え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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18. R18G大暴れから終戦まで

 

 

 

武器と武器がぶつかり合う音。

 

目に悪い色のライトエフェクトが彼方此方に行き交う。

 

弾け飛んでいくミニオン達と行燈頭。

 

ツクヨミを舞台にした対月人との戦闘は熾烈を極めていた。

 

巨人の手から生まれてくるミニオン達が、従来のミニオンと各所で火花を散らす。

 

またプレイヤーとして参加している月人達が、黒鬼達と一進一退の攻防を繰り広げている。

 

そんな中。

 

まるで航空機から空襲を受けているかのように、爆発と炎、そして吹き飛ばされた月人のミニオンの四肢が宙に舞っているエリアが一つ。

 

数だけは立派だなぁ!!!烏合の衆って言葉知らねえのかぁ!!?

 

煙と爆炎の中心で、怒声を上げながら辺り一体を更地にせんとダイナマイトをこれでもかとばら撒く狂人が、無限とも言えるような月人のミニオンの人数を消し飛ばしていた。

 

今狂人っつったかてめぇ!!!くたばれぇ!!!

 

おそらく冤罪かもしれないが、この際倒すことに変わりはないので容赦なくダイナマイトの爆破に月人のミニオンを巻き込む。

 

戦闘を始めて早数分。

 

戦況は五分五分、いや少し押されているか。

 

戦闘開始して間もなく、俺はチーム内VCをつけて返答も待たずに言いたいことだけ言ってガチャ切りした。

 

チームに伝えたのは、行燈頭の雑魚の大半は俺が引き受ける事と、皆んなはプレイヤーと思しき人型の相手に集中してほしいという事。

 

雑魚の相手を一手に引き受けたのは、俺のウルトが雑魚処理に向いているものだったからだ。

 

自動追尾のミサイル二十発が視界でロックオンした相手に飛んでいくウルト。

 

単体のプレイヤー相手だと工夫一つで交わされるこの微妙なウルトも、雑魚を狩る分にはかなり適している。

 

通常威力の場合だったら三発程度でミニオンが倒せる為、一回の発動で六〜七人のミニオンを排除できる。

 

また、その排除によってウルトのゲージが再度溜まり出す上に、そもそもの回転効率が他のウルトと比べて早い。

 

普通のKASSENならいざ知らず、今回の戦闘においてはかなり役に立っている。

 

しかも、今はチートを使ってステータスを弄っている都合上、通常三発のところを一発で刈り取ることができる。

 

なので一回の発動で倒せる人数も倍近くになり、更に貯まるゲージ量も倍になる。

 

そしてそもそも俺の戦闘スタイルは、格闘とダイナマイトの併用。

 

ダイナマイトは元々爆風によるダメージ判定が結構広い上に、チートによってその爆発と爆風の威力が跳ね上がっている。

 

ばら撒かれるダイナマイトとウルトのミサイルにより、広範囲にえげつない威力の爆破が発生して大量の月人側のミニオンを排除。

 

それにより加速度的にウルトゲージが再度溜まり、またダイナマイトとウルトで更に敵を排除。

 

悪魔的な爆破ループが完成したことにより、巨人から召喚されるミニオンの八割は何もすることができずに爆殺され続けているのだ。

 

しかし、それでも戦況は少し劣勢。

 

ヤチヨの計らいか通常のミニオンも、月人のミニオンに敵対するように動いてくれているがそもそもの数が桁違いだ。

 

数もこちらは有限で、向こうは底が見えない。

 

俺が消しとばしている分を差し引いても、ミニオン同士の戦いは向こうに軍配が上がっているのが現状だった。

 

そして肝心なプレイヤー同士の戦いも、劣勢と言っていいだろう。

 

今回のルールにおける残機はチーム共有で三つ。

 

その内二つを既に俺たちのチームは使っているのだ。

 

開幕早々、初見殺しか純粋な実力か、その場で見ていないから分からないが二人がキルされた。

 

ログに表示されたのは、綾紬さんと諌山さんのユーザー名。

 

相手の残機状況は忙しすぎて見ていないが、おそらくまだ俺たちが相手の残機を使わせる事は出来ていないだろう。

 

黒鬼の三人はまだチートを使っていないとはいえ、そもそも日本のKASSENじゃあトップオブトップの三人だぞ?

 

それでなお不利状況となると、月人の戦闘力が想定以上な事が伺える。

 

俺も、プレイヤーを倒しにっ…どらぁ!行きたいんだがっ…邪魔だぁ!

 

各々のタスクを考えると間違いなく俺が一番楽な筈。

 

その為プレイヤー同士の戦いに加勢しに行きたいのだが、ミニオンの生み出されるペースが全く落ちないのだ。

 

正直ペースが落ちるか底をつくかの二択予想でこの役割を引き受けたから、これに関しては想定外。

 

とにかく、早いとこみんなの加勢に行かなきゃっ…なぁ!!!

 

指に挟んで持ったダイナマイトを周辺にばら撒く。

 

目の前が炎と煙に支配されるが知ったことではない。

 

それ以上に向かってくる行燈頭を排除しなければならないのだから。

 

一応ダイナマイトの爆破判定自体は、チームメイトや俺自身にも有効である。

 

その為、爆破させる場所が近すぎる場合は自分にもダメージが入るし、さっきの爆発なんてその際たる例だ。

 

しかしそんな事は織り込み済み、対策だって用意している。

 

その内容?勿論チートですがなにか?

 

…うるさい!俺は悪魔に魂を売ったんだ!

 

というか人に向かって散々人でなしだの人の心が無いだの悪魔から生まれただの言ってただろうが!!!

 

だからセーフなんだよ!悪魔が悪魔になっただけだろうが!

 

という訳で疾く死ねぇ!!!

 

煙が晴れた瞬間に突っ込んでくる行燈頭をパンチ一発で殴殺する。

 

実体が消える前に、追撃してきた別の行燈頭達の攻撃を防ぐための盾にした。

 

一瞬何か躊躇したように止まる行燈頭達に構う事なく、盾ごと数発の蹴りとその圧で吹き飛ばす。

 

んだよ仲間意識でもあんのかぁ!!?似合わねぇなぁ!!!

 

即座に近くの行燈頭に肉薄し、アッパーで行燈部分を殴りつける。

 

衝撃で行燈が跡形もなく吹き飛び、まるで血のようにドロっとしたドス黒い液体が雨のように降り注ぐ。

 

血の代わりかぁ?人間の真似っこでもしてんのかよ烏滸がましい。

 

懐からダイナマイトを持てるだけ出し、再び周囲へとばら撒く。

 

この距離での爆発は俺も巻き込まれるが、対策をしているので問題なし。

 

その対策とはいたって単純、チートを使った異常な防御力とリジェネ効果の組み合わせだ。

 

自爆によるダメージの悉くを、チートによって鉄壁と化した防御力で無効化。

 

貫通してきた分は微々たるものの上、リジェネ効果によって即座に回復。

 

これによって爆発による自身へのダメージを一切気にする必要が無くなったのだ。

 

武器スロットが余りがちな格闘武器に、ダイナマイトだけでなくリジェネ効果のある装備品をつける余裕もあったのが功を奏した。

 

因みにリジェネ効果は合法的に用意されているアイテムなので、今までのKASSENでも好んでよく使っていた。

 

回復量より自爆のダメージの方がデカいから大丈夫やろと思ってたのだが、普通に運営に怒られた。

 

だったら何で用意するんですかこんなもの!!!

 

「ある」のが…「ある」のがいけないっ!!!

 

数に物を言わせ、ワンパターンのように煙が晴れた瞬間に襲ってくる行燈頭。

 

四方八方囲うように飛んでくる、その数は十を優に超えていた。

 

そう思うだろう!!?なぁおい!!!

 

リンボーダンスよろしく上半身を地面につくほど背中側に倒す。

 

その瞬間、飛んできた行燈頭全員が視界に入りロックオンが完了。

 

躊躇なく引き金が引かれて、俺の背中から蜘蛛の足のようにランチャーが展開される。

 

発射されたミサイルは寸分の狂いもなく行燈頭に命中。

 

爆炎による花火がツクヨミの中に幾重にも咲いた。

 

その衝撃によって、他の行燈頭もよろけるように後ろに下がった。

 

立ち込める煙。

 

晴れるより先に人影が映った。

 

その姿は勿論行燈頭ではなく…チートによって無傷の俺。

 

爆破の余波でこっちに飛んできた行燈頭の首部分を鷲掴みにして、引き摺りつつ立ち込める煙から出る。

 

追撃が来たらまた盾にしてやろうと思っていたが、どうやらかかってこないっぽいので、消滅しつつある行燈頭の体を雑にぶん投げる。

 

骸骨のお面が爆破の衝撃で何処かへ飛んでったっぽいが、この際どうでもいい。

 

目の前には爆発に巻き込まれたのだろう、引き摺ってきた奴とは別の行燈頭が横たわっていた。

 

無性にイライラして、そして何故か場違いにもワクワクして。

 

とにかく何かにこの激情をぶつけたくて。

 

力なく横たわるその体の行燈部分を、在らん限りの力で踏み抜く。

 

衝撃で大地が震え、まるでアニメのようなクレーターが出来上がった。

 

踏み抜かれた行燈の中には何もなく、ただ体から流れる黒い液体が俺の足を汚す。

 

うおすっげ…パンチ一発蹴り一発で雑魚が消し飛ぶとは…チートさまさまだな。

 

頭の何処か冷えた部分でそんな事を考えながら、残りの部分は烈火の如く燃え盛るような熱をはらんでいた。

 

んだよ伽藍堂じゃねえかお前らの行燈(あたま)の中!!!

 

意思無し自我無し考え無しのお前らにお似合いじゃねえかぁ!!!えぇ!!?

 

吐き出す言葉だけでは飽き足らず、続けて笑い声が飛び出してきた。

 

地獄の底から聞こえてくる亡者の慟哭のようにおどろおどろしく、罪人を足蹴に笑みを浮かべる悪魔の嘲笑のように悪意に満ちたもの。

 

後からこの戦いについてのネットの書き込みを見たらそんな風に形容されていたのはここだけの話。

 

そ、それは認識バイアスなんじゃないかなぁ!?

 

こんな儚げで清廉で優しさに満ち溢れたお兄さんになんて事を…ヨヨヨ…。

 

それはまさしく偏見というやつなんじゃないかい!?

 

悪評飛び交う笑い声が辺り一体に響き、不気味な緊張感が戦場を包み込む。

 

耳に爪を立てるような不快な笑い声が、突如としてその音程を高く、あるいは低く変えた。

 

まるでレーシングカーが通り過ぎる際、エンジン音が急激に高くなった後、遠くなるにつれて低く聞こえるように。

 

反応しようと身を翻す瞬間、目の前が爆ぜる。

 

次に視界が開けた時は既に五体満足ではなく、光の粒子に形を変え消失しようとしていた。

 

何が起きたと、行燈頭に思考という分不相応な機能がついていれば、そう思っていただろう。

 

自分でも何処を走っているか分からなくなる速度で走り回っているのだから。

 

しかもダイナマイトを周囲にばら撒きながら。

 

可能な限りの最速を維持しながら木々の、あるいは岩の、あるいは月人の間を走り抜ける。

 

目に映る風景が高速道路で見るオフィスビルの光みたいに、かなりの速度で流れていく。

 

それでも構わない。

 

行燈頭も、月人も、全員、全部消し飛ばすだけ。

 

視界に辛うじて行燈頭が捕捉できたら、ダイナマイトを地面に叩きつけるように投げる。

 

行燈頭がいた、投げる。

 

行燈頭…いた?わからない、でも投げる。

 

人型が映った、投げる。

 

人か?物か?もういい、投げる。

 

投げて爆ぜて投げて爆ぜて投げて爆ぜて。

 

まるで流星みたいにキラキラチカチカ、ビュンビュン飛んでキーンって通り過ぎて。

 

綺麗で光が黒の液体で行燈の爆風が視界の地面にびっくり返った星と腕。

 

止まらない止まれない止まりたくない止まり止まり止ま止ま止ま止止止止。

 

最早何も映していないのと同義の視界と、ミキサーで強引にかき混ぜられたような思考回路。

 

制御を失ったような爆撃機を止めるかのように、突如俺の進行方向に立ち塞がる影。

 

辛うじて反応し、影に向かって拳を振り抜く。

 

が、今までの豆腐に穴を開けるような楽な手応えは無かった。

 

シンバルを盾にするようにして俺の拳を受け止めるそいつは、月人側のプレイヤーの一人だった。

 

興奮のせいか、飢えた化け物のように打ち鳴らしていた歯を剥き出しにして、吠えるように叫ぶ。

 

はぁっ…止まったなぁ…カカッ…止まっちゃったなぁおい!!!

 

逆の拳で追撃するも、そちらも逆の手で持っていたシンバルに受け止められる。

 

ヤクザのような前蹴りはバックステップで躱された。

 

それと同時に、上から降ってくる別の気配。

 

即座に反転し両の手をクロスして防御姿勢に入ると、そこに打ち込まれるかのように攻撃がきた。

 

一瞬抵抗し、即座に力を抜いてそのまま倒れ込み、巴投げの要領で不意打ちの主を月人の方へぶん投げる。

 

奇襲してきたのも、勿論月人側のプレイヤー。

 

シンバル持ちの月人と、パイプが集まった…管楽器?のようなものを持つ月人か並ぶ。

 

お前らのしょっぺえ演奏なんざ、かぐやちゃんのライブにはいらねぇんだっ…よ!!!

 

二体一の状況に目もくれず、いや、正常に不利と判断できなかったか、真っ直ぐに突っ込んでいく。

 

それを見て回転しながら前に出て対応してきたのはシンバル持ち。

 

まるで刃のような鋭さのシンバルがリーチなんて無いように、殴る為に引いていた右手を切り飛ばした。

 

…あめぇんだよ歯車風情が!!!

 

怯む事なく右手をそのまま振り抜こうとする俺。

 

瞬きをする間に、俺の右腕がジュクジュクと音を立てて再生した。

 

腕の生え替わりは予想できなかったのか、ろくすっぽ防ぐこともできずに顔面に拳が突き刺さるシンバル持ち。

 

欠損部位の高速回復、これもチートで得た力だ。

 

本来であれば残り体力や欠損部分の割合によって再生速度が変わるが、このチートによってどんな体力状況でも即時再生が可能なのだ。

 

足を踏ん張って、そのままの勢いで地面に向かって殴り倒す。

 

またクレーターが出来る程の衝撃だったが、体力が多いのか依然として体は残ったまま。

 

マウントポジションを取り、立て続けに二、三発顔に拳を入れる。

 

その様子を黙って見ているはずもなく、管楽器持ちが仕掛けてきた。

 

シンバル持ちに当たるのも構わずに、管楽器のパイプの先から太いビームを発射してきた。

 

恐ろしい速さのビームに避けることは叶わず、シンバル持ちごとビームに焼かれる。

 

間違いなく当たった。

 

にも拘らず、管楽器持ちはビームの照射をやめない。

 

それもその筈。

 

ビームに焼かれている筈の俺が怯む事なく、そのまま一歩ずつ近づいてきているのだから。

 

防御を貫通してきた分のダメージよりも、装備のリジェネ効果の方が上回っている証拠だ。

 

火加減足りてねぇよ!!!精々ミディアムくらいかぁ!!?

 

黒板を爪で引っ掻いたような引き攣った笑い声を響かせながら歩み寄る俺を見て、効果が薄いと判断したかビーム照射を諦め後ろに距離を取る管楽器持ち。

 

しかし、それをタダで見逃す俺じゃない。

 

逃すわけねぇだろ!!!

 

即座に取り出したダイナマイトを管楽器持ちを囲うように投げる。

 

周囲のダイナマイトによって逃げ道をなくした管楽器持ちは、唯一残された上への回避行動を取る。

 

それが誘導されてるとも知らずに。

 

お通しだ、しっかり喰らえや。

 

ダイナマイトを投げた後にすぐ先回りして頭上に飛んでいた俺の拳が、管楽器持ちの首に突き刺さる。

 

パンチの衝撃と重力に沿って、地面へと猛烈なスピードで落ちていく管楽器持ち。

 

そして地面には、まだ爆発していないダイナマイト。

 

最早見慣れたであろう煙と炎を撒き散らして、管楽器持ちの落下地点が炎上する。

 

かなり良いのが入った感触だったが、どうにもまだ終わってないらしい。

 

炎と煙が強烈な突風によって吹き飛ばされ、管楽器持ちが中から出てくる。

 

その姿は先程とは違い、筋肉が膨張して肌が黄土色に染まり武器が赤熱している。

 

恐らく月人が使うウルトのようなものだろう。

 

んだよ怒ってんのかぁ部品の分際でぇ!!!

 

気後れなど一切無し、手早く距離を詰めて拳を振るう。

 

その一撃は管楽器によって防がれ、更には発射されたビームがカウンターとばかりに襲ってくる。

 

地面に突き刺さるように降り注ぐビームを、人外みたいな挙動で避けていく。

 

しかしビームを避けた着地の隙を、動かずのままだったシンバル持ちが突いてきた。

 

管楽器持ちと同じように、隆起した筋肉に黄土色の肌に赤熱した武器。

 

迫り来るシンバルの刃先に対して、片腕を盾にするように前に出す。

 

切り飛ばされた腕には既に、ダイナマイトが複数握られていた。

 

シンバル持ちと俺を巻き添えにするように爆発が二人を包む。

 

そこから弾丸のような勢いで出てきた俺は、シンバル持ちの首を握り潰さんとしていた。

 

勢いのまま地面に叩きつける。

 

お前だ!!お前だろう!!なぁ!!

 

ROKAとまみまみをやったのおまえだろう!!なぁ!!

 

お前だよなぁ!!!なぁ!!!

 

そのまま二度目のマウントから拳を叩き込む。

 

途中で首を切り飛ばされたが、そんな事では止まらない。

 

視界が戻るまでの間に数発パンチを繰り出した後、ギリギリ再生できた耳に入ってきた横からの異音に反応してシンバル持ちを音の方に投げる。

 

管楽器持ちのレーザーがシンバル持ちの体を焼いた。

 

だがフレンドリーファイアでは火力が幾分か下がるツクヨミでは、同士討ちはまだ見込めない。

 

立ち上がって武器を構える月人二人に、相対するように立って構える。

 

首の再生も腕の再生も、とうの前に終わっていた。

 

お互いに地面を蹴り出して衝突する。

 

そこからは一進一退の攻防だった。

 

…いや、本質的に見れば一方的なワンサイドゲームなのかもしれない。

 

確かに外見は一進一退。

 

シンバルによって四肢が切り飛ばされ、ビームによって焼け落とされ、爆破によって傷がつく。

 

防げるとこは防いで、でもそれ以上にお互いの攻撃が苛烈すぎて損傷が目立つ攻防。

 

だが蓋を開けてみれば、体力が減っているのは月人側だけ。

 

俺は依然としてチートで格段に上がっている防御力とリジェネ効果によって無傷。

 

今まで殴り合ってきた上での推測だが、俺に対する有効打と呼べる攻撃手段がこいつらにはない。

 

シンバル持ちの物理攻撃は生え変わりで対処可能。

 

管楽器持ちのビーム攻撃は高防御とリジェネで競り勝てる。

 

毒みたいな固定値のスリップダメージとか、リジェネや再生が追い付かないレベルの広範囲高ダメージの技を警戒していたが、そう言った技を振ってくる様子も無い。

 

更に攻撃に混ぜて自爆を定期的に挟んでいるのが効いているのか、格闘による攻撃以上に不意をついた至近距離爆発のダメージの方がかなり入っているように見えた。

 

それなりの回数自爆まがいの攻撃を繰り返しているが、依然として対策される様子がない。

 

このまま押し切れるか。

 

そう思った瞬間に、周りに浮かんでいた赤く光った文字列にノイズが走った。

 

加えて体が若干重たくなったように感じた。

 

時間切れかよぉ!!!せっかく楽しくなってきたのになぁ!!!

 

恐らくアラートが上がっていても一向にチートを止める気のない俺に対し、ツクヨミのシステムが実力行使に出たらしい。

 

残された時間は少ない。

 

幸い、相手側の体力にも底が見えてきた。

 

二対一の不利状況故にチートを使っても落とし切れていなかったが、これ以上は長引かせることができない。

 

チートが無くなる前にこいつらを潰し切る。

 

シンバル持ちの横薙ぎを屈むようにして躱し、鳩尾目掛けて拳を振るう。

 

防ぐことができずに衝撃で後ろに吹っ飛ぶシンバル持ち。

 

その隙をついて飛んでくるビームをチートフル活用のスピードで躱していく。

 

躱し切れなかった分は片っ端から再生とリジェネで無かったことにした。

 

人っ子一人分がギリギリ開いていそうなビームの嵐を強引に潜り抜け、管楽器持ちに肉薄して首を掴む。

 

その瞬間、間に割り込むように体を滑り込ませてきたのはシンバル持ち。

 

二対一になってからずっと、管楽器持ちに接近した際には必ずと言っていいほどシンバル持ちがカバーに来ていた。

 

今まではそれに手を焼いて落とし切れなかったが、今回は有効活用させてもらった。

 

振りかぶられたシンバルを持つ腕を、振り切る前に空いてる方の腕で掴んで止める。

 

友情ごっこご苦労さんだなぁ!!!

 

この状況を作りたかった。

 

カバーするとき以外は常に俺を挟むように位置取りつづけていた相手。

 

逆に言えばカバーの時に限っては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そうなれば、視界の中に同時に二人を収めることができ、俺のウルトを打ち込むことができる。

 

何度目になるか既にわからない背中からのランチャー展開。

 

さらにダメ押しとばかりに、大量のダイナマイトを袖と裾から落とすように出現させる。

 

こういった手品じみた小細工は、武器スロットが余りがちな格闘武器には必須スキルだったらしく、学会員から嫌というほど教えてもらった。

 

意図を察知したか、シンバル持ちが俺の腕を切り落として離脱しようとしたが一歩遅かった。

 

美しい友情の元に、死ねっ!!!

 

それより早く、俺のダイナマイトとミサイルが爆発した。

 

轟音と共に、煙と炎の花が咲き乱れる。

 

煙を突き抜けて吹っ飛んでいくシンバル持ちを、追撃するべく距離を詰める。

 

ウルト込みの自爆特攻によって相手二人の体力は、ゲージ上の表示だと1ミリあるかないかレベルまで減っている。

 

早いとこ片割れ落として一対一にする。

 

チートの出力も落ちてきてるのか、パラメータの数値も下がってきてるし再生も遅くなってる。

 

チートなしだとこいつら相手に太刀打ちできるかも怪しい。

 

焦りの入った思考が脳を支配する。

 

そのせいか、シンバル持ちが今まで見せていなかった動作をただの攻撃モーションと捉えて、避けることなく突っ込んでいった。

 

シンバル持ちはいつも通りシンバルを振る…のではなく従来の楽器としての使い方と同じように打ち鳴らした。

 

その轟音と衝撃を間近で喰らい、聴覚と視覚がイカれ体が強張って硬直し始めた。

 

これっ…はっ…スタン…技っ!!?

 

気付いた時には時すでに遅し。

 

阿吽の呼吸で管楽器持ちがレーザーを打つ準備をする。

 

その砲身となるパイプ群が明らかに今までのサイズよりも大きかった。

 

形相が変わったのはデフォルトの能力…ウルトの本命はこっち。

 

避けれるか、いやスタンが解けるよりビームが俺に直撃する方が早い。

 

受けるのも無理、チートの出力は今も落ち続けているからもうリジェネの回復で追い付けない。

 

万事休すか…そう考えた瞬間に天啓が下りたか、袖からまたポロリとダイナマイトを出現させる。

 

レーザーが着弾するよりも早く爆発したことにより、その衝撃で体が射線上からはじき出されるどころかそのまま管楽器持ちとの距離が詰まる。

 

しかしサイズが大きくなったレーザーを完全に避け切ることはできず、下半身と上半身の臍から左肩にかけての部分はレーザーに持っていかれた。

 

普通であればこの欠損率だと体力が全損するはずであるし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

にも拘らず、その体が花弁に変わらずに意地汚くフィールドに残り続けている。

 

これが四つ目のチートとして用意した、キルされた後の体の消失の遅延である。

 

ゲーム的には既にキルされている状態でも、消失までを極端に遅くして悪あがきをするためのチートだ。

 

とはいえ、チートの出力が下がっている以上は遅延できる秒数も長くないし、あと数秒もすれば花弁に姿を変えるはめになるだろう。

 

だからっ…そ"の"ま"え"に"ぃ"!!!

 

体力が全損しているのに消えることなく向かってくる俺に動揺しているのか、管楽器持ちは一瞬動きを止めた。

 

その一瞬が命取り。

 

爆破の勢いそのままに近づいて、管楽器持ちの襟首を残った右手で掴む。

 

そのまま引き寄せて、衝撃を殺さず生かすようにして頭突きを放つ。

 

まだ、少し、足りない、逃がすな、やれ、今、ここで。

 

せ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!

 

頭突きでのけ反ったことにより無防備になった首元に迫る。

 

衝動のままに突き動かされた俺の体は、管楽器持ちの喉笛を食い破ることを選択していた。

 

残っていた一ミリの体力を削りきるのに何とか成功し、管楽器持ちは食いちぎった破片含めて光の粒子になって宙へと溶けていった。

 

即時再生のチートはもう機能していない。

 

というかチートの9割がもうすでにシステムによって止められた。

 

視界の隅で、レーザーの余波から体制を立て直そうとしているシンバル持ちが見える。

 

足がない今の状態じゃあどうやったって接近できないし、ダイナマイトも満足に投げられるほどの体が残っていない。

 

それでも俺はまだ止まれない。

 

懐から零れ落ちたダイナマイトが爆発し、その衝撃によって捨てられたレジ袋のように宙を飛ぶ。

 

飛んでいく方向にいるシンバル持ちは、既に身を起こし武器を構えなおしていた。

 

右袖から出したダイナマイトを握り、敵に少しでも近づけるように前に手を差し出す。

 

まるで最後の希望と言わんばかりに伸ばした腕を、シンバル持ちは握っていたダイナマイトごと切り裂いた。

 

爆発前に破壊されたダイナマイトは起爆することなくポリゴン片となって消えた。

 

希望は潰えた…戦いは終わりを迎えた。

 

 

 

 

そ"う"…お"も"う"よ"な"ぁ"…?

 

 

 

 

というかそう思ってくれなきゃ困る。

 

そのためにいいだけパンチしたりダイナマイトを手投げしたりして、手に注目を集めたのだ。

 

様子がおかしいと感じたのか、もう片方の得物で頭を叩き切ろうとするシンバル持ち。

 

だがもう遅い。

 

起爆は完了している。

 

ゆっくりと開けられた俺の口の中からは、今にも起爆せんと赤熱し始めているダイナマイトが顔を出していた。

 

 

 

はんへん、へいふら(残念、フェイクだ)

 

 

 

シンバルの刃先が俺をとらえる寸前、両者を巻き込むようにいて爆炎と煙があたり一帯を吹き飛ばした。

 

 

 


 

 

 

決死の爆発から数秒後。

 

煙と炎によって閉ざされていた視界から一転、何もない暗がりに放り込まれ、またその直ぐ後に見慣れたツクヨミの景色が視界に飛び込んできた。

 

ぎりっ…ぎりで何とかチートの発動が間に合ったか…ふぃ〜…。

 

割と気が気でなかったのだが、無事に上手くいったようだ。

 

俺が使った最後のチート、残機無視のリスポーン。

 

実はさっき戦っている最中にチームの最後の残機が消費されているのを横目に捉えていたのだ。

 

それによってチームの残機消費は三で全て使い切り、それ以降のダウンは復活ができない筈だった。

 

そういう状況も考慮していた為、今回使用するチートの中に入れたわけだが、それが功を奏したらしい。

 

危うく無駄になるところではあったが。

 

先ほどの戦闘中に、俺が発動していたチートはシステムによってどんどん停止させられていった。

 

しかしツクヨミのシステムに全てのチートを停止させられる直前に、月人二人の撃破とリスポーンチートの使用が完了したようだ。

 

流石チート、ド下手くそでも二人相手にジャイアントキリングが出来るような力がある。

 

…ていうか、なんかすっげぇ恥ずかしいこと口走りながら戦ってた気がする…。

 

簡単に敵をキルできるもんだからテンションがハイになっちゃって…。

 

戦っていたのはついさっきなのに、その内容はぼんやりとしか思い出せなかった。

 

ただ冷静になった俺の脳みそが、思い出そうとするたびにやめとけと語りかけてくる。

 

こういう時って大体ド級の黒歴史作ってること多いんだよなぁ…夜中に唐突に思い出して布団の上で悶えるタイプの。

 

いや…まじで何したんだよ俺…。

 

ってぇ!そんなこと言ってる場合じゃないな!

 

自身の状況は把握できた為、今度は周りの状況の把握。

 

走り出しながら全体マップを開いて、思わず顔を顰めた。

 

マップに表示されているプレイヤーは計八人。

 

内五人が相手なのに対して、こっちは三人しか残っていなかった。

 

残っていたのは酒寄兄妹と俺。

 

うっそだろおい!!!

 

綾紬さんや諌山さんはともかく、黒鬼の二人もチートを使った上で落とされていたのは予想外だった。

 

走るスピードを上げて森の中を抜ける。

 

真っ先に目に入ったのは、丘を埋め尽くす行燈頭の大群だった。

 

二人の相手をしている間に、こんなに増えてやがったか!!!

 

足を緩めることなく、行燈頭がひしめく丘へと踏み込んだ。

 

向かってくる行燈頭をパンチやキックで撃退する。

 

チートを使わなくても倒せはするが、いかんせん効率がガタ落ちだ。

 

倒し切るには数発必要になるし、ダイナマイトによる自爆もリジェネでカバーしきれない今の状況じゃあ最悪ダウンする可能性もある。

 

くっそぉっ!!!どいてくれっ!!!

 

もはや懇願混じりの叫びを上げるが、行燈頭達は聞いていないとばかりに次から次へと攻撃してくる。

 

状況は余りにも良くない。

 

先程人数を確認した際に、味方の位置も一緒に確認した。

 

帝さんの位置は前線からかなり押し下げられており、守るべき天守に近い位置に表示されていた。

 

どけぇっ!!!うぐぁっ!!?

 

捌ききれなくなって徐々に被弾していく。

 

それでも歩みを止める訳にはいかない。

 

恐らくもう数分もしない内に、この戦い自体が終わるだろう。

 

月人の何人かは天守のかなり近い位置に表示されていたし、何より酒寄さんが天守の方に向かって移動していた。

 

それはつまり、前線そのものが既に瓦解していて、もう守ることすらも出来ていないのだ。

 

被弾が嵩み、行燈頭の軍配のような刃のついた槍にによって傷ついていた右腕が飛ばされる。

 

っ!!!…ぁぁぁあああ!!!どけぇ!!!

 

多少のダメージ覚悟で周囲にダイナマイトを撒く。

 

爆発によって付近の行燈頭は退けれたが、俺の体力も半分は吹き飛んだ。

 

被害を受けなかった行燈頭達が、また更にこちらに向かってくる。

 

だが、こいつを呼ぶ隙は出来た。

 

残った左手を地面につけて、若干小っ恥ずかしくなるような詠唱を唱え始める。

 

無念にも無惨にも打ち捨てられた幾多数多のもののふ共よ!

 

燃える怨念を導に今ここに生者を喰らう骸と化せ!

 

来いっ!!!餓者髑髏!!!

 

詠唱が終わった瞬間に、辺りの雰囲気が変わる。

 

重く、暗く、不気味な空気。

 

気づけば宙には火の玉が、彼方此方へとフラフラ飛んでいた。

 

大地が揺れ始め、俺の足元を中心に巨大な亀裂が地面に入る。

 

俺を討ち取らんと槍を振り上げて迫ってくる行燈頭を吹き飛ばすように、割れた地面から何かが現れた。

 

それは、二十メートルはあろう大きな骸骨。

 

これは夢でも幻でもない。

 

公式からKASSENに用意された、歴とした機能の一部である。

 

カテゴリーとしては召喚獣になる。

 

何でそんな強そうなものがあるのに最初から使わないのかって?

 

えー…弱いからです。(無慈悲)

 

図体でかい割に火力が初期装備のプレイヤーより低いんだもん。

 

そのくせ耐久に関しても、お世辞にも高いとは言えないレベルだ。

 

ほら、召喚してから十秒経つかくらいなのにもう耐久値の三割削れてる。

 

行動パターンも四パターンくらいが関の山。

 

しかも召喚に詠唱が必要という、いい歳の大人が転げ回りそうなくらいにはキツい仕様。

 

その後の圧倒的な武器のインフレの波に飲み込まれた召喚獣達は、もはや三年近くはアップデートも入らずに放置されている悲しいコンテンツに成り下がるのだった。

 

因みに召喚獣のコンテンツにも学会が存在します。

 

蓼食う虫も好き好きなんて言うけど、流石に腹壊すぞツクヨミユーザー。

 

だか今回はそれでも構わない。

 

今こいつに求める役割は、下にいる行燈頭を無視して強引に天守近くに入り込む為の橋渡しだ。

 

採用を決めた時の想定とは、入り込む天守が敵味方で逆だったがこの際関係ない。

 

餓者髑髏の頭から手のひらに乗り移る。

 

そのタイミングで耐久値の限界が来たか、餓者髑髏が膝をつくようにして倒れ始めた。

 

木々を薙ぎ倒しながらうつ伏せになるように倒れ伏す餓者髑髏。

 

倒れ切る前に、その手のひらから飛び出した。

 

飛び先は、高い景色から周りを見渡した時に見つけた、今まさに戦闘中の二人の近く。

 

鍔迫り合いをしていた双剣を力で跳ね飛ばして、木魚の様なハンマーでとどめを刺そうとする月人。

 

空を蹴って加速して間に割り込み、手甲を使って上手く横に逸らすことができた。

 

息を弾ませながら、跳ね飛ばされた方に声をかける。

 

大丈夫かい!?酒寄さん!!

 

声をかけられた本人は疲労困憊なのか、剣を杖にする様にして何とか立ち上がった。

 

あるべき筈の右手がない状態でいきなり間を割るように突っ込んできた俺に対して言いたいことが山程湧いてきたのか、何かを言おうとする酒寄さん。

 

しかし今はそんな時間はカケラも残されていない。

 

自分でもあまり出したことがないと自覚できるくらいの音量で、酒寄さんに言い放つ。

 

ここは俺がやるから、君はかぐやちゃんのところへ!

 

正面で構える月人から目を逸らさずに構えはとったまま、無表情の顔を睨みつける。

 

しかしその言葉を受けた酒寄さんは、小さく震えた声でポツリと呟く。

 

 

 

「…で、でもっ…もうっ……。」

 

 

 

そうだ。

 

確かにそうだ。

 

最後にマップを見た時に、酒寄さんが自分たちの天守側に移動していたのはそういうことだろう。

 

俺たち二人で月人と相対している間に。

 

帝さんが月人と鎬を削っている間に。

 

残りの月人三人が何をしているかなんて、マップを見なくても分かることだ。

 

これは戦いなのだから。

 

でも。

 

それでも。

 

それでもっ!!!君の声はまだ届くっ!!!

 

君が!!!君が諦めちゃダメだ!!!

 

負けたと分かっていても、もう無駄だと決まったとしても。

 

歩みを止めていい理由にならない時がある。

 

それがきっと、彼女にとっては今なのだろう。

 

喉がはち切れようとも構わないと言わんばかりに、大声で叫ぶ。

 

こいつは死んでも先に行かせないっ!!

 

だからっ!!!

 

走れっ!!!

 

酒寄さんの息を呑む音が聞こえた。

 

行けぇぇぇ!!!

 

踵を返して走り去る足音が、徐々に遠くなっていく。

 

その間にも月人から目を離すことはしなかった。

 

しかし、不思議なことに月人は危害を加えることをしなければ動くこともしなかった。

 

…今の間に二人とも倒すことだって出来たろうに、何で何もしなかった?

 

聞いたところで、その表情は脳面を張り付けているかのように一切変わらない。

 

だがその目には、少しだけ何かを憂うような感情が見えたような気がした。

 

…わっかんねぇなぁ…感情があるんだか無いんだか…。

 

マネキン相手に拳を振るっていたつもりだったのに、突如見せられた人間らしさに戸惑うように頭を掻く。

 

…あそうだ、チートでテンション上がってすっかり忘れてたんだけどよ、あんたら月人に聞きたいことがあったんだわ。

 

未だに構えることすらしない月人に向かって話しかける。

 

元より答えは期待していないが、人間味を見せてくれたこいつなら、もしかしたらちゃんとした答えが返ってくるかもしれない。

 

かぐやちゃんは…自分の仕事ほっぽり出して地球にきた。

 

それは確かに連れ戻されてもしょうがないさ…当然の摂理ってやつ。

 

でもよ…そもそもかぐやちゃんが仕事ほっぽり出した理由って何よ?

 

つまんないからだろ?

 

さびしいからだろ?

 

辛いからだろ?

 

…俺に事情の説明してくれた時、かぐやちゃんは自分のこと異常だったって自嘲してたぞ。

 

あんなに優しくて明るい子が、どんな顔してそんなこと言ってたと思う?

 

問いかけても、答えは返ってこない。

 

相槌も否定もなく、月人はただ無表情にこちらを見つめてくるだけだった。

 

…一国を相手取っても門前払いできるレベルのセキュリティを要するツクヨミに、普通の顔して入ってこれるってことはそれなりの技術力はあんだろ。

 

だったら…だったらっ…なんでっ。

 

何で、あの子を一人にしないって簡単なことが出来なかったんだよっ!!!

 

異常だって無慈悲に線引きする前に、分かってあげることだってできたんじゃないのか!!?

 

分からなかったとしても、話し相手になるくらいはできたんじゃないのか!!?

 

偽物だとしても、感情紛いなものを作って相手してあげることだってできたんじゃないのか!!?

 

他人に押し付ける前に、一番近い筈のお前らがあの子のこと諦めんなよ!!!

 

拳に力が入り、息が弾んで呼吸が荒くなった。

 

かぐやちゃんから話を聞いて、ずっと言ってやりたかった。

 

月での彼女の立ち位置は、余りにも悲しいものだったから。

 

生まれた命が愛し愛されることに、理由なんて要らないのに。

 

そういうふうに作られていない月人には、理解することなんて出来なかったかもしれない。

 

でも、親から拒絶される辛さは、痛いほど知っていたから。

 

詳しい事情を知らない他人の立場だとしても、言わずにはいられれなかった。

 

これだけ言っても未だに反応を示さない月人に目を向ける。

 

そこには。

 

まるで自分の罪を理解した悲しさ。

 

戻らない時に思いを馳せるような後悔。

 

己が不甲斐無さを嘆く怒り。

 

それを潔く受け入れるような誠意。

 

少なくとも無表情ではない、一人の苦しんでいる人間のような顔をした月人が、俺の目を真っ直ぐに見つめていた。

 

………っっっ!!!

 

…そういう顔を向けてやるべき奴が俺以外にいただろっ…もっと早くやれよっ…。

 

間違えたことなんてなかったんだ。

 

きっと、あの子で初めて間違えたんだ。

 

初めてだから、どうすればいいか分からなくて。

 

どうにかする能力も、そもそも備わってなくて。

 

逃げていくあの子の背中を、小さくなっていくあの子の背中を。

 

ただ、眺めるしかできなかったのだろう。

 

戦場とは思えないほど沈んだ空気に、二人の間を沈黙が流れる。

 

突如、月人の後ろの方から大きな音と共に爆発音が響いた。

 

方向的に、おそらく帝さんの戦闘にケリがついたのだろう。

 

勝敗は分からないが、この戦いの終わりが近いのは嫌でも分かった。

 

…最初に、ライブへの乱入なんて物騒な方法を取ったのはお前らのほうだ。

 

その後のアクションも今日に至るまで、何も無かった。

 

言語体系がある俺たちに対して、お前らはそれを使ってコンタクトを取ることもしなかった。

 

賽はとうの昔に投げられた。

 

今更この戦いを止めることなんかできやしない。

 

…でも、何かが、何かが少しでも違ってれば。

 

俺達が手を取って理解し合うことも、できたのかもしれないな…。

 

いつの間にか解いていた構えを取り直す。

 

たらればを話していたって、過去に戻ることは俺にはできない。

 

今はもう、この道を進むしかないのだろう。

 

…決着をつけよう、俺はここを通してやる気はない。

 

チートはもう使えないし、右腕だって会話している間にも二割くらいしか再生してない。

 

何秒こいつを留めていられるか、そんなレベルの話になるだろう。

 

それでももう、後戻りはできない。

 

月人がハンマーを構えたのを見てから、距離を詰めるべく走り出す。

 

何分か、あるいは何秒か、はたまた一撃か。

 

どれくらい耐えられたかは全くと言っていいほど分からない。

 

少なくとも視界が暗転したことで、辛うじて自分がキルされたことだけは分かった。

 

 

 


 

 

 

俺がリスポーンした時には、既に戦いは終わっていた。

 

いやまぁ残機もう無いからそれは当たり前なんだけども。

 

リスポーン場所は、最初にホップした大将落としの少し前。

 

残機がなくて復活できなかった綾紬さんや諌山さん、黒鬼の二人もリスポーンしていた。

 

下に繋がっている階段からは、帝さんが上がってくる。

 

酒寄さんは、俺達がリスポーンするよりも前にここに居た。

 

場の雰囲気を見るに、勝利したとは間違いなく言えないだろう。

 

遙か上空、手の届かないところで月人と一緒にいるかぐやちゃんが、敗北した事実を何よりも雄弁に語っていた。

 

かぐやちゃんのファンに向けた最後の挨拶が、マイクを通してフィールドに響き渡る。

 

…負けた。

 

完膚なきまでに敗北した。

 

シンプルに、何もかもが足りなかった。

 

時間も、力量も。

 

やれることは全部やった。

 

出せるものは全部出し切った。

 

…出し…切った…はず。

 

納得を求める自分の心に、突如として別のナニカが割り込んでくる。

 

本当に?

 

間違いなく全部捧げた。

 

まだ出せる物あるんじゃないか?

 

これ以上はない。

 

もっと楽しみたいだろ?

 

何もない…はず。

 

やり足りないだろ?

 

本当に…全部かけたのか?

 

もっと壊したいだろ?

 

腕も足も頭もあるのに?

 

お前はまだ戦える。

 

まだ…俺が…生きてるのに?

 

そうだ!全部燃やして!

 

そうだよ、まだ命かけてないじゃん。

 

月人も!地球人も!全部全部全部!ぶっ壊し

 

 

 

 

 

 

「ダメだよ、大我。」

 

「それは残される方も辛いって、大我は知ってるはずだよ。」

 

「大我にその方法を身をもって教えちゃった、私が言うなって話だけどね!」

 

「…だから、行っちゃダメ。」

 

 

 

 

 

 

()()に、手を引かれた気がした。

 

思考に没頭しすぎたのか、体が息を求めるように荒く呼吸を繰り返す。

 

何だったんだ…今の。

 

身の毛のよだつような嫌悪感を孕んだ声が急に頭に鳴り響いたと思ったら、優しさと温かさをはらんだ安心できるような声に引っ張り戻された。

 

疲れてんのか…?

 

そんなことを考えている間に、かぐやちゃんの最後の挨拶が終わった。

 

バイバイという声と共に、虹色に輝いている足場が上昇しながら光の粒子に変わっていく。

 

徐々に消えていくかぐやちゃんを目にして、吐息を漏らす酒寄さん。

 

しかし、それが言葉の形をして出てくることは終ぞなかった。

 

かぐやちゃんを乗せていた足場が完全に消え、辺りに粒子と化した虹色の光が降り注ぐ。

 

誰も、何も言えなかった。

 

何をどう取り繕っても、一番欲しかった結果は取りこぼしているのだから。

 

とはいえ、このまま呆け続ける訳にもいかない。

 

場を閉める為に声を出そうとした時、それより先に酒寄さんが動いた。

 

一緒に戦ってくれたみんなへの労いと感謝の言葉を述べる。

 

その声はここにいる全員が分かるくらい、取り繕ろわれていた。

 

そりゃそうだ、辛くないわけがない。

 

酒寄さんにとって、かぐやちゃんがどれだけ大きな存在だったかを、一番近くで見てきたんだから。

 

しかし、声が出ない。

 

この期に及んで、何を言えばいいか分からないからと二の足を踏んでいた。

 

なんて…何を言える?

 

一緒には過ごしてきたが、酒寄さんほど深入りできていない俺が。

 

やはり取り繕いきれなかったのか、短く息を吐いた後に先に帰ると告げる酒寄さん。

 

その顔が、酷く悲しそうで、辛そうで。

 

駄目だ。

 

今だ、今じゃなきゃ駄目だ。

 

今動かないと、俺は。

 

後から死にたくなる。

 

ごめんと一言謝罪を漏らす酒寄さん。

 

その言葉に対して食い気味に言葉を放つ。

 

俺の方こそ、力になれなくてごめんっ!!!

 

でも、かぐやちゃんがいなくなってもっ!

 

俺は、協力関係は、絶対解消しないっ!

 

君が今どれだけ辛いか!分かってあげられないかもしれない!

 

それでも、耐えられないって、抱えきれないって思ったら!!!

 

俺に言えっ!!!

 

何があっても駆けつけるからっ…だからっ!

 

考えもまとまらず、バラバラなままの言葉をそれでも口に出す。

 

届いたのか、届いていないのか。

 

最後まで言い切る前に、酒寄さんはツクヨミからログアウトしてしまった。

 

…っはぁ〜…くそっ……情けねぇったらありゃしねぇ…。

 

あまりの不甲斐なさに頭を抱える。

 

しかし、その背中を帝さんがポンと軽く叩く。

 

慰めてくれているのか、情けなくなんかないと声をかけてくれた。

 

それを言ったら実の妹に何も言えないままだった俺の立場がないと、自嘲混じりに言う帝さん。

 

ばっかお前超人気プロゲーマーなのにチート持ち出してまで助けにきたお前が兄失格なわけねぇだろ。

 

あ〜やめだやめ、男同士で慰め合ってちゃしょうがねえし、今そんなことやってる場合じゃない。

 

…とりあえず、俺からもお礼を言わせてくれ。

 

かぐやちゃんの…妹の為に戦ってくれてありがとう。

 

結果はついてこなかったけど、そればっかりはもうしょうがない。

 

みんなに改めてお礼を言っていると、綾紬さんと諌山が心配そうな表情で話しかけてきた。

 

….酒寄さんは…今は、そっとしておいてあげよう。

 

明日になったら、俺も様子を見に行くことにするよ。

 

ROKAさんとまみまみさんの方でも、登校していたら気にかけてあげて。

 

兎にも角にも、動き始めるならまた明日からだ。

 

今日はもう遅いから解散しよう。

 

そう言って一旦場をクローズする。

 

各々がログアウトしていくのを見送っていたが、その雰囲気はやはり重苦しいものだった。

 

KASSENフィールドに一人だけ残った俺は、気が抜けたようにドカッと地面に座り込む。

 

目の前を虹色に光る粒が通過した。

 

徐に手のひらを差し出し、虹色の粒子を受け止める。

 

粒子はまるで雪のように溶けて消えた。

 

後には、何も残らない。

 

まるで今回の戦いの結末のように。

 

…っ!!!くそっ!!!

 

怒りをぶつけるように、床に拳を叩きつける。

 

叩きつけた手にも、痛みが残ることはなく。

 

ただただ失ったものの大きさと、自分の無力感を分からされるだけだった。

 

 

 

 

 






主人公の本来の性格は、非常に攻撃的かつ悪辣で残忍なものです。仮にまともな両親の元で精神年齢0歳からスタートした場合、家族に向けてFワード混じりの罵詈雑言を飛ばしては蹴る殴るの暴行で正論を封殺するカスに育ち、18手前で家出した後バイクで事故ってくたばっては、家族に死んで清々したと本気で言われるような人生を歩む筈でした。てかそういう星の下で生まれてます。なので川島両親を虐待&ネグレクトのクソ人間にして心身共に弱体化させた上で、守るべき妹と何処か危うい姉を血縁にして強めの庇護意識を芽生えさせ、育つ筈だった暴力的な性格をボコボコに叩き折る必要があったんですね。うーんこれは仕方ない。神様は何も悪くない。お前は幾度輪廻を巡っても人でなしのもとに生まれるべき。うん。

7話の後書きでも記載していたステゴロ能力の高さや人の心が無いキルの仕方をする理由のもう半分については、上記の通り主人公の本来あるべき性格がそういうものだからです。ツクヨミで戦闘している時のみ、ボコボコにした筈の凶暴な性格が刺激されてちょっとだけ復活します。今回はチートによってテンション上がっちゃっていつもより割増で復活したみたいですね。あと自傷に走りやすいのもこの性格由来です。とにかく何か傷つけたくて辛抱たまらんのじゃ。

黒鬼が使ってるチートは攻撃力と速度に全振りで、主人公が使ってるのは全パラ満遍なく振りわけているので、火力の面では黒鬼に劣っています。その分固さは主人公の方が上です。なので月人二人相手にギリギリゾンビ戦法で競り勝てました。主人公ポジの人間の戦い方じゃねえなこれ。

主人公が使ったチートは全パラUP、壁抜け、欠損の即時再生、ダウン後の消失遅延、残機ちょろまかしの5つです。全パラUPのチートは帝から貰ってますが、他4つは自分で調べたルートで業者から購入したものです。規制強めセキュリティ万全のツクヨミ下で動かせるチートは高価であり、4つ合わせて50万を下らない程。余りの買いっぷりの良さに笑みを浮かべながら、今後ともよろしくと手を差し出す業者にいえいえこちらこそと笑顔で握手を交わした後、即座にツクヨミからログアウトしてヤチヨに直接業者の情報をリークした主人公は人間の屑だし人の心なんてない。チートの販売してる方も大概ですけども。

ツクヨミ内での身体欠損時の動作とか体力無くなった後の挙動とかは全部ノリで書いてます。今までの話での描写と矛盾したりするかもですが、そこは何とか目をつむって流していただけると幸いです。

月人側の事情も適当に捏造しました。かぐやちゃんと月人の会話を聞く感じそんなに仲悪そうじゃなかったんで、実はそもそも逃がさないこともできたけどあえて逃しましたみたいな感じにしました。描写が少なすぎるから捏造せざるを得ないんや…山下清吾監督〜頼むから超かぐや姫のスピンオフ200個くらい作ってくれ〜。

割り込んできた別のナニカ君は、チートによって復活した主人公の凶暴な部分が不思議パワーで人格を持ったやつです。もう一人の僕ってやつ。何とかして主人格を乗っ取ろうとしましたが、姉(幻覚)のファインプレーで失敗しました。この後の出番は一切予定していません。カマセイヌ。
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