え、隕石逸らす為だけに転生させられたんすか?   作:饅頭の皮

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3. いってらっしゃい学校からカフェ帰りまで

 

 

 

三連休も終わり、地獄を歩く罪人みたいな顔で社会人が出勤する今日。

 

地獄を歩く罪人みたいな顔で、酒寄さんが俺の部屋を訪ねてきた。

 

話を聞く限り、学校に行こうとしたらお嬢ちゃんに行くなとごねられたらしい。

 

てかあれだね。

 

またでっかくなったねお嬢ちゃん。

 

パッと見た感じだと酒寄さんと同年代くらいになったっぽい。

 

もぉう面倒くさいからツッコんだりしないぞぉ!(諦観)

 

見た目的にでかくなっても、精神的にはまだ育ちきっていないのか。

 

何処か見た目の年齢にそぐわない言動がちらりほらりと見え隠れしていた。

 

酒寄さんの腕を掴んでは、嫌だ嫌だと振り回しているお嬢ちゃん。

 

本当に勘弁してくれと言わんばかりに片手で顔を覆う酒寄さんに俺が世話するよと伝え、ごねるお嬢ちゃんと目線を合わせるように屈む。

 

元から世話するつもりで有給取ってるんだし、気にしない気にしない。

 

それよりもだねぇお嬢ちゃん。

 

酒寄さんにとって、学校行くのって大切なことなの。

 

まぁ、確かに命より大事ってのは言い過ぎじゃね?とは思うけど。

 

それに大切ってだけじゃない。

 

やりたいことがあるから学校に行ってるの。

 

因みに本当に確固たる目的とかやりたいことがあるかは全く知りません。

 

嘘ぶっこいたとしても、このお嬢ちゃんをそれっぽい屁理屈で誤魔化せれば良いわけだし。

 

お嬢ちゃんもさ、やりたいこととか邪魔されるの嫌でしょ?

 

例えば、楽しむためにここにきたのに、このまま何もせずに月に帰って…とか。

 

相手のして欲しくない事はしちゃいけない。

 

相手のやりたいこと、大切にしたいものを尊重してあげる。

 

賢いお嬢ちゃんなら、それが出来るはずだよ。

 

それに、寂しいとか何かしてほしいとかの我儘は、お兄さんが聞いてあげるからさ。

 

酒寄さんを行かせてあげて?

 

お嬢ちゃんの両目をしっかり見て、諭すように語りかける。

 

お兄さんとかいう歳じゃないでしょみたいな顔で嘲笑している酒寄さんは視界の外にフェードアウトさせる。

 

あんの野郎…いや女郎か?

 

今度やたらめったらに高価な鰻を送りつけてビビらせてやる。

 

大人の財力に屈するがいいさガハハ。

 

どうやらお嬢ちゃんは納得自体はしてくれたらしく、渋々といった感じで酒寄さんの腕から離れた。

 

あ〜えらいねぇ〜お利口だにぇ〜!

 

そしたらほら!いってらっしゃ〜いって、酒寄さんを見送ってあげよう。

 

は〜い、いってらっしゃ〜いって手を振るの。

 

あ〜よくできまちたねぇ!!!

 

我慢してちゃんとお見送りができたお嬢ちゃんを、撫で回しながら褒めちぎる。

 

そうか、この子は天才じゃったか…。

 

…ん?酒寄さん?なんか伝え忘れでもあったかい?

 

えなにそのすっごい言いづらそうにするのやめてよ怖いから。

 

へ?俺からのいってらっしゃいはって?

 

え、いるのかそれ?

 

血縁関係もない成人男性からのお見送りとかまぁまぁキツいと思うんやが…。

 

いいから?は、はぁ…ほならまぁ。

 

いってらっしゃい、車に気をつけて。

 

あと知らない人についてっちゃダメだよ。

 

2人からのお見送りを受けた酒寄さんは、子供じゃないんですからと言い残し、学校へと向かっていった。

 

心なしか今まで見てきたどの酒寄さんよりも、足取りが軽そうだった。

 

しっかりしてるとはいえ、まだ17の高校生だもんねぇ。

 

一人暮らししてるとそういうのほしくなるよね...わかる...。

 

酒寄さんの見送りも終わったということで、ここからはお嬢ちゃんの子守の時間である。

 

一応、3日前の時点で塵一つ残さんと言わんばかりの強度でお部屋の掃除はした。

 

見られちゃまずそうなものは押し入れにポイしたし...多分大丈夫!!

 

というわけで、お嬢ちゃんを部屋に招き入れる。

 

ぶっちゃけそんなに部屋の構造とかそんなに変わんないから割と見慣れた景色かもしれんけど。

 

それでもお嬢ちゃんからしたら違ったのか、目を輝かせながらあちこちの家具を触ったりしている。

 

お、人をダメにするソファに飛び込んでった。

 

あらあらあら~...乙女がしちゃいけないような顔になっちゃってんねぇ。

 

お嬢ちゃんは月がくそつまんねぇって言ってたけど、こういう娯楽みたいなのって無いのかね?

 

昨日のご飯食べてる時の反応を見るに、そもそも食の概念もなさそう...。

 

いや、お腹すいたって言ってたからご飯自体はあるのか?

 

何万キロと離れている月への考察をしていると、お嬢ちゃんがPCを指さしてこれは何だと聞いてきた。

 

あーそれはねぇ、PCっていう調べものとかゲームとかいろんなことができる機械だよ~。

 

そういうとより目を輝かせてやりたいと言ってきた。

 

...なんか、このお嬢ちゃんも妹みたいな感じになってきたな...。

 

猫可愛がりしておいて今更だなと思いながら、PCの電源をつける。

 

無駄にゲーミングに光るPC本体を目にして期待感を膨らませているであろうお嬢ちゃん。

 

そんなお嬢ちゃんの背中に声をかける。

 

声をかけた内容は、俺が世話をしている間の決まり事についてだ。

 

と言ってもそんなに多くはない。

 

1つは、部屋のものは好きに触ってくれていいけど一声かけてからにしてねというとこと。

 

ヤバい物とか危ない物とかはあんまりないけど、万が一とかあるからね。

 

押し入れにポイした薄い本とかマジでよくないし。

 

そしてもう一つは、外に出るなら基本俺が同伴すること。

 

知能としてはそれこそ肉体相応のものを持っていそうだが、知識という面ではおそらく生まれてからの時間分しかない。

 

そんな人間を一人でこの都会に放つのはさすがに危険が過ぎる。

 

それに、外にある娯楽の大半には金銭の類が必要になる。

 

財布的な意味でも、俺がついて回った方がいいだろうな。

 

まぁ自由奔放なお嬢ちゃんからすると窮屈な条件だろうけど、何とか我慢してほしい。

 

多少の反発も覚悟のうえでそう告げると、お嬢ちゃんは特に文句を言う分けでもなくわかったーと返してきた。

 

思ったより物分かりが良いなと思ったが、続く二の句で酒寄さんにそもそも外に出るなと厳命された事を告げられた。

 

あぁ...まぁそれに比べたら俺の条件結構緩いしなぁ~...。

 

というか、そこまで管理しようとするならやっぱり俺の方で面倒見た方が良いのではないか酒寄さん...。

 

なんというか、とことん人に甘えれない人なんだなぁ...。

 

そんなことを考えているうちに、PCが起動してロック画面がディスプレイに表示された。

 

こなれた手つきでパスワードを入力していると、お嬢ちゃんが表示されているユーザー名について聞いてきた。

 

ん?あ、これ?これはねお兄さんの名前だよ。

 

...へ?ひでちゃん?...俺の呼び方?

 

お、おう...いきなりあだ名なんだ...。

 

フルネームを改めて教えてあげたのだが、お嬢ちゃん的には「ひでちゃん」呼びが気に入ったらしい。

 

昨日の時点で思ってはいたけど、めちゃくちゃ距離感バグってるね。

 

月の人間ってみんなこうなのかい...?

 

この顔面偏差値でこの距離感とか、学校に行こうもんなら何人の脳みそを焼き焦がしたことだろうか...。

 

学園きってのファムファタル候補に、PCの使い方を一通り教える。

 

教えてる傍ら何に使うつもりなのかと聞くと、料理したいからやり方調べるんだという回答が返ってきた。

 

そういえば、はらこ飯食べてる時に料理やってみたい的なこと言ってたっけか。

 

どうやらこの世界の食というものにいたく興味を持ったようだ。

 

それに加えて、彩葉のパンケーキがクソ不味いから自分で作るんだという、聞いてもいないし聞いたら聞いたで後が怖い事実もポロリしてきた。

 

てかパンケーキでクソ不味いとかあるのか…?

 

正直焼き加減くらいしかミスるとこ思いつか…。

 

…なんか酒寄さんの場合、砂糖とか入れないパンケーキとか作ってるのでは…?

 

粉物って…お腹に溜まる…よな…?

 

辿り着いちゃいけなさそうな事実から目を逸らし、お嬢ちゃんの方に目を向ける。

 

口では依然としてマシンガントークが繰り広げられているが、その手は恐ろしい速度で色々なレシピサイトを自由に泳ぐかのように動いていた。

 

恐ろしい速さでスクロールされるレシピサイトに目を回しそうになる。

 

ちょ、ちょっと使いこなすの早いねぇ…。

 

人差し指でタイピングしていたあの頃の俺を嘲笑うかのようなスピードのタイピングで、自身が欲している情報を調べていくお嬢ちゃん。

 

これは…あれか…?

 

成長が異常に早いのと比例して、知識や技術の習得スピードも早くなってる感じか?

 

う、宇宙人ってスゲー…(白目)

 

使い初めの頃を思い出し惨めになってる俺を他所に、お嬢ちゃんは満足したのかネットサーフィンしていた手を止めた。

 

はは…地球人なぞ…所詮は下等あぁはいはいなんぞや?

 

へ?中華鍋?いやぁ…持ってないね。

 

柳刃包丁?ないないない。

 

あ、はいすみません何も無くて…。

 

調理器具の少なさに苦言を呈され項垂れる俺を尻目に、それならばこれかな〜とレシピを決めていくお嬢ちゃん。

 

無垢な子供の一言ってさ…めちゃくちゃ殺傷力高いよね…。

 

純粋だから故に確信をついてくるっていうか、的確に触れて欲しくないところを刺激してくるっていうか…。

 

傷が増えていく一方で、そんな事は知らぬと袖を引っ張っては食材って何処で買うの〜?と聞いてくるお嬢ちゃん。

 

あぁくっそ可愛いからなんもいえね〜…。

 

目に涙を浮かべながら、ウーバーでイーツっぽさそうな宅配サービスのサイトに誘導する。

 

そのタイミングで催してしまった為に、一旦断りを入れてトイレへと向かう。

 

既にメンタル的なダメージはかなり入っており、今後のお世話に暗雲が垂れ込める。

 

ストレスを感じ取ったのかやたらと出てこない消化物と、感覚的に3箇所は切れてるであろう出入り口が、俺のことを嘲笑っているようだった。

 

今後を憂いた事で出たため息が、20分ほど格闘して捻り出した汚物と共に、管の奥へと吸い込まれていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みにトイレを出た後にディスプレイに表示されていたのは、三万円を悠に超えた購入履歴であった。

 

…うん、そうだよね…。

 

値段の上限決めてなかったり、そもそも勝手に買うなと釘も刺してなかった俺が悪いね…。

 

なお、当の本人は目的は達したとばかりにPCをそのままの状態でほっぽりだし、俺の部屋の押し入れに上半身を突っ込んでいた。

 

うぉぉぉぉいちょっとまてぇいお嬢ちゃぁぁぁぁん!!!

 

手荒に足引っ張るけどごめんね流石にそれはゆるしませんよぉぉぉいしょぉぉ!!!

 

…お嬢ちゃん、その右手に掴んでる薄めの本を放しなさい。

 

表紙のお姉さんが裸とか言わなくていいから。

 

おい待て裏に書いてるあらすじまで音読するな待て待て。

 

破廉恥女教師とか口にしなくて良いから本当に。

 

座りなさいここに、いいから座りなさい。

 

ったくぅ…薄めの本は持ってこなくていいから!

 

そんなもんポイしなさいポイっと!

 

袋とじを開こうとするなぁ!俺も見てねぇんだぞ!

 

フーッ…いいかいお嬢ちゃん。人様の押し入れっていうのはね?勝手に開けていいもんじゃあなぁ…い…。

 

…そのノートどっから引っ張り出してきた?

 

なーるほど段ボール箱の下敷きになってたかそうかそうか一旦それも置いとこうか今すぐに早急に。

 

おいバカ開くな見るな音読するなぁ!!!

 

それ中二の時に書いたポエムノートなんだ燃やさなきゃぁいけないんだぁ!!

 

おいてめぇ!!今読んだ上で笑いやがったなぁ!!!

 

そこになおらんかいクソガキャぁぁぁぁぁぁ!!!

 

ド級の黒歴史を片手に逃げ回るお嬢ちゃんと、般若の形相で追いかけまわす俺との鬼ごっこは、ウーバーな配達員が呼び鈴を鳴らすまで続いたのだった…。

 

解せぬ…。

 

お仕置きとして側頭部を両手の拳で挟んで捩じ込みながら圧するグリグリ攻撃をお見舞いしてやったのに…。

 

痛がるどころかキャッキャキャッキャと笑っていやがるっ…!

 

 

 


 

 

 

やたらと息が弾み汗が額に滲んでいたからか、食材と小さな包みを持ってきた配達員にドン引きされてからおよそ3時間。

 

俺の部屋のテーブルには、ちょっと部屋のボロさとは相容れないくらい豪華な料理が並んでいた。

 

とうもろこしのポタージュ、温玉とクルトンが乗ったごぼうとアスパラのサラダ、トマト煮込みのハンバーグにズッキーニのソテー。

 

聞いて驚け、これ全部お嬢ちゃんがほぼ1人で作ったのだ。

 

あるぅえぇ?自炊スキル既に抜かされてるぅぅ?

 

俺びっくりしたもんまじで。

 

めちゃくちゃ手際良く調理進めてたし、なんならレシピとか見ないで進めてたからね。

 

一回見ただけで暗記できる?えっ…何それ怖…。

 

俺もちょっと手伝ったけど、もう速度から違ったもん。

 

包丁扱う速度が料理漫画レベルなんよ。

 

残像が見えるってなんだよ速すぎだろ。

 

因みにこの料理は全て酒寄さんの晩ごはんとして消える予定だ。

 

2人の昼食については、家にあった食材で和風パスタを作った。

 

いやもうお嬢ちゃんが作ってくれた方が良くね?とは言ったものの、当の本人がひでちゃんお手製の料理が食べたいと言ってきかなかった。

 

しめじとツナ缶と調味料合わせたなんの変哲もないパスタだが、お嬢ちゃんは美味しいと言ってものの3分で食べ尽くした。

 

こういう素直なところとかは可愛いんだけどねぇ…。

 

そう思いながら使い終わった調理器具を洗っていると、お嬢ちゃんが声をかけてきた。

 

どうも次は外に出てみたいとのこと。

 

まぁこのまま家の中で大人しくしているとは元々思っていなかった為、これを快諾。

 

二人揃って街へと繰り出した。

 

 

 

街に出てからも、お嬢ちゃんの好奇心は止まることを知らなかった。

 

東に行っては勝手に人様の郵便受けを開けて、西に行っては赤信号にもかかわらず車道に飛び出す。

 

引っかかった風船を取るために木に登るし、カエルを追いかけては公園の池に躊躇なく足を踏み入れる。

 

子供を連れて歩く親御さんの苦労が今わかった気がする…。

 

というか図体が高校生並みだから、移動速度や行動範囲が子供の比じゃない。

 

あまりのアグレッシブさと日中の日差しによって、俺の体力は既に底をつきかけていた。

 

池に突入しずぶ濡れの服で歩かせるわけにもいかず、そこらの服屋に二人で駆け込む。

 

女の子の服なんぞわからんということで完全にお嬢ちゃん任せだったが、特に迷うこともなく一着の服を手に取った。

 

理由を聞くと、どうやら酒寄さんの部屋で同じ服を見たとのこと。

 

なぁに〜?おそろっちにしちゃったのおぉ?

 

かわいいねぇお嬢ちゃんかわいいねぇ〜!

 

流石に店員の目があったので猫可愛がるように頭を撫でる事はしなかった。

 

自制できる俺、エライ。

 

そんなこんなでお着替えも終わって、今は二人でカフェに入っている。

 

そこそこデカい複合施設の一角にあるこのカフェは、自然光が入るおしゃれな作りになっている。

 

ほへ〜随分と洒落込んだ作りになってんな〜と思いながら、店員に案内された席に座る。

 

程よく効いた冷房の風が、暑い日差しに晒され続けた俺の体を癒してくれた。

 

あ"あ"あ"あ"あ"〜…生き返るぅ〜…。

 

お嬢ちゃんも良い所に目をつけたもんだねぇ。

 

何処かで調べてる様子もなかったし、冷房効いてそうだからみたいな理由で選んでたのかね?

 

些細な疑問は浮かんだが、一旦それは脇に置いてメニューをテーブルに広げる。

 

ほうほう…なんか凄い煌びやかだねぇ〜…。

 

そこには三段がデフォルトと言わんばかりに高く積まれ、十二単もびっくりの鮮やかな色合いのパンケーキたちが並んでいた。

 

どれどれ値段は…うっへぇ〜とんでもねぇ数字してらぁ。

 

こういう場所に来て、値段だの腹に溜まるかだのを考える男子の無粋さが遺憾無く発揮されたが、それを咎める相手はいない。

 

自分はコーヒーでいいかと適当に決め、対面のお嬢ちゃんにメニュー表を譲ろうとした。

 

ん〜コーヒーでいいか。お嬢ちゃんは何にする〜?このいちごのパンケー…キ…とか。

 

メニューを広げる前には確かにそこに居た筈のお嬢ちゃんの姿は、そこには無かった。

 

あ、あれ?お嬢ちゃん?何処だい?

 

そう言って周りを見渡すが、見える範囲にお嬢ちゃんは居ない。

 

いよいよ焦り出すかの瀬戸際に入ったその時。

 

 

 

「よっ、彩葉!」

 

 

 

リラックスできる癒しの空間に削ぐわない、とても元気な声が店内に響いた。

 

そしてその後におよそ酒寄さんと思われる声もそこそこのボリュームで響いてきた…。

 

っべぇ…これ絶対酒寄さんに怒られる…。

 

正直行きたくなかったが目を離した俺の監督責任ではある為、重い足取りで声のした方に向かう。

 

声を聞く感じ、あまり信じたくはないが学校帰りの酒寄さんと鉢合わせしてしまったらしい。

 

しかも他の人の声も会話に混ざってたから、おそらく友達らしき人たちも一緒だ。

 

向かう途中に「月から来たの!」「ジ!築地だよね!築地から来たの、私のイトコ!」という、漫才やってるのか君達はというやりとりも聞こえた。

 

ふむ…聞くにどうやら酒寄さんは、お嬢ちゃんをイトコという体で押し切るつもりだそうだ。

 

そういう事なら合わせといた方がいいか…と無駄に冷静な頭で考える。

 

その間に、渦中の人達のテーブルが見えてきた。

 

テーブルに向かう途中に、「名前?名前は、えーっと…かぐや!」という声が聞こえた。

 

…そういえばずっとお嬢ちゃんって呼んでて名前なんてなんもつけてなかったな…。

 

一年近くご近所付き合いしてるのに名前を知らない事といい、なんで今更!?みたいな事が多すぎるな…。

 

ま、一旦名前はかぐやで酒寄さんのイトコっていう設定で乗り切るか。

 

名前をつけてもらって、嬉しそうにしているお嬢ちゃん、改めかぐやちゃんの手を握って会話に割り込んだ。

 

ダメじゃないかかぐやちゃん!

 

他のお客さんに迷惑かけちゃ!

 

って…酒寄さん!どうしてここに!?

 

ていう事は、お二方は酒寄さんのご友人…。

 

申し訳ありません。私、酒寄さんの従兄弟にあたる、斎藤と申します。

 

こっちは妹のかぐやです。

 

実は妹が上京したいと言って築地に居を構えようとしたのですが、親が心配性でして…。

 

同じく築地に住んでいるが頼りない私と上京してすぐのかぐやだけでは不安だとのことで、イトコの酒寄さんにも協力してもらってかぐやのサポートをしているんです。

 

そんな折、都会を見てまわりたいというかぐやの要望で本日色々と見て回っていたのですが…。

 

このカフェで酒寄さんを見つけて、声をかけたみたいです。

 

外行き100%の声と態度で、酒寄さんが急遽ぶったてたシナリオを補強していく。

 

お前かぐやの子守してたんとちゃうんかドブカス、と言わんばかりの酒寄さんの視線は一旦フルシカトした。

 

これで、少なくとも今目の前の友人二人には、多少のごまかしが出来るようになっただろう。

 

ったく、かぐやちゃん!

 

見知った顔が見えたからといって、一言もなくふらっと離れちゃダメ!

 

それに親戚の酒寄さんのとはいえ、人の食べ物を勝手に食べない!

 

しかもご友人からもパンケーキ貰ってぇ…相手のご好意で与えられたとはいえ、ちゃんとお礼は言いなさい。

 

そう言いながら、ビジュアルが天元突破してそうな暫定酒寄のお友達一号にお礼を言う。

 

続くように、かぐやちゃんも頭を下げてお礼を言った。

 

そう言うところはちゃんと空気読むのねこの子は。

 

頭を下げられた友達一号は、気にしないでくださいと手を振って慌てていた。

 

頭を上げる際に友達二号の方にも目を向けたが、特に怪しんでいる様子はなかった。

 

ふぃ〜…一旦は誤魔化しきれそうな感じにはなったな。

 

お前後で話聞かせろやど阿呆と言わんばかりの、鋭さを持った酒寄さんの視線は依然として気付かなかったことにする。

 

いよいよ目からビームを打てるんじゃないかくらいの眼力になってきたな酒寄さん。

 

とりあえず、ここに長居するのはよくない。

 

すればするほど、深掘りされて墓穴を掘っていく。

 

ほら、かぐやちゃんもう出るよ!

 

お邪魔してしまい申し訳ありません…ごゆっくりどうぞ…。

 

そう言って、呑気に友達一号二号に手を振るかぐやを半ば引きずる形で店の出入り口に向かう。

 

流石に何も頼まずに店を出るのは憚られたので、テイクアウト用のレジに向かった。

 

俺は普通にエスプレッソ、かぐやちゃんには「とりあえず甘いやつを」というオーダーで出てきたものを渡した。

 

注文の品を準備している途中で酒寄さんに、近くの店で時間を潰している事と友人と解散後に合流したい旨のメッセージをいれる。

 

こっちの気も知らずに、あまーい!と言いながらなんとかフラペチーノ?を啜るかぐやの手を握りながら、逃げるようにお店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに注文の時、レジ担当の推定男子大学生に「これメニュー見てもよくわかんなかったパターンだな」みたいな、生暖かい視線をぶつけられた。

 

ど、どうせ俺は時代に乗り切れないおじさんですよーだ…。

 

そして、合流したいというメッセージの返答に酒寄さんからは、ただ一文字「呪」と書かれたメッセージが送られた。

 

じ、呪力の籠ったメッセージ…彼女、本気だね。(震え)

 

そして恐らくこのご時世唯一残った呪術師の攻撃を受け震えている俺を尻目に、かぐやちゃんはホールでやっていたヒーローショーにて幼稚園児と一緒に大きな声援を送っていた。

 

身体が女子高生くらいでどえらい美人の為、恐ろしいくらい衆目を集めている。

 

収拾つけるのが難しいのは火を見るより明らかだった。

 

もうさァッ!無理だよ!月の人なんて育てたことないんだからさァッ!

 

 

 


 

 

 

なんとか収拾をつけてゲーセンなりペットショップなりで時間を潰しておよそ1時間。

 

スマホに解散した旨のメールが、酒寄さんから送られてきた。

 

ガラス越しに小型犬と戯れるかぐやちゃんの手を引き、酒寄さんと合流する。

 

向かってくる酒寄さんの背中から、鬼のようなオーラが見えたような気がしたが、目を擦ったら消えていた。

 

そして顔を合わせるや否や、飛んでくるわお説教や文句や疑問の数々。

 

やれなんで外に連れ出しただの、なんで見ておかないんだだの、よそ行きの外面が良すぎて逆に胡散臭いだの、友人に色目を使うなだの。

 

後半に関しては悪口だし、謂れもないことに文句つけられてるんですが???

 

君の友達に色目使う前に、警察に目をつけられるっちゅうねん。

 

しかし一通り文句を言った後、その場の嘘に合わせてくれた事への感謝を伝えられた。

 

いーよいーよ、大人はみんな舌先三寸のペテン師野郎だからこういうでまかせは得意なのよ。

 

というか、勝手にイトコって言っちゃったけど大丈夫そう?

 

その問いには特に問題は無いと酒寄さんは答えた。

 

そっか、であれば親族以外には統一してイトコで通そうか。

 

とんでもなくヤバい状況ではあったものの、多方面に対する体のいい方便が固まったのは幸いだった。

 

こういうのはお互いに共有してないとボロが出ちゃうからねぇ〜…。

 

そうこう考えているうちに、次のターゲットはかぐやちゃんに移ったようだ。

 

まぁ流れる川のように出るわ出るわ言いたいことが。

 

しかしそんな口撃も馬耳東風どこ吹く風。

 

かぐやちゃんは一言「つまらないんだもん」と返した。

 

お、おう。そうか…。

 

あまりにも豪胆、傍若無人のようなその様に思わずたじろぐ。

 

隣では、酒寄さんが熱暴走を起こしたロボットのように固まっていた。

 

まぁ、何かと理屈で考える酒寄さんには逆立ちしても出てこない考えだろうなぁ…。

 

それも束の間、再起動した酒寄さんがかぐやちゃんに教えを説くように語りかける。

 

曰く、そういう生き方は身を滅ぼすから時には我慢すべし…と。

 

そしてそこまで語った瞬間に、続きの言葉が出ず憂いた表情に変わった。

 

…ふーむ。

 

酒寄さんと関わってから、ちょこちょここんな感じの場面に出くわすのよね。

 

まるで「誰か」の言葉をなぞるように口にする。

 

そして何かがつっかえているのか、二の句が継げずに顔に影を落とす。

 

なんならこの種類の暗い表情に関しては、割と頻繁に出てくる。

 

好きな哲学者がいるのか、どっかの自己啓発本からの引用なのか。

 

はたまた実際に告げられた教えなのか。

 

んーまぁ、そりが合わなかった母からの言葉だろうなぁ多分。

 

親から言われたことって、良い悪いに関係なく頭にリフレインすること…あるよね…わかる。

 

突如脳裏に反響した「お乳の催促すごく多かったのよ貴方」という今世の母の言葉を全力で頭から削除する。

 

精神年齢26の俺には抗うことなど出来なかったと、誰も聞いてない言い訳を頭でしていると、かぐやちゃんがポケットから何かを取り出した。

 

どう使うのかと問うかぐやちゃんの手にはスマコンがあった。

 

あれま、俺の家にあったのを持ってきちゃったのかな?

 

あれは酒寄さんを見送ってすぐ、人をダメにするソファに飛び込んだり部屋を物色したりしていたかぐやちゃんは俺のスマコンを見つけていた。

 

その場で用途や使い方を聞かれたが、一度も使ったことのない俺には勿論説明など出来るわけもなく。

 

酒寄さんが帰ってきたら聞いてみようと言って、その場はお流れになった。

 

酒寄さんもスマコンを目にすると、自分の所持品かと聞いていた。

 

その質問に首を横に振ってううんとNOを示すかぐやちゃん。

 

ってなると、これは多分俺n

 

 

 

「ひでちゃんのPCで買えた。」

 

 

 

?????????

 

へぇ?という間抜けな声が口から出る一方、脳内で視界に映した映像が巻き戻しされるように逆行していく。

 

…おい待て。

 

食材持ってきた配達員、なんか別に小包持ってたよな。

 

俺てっきり調味料かな〜とか思ってたけど、食材出してる時に調味料も段ボールに入ってたな。

 

なんなら小包はかぐやちゃんが直接受け取ってたな。

 

震える手でスマートフォンから、使ってるネットサービス全てに紐づけているクレジットカードの履歴を遡る。

 

多くの食材達が並んだその一番後に、12万超の使用履歴が残っていた。

 

思わずマイナス12万と口からこぼれ、顔が青ざめ口角が引き攣る。

 

隣では、なにやってんの!と襟首を掴み恐ろしいスピードでかぐやちゃんの体を揺する酒寄さんの姿が見えた。

 

…かぐやちゃんに物を買わせる時は、決済前に一度俺の目を通してもらおう…。

 

余りにもデカ過ぎる授業料に対して、便所の隅の虫みたいなレベルの反省を心に浮かべる。

 

お隣さんにとんでもない損害を出してしまい青ざめている酒寄さんに、大丈夫だからと伝える。

 

その足はKO寸前のボクサーが如く震えていた。

 

な、夏のボーナスがなければ、即死だった…。(致命傷)

 

効かないねぇっ、一人暮らしだから。

 

赤い彗星に麦わら海賊の真似をして虚勢を張るもダメージは癒えず。

 

銀行のデータを改竄して残高を増やすという悪魔の提案をするかぐやちゃんに断りをいれ、おぼつかない足取りで帰路に着くのだった。

 

 

 

その際、事の大きさをなんとなく理解したのか、落ち込んだ顔でごめんなさいとかぐやちゃんが謝ってきた。

 

いや流石にこればっかりは謝られたとて…。

 

謝罪と同時に上目遣いで遠慮がちに手を握ってくる。

 

んぁぁぁぁもう謝れてえらいねぇぇぇ!

 

かぐやちゃんは凄い子だにぇぇぇ!

 

チョロすぎるなこの人は…と人の心とかなさそうなことを呟く酒寄さんを無視して、かぐやちゃんを撫で回す。

 

撫でられてるかぐやちゃんの顔がしたり顔になっているのを、俺はついぞ知ることなくアパートに帰宅した。

 

 

 






効かないねぇ、リボ(払い)だからってネタをやりたかったけど、リボ払いのメリット無さすぎて理由づけ出来なかった。

主人公の名前、隠してるというか推測させるみたいな書き方してますけど別にその意図はないですスンマセン。
でかい伏線にもなったりしません。
最終的に神に消されるなら名前なんてあってもなくても変わらんし、ええやろ!エコやエコ!

あとお友達一号と二号の主人公に対する第一印象を置いとくにぇ。

お友達一号(綾紬芦花)
・彩葉のイトコ、初めて見たな…。
・妹さんとあんまり似てない…タレ目くらい?
・物腰柔らかいけど…なんか…胡散臭いというか…。
・えてかほっそ…フナムシみたい。

お友達二号(諫山真実)
・彩葉にイトコっていたんだぁ。
・なんか苦労人ぽさそうっていうか…ワーホリ?臭が…。
・すごく紳士的な態度なのに何故か胡散臭い…。
・細すぎ…食事じゃなくて光合成で栄養取ってるタイプか?
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