え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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16. 迎えの知らせから作戦会議まで

 

 

 

明らかに立ち話する様な雰囲気ではないため、かぐやちゃんを家にあげた。

 

来客用のコーヒーなんて洒落たものはないため、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出してグラスに注ぐ。

 

ローテブルに置かれたそれにかぐやちゃんは口をつける。

 

九月になるとはいえ、未だに夜でも気温は高い。

 

待っている間に体が暑くなってしまっていたのか、かぐやちゃんはグラスを一気に空にした。

 

待たせちゃってたみたいでごめんね!これ、好きに飲んでいいから。

 

麦茶の入ったボトルを床に置きながらそういうと、かぐやちゃんは気にするなと返してきた。

 

まだまだ夜でも気温が高い時期だからあまり待たせたくなかったんだけどね...ツクヨミだともっと早く走れたんだけどなぁ…。

 

体の軽さが段違いの仮想空間の体に想いを馳せていると、運動不足だと思うし変に無茶すると体を壊すと逆に心配された。

 

ご忠告痛み入りますと苦笑いをしながら、スーツの上着を脱いでハンガーにかける。

 

さて…早いとこ本題に入ろっか。

 

そう言いながらローテーブルを挟んでかぐやちゃんの向かいに座る。

 

かぐやちゃんがここに来たのは、遊びに来たわけでも飯を集りに来たわけでもない。

 

十中八九、卒業に関する話だろう。

 

花火大会の日、酒寄さんと一体何を話したのか。

 

それ以前にコラボライブの日に一体何があったのか。

 

この数日間、俺の脳みそをぐるぐると回り続けていた疑問に明確な答えが出るだろう。

 

襟を正す俺を正面に捉えても、かぐやちゃんは軽い笑みを浮かべたままだった。

 

ただその笑顔に、以前の様な天真爛漫さは無かった。

 

神妙な雰囲気のまま、かぐやちゃんが口を開く。

 

語られた内容は、おおよそ当たってほしくなかった予想と一致していた。

 

あの行燈頭は、やはり月からの使いだった。

 

立川全域の電波障害は、月の使いがツクヨミを目指して移動していた際に起きたものらしい。

 

移動後にツクヨミ内のユーザーのアバターを乗っ取りステージに侵入して、そのままかぐやちゃんへ接触。

 

腕を掴まれた瞬間に月にいた時の記憶を全て思い出し、そのショックでステージにへたり込んだとのこと。

 

そしてモニターに羅列されていた数字は次の満月の日であり、かぐやちゃんを迎えにくる日で間違いない様だった。

 

ライブの日に湧き出た疑問の答え合わせが進んでいく中で、月にいた時のこともポツポツと語ってくれた。

 

味も温度も存在しない月の世界。

 

決められた役割を延々と繰り返し続ける歯車のようなNPC(住民達)

 

そんなモノクロのような世界で、ただ一人別の感性を持っていたかぐやちゃん。

 

明るく無邪気で万人を魅了してきた彼女は月だと一転、一人だけ浮いていた。

 

退屈。

 

寂しい。

 

死にそう。

 

幼気な彼女の心がどれだけ悲鳴をあげても、月の住人は聞くための(こころ)を持っていない。

 

自身を異常だったと罵るように自嘲するかぐやちゃんに、そんなことないという俺の声はどれくらい響いていたのだろう。

 

息の詰まる生活に、何処かに行きたいと願いをかける日々。

 

そんな折、突如窓が現れた。

 

覗いた先に見えたのは、俺達がいる世界。

 

みんな好き勝手に動いて、一回きりで、複雑で、なによりも自由だった。

 

月には無いものづくしのこの世界がとてもキラキラしていたから。

 

かぐやちゃんはこっちの世界へ飛び込んできたのだ。

 

ただ、その時に自身の責務を放り投げてきてしまったらしい。

 

強制送還。

 

それが私というお転婆姫の物語の結末なのだと、かぐやちゃんは苦笑いを浮かべながら話を締め括った。

 

………そっか。

 

かぐやちゃん…帰っちゃうのか…。

 

海に行った時にさ、ちょっと考えたことはあるんだけどね。

 

想定してたより、ずっと辛いわ。

 

もう、かぐやちゃんが来る前の生活、どう送ってたか思い出せないもん。

 

戯けるようにそう口にしても、針で刺されるような胸の痛みは消えない。

 

…お迎えって言ってたけど、何処に来るんだい?

 

行燈頭がタワマンのインターホンを押して入ってくる絵面を一瞬想像したが、流石にそうではないらしい。

 

どうやら現実世界ではなくツクヨミ内にやってくるそうだ。

 

もう一回ゲーミング電柱見れるのかな〜って思ったけど、そうじゃないのね…。

 

それを聞いたかぐやちゃんは、あれは一人乗りだからと笑みを浮かべた。

 

…てか待って、今思い出したんだけどさ。

 

俺が最初にゲーミング電柱にでくわしたときさ、扉が開くの途中で止まったんだけど、あれは何だったの?

 

しかも閉まるの早いわ光もちょっと控えめになるわで、めっちゃ気まずかったんだけど。

 

過去の光景を思い出してふと湧いた疑問をぶつけると、かぐやちゃんは聞かれたくないことを聞かれたようなリアクションを取った。

 

うっすらとしか覚えていないらしいが、扉の隙間から見えた俺の人相が怖すぎて思わず…とのこと。

 

…そんな酷い顔してました…?俺…。

 

いや確かに転生した後のイベント無さすぎてクソ萎えてた時期だからさ。

 

そりゃあ落ち込んではいたと思うけど…怖い…怖いかぁ…そっかぁ…。

 

気まずそうにしながら打ち明けてくれたあたり、本当にそう思っていたのだろうな…悲しいな。

 

露骨に肩を落とす俺に、今は良い顔してるからとかぐやちゃんが必死にフォローを入れてくれる。

 

フォローもそこそこに、というかと話を続けるかぐやちゃん。

 

曰く怖いとは思ったけど扉自体は閉めてないし、そもそも扉の開閉自体はかぐやちゃんの意思でやってないとのこと。

 

いやまぁ…そうか。

 

その時点でそこまで明確に自我があるようには見えなかったし。

 

思い返されるあの怒涛の三連休。

 

ハイハイで部屋中を動き回るかぐやちゃん。

 

目に入ったものを取り敢えず口に入れようとするかぐやちゃん。

 

粗相をしてオムツを変えろと泣き喚くかぐやちゃん。

 

どの光景を振り返ってみても、赤ちゃんの振る舞いそのもので自我が芽生え…ん?なに?

 

あんまり恥ずかしい話しないで?…あっ。

 

女の子の前でお前のオシメ変えました発言をぶっ放した成人男性がここに一人爆誕した。

 

いつなったらデリカシーを身につけれるんですか俺は?

 

情けなさで思わず顔を覆って天を仰ぐ。

 

耳まで真っ赤に染めながらその節はご迷惑を…と言うかぐやちゃんに、いえいえむしろすみませんなんか…と返す。

 

こんなやりとりが板につく程度には、かぐやちゃんはこの星…というかこの国に馴染んでしまったらしい。

 

そっか…もう一ヶ月か…。

 

昨日のことのように思い出せる光景が、時の流れの速さをより実感させる。

 

この一ヶ月、かなり充実した日々を送れた。

 

それは俺に限らず、月から逃げてきたかぐやちゃんもそうだろう。

 

初めてご飯を食べた時も。

 

ツクヨミの街の光景を目にした時も。

 

海に行った時も。

 

ライブで歌ってる時も。

 

記憶の中のかぐやちゃんはいつも楽しそうに笑っていた。

 

それが充実していた何よりの証拠だろう。

 

そんな彼女がまた、自身を異常だったと言わざるを得ないような環境に押し戻されようとしている。

 

誰が悪いかと言われれば、それは責務を投げ出してこっちにきたかぐやちゃんなのだろう。

 

でも、それでも。

 

自然と握る拳に力が入る。

 

納得はできなかった。

 

…かぐやちゃんは、帰りたいのかい?

 

彼女の瞳が、水滴の落ちた水面のように僅かに揺らいだ。

 

仕事を放り出したままにできないのは社会人のひでちゃんにも分かるだろうと、かぐやちゃんが返してくる。

 

まぁ…確かに自分の役割に責任を持たなきゃいけない立場なのはお互い様だ。

 

変に投げ出すことが、どれだけ周りに迷惑かける事になるかも分かってる。

 

でもね、かぐやちゃん。

 

違う、違うんだよ。

 

責任とか役割とかじゃない。

 

やらなきゃいけない事じゃない。

 

かぐやちゃんがやりたい事を聞きたいんだ。

 

 

 

「だ、駄目だよ…そんなの…。」

 

 

 

駄目でも、良くなくても、道理に反しててもこの際どうでもいい。

 

かぐやちゃんはどうしたい?

 

 

 

「だって…かぐや…運命だから…。」

 

 

 

声を震わせて、何かを我慢するように顔を俯かせるかぐやちゃん。

 

その隣に移動して、硬く結ばれた拳を優しく包むように握る。

 

聞かせてよ、お兄ちゃんにさ。

 

かぐやちゃんの本音(ワガママ)

 

握った俺の手に、雫が一つ二つと落ちてくる。

 

押し殺していた感情が、涙となって外に湧き出てきた。

 

大人にならないわけにはいかない。

 

でもずっと大人でいる必要もない。

 

大人びた表情からいつもの子供ような表情に戻ったかぐやちゃんの目は、迷子のように助けを求めていた。

 

絞り出すように口から漏れ出た本音。

 

 

 

 

 

 

「いっ…いろはと…一緒に…いたい…っ!!!」

 

 

 

 

 

 

胸に飛び込んできた小さな体を、やさしく受け止める。

 

そこからはもう止まらなかった。

 

もっと彩葉と一緒に歌いたい。

 

彩葉と一緒にいろんな所に行きたい。

 

彩葉と一緒にいろんな事をしたい。

 

堰を切るようにあふれ出してくる涙。

 

震えた声で紡がれる願いを聞き逃さないように耳を傾ける。

 

うん...そうだよね...まだまだやりたいこと、沢山あるよね...。

 

相槌を打ちながら、慰めるようにかぐやちゃんの頭を撫でた。

 

尽きることがない未練。

 

酒寄さんとだけでなく、他の人とやりたい事だって沢山あった。

 

 

 

「芦花や真美も連れて...温泉とかにも行きたいっ...ひでちゃんの車で...。」

 

 

 

有給は腐るほどあるから、どこへだってお供するよ。

 

 

 

「ショッピングとかも全然っ...もっと行きたいよ!...ひでちゃんの車で...。」

 

 

 

...ん、んまぁ、荷物持ちは男の仕事みたいなものだしね、いくらでも付き合うよ。

 

 

 

「キャンプだって...やってみたいしっ...ひでちゃんの車で...。」

 

 

 

...あれ?割と都合のいい足だと思われてる?

 

思わずといった感じで口を突いて出た疑問。

 

車出してほしい以外で俺の名前挙がってないよね?

 

 

 

「.........クルーザーとかにも乗ってみたい...ひでちゃんの運転で...。」

 

 

 

何だその謎の間は。

 

多少なりとも思ってるって言ってるようなもんじゃねぇかおい。

 

ていうか船舶免許もクルーザーも持ってねぇよ成金じゃあるまいし。

 

 

 

「...じゃあジェット機...。」

 

 

 

じゃあを使って難易度高い方に舵切る奴がいるか。

 

逆に聞くけど、このナリでジェット機を持ってるように見えるかい?

 

そんな俺のツッコみを聞いているのかいないのか、未だ収まりそうにない涙をぬぐい鼻水をすするかぐやちゃん。

 

その姿がどうしようもなく愛おしく思えて、止まっていた手を再び動かして頭を撫で始める。

 

かぐやちゃんが泣き止むまで、俺は彼女の背を軽く叩きながら慰め続けた。

 

...あっちょっ、だから俺のシャツで鼻かむんじゃないの!

 

 

 

十分程度時間が経過して、ようやくかぐやちゃんの涙が止まった。

 

今は俺に自身の背中を投げだしたまま、何故か俺の手のひらを両手でふにふに触り続けている。

 

あ、あの~かぐやちゃん?それ、なんか楽しいのかい?

 

そう聞くとかぐやちゃんは、楽しいしなんか好きなんだと返してきた。

 

どういうことかと聞き返すよりも前に、かぐやちゃんが語りだす。

 

初めて俺に頭を撫でられたとき、手のひらの暖かさに驚かされた。

 

ただの温度もそうだが、それとは別ベクトルの暖かさを感じた。

 

撫でられた手から、預けた背中に触れている体から感じるその熱は、月では感じられないものだったから。

 

触れてもらう度に、触れ合った箇所だけでなく胸の奥もポカポカしてくる。

 

身を任せられる、安心できるような心地いい暖かさ。

 

それが優しさというものだと気づいたときには、もう癖になった後だったと。

 

ひでちゃんのせいでおかしくなっちゃった~なんて、口でそう言いながら少しも不快に思っていないように緩んだ笑顔を浮かべるかぐやちゃん。

 

人聞きが悪すぎる言い方を咎めようともしないあたり、自分も酒寄さんのことを馬鹿にできない位には入れ込んでることが自覚できた。

 

罪な男なのよあたしは~なんて言いながら、なんとなく天井を見上げる。

 

ふと、かぐやちゃんが手を揉むのを止めて、また口を開く。

 

月の世界の人はNPCみたいにひたすら自分の役割を繰り返しこなすだけ。

 

他の人との関係なんて自分の仕事に関わるかどうかだけ知っていればよかった。

 

ただそれだけ、それ以上もそれ以下もない。

 

家族という関係が存在することすらも知らなかった。

 

だから偽りだったとしても、短い期間だったとしても。

 

家族として俺と過ごせた事が本当に嬉しかったと。

 

 

 

 

 

 

「ひでちゃんが、かぐやのお兄ちゃんで本当に良かった…。」

 

 

 

 

 

 

なんの気なしに上を向いたのは正解だったかもしれない。

 

前触れなく溢れそうになった涙を流さずに済んだから。

 

深く息を吸って、ゆっくり吐く。

 

ありがとう。

 

感謝を口にした。

 

それだけで留めるつもりだったのに。

 

ごめん。

 

抑えれなかった、謝罪の言葉。

 

何に対してなんて事を、かぐやちゃんは聞かずにいてくれた。

 

聞かれても答えれない。

 

この世界にいない誰か(妹たち)を、かぐやちゃんに重ねてた事も。

 

その一言で勝手に救われた気になってしまった事も。

 

結局この謝罪の殆どが、重ねた誰か(妹たち)に向けてのものだって事も。

 

あぁ…クッソ。

 

かぐやちゃんを通して幻視するその顔を、未だに正面から見れていない自分が情けない。

 

何も言わずに手を握ってくれるかぐやちゃんに甘えるように、ただごめんと言い続ける自分が情けない。

 

それでも、確かに救われた俺の心には嬉しさがあって。

 

感情がグチャグチャで自分がどんな顔してるかも分かりやしない。

 

時計の針が進む音だけが部屋に鳴り響く。

 

心が落ち着くまで、まだ、もう少し、時間は掛かりそうだった。

 

 

 

 

 

 

俺が落ち着いた後は、そのまま二人で外に出た。

 

そろそろ二十時も近くなってくる時間帯。

 

流石に一人で送り出す訳にもいかないので、タワマンまで送る事にした。

 

俺の部屋で食べてくいくか聞いたが、酒寄さんの晩御飯をまだ作ってないらしい。

 

今頃腹空かしてるんじゃないか、酒寄さん。

 

オーケストラくらい壮大にお腹鳴ってるかもね〜なんて言いながら、公園の埋め込みタイヤ遊具の上を歩くかぐやちゃん。

 

彩葉のお腹の音よく響くからね!と言いながら綺麗な着地を決めるかぐやちゃんに拍手を送る。

 

確かに前に聞いた時よく響いてたわなんて、明らかに後で報復が来そうな発言はなんとな飲み込んだ。

 

だったら早く帰んないとね。

 

そう言って公園を二人で横切る。

 

他愛もない話をしつつ、ふらりふらりと少しだけ寄り道をしながらマンションを目指す。

 

その二人の間を結ぶ手は、いつどっちから繋いだかも分からない。

 

ただその手は、マンションに着くまで終始解ける事はなかった。

 

そう…マンションに着くまで。

 

 

 

 

 

 

「楽しそうですねぇ〜お二人さん。」

 

 

 

 

 

 

(酒寄さん)が、いた。

 

これは嘘でも誇張でもない。

 

俺はあれだけ硬く繋いでいた手を解いて、かぐやちゃんを売るように前に差し出す。

 

名残惜しさ?知るかそんなものより俺は命のほうが惜しい。

 

裏切り者とは失礼な、兎を元いた場所に返してるだけですよ。

 

ていうかなんであんなブチギレてるの?何したのかぐやちゃん?

 

いや酒寄さんがキレてたら全部俺のせいみたいな風潮良くないと思いますけど。

 

なにもしていないと自身の無罪を主張しあう二人に痺れを切らしたのか、酒寄さんがかぐやちゃんに近づく。

 

かぐやちゃんの書き置きに帰る時間や要件を特に書いてなかったこと。

 

どうやらそれに怒ってるらしい。

 

ちょっと部屋で缶詰した後にリビングに戻ったら、ひでちゃんち行ってくる!とだけ書いてあった紙が置いてあったとか。

 

それで焦って俺のアパートに向かおうと降りてきたところに、俺らが呑気におてて繋いでやってきたとか。

 

せめて一声かけてから外に出でくれと声を荒げる酒寄さん。

 

あ〜それはね〜よくないね〜。

 

酒寄さんツンツンしときながら意外と心配性だから。

 

今度からは報連相ちゃんとするようにね!

 

それじゃ!あとは二人でごゆっくぐぇぇ!!?

 

怒っている酒寄さん(憤怒の猛将ダイダロス)をかぐやちゃんに押し付けてそそくさとその場を去ろうとしたが、首根っこを掴まれて逃走に失敗した。

 

あと普通にかぐやちゃんも俺の服の裾を掴んでいた。

 

お前が悪いのになんで俺を巻き込むんだ。

 

助けてお兄ちゃん?

 

いやウチは家父長制だから。

 

兄の言うこと聞いて大人しくそこの悪魔に雷落とされてこい。

 

へ?俺も同罪?

 

仕事帰りに家の前にいたかぐやちゃんを部屋にあげただけで罪を問われる謂れは…。

 

かぐやちゃんが家来た時点で私に連絡するとかって…?

 

いやいやいや俺の部屋に一人できた時点で連絡行き届いてると思うじゃん!?

 

流石にそれは無理筋すぎって力つっよ!!?

 

あっちょ、さ、裁判長!異議ありです!異議…棄却!!?

 

そんなっ…横暴すぎるぅ!ひ、表現の自由を遵守しろぉ!言論弾圧を許すなぁ!

 

罪なき市民の声は、暴力と権力によってねじ伏せられるのが世の常。

 

抵抗虚しく、俺は熊の巣穴へと引き摺り込まれていくのだった。

 

 

 

…っあぁ〜足が痺れてる〜!

 

酒寄さんとかぐやちゃんが住んでるタワマンの一室。

 

リビングでなぜか正座させられていた俺は、足に血流が巡る筆舌に尽くし難い微妙に嫌な感覚に苛まれながら足を伸ばす。

 

謂れのない冤罪によって巣穴へ連行された俺は酒寄さんの説教の餌食になっていた。

 

その時間およそ三十分。

 

俺が頭にハテナマークを浮かべながらべそかいて怒られている一方で、かぐやちゃんは五分程度で解放され今は入浴中である。

 

なんで真犯人より無関係の人の方が拘束時間長いねん。

 

勿論五分で終わった理由は、酒寄さんがかぐやちゃんの懐柔に負けたから。

 

何回負ければ気が済むんだあんたは。

 

呆れ半分、変わらず楽しそうな関係のままである事に嬉しさ半分の気持ちで、軽く息を吐きながら足を手で摩る。

 

…んで?こうして引き留めてまで話したいことって何?

 

俺の足を指で突こうとしていた酒寄さんは、図星を突かれたかのようにギクリと体を強張らせる。

 

いや俺が家に上がってからずっと挙動不審だったんだけどね酒寄さん。

 

そもそも家にあげる口実も酷い言い掛かりみたいなもんだったし。

 

説教の内容も的を得ないようなものばっか。

 

かぐやちゃんが懐柔しに行ったのだって、様子のおかしい酒寄さんに気を遣って二人で話せるようにしようとしたからだぞ。

 

その後の説教…というかなんだあれは。

 

やれかぐやの作る飯は美味いけど食費がバカにならないとか。

 

やれ一緒にお風呂に入りたがるとか。

 

やれ部屋を別にしてるのに気づいたら自分の布団に潜り込んでくるとか。

 

惚気か?…惚気だな。

 

終いにゃ話すことなくなったらちょっかいかけようとするし。

 

痺れた足ツンツンするのはやめなさい普通に。

 

何故バレたのかという表情の酒寄さんに、これでもかと言わんばかりに挙動不審具合を羅列していく。

 

うぐぐと唸った後、ようやく観念したのかおずおずと引き留めた理由を話し出した。

 

……えなに、俺が怒ってるかって?

 

いやいや、怒ってないよ全然。

 

多分チャットであんなにそっけない返しをしたの気にしてるんだろうな。

 

怒ってたらそもそも部屋に上がらないで帰ってるってのに。

 

それを聞いてホッと胸をなでおろす酒寄さん。

 

しかし、あくまで本題は別だったのか。

 

すぐに真面目な表情に変わった。

 

 

 

「斎藤さん...。ごめんなさい、やっぱり大丈夫じゃなかったです。」

 

 

 

奇遇だね...実はさ、俺も大丈夫じゃなくなったぽくてさ。

 

視線を合わせて、お互いにうなずきあう。

 

かぐやちゃんと話した後から、密かに頭で考えていたことがあった。

 

でもそいつはどうやら、酒寄さんも考えていたらしい。

 

その行動に正義があるかと問われれば、多分違うだろう。

 

善悪以上に自分の欲が行動の理由になるのだから。

 

それでも、何もせずに黙って見ている気にはなれなかった。

 

窓から見える綺麗なお月様を、にらみつけるように目を細めるながら呟く。

 

んじゃまぁ、打倒月人の作戦会議と行きますか。

 

 

 

 

 

 

...へ?他の人もいるから?また後で集まってから話す?

 

...あ、そう...ふーん...。

 

スーッ...エッハズカシッ。

 

今のセリフ...忘れてもらうことって可能だったり...。

 

しない?あ、はい...。

 

...わ、忘れろビームッ!!!

 

 

 


 

 

 

人の記憶を消すことなど到底不可能だったわけでして。

 

目と目が合えば一生擦られるであろうことが確定したあの後、俺はすぐに家に帰った。

 

余りの恥ずかしさに逃げ帰った?

 

無礼な言い方をしおって...勇気の撤退と言いたまえ。

 

なんて冗談は置いておき、普通に集合時間までの猶予が意外と無かった。

 

集まるのはもちろんツクヨミ上なわけで、スマコンを持ってきていない俺は一度家に変える必要があった。

 

そもそも晩御飯とかシャワーとかもなんもやってなかったし。

 

ということで一旦家に帰宅して諸々やることを終えた後にツクヨミにログイン。

 

集合場所は酒寄さんからDMでリンクごと送られてきていたので、そこから移動した。

 

移動先は、霧に覆われるくらいには高い仏塔の最上階。

 

壁が取っ払われたこの階は、会議室というか談話室みたいな感じで使われる場所らしい。

 

色んな部屋があんのね~なんて周りを見渡していたら、先客が声をかけてきた。

 

先客というのは、なんとびっくりあの黒鬼ことブラックオニキスだった。

 

うぉとんでもねぇビックネーム...いや酒寄さんのお兄さんもいるんだったなそういえば。

 

最初は面食らったが話してみると意外や意外、テンプレなぞった人当たりの良いお兄さんだった。

 

チョリーッス、かぐやちゃんと結婚する予定の帝様だぜよろしくぅみたいな事言われるもんだとばかり...。

 

挨拶や世間話もそこそこにとりあえずフレンド申請を送りあったりしていると、他の面子も集まってきた。

 

最終的に集まったのは、俺を含めて八人。

 

酒寄さんと諌山さんと綾紬さんのJK三人組。

 

黒鬼のお三方。

 

ツクヨミ管理人のヤチヨさん。

 

一般通過おふざけ骸骨お面の俺。

 

なんか一人場違いな奴が混じってますね...。

 

つってもツクヨミ内だと不審者みたいなナリをしているのは今更。

 

顔面偏差値バカ高集団に放り込まれるのも、それなりにやられた事があるので慣れている。

 

特に気にも留めずにいると、みんなを集めた発起人の酒寄さんが話し出した。

 

集めた要件は、かぐやちゃんのお迎えを阻止するための協力依頼だ。

 

協力を仰ぐためには勿論、諸々の事情説明が不可欠になる。

 

事前に許可は出しているため、酒寄さんは特にこちらに確認をすることなく話を始めた。

 

かぐやちゃんの出自や俺との協力関係。

 

ここに至るまでのイベントや先日のライブで起きた事件の真相。

 

酒寄さんは、隠すことなくすべてを明らかにした。

 

途中、まさかお前も?なんて目を向けられたのでちゃんと否定しておいた。

 

地球生まれ地球育ちですよ俺は。

 

衝撃のカミングアウトを受けて、反応は様々だった。

 

築地生まれじゃなかったのかとか、海行っても肌が白かったとか。

 

...あれ?なんか、結構ユルい反応だな。

 

帝さんは帝さんでかぐやちゃんが月のプリンセスだとは...わかる、なんて言ってた。

 

何がわかったのだろう彼は...。

 

かぐやちゃんに対する反応に関しては、特段驚く様子もなく普通に受け入れていた。

 

むしろ驚かれたのは俺の方だった。

 

いやまぁそりゃそうか。

 

かぐやちゃんの兄貴で通してたのに、蓋開けてみればかぐやちゃんの関係者じゃないし。

 

それどころか酒寄さんとも、顔見知り...?ってくらいの一般成人男性だしね。

 

いや~...ね?と、とりあえず土下座しとくね?

 

何でって、そりゃお前異変に乗じてJKにすり寄ってんだからそりゃ謝罪必要でしょうよ。

 

あまつさえ関係偽って居座り続けてたわけだし。

 

身元不明の女の子の兄を謳ってJKと仲良くしてる成人男性だぞ?

 

字面の破壊力ヤバすぎだし普通に犯罪者だろこれ。

 

通報されても文句言えないってか打倒な案件だぞ。

 

いや本当にお二人には申し訳ない事をしてしまってなんと詫びればいいか。

 

二度と関わるなって言うなら本当にそうするし、他にも償えることがあるならなんでも...。

 

まくし立てるように土下座で謝罪し続ける俺に時間がもったいないと痺れを切らしたのか、酒寄さんが少しいらだったような足取りで俺の前に立つ。

 

そのまましゃがんで俺の顔を両手で挟んで無理やり顔を上げさせるや否や一喝。

 

 

 

「私の恩人を悪く言わないでください!」

 

 

 

恋に落ちそうになるんでそういうこと言うのやめてくれません?

 

てか顔近っ、なんだこの顔面国宝は。

 

流石のスパダリ酒寄さん。

 

発言一つ一つの破壊力がたけぇのなんの。

 

とはいえフォローにしてはガチ感ちょっと強すぎなきもします。

 

…あ、あの、一旦手を離そうか。

 

綾紬さんが後ろでお見せできない表情しているのに気づかず、両手で俺の顔をがっしり押さえたまま俺の目をまっすぐ見つめてくる酒寄さん。

 

さ、酒寄さん?…え、あっはい、もう悪く言わないっす。

 

ならいいですけど…と呆れたような声で呟きながら漸く俺の顔を解放してくれた。

 

それも束の間、キビキビ立つ!と強めに急かしてくる酒寄さん。

 

ごめんごめんと返しつつ俺は土下座の体勢を解く。

 

っと、でもやっぱりさ、嘘ついてたのに変わりないから一回ちゃんと謝らせて。

 

ネタっぽくなっちゃったし、謝意はちゃんと見せるべき。

 

ずっと…嘘ついて騙しててごめん。

 

二人に向かって今までのことを謝罪した。

 

前世で腐るほどやってきた義務感まみれの謝罪ではない。

 

誠意を込めた45度の綺麗なお辞儀を、二人は文句も言わずに受け取ってくれた。

 

なんなら私達にとっても恩人みたいなものだし、なんて言ってくれた。

 

もう…もう感動で泣きそうですお兄さんは…。

 

あぁ…人の善性が心に染みてゆく…。

 

そうして一人で勝手にホッコリしてたが、酒寄さんが両手を叩いて注目を集める。

 

おっとっと、話の主題から逸れすぎたね。

 

軌道修正した酒寄さんが、かぐやちゃんを守ることができないかをヤチヨさんに聞く。

 

しかし返ってきた答えは、月人が何処からアクセスしてきたか分からないというもの。

 

暗に相手が神出鬼没過ぎて守れないということだろう。

 

それを聞いて、いっそログインしないのはどうかと案を出してくれたのは綾紬さん。

 

ん〜…それを考えなかったわけじゃないんだけど、いかんせん相手の技術レベル考えると現実世界にも干渉する手立てあると思うんだよねぇ…。

 

だったらまだツクヨミ内の方がいいかなって。

 

ほら、ツクヨミの中だったら戦えるだけの力が俺達にはあるわけだし。

 

現実だとパンチ一発で伸されそうなくらいヘロヘロだからそっちの方がいいかも?

 

おだまりっ!メロンパンの装飾むしり取るぞ!

 

ツクヨミで相手をする事に賛成なのか、此処なら俺たちが一番強いと豪語する帝さん。

 

他の人も、その方針に異論立てはなさそうだった。

 

酒寄さんと頷きあって、二人で頭を下げる。

 

出せる報酬も提示できるメリットも、俺達二人には殆どない。

 

それでも、お願いします…俺達に協力してください!

 

協力の依頼に明確な言葉での返答はなかった。

 

それでも、集まってくれたみんなは態度で示してくれた。

 

早々にツクヨミからログアウトしていったのはブラックオニキスの三人。

 

まともな主語がなかった会話だったが、聞いた感じ早々に準備をしにいったのだろう。

 

()()………ねぇ…。

 

気になるワードに思考を巡らせる間も無く、綾紬さんと諌山さんが声をかけてきた。

 

その内容は至ってシンプル。

 

来年も、みんなで海に行こう、温泉にも。

 

誰と、なんて聞くのは野暮だろう。

 

酒寄さんも俺も、ただ一言ありがとうとだけ返した。

 

それだけで十分に伝わると思えたから。

 

打倒お迎え部隊!と息巻きながらログアウトする綾紬さんと諌山さんを見送った後、酒寄さんはあっと何かを思い出したような声をあげた。

 

そのままヤチヨさんに声をかける酒寄さん。

 

話の内容は、卒業ライブの演出についてだった。

 

かぐやちゃんの最後の晴れ舞台。

 

半端な出来にする訳にはいかないので、その分野に一日の長があるヤチヨさんに任せたいとのこと。

 

ヤチヨさんのライブは二回しか参加したことないが、どっちもハイクオリティだったしねぇ…。

 

それに加えてもう一つ、KASSENのフィールドに特設ライブステージを作れないかという依頼。

 

ツクヨミで争う以上は、一番やり慣れてる場所で戦いたいという考えだろう。

 

まぁ所謂ホームってやつよな、此処がアンフィールドってわけ。

 

唐突な依頼にも、ヤチヨさんは特に嫌な顔をすることなく快諾してくれた。

 

いや本当に助かります…。

 

その辺の知識とか皆無だからマジでヤチヨさん頼りなんで…。

 

引き受けてくれたヤチヨさんに二人でお礼を伝える。

 

酒寄さんはかぐやちゃんが卒業ライブで歌う曲を作る必要があるらしく、用件を終えた後は挨拶もそこそこに直ぐログアウトした。

 

…さて…と。

 

この場に残されたのは二人。

 

俺とヤチヨさん。

 

用件が終わった後に元々二人で話せないか聞くつもりで、今の状況は好都合だ。

 

ヤチヨさんの方も、俺がアクションを起こしてくることをある程度予測していたのか、この場を去る気配はない。

 

…迎えが来るまでの残り日数も少ないです。

 

時間は限られているし、お互いにやるべきことがあります。

 

なので、単刀直入に聞きます。

 

なんでコラボライブの時、月人じゃなくて私を止めたんですか?

 

問いかけに対する返答は無い。

 

というより、どう返すべきか考えている感じ。

 

着物のように広がった袖で隠されている口元は、特に動く気配を見せなかった。

 

何かを推し量るような視線が、ただ真っ直ぐに俺の両目を見つめている。

 

ヤチヨさん…酒寄のお母さんには謎が多すぎる。

 

あの日、間違いなく月人の存在には気づいていたはず。

 

よしんば俺の行動の方がよりヤバいと判断したとしても、ヤチヨさんの力なら月人も同時に止めることだって出来たはずだ。

 

分身体ですら、ふじゅ〜で賭博してた奴ら複数人を一度に一人で押さえることが出来ていたのを俺は見たことがある。

 

言動だけ見れば月人の味方のように思える。

 

だがそれはおかしい。

 

かぐやちゃんの証言から考えるに、あの行燈頭も間違いなく月人だ。

 

そいつらの味方ってことは、ヤチヨさんも月人ないし月の勢力の一員と推測できる。

 

でも酒寄さんの話を聞く限り、酒寄のお母さんは普通の人間だ。

 

普通…ふ、ふつ…普通かなぁ?…じ、常軌を逸しているとはいえ流石にまだ人間の範疇に収まっているはずだ。

 

常識はずれの技術力を有している月人と、地球人との間でコネクションがあるとも正直考えづらい。

 

俺達みたいにゲーミング電柱に遭遇したという前例があるなら考慮すべきだが、そんな前例はいくら調べても出てこなかったし、そもそもあってたまるかそんな前例。

 

となるとヤチヨさんは、コネクションも特にない筈の月人の味方をしているという状態になるわけで。

 

今ある情報をどう繋ぎ合わせても、納得のいく仮説が作れないのだ。

 

まじで強引にこじつけするなら、かぐやちゃんの性格が自分の価値基準に合わなさすぎたとか?

 

あんな我儘な子が娘の近くにいると、娘が一人前として自立することへの障害になるから引き離したかったとか?

 

それで利害が一致した月人と協力してる…みたいな。

 

でもそれだと結局、なんで月人がかぐやちゃんを迎えに来るのを知ってたの?ってなるしなぁ…。

 

ともかく、俺が出せるカードはかなり少ない。

 

ヤチヨさんも未だに一言も発していない。

 

このまま膠着するくらいなら、こじつけでもなんでもいいから適当に揺するか。

 

そう考えて、いつものようにペテン師よろしく口を開き始める。

 

…痛みの伴わない教訓は無意味などとよく言いますが、過ぎた傷で再起不能になってしまっては元も子もないと、私は思ってます。

 

かぐやさんを引き離すのは、今の酒寄さんにとっては大きな傷になるでしょう。

 

貴方も、彼女達が引き剥がされた方がいいと思いますか?

 

ヤチヨさんは…答えない。

 

ただ変わることなく真っ直ぐに、俺の両目に視線を送り続ける。

 

…現時点でヤチヨさんの仮面を剥がすのは無理だな。

 

何言われても話す気無いってオーラがバリバリ出てるもん。

 

表情カッチコチだし。

 

こうなってしまってはどうしようもない。

 

相手は国とタイマン張れるレベルのシステムを管理しながらライバーと弁護士をやってる傑物。

 

これ以上どう粘っても、まともな情報を得ることはできないだろう。

 

ならば最低限、これだけは確認しときたい。

 

……話す気は、無いですか…。

 

…一つだけ、一つだけ聞かせてください。

 

貴方はかぐやちゃん…いや。

 

いろPの味方ですか?

 

 

 

「……うん。ヤッチョは、彩葉の味方だよ。何年も前からずっと。」

 

 

 

その言葉には少し、ほんの少しだけ迷いはあった。

 

でもそれ以上に大きな愛が込められていた。

 

どうやらヤチヨさんはちゃんと、酒寄さんの味方でいてくれるらしい。

 

…奇遇ですね、私も彼女達の味方です。

 

そう返すとヤチヨさんも何か思うところがあったのか、ずっと続いていた俺への警戒を解いた。

 

正直口では冷静ぶって返しているが、内心めちゃくちゃホッとしてる。

 

こんなスーパーマンなんて何回も相手にしてられないしな…クッソ疲れる。

 

それに、酒寄さんの推しであり母親だから。

 

いたずらに傷つけたり疑ったりなんかしたくなかった。

 

初めて見たミニライブの時も、そして今も。

 

酒寄さんを思うヤチヨさんの目から感じる愛は、俺が見たことのないくらい眩しくて綺麗なものだと思ったから。

 

親からの愛を知らない俺が、心の底から羨ましいと思ったそれは、きっと本物だから。

 

ふぅ…お互いに聞きたいことは山程あると思いますが、一時休戦としましょうか。

 

その言葉に、ヤッチョは戦ってるつもりなんてなかったけどね〜?とニヤニヤしながら戯けた様子で返してくるヤチヨさん。

 

察するにお前が勝手に敵対視してただけと言いたいのだろう。

 

言い返せないことへの悔しさと、言葉のチクチク具合に若干の酒寄の血筋を感じながら、ウィンドウを操作する。

 

目下の憂いごとは取り敢えず全部解消できた。

 

なら後は、ひたすら前に進むだけだ。

 

 

 

「…ねぇ、なんで貴方は…サイトーサンはそこまでかぐやに肩入れするの?」

 

 

 

唐突にヤチヨさんから投げられた疑問。

 

本当に血が繋がってるわけでもない、元々友達だったわけでもない、一ヶ月程度の付き合い。

 

事情を全て話した今、ヤチヨさんからすると俺がここまでする理由が分からないのだろう。

 

そりゃそうだ、だって。

 

 

 

 

 

 

兄が妹を助けるのに、理由がいるんですか?

 

 

 

 

 

 

そもそも理由なんてないのだから。

 

偽りだとしても、一度兄として振る舞ったのなら。

 

お兄ちゃんを遂行しなければならない。

 

それは人に課された縛りであり責務なのだ…。

 

まぁ酒寄さんの母親って確か長女だから、お兄ちゃんを深く知らなくてもしょうがないか。

 

そんなことを思いながら、自身のDM欄を開く。

 

未だに熱烈なラブコールを送ってくる粘着ストーカー共のメッセージに返答を入力した。

 

妹のことは無条件で助ける。

 

妹を助ける為なら、使えるものはなんでも使うし、ベットできるものは全部ベットする。

 

お兄ちゃんってそういうものなんです。

 

俺がそう言うと、ヤチヨさんはおかしそうに微笑みながらそっかと返してきた。

 

 

 

 

 

 

ヤチヨさんとも別れて、ツクヨミからログアウトした後。

 

俺はスマホを手に取り、ある番号へと電話をかける。

 

お迎えの日まで殆ど時間は無い。

 

一分一秒も無駄には出来ない。

 

きっと今、何処かで妥協しようものなら死ぬ程後悔する。

 

かぐやちゃんの為にできたことがもっとあったんじゃないかって。

 

そんな後悔をするのはもう二度とごめんだから。

 

使えるもんはなんでも使うし。

 

 

 

…あ、もしもし斉藤です。

 

夜分遅くにすみません課長。

 

以前から相談していた件についてなんですけど…今お時間大丈夫ですか?

 

 

 

 

ベットできるものは、全部ベットする。

 

兄とは、そういうものだ。

 

 

 






ゲーミング電柱の扉を開け閉めしてたのはヤッチョです。かぐやが電線渡ってる時にヤッチョが彩葉のアパート近くの電柱まで道案内してるみたいな考察あったんでそのノリで。かぐやが電柱に到着した後にヤッチョが裏で周辺の人払いをしていたのですが、何故か主人公はその人払いをすり抜けてきました。関係ない奴は人払い出来てるし最初に通りがかったら彩葉だよね〜の気持ちで開けようとして途中で気づいて閉めた感じです。

かぐやの中では明確に順位があります。一が彩葉で二に自分、三に主人公です。なので彼女が一番にやりたい事は「(自分が)彩葉と」一緒にいる事です。ハッピーエンドに「(自分と)彩葉も」連れて行くと過去に発言しています。本人が意図的に省いているのではなく、深く考えずに欲望のままに口を開いたらら自然と外れてた感じです。主人公への好感度は高い方なんです。それ以上に彩葉への愛が銀河級にでかいだけなんです。まぁどっちにしろ百合の間に男を挟めてはいけないのがこの国の法律なのでね。しょうがないね。

かぐやにとっての主人公は兄であり家族です。彩葉?彼女は友達通り過ぎて恋人突き破って家族超越して"全部"(公式)だから。うおっ重。

かぐやちゃんの兄として成功すればするほど、実の妹達の兄としての大失敗した過去がリフレインする仕様です。情緒が乱高下しててジェットコースターみたいだな。楽しいね。

主人公は痺れを切らしたと解釈してるし、発言を受けてもネタ的な反応しかしていませんし、実際フォローしてくれてサンガツくらいにしか思ってませんが、彩葉は割と本気で怒ってたし本気で言ってます。

親からの愛を知ることが出来ずに、あるいは正面から受け止めることをせずに育ってきた主人公は、ヤッチョから彩葉へのクソデカ感情を親からの愛だと勘違いしています。デカそうだからという理由だけで勘違いしてます。ヤッチョは彩葉の母になってくれるかもしれなかった女性だった…?

兄とはそういう…そういうもの…なのかなぁ?(困惑)

あ凄い今更なんだけど、ノベライズ版とネトフリ版の描写とオリジナル描写をまぜませしながら書いてますんでよろしくお願いします。
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