え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

18 / 21
17. 帝の呼び出しから戦闘開始まで

 

 

 

かぐやちゃんのお迎えを阻止すべく、関係者に事情を説明したあの日から数日。

 

各々が来るべき日に向けての準備を進めていた。

 

かぐやちゃんは卒業ライブの練習。

 

酒寄さんは、かぐやちゃんが歌う曲の作曲作業。

 

諌山さんや綾紬さんは、自身の生活の合間を縫ってはKASSENの練習に励んでくれているらしい。

 

そんな中で俺は何をしているかというと...。

 

短期間で二回もここに来るとはねぇ...相変わらず周囲が霧で隠れてて正直怖いんだけど。

 

例の会議でも使っていた仏塔最上階の会議室に来ていた。

 

ここに来た理由は勿論、話をしに来たわけで。

 

話をしに来たというか、呼び出されたってのが正しいが...。

 

俺が部屋に来てから二分もせずに、また誰かが部屋に入ってくる。

 

入室してきたうちの一人は、俺を見るなり驚いた表情を浮かべていた。

 

あ、お疲れ様です~...思ったより早いですか?まぁ社会人やってると五分前行動がデフォルトになりつつありましてね。

 

そう返すと、納得したような表情を浮かべながら遅れたことの謝罪を口にする。

 

いやいや!天下のブラックオニキスさんを待たせるわけにはいかないですよ!

 

俺を呼びだしたのは、酒寄さんのお兄さんが所属するプロゲーミングチームのブラックオニキスだった。

 

前に集まった時に連絡先代わりにということでフレンドになったのだが、そこにメッセージが送られていたのがつい昨日。

 

詳細は特に記載されておらず、時間取って話すことができないかという旨だけ送られてきていた。

 

こっちとしても聞きたいことが実はあったので、渡りに船ということでこれを快諾した。

 

そうして集まったのが今現在となるわけだ。

 

...へ?顔色?あぁ...ちょっと夜遅くまでKASSENの練習してまして。

 

あの中だと私が一番実力も経験も足りていないので、当日までに少しでも地力をつけれればと。

 

備え付けの椅子に座るように促す俺を見て、顔色が悪い事を指摘してきた帝さん。

 

ツクヨミってリアルの顔色とか反映されんのね...ハイテクぅ。

 

ちょっと体調不良気味なのは、シンプルに寝不足だ。

 

月人に関しては、現実世界ではなくツクヨミ内で追い返すことが方針として決まった。

 

理由の一端としては、ツクヨミの方が戦力が純粋に高いから。

 

しかし、それはブラックオニキスや酒寄さんの実力に依存している面が大きい。

 

特に俺に至っては、KASSEN歴が一ヶ月程度。

 

良くて素人に毛が生えた程度と言っていいだろう。

 

配信のコメント欄ではありがたいことに才能ありと高めの評価をいただいているが、致命的に経験が足りていないのは明白。

 

それを何とかするために、俺は2つの策を打ち出した

一つ目は、ひたすらKASSENのSETSUNAモードに潜り続けて練習すること。

 

これはシンプルにKASSENへの理解度と、ツクヨミ内での戦闘経験を詰むためである。

 

そして二つ目は、有志を募ってカスタム戦や情報共有を行うことだ。

 

前にここで集まった時の会議が終わった後、俺はツクヨミのアカウントに来ていた一件のDMに返信した。

 

返信したのは、寒気がするような熱視線を俺に送ってきていた日本ツクヨミ格闘武器学会(粘着ストーカー共)からの勧誘DMだ。

 

今になって彼らのラブコールに応えた理由は、日本ツクヨミ格闘武器学会の奴らが把握しているであろう知識を得るため。

 

日本ツクヨミ格闘武器学会(変態の集い)はねじが外れているという意味でも悪名高い界隈だが、その中で扱われる情報の信憑性や有用性については目を見張るものがあった。

 

ネットに転がってる学会が初出の情報を拝見させてもらったのだが、ツクヨミでのアバター操作において根幹に関わるような有益な情報がわんさかあった。

 

お陰でツクヨミ内での動きのキレや速さが随分とあがった。

 

取り扱っている武器が格闘という都合上、体の動かし方への造詣が深いのだろう。

 

格闘武器にフォーカスを当てていなければ、もっと有名になれたし、しかるべきところから声がかかったりしていたろうに...。

 

そんなことを学会内で発言しようものなら、即刻ジャンヌダルクのように薪にくべられるので口は紡いでおくが。

 

冗談だと思う?ガチでやるぞ多分...あいつらの目ヤバかったもん。

 

裏切者は即刻処すべし、みたいなこと書いてあった社訓モドキが学会のホームの壁にかけてあったし。

 

そんな魔女狩りしてそうな会員達だったが、話自体はちゃんと通じるし人当たりも結構良かった。

 

お陰でKASSENに関する情報収集についてはかなり捗ったしね。

 

好戦的な会員が多かったこともあり、対戦相手にも事欠くことはなかった。

 

それに、会員達に限らず俺が呼び出せそうな人には、可能な限り声をかけて協力してもらった。

 

かぐやちゃんに作れと言われた後にほぼほぼ動かしていなかったかぐやちゃんの兄としてのSNSアカウント。

 

こいつを利用して、過去の配信で俺についてコメントくれてたアカウントに向けて声をかけたりした。

 

いつぞやのかぐやちゃん争奪戦に来てくれてた海の益荒男さんや喉貫手希望ネキさんをはじめ、色々な方が協力してくれた。

 

中にはアンチというやつも来ていたが、この際相手をしてくれればなんでも良いということで、適当に煽ってKASSENのマッチングに引き摺り出した。

 

色々な人の協力もあって、連日対戦相手に困らない状況が続いていた為、つい夜遅い時間までのめりこんでしまったのだ。

 

両手を腕の前で小さく振りながら帝さんに問題ない旨を伝える。

 

こんなとこでへばってらんねぇしな!

 

はい?敬語?あ、外してもいい?助かるわぁ…。

 

堅苦しいやりとりは今後のコミュニケーションの妨げになると判断したのか、帝さんから敬語を外すように言われた。

 

畏まった口調とかあんまり得意じゃなくてね...見たとこそんなに年齢離れてないだろうし、こっちの方がいっか。

 

...あ、俺の方が上だった...てか最年長なのか、この中だと。

 

流れから年齢の話になりお互いに年齢公表をしたが、俺が一番上でした。

 

乃依さん高校生ってマジ...?若いねぇ~あめちゃんいる?あ、いらない...そっか...。

 

ん?あ~いいよいいよ、どうせ暇人だったし平日真昼間でも問題なし。

 

...あぁ、仕事ならつい昨日辞めたから、ちゃんと暇人だよ。

 

それを聞いて困惑した声を上げる帝さん。

 

そう、諸々の手続きを終えた俺は、4年近く勤めていた会社を退職してつい昨日無職になった。

 

学会からの誘いに返信した後に課長に入れた電話は、退職する旨を先に伝えるため。

 

手慰み半分で更新し続けた引継ぎ資料、減る気配のない他プロジェクトからの救助要請、前から行っていた転職の相談。

 

辞める理由もあれば引継ぎも半分終わってるみたいな状態だったため、退職手続きはスムーズに進んでくれた。

 

中堅社員がどんどん抜けていく...と嘆いていた課長には手を合わせてお祈りを捧げておいた。

 

へ?俺抜きだとプロジェクトがまわらない?

 

そもそも何で他プロジェクトの人間がいないとまわらないようなプロジェクト運営をしてるんですか?(困惑)

 

特に感傷に浸ることなくスパっと辞めてはきたが、唯一心残りがある。

 

天体バカ同僚のことだ。

 

客先のトラブル対応のためここ最近は出張しており、会社には出社していなかった。

 

あいつには世話になった...世話...むしろ世話を焼いた記憶の方が多いな...。

 

とはいえ直近は世話になったんで一言二言は挨拶したかったんだがねぇ...。

 

まぁええか、言うて同期が辞めるとか珍しい事じゃないし...連絡は...諸々終わった後にするか。

 

事情の説明も楽ではないので、その辺は一旦頭の隅に追いやっとくとして。

 

気になるであろう退職した理由についてだが、勿論KASSENの練習に時間を割きたいから。

 

ただでさえ満月の日まで時間が全然無いのに、さらに日中は仕事で時間が潰れる。

 

それでかぐやちゃんのお迎えを阻止できなかったら、俺はめちゃくちゃ後悔するだろう。

 

もっと犠牲にできる要素があったんじゃないかって。

 

かけれるものは全部ベットする。

 

それは勿論俺の職業だって例外ではない。

 

別に職が無くなったから今すぐ死ぬってわけでもないしええやろの精神で、決断から実行までそう迷いはしなかった。

 

...重い?え、嘘、そんな重たいか?

 

家族の事情で職変えますみたいの、別に珍しくなくない?

 

...あぁ~...いや確かに本当の血縁じゃない...けど...さ...。

 

えぇ...俺って重いのか...?剽軽薄っぺら激軽お兄さんが自認だったんだけど。

 

黒鬼の面々からは口を揃えて重いとドン引き交じりに言われた。

 

んまぁいいや重くても...んで?帝さんが俺を呼んだ理由って?

 

自認は後々更新するとして、今回の話の本題はこっち。

 

帝さんが俺をここに呼んだ理由だ。

 

つってもまぁ大方予想はついている。

 

酒寄さんに変なことしてないかの確認だろう。

 

その予想はズバリ的中といった感じか。

 

帝さんから、酒寄さんとはどういう関係なのかと問われた。

 

先ほどまでのどこかコミカルな雰囲気から一転、少し剣呑な雰囲気が場を取り巻く。

 

俺達の奇妙奇天烈な関係を暴露したあの日は、空気を読んでそのまま流されてくれたみたいだが。

 

本来であれば待ったをかけていた場面だろう。

 

なにせ自分の妹と奇妙な関係を築いている片割れが、赤の他人、しかも成人男性だったのだから。

 

実の兄からしたらまず疑うし警戒するだろう、逆の立場だったら俺もそうする。

 

てか普通に手が出るよ多分。

 

関係とはいってもね...あの日酒寄さんが語ったことが全部で、隠し事も誇張も何もない。

 

帝さんの目は鋭く細められたままだ。

 

...あのアパートに住み始めたのは酒寄さんより三年先、明日でいいなら契約書見せてもいいよ。

 

彼女の部屋に上がったことはあるけど、必ず酒寄さんに許可取ってから上がってる。

 

学校とかバイト先も、何処なのかは聞いてないし知らない。

 

ツクヨミでは遊んだ事あるけど現実では一回だけ、しかも友達同伴。

 

いくつか飛んでくる質問に返答していくものの、帝さんの表情は険しいままだ。

 

疑念が晴れないなら本人に聞いてもらっても構わないよ。

 

後ろめたいことは一つもないからね。

 

そういう俺に、信じれると思うか?と問うてくる帝さん。

 

…酒寄さんに何もしていないのは事実。

 

でも、何もしていないことを証明する証拠を提示することは出来ない。

 

信じれなくとも、信じてもらうしかない。

 

帝さんが疑う気持ちも分かるが、どの面下げてというのを承知で言わせてもらうよ。

 

後にしてくれ。

 

味方同士でいざこざ起こして、酒寄さんにいらない心労をかけたくない。

 

全部終わった後なら、喧嘩でもなんでも受けるからさ。

 

お互い大人なんだし、目的考えて折り合いつけようや。

 

ただでさえ戦力不足と予想されてるのに、仲間割れでさらに戦力ダウンとか目も当てらんないしね。

 

同じ兄として気持ちは痛いほどわかってあげられるけど、ここは何卒引いてクレメンス〜…。

 

心の中で合掌とお祈りをしていると、帝さんが再び何も手出ししていない事を確認するように聞いてくる。

 

あぁ、彼女には何もしていない。

 

帝さんの目を真っ直ぐに見てはっきりと返す。

 

それを聞いた帝さんは。

 

自身の武器をストレージから出すや否や、刀身を俺の首に向けて走らせた。

 

その間僅か0.8秒。

 

恐ろしい速度で振るわれる刃は、俺の首を切り落とさんとばかりに迫ってきて。

 

数ミリ手前で停止した。

 

嘘ではないだろうなと、今にも斬り殺さんと言わんばかりの殺気を向けてくる帝さん。

 

流石にやりすぎだと感じて止めに入ろうとした黒鬼の二人も、その圧を前に口を開けなかった。

 

沈黙がミーティングルームを支配する。

 

数秒か、数分か、数時間か。

 

長いようで短い沈黙を破ったのは、この雰囲気を作り出した帝さんだった。

 

微動だにせず真っ直ぐに見つめてくる俺の様子に嘘ではないと判断したようで、俺の負けだと武器を納めた後に謝罪してきた。

 

曰く、少しでも後ろめたそうな態度を取ったらそのまま一刀両断するつもりだったらしい。

 

頭を下げる帝さんに、信じてくれたようで良かったと返す。

 

しかし和かに返す言葉とは裏腹に、その思考回路はオーバーヒート寸前の状態だった。

 

????????????

 

は?待って待って待って、は?え、やば。

 

てか危な…やば、イカれ…は?

 

厳かに会話してたはずなのに、気がついたら刃と首がガチ恋距離まで接近してたんだけど。

 

接近どころかほぼ接吻までいってたかもしれん、なんなら。

 

動き早過ぎてなんも抵抗出来なかったし。

 

驚き過ぎて声も出なくなってたらなんか許されたし。

 

え待って、てか変に反応できてたらそれはそれでさ、後ろめたい事あるって判断されてそのまま首チョンパルートだったってこと?

 

恐怖で表情冷え固まってて助かった…。

 

怖過ぎだろお前、価値観が薩摩藩士だよもう。

 

あとコミュニケーションの中で、ナチュラルに武力制圧や恫喝入れるのやめろよ。

 

こんなとこで妹さんと似てるな〜とか酒寄家の血筋感じたくなかったわ。

 

感情が困惑と怒りと恐怖が混ぜこぜになってしまったが、思ってる事全部口に出してしまうと折角の和解が台無しになる。

 

いい大人である俺は、今にも飛び出しそうな言葉達をなんとか喉に押し留めることに成功した。

 

矛を納めた帝さんに対して、黒鬼の二人が流石にやり過ぎだと注意する。

 

てかそうだよ、君ら二人も見てないで助けてくれたってよくなかったか?

 

酒寄さんが懐いているのは目に見えてわかってたし、酒寄さん自身も変な男から自衛する力はちゃんとあるというのは分かっていたが、万が一ってこともあると、一度謝罪したからか特に悪びれる様子もない帝さん。

 

お前は反省しろよアッカーマン。

 

思わず出てしまった言葉に口を押さえていると、要件が終わった帝さんが話の進行をこちらに投げてきた。

 

…ん?あぁ、俺の要件に移ってもいいのか?

 

ほんじゃまぁ移らせてもらうけども…。

 

乃依さんの言ってた()()って何?

 

前からちょっと不思議に思ってたことがあったんだけどさ。

 

妹の為にスポンサー付きプロゲーマーの肩書き捨ててまで私的な決闘にきてくれる程ガンギマってる奴がさ、何の対策も無しで戦いに臨むのかな〜って。

 

かぐやちゃんとかライブに来てた遣いの人達の話聞いて、月の連中の技術力の高さは分かってるはずだろ?

 

こっちの頭数も多くないから間違いなく劣勢になるのは分かりきってる中で、日本のKASSEN界隈のトップが無策で突撃するとは思えないわけ。

 

なんらかの手立ては用意してるんじゃないかな〜って思ってたところに、この前集まった時の乃依さんが態々伏せて言ってた()()ってのが聞こえてね。

 

()()ってのが作戦なのか物なのか何なのかはさっぱり分からないんだけどさ。

 

それ、俺にも一枚噛ませてくれない?

 

俺の発言を受けて、帝さんは険しい表情になった。

 

どうやら()()というものは、所謂チートと呼ばれるものらしい。

 

使えば最悪永久的にツクヨミのアカウントをBANされる可能性もあるとのこと。

 

なーんだ、かまいやしねーよアカウントの一つや二つ。

 

いっちゃなんだが初めてスマコン使ったのすら一ヶ月前なんだぞ?

 

ツクヨミに入れなくなろうが、スマコンが使えなくなろうが、別に生活に困ったりしないよ。

 

それにツクヨミから俺が消えることよりも、かぐやちゃんと酒寄さんが一緒に居れなくなる方が問題だろ?

 

あっけらかんとそう言う俺に呆然とし、その後吹き出すように笑い出した帝さん。

 

なに笑って…え?重い?……やっぱり?

 

いや、でもお前も同じ穴の狢じゃねぇか。

 

職捨ててるようなもんだろ…プロゲーマーがチートとか。

 

…の、乃依さ〜ん?この原始人重っは流石に傷ついちゃうんだけど〜?聞こえてますよ〜?

 

ら、雷さん?俺も流石に重いと思うって態々言わなくてよかったんだけど…。

 

だぁ〜うるさいうるさい!!!それで!?どうなんだい!?OKなのかい!?

 

小っ恥ずかしくなってきたので強引に本題に戻る。

 

黒鬼から返ってきた答えはOKだった。

 

ただ用意等に色々と準備が必要とのことで、細かいやり取りはまた後でということになった。

 

とりあえず話したいことは話し終わったので解散しようとすると、帝さんから待ったがかけられる。

 

何事かと思ったら、KASSENの招待が目の前に表示された。

 

KASSENの練習をしているという俺の話を聞いてなのか、どうやら練習相手になってくれるらしい。

 

プロゲーマー直々に相手してくれるなんて、そうそうある機会ではない。

 

実力向上を求めている今なら尚のこと。

 

ウィンドウを操作して招待を承諾する。

 

こうして始まった帝さんとのカスタムマッチは、来る満月の日まで定期的に行われるようになったのだった。

 

 

 

 

 

 

因みに初日の戦績は二十戦やって一勝だけでした。

 

初戦の初見殺しでしか倒せないのやばいってお前…強すぎだろ…。

 

途中から暇を持て余した乃依さんも参加して、帝さん&乃依さんVS俺の二対一のマッチも始まった。

 

なんでそっちサイドにつくんですか???

 

こっち初心者みたいなもんなんですけど???

 

最終的には雷さんも参加して、帝さん&乃依さん&雷さんVS俺の三対一のマッチになった。

 

だからなんでそっちサイドにつくんですか???

 

始めて一ヶ月の初心者を寄ってたかって嬲り続けるプロゲーマー達。

 

爆笑しながら新人をイビリ倒す先輩の様なその光景は、まるで体育会系のブラック企業。

 

ファンネルと矢と銃弾の雨によるトラウマ級の蹂躙を受け続けた俺は、大人とは思えないレベルの大号泣を轟かせながら敗走する兵士のようにツクヨミからログアウトした。

 

 

 


 

 

 

運命の日は、あっという間にやってきた。

 

月に対抗すべく研鑽を積む俺達にとってのエックスデー。

 

現実世界では、綺麗な円形の月が夜空を照らしていた。

 

突如現れて、瞬く間に万人を魅了しツクヨミに熱狂をもたらしたかぐやちゃん。

 

彼女の卒業ライブが、今始まろうとしていた。

 

ステージの観客席、大広場のスクーリーン、喫茶店に備え付けのモニターなど。

 

ツクヨミ内の至る所で、かぐやちゃんの卒業ライブが中継されていた。

 

SNSのトレンドは瞬く間にかぐやちゃんが席巻した。

 

大勢が色々な方法で見守る中、かぐやちゃんがステージに現れて語り始める。

 

手元のウィンドウでその様子を見届けた後、周りにいる人達に声をかける。

 

彼等は準備万端の様で、各々が頷くなりサムズアップするなりで返してくれた。

 

ヤチヨさんに合図のメッセージを送ると、数秒も経たない内に何処かへ転移させられる。

 

転移先は、最早慣れ親しんだ暗闇の中。

 

KASSENのフィールドに移動する為の演出として用意されている、大きい鳥に運ばれる桃の中だ。

 

幾許もしない内に、視界が揺れた後に桃が弾け飛ぶ。

 

俺達がホップしたのは、大将落としと呼ばれるだるま落としが設置されている箇所の少し手前。

 

大将落としの出現場所をステージにしているかぐやちゃんを背にして現れた関係者一同。

 

さながら姫を守る戦士達の出現に、観客と解説席から大きな歓声が沸き立つ。

 

驚くかぐやちゃんに声をかける酒寄さんを尻目に、敵側の天守閣に目を向ける。

 

…いねぇな…遅刻か?いいご身分だなおい…。

 

来ないならそれに越したことはないがなと思いながら、懐のダイナマイトを手に取る。

 

骸骨お面の犬歯を倒してその先に火を灯し、ダイナマイトの導火線を火に近づける。

 

KASSENの投擲武器におけるダイナマイトは、導火線に点火する際は念じるだけで火がつく。

 

本来であれば導火線に態々点火する様な行為に意味はないはずなのだが、どうやらこのお面に限ってはそうじゃないらしい。

 

所謂()()()()というやつなのか、このお面の犬歯の先から出る火でダイナマイトを点火すると、爆破した際のダメージが少し上がるらしい。

 

これは帝さんとプライベートカスタムルームにてチートの試運転をしている時に偶々見つけた仕様だ。

 

試運転というか…まぁほぼほぼ息抜きがてら遊んでたようなもんだけど。

 

アバターがすり抜けるチート使って、鬼になると言え死んでしまうぞごっことかしてたし。

 

俺の腕がお腹を貫通した雷さんは、もう(黒)鬼になってる…と一言ボソッと呟いていた。

 

俺、雷さんの言動全部ツボかもしれんわ。

 

なお笑いのツボにハマって動けなくなってる間に、僕たちは〜燃え盛る〜と陽気に歌う帝さんに容赦なく首を切り飛ばされた。

 

そんなこんなで見つけた隠し仕様、有効活用しない手はなかった。

 

少しだけとはいえダメージの上昇自体は確かにしている。

 

酒寄さんにこの隠し仕様を自慢…見せびら…見せた時に、点火の手間省き続けた方がDPS高そうとかマジレスされたが俺は挫けない。

 

いやまぁその通りだったから、こうして余裕のある時に火をつけてる訳なんだけども。

 

そうこうしている間に、時間が来たらしい。

 

ツクヨミのフィールドのど真ん中に、突如月が現れる。

 

ツクヨミの月はミラーボールの様に細かく光が反射される偽物の月だが、明らかにそれとは違う現実世界の様な柔らかな光。

 

間違いなく月の奴らの仕業だろう。

 

綺麗な満月は輪郭が歪んだと思いきや、赤黒く変色し渦を巻き始める。

 

普段じゃあり得ないような現象が目の前で起こりだし、改めて月の謎に高い技術力に舌を巻く。

 

こんな奴らを相手にする以上、普通の戦い方だとまず勝てない。

 

であれば、勝敗の鍵を握るのはやはり黒鬼と俺が用意しているチートになるだろう。

 

ツクヨミというデータ世界において圧倒的な力を誇るチートというカードを、いつ使うか。

 

ここぞという場面まで機を待ち、チャンスになってから一気に攻め立てるように使うか。

 

ピンチの時に状況をひっくり返す為の切り札として使うか。

 

どちらにせよ、使い所を見誤らないように最初は様子を見るのがベタだろう。

 

 

 

 

 

 

…っていうのはおそらく、雑魚の思考ってやつなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

赤黒い渦の中心が俄かに輝き始める。

 

まるで銀河のような渦から、巨大な人影が薄らと姿を表す。

 

それを確認した俺は一つ、深呼吸をした。

 

息を吐いたのも束の間、俺の体の周りを赤く光る複数の文字列と警告を示すエクスクラメーションマークが取り囲む。

 

驚く周りのみんなに見向きもせずに、フィールドへと向かう。

 

本来であれば両者の準備が整うまで、透明な壁がスポーン地点とフィールドの間に出現する。

 

今もそれが間違いなくあるにも関わらず、俺は壁が存在しないかのようにフィールドへと足を踏み入れた。

 

酒寄さんの静止の声に耳を傾けることなく、赤黒い渦へと異常な速さで向かう。

 

到達不可エリアへの侵入を可能にする透過と、ステータスを好きに弄くり回すバフ。

 

俺が今回の戦いの為に選んで持ってきたチートの内の二つだ。

 

赤黒い渦へと近づいていく。

 

渦の向こうから出てくるのは十五メートルはあるであろう人型。

 

その大きさに驚きつつも、近づく足を止めるどころかむしろ速めた。

 

同時に点火してあるダイナマイトを両の手に可能な限り持つ。

 

忍者が侍とリングの上で堂々と戦うのか?

 

獲物からのタイムの要求にライオンが耳を貸すのか?

 

否、答えは否。

 

これはもう試合ではない。

 

月人の中でそうだったとしても、俺の中ではもうそうじゃない。

 

ルールやマナーなんてあってないようなもの。

 

手にしたダイナマイトを振りかぶりながら、ノコノコ出てきた巨人に言葉をぶつける。

 

よーいドンで戦争が始まるわけねぇだろ!!?えぇ!!?

 

引き金引いた子一等賞だろうがっ!!!消し飛べやぁっ!!!

 

先手必勝、兵は神速を貴ぶ。

 

名乗りを上げる武士に唾を吐きかけるような所業に、砂粒一つ分も後ろめたさを感じることはなかった。

 

これは戦争だ。

 

奪い合いだ。

 

やらなきゃやられる。

 

奪う前に取り立てろ。

 

殴られる前に刺し殺せ。

 

俺の胸の奥底、心臓のさらに内側から溢れ出る衝動に抗うことはせず。

 

身を任せた結果の先制爆撃。

 

それを受けた巨大な月人は、何事も無かったかのように渦から出てくる。

 

けっ、涼しい顔しやがって気にくわねぇ。

 

ウルトのゲージが溜まってる辺り、ダメージはあるが体力が多すぎて痛手になっていないのだろう。

 

巨人の月人に続くように、他の月人が姿を表す。

 

ちっ…どいつもこいつもうるせぇ光り方しやがって…太陽のお陰で光ることができてんのに、一丁前に光り方へのこだわりでもあんのか?

 

三メートルくらいの人型が三人。

 

犬みたいな奴が一人。

 

上半身だけのジジイが一人。

 

巨人含めて計七人。

 

そして、巨人の掌から無尽蔵に湧き出てくるいつぞやの行燈頭。

 

これが月の軍勢の総戦力。

 

一種の神々しさすら感じるその光景に、少し身震いをする。

 

もう後には引けない。

 

ライブに不法侵入という手荒な真似を先にしてきたのはあっち側だ。

 

どんな手を使ってでも、この戦争は勝ちに行かせてもらうとしよう。

 

全員が揃ったであろう月人陣営に向かって、言葉を吐き出す。

 

ど〜も〜月人さん方、おたくのかぐやちゃんから依頼を受けた退職代行で〜す。

 

トんだ奴のカバーもできない無能社員のあなた方の顔面に退職届ぶち込みに来ましたー。

 

お前らんとこ帰りたくねぇとのことですよ〜。

 

煽るような発言も聞こえているのかいないのか、月人の表情は能面を上からつけているように変わることはなかった。

 

かぐやちゃんから聞いた月の様子を思い返し、挑発に効果はなさそうだな…と煽るのを止める。

 

技術が進化し人々の欲が満たされたことで、勝敗や成否を言葉で決めることが多くなった近代。

 

だが、忘れることなかれ。

 

人の歴史は闘争と共にある。

 

正義も悪も、勝ちも負けも、武力で決めてきたはずだ。

 

力こそ、全て。

 

力こそ、生物の絶対的正義。

 

欲しいものは全て、力で奪え。

 

身震いを止めるように、握る拳に力を入れる。

 

…返して欲しけりゃ、力づくで奪ってみろ。

 

俺らも、力づくで奪わせてもらうからよ。

 

その言葉と同時に試合開始の表示が目の前に出現し、ミニマップにみんなの位置が表示される。

 

後衛…おそらく乃依さんを残して、全員が前線に駆け上がってきていた。

 

懐からマジックのようにまたダイナマイトを取り出して、お面の犬歯で着火する。

 

千年以上の時を超え。

 

御伽話の境界線を超え。

 

1と0で彩られた電脳空間を舞台に。

 

月と地球は再び相まみえる。

 

たった一人の少女を求めて。

 

二〇三〇年九月十二日。

 

二度目となる月との戦争が幕を開けた。

 

月の遣いに仇なさんとする見ぬほど知らず(もののふ)達が、届きもしないはずの手を伸ばす。

 

二度目の竹取物語の行方は喜劇か、それとも。

 

 

 

 








主人公は付き合って一月位でネックレス渡してくるタイプ。血縁じゃない異性との付き合い方を知らない童貞はこれだから…。

帝 → 良い兄友ができた。去り際がティガレックスみたいで腹抱えて笑った。

雷 → 良い友人ができた。でもやり過ぎちゃったなとちょい反省。

乃依 → 良いオモチャができた。打てば響くし面白い。

ゲーム内の説明とか公式の情報に載ってないけど確かに存在する仕様ってなんか良いですよね…。なお仕様を入れた本人(ヤッチョ)はほぼ忘れていた模様。

礼節を重んじ仁義を守り筋を通す日本人とは思えない蛮行…ライブを見にきた観客からの主人公に対する評判はすこぶる悪かったそうです。事実この戦いが終わった後、黒鬼ではなく主人公だけが大炎上します。生前葬で火葬してて草なんよ。

そういや2030年ってW杯イヤーなんですよね確か。朝日なんかは見てるんじゃないかね。めっちゃ気になる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。