え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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13. 二戦目から結果発表まで

 

 

 

これに負ければ敗北確定の崖っぷち。

 

そんな状況で始まった第二戦だが、終わってみればこれは意外。

 

大方の予想を裏返し、なんとなんと二戦目をかぐやちゃん側がとる大波乱。

 

一戦目のパーフェクトが嘘だったかのように、黒鬼から大金星を勝ち取ったのであった。

 

まさかの展開に観客席は大興奮。

 

耳を破壊せんと言わんばかりの歓声に包まれるのだった。

 

何故かぐやちゃん側がこの試合を取ることが出来たのか。

 

各々の奮闘が前提にあるのは言うまでもない。

 

キーとなったのは、今まさに解説が語っている奇策にあるだろう。

 

ニ戦目の初動、両陣営に作戦の変更はなかったかの様に見えた。

 

トライデントを継続する黒鬼チームと、トップにヤチヨさん、ボトムにかぐやちゃんと酒寄さんというオーソドックスな形のかぐやちゃんチーム。

 

しかし、この時点でかぐやちゃんチームの奇策は始まっていたのだ。

 

最初に接敵したのは、アッk…帝さんと酒寄さんとかぐやちゃんがいるボトムレーン。

 

しかし、姿が見えるのは帝さんと酒寄さんだけ。

 

全体マップでは近くにいるはずのかぐやちゃんの姿が無かった。

 

怪しんで様子見に徹する帝さん、かぐやちゃんが上空にいると気づいた頃には時すでに遅し。

 

かぐやちゃんは武器のハンマーについているジェットを使って逆側のトップレーンに素早く移動した。

 

KASSENのフィールドに桃の状態のプレイヤーを運ぶ演出に出てくる、空飛ぶレプ…レプトレ…レ…鰻みたいなやつが「諦めないでくださいよ…。」…だって覚えづらいんだよあの魚。

 

ステージギミックだと思われたその魚を、かぐやちゃんはまさかの手懐ける事に成功。

 

圧倒的な高度を誇るその魚の飛行能力(?)によって、道中のNPCの迎撃を全キャンセル。

 

姿を隠して帝さんを撹乱したってわけだ。

 

なお手懐ける際には、いつの間にか諌山さんの胸部分の装飾だったメロンパンが使われた模様。

 

モニターにもその様子が映し出された瞬間に、諌山さんは自身の胸元を見てびっくりし、すぐ後にアイデンティティの消失…とガチ凹みしていた。

 

あまりの凹み具合に、ストレージからハンバーガーを取り出してこれは代わりにならないかと、フォローに奔走する事になった。

 

冷静になりゃ…何してんだ俺は。

 

諌山さんはハンバーガーを胸につけては、可愛くない…と言った後、そのままハンバーガーを食べ始めた。

 

あれ?なんかナチュラルにハンバーガー取られたんだけど。

 

そんな誰も予想がつかない、実況も考えたこともなかったと評する奇策を用いたかぐやちゃんチーム。

 

意識を一方に向けた上で逆側に攻め先を変える。

 

サッカーで言う鮮やかなサイドチェンジを決めたことで状況は一変。

 

気づいた帝さんが即座にトップレーンのフォローを味方に指示していたが、それを知れても対応できるかは別問題。

 

トップレーンに到着したかぐやちゃんの着地を狩ろうとするハメ技太郎さんだったが、その僅かな隙を使ってヤチヨさんが番傘を投擲。

 

唸りをあげながら回転する丸鋸とかした番傘はハメ技太郎さんの胴体を泣き別れさせた。

 

あの番傘怖すぎだろ。

 

そのままかぐやちゃんとヤチヨさんは牛鬼を討伐し拠点を占拠、さらにはカバーにきたもう一人もキルしていた。

 

この間も、酒寄さんはボトムレーンに帝さんを縫い付ける事に成功。

 

拠点自体は取られ最終的にはキルされたものの、あの強さの帝さんに一人で時間稼ぎが出来てるあたり、酒寄さんもまぁまぁ人間辞めてるなって気がする。

 

酒寄さんを退け帝さんが自陣に戻るも、そこにはかぐやちゃんとヤチヨさんの二人。

 

流石に自身への攻撃を往なすのに手一杯で自陣を守ることが出来ず、だるま落としが黒鬼の陣地に打ち込まれゲームセット。

 

苦しい二戦目を取り切り、状況をイーブンに持ち込むことが出来た。

 

これはワンチャンあるかもしれないと盛り上がる二人に俺も同調する。

 

あと一戦、これを取ればあの黒鬼に勝てるかもしれない。

 

未曾有のジャイアントキリングの可能性を前に、黒鬼一辺倒だった応援にも変化が起き始めた。

 

三戦目を前にして、各チームを応援する声は五分五分と言っていいくらいに拮抗していた。

 

手元のウィンドウを開いてヤチヨカップの順位表を見てみたが、試合前は四十三位だった順位が一桁代にまで上がっていた。

 

しかも、リアルタイムで更新されている獲得ファン数の表示が、止まることなく上がり続けている。

 

そして、竹取合戦の配信の方も夥しい数の視聴者が集まっていた。

 

このままの勢いだと、試合が終わる頃には間違いなく二位までにはつけれるだろう。

 

そうなれば、三戦目はまさに頂上決戦。

 

勝った方がヤチヨカップ優勝、ひいてはヤチヨさんとのコラボライブの権利を勝ち取るだろう。

 

王者か新星か、兄の意地か妹の執念か、帝かかぐや姫か。

 

幾多の情念が渦巻き、夥しい量の興奮と怒号の様な歓声に包まれる観客席。

 

決着をつけるべく三戦目の火蓋が、今まさに切って落とされた。

 

 

 


 

 

 

ヤチヨカップの勝者を決めるであろう最終戦。

 

戦況は熾烈を極めていた。

 

いよいよ本気を出してきた黒鬼はトライデントから2:1:0のオーソドックスな作戦に変更。

 

帝さんは変わらずかぐやちゃんと酒寄さん二人の対応へ、残り二人でヤチヨさんを抑える形になった。

 

そして接敵してからは、キルしてキルされてのデッドヒート。

 

拠点はお互いに一つずつ占拠に成功。

 

今はかぐやちゃんチームの陣地近くで激しい攻防戦が繰り広げられている。

 

帝さんを除く、両チームのプレイヤーが残機を使い果たして後がない状況。

 

ヤチヨさんは最後の残機を使って、帝さんは一つ残機を残して復活し、ヤチヨさんは合流、帝さんは拠点の方から大回りしている。

 

予断を許さない逼迫した空気。

 

そんな雰囲気の中、イマイチ空気にノリきれていないプレイヤーが一名。

 

それが酒寄さんだ。

 

勝負を投げたとかでは断じてないが、どうにも動きがぎこちない。

 

空回ってるっていうか…ムキになっているというか…肩に力入りすぎだなぁ…。

 

冷静沈着な判断と正確無比なキャラコン、疾風怒濤の攻撃で全てのマッチの対戦MVPを掠め取る、いつもの配信で見られる酒寄さんの姿はそこにはなかった。

 

長いこと一緒にKASSENをプレイしていた二人にもそれが伝わった様だ。

 

 

 

「うぅ〜…彩葉、大丈夫かなぁ〜…。」

 

「いつもの調子が出てないっぽいね…彩葉…頑張って…。」

 

 

 

心配する様な、それでいて祈る様な声でモニターに熱視線を送る二人。

 

何か…何か、酒寄さんのマインドがリセット出来るような何かが起こればいいんだが…。

 

そう祈ったところで、神は都合よく応えてくれない。

 

万事休すかと思われたその時、ミドルレーンで戦っていた二人の元にヤチヨさんが合流した。

 

そして酒寄さんに一言。

 

かぐやと私がついているから、頼って。

 

この一言で、酒寄さんの空気が変わった。

 

…うん!いつもの天下無双お助けいろP様に戻ったみたいだな。

 

ひと目見てもわかるくらいの変化に思わず呟く。

 

隣の二人にも笑顔が戻った。

 

酒寄さんは直ぐに行動に移った。

 

取った選択はかぐやちゃんと二人で自陣へのターン。

 

それすなわち、この場をヤチヨさん一人に任せるということだ。

 

珍しい、と思った。

 

いつもの配信でやるKASSENでもそうだが、彼女のプレイスタイルはとにかく自分でアクションを起こそうとするタイプだ。

 

カバーするのも囮になるのも、戦況を変えるのも最後に一押しするのも、とにかく自分でやろうとする。

 

やれば出来てしまう彼女の才能がそうさせたのか、ゲームの中でも酒寄さんは人を頼ることは無かった。

 

そんな酒寄さんが明確にヤチヨさんを頼ったのが分かるこの行動。

 

推しへの愛故なのか、それとも。

 

自陣へのリターンから備え付けのジャンプ台を使って拠点へと向かう。

 

それが意味するのは、拠点から裏どりをする帝さんとの正面衝突だった。

 

三戦を通して、未だに帝さんの牙城を崩すことは、この二人には出来ていない。

 

ミドルから行けば勝てたのではと問う酒寄さんに、ブラックオニキスは夢を見せなければならないと返す帝さん。

 

夢見せる前に手元見せろー!やコントローラーを操作してる手元の動画を公開しろー!という野次も混ざりながら、歓声がヒートアップしていく観客席。

 

異常とまで言えるくらいの熱気を他所に、相対する三人が動き始めた。

 

コンビネーションをとりながら攻撃していく酒寄さん達を軽く往なす帝さん。

 

かぐやちゃん渾身のウルトにより、地面に叩きつけられたハンマーから円状に衝撃波が広がる。

 

しかし、帝さんに当たった様子はなく、回避の後隙を狩ろうとしてきた酒寄さんの攻撃を棍棒で防いだ。

 

そのままワイヤーで離脱しようとする酒寄さんを、ウルトの余波で崩れていく足場を気にも止めず軽やかな動きで追従。

 

空中で酒寄さんを捕まえて、そのまま地面に叩きつけるようにぶん投げた。

 

なんでここまでやって無傷なんですか?(困惑)

 

えぇい!酒寄家は長男坊は化け物か!?

 

プレイしたことがある故に帝のプレイの異次元具合が理解でき、思わず俺は舌を巻いた。

 

帝さんの無双具合に、諌山さんと綾紬さんの顔も曇っていく。

 

このタイミングでモニターが切り替わり、ミッドレーンで戦っていたヤチヨさんにカメラが向いた。

 

それも束の間、ヤチヨさんのシャボン玉におそらくハメ技太郎さんのものであろう矢が衝突。

 

シャボン玉が爆発し、その余波でヤチヨさんと黒鬼二人がそのままダウン。

 

残機が無い為復活はできない。

 

勝利の行方は、拠点付近で戦闘中の三人に委ねられた。

 

 

 

「彩葉にかぐや…勝てるのかな…帝様…あんなに強いのに…。」

 

「彩葉…。」

 

 

 

諌山さんと綾紬さんの祈る手に力が籠る。

 

状況を考えればかなりキツイだろう。

 

事実として、この二人で帝さんを抑えきれた試しが三試合通してまだ一度もない。

 

この試合で彼をキルできたのも乱戦だったことが要因だろう。

 

ヤチヨさんの援護も乱戦も見込めない。

 

整理すれば整理するほど、勝ちの目がないことだけが浮き彫りになる。

 

それでも。

 

…確かに、今の状況的に不利なのはかぐやちゃん側だ。

 

あの強さの帝さんを止める手段だって、そう多くないしあったとしても難しいだろうね。

 

…でも…でもさ。

 

かぐやちゃんと酒寄さんなら…あの二人なら…きっと、きっと何とかしてくれる。

 

それは、俺たちが一番よく知っている筈だ。

 

今まで一緒に沢山戦ってきたんだからさ。

 

それにっ…今の俺たちに出来るのは応援だけ。

 

その応援団がさ!戦ってる選手より先に諦めちゃ、世話ないよねって話!

 

そう言いながら、重い腰を労るようにゆっくりと立ち上がる。

 

一瞬後ろの人がモニター見えなくなるかとも考えたが、後ろの人も興奮して立ち上がってるっぽいので良しとした。

 

その場でめいいっぱい口から息を吸い込む。

 

スゥーッ…。

 

がんばれぇぇぇぇ!!!いろPぃぃぃぃぃぃ!!!かぐやちゃぁぁぁん!!!

 

観客席の声がプレイヤーに届くような仕様には、恐らくなっていない。

 

そもそもそういう仕様があったとて、俺一人の大声なんぞこの大歓声に掻き消されるのがオチだ。

 

だとしても、声を出さない理由にはならないし、声を枯らして応援しない理由にもならない!

 

冷笑なんて知るかぁ!!!俺は熱血でいかせてもらうっ!!!

 

続けるように、二回、三回と叫ぶように声援を飛ばす。

 

それを見て、諌山さんと綾紬さんも頷き合った後、二人で声援を飛ばし始めた。

 

モニターに映る酒寄さんとかぐやちゃんに声援が届いたのか、彼女達の顔には笑みが浮かんでいた。

 

届いたかな、届くといいな。

 

知らない人が聞けば、あり得ないと嘲笑うだろうか。

 

でも…それなら俺は、人に嘲笑われるロマンチストでありたいと切に思った。

 

睨み合って僅かに膠着していた戦況が動き出す。

 

二手に分かれて帝さんの周りを囲うように駆け出す。

 

そのまま死角に入ったと思いきや、ハンマーを持った酒寄さんが帝さんに襲いかかる。

 

武器の入れ替えによる奇襲。

 

容易く受ける帝さんに向けて、酒寄さんが追撃のハンマーを投擲。

 

思わず、投げたら戻ってこないって言ったのあんたでしょぉ!!?と叫んでしまう俺。

 

しかしアフターケアは万全で、先回りしていたかぐやちゃんがハンマーを回収し、逆にブーメラン状に繋げた双剣を投擲。

 

これも避ける帝さんに、ブーメランをキャッチしては即座に双剣に分離する酒寄さん。

 

更に片方の剣も投げるが、帝さんはこれも楽に避けた。

 

銃と剣に分離させた武器で、二人からの猛攻を往なし続ける帝さんの牙城は未だ強固。

 

それどころかハンマーを振り下ろした後隙を狩られ、かぐやちゃんが蹴り飛ばされる始末。

 

武器の無いかぐやちゃんに銃口を向けた帝さんの口からゲームセットが宣言される。

 

観客席の全員が決まるかっ!と思ったその瞬間。

 

投げられた双剣の片割れが、唸りをあげてワイヤーを巻き戻し始める。

 

刺さっていた柱から抜けた後、勢いそのままに宙に投げ出されながらワイヤーを巻き戻していく。

 

しかし巻き戻すワイヤーの先が何かに引っかかっているのか、逆に双剣側がワイヤーを辿るように空中に舞い続けた。

 

ワイヤーの先を辿ると、地面にめり込んで簡単には取れなさそうなかぐやちゃんのハンマー。

 

そしてワイヤーの中間には帝さん。

 

ワイヤーを引き連れたままの双剣の片割れは、そのまま帝さんを拘束するように宙を舞う。

 

この終盤、相手がゴールを見つけ油断し切ったこのタイミングでの、奇策。

 

月を脱した無垢の天才が生み出した策は、地上で覇を唱える鬼の首にその刃を届かせんとしていた。

 

いっけぇぇぇぇ!!!

 

応援していた俺たち三人の声が重なる。

 

帝さんは焦って拘束を振り解こうとするが、時既に遅し。

 

酒寄さんがその隙を逃す筈もなく、帝さんの身体を双剣の片割れで一刀両断。

 

えらく満足げな表情で、帝さんの身体が花弁に変わっていく。

 

三試合を通して幾度となく発生したこの対面。

 

ここにきて初めて、かぐやちゃんと酒寄さんのコンビが勝利を収めた。

 

 

 


 

 

 

試合を決定づける重要な対面の劇的な幕切れ。

 

観客席のボルテージは最高潮に上がり、火山の噴火のような盛り上がりを見せていた。

 

やった!と両手をあげて喜ぶ綾紬さんと、すごいすごーい!と俺の肩を掴んでは凄い勢いでシェイクしている諌山さん。

 

ちょっ、あのっ、いさや、止まっ、いさやまさヴェ!!!

 

突如俺の肩を掴んでいた手を離して、綾紬さんと抱き合いながら勝利を喜び合っていた。

 

反動で隣の観客席に強かに頭を打ちつけたが、あまり気に留めることもなくすぐに立ち直る。

 

試合としてはまだ終わった訳ではない。

 

だが帝さんはリスポーン地点からの出発。

 

既に相手陣地に向かって歩を進めている酒寄さん達に追いつくのは難しい。

 

取る択としては、恐らくかぐやちゃん側の陣地にだるまをぶち込みにいくのが考えられる。

 

だが仮にそうなったとしても、間違いなく酒寄さん達が先に黒鬼陣地へとだるまをぶち込む方が早いだろう。

 

まぁ、ほぼウィニングランみたいなもんだ。

 

道中のNPCを二人で倒しながら敵陣地へ向かっていく彼女達の姿がモニターに映し出される。

 

橋の上でハンマーを持ちながら大回転した挙句、橋の崩壊によって落ちそうになったところを酒寄さんに救われるかぐやちゃん。

 

そんな一幕に観客席から笑いが漏れる。

 

その笑い声の隙間から、なんか…いいね!あの二人、私推しちゃおうかな〜、なんて声が聞こえ始める。

 

五分五分だった会場の応援が、徐々にかぐやちゃん側に傾き始めていった。

 

モニターでは、鳥に乗った酒寄さんとジェット付きのハンマーに乗るかぐやちゃんが何か会話をしている様子だった。

 

そして、お互いに吹き出すように破顔した。

 

その顔は今まで見た事がないくらいに、楽しそうで、それでいて綺麗だった。

 

随分と綺麗に笑えるもんだねぇ…数ヶ月前が嘘みたいだ…。

 

ちょっと前の限界極めた作り笑顔を思い出し、思わずこちらも笑みを浮かべる。

 

その瞬間、何かをすする音が聞こえた。

 

ふと横を見ると、笑顔の諌山さんの更に横に、涙を流している綾紬さんの姿があった。

 

あ、綾紬…さん…?

 

衝撃的すぎて、思わずリアルの呼び方で声をかけてしまう。

 

それを受けてハッとした綾紬さんは、ご、ごめんね!?と言いながら涙を拭った。

 

諌山さんもそれで気づいたのか、戸惑いながら綾紬さんを慰め始めた。

 

しかし、拭えど拭えど、涙が止まることはなかった。

 

感極まった。

 

それもあるとは思うが、それと同じくらい彼女の目からは…。

 

なんでだろう、涙が止まらなくてと詰まりながらポツポツと喋り出す綾紬さん。

 

 

 

「二人が…彩葉が、あんなに…綺麗に笑うから…涙…止まんなくて…。」

 

 

 

それを聞いて、何か察した表情を浮かべる諌山さん。

 

そうだよなぁ…。

 

好きな人が綺麗な笑顔を浮かべた時。

 

その隣にいるのが自分だったら、どれだけ嬉しいことか。

 

その隣にいるのが自分じゃなかったら、どれだけ寂しいことか。

 

なまじかぐやちゃんより触れ合う機会が多かった分、その痛みが増してくる。

 

それでも彼女は優しすぎるから。

 

なんで隣が貴方なのかと問いただすこともせず。

 

ただ静かに痛みを抱えながら、二人の幸せを祈ってしまう。

 

祈る事が、出来てしまう。

 

涙を拭うことすら止めて、モニターに映る二人に目を向け続ける綾紬さん。

 

その視線には、確かに祝福の念が込められていた。

 

…綾紬さんが隣にいたとしても、酒寄さんはあんな風に笑えるよ。

 

思わず口から言葉が出てしまう。

 

それでも、本当にそう思ったのは嘘じゃなかったから。

 

そう…ですかね…と目を伏せながら、自信なさげに呟く綾紬さんに、食い気味に被せながら言い放つ。

 

うん、絶対。

 

あまりの食い気味具合に少し気が抜けたのか、少し笑いながら断言しちゃうんですねっと返してくる綾紬さん。

 

この辺りの関係は俺にも、当の本人達にも扱いが難しい。

 

上手いこと落とし所が見つかってくれればいいんだがねぇ…。

 

そう思いながら言葉を続ける。

 

あぁ、断言させてもらうとも。

 

これが嘘になるんだったら、喜んで閻魔様に舌をくれてやるよ。

 

焼肉にでもなんでもしてくれっつってな。

 

んべーっと舌を出してやるとそれを見た諌山さんが、よく喋るから脂のノリが良さそうと言ってきた。

 

…それは皮肉で言っているのかい?

 

ていうか、皮肉で言ってなくても普通に怖いんだが???

 

人の舌を牛タン扱いしてきた為に訝しげな視線を送る俺を見て、ケラケラと笑う諌山さん。

 

ガニバリズムはまずいっすよ〜と思いながら、綾紬さんに向けて追加で声をかける。

 

まぁ海に行った時にも言ったけどさ、辛くなったら相談してくれ。

 

その時は話聞くし、お望み通りパシリにもなってあげるからさ。

 

そう言うと海での自分の発言を思い出したのか少し笑った後、綾紬さんは俺と諌山さんに対してお礼を言った。

 

とりあえず宥めれはしたかなと思いながら、諌山さんと微笑み合う。

 

そうこうしている間にも、酒寄さん達のウィニングランは終盤に来ていたようで。

 

かぐやちゃんがNPCを轢き倒しながら、だるま落としの前に迫っていく。

 

帝さんも虎型のバイクに乗って敵陣に入ってきたが、だるま落としまでには少し遠い。

 

まさに勝ち確。

 

かぐやちゃんのハンマーが、だるま落としを敵陣に打ち込まんと迫る。

 

その瞬間。

 

突如光出すかぐやちゃんの足元。

 

そして、大爆発。

 

…はい?

 

突然のことに脳の処理が追いつかず間抜けな声が出てしまう。

 

実況によれば、それは黒鬼が仕掛けたトラップとのこと。

 

今まで目立った活躍のなかった黒鬼の三人目にカメラが当てられる。

 

表情の乏しさが見受けられるクール系っぽさそうな彼は、無表情のままチームメイトにピースをしていた。

 

無表情クール系イケメンが軽率にピースするな。

 

ギャップで恋に落ちるだろうが。

 

あいつのことはMr.ピースと呼ぼうと勝手に思っていると、カメラが切り替わる。

 

かぐやちゃんは先程のトラップでダウンしたらしく、酒寄さんが急いでカバーに向かう。

 

しかしそれよりも早く、帝さんはかぐやちゃんの陣地にだるま落としをぶち込むことに成功した。

 

実況により、黒鬼チームの勝利が高々と宣言される。

 

笑いの女神は、かぐやちゃんに二股を許すつもりはなかったらしい。

 

勝利の女神は当初の予想通り、黒鬼チームに微笑んだ。

 

…ハハハッ、まぁ…かぐやちゃんらしいとは言えるだろうね。

 

これにて、多くの人の心を震わせた令和の竹取合戦が、終わりを迎えたのであった。

 

 

 


 

 

 

とはいえ、竹取合戦が終わってもヤチヨカップ自体は終わってはいない。

 

現在、俺たちはツクヨミにある大鳥居の前へと移動していた。

 

あの初回ログインの時にホップしてた場所だな。

 

ここに足を運んだ理由は、ヤチヨカップの閉会式を見るためだ。

 

この1ヶ月、多くのドラマや笑いや感動を生んできたヤチヨカップ。

 

期間中に最も新規のファンを集めて、ヤチヨさんとのコラボライブの権利を手に入れるのは誰になるのか。

 

その結果発表がこの閉会式で行われるのだ。

 

勿論ではあるが、三戦目が終わりそうな頃には公式サイトの順位表へのアクセスが出来ないようになっている。

 

その為最終結果を知っているのはヤチヨさんだけだ。

 

まぁそうは言っても、優勝はほぼほぼ二チームに絞られる形になっているだろう。

 

彗星の如く現れては多くの人を魅了してきた、月からやってきた風雲児のかぐや&いろP。

 

絶大な人気と実績を持ち、新規ファンという条件すらものともしない絶対王者の黒鬼ことブラックオニキス。

 

勝利の天秤はどちらに傾くか。

 

直前の竹取合戦の結果を踏まえると、優勢なのは黒鬼側だろう。

 

しかしその試合の中でも、かぐや&いろPは鮮烈で記憶に残るような目覚ましい活躍を残している。

 

 

 

「いよいよ結果発表…だね。」

 

「うぅ〜…当事者じゃないのになんか緊張してきた〜…。」

 

 

 

迫り来る時間に、ソワソワと落ち着きがなくなっていく二人はそんな言葉を漏らした。

 

周囲を見渡してみると、同じくヤチヨカップの行く末を一目見ようとしているのか、多くのファン達が集まってきている。

 

それらの話し声に耳を傾けても、黒鬼推しとかぐや&いろP推しの声が半々くらいで聞こえてた。

 

まさにデットヒート、勝者がどちらになるか全く予想がつかないような状況になっている。

 

突如、いと大義〜という声と共に鳥居の上にスポットライトが複数当てられた。

 

スポットライトの先には、さっきまでKASSENで試合をしていたヤチヨさん。

 

どうやらヤチヨカップの集計が終わったらしい。

 

ヤチヨさんが結果発表に移りだす。

 

長い通路に所狭しと集まる周囲の人たがりから少し間隔を開けて、向こう側。

 

ヤチヨカップの参加者の中で、竹取合戦前の時点での上位五十名が集められていた。

 

その中のかぐやちゃんと酒寄さんに目を向ける。

 

ドラムロールとあちこち照射地点を変えるスポットライトによって演出された緊張感なんてないかのように、かぐやちゃんはしゃがみ込んでは地面にのの字を書いていじけていた。

 

酒寄さんもそれを咎める余裕がないのか、落ち着きのない表情で地面を見つめている。

 

鳥居の上にデカいモニターが出現し、棒グラフ形式で順位が発表されていく。

 

抜きん出て票を集めているのは紫のグラフ。

 

その先には帝さんのアイコンが表示されていた。

 

そしてそれに追従するように伸びていく黄色いグラフ。

 

こちらはかぐやちゃんのアイコンが表示されている。

 

しかしそれが映ったのも束の間、驚異的な伸びで画面を独り占めする帝さんのアイコンと棒グラフ。

 

それを見て少し不安そうな表情になる諌山さんと綾紬さん。

 

俺も、特に言葉を発することなくモニターを見続ける。

 

竹取合戦を落としてしまったかぐやちゃんと酒寄さんが、黒鬼に勝てるかどうか。

 

そう心に問いかけた時、不思議と勝てないとは思わなかった。

 

モニターを占拠する帝さんのアイコンを見てもなお、かぐやちゃん達の勝利を信じきって疑わない自分が心の中にいる。

 

だって。

 

帝さんのアイコンだけが映っていたモニターに、別のアイコンが映り込む。

 

酒寄さんと、特にかぐやちゃんにいたっては。

 

かぐやちゃんのアイコンが、帝さんのアイコンと並び出す。

 

こと、人を惹きつける力に関しては。

 

強烈な伸びを見せたかぐやちゃんのアイコンが、帝さんのアイコンを追い越した。

 

宇宙レベルの大天才なのだから。

 

 

 

「ヤチヨカップの優勝者は〜…かぐや・いろP〜!!!」

 

 

 

めでたしや〜というヤチヨさんの声を皮切りに、爆発したかのような歓声が辺り一帯を包み込む。

 

酒寄さんやかぐやちゃんを褒める言葉と、クラッカーのように鳴り響く拍手の音が、矢のようにあちらこちらへと飛び交う。

 

いやぁ〜…まさか本当に優勝しちゃうとは…凄いねぇ彼女達は。

 

思わずそう呟きながら、優勝した二人に拍手を送る。

 

すると隣で拍手している綾紬さんに、確信していたんじゃないんですかとニヤけた顔で質問される。

 

あっれぇ?バレてた?

 

すごく顔に出てましたよと言う綾紬さんに、一人だけ一ミリも心配してる様子無かったもんねと続く諌山さん。

 

まぁ、かぐやちゃんと酒寄さんなら、絶対やってくれるだろうなって。

 

そう言うと、また断言してると笑い出す綾紬さん。

 

諌山さんには、かぐやちゃんのこと信頼しすぎ〜シスコンってやつですか?と問われたが、まぁ…そうなんだろうな…。

 

帝さん達と話し込んでいる二人の方に目をやる。

 

確かに綾紬さんと諌山さんと初めて会ったあの日、その場の即興でかぐやちゃんの兄を勝手に名乗った。

 

俺とかぐやちゃんは別に本当の兄妹ではない。

 

にも関わらず随分と入れ込んでいるという自覚は、一応自分でも認識している。

 

可愛くてしょうがないから?それは確かにそうだ。

 

爆速で終わったとはいえ、赤ちゃんの頃から見てきてるわけだし。

 

可愛く見えれば情だって湧いてくる。

 

それに…。

 

脳裏に前世の妹二人の笑顔が過ぎる。

 

無駄だって、今更だってのは分かってるけどさ。

 

それでも、今度は失敗しないようにって、どうしても思っちゃうんだよねぇ…。

 

そのままかぐやちゃん達の方を眺めていると、気づけば綾紬さんと諌山さんが静かになっていた。

 

二人の方に目をやると、何か困惑したような表情をしていた。

 

ありゃりゃ、また口に出てた感じか。

 

最近お口がユルユルなのよね〜と思いながら、今言ったことは気にしないで〜と二人に言う。

 

まぁ、シスコンであることは否定しないよ…酒寄さんは別に妹じゃないけどね。

 

それを聞いた二人は、やっぱりといった感じで苦笑いを浮かべていた。

 

お兄ちゃんというのは得てしてシスコンになる生き物なんだ…。

 

日頃から変な虫がつかないようにフィルタリングするし、彼氏なんて連れてこようものなら即刻部屋で圧迫面接コースだ。

 

うわぁ…典型的な束縛タイプだと引き気味に言う諌山さんは華麗にスルーさせてもらう。

 

お、俺間違ってねぇもん!!!

 

そんなやりとりをしていると、話を終えたであろう帝さん達黒鬼が転移でこの場を去っていった。

 

それに続いて周囲の人達も、各々ログアウトなり転移なりでこの場を後にしている。

 

…うん、ぼちぼち人も捌けてきたし、そろそろいろPとかぐやちゃんのところに…。

 

 

 

そこまで言った瞬間。

 

 

 

突如、視界が明滅した。

 

電波を受信できなくなったテレビの画面のように、スノーノイズが視界の全てを覆い出す。

 

数秒?数時間?あるいはほんの一瞬かもしれない。

 

長いのか短いのかも分からない間、見える範囲に砂嵐が起き続けた。

 

そして暗転。

 

 

 

 

 

 

「……さ………さい……!」

 

「な……が……。」

 

「…か………、きゅう…………。」

 

 

 

「ひでち……!………てる!?………ん!」

 

「どう……う…。……ヨをもう…………でくる…?」

 

「さい………さん!きこ……てます!?……!」

 

 

 

 

 

 

「ひでちゃんっ!!!」

 

「斎藤さんっ!!!」

 

 

 

 

 

 

ッハ………!!!

 

………あ、あれ?かぐやちゃんに酒寄さん?

 

さっきまで向こうに居たのに、なんで目の前にいるんだ…?

 

ていうかさっきの何だ。

 

スマコンがイカれたか?

 

いやそれねぇだろ。

 

今までいいだけKASSENやってアホみたいなエフェクトとか見続けてきたけど、一度もそんなことは起きてない。

 

型番だって少し古めのスマコンだが、動作が重くなるなんてことも無かった。

 

て言うかそうなる前に、本体の温度とか使用時間を検知して自動でアラート出してくれるのがスマコンだ。

 

そのアラートが出てないってなると…やっぱり俺の体が変になってきたか?

 

なんといっても、体の一部が透明化するなんて頓珍漢な前例がある。

 

何が起きても…とまではいかないが、通常では発生しないような現象もこの体なら…。

 

いや今はそれどころじゃなかったわ!!!

 

目の前には、心配そうにこちらの様子を伺っている四人の姿。

 

とりあえずいつものように誤魔化しに入る。

 

いやごめんマジで!なんかよく分かんないんだけど、スマコンがエラー吐いたっぽくてさ。

 

アラートなしで急にフリーズしたもんだからびっくりしちゃってさ。

 

一旦再起動して入り直してきたんだ。

 

でっちあげの経緯を説明しつつ、どれくらい動いてなかったのか、外から見た状況がどんなもんだったかをそれとなく聞いてみた。

 

綾紬さんと諌山さん曰く、話をしていたら急に喋らなくなって、呼びかけても応答なし。

 

そのまま三〜四分ずっと虚空を見つめたままぼ〜っと突っ立っていたらしい。

 

その間にかぐやちゃんと酒寄さんも合流してきたとのこと。

 

様子のおかしい俺を見て、呼びかけながらどうしようかと思案していたとのこと。

 

あらら…なんか、心配かけちゃってごめんね!

 

ふ〜む…型番古いスマコン使ってるからかねぇ〜…新しいの買い換えようかしら。

 

頭で情報を整理しながら、それっぽく口を開いて会話を繋げる。

 

だったらかぐやが買ってあげると言ってくれたが、残念ながら年下に奢ってもらうのは俺のポリシーに反するので断った。

 

妹に奢られる兄なぞ存在しねぇ!

 

まぁまぁ、ここで立ち話すんのもなんだしさ。

 

どっか腰を落ち着けれる場所に移動しようか。

 

ヤチヨカップの優勝祝い、ちゃんとやりたいしね?

 

その言葉に反応して、きゃっほぉーい!と我先に走り出すかぐやちゃんに、それを追う諌山さんと綾紬さん。

 

残された俺と酒寄さんも、並んで歩き始める。

 

少しだけ無言の間が続いた後、酒寄さんが口を開いた。

 

本当に大丈夫なのかと。

 

その瞳は、嘘をつくのを許さないと言わんばかりに力強く俺の両目を捉えていた。

 

…あ〜、これはバレてますね。

 

バレているなら嘘をつき続けてもしょうがない。

 

そもそも海に行った時に、ちゃんと頼るって約束したしね。

 

お手上げの意を込めて、両手を上げながら話し始める。

 

とは言っても、これも透明化と同じように全くと言っていいほど心当たりがない。

 

なので必然的に語れることがなく…。

 

あ〜…あの、な、なんていうか…例のやつとおんなじで…その…何からどう話せばいいかさっぱりでして…ヘヘヘッ。

 

気まずそうにそう話す俺を見て、大きくため息をつく酒寄さん。

 

ため息を聞きビクッと肩を跳ねさせる俺を見て、頼ってくれるんですよね?と少し微笑みながら聞いてくる。

 

…あぁ、約束したからね。

 

その時がきたら全部話すし、頼りにさせてもらうよ。

 

その答えを聞いて満足してくれたのか、じゃあ信じて待ちますと言って、そのままかぐやちゃん達に追いつくために走っていった。

 

あまりにも頼りがいがありすぎるスパダリJKの背中を見送った後、自身の手を見つめる。

 

ツクヨミの空間であるため、勿論手が透けることはなかった。

 

…はぁ…変なことが起きなければいいんだかねぇ。

 

自分の体のことも分からないとは情けない限りだが、分からんもんは嘆いてもしょうがない。

 

変に事が大きくならずに鎮静化していくことを祈りながら、酒寄さんの後を追いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なおこの後みんなに追いついた時に聞いた話なのだが。

 

どうやら俺が応援する時に出した大声が、どうやら当人達にも聞こえていたらしい。

 

ボロアパートの薄壁とイヤホンを貫通して割とハッキリ聞こえたとか。

 

俺はその話を聞いた瞬間、あまりの恥ずかしさにその場でツクヨミからログアウトした。

 

…………………………。

 

ね、熱血はクソ!時代は冷笑だね!

 

その日は寝ようとするたびに大声を出したシーンがリフレインしては身悶えを繰り返し、ろくに眠ることが出来なかった。

 

 

 






主人公は人に対して、名前とは別の呼び方を勝手につけて、心の中ではその呼び方で呼ぶことが多いです。黒鬼面子と関わる時も多分心の中で、アッカーマン、ハメ技太郎、Mrピースと呼び続けているでしょう。小説の中ではちゃんと人物名で書くようにしますが。人の名前をなんだと思ってんだあんたはっ!

帝との最後の衝突の前に彩葉とかぐやちゃんが笑ったのは、隣の成人男性からのアホみたいなボリュームの声援がちゃんと聞こえたからです。やっぱ〜主人公の…熱血応援を…最高やな!

主人公がぼったちしている三〜四分の間に近くを通りかかった人は複数人いますが、主人公に声をかける綾紬さんと諌山さんを怪訝な目で見ては首を傾げるだけで、その後何もせず足早に通り過ぎています。なんでやろな〜。
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