え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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15. コラボライブから卒業告知まで

 

 

 

お"お"お"お"お"お"お"お"ん”!!!

 

お"ぁ"ぁ"、あ"、お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ん"!!!

 

お"、お"ぉ"、う"お"ぉ"お"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"お"ぉ"ん"!!!

 

 

 

あ、お疲れ様で~す。(豹変)

 

すみませんね、初手からおどろおどろしい鳴き声聞かせちゃって。

 

何でそんな理性を失った獣みたいな声を上げてたかっていうとですね。

 

かぐやちゃん達とヤチヨさんのライブを見て感動してしまってですね…。

 

ヤチヨさんの生きるのはどうですかという、軽いMCから入った今回のコラボライブ。

 

しんどーい!たのしーい!と思い思いに返答するファンに合わせて、人間は愚かー!労働はクソー!とヤジのような本音を叫んでおいた。

 

それを聞いたヤチヨさんは、あやすように言葉を繋ぐ。

 

全て大丈夫。

 

暗く辛い道のりも、輝く思い出があれば乗り越えれる。

 

この瞬間を、忘られない思い出にする為に。

 

どうか一緒に、踊ってくれませんか?

 

そして始まった彼女達のステージは、広すぎるこの会場を端から端までホットな熱気で一杯にしてしまった。

 

絢爛に輝くライト、ど迫力の演出、仮想空間とは思えない音圧。

 

それらを脇に追いやってしまう、本人達の神がかった歌唱力に、超人的な演奏。

 

この一夜にして、ツクヨミの開発・保守・運用をしている会社の株価は五千兆倍くらいに跳ね上がっただろう。

 

会社あるのか知らんけど。

 

いつものように終始楽しそうに歌って踊るかぐやちゃん。

 

経験値と実力で二人のカバーをしつつもメインを譲らないヤチヨさん。

 

最初に見えた緊張が嘘のように最後には笑顔で一緒に踊るくらい楽しんでいた酒寄さん。

 

目を焼くような美しい光を従える三人に、魅了されるのは時間の問題だった。

 

気づけば夢中でペンライトとうちわを振り続けた一時間。

 

そんな一時間の大トリを務める新曲が終わった今。

 

俺は人の優しさを初めて知った怪物のような泣き声をあげながらスタンディングオベーションをしていた。

 

いやぁ〜…人類史上最高の芸術が生まれる瞬間に立ち会ってしまったようだ…。

 

どっかの石油王がポケットマネーで無形文化遺産に登録してくんねぇかなぁ〜このライブ。

 

このライブを一時間に一回視聴するのを日本の教育課程の義務にしよう。

 

踊っている夜がこんなに楽しいならもう朝なんていらないんだよね。

 

あまりの感動に脳みそがバグり散らかし、だいぶん様子のおかしいオタクみたいなワードが脳みそを支配している。

 

あぁ〜…くっそ楽しかったぁ〜…。

 

ライブなんて、前世じゃ行ったことなんてないし、今世もつい一ヶ月前が初めてだった。

 

にも関わらずもう既に、次のライブ早く決まってくれないかなぁ〜なんて事を頭で考え始めてる。

 

すっかりハマってしまったようだ。

 

こんな沼コンテンツを、産まれてから二十四年間一度も触れてこなかった馬鹿がいるらしい。

 

馬鹿は俺だよ〜と心の中で気さくな挨拶をしながら、ステージに目を向ける。

 

そこには観客に手を振るヤチヨさんと、何か会話をしている二人。

 

酒寄さんが何か困った表情をしていたが、その中に何処か清々しさのようなものが感じ取れた。

 

だから言ったろ?きっと大丈夫だって…。

 

そんな届きもしないことは織り込み済みの独り言を口にして、いい加減止めてもいいかと拍手を止めて腰を下ろした。

 

それに伴い、周囲の観客からの拍手や歓声も徐々に収まっていた。

 

しかし、収まりつつある賑わいの隙間に、少しの困惑が漏れ出した。

 

なんかラグい、視界にノイズが走ってる。

 

そんな声が、目立ちはしないものの確実に一つ二つと増えていく。

 

なんだ…?電波でも悪いのか…?

 

ザワついた様子が気になり周りを見渡す。

 

その時、突如ステージを映していたモニターにノイズが走る。

 

ノイズが治ったと思いきや、映し出されたのはステージの様子ではなく、まんまるなお月様。

 

な…なんだ?バグったか?

 

ザワついた声が、また一つ、また一つと増え出す。

 

モニターの表示が切り替わる。

 

しかし、未だにステージを映す様子は見られなかった。

 

次に映されたのは、2030/09/12の文字列。

 

画面を埋め尽くす程の量の文字列に、光る赤に彩られた文字に、時折スノーノイズが走る。

 

先程とまでの雰囲気とは似ても似つかぬ形相に、客席の困惑した様子が広がり出す。

 

おいおい…どういうことだ?

 

何が起きてるのかさっぱりわからず、思わず冷や汗を流す。

 

あの数字…おそらくyyyy/mm/dd形式の日付。

 

何の意味が…特別な日だったか…?

 

月との関連性も全く…。

 

日付と推測した数字の羅列もその前に映った月も、意図が全く読めない…その筈なのに、何かが脳裏をチラついている。

 

蚊が耳元を過ぎる時に聞こえる羽音の様に、顔を出しては即座に消えていく違和感。

 

ライブの演出か…?

 

そう思ってステージに再度目をやるが、ヤチヨさんは依然として客席に手を振っている。

 

かぐやちゃんも酒寄さんも、特に変わった様子がない。

 

演出と呼ぶにしては、余りにも演者からのリアクションが無さすぎる。

 

積もる違和感に、席から立ち上がって通路の方に向かおうと数人の前を身を屈めて横切る。

 

後方の席、ステージに対して幾許かの高度があるここで、身を屈め下に顔を向けつつ横目でステージを見ていた、俺だから気づけたのだろうか。

 

空に浮かぶステージと客席の間、二十メートルはゆうに離れているだろうその空間。

 

暗くなった空に浮く何かが、ステージに向かって進んでいた。

 

思わず、早足で観客声の通路に出る。

 

身を起こして下を覗くと、その何かの姿がはっきりと確認できた。

 

魚…じゃないな…あれは…人型!?

 

まるで泳ぐ様にステージに向かっていくそれには、人の様な手足が確かに見えた。

 

しかも顔の部分が何故か行燈になっている。

 

おいおい…マジでどうなってんだぁ!?

 

まさか危惧していた度し難いレベルの不審者による乱入が本当に起こりそうになるとは。

 

いや起こりそう、ではない。

 

そいつは間違いなくステージに意思を持って迷いなく向かっている。

 

ステージに向かって伸びる通路を駆け足で下る。

 

何だこれ!?…演出?…いや、でも…。

 

未だ捨てきれない仕組まれたサプライズの可能性。

 

拭いきれぬ違和感が俺自身のその考えを否定する。

 

たがその違和感が一向に形にならない。

 

握ることのできない煙の様に。

 

指の隙間から漏れ出す水の様に。

 

通路を下り切って、一番ステージに近いところまで辿り着く。

 

ツクヨミ内の筈なのに、やたらと息が跳ねて心臓が暴れ出す。

 

なんか…なんだ…!?なにが…!?

 

違和感の正体を探る様に、頭の中にある記憶のフィルムを乱暴に回し始める。

 

過去に耳にした発言や目にした光景が、フラッシュ暗算のように脳裏を高速で過ぎていく。

 

気づけば行燈頭の人型は、観客席の俺と同じくらいの高度まで寄ってきていた。

 

ステージの彼女達は、未だにこの異変に気づく様子が無い。

 

何か…気づいていない何か…忘れている…何か!?

 

いや、ステージ上で一人だけ。

 

気づいているのに。

 

あえて。

 

反応していない。

 

ステージに降り立とうとする行燈頭の、無い筈の目がかぐやちゃんを捉えた気がした。

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

『どこから来たの?と酒寄さんが問えば満月を指差したり。』

 

 

 

『あー確かに、今日は満月でその日に大きくなったし光る竹(電柱)から出てきてるし。』

 

 

 

『そんな彼女も、本人曰くいつかは月からお迎えが来るかもしれないらしい。』

 

 

 

『ったく…九月半ばの満月の日に月見とか、そんな風情を楽しむ感性が残ってる現代人なんていないっての…しかも二人っきりとか…。』

 

 

 

 

 

 

霞のようにすり抜ける違和感の尻尾を、確かにこの手に掴んだ。

 

かぐやちゃんのお迎えという、明確な形の尻尾を。

 

 

 

 

 

 

躊躇うことなく、ストレージにしまうのが面倒で懐に装備しっぱなしのダイナマイトを手に取る。

 

手すりに足をかけて身を乗り出す。

 

仮に俺の勘違いだとしても、ツクヨミ内での自分の立場がなくなるだけだと割り切った。

 

最悪トカゲの尻尾として切り落としてもらえば被害を受けるのは俺だけで、そこに一切の問題はない。

 

ステージのかぐやちゃんと酒寄さんへ、注意を促す為に叫ぼうとした。

 

が…。

 

………ッ!!!…ッ!?!………ッ!?!?!?

 

声が出なくなった。

 

いや、声だけじゃない。

 

手すりに乗り上げた体が、一ミリも動かない。

 

タイミング悪くラグったか?

 

いやそれは無い。

 

周りの奴らもステージのエフェクトも滑らかに動いている。

 

ピンポイントで俺だけが動けなくなってる。

 

行燈頭の人型がステージに降り立つ。

 

なんだこれっ…ラグとかでもないし…機器の不調でも多分ない!

 

ようやく異変に気付いたのか、かぐやちゃんが観客席を覗き込む。

 

これはっ…なんか…()()()()()()()()()()()()()()…感じ!?

 

かぐやちゃんに向けて手を伸ばす行燈頭の人型。

 

まさかと思い、ステージにいるあの人に目を向ける。

 

あの人は。

 

月見ヤチヨは。

 

 

 

驚愕を含んだ視線で俺を貫き、手のひらを俺に向けていた。

 

 

 

唯一、行燈頭の人型の存在に気づいていたであろう筈の人間。

 

その意識の矛先は、未知の人型飛行体ではなく俺の方だった。

 

行燈頭の人型に腕を掴まれたかぐやちゃんが、電池が切れたかのように膝から崩れ落ちた。

 

それを見て駆け寄る酒寄さん。

 

対照的に、ヤチヨさんは俺に手のひらを向けたままそこを動かない。

 

僅かに視線をかぐやちゃん達の方に向けるだけだった。

 

酒寄さんがキーボードを武器に変えて腕を切り飛ばしたが、行燈頭の人型はそれに怯む事なく二人ににじり寄っていく。

 

漸くヤチヨさんが動き出して、彼女の指先をなぞる様に行燈頭の人型がふっ飛ばされていく。

 

欠損した部位から流れ出るどす黒い液体が、余計にそいつらの得体の知れなさを助長する。

 

旗色が悪いと踏んだか、行燈頭の人型は一人残らずその場から逃げる様に消えていった。

 

ヤチヨさんの手のひらが俺に向けられなくなった瞬間に、体と声の自由が戻ってきた。

 

声と体に違和感がない事を軽く確認している間に、ヤチヨさんが対処に動き出した。

 

謎の敵が現れた時のナレーターの様な語りを加えた後、ライブの終了と見てくれたことへの感謝を述べるヤチヨさん。

 

俺の周囲に限っては俺の奇行故に通報の要否をヒソヒソと話していたが、その他の観客はヤチヨさんの語りを受けて演出だと割り切った様子だった。

 

…なんで行燈頭じゃなくて俺を止めた?

 

そもそもあの行燈頭は一体…?

 

かぐやちゃんは無事なのか?

 

次から次へと疑問が湧いてくるが、そのどれもに明確な答えはなかった。

 

会場内の雰囲気が、ライブの興奮と演出への困惑が混ざりあったマーブル模様の奇妙なものに変わっていく。

 

見上げた先にある月は、現実とは違いミラーボールの様にキラキラと光を反射している。

 

今はそれが、ひどく不気味なものに思えた。

 

 

 


 

 

 

ツクヨミからログアウトした俺は、スマコンを外すや否やパソコンの電源をつけた。

 

スマコンでそのまま調べればいいものをわざわざPCで調べ直そうとするあたり、それなりにテンパっている様だ。

 

そんな事実に気付くことなく、マウスを乱暴に操作してブラウザを開く。

 

調べる内容は、勿論さっきまでやっていたかぐやちゃん達のライブについてだ。

 

ライブの注目度を考えれば、SNSで膨大な量の情報が得られるだろう。

 

SNSアプリを立ち上げてトレンド欄やワード検索から、行燈頭が現れる前後の呟きを見つけ出して片っ端から目を通す。

 

二十分近くかけて情報収集に勤しんだが、あまり有効な情報は出ていなかった。

 

殴り書きの呟きの数々を照合した結果、主な情報は二つ。

 

まず一つ目として、ライブのセットリストを全て消化したあの時間帯に、立川全域で通信障害が起きたらしい。

 

大量のラグにスノーノイズに画面のジャック、果ては行燈の作り物を被った全身白タイツの変態が目の前を横切っただの。

 

最後のは通信障害に含めてよいのか…?

 

そして二つ目は、その行燈頭の出どころについてだ。

 

どうやら、一部ライブ中継のウォッチパーティーを行なっていた場所にて、ユーザーのアバターが突如行燈頭に変わる現象が目撃されたらしい。

 

タイミングとしては、謎の数字の羅列がモニターを埋めたあの時。

 

そのモニターを見ていたユーザーが何の前触れもなく行燈頭に姿が変わったと。

 

そしてそのまま、ライブステージの方へと泳ぐ様に飛んでいったらしい。

 

状況的にも、そいつらがステージに乱入した奴らと見ていいだろう。

 

そいつらの身辺を丸裸にしてやろうとも考えたが、不思議なことに何の変哲もない一般人だった。

 

普通にライブを見ていたのだが、いきなり通信が切断されたらしい。

 

そこから暫くツクヨミにログインが出来ず、ログインできる頃にはライブが既に終わった後だったと言うのは本人談だ。

 

談というか、SNSの呟きだけども。

 

こんな感じで行燈頭に変わったユーザー複数人いたが、全員が全員共通点なしの一般ユーザー。

 

アバターが変わった時の状況は全員同じく、ツクヨミから強制ログアウトされたとのこと。

 

結局、行燈頭が何者なのかっていう一番大事なところは分からず仕舞いか…。

 

迷宮塗れの迷探偵、真実見抜けず路頭に迷う。

 

これ以上の成果は見込めないと判断して、今度は数字の羅列の方を調べ始める。

 

これは見た瞬間にも思ったが、恐らくは日付だろう。

 

そして、俺の中にある記憶の箱をひっくり返して全てさらってみたが、この日付が何を指しているかを判断できそうな情報が一つ。

 

天体バカ同僚からの誘いだ。

 

あいつは、九月の中頃に満月の日があるから月見をしようと誘ってきた。

 

しかも二人きりという条件付きで。

 

その条件は果たして必要なん???

 

大学の時は状況が状況だったから、勝手に二人っきりになってたけど。

 

今はその時と違って普通に周囲の人との関係が良い感じなんだから、他の奴も誘えばいいのに。

 

んまぁそれは一旦置いておいて日付の方だ。

 

九月の中頃…表示された九月十二日も中頃と言えるだろう。

 

つまるところ、あのモニターに表示された日付は恐らく次の満月の日だろう。

 

ブラウザで調べてみたが、その予想は見事に的中していた。

 

ふーむ…やっぱりか、となると…。

 

今まで調べた情報を頭の中で整理していると、机に置いていたスマホが鳴り始める。

 

画面には酒寄さんの名前が表示されていた。

 

おっ、ナイスタイミングだねぇ〜。

 

こっちで調べれることは多分もうない。

 

となると、残りは当人達の口から情報を仕入れるしかない。

 

通話に応答する様に画面を操作して、スマホを耳に当てる。

 

あ、もしもしヘイベイビーの人?

 

…あぁごめんごめん嘘嘘間違ってないです〜斎藤のお電話であってます~!!!

 

重い空気になり過ぎないように軽いジョークから通話に入ったが、間違い電話を装って切られそうになった。

 

そんな…冗談ですや〜ん!本気にせんといて〜!

 

とりあえずこれ以上揶揄うと本当に通話を切られそうなので、普通に話を進めた。

 

いや〜でも実際驚いたよ、たった一言とはいえ歌うと思ってなかったからね。

 

そういうと、あれはヤチヨにお願いされて…と自分の意思ではないことをアピールする酒寄さん。

 

この人おねだりに弱過ぎやしませんかね?

 

まぁ推しからお願いされたらそうもなるか。

 

そっか〜それはヤチヨさんの良い采配だねぇ〜。

 

あと酒寄さんの本分である演奏の方も良かったよ。

 

失敗どころかいつもより上手く演奏できてたんじゃないの?

 

最初こそ緊張は見えたけど、三曲目くらいにはもう既に笑顔で演奏してた。

 

仕舞いにゃステップ踏んで一回転までしてながら演奏してたし、心に余裕があれば酒寄さんのパフォーマンスは際限なく上がっていくのだろうか。

 

まぁ…失敗せずに終われたのでホッとしてますと、少し疲れた様子で返してきた酒寄さん。

 

ふふっ…いや本当、贔屓目抜きで最高のライブだったよ。

 

そう言うと酒寄さんは、少しの照れを滲ませながらありがとうございますとお礼を言ったが、それも束の間、それより…と話題の転換を切り出してきた。

 

ライブの感想貰いに通話をかけてきたわけじゃないってのは俺も理解してるよ。

 

とりあえず、お互いに情報共有といこうか。

 

そこから、お互いに持ち寄った情報の擦り合わせを始めた。

 

俺から出した情報は、電波障害の内容と行燈頭の出所、そして羅列された日付の意味について。

 

日付については、通話をかける前に酒寄さんも調べていたらしい。

 

九月十二日。

 

それは、次の満月の日。

 

行燈頭がわざわざその日を提示した理由。

 

かぐやちゃん自身が出身を聞かれた際に月を指さした過去の光景。

 

そして行燈頭が、ステージにいる三人の中でかぐやちゃんだけに接触を図った事実。

 

……推測の域を出ないけど、今までの情報から考えるにあの行燈頭は…。

 

かぐやちゃんのお迎え…だと思う。

 

俺の推理を聞いて、思い詰めたように黙り込む酒寄さん。

 

…かぐやちゃんは?その後は問題なさそうだった?

 

そう聞くと、酒寄さんは何かを考えながらポツポツと話してくれた。

 

酒寄さんがいうには、目立った外傷はなし、本人は疲れているだけと言っていたが何処か茫然とした様子だそうだ。

 

本人から何か言われたかも聞いてみたが、特に何も言われなかったらしい。

 

参ったねぇ…ぶっちゃけ俺らだけで話しても、憶測ばかりで決定打が無いのは目に見えてる。

 

だからこそ、被害者…というか唯一の行燈頭との接触者であるかぐやちゃんの話が聞きたかったんだが…。

 

とはいえショッキングな出来事であることに変わりはない。

 

聞いてきますか?という酒寄さんに、そこまでしなくてもいいと断りを入れとく。

 

…ヤチヨさんはなんて言ってた?

 

管理人のあの人なら、あの行燈頭が何処からツクヨミにアクセスしてきたのかワンチャン分かるかもしれない。

 

実の母親でもあるし、何かしら言っててもおかしくはない。

 

そう思って聞いてみたが、ライブ終わりに調べてみると言われてそれっきりだとか。

 

曰く、ヤンチャっ子のいたずらかな?とのこと。

 

てなると本当に手詰まりだなぁ…。

 

事情をそれとなく把握してそうな可能性がある二人から、話も情報も聞けないとなるとどうしようもない。

 

今は動く事ができないという状況に頭を抱えていると、酒寄さんがおずおずとした感じで声を上げた。

 

どうしたのかと聞いてみるも話す事自体を躊躇しているのか、あの…えと…と本題の話が中々出てこない。

 

しかしようやく話す決心がついたのか、間違っているかもしれないという前置きを置いてから話し始めた。

 

その内容は、ヤチヨさんが嘘をついているというものだった。

 

行燈頭の乱入のすぐ後、何が起こったのかを問う酒寄さんに対して、ヤチヨさんは明らかに煙に巻く為の回答をしたらしい。

 

理由はないが、そこで直感的に嘘をついていると確信したとのこと。

 

それを聞いて思い出したのは、行燈頭が乱入せんとしている時のあの一幕。

 

ヤチヨさんは行燈頭への対処よりも先に、ステージに上がり込もうとした俺の静止を優先していた。

 

いやまぁ冷静になれば爆弾持ってステージに突っ込んでくるチンピラいたらそりゃ止めるだろうとは思う。

 

で、でもさぁ!行燈頭の白タイツの変態だって負けず劣らずヤバいでしょ!

 

実際にかぐやちゃんの様子がおかしくなったって実害も出てるし。

 

うん!俺は悪くないな!(目逸らし)

 

まぁその辺のどっちがヤバいかは置いとくとして。

 

多分ヤチヨさんは行燈頭が乱入してくるのに気づいていた。

 

にも関わらず俺を止めることに注力し、かぐやちゃんが接触を受けて座り込んだ時も、そちらに視線を軽く向けるだけ。

 

その視線は、まるでこの光景が予定調和と言わんばかりに冷たく暗く、そして何処か諦観の感情も節々に見えていた。

 

所詮は俺の感性での判断。

 

お前がそう思っただけだろと言われればその通り、証拠なんてものは一つもない言い掛かりみたいなもんだ。

 

酒寄さんの言う嘘をついているというのも、この類のものらしい。

 

それでも、俺たち二人ともがヤチヨさんの言動に違和感を覚えたのは事実。

 

一体ヤチヨさんは何を知っていて、何を考えているのか。

 

酒寄さんの発言を咀嚼して思考する為に黙り込む俺と、何故ヤチヨさんが自分に嘘をついたのかを考える酒寄さん。

 

少しの間、通話のやり取りがなくなる。

 

…っはぁ〜…だぁめだ…考えつくことあれもこれも憶測の域を出ないもんばっか!

 

結局、いくら頭を回しても納得できる回答は俺らの頭からも口からも出てくることはなかった。

 

…まずは、かぐやちゃんが何か話してくれるのを待とう。

 

酒寄さんから見た今のかぐやちゃんは、かなり無理をして取り繕ってる様に見えているらしい。

 

かぐやちゃんらしくない態度から察するに、今回の件について重大な何かを知っている筈。

 

それでも酒寄さんに何も言わなかったのは、おそらくかぐやちゃんの中でも色々と整理しきれていないのだろう。

 

事態を解決するために、今はとにかく時間が必要だ。

 

何もできずに待つことしかできないのは、如何せん歯がゆいが致し方ない。

 

今日はもう時間も遅いから休もう…かぐやちゃんには俺の方からも声掛けしておくから。

 

現状でできることはもう無いというのを悟ったのだろう。

 

酒寄さんはその提案を受けて難色を示していたが、渋々といった感じで従ってくれた。

 

最後におやすみとあいさつをして通話を切ろうとする。

 

その時、酒寄さんが待ったをかけるようにあっ、あの!!と声を上げた。

 

どうしたのかとこちらが問うより早く、酒寄さんが口を開いた。

 

 

 

「……だ、大丈夫…です…よね?」

 

 

 

ひどく曖昧な言葉だったが、その真意は手に取るように分かった。

 

それはかぐやちゃんへの心配だったり。

 

ヤチヨさんが味方であることの確認だったり。

 

はたまた、今の生活が崩れ去ることへの不安だったり。

 

大丈夫…って言ってあげたいのは山々なんだけど…無責任に言えるような状況でもなさそうってのが実際のところだね。

 

分からないことだらけだし、判明するであろう真相もおそらく俺等にとってはうれしくないニュースである可能性の方が高い。

 

でも、もし大丈夫じゃなかったときはちゃんと言ってくれ。

 

大丈夫にできるように最大限努力するし、協力は惜しまないからさ。

 

そう言うと、多少は気が楽になったのかほんの少しだけ明るくなった声音で、酒寄さんはわかりましたと返してきた。

 

何かわかった事が連絡して欲しい旨を伝えた後、おやすみと挨拶をして通話を切る。

 

画面を操作して酒寄さんとのトークルームから出ると、綾紬さんと諌山さんの欄に新規メッセージの通知が来ていた。

 

内容を確認すると、両者同じくかぐやちゃんと酒寄さんの安否確認のメッセージだった。

 

直接本人に確認すればよいのでは…?と疑問に思ったが、メッセージの前半に本人には送っているが念のためという旨が記載されていた。

 

そのすぐ下に、酒寄さんだと誤魔化す可能性もあるのでとも書かれていたが。

 

この手のことに関してあんまり信用の無い酒寄さんに、思わず苦笑いがこぼれた。

 

さらに安否確認に追加して、現場で実際に何が起こっていたのかを一応聞いておきたいとのこと。

 

とりあえず俺や酒寄さんの主観が入った推測部分と満月の日の情報は省いて、ユーザーが行燈頭に乗っ取られたことと立川全域の電波障害のことについてソース元のリンク付きで返した上で、何が起きたかさっぱわかっていないという事実を伝えた。

 

安否確認に関しては、こっちからは何もできなさそうなことと二人に少し時間が必要そうなことを伝えた。

 

すると、二人でゆっくりで話せる場所のセッティングをしておくと返ってきた。

 

どうやら元々花火大会に行く計画を立てていたらしく、二人で出かけるようにこちらで仕向けるとのこと。

 

こんな気遣いできちまうとか…性善説極めすぎちゃってるなぁ。

 

尊き友情を目の前浴びせられて、お兄さん思わず涙がちょちょ切れちゃったよ…。

 

ヤチヨさんの号泣スタンプと場のセッティングに対してのお礼の言葉を送って、チャットルームから出る。

 

かぐやちゃんへの声掛けは…明日にしておいた方がいいか。

 

かぐやちゃんへメッセージを送ろうかと考えたが、酒寄さんから聞いた様子を考えるにそっとしておいた方がいいだろうと判断。

 

そのままスマホをスリープにして机に置く。

 

背もたれに身を預けるように体を倒すと、丁度窓から月が見えた。

 

迎えに来なくていいって、ついこの間言ったばっかなのにねぇ…。

 

もしかしてフラグ立てちゃったかしら。

 

荷ほどきをした帰り際に、月に向かって冗談飛ばしたのが先週の話。

 

今まで全くと言っていいほど音沙汰なかったのに、言ったそばから急にアクションかけてきやがった。

 

お迎えまで二週間弱の猶予があるだけ、まだマシな方なのかもしれないが。

 

あと二週間…二週間かぁ…。

 

二週間で何ができるだろう…。

 

かぐやちゃんの行きたいとこ連れてったりとか?車運転できるの俺だけだし。

 

食べたいものとかほしい物とか…は自分で買えるか…。

 

配信とかも極力時間取って出れるようにしてあげるとか…。

 

まぁ有給は腐るほどあるし、仕事も忙しいってわけでもないし。

 

あ、贈り物とかなら買ってもいいか…月に持ってけるかわからんけど。

 

お別れ会…みたいなのもやってあげたいな、どっか場所借りて。

 

盛大に飲んで食って騒いで、パーっと送り出せるように。

 

それで…それで………。

 

………。

 

はははっ。

 

 

 

 

 

 

ちゃんと送り出してあげれんのかね、俺は…。

 

まるで自嘲する様な笑みが自然と浮かぶ。

 

反射して窓に映った自分の顔は、笑っているはずなのに随分と酷く悲しみに歪んでいた。

 

 

 


 

 

 

結局その日はあまり眠る事が出来なかった。

 

考えない様にしても、次から次へと色んな想像が頭に浮かんでくる。

 

想像の大半があまり良いものではないことは、言うまでもないだろう。

 

かぐやちゃんにも朝方にメッセージを送ってみたが、ちょっと疲れただけで今は元気だという返答が返ってきたっきりだ。

 

酒寄さんからも特に新しい連絡は来ていなかった。

 

そんな中で過ごす休日は、何をするにも集中できず。

 

多分過去一番に長く感じたであろう土曜日を過ごした。

 

そして、八月が終わり九月に入った。

 

九月一日、それは綾紬さんと諫山さんが話していた花火大会の日。

 

二人から酒寄さん達だけで行くように仕向けることはできたという連絡はあった。

 

問題が無ければ、二人は今日の花火大会に参加する筈。

 

そこで、何か少しでも進展があれば…。

 

そんな事を考えながら、抜け殻みたいにボーっと過ごしていた日曜の夜。

 

俺のスマホに、進展を示す通知が届いた。

 

かぐやちゃんの卒業という形で。

 

その日のうちに二人に対してメッセージは送った。

 

しかし酒寄さんからはありがとうございます、とりあえず大丈夫ですという文章だけが返された。

 

かぐやちゃんに至ってはメッセージを読んではいるが返してくれていない、いわゆる既読無視の状態だった。

 

有り体に言えば、そっとしておいてくださいというサイン。

 

自身の無力さ故に、軋む位にスマホを握る。

 

かぐやちゃん達が隣の部屋に居ない事が、いや、かぐやちゃん達の隣に居れない事がこんなにも悔しく感じたのは初めてだった。

 

でも、どうしたって次の日は皆んなに平等に来る。

 

職場にはちゃんと出社したが、まともに仕事が出来たかどうかは全く覚えていない。

 

ただ、同僚がいつものダル絡み無しで普通に心配してきたことだけは何となく覚えていた。

 

普段は頼んでもないのに仕事増やしてくるくせに、今日はこっちの仕事を巻き取ろうとしてた。

 

こういう気遣いだってやろうと思えばちゃんと出来るんだよなコイツ。

 

俺に構ってなかったら結婚相手なんざいくらでも見つかるだろうに。

 

減らず口一つを叩く余裕もなかったのか、彼女のその行為にただ甘える様に、悪い…なんて言って仕事を渡すことしかできなかった。

 

帰り際には、何かあったらメッセージとかでもいいから相談してと言ってきた。

 

あぁ…そん時は相談に…ってごめん、そう言えば若干の鬱陶しさからカッとなってブロックしたっきりだった。

 

素直にそう白状したら両頬を抓られた。

 

こぶ取り爺さんみてぇになっちまったよ。

 

いつもだったらグーが出てくるところを抓る程度で抑えてくれたあたり、本当に心配かけてるのかもしれない。

 

今度お礼しねぇとなぁ…。

 

何がいいんだろうなんてことを思いながら帰路に就く。

 

最寄駅について改札を出ようとして残高が足りない事に気がつき、アプリからチャージしようと画面をつけた。

 

するとそこには、かぐやちゃんからのメッセージの通知が来ていた。

 

チャージを急いで済ませて改札を出てから、メッセージの内容に目を通す。

 

メッセージには、無視しちゃっててごめんという謝罪。

 

そして、今俺の部屋の前にいるから帰ってきたら話そうという旨の文章が記載されていた。

 

急いで走り出す。

 

途中誰かにぶつかった気もするが、相手も何故か気づいていない様子だったのでそのままスルーした。

 

走れば五分もしないで着くはずの道のりが、今日だけはやたらと長く感じた。

 

痛む横っ腹と荒れる呼吸器官に喝を入れ、ようやくアパートに辿り着く。

 

息も絶え絶え階段を登り切るとそこには。

 

 

 

「やっほ、ひでちゃん。」

 

 

 

部屋の戸の前でしゃがみ込むかぐやちゃんがいた。

 

ひと目見てわかるくらい、雰囲気が変わっていた。

 

太陽みたいな明るさが鳴りを顰め、まるで雲に隠れる月の様に落ち着いている。

 

その表情は、今までに見た事がなく、それでいて似つかわしくないくらいに。

 

そして、見ているこっちが苦しくて痛いと感じるくらいに、大人びていた。

 

 

 

 






爆弾持った奴がステージに乱入しようとしてたらそら止めるやろ。ヤッチョが正しいよ。正しいのにストーリーの都合上悪者みたいな書き方になっちゃうのつれぇよ…辛いから主人公消すね…。

ヤッチョ「あ〜楽しかった!この後は確か月人が…ちょ待て待て待て、は?ステージにダイナマイト持ってくる気?やば、イカれてんのかアイツ?」

ノベライズ版とネトフリ版で日付周りとか色々違ってたりするんですよね。当小説では8/30金曜にライブ、9/1日曜に花火大会、9/2月曜の夜にかぐやが家に来て今回の話は終わりみたいな感じでやります。
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