──とまぁ、そんな感じにしておいたよ。
いやぁ~僕ってば本当に有能な神様だねぇ...自分でもつくづくそう思うよ。
トラブルがあっても本来の目的は達成できるし。
心動かされた人間に対してのチップも与えてるし。
こんな善良かつ敏腕な神様に使われたんだ。
君も光栄だろう?
おっと、うるさい同僚が暴れだしちゃったね。
なに...謝れ?神である僕が?人間に?
君本当に僕と同じ神様なのか?正気を疑うよ。
分かった分かった...悪かったよ色々と。
ほら謝ったぞ、これで満足かい?
ま、満足していなくても強制的にしてもらうけど~。
人間ごときに二回も三回も頭下げたくないし。
っと、どうやらお目覚めの時間が来たみたいだね。
緩やかに消えるようにしてあげたからさ。
他の人への挨拶とかも、消える前にやっちゃいなよ。
それじゃ、バイバ~イ。
──。
────。
──────。
────────っは!!!!
何かに弾かれたかのように体が跳ねる。
意識が戻るとともに、呼吸が慌ただしく肺と喉を行き来し始めた。
額を伝う汗を乱暴に拭う。
あれ...えっと...俺、何してたっけ。
確か文化祭に行って...展示見て...酒寄さんと別れて...。
同僚に連絡して...それから...。
駄目だ、そこから先が思い出せない。
まるでそこから先が綺麗に切り落とされたかのように。
いや、切り落とされたというか...そもそも存在していないっていうか...。
云い知れない感覚に不気味さを覚えながら、ふと辺りを見渡す。
和の要素がふんだんに盛り込まれた建物に、あちこちを照らす橙色の光。
文字通り空を泳ぐ魚に、道行く人の体には角や尻尾などが生えていた。
間違えようもない、ここ数か月はこの空間に入り浸っていたのだから。
ここは...ツク...ヨミぃぃぃぃぃぃぃぃぃっだあぁぁぁぁぁぁ!!?
現在地の把握をした瞬間、頭の中に激痛が走る。
てか最近激しい頭痛に苛まれ過ぎじゃない?
前世でなんか変なことでも...いや絶対してねぇな記憶あるもん。
そうこう考えている間にも痛みは続く。
この痛みは、初めての感覚じゃない。
ヤチヨさんの八千年の記憶を覗いた時と似たような痛み。
情報を強引にねじ込まれるような、読み込ませられるような、そんな痛み。
それを裏付けるかのように、頭の中に覚えのない光景が浮かんでくる。
誰かに一方的に語りかけられてる。
誰なのか...聞き覚えがあるようでないような、不思議な声。
ぐ、うおぉぉぉ...っはぁ...っはぁ...。
声の主を思い出そうとしている間に、頭を巡っていた激痛が治まった。
今までとは違って意識を失うことはなかった。
それは果たして、今までの経験を経て慣れたのか...それとも単に別種の痛みだったのか。
どうやら今回は後者だったらしい。
痛みが治まると同時に、最初から居ましたよと言わんばかりの存在感を放つ謎の記憶が脳を駆け巡る。
はぁ...そういうことかよ...。
今度は痛み以外の理由で頭を抱えることになった。
激痛と共に突如植え付けられた記憶。
その内容は、この期に及んでずっと謎のままだった、俺が転生した理由についてだった。
さぁて...どっから話したもんか。
そんな愚痴が口から零れそうになるほど、事の真相は突拍子もなくそれでいて荒唐無稽。
端的に言えば、頭がおかしいと言えるだろう。
まぁ状況整理がてら独り言よろしくぶつぶつ呟いていくけども...。
通りの真ん中で目を覚ました俺。
認識されないとはいえど流石にそこに居座り続けるのは心苦しく思い、広間に移動して近くのベンチに腰を下ろした。
息を吐きながら空を見上げると、イルミネーションみたいに装飾されて深海に住むには煌びやかすぎるシーラカンスが悠々と泳いでいた。
まずもって、さっき頭に叩き込まれた謎の記憶についてだが。
あれが何なのかというと、文化祭の帰り道で意識を失った後の俺の記憶で間違いないらしい。
その内容は、だだっ広く白い空間で一切の行動が封じられた中、ショタっぽさのあるイケメンにただ一方的に話を聞かされるというもの。
意味わかんないって?
俺も意味わかんねぇよ...だから頭抱えてたんだよ俺は。
しかもその相手、自称ではあったけど神様らしいぞ。
いよいよ俺の頭もおかしくなっちまった。
ま、まぁあのショタもどきが神であろうとなかろうと今更どうでもいい。
実際に嘘ではないだろうし。
何だろう...なんか...対面した感じがもう、人間じゃないっつうか...人間を超越した別の何かだったんだよね。
言語化できないんだけど、絶対に人間ではなかったって言いきれる。
一旦、ショタもどきが神だと仮定しておくとして。
とりあえず、その謎の記憶について詳しく振り返っていこう。
記憶の中の光景を思い起こす。
真っ白な空間。
手足は動かせず、口も聞けない。
目の前には知らない男が一人いた。
俺がこの世界に転生した理由。
そこを語るよりもまず、この世界の状況的なものを理解する必要がある。
記憶の中の光景では、知らない男が人差し指を立てながら得意げに説明してくれた。
まずもってだが、異世界というものは俺たちが思っているよりもはるかに多く存在するらしい。
世界観が似てるものから、全く異なるものまでよりどりみどり。
その数も、人間が観測できる銀河の数の何千、何万倍とあるとかなんとか。
き、規模感がデカすぎる...。
そんな数ある世界には、それぞれ管理する神様というものが一人ずつ存在するらしい。
人間が作った神話に出てくる神様よりも、はるかに位の高い神様が。
目の前で流暢にペラペラと説明してくる知らない男…ショタもどきは、酒寄さん達が生きる世界の神様だった。
ショタもどきの管理下にて、普通に運営されていた酒寄さん達の世界。
特に問題なく運営されていたのだが、ある日問題が発生した。
それが、かぐやちゃんのタイムスリップだ。
別段タイムスリップ自体には何の問題もないらしい。
世界ってのはそんなにやわな作りじゃないし僕が管理している世界だからねと、ショタもどきが自慢げに語っていたのが瞼の裏に蘇る。
うぜぇ...顔の作りがいいのが余計に腹立つわ...。
タイムスリップが問題じゃないなら、じゃあ何が問題なのか。
かぐやちゃんがタイムスリップをし続けるような世界線に固定されているのが問題だとか。
誰かがタイムスリップした場合、その余波というものは案外どデカいものらしく。
あらゆる方面に影響をもたらし、本来通るべきだった運命から大きく外れていくらしい。
最初にタイムスリップしてきたやつを仮にAと置こう。
Aが過去にタイムスリップしてくると、その余波であらゆるものの未来に影響が与えられる。
勿論、タイムスリップ先の世界線に存在する、あるいは存在した、あるいは生まれてくるAにも。
タイムスリップ先の世界線のAのことをBと置く。
このBは、タイムスリップしてきたAの余波によって存在そのものに大きく影響が出る。
全く同じ姿形で生まれるかもしれないし、全く違う生き物として生まれるかもしれない。
何なら、本来は生まれてこれたはずなのに、生まれてこれなくなる運命を辿るなんとことにもなり得るとか。
到底信じられる話ではないが、タイムスリップ、とりわけ過去へのタイムスリップというのはそれだけヤバい代物だったらしい。
人間ごときにそんなのわかるわけないししょうがないねと、肩をすくめるショタもどきに殺意が湧いたのを思い出す。
そんな運命ぶち壊しマンである過去へのタイムスリップだが、唯一ほぼほぼ同じ運命を辿るものがあるらしく。
何かというと、一度タイムスリップをした奴はどの世界線や時間軸においても、二度とタイムスリップをしないらしい。
さっきの話でいうと、タイムスリップ先の世界線のAであるBは、基本的にその先どれだけ時間が経過してもタイムスリップをしない、といった感じか。
それだけ過去へのタイムスリップというのは諸々への影響がヤバいらしく。
当たり馬券のために過去にタイムスリップした奴がいたせいで滅んだ世界もあったねぇと、死んだ目で思い出し笑いをしながら語るショタもどきを見てなんとなく察した。
なんで僕が尻拭いをしなきゃいけないんだとハイライトの無い目で語るショタもどきに、少しだけ同情した...ほんの少しだけ。
影響力半端ねぇ...てか怖すぎだろタイムスリップ。
同じ人間がタイムスリップをしないのは、世界側が負荷を避けるために自動でコントロールしようとした結果と、ショタもどきは言っていた。
管理人なのになんで知らねぇんだお前は。
というわけで、基本的にタイムスリップした奴は、その後何が起きても二度とタイムスリップしないという事実が確かにあった。
...まぁ、ほぼほぼとか基本的にとか使ってる時点でなんとなく察した。
まさしくその通りだったようで、例外というのがちょくちょく生まれるらしい。
かぐやちゃんはその例外に分類された。
何度タイムスリップしても、月見ヤチヨとしてツクヨミを作り出す。
そして地球に来た別のかぐやを月に送り出す。
月に帰ったかぐやは、また地球に戻ろうとタイムスリップする。
何度繰り返しても、かぐやという存在は必ず過去へのタイムスリップを決行するのだ。
稀に強すぎる意志を持った存在が、世界側の干渉をはねのけてこういう例外になりやすいとかなんとか。
まぁそんなこんなで例外になったかぐやちゃんが生み出すタイムスリップループだが、世界側から見るとよろしくなかったらしい。
タイムスリップ自体が問題ではないと言った理由は、どいつもこいつも一回きりで終わるからだそうだ。
大きすぎる余波や影響も、各々一回こっきりならまぁ耐えきれんべという考えとのこと。
ところが、これが繰り返されるとなると話が変わる。
同じ時間軸で同じ年代に向けての、しかも過去へのタイムスリップ。
そうなったらもう、タイムスリップ先への影響や負荷が大変なことになるわけで。
最悪の場合、当たり馬券の事例みたいに世界そのものが滅ぶ可能性もある。
それどころか、世界側の許容値を超えて耐えきれなくなる可能性もあるらしい。
まぁ...PC内で無限に負荷がかかり続けるアプリ起動しっぱなしにしたら、そりゃいつかはPCがお陀仏になるわな...。
世界側の自動調整の効かない、無限に起こるタイムスリップ。
こうなってしまっては、もう神様が干渉してでも事を収めるしかない。
かったるいし自然に鎮火してくれないかな~と鼻くそほじりながら成り行きを見ていた神様は、なくなく解決に向けて重い腰を上げたのです。
勤務態度終わりすぎだろこの神様。
そんな終わり散らかした態度の神様でも、力は一級品。
こんなループなんてちょちょいのちょいで解決してやろうと。
じゃあどうやってループを解決するのか。
まずループの中核であるかぐやちゃんに着目する。
さっき、強すぎる意志によって例外が生まれるなんて説明があったが、説明の通りかぐやちゃんの中に強すぎる意志がある。
もうちょっと細分化すると、
月見ヤチヨは、言葉汚く表すと
時間を逆行してまでも会いたいという気持ち。
タイムスリップに失敗して遥か昔に不時着して、船の故障で体をなくして、途方もない孤独と絶望を味わって。
それでもなお、失われることのなかった切なる願い。
それは幾千の繰り返しを経て、世界線や運命を固定化する楔へと変貌した。
もう言い換えてしまえば未練、もっと言えば怨念みたいなものだと、ショタもどきは語る。
ループを解消するには、運命を固定している楔を外すないしは消してやる必要があるとか。
そしてそのためには、楔の元となる未練を解消してやる必要がある。
そう、
かぐやとして再会できなかったから、そういう類の未練が生まれる。
であれば、かぐやとして酒寄さんと再会できるようにしてやればいい。
そうすれば、今ある楔と化した未練や怨念も満足して消えていくらしい。
...本当か?なんか楔とか大層な表現してる割りには、やけにあっさりとした方法で消えてくような...。
それって、この後にそういう未練が生まれなくなるってだけで、現時点で存在していて楔になってる未練の解消はできないのでは?
俺の不安を読み取ったのか、この手のループには前例があるし前のループはその方法で解消できたと言ってくるショタもどき。
まぁ...そもそもタイムスリップが失敗して八千年前に飛ぶことがないのであれば、
そうすれば自然とループしなくなるはずだから、問題の解決にはなるか...多分。
という感じで、とりあえずはかぐやちゃんのタイムスリップを一回成功させることでループの解消を狙うってのが、今回ショタもどきがやらないといけなかったことだ。
じゃあ次は、どうやってかぐやちゃんのタイムスリップを成功させるか。
船を頑丈に作らせるとか、ルートを変更させるとか、方法自体は色々とあるっぽいが。
一番楽そうという理由から、本来かぐやちゃんが乗る船と衝突する隕石を破壊ないし軌道を逸らす方法を選択したとのこと。
方法も決まったし、ループ解消のためいざ参らんっ!
って、そんな風に楽に動けるのであれば、かったるいなんてわざわざ神様は言わない。
なんと、神様による世界への直接的な介入は推奨されていないらしい。
いや誰が言ったんだよそれ...え、上司?いるの?
どうやら神様世界にも社会というものは存在するらしく、上司もちゃんといるとのこと。
では何故、推奨しないという直接禁止にしない言い回しなのか。
まぁ別にさっきのタイムスリップみたいに、世界が滅ぶとかまでは起きないかららしい。
ただ、世界の中では碌なことが起きないとのこと。
ひとたび神様が力を振るえばどうなるか。
馬鹿どもが神の力に魅入られて、よくわからん危ない宗教を作り出す。
神の力にあてられて頭がおかしくなり、戦争が各地で勃発する。
神の力によって自然環境がぶっ壊れ、天変地異が各地で発生する。
終いには神の力を手に入れようと、人間が神に喧嘩を吹っかけてくる等々...。
...それはもう、世界は滅んでいるのでは?
そんな疑問を浮かべる俺を他所に、ショタもどきは人間愚かすぎて萎えるわ~と眉間を揉んでいた。
理由は数あれど、とにもかくにも神様が直接力を振るうのは世界への悪影響なのだ。
じゃあお前どうやって隕石逸らすねん...。
俺がそう考えるのをまるで読んでいるかのように、ショタもどきは隕石軌道修正作戦の全容を語りだした。
ステップその1、手ごろな魂を別世界から盗...借りパ...譲ってもらう。
ステップその2、その魂に超能力を与えた上で転生させる。
ステップその3、生まれたそいつが超能力を使って隕石の軌道を変えて完全勝利。
...もう、どこからツッコめばいいんだよ。
別世界の魂を無断で取ってきてるじゃねぇか...合意の上でやれよせめて。
あと超能力ってなんだそれ、そんなことできんのかよ神様ってのは。
ていうか、仮に超能力を使うことができたとして、それは結局神様の力で介入しているのでは?
ショタもどき曰く、同僚が管理する世界から取ってきたし問題ない、あと神様だから人に超能力を与えることだってできるとのこと。
神様の力の介入に関しては、神は力を与えただけでそれを振るうのは人間だから直接介入にはならないと言っていた。
ありかよそんなの...ってか待って。
その無断で取ってきた魂って...まさか...。
喋れない俺の思考を見透かしているのか、ショタもどきは大げさに手をたたきながら大正解だと俺の考えを肯定した。
神の使いに選ばれたのだから光栄に思いなよとふんぞり返えるショタもどき。
どうせ選んですらいねぇだろ...たまたま近くにあったとか...いやあってんのかよ。
悲しいかな、選出理由は近くにあったから...とんだとばっちりだ。
というか、自分が管理してる世界の魂を使えばよいのでは?
わざわざ他所から攫ってこなくてもなんて思っていたが、自分の管理する世界の魂を神様の手で転生させるのは色々とめんどいらしい。
主に申請周りが。
妙に会社じみてるな神様社会...。
ていうかそれだったら他の世界の魂を転生させるにも申請がいるんじゃね?
たまに事故で他所の魂が転生してくることがあるから、それを装っておけばOK?
ばれたら大目玉コースなのでは...てかコイツ結構、あの、うん、クズだな。
...にしても妙だ。
その話が本当なら、俺になにか超能力が備わっているはずだ。
宇宙空間を漂う隕石の軌道を変えられるくらいの超能力が。
だというのに、それらしい力は斉藤英明の人生で見受けられなかった。
色々と厨二的なことを試した過去が、ありありと浮かんでくる。
その疑問の答えは、すぐにショタもどきの口から出されることとなった。
方針も決まったし、転生させる魂も確保した。
さぁいざ転生の儀を...というところでハプニング発生。
魂を取り返しに来た同僚がまさかの乱入をしてきたのだった。
何とか取り返そうとする同僚と、是が非でも転生させようとするショタもどき。
その取っ組み合いの余波が、転生の儀に悪影響を及ぼした。
意外とデリケートなのよねぇと語るショタもどきの表情に、反省の色は見られなかった。
転生自体は何とか成功したらしいが、超能力を与える工程に影響がモロにいったらしい。
なんと与えられるはずだった超能力を持たないまま、あの世界に転生したらしい。
...するってぇとなんだ?
あんたらの失敗でただの人間として、あんたらの都合で勝手に転生させられたのか?俺は。
動けないなりに怒りを伝えようとする俺に、なかなかできる体験じゃないから僕に感謝してよねと言い放ってきたショタもどき。
少しは申し訳なさそうにしろよお前は。
こうした一連のハプニングによって、ただの一般人が転生したわけだが。
これだと本来の目的が果たせないわけで。
どうしたもんかと頭を悩ませたが、特にこれといった改善策も浮かばなかった。
別の魂を確保して転生の儀をやり直す?
いやどこから魂確保するんだって...。
ほら、同僚の神様はもう渡さん言うてるし。
…てかいつの間に居たんだ同僚の神様。
知らない間に、同僚の神様…俺が川島大我として生きた世界の神様が、ショタもどきの隣に立っていた。
ショタもどきの雑な説明に、可能であれば補足を入れてくれるらしい。
おう…そうか…んでなんだっけ、誤転生された俺をどうするかって話か。
転生させた俺を回収する?
そのためには神の力を使ってなんとか殺さないといけないし、直接介入は非推奨だから無理だ。
あれも駄目これも駄目と、これといった改善案が生まれなかった結果。
普通に死ぬのを待とうという判断になった。
世界というのは、意外と生物みたいな感じらしい。
別世界から入ってきた魂を異物として判定し、自動で削除する機能が備わっているとか。
体が一部透明化したり他人に無視されたりしたのは、世界が君のことを消そうとしていた影響だねと、ショタもどきかつらつらと語った。
その機能の為か、異世界から転生してくる奴は総じて三~四十歳の間で世界によって完全に消されて、何らかの形で必ず死を迎えるとのこと。
通常の人間の一生ですら、神様にとってはくそ短い期間。
ショタもどきと同僚は、どうせそんな時間かからないだろうしまぁ普通に待っておくかという結論を出した。
あと素直に異世界転生した人間を見るのは初めてだったらしく、興味もあったとのこと。
見世物扱いですか俺の人生は...。
そんなこんなで始まった、一般異世界転生者の私生活パブリックビューイングなのだが。
これまた面白いことに、神様は特段何もしていないにも拘らず、ループの中核になるかぐやちゃんや酒寄さんに自然と関わりを持つようになっていた。
しかもかぐやちゃんを月に返さないという考えに賛成して加勢に入っている。
確証はないが、そもそも月に帰らせないというのもまたループ解消のトリガーになり得るかもしれない。
偶然が重なっているとはいえ、ここまでくると流石の神様も期待せざるを得ない。
適当に応援と野次、たまに罵倒を発しながら、俺の人生を観戦していたらしい。
罵倒ってなんだ...俺なんか悪い事したっけ?
そんな感じで俺の人生を酒の肴にして楽しんでいたらしいが、全ての事が都合よく進んでいくなんてことはなく。
俺の努力も空しくかぐやちゃんは月に帰り、タイムスリップをするルートに入ってしまった。
しかもなんか魂に異常な負荷をかけては寿命を削りに行っているではありませんか。
寿命を削り...あ、ヤチヨさんの八千年の記憶を見たときの事か?
どうやらあれの負荷によって、ただでさえ異世界転生によって脆い作りになった魂に致命傷レベルの傷がついてしまったようだ。
時折聞こえてきていたひび割れの音は、実際に魂に傷が入って悲鳴を上げていた音だったのだろう。
それによって、本来であればもう十年は耐えれたであろう体が、もう気を抜けば世界に搭載されている削除機能によって消される寸前までになってしまった。
しょっちゅう気を失っては目が覚めると自殺未遂一歩手前まで来ていた理由。
多分それは、世界が俺を消そうとしてくる力への抵抗力がほぼほぼ失われていた事が原因なのだろう。
魂がぼろっぼろで、いうなれば超無理限界ギリの状態。
文化祭が終わった帰り道で、ついに限界が訪れてしまったらしい。
その様子を見ていた同僚の神様は、まぁよくやった方ではあったなと素直に感心していた。
しかし、その隣で見ていたショタもどきは、なぜか大号泣していた。
え怖...お前そんなキャラじゃねぇだろ多分...。
同僚の神様も面食らって呆然としていると、大号泣していたショタもどきが手を叩いて語り始めた。
素晴らしいと。
これを聞いた同僚の神様は、驚きのあまり腰を抜かしたとか。
いやそうなるだろ...絶対そんなこと言う神様じゃないもん、あのショタもどき。
やれ健気な献身だの、やれ美しい友情だの、やれ尊い愛情だの。
それっぽい事をペラペラ語ってはスタンディングオベーションをする始末。
もうすでに怪しさ満点のショタもどきに、何か企んでるなと察した同僚の神様。
感銘を受けたと言うショタもどきは、なんと非推奨とされていた直接介入を決行。
消えかけていた俺の体から魂を分離してツクヨミ内に保護。
体の方は完全に掻き消える前にマッハ3くらいで隕石に射出したらしい。
人の体になんてことをぉ!!?正気か貴様ぁ!!?
せめて一声かけてからやらんかい!!?
怨嗟のこもった俺の視線を気にすることなく、僕には君をあのまま犬死させることなんてできなかった...とわかりやすすぎるウソ泣きを披露していた。
犬死させるくらいならせめて...せめて君を贄にして隕石を逸らしてあげるべきだ。
大根役者みたいな質の低い演技で、悔しさを演出しながらそう宣うショタもどき。
挙句両手を広げては、君だって自分が犠牲になって彼女達が再開できるとしたら喜んでそうするだろうと発言していた。
よくもまぁ心にも思っていないことをつらつらと...。
同僚の神様も同意見なのか、転生の儀をもう一回やるの面倒だから多少のリスク覚悟で強引にでも隕石を逸らしにいったんだろと言っていた。
まぁ、俺の体は他人から認識されなくなってたし、神の力が振るわれたのも宇宙空間での話だし、そうそう誰かに見られるようなことも無い...か?
それに、ショタもどきの言ったこともまぁ...その通りではあったし。
酒寄さんや綾紬さんに諌山さん。
彼女達の幸せの中には、必ずかぐやちゃんという存在がいるはずだ。
当の本人であるかぐやちゃんだって、彼女達との再会を心から望んでいるはずだ。
その思いが積み重なりすぎた結果が、楔による固定化に伴うループ現象だったわけだし。
そしてなにより、幸せの中で笑っていた彼女達を一番近くで見ていた俺だからこそ、彼女達がどれだけあの時間に救われていたかを理解している。
であれば、大人として未来ある彼女たちの幸せを守るべくこの身を捧げることを、ためらうことはない。
まぁ...もうちょっとスマートにやりたいねとは常々言っていたんだがねぇ...。
最終的な末路が、宇宙空間に肉片をばらまかれるってまあまあみっともないし...。
それを聞いたショタもどきは、君の無意味な死に意味を持たせてやったんだから感謝したまえと唇をとがらせていた。
おう無意味とか言ってくれるな、悲しくなるだろうが。
という感じで、無意味で終わるはずだった命が宇宙で出るはずのない速度と謎に強力な耐熱性を伴って隕石にぶつかり、隕石の軌道を少しだけ逸らすことに成功。
少しだけというのは、実際文字通りの意味である。
どうやら逸らすことはできたにせよ、かぐやちゃんが隕石と接触する未来を完全に回避することはできなかったようだ。
カンニングがてら、ショタもどきが先に未来の光景を見てきたらしい。
未来のかぐやちゃんは隕石に対して、ぶつかるとまではいかなかったが軽く船を擦るくらいの接触をしたとのこと。
その結果、ループの時と同じようにタイムスリップの飛び先の時間が変化した。
本来かぐやちゃん飛びたかったのが、かぐやちゃんが月に帰った次の日。
それが隕石との接触を経て、一か月ほど先にずれ込んだ。
一か月ほど先...そう、丁度俺が消えた翌日に。
ということは...かぐやちゃんはちゃんと帰ってこれたみたいだね...。
身を粉に...というか肉片にしてまで体を張った甲斐はあった。
腕は動かなかったので、気持ちでホッと胸をなでおろす。
それと同時に、空間が急に揺れ始めた。
地震かと慌てる俺を他所に、神様二人は余裕そうな表情だった。
曰く、ツクヨミ内に保護していた俺の魂が目覚めようとしているらしい。
あ、この白い空間って俺の精神世界的なサムシングなのね。
揺れる空間を気にもせずに、ショタもどきが話を続ける。
俺が目覚めるまでに時間が無いとのことで、今までの余分な演技っぽい所作は無くなりサクサクと話が進んでいった。
今は文化祭から大体一週間程度経過している。
目が覚めるのはツクヨミの中。
俺の体はもう現実世界には無いからログアウトもできない。
正確な時間はわからないが、もう幾分もしないうちに魂の方も完全に消える。
それが俺の、この世界での最後の瞬間になる。
彼女達や黒鬼の面々は繋がりが強いからか、完全に消えるその瞬間までちゃんと俺のことを認識してくれる。
遺言残すなら早めにしておけ。
伝える必要がありそうなことだけ、ショタもどきから伝えられた。
そのあたりで、俺の意識もぼんやりとしだしていた。
揺れる視界に、白い空間にもひびが入り、意識のぼやけも大きくなっていく。
大げさな身振り手振りが戻ってきたショタもどきが、何かを言っている気がする。
同僚の神様はちょっと怒っているっぽい。
でも何を話しているかまではわからなかった。
目の前の視界が眩み、神様達の声も聞こえなくなってくる。
俺はそのまま、ぼやける意識に身を任せてるのだった。
で、俺が生まれたってわけ。
まぁ余命数刻もないんですけど。
そんなことを頭に浮かべながら、改めて神様との会合の記憶を振り返る。
...うん、なんというか、あれだな。
何ともオカルトじみたっつうか、現実味の無い話だとつくづく思った。
転生しといて今更なんだって話だけども。
運命だの世界線だの魂だの異世界だの。
中坊が好きそうなワードがたくさん飛び交ってたなぁ...。
まぁ現状、神様が説明してくれた理由以外に、俺の身に起きていた事象を説明できる理論が無い以上は信じるしか無いけど。
でも...そっかぁ...。
もう少しで完全に消えるんだな俺...。
ふと、右手の手のひらに目を向ける。
その手は、今まで一番といっていいくらいの透明度の高さを誇っていた。
まさに消える前兆。
水の中に居たら見つけられないんじゃねぇかこの体。
そんなことを考える俺の頭の中は、不思議と落ち着いていた。
初めて体の一部が透明になった日なんか、あんなに取り乱してたのに。
つい最近まで、ふとした瞬間に消えちゃうんじゃねぇかってビビり倒してたのに。
今はもう、あんまり怖いと感じない。
完全にゼロっていうわけじゃないけど。
もう避けることができないから振り切れたのか?
それもあるかもしれない。
でも一番でかいのはやっぱり。
彼女達の幸せの為だから。
ヤチヨさんを否定したいわけじゃない。
あの八千年の中で、良かった事や変え難い経験だってあった。
記憶を覗いた俺には分かる。
けどそれと同時に、やっぱり辛かった事も目に入ってくる。
良い思い出に、良い出会い。
それらを差し引いたとしても、あの八千年は生き地獄だったと俺は思う。
だからこそ、その旅路にかぐやちゃんを送らずに済んだこと。
俺のいないであろう世界線でも、あの八千年を体験するかぐやちゃんが今後は現れないこと。
酒寄さんがかぐやちゃんと再会出来たこと。
酒寄さんとかぐやちゃんとヤチヨさんの三人で、今度こそハッピーエンドに進んでいけること。
酒寄さんとかぐやちゃん、諌山さんと綾紬さん、そして新たにヤチヨさんも加えて、五人でまた沢山笑い合えること。
その全てが、俺にとっては本当に嬉しかった。
姉さんを死なせてしまった。
妹達と仲直り一つもできなかった。
良い大人になれなかった。
かぐやちゃんの望みを一回は叶えれなかった。
酒寄さんのように強い人になれなかった。
そんなダメダメな俺でも。
最後にはちゃんと、守りたいと思ったものを守る事ができたんだ。
だからもう。
悔いが…ないんだよなぁ…。
夜空を見上げて、鼻から深く息を吸い込む。
嗅覚も実装されていない筈なのに、不思議と夜の匂いがした気がした。
…よし。
とりあえずいつ消えるか分かんない以上、皆んなに挨拶はしておきたい。
色々とお世話になったし、何も無しでバイバイは流石に寂しいだろう。
…さび、しい…よね?
嫌だよこれであーせいせいしたとか言われたら。
年代違うおじさんと話合わせんのきちーわーとか言われたらもう、普通に泣く自信がある。
さ、流石に…そこまでではないはず…。
………し、信じよう!日頃の行いを!
てか仮にそうなったとしても、皆んなとの別れを適当にしたくはないし。
立つ鳥跡を濁さずってな。
とりあえず、メッセージで呼び出…す…。
いや待て、どう説明しろと?
実は〜今まで世界に消されかけてて〜神様に引導渡されて〜ついでに隕石逸らしといた〜。
…………程度の低い厨二病患者でしかねぇな。
文字に起こすとなんともまぁ…突拍子もない人生送ってんなぁ…。
と、とにかく!一旦連絡は入れておこう!
言い訳は後から考える!
そうして一人脳内会議を終えて、皆んなにメッセージを送ろうとする。
とりあえず、腕を振ってウィンドウを表示…。
…………………。
う、腕を振ってウィンドウを…。
…………………。
なんということでしょう、ウィンドウが出ないではありませんか。
ただ虚空に向かって腕を振り続ける骸骨お面の変人が一人、ベンチの前で佇んでいるのだった。
い、いやいやいやいや待て待て待て待て。
えちょ、いや、え?これ、不味くね?
てかなんで?なんで出てこないんだ?
別に所作が間違ってるとかでは………。
も、もしかして…俺…。
ツクヨミのシステムからも…認識されなくなってきてる…?
てことは、ツクヨミの機能は使えないし…皆んなに連絡取れない…?
めちゃくちゃ広いツクヨミの中で…。
最後に合流もできない可能性が…あるって…ことぉ?
ま、まっっっっっっずぅぅぅぅぅぅい!!!!?
ショタもどき
・斎藤英明が居た世界を管理する神様
・とにかく気まぐれ
・性格はカス
・人間はおもちゃだと思ってる節がある
同僚の神様
・川島大我が居た世界を管理する神様
・真面目ちゃん
・でも人間の気持ちはよく分かんない