いていたらしい。

 

気絶したままフィールドに放置は出来ないのでそちらに送りますとのことだ。

 

それだったらいつもの分身で伝えてくれた方が良かったのでは…?

 

そんな思考を他所に、かぐやちゃん&いろP対黒鬼のBO3形式マッチの一戦目が始まった。

 

 

 


 

 

 

KASSENのSENGOKUモードは、さっきも言った通り三対三のチーム戦形式である。

 

ざっくりとしたルールとしては、マップの両端に各チームの陣地があり、残機制であるこのモードのリスポーンと初期位置についてはそこから。

 

マップに二つある拠点にはそれぞれ牛鬼が居て、そいつをシバきあげると敵チームの陣地前にだるま落としが出現するらしい。

 

そいつを陣地にあるお城にぶち込めば試合終了とのこと。

 

チェックポイントの制圧と相手ホームの破壊、主にやることはこの二つだろう。

 

ほんほん…そういう感じのルールなのねぇ…。

 

SENGOKUモードのルールをウィンドウに表示して読んでいると、あの後直ぐに復活した諌山さんが知らなかったのかと質問してくる。

 

いやまぁ…コラボ配信ではβテスト中のZINTORIでしか遊んでなかったし。

 

一番競技人口が多いであろうSENGOKUモードをプレイしたことがないという事実に意外そうな顔をする二人。

 

まぁ…基本コラボの発起人であるかぐやちゃんが遊ぶならみんなで〜ってスタンスだから、俺とかぐやちゃんと酒寄さんでKASSENするってことは無いんだよねぇ…そうなる前に二人のこと誘ってたし。

 

なんてことを俺が話している隙に、俺の手元のバケットからフライドチキンを勝手に取って食べ始める諌山さん。

 

いや別に元々シェア前提で買ってたから良いんだけどさ…ていうか綾紬さんが距離遠くて取れないからまみまみさんが持ってよ。

 

そう言ってバケットを手渡していると、観客席から歓声が上がった。

 

なんだなんだとモニターに目を向けると、そこには全体マップが表示されていた。

 

こ、これはっ!!?

 

驚く俺に続く様にありゃ〜、あー…とそれぞれぼやきを返してくれる二人。

 

……SENGOKUモード素人だがら…なんで盛り上がってるか全くわからん。

 

それを聞いた直後に二人はドリフみたいにズッコケた。

 

犬の人がしてくれた解説によると、黒鬼側の動きに歓声が上がっていたらしい。

 

それは全体マップからでも分かる立ち回り。

 

名をトライデントといい、名前の通り三叉の槍の先の様に、チームメイトが三方向それぞれに一人で向かうムーブだ。

 

そもそもSENGOKUモードのマップには、自陣からトップ、ミドル、ボトムという大きく分けて三つの道、レーンなるものが存在する。

 

2:1:0の割合で人数を割くのが一般的らしいが、黒鬼が取った択は1:1:1で各レーンに一人ずつ人数を割いている。

 

なんでこの立ち回りが盛り上がってるかというと、早い話お互いにカバーし合ったりみたいなのが出来ないからだ。

 

各レーンに一人ずつ入った場合、物理的な距離の都合上カバーを通すのはほぼ不可能。

 

それぞれがそれぞれの個々の力であらゆる状況を打破しなければならない。

 

勿論2:1:0で来た相手に対してだと、誰かしらはフリーになるというメリット的な部分はちゃんとある。

 

しかしSENGOKUモードの勝利条件としては、まず拠点の牛鬼を倒さなければならない。

 

それも当然一人でだ。

 

そんな事している間に、別のレーンでは味方がニ対一の不利対面でひいこら言ってる事を考えると、まぁそのメリットもあまり良いものとは思えない。

 

話した事以外にも、トライデントは色々と諸問題を抱えている。

 

なので、それを選択できるのは相当自信があるか、魅せプしているか、あるいは。

 

…商業的なあれこれとかイベントとしての見どころとか考えると、まぁ魅せプレイだろうな。

 

舐めプと言わないのは、プロゲーマーである彼らへのせめてのリスペクト。

 

途中で挟まる解説や二人からの補足を受けながら、俺は一戦目の行く末を見守った。

 

 

 

…のだが、一戦目から色々と言いたいことが山盛りすぎて胃もたれしそうになった。

 

まず先に一試合目の結果だけを伝えておくと、黒鬼側が勝った。

 

しかも両方の拠点を取った上でのコールド試合だ。

 

まぁわかっていたことではあるが、言いたいところその一としては、黒鬼側がちょっと強すぎる。

 

特にその腕前、強さを魅せたのは二人。

 

一人は、かぐやちゃんと酒寄さんのツーマンセルを完璧に抑え切っていた。

 

確か…帝さんだっけ?

 

棍棒に刀に銃、状況に応じて武器を使い分けて攻撃を往なすその行動には余りにも無駄が無さすぎた。

 

流石プロゲーマー、終始余裕の表情や素ぶり、配信用のボイスチャットからも常に余裕を感じる発言が聞き取れた。

 

というか、二人を抑えるどころか拠点一つ落としたの彼だしね。

 

そしてもう一人は、対プロゲーマーの都合上により強さが盛られているであろうヤチヨさんを一方的に倒してしまった。

 

解説曰く、猶予一フレームの超絶技巧で、ヤチヨさんを延々と鈍足状態にしたまま蜂の巣にしたらしい。

 

……それはハメ技なのでは?

 

丁度彼の名前が分からないので、一旦はハメ技太郎と呼称させてもらうが。

 

ハメ技太郎さんが使っているの武器は遠距離武器である弓矢だ。

 

変形すればクソデカチャクラみたいな円形のブレードみたいに扱える様だが、基本的には遠距離での戦闘が主流になってるし今回のマッチも終始遠距離で戦っていた。

 

遠距離攻撃はその性質上、安全地帯から一方的に攻撃できることが多いのだが、それに鈍足効果を付与するって…悪用とまではいかないけど角が立つのは割と目に見えていた気がする。

 

いやまぁ今の今までアップデートはそれなりの回数していても、このハメ技が残ってる以上はユーザーの技術レベルによって引き出せるクソ強い仕様という意味で運営も捉えているのだろうが。

 

とはいえ、やっぱりこの仕様は放置しない方が良かったのでは!?運営は何をしていたんだ運営は!?

 

…え?その運営本人が今まさに鈍足連射食らってウミウシ状態になっていた?

 

…ほな…ええか。

 

ヤチヨさん側も遠距離攻撃がなかった訳では無いが、その攻撃が手持ちの武器をぶん投げるブーメラン方式である以上、武器のリーチ的にも弓矢に一方的にされるのも無理はない。

 

相性はある程度あったかもしれないが、帝さんとハメ技太郎さんの活躍により、かぐやちゃんチームの一戦目は結構ボロボロで終わってしまった。

 

言いたいところそのニは、酒寄さんが着ぐるみを脱いだ事だ。

 

かぐやちゃんのプロデューサーとして活動する為の身バレ防止策として、着始めた狐の着ぐるみ。

 

目的が目的なだけに、その着ぐるみを大衆の前で脱ぐ事は一度もなかった。

 

それは勿論、KASSENをやっている時でさえ。

 

あの着ぐるみがそもそもKASSEN向きではないにも関わらずだ。

 

狐の着ぐるみの、特に顔の部分に関しては物理的に大きい為、当たり判定か生身よりも大きくなってしまう。

 

だが日々のKASSENの中で、そのハンデを苦にしている様子はなかった。

 

ZINTORIモードでは毎回対戦MVPだし、SETSUNAで二十八連勝してるし。

 

まぁ実態としては酒寄さんの実力が、俺達や対戦相手の実力と乖離しているが故に、脱がなくても勝ててしまっていたのだろう。

 

それが自分より強いプロゲーマーと対戦したことにより、不利が顕著に現れる様になった感じだ。

 

着ぐるみを脱いだ瞬間、解説の人も声を荒げてたし、観客席も俄かにざわつき始めた。

 

いろPって女の子だったんだ、まってめっちゃ可愛くね?、吊り目でイケメンの狐耳…お"ぉ"♡等々、様々な反応が周囲から聞こえてきた。

 

綾紬さんはちょっと不服そうな顔をしていた。

 

気持ちは分かるけど、あんまり表に出しすぎない様にな?

 

言いたいこと三つ目は、酒寄さんがなんかワイヤー使ってた。

 

双剣の刃先からジュバーって出してた。

 

そのワイヤー使ってあっちこっちに飛んだり跳ねたり。

 

巨人でも駆逐しにいくんか君は?

 

多分酒寄さんの本当の苗字はアッカーマンだ。

 

それかミドルネームにアッカーマンが入ってるだろ。

 

酒寄・アッカーマン・彩葉みたいな。

 

ダサいから俺に自己紹介するとき本名誤魔化しただろ多分。

 

更に立体機動に加え、ワイヤーで相手の武器を巻き取って動きを制限したり。

 

随分と使い慣れてる様子だが、俺は初めて使ってるところを見た。

 

配信でマッチングした相手には使うまでもなかったのか、それとも着ぐるみがデカすぎる故に巻き込みを考慮したのか。

 

まぁどっちにしても酒寄さんが本気でこの試合を取りに来てるのは明白だろう。

 

…ワイヤー…カッコいいよね、俺も使おうかな…。

 

そんな事を呟いたら、絶対にまた戦い方で運営に怒られる羽目になるからやめとけって全力で二人に止められた。

 

他にも、虎型のバイクとかサカバンバスピスの御神輿とか、丸鋸みたいな物騒な音を立てながら飛んでいく番傘とか、色々言及したいところはあるが、挙げたしたらキリが無い。

 

なので最後に一つだけ上げさせてもらう。

 

といってもこれが一番衝撃的な事実だったが。

 

 

 

帝さんと酒寄さん…兄妹だったらしい。

 

 

 

お前もアッカーマンかよぉっ…!!!

 

ていうことはなんですか。

 

かぐやちゃんをダシにして妹にダル絡みしてきた兄ってことになるんすか帝さんは。

 

帝さんと酒寄さんが兄妹である事実を聞いた瞬間、諌山さんが怪獣の様な奇声をあげながらまた気絶した。

 

気絶した後は俺の膝を枕にする様に倒れたので、速やかに綾紬さんに返品した。

 

しっかし兄妹…いやまぁでも違和感ないよなぁ…。

 

俺のぼやきを聞いてそうなんですか?と問うてくる綾紬さん。

 

いやだって、あの反則じみた強さも、同じ酒寄って考えたら自然と合点がいくっていうか…。

 

なまじ俺は酒寄さんのお母さんの超人具合も知っている為、余計にしっくりきたのだ。

 

ここまできたら、亡くなられてるお父さんも超人だった説あるな…。

 

酒寄家の遺伝子やばすぎ問題。

 

アニメの世界にいようもんなら、遺伝子目当てにヤバい組織に狙われてそうだ。

 

…ていうか、戦闘力で考えたら兄の方が真のアッカーマンだな。

 

一対ニを捌きながら最速で牛鬼を倒し、終いには二人もキルしている。

 

こ〜れは一人で一個旅団並みの戦力で間違いない。

 

彼のことは今後アッカーマンと呼ぼう、勝手に。

 

まぁそんなこんなでギガ盛メガMAX級のボリューム感の一戦目を終え、二戦目が開始されようとしている。

 

パーフェクトという形で一戦目を落としたかぐやちゃん達がどう対応してくるか。

 

正直この実力差で一戦目取られてるのがキツすぎる…。

 

形式としてはBO3という二本先取の最大三試合。

 

この二戦目を落とした時点で黒鬼側の勝利が確定する。

 

何とか踏ん張ってくれっ…と祈りを込めながらモニターに視線を注ぐ。

 

まさしく正念場、ケツに火が付いたかぐやちゃん達の二戦目が幕を開けた。

 

 

 




黒鬼の大会実績とかについてはいつもの通り捏造です。ただモデルになってそうな母体や人物を考えると、まぁ超かぐや姫の世界にも居るであろう海外プロゲーマーと鎬を削っていてもおかしくないな〜と思って盛りました。

ちなみに主人公はこのイベントが終わった後、一人でKASSENのプラクティスモードに入って虎バイクを扱う練習を二、三時間くらいやりました。AKIRAのバイク止めるシーンやりたいんだってさ。
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